IPEの果樹園2016

今週のReview

3/28-4/2

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ロシア外交の思想 ・・・国際通貨と外交 ・・・アメリカの大統領選挙 ・・・オバマ外交の思想 ・・・中国企業による国際企業買収 ・・・トルコとの難民送還協定 ・・・新しい「ゲームのルール」 ・・・ベルギー国家とテロリズム

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  ロシア外交の思想

The Guardian, Friday 18 March 2016

Putin’s long game has been revealed, and the omens are bad for Europe

Natalie Nougayrède

今週,ロシア外務省の報道官Maria Zakharovaから,EUの指導者たちが集まる会議の前にトウィッターが流れた.「移民危機は,西側民主主義を中東に拡大する無責任な試みによって起きた.」

NATOの総司令官が,ロシアはヨーロッパを不安定化するために難民危機を「武器」として利用している,と言及したが,それには議論の余地があるだろう.しかし,明らかに,EUが多くの危機に直面する中で,ロシアが何を考えているかを知ることは重要だ.

ロシアの雑誌にラブロフ外相Sergei Lavrovが雑誌(Russia in Global Affairs)に書いた論説が参考になる.ラブロフはロシアの外相を2004年以来務め,その論説は明らかに,シリアで優位を確立し,ヨーロッパが難民危機に動揺する中で,プーチンが描く国際戦略を反映している.

ロシアが求めているのはヨーロッパの政治・安全保障アーキテクチャーに関する公式の条約である.ロシアがそれを得られない限り,ヨーロッパ大陸の安定はないだろう.「過去2世紀において,ロシアを欠いた,もしくは,ロシアに敵対したヨーロッパ統合の試みは大きな悲劇で終わった.」

難民危機はロシアが起こしたわけではない.すでに2013年のLampedusa島沖における難民船沈没で危機の意識が高まっていた.しかし,アサド政権は危機を拡大し,ロシアの空爆で,特にアレッポ周辺から難民が急増した.

ラブロフはその主張をロシアの視点で歴史的に説明する.エカチェリーナ2世,ナポレオン戦争,1853-56年のクリミア危機,である.それは,西ヨーロッパの人々がロシアを犠牲にし,ロシア人を侮辱してきたという偏執的な歴史観だ.ラブロフは,プーチンをピョートル大帝に似せて描く.「国内的な強肩と決断により,外交の成果を上げ」,ロシアを「わずか20年で」ヨーロッパの指導国の1つにした,と.

ラブロフは決まり文句を繰り返す.・・・ロシアは冷戦の敗者ではない.ヨーロッパの小国にとって支配する者が替わっただけだ.小国はワシントンとブラッセルが認めないことは何もできない.EUの機構はソ連の全体主義と同じだ.

今年,ロシアにとってヨーロッパを要求に従わせる絶好の年だと思うだろう.難民危機,イギリスのEU離脱に関する国民投票,独仏関係の悪化,メルケルの権力衰退,ウクライナ,バルカン,ポピュリストたち.アメリカは大統領選挙で,孤立主義を強めている.

プーチンの狙いは,中東ではなく,ヨーロッパにある.


l  国際通貨と外交

FP MARCH 18, 2016

Too Big to Sanction

BY TODD WILLIAMSON

201511月,IMFのラガルド専務理事は中国の通貨,人民元RMBを,SDRと呼ばれる国際準備を構成する通貨の1つとして追加すると発表した.

人民元はグローバルな通貨市場で,ドル,ユーロ,ポンドに次いで4番目に取引の多い通貨である.SDRのバスケットで3番目に大きな比率を占める.IMFの決定は中国に通貨の自由化を促すシンボリックな意味があるだけでなく,人民元が現実に中国の外で取引を増やしていることを反映している.

