前半から続く)


l  EU離脱論争

The Guardian, Sunday 27 March 2016

To protect workers’ rights, the left should come out fighting for the EU

Will Hutton

FT March 27, 2016

The Brexiteers’ magical thinking on global trade

Peter Sutherland

イギリスのEU離脱論者たちは、あなたが多くの魔法のようなことを信じるように求めている。

1に、すべての機会と権利は維持できる、という魔法だ。間違いである。もし離脱すれば、イギリスはEUと結んだアメリカや日本などとの合意からも切り離される。

離脱派は、問題ない、という。イギリスも交渉して合意すればよい、と。しかし、それは無理だろう。ますます貿易ブロック間の交渉が重視される傾向にある。シティの利益も守れないだろう。EUは世界最大の単一市場である。イギリスが交渉だけで同じ効果を得るのは不可能だ。

WTOのメンバーであるから、というかもしれないが、加盟諸国はその許された上限まで引き上げることができる。むしろ、交渉するためには、イギリス政府も関税などを引き上げて対抗するはずだ。

The Guardian, Tuesday 29 March 2016

Let’s be brutally honest: this remain campaign is failing

Jackie Ashley

Project Syndicate MAR 29, 2016

The Brexit Muddle

MOHAMED A. EL-ERIAN

VOX 30 March 2016

Royal Economic Society’s panel on Brexit

Soumaya Keynes

EU離脱Brexitに関するthe Royal Economic Society年次総会の分科会で、イギリスは残留するべきだ、と投票した。主なパネリスト4人(Richard BaldwinJohn Van ReenenSwati DhingraEnrico Spolaore)の議論を紹介する。

FT March 31, 2016

Britain must not give investors cause for flight

Project Syndicate MAR 31, 2016

Why Britain Should Remain European

SIMON JOHNSON

イギリスはEUを離脱するべきか、国民投票が行われる。EUの規制はイギリスの成長を妨げているのか? EU離脱はイギリスの輸出機会を増やすのか? 離脱が金融的な安定性に与える影響は何か?

20146月のthe Centre for European Reform (CER)による報告書は2つの問題に答えている。またイングランド銀行は第3の質問に答えている。経済的に見て、イギリスはEUにとどまる方がよい。

すでにイギリスの規制は、ヨーロッパよりもアメリカに近い。EU規制でイギリスのビジネスが妨げられているとは思えない。貿易に関しては、EU加盟によって、イギリスの貿易額は加盟諸国との間で50%増えている。

金融安定性に関して、イングランド銀行政策委員会の結論も明白だ。国民投票による不確実性は、投資家によるリスクプレミアの増大を意味し、ビジネスにも消費者にも有害だ。長期的に見ても、金融の安定性には国際的な枠組み、ヨーロッパ規模のルールが欠かせない。


l  国際的な正義

FT March 27, 2016

Justice at last for victims of Radovan Karadzic

FT March 28, 2016

Easter carnage in a park delivers Pakistan’s fatal diagnosis

Fatima Bhutto

Project Syndicate MAR 28, 2016

Jerusalem First

LAURA WHARTON


l  貿易赤字と大統領選挙

NYT MARCH 27, 2016

The Trade Deficit Isn’t a Scorecard, and Cutting It Won’t Make America Great Again

Neil Irwin

トランプは、5000億ドルの貿易赤字がアメリカを敗者に、中国やメキシコを勝者にしている、と信じている。

現実はそうではない。貿易赤字は良いとも悪いとも言えない。それは条件次第である。貿易赤字はスコアカードではない。

貿易赤字をなくすことが、トランプの約束する、アメリカを再び偉大な国にする、ということにはならない。それは、サンダースが言うような、アメリカの通商協定が国民にとって悪いものだ、ということを意味するものでもない。貿易赤字をなくせば、アメリカが国際政治で行使するパワーの重要なテコも失うだろう。