人民元はいくつかの産業で現実に(ドルに代わる)選択肢となっている.2015年,ロシアの巨大な国営ガス企業Gazpromが,ウクライナの分離独立派をモスクワが支援したことに対するUSEUの制裁を受けた.Gazpromは中国に石油を販売し始めていたが,それは人民元による契約であり,同時に,ドルと西側の金融システムから離脱し始めた.またオーストラリアの鉱山会社は,中国企業に対して人民元での取引を認めることがグローバルな競争を有利にできる,と気が付いた.

イギリスのキャメロン首相が,昨年9月,北京訪問中に,中国の中央銀行は人民元建ての短期債券をロンドンで発行し始めると発表した.また10月に,ドイツのメルケル首相が北京を訪問した際,李克強首相とCEINEXthe China Europe International Exchange)の創設に調印した.それは中国の外で人民元建の債券・為替取引を行う初めてのファンドである.

こうした動きにはマイナス面が伴う.USドルによって行われる制裁の効果を失わせることだ.この15年の間に,制裁はますます軍事的なものから経済的なものに変わってきた.特に,政府が支援するテロ活動,資金洗浄,人権侵害,境界線をめぐる制裁だ.2014年,アメリカ政府は,スーダン,キューバ,イランだけでなく,フランスのBNPパリバにも制裁を科した.その衝撃は,彼らが人民元での取引をすることで緩和された.


l  アメリカの大統領選挙

Bloomberg MAR 21, 2016

This Election's Big Question: What Makes America Great?

By Leonid Bershidsky

2016年のアメリカ大統領予備選挙を見て歩くと,アメリカが20年の支配の末にアイデンティティー・クライシスを味わっていることがわかる.「アメリカが偉大である,とはどういう意味か?

外国から来た旅行者にとって,アメリカ社会には今も素晴らしい活気がある.これほど堅実な競争の精神が行き渡った偉大な国民は世界のどこにも存在しない.

しかし,候補者たちの「偉大さ」をめぐる論争は終わらない.

トランプは,レーガンのスローガンを採用し,アメリカを再び医大にする,と言う.それは,ゼロサム的な交渉によるものだ.ヨーロッパやアジアが行う妥協や合意ではない.アメリカは勝者になり,相手は敗者になる.

クルーズは,アイオワで勝利した後,アメリカの偉大さを語った.すなわち,自由市場,憲法が保障する自由,そして,「ユダヤ・キリスト教的価値」である.アメリカの憲法は聖なる牛であり,侵してはならない宗教だ.他方,ケーシックの考えでは,アメリカを偉大にするのは効率の改善,マネージャーとしての良識である.

ルビオがアメリカに見るのは,民主党の行った過剰な規制と政府の肥大化によってアメリカン・ドリームを裏切られた人々の姿である.偉大さは,彼の地盤であるフロリダを見るなら,多くのキューバ系移民,零細商店・企業,アメリカ社会の中にあふれている.

他方,サンダースの考える偉大さは異なる.偉大な国とは,関与した戦争の多さで図るのではなく,紛争を平和的に解決し,社会の最も弱い者たちに接するやり方で判断できる.もっと正義と思いやりを求めているのだ.しかし,それを富裕層や企業に対する増税で実現する,というのは疑わしい.政治が社会を改造するのは危険である.公正さより混乱を招くかもしれない.

ヒラリー・クリントンはプラグマティックで,こうした議論から離れている.アメリカが偉大でなかったことはないのだから.むしろ,この国をもう一度1つにする,という.さまざまな課題で,アメリカが国際的なリーダーシップを発揮する.

アメリカの指導者たちも,ロシアと同じように,偉大な国であることに執着する.それは遺伝子のようなものだろう.


l  オバマ外交の思想

FT March 22, 2016

Barack Obama has risked US credibility in the Middle East

Nicholas Burns

Jeffrey Goldbergによるオバマ外交の考え方に関する整理は重要な到達点を示した記事だ(The Atlantic. April 2016).それはまた,アメリカが現在の世界政治における,立ち止まりがちな,不確かな大国であることも説明している.

オバマは重要な国際的成果を上げた.イランとの核合意.気候変動に関する歴史的な協定,アジア,そして,ヨーロッパとの通商協定である.

アメリカ大統領は,Goldbergとの対話で,もっとも難しい外交政策の問題に正しく焦点を合わせた.すなわち,大統領は国境の外での戦争に軍事的な介入の命令をいつ下すべきか,そして,いつ介入を止めるべきか?

しかし,彼は以前の大統領たちの軍事力行使に関する原則を比較して決めたように見える.そうすることで,「オバマ・ドクトリン」が登場する.

冷戦終結から,アメリカの世界戦略は成功と失敗を重ねたが,アメリカ外交は,強い軍事力によって保証され,それを必要なら行使する意思を示したとき,しばしば最も効果的であった.それゆえ,オバマが2013年に,シリアのアサド政権の化学兵器使用に反対する強い警告を発しながら,空爆しなかったとき,大きな問題が生じたのだ.

オバマは,彼の自制が中東におけるアメリカの信認を損なった,という考えを拒否する.しかし,古来,大国が友好国から敬意を集め,敵対国を恐れさせたいなら,軍事力によって脅すことだった.オバマが軍事的な脅しをする意図でなかったとしたら,あのような警告はすべきでなかった.結果的に,アメリカは信認を低下させ,他方,プーチンのロシアが地位を高めた.

また,アメリカがグローバルな強さを示すには,ヨーロッパとアジアにおける同盟と安全保障の協約ネットワークが重要である.2011年のリビアに対するNATOの空爆に際して,オバマ大統領が最も緊密な同盟国,イギリスとフランス,を「フリー・ライド」(ただ乗り)と批判したことは関係を損なうものだった.

アメリカの防衛予算の75%NATOに関わる支出であり,NATOは常にアメリカの軍事同盟の中心であった.それゆえ,オバマがこの歴史的な作戦行動で2次的な地位を認めたことが重大な失敗であった.

友好国を公然と非難することは間違いである,とオバマは学んだ.サウジ王家を非難する言及は適当でなかった.彼はアメリカの友人を非難するのではなく,真の敵対勢力,イラン,ヒズボラ,シリア政府,ロシアを非難するべきであった.外交には不文律がある.同盟者と議論するときはドアを閉めて行い,公表するな.同盟者を弱めるようなことはせず,その敵対勢力を利してはならない.

アメリカが今後も栄光を維持するかどうかは指導者にかかっている.オバマはアメリカが何のために行動するかより,行動すべきでないことを強調した.それはアメリカの政策を制限したのだ.

外交に戻るときだ,というオバマの主張は正しい.外交と軍事力の組み合わせは,古いワシントンの台本ではなく,複雑で,危険な世界において,大国が成果を上げ,平和をもたらす最も確実な方法である.

キューバが,ラテンアメリカの市場改革に挑んだ左派政権に加わるとしたら,南北アメリカ大陸の新しい市場統合=社会改革モデルが誕生するかもしれません.

Project Syndicate MAR 22, 2016

America Returns to Cuba

JEFFREY D. SACHS and HANNAH SACHS

1928年にCalvin Coolidge大統領が訪問して以来,アメリカ大統領としてオバマは初めてキューバを訪問した.投資家,亡命者,旅行者,研究者,芸術家などがキューバに向かうだろう.

57年前のカストロが指導したキューバ革命はアメリカ人の精神にとって大きな屈辱となった.アメリカの例外主義を信じる指導者たちは,まともな国はすべてアメリカ型のモデルに従うべきだ,と考えていた.外国政府がアメリカのやり方を拒むことは,アメリカの世界的な利益を害するものであり,アメリカの安全保障に対する脅威であるから,報復されて当然だ,と.

ハバナはフロリダから90マイルしか離れておらず,アメリカによるキューバへの干渉は絶え間なかった.1898年には,ついにスペインの支配に反抗するキューバ人を支援し,この島に対する経済的・政治的なヘゲモニーを確立した.