世界が2国だけで、一方の国CarNationは自動車を、他方の国BananaLandはバナナを生産する、と考えてみよう。そして「自動車の国」の国民はバナナがほしいので100万ドルを輸入し、「バナナの国」の国民は自動車がほしくて200万ドルを輸入する。この場合、BananaLand100万ドルの貿易赤字を出す。

このことは、BananaLandCarNationに「負けている(損をしている)」という意味にはならない。BananaLand人は自国の貨幣と交換に、とても有益な自動車を輸入しているのだから。実際、アメリカはメキシコに580億ドルの貿易赤字を生じているから、アヴォガドなど、多くの有益な財貨をアメリカにもたらしている。トランプの好きな「勝者」と「敗者」という言葉を使うなら、「敗者のメキシコ人は、昨年、われわれが与えたよりも580億ドル多くの財貨をわれわれにもたらした。われわれは勝者だ。」

しかし、貿易赤字は職を奪っているのではないか?

そうでもない。

確かに、貿易赤字はGDPに比べて生産量を減らすから、それだけ雇用を減らしているかもしれない。しかし逆に、雇用を刺激する効果を生じるときもある。BananaLandの赤字は、CarNationの黒字であった。この黒字はどうなるのか?

2つの選択肢がある。まず、それを国内で保有するとき、CarNationの為替レートが増価する。その結果、黒字が消滅するまで、BananaLandにおける自動車の価格は高くなるだろう。

あるいは、CarNationの人々はBananaLandの株式や債券を購入する。あるいは、企業買収や、CarNation政府による直接の資産購入が起きる。

これらは本当に、過去20年間、アメリカと中国との間で起きたことだ。資金が流入するとき、借り入れは安くなり、株価は上昇し、新しいビジネスに投資できる。つまり、貿易赤字は職を奪うが、(ドル安により)輸出を増やし、あるいは資金が流入して投資を増やす。

重要なことは、何に投資したか、である。

流入する資金を、経済的な収益をもたらす長期投資に向けることができる。新工場や設備、労働者への教育、道路や橋を建設し、補修する。しかし、そうするとは限らない。アメリカの場合、2000年を過ぎて資金の大部分は持続不可能な住宅バブルに注がれた。あるいは、ギリシャでは財政赤字を埋めていた。

貿易赤字だけで批判するのではなく、それによる資金流入を生産的な投資に向けたかどうか、知る必要がある。

アメリカが赤字を出さないことは良いことなのか?

その選択肢は、貿易収支だけでなく、世界の準備通貨という役割にかかわってくる。ドルは、アメリカとかかわりのない取引にも使用される。マレーシアの企業がドイツの企業と取引するときも、ドバイやシンガポールの政府が資金を保有するときも、ドルが使用される。それはドルの価値を高めるから、アメリカからの輸出の競争力を奪う。

アメリカの5000億ドルの貿易赤字の一部は、ドルが世界金融システムで果たす役割によって生じている。これは20世紀半ばにRobert Triffinが警告した問題であるため、「トリフィンのジレンマ」と呼ばれる。世界準備通貨を供給する国は、グローバルな金融システムを維持するために貿易赤字を出し、国内のバブルを生じやすい。

アメリカは、海外の取引にドルを供給することなどやめてしまえばよいのか?

確かに、アメリカの輸出産業は不利益を被っている。しかし、低金利や株価上昇は利益になる。ドルは、アメリカが戦争するときの資金調達を容易にし、世界におけるアメリカの地位を支えている。また、不況や金融危機に対する政府の能力を高めている。イラン、ロシア、北朝鮮、様々なテロ集団に制裁を行うとき、ドルによる決済システムから切り離すという脅しによって、世界中の銀行がアメリカの外交に協力する。

貿易赤字を議論するとき、それが中国やメキシコ、自動車やバナナ、勝者か敗者かというだけでは意味がない。アメリカを偉大な国にするための、優先順位が問われている。

NYT MARCH 28, 2016

Trade, Labor, and Politics

Paul Krugman

大統領選挙で国際経済政策が争点になるとは、多くの人にとって予想外であった。しかも、従来の常識からは、政党の立場が逆転しているように見える。共和党は自由市場を支持し、民主党は保護主義的だ、というのがそれだ。

実際は、ロナルド・レーガンやジョージ・W・ブッシュの共和党は、民主党よりも保護主義的であった。レーガンは自動車に輸入割当制を、ブッシュは鉄鋼に高い関税を導入した。EUが報復の制裁を示唆して取りやめたのだ。トランプの主張するような、アメリカに有利な取引を押し付けることはできない。

また、エリートたちが勝手に支持するような、ウィン・ウィンの自由貿易など存在しない。貿易が増えれば多くの人が苦しむ。アメリカの労働者の多数が貿易によって純損失を強いられた。しかし、それに対抗する方法は保護主義だけではない。サンダースが経済モデルとして取り上げて有名になった、デンマークを考えるのがよい。

アメリカがメキシコと自由貿易協定に合意しているように、デンマークはEUに加盟しているからグローバルな貿易協定に従い、東欧や南欧の低賃金労働者と競争している。しかし、アメリカほどの不平等は存在しない。それは、デンマークの労働者は、アメリカよりも多く組合に組織されていて、交渉力が高いからだ。またデンマークの政府はセーフティーネットをアメリカよりも強化している。

グローバリゼーションによって労働者が直面する悪い結果は、必然的なものではなく、政治的な選択によるものである。民主党の指名争いで候補たちは、ヒラリー・クリントンのように、将来の通商条約に懐疑的であるし、世界貿易システムを破棄するような無責任さを示すことなく、労働者家族の問題に対処する政策を求めている。他方、共和党の候補者たちはそうではない。

自由貿易のガチガチのイデオロギーを持つ候補者を、支持してはいけない。

NYT MARCH 29, 2016

Simmering for Decades, Anger About Trade Boils Over in ’16 Election

By BINYAMIN APPELBAUM

NYT MARCH 29, 2016

Nafta May Have Saved Many Autoworkers’ Jobs

Eduardo Porter


l  スイス銀行の秘密主義が終わる

FT March 27, 2016

The gnomes of Zurich are silent no longer

Gideon Rachman

さまざまな政治スキャンダルに共通するものは何か? ブラジルのPetrobras、マレーシアの1MDBFIFA、フランス閣僚、スペインの政党資金。すべてにスイスの銀行口座が使われている。

かつてスイスの鬼たちthe “gnomes of Zurich”と呼ばれた口座からの資金移動は、もはやそれほど秘密ではない。他国への捜査協力として情報を開示している。スイスの秘密主義による銀行文化は転換しつつある。

2018年には、グローバルな規模で、財務当局に対して情報を開示する。一層のスキャンダルが露見するはずだ。

FT March 28, 2016

Rules to recoup US bank bonuses need tightening

VOX 28 March 2016

The US is beginning to dominate global investment banking: Implications for Europe

Charles A.E. Goodhart, Dirk Schoenmaker

FT March 30, 2016

Switzerland: Rebuilding the brand

Ralph Atkins — Zürich


l  ECBと新しいバブル

Project Syndicate MAR 28, 2016

Europe’s Emerging Bubbles

HANS-WERNER SINN

ECBの最新の政策は多くの者に衝撃であった。その政策の目的はデフレを防ぎ、成長を刺激することだが、深刻な不安定性を準備するものである。

ECBの再融資は金利がゼロ。資産購入額を200億ユーロから800億ユーロに増やす。資金市場を通じて銀行預金の金利はマイナス0.45に押し下げる。主要な長期の再融資でもマイナス金利を実行する。

長引く低金利が信用膨張によるバブルを南欧諸国に生じて、それらの国の競争力を破壊し、住宅や土地の価格を持続不可能な水準にまで高めた。バブルが破裂した後も、ECBは過剰な価格が均衡水準に戻るのを阻んだ。紙幣を印刷し、投資家のために無限に保証し続けたのだ。