アメリカはグアンタナモに海軍の基地を得て,キューバに対する将来の介入権限をも確保した.悪名高いプラット修正条項である.アメリカ海軍は繰り返しキューバに介入し,アメリカ人は利益の大きな砂糖とタバコのプランテーションを所有したし,カストロが打倒したバティスタ将軍は,アメリカが助けた多くの抑圧的な支配者の1人であった.

カストロは農業改革と国有化を進めたが,それはアメリカの砂糖に関する利害を損ない,貿易規制に至った.キューバからアメリカへの砂糖輸入が制限され,アメリカからの石油や食料の輸出が制限された.カストロがその穴埋めのためにソ連に接近すると,アイゼンハワー大統領はCIAに政権転覆を命じ,1961年,ピッグズ湾事件が起きた.ジョン・F・ケネディ政権は始まって2か月しかたっていない.

その後も,CIAはカストロの暗殺を試みた.フルシチョフ書記長はアメリカの侵攻を阻止するためにキューバに核ミサイルを設置しようとした.世界は核戦争の直前にまで近づいた.

核ミサイルは持ち込まれず,アメリカも侵攻を止めたが,その代わり,アメリカ政府は禁輸措置を強め,国有化された財産の返還を求めて,キューバをソ連側に追いやったのだ.

半世紀に及ぶソ連型経済と,アメリカによる禁輸措置で,キューバの経済は抑圧された.購買力で見た1人当たり所得水準はアメリカのおよそ5分の1である.しかし,識字率や公衆衛生でキューバが達成したものは本当だ.平均寿命はアメリカに等しく,ラテンアメリカ諸国よりはるかに長い.キューバ人医師たちはアフリカの医療に貢献してきた.

国交正常化により,2つのシナリオが考えられる.第1は,悪しき時代への回帰.2国間の経済関係を「正常」にする見返りに,キューバに厳しい選択を強要する.革命で国有化された財産の返還,キューバの土地その他をアメリカ人が買収する権利,国有企業を入札で民営化する,公衆衛生など,進歩的な社会政策の廃止,など.

2は,アメリカの自制と歴史的な方針転換.キューバにアメリカのモデルを強制することなく,議会は貿易を正常化する.革命後の国有化も認める.国家の資金で行われている国民医療システムを廃止するような圧力はかけず,医療部門をアメリカの民間企業に開放することを強制しない.

これはキューバが市場型の改革を遅らせることを意味しない.キューバは通貨の交換性を回復し,民間所有を拡大し,(慎重かつ透明な形で)企業の民営化を急ぐべきだ.市場型改革と公共投資の組み合わせは,キューバ経済の成長と多様化を促すだろう.同時に,キューバの医療,教育,社会サービスで達成したものを守ることだ.アメリカの野蛮な資本主義ではなく,コスタリカのような社会民主主義を目標にすべきである.(私は25年前にポーランドの改革で同じ可能性を信じていた.)

アメリカの自制が,キューバに近代的で多様化した経済をもたらす時間と自由を与えるなら,それは北の隣人によってではなく,キューバの民衆自身に所有され,運営されるようになるだろう.


l  中国企業による国際企業買収

Chinese Problems on America’s Shores

By THE EDITORIAL BOARD

中国の汚職撲滅キャンペーンにより、人々は嫌疑を恐れて、安全な外国に(その多くがアメリカへ)資産を移転している。それは、中国の外貨準備が急速に減少した背景にある事情だ。

2008年の金融危機は教訓を残した。危機の前に、融資は水準が悪化し、問題の多いものになる。実物経済の拡大を超える融資の増大は、利益の機会を追って悪質な融資や投機的取引が増える。現在、いくつかのアメリカのヘッジ・ファンドは人民元が12から18か月で大幅に切り下げられることを予想して投棄している。金融監督者はその影響に注意するべきだ。

アメリカの金融システムの脆弱性は、2010年のドッド=フランク金融改革法により、厳格なストレス・テストが求められて、抑制されている。しかし、システムはいまだに非常にわかりにくく、規制を逃れることに熱心である。ミューチュアル・ファンドは、より多くの準備を保有するよう求めるルールに反対している。