2008年、アメリカで投資銀行のリーマン・ブラザーズが倒産したとき、ECBが金融危機の爆発を防いだことは正しい。しかし、よく年後半から世界経済が回復し始めてからは、ECBの政策に問題が生じた。それが構造改革を妨げ、ポルトガルやイタリアなど、南欧における膨張した諸価格の是正を阻んでいるからだ。

それは1990年にバブルが破裂した後の日本が犯した政策失敗と同じだ。20年以上も、日銀はほとんどゼロ金利で経済に貨幣を満たしてきた。また、政府は財政赤字を無謀に増やし続けて、GDPの67%から246%にまで高めた。しかし、金融政策も財政政策も、構造改革に代わるものではない。逆に、ケインズ主義の金融緩和策は市場の自己回復力を弱め、政策対等者が解毒措置をとる意志も失われた。

ヨーロッパで最大規模のドイツ経済でも、2010年以来、大規模な不動産ブームが起きている。再統一以来の建設ブームが起きている。それを鎮静化するには金利を一気に引き上げるべきだ。しかし、ECBは逆の方向に向かっており、バブルが沸騰するだろう。

それが破裂したときに何が起きるかは、すでに最近の州選挙で反ユーロを掲げるAfGAlternative for Germany)の躍進が示している。

FT March 31, 2016

European banks: New rules, old problems

Thomas Hale

FT March 30, 2016

Corporate profits are near record highs — why is that a problem?

Larry Summers blog


l  移民論争

The Guardian, Monday 28 March 2016

The Guardian view on debating migration: enter the Global Philosopher

Editorial

NYT MARCH 28, 2016

Malaysia’s Immigrant Worker Debate

By TASH AW

SPIEGEL ONLINE 03/30/2016

AfD Head Frauke Petry

'The Immigration of Muslims Will Change Our Culture'

Interview conducted by Susanne Beyer and Jan Fleischhauer


l  インドの改革

FT March 29, 2016

This is India’s moment — Narendra Modi must not waste it

Eswar Prasad

インドの内外の条件は成長に適している。マクロ経済も安定的だ。長期の成長を高めるために、モディ首相は改革を進めるべきだ。特に、労働市場の規制緩和、ビジネスの規制緩和、銀行の健全化、資本市場の整備・育成、インフラの建設。

中国は改革の説明を国民に広めて指導部への支持を高めた。インドにも改革を進める明確な意識が必要だ。


l  イエメンの和平

NYT MARCH 29, 2016

Yemen’s President: A Path to Peace

By ABDU RABBU MANSOUR HADI

国内の混乱に対して、われわれはアラブ諸国への支援を求めるしかなかった。介入なしには、無法状態の封建国家が残されるだろう。アデン湾に面したイエメンの戦略的な重要性から、カオスの継続は、湾岸諸国、ヨーロッパ、アメリカ、世界的に重要な影響を及ぼす。


l  シリア内戦

FP MARCH 29, 2016

The Syrian Revolution Against al Qaeda

BY THANASSIS CAMBANIS

聖戦主義者たちのNusra Frontは軍事費や無節操な戦術において恐れられているが、the Free Syrian Armyは住民の心をつかむ点で優位を得る可能性が高い。

FP MARCH 30, 2016

Lost Souls from the Ukrainian War

BY LILY HYDE


l  アメリカ外交のジレンマ

NYT MARCH 30, 2016

When the Necessary Is Impossible

Thomas L. Friedman

2年ぶりの訪問で、中東におけるアメリカ外交を苦しめる中心問題を考えた。すなわち、必要なことは実現不可能であるとき、しかも、不可能なことを無視することもできないとき、そして、主要な同盟者にも実行できないときに、われわれは何をしたらよいのか?