金融危機の教訓は明らかでも、それを金融監督が共生できる手段を持っているか、新しい条件や脅威に対して行使するか、というのは明らかではない。


l  トルコとの難民送還協定

FT MARCH 19, 2016

Major doubts over workability of EU-Turkey migrant deal

Gideon Rachman

EUとトルコの合意は、ギリシャに来た難民をトルコに戻し、その代わりに、トルコは援助を得て、トルコ市民がEUをビザなしで旅行できるようにする、というものだ。

それはメルケルが道徳的な高い見地から唱えた難民救済を諦め、「ドイツにはできる」という姿勢から、難民たちを非合法で、不道徳なものと非難する姿勢に同調することだろう。アムネスティー・インターナショナルはこの合意成立を「人道の暗黒日」と呼んだ。

合意が実行できるかどうかについて、3つの問題がある。1.ギリシャ政府の処理能力、2.トルコ政府の協力姿勢(EU諸国はビザなしの受け入れに反対している)、3.ギリシャを迂回する難民の動き(例えば、リビアに向かう)。

ドイツ政府の高官は、この合意のためにドイツ政府は多くの政治資本を費やしたが、それでも成功しないかもしれない、と述べた。


l  新しい「ゲームのルール」

Project Syndicate MAR 21, 2016

New Rules for the Monetary Game

RAGHURAM RAJAN

先進経済も新興経済も、政治的な緊張を緩和するには成長を必要とする。もし政府が他国の成長を損なうような政策を採れば、そうした「近隣窮乏化」戦術は単に他国の不安定化をもたらすだけだ。われわれは新しいゲームのルールを必要としている。

なぜ危機前の成長率を回復できないのか? 短く答えるなら、それは債務超過が残されているからだ。(公的資金による)債務の償却が政治的にできるか、その結果として需要は持続的に増えるか、明らかではない。さらに、人口や生産性上昇に関する構造的要因がある。

政治家たちは、構造的な制約には構造改革が必要であることを知っている。競争と技術革新を促し、制度を改革する。しかし、改革の痛みはすぐに現れるが、その成果が示されるには時間がかかり、しかも誰が利益を得るかは不確実だ。かつてルクセンブルグ首相としてJean-Claude Junckerが述べたように、「なすべきことは知っているが、それをして再選されるとは思えないのだ。」

中央銀行にとっては、インフレが目標より低いことが問題だ。すでに金利も非常に低く、通常の金融政策を超えて進むか、あるいは、インフレに関する信認を失うことになる。「ヘリコプターで現金をばら撒く」か、大量に資産を購入するか、マイナス金利を採用するか。しかし、人々の期待が変化しなければ、金融政策には効果がない。

もし人々が金融政策は破滅的な結果をもたらしかねず、結局、元に戻ると思えば、むしろ貯蓄を増やして支出しない。また、人々が政策の転換を確信して、短期では効果を発揮しても、最終的に金融政策を変えるときに、金融資産の価格が大幅な下落する(金融危機)かも知れない。

しかも、金融政策は国外に波及効果を生じる。正常な状況では、低金利が国内消費と投資を刺激し、為替レートの減価も輸出を促す。しかし、現在のように正常でないときには、国内需要が伸びず、金融政策によってゆがんだ国内資産市場から、年金基金や保険会社などが外国の金融資産に向けて資本を流出させる。それは為替レートをさらに減価させて、競争的切下げのリスクを生じる。

先進経済の中央銀行が自分たちの政策を正当化するとき、為替レートが主要な波及経路であると認めている。そうであれば、国内の目標を達成する金融政策が国際的な責任と対立しないような、金融政策のルールが必要である。

私は、最終的に、ブレトン・ウッズのような新しい国際合意を求めている。それはIMF4条を基にして、国際的に影響力のある中央銀行が政策を決定する権限を規定するものだ。21世紀の統合された世界にふさわしいグローバルな金融システムが、国際社会の選択によって誕生する。


l  ベルギー国家とテロリズム

The Guardian, Tuesday 22 March 2016

Bombers take advantage of Belgium’s history as a country divided

Martin Kettle

テロリストによる暴力は世界中で起きている。しかし、事件にはその土地の性格も反映される。微細な医学的証拠から事件の関係者が追跡されると同時に、より長期の視点で、テロリストたちの前線基地となったベルギーの首都が注目される。なぜベルギーなのか?

ベルギーは国民意識の定まらない「弱い」国民国家である。シーザーがBelgaeと呼んだ、部族紛争の絶えない土地であり、他のヨーロッパ諸国に比べて、ルーツのない、制約された制度しか持たない、最近になって発明された国家である。また19世紀にはアフリカや中東を植民地化した他の帝国にも似ている。強力な他者の利害を反映する国家である。

ベルギーに最も影響を与えた他者はイギリスだ。1830年、ベルギー蜂起の後、イギリスはフランスとオランダの間に緩衝国家を創るために強い行動に出た。アントワープとScheldt川の河口が敵対する勢力の支配下に入れば、それはテムズ川に及ぶ脅威である、と当時の首相Lord Salisburyは述べた。ベルギーの独立と中立性は、1839年、Lord Palmerstonがまとめたロンドン条約によって保障されており、1914年、イギリスが第1次世界大戦に参戦した理由である。

ベルギーの弱さは、国民の5分の3がフラマン語を話す北部の近代オランダに文化的なつながりを持つ人々であり、そして5分の2はフランス語を話す南部のワロン人で、現在、急速に周辺化されており、フランスとの文化的つながりが深い。 ベルギーの歴史は、その最初から、イギリスによって据えられた立憲王制による妥協として、緩やかに結びついた連邦国家であった。

ベルギーの諸制度が分裂状態にあることは、2010年から2011年にかけて、589日も選挙で決めた政府が成立しなかったことに示された。こうした統合を欠く国家は、テロに迅速に対処する手段や能力を持たなかった。同時に、テロ攻撃の対象となる条件として注目されるのは、1.治安機関同士の連携を欠く。2.近隣諸国との境界管理を欠く。3EU諸機関の本部が集中する、ということだ。

その遠い起源から、また、現在のEUの混乱から、ベルギーの弱さはテロリストを有利にした。

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The Economist March 12th 2016

The future of computing

Farming in Africa: Miracle grow

African agriculture: A green revolution

Europe’s migrant crisis: A messy but necessary deal

Europe’s migrant crisis: Desperate times, desperate measures

Rwanda: A hilly dilemma

(コメント) 「ムーアの法則」は自然の法則ではなく、業界の人工的な協力ルールであった。今後は変化する。ルワンダの成功は、人口や自然資源、インフラが乏しい内陸国で、著しい成果である。しかし、指導者の内政には批判が強い。

興味深いのは、アフリカの農業革命と、EU(特にドイツ)とトルコの移民に関する合意です。アフリカの小規模な農民が、様々な新しい技術や情報を利用することで、農業生産を急速に拡大しつつあります。また、EUの移民・難民危機をシステムとして吸収するための枠組みが、政治力を駆使して(一部、欠陥はあっても)構築されました。

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IPEの想像力 3/28/16

誘拐・監禁事件の報道には,わからないことだらけです.ある若者が(報道で伝えられることが正しいのであれば)大学生として卒業する期間に,並行して中学生の少女を誘拐し,アパートに監禁し続けた,ということに驚き,恐れを感じます.犯人の青年は,少女を自分のペットのように考え,彼女の不安や恐怖を利用していたのでしょうか?

大きな自然災害や戦場でも,多くの孤児や,親と離れて行き場のない子どもたちを,誘拐し,外国などへ販売する人身売買組織がある,と読みます.学校からの帰り道や,自宅からでさえSNSで誘い出し,家族を困らせる話,犯罪にかかわる事情,さまざまな暴力的威嚇によって被害者に混乱と服従を強いる,さらに実際に傷つけ,自由を奪って,暗闇や空腹状態を長期間強いる,薬物や狂気を促す医学知識を悪用する,・・・

現代の文明が示す病的な,危機の日常的側面が,少女の誘拐・監禁事件にも表れたのではないか,と思うと,これほど身近に,日常生活の中に,文明の暗渠が口を開けているものか,という恐怖に襲われます.