イスラム国家あるいはISISを制圧するにはイラクとシリアの安定化が必要だが、シーア派とスンニ派が権力を共有しない限りそれは不可能だ。ISISの有害性を無視することも不可能だ。ベルギーがそれを示した。

イラクのNajmaldin Karimで、その賢明な Kirkuk Province知事が語ることに注目した。一部をISISが占拠している。「イラクの問題はISISではない。」・・・「ISISは統治の失敗と宗派抗争の兆候でしかない。」 だから、たとえISISがモスルを撤退しても、バクダッドの内紛と失政、宗派間抗争は解消しないだろう。「イラクの情勢は、ISISが敗退した後に、悪化することもありうる。」

だから、サウジアラビアとイランが主導する、スンニ派とシーア派との抗争が終結し、和平プロセスを始める必要がある。ISISを敗れるのは、アラブ民族とイスラム教徒たちだけである。


l  ヨーロッパの不況

YaleGlobal, 29 March 2016

Europe Must Adapt to a Dangerous World

Daniel Twining

Project Syndicate MAR 31, 2016

Preparing for Europe’s Next Recession

JEAN PISANI-FERRY

NYT MARCH 31, 2016

To Unify Europe, Face the Mideast as One

By NORBERT RÖTTGEN


l  トルコのエルドアン体制

FT March 31, 2016

Turkey’s President Erdogan upsets allies with his power grab

FT March 31, 2016

A confident Erdogan belies the danger that Turkey faces

David Gardner

FP MARCH 30, 2016

Erdogan Uses Closed-Door Meeting to Blast Obama Administration

BY JOHN HUDSON


l  アルゼンチン債務の国際合意

FT March 31, 2016

Argentina’s deal with the holdouts is a mixed blessing

Mario Blejer

アルゼンチン政府は債権者との合意に達した。しかし、債務の組み替えに関する国際ルールがないために、債務諸国はその破壊的な影響を予想しなければならず、厳しい条件を強いられる。アメリカの法廷が債権者に有利な介入をした先例は、これを強めた。


l  北朝鮮と中国

NYT MARCH 31, 2016

Is China’s Policy Toward North Korea Changing?

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The Economist March 19th 2016

A hollow superpower

Russia’s wars: A strategy of spectacle

Barack Obama visits Cuba: Cubama

How Latin Americans see the United States: Dugout diplomacy

Banyan: This insubstantial pageant

Rotterdam: The shipping news

(コメント) プーチンのロシアは軍事や外交において、国際政治の超大国に復活したのか? 現実のロシアは経済が縮小し、市民生活が窮乏化している。石油価格の大幅下落とウクライナへの軍事介入に対する制裁で、ロシアの投資は減少した。プーチンはシリアの「国家建設」など望んでいない。経済的困窮から目をそらせ、支持率を維持するための、暴力事件や軍事力の誇示をテレビ映像として求めている。オバマのキューバ訪問は、まったく異なる外交です。

中国の全国人民代表大会に関する記事、ロッテルダムの貿易量とロボット化が示す未来に関する記事、どちらも考える良い材料です。

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IPEの想像力 4/4/16

ドキュメントWAVE「岐路に立つ中国漁村:乱獲の果てに」を観ました。

アジアの成長で中産階級や富裕層が増えれば,魚の消費と需要が高まり、市場で価格が上がるでしょう.それは,地方の漁師たちにも豊かになる機会を与えます.

改革によって私有化された中国の小型漁船は近海の漁場を奪い合います。日本からの中古船が売れたそうです.そして,さらに沖へと漁に向かうのです.

国際紛争は国家の介入に至ります.かつては日本と韓国との間の漁獲争いが注目されました。また,イギリスとアイスランドの間で何度か起きた「タラ戦争」も有名です。

東シナ海には協定水域が設けられています。日中、日韓の、政府間交渉で、各国が条件を決めていますが、その合意された条件の微妙な政治バランスが漁師たちを苦しめます。竹島,尖閣諸島,北方領土に関しても,漁業権の合意が領土問題解決の重要な条件です.