もちろん,あなたが想像するように,これはインド洋大津波,『ショック・ドクトリン』が紹介したテロ容疑者や関係者への尋問・拷問,アブグレイブ収容所での暴行・虐待,戦場や国際政治で外交の一部として行われるスパイの要員確保や育成,オウム真理教の行った洗脳,極右・人種差別集団による弱者への示威行為や施設への放火,繰り返されるジェノサイドで指導者たちが広める集団的狂気,性的・暴力的な表現にあふれるマンガ,動画サイト,テレビや映画,小説,アミューズメント・パークなどの娯楽産業,老人たちから資産をだまし取る詐欺集団,介護や貧困の果てに心中する家族の苦しみ,などとつながるのです.

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ブリュッセルの空港・地下鉄に対するテロ攻撃と、加速する警察国家によって,市民の生活や態度も変わってしまうでしょう.強い警察や軍事行動を誇示することが,政治的なメリットになっても,テロを防ぎ,市民の生活や文化を守ることにはならない,と指摘するいくつかの論説を読みます.

むしろ,テロ攻撃の標的やテロを組織・準備する場所としてベルギーやブリュッセルが注目されたことに,ヨーロッパの歴史やEU統合の限界,が語られます.そして,大国間の緩衝国家として強いられた疑似政治モデルの中に住む人々,世界の紛争地から漂着する移民たちにとって,極めて限られた有効性しかない意図的に分割された公共システムが機能停止し,「国家」というシンボリックな統合効果をすべて失う未来の世界を予見させます.

アメリカ大統領の候補者選挙では、トランプが東アジアの紛争に自主解決を勧め,在日米軍基地も撤収することを示唆します.たとえトランプではなく,ヒラリーが大統領になっても,オバマとトランプが残した国際秩序の溶解は止まらないでしょう.

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新聞や雑誌も,町の書店,古本屋,喫茶店,下宿,家族経営の飯屋さんも消滅してしまいます.

インターネット世界にリンクする人々の言動や生活スタイルは,産業構造変化・人口移動を加速することで,富や権力の在り方を大きく変えます.IT革命と競争激化で,企業経営や人々の働き方,暮らし方がすでに変わってしまった分野が,変わらない者たちを道義的に非難し,理不尽に苦しい思いをする時代になりました.価格破壊がもはや話題にもならず,リスク・マネージメントの必要性が説かれるだけです.

インドのe-コマースをめぐる巨人たちの闘いが加速して,素晴らしい投資や融資,雇用の機会がカースト制の障壁を超えて多くの貧しい人々にまで及ぶでしょう.コミュニティーや集落、企業,団体,地域や国家,通貨まで,マージナリゼーション(限界化,辺境化,インフォーマル化)とジェントリフィケーション(高級化,富裕層向け再開発)の波を経験します.旧産業の赤さび地帯と新興産業の新しい立地,都市の再生やオフショア生産,3Dプリンターや国際ロジスティックのもたらす価格と競争力の変化は,従来の成長予測を一瞬で破壊します.

中国を追って成長のフロンティアが各地に広がります.しかし,旧産業諸国の側の銀行や企業には予想できない速さと激しさで影響が広がり,次々に中身のよくわからない契約を私たちに強要します.さまざまな「ストレス・テスト」と財務・会計学が,破たん国家への介入と再建のように,世界の様相を変えて行きます.

この政治経済空間に君臨するのは、どのような21世紀の権力者なのか?

境界線の消えた,平坦な,流動化する世界の秩序の中で,次の文明圏がインフラを整備し,失業者や難民となった多くの人々に,安全に移動できる「平和の回廊」を築くまで,文明の暗渠に落ちた少女の悲鳴は多くのスキャンダルの1つでしかありません.

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