乱獲による水産資源の枯渇は、漁業協定の重要な存在理由です。近海ではすでに乱獲で大きな魚が消滅し、漁をしても利益が上がらない、と番組は漁師の苦悩を伝えます。

水産資源の開発は、次第に、養殖による供給へ重点が移っています。すでに消費全体の7割が様々な養殖業者によって提供された魚で満たされている、ということです。

利益の減った漁船は、ますます多くの,市場で売れないほど小さな魚を捕って、養殖業者のえさとして売っています。それは自滅的な戦略です。漁船同士の争い、対立と闘争も激しくなり、網が絡んでしまい、海上で相手の船と網(と魚)の買収交渉をします.しかし決裂すると,互いに網を引き合って破ってしまいました。

潮流の先に回って大きな魚を先に捕るため,外洋へ出ることが目指されました.大型船による遠洋漁業が投資を集めますが,それによって,同じ潮流に育つ魚が日本の漁場から消えてしまいます.

政府は漁船の削減計画を立て,許可証の発行を抑えて、制限を破った漁船を押収・解体します.観光業、旅館などに転身する者もいますが、新しいビジネスでも競争は激しく、彼らが借金の負担に耐えられるか、わかりません。

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イギリスとアイスランドのタラ戦争は、領海と排他的経済水域の拡大が互いに衝突した事例です。技術や市場の変化で,水産資源や海底資源などの開発が求められ,そのために所有権や司法・行政の管轄を拡大しました.大陸の帝国的分割から,海洋(大陸棚,深海資源,南極大陸,北極海の国際航路)の分割に向けて、世界の経済紛争は激化しています。

アイスランドは人口30万人ほどで、イギリスの軍事力に対抗できません。しかし、新しい国際規範として、アメリカなどの大国も一方的な領海の拡大を宣言する流れに乗って、アイスランドがタラ戦争の「勝者」になりました。

アイスランドの漁業権は,その後,証券化され,漁師たちの間にバブルを生んだという点も興味深いです.ヨーロッパと異なる,アングロサクソン的な競争的資本主義の精神で,彼らは魚だけでなく,預金や金融資産もグローバルに集めようとします.

特にアイス・セーブは、インターネット・バンキングによりイギリスの公務員の貯蓄などを吸い上げ,グローバルなバブルの先頭を走った投資銀行の一部でした.アイスランドの金融危機は、アメリカ型の投資銀行文化が政府・中央銀行まで支配した、(かつてのプロシアに対する「軍隊が国家を所有する」という表現に倣えば)ヘッジファンドが国家を所有したケースでした。

世界金融危機において,イギリス政府はテロ防止法を適用して、アイスランドの銀行の資産を差し押さえ,自国民の貯蓄を取り戻そうとしました.しかし,ロンドンのシティも同じではないか? と批判されます.「テムズ川沿いのレイキャビク」と呼ばれて,金融危機にイングランド銀行が耐えられるか,という不安が生じました.

EUの水産資源保護がうまくいっていない,という記事がThe Economistに載りました.世界の水産資源枯渇問題,中国の工業化と河川・海洋の汚染問題,クジラの捕獲をめぐる国際政治、そして,マグロ、など,すし文化の世界化を喜ぶ一方で、日本の水産庁はグローバルな水産資源管理の枠組みを提案します.

100円寿司が広まる背後には,カナダ、アラスカ、ドイツ、ロシア、アイスランドなど,世界中の海で捕った,冷凍された魚が巨大な倉庫で貯蔵されています.商店街の寿司屋さんは廃業し、テレビで特集するような超高級な寿司店が現れます.

北朝鮮からの魚介類輸入も制裁によって輸入できなくなったはずですが,迂回した形で入ってくるでしょう.移民を規制しても,タンカーや漁船では多国籍の船員が増えています.

海上で密猟を取り締まることは,韓国でも国際紛争になっています.ベトナムの監視船が中国漁船と衝突を繰り返し,拿捕しました。乗組員をベトナムの港に連行し,裁判にかけたというニュースが流れます。

再びアイスランドは注目を集めます.タックスヘイブンを利用したアイスランドのグンロイグソンSigmundur David Gunnlaugsson首相が,民衆の抗議を受けて辞任したからです.彼は,「パナマ文書Panama Papers」により権力を失った世界最初の指導者です.

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