IPEの果樹園2016

今週のReview

3/21-26

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自由化と国際分業 ・・・世界秩序のセンターはどこか? ・・・オバマ外交 ・・・シリアのロシア ・・・難民危機とドイツ ・・・中国の経済改革 ・・・コロンビアの内戦終結 ・・・トランプ,ベルルスコーニの嘘と笑い ・・・ヨーロッパにおける共通通貨の条件

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  自由化と国際分業

NYT MARCH 15, 2016

On Trade, Angry Voters Have a Point

Eduardo Porter

アメリカの労働者たちがこの選挙で示した怒りを観れば、貿易自由化の利益がそのコストを正当化するわけではない、ということがわかる。

3人のエコノミストたちDavid Autor at the Massachusetts Institute of Technology, David Dorn at the University of Zurich and Gordon Hanson at the University of California, San Diegoが、貿易による衰退が速やかにグローバルな成長部門によって吸収される、という自由化の前提を疑うべき根拠を示した。

中国製品の市場拡大によって衰退した地域の調整過程は、決して起きなかった、と彼らは結論したのだ。地域の賃金水準は低く、失業者は減らない。アメリカ全体でも、その雇用減少を補う雇用増加は起きていない。MIT2人のエコノミストDaron Acemoglu and Brendan Priceによれば、1999年から2011年までに、中国製品の輸入増加がアメリカの雇用を240万人失わせた。

世界貿易の利益は疑いない。中国の貧困人口は減少し、その安価な労働力がAppleの製品を支え、アメリカの消費者を豊かにした。貿易がアメリカ経済を3%増大し、分配にも大きな影響を与えたが、政府がそれを緩和する措置を取ってこなかったのも確かである。

アメリカ政府は、他国が中国の台頭にどのように対応したのか、その政策から学ぶべきだ。ドイツは、中国からの輸入が増えただけでなく、ソ連圏が崩壊してから東欧諸国からの輸入も増えた。しかし、ドイツの貿易収支は均衡を保った。ドイツの製造業がこうした諸国への輸出を増やし、輸入によって失われた雇用を相殺したからだ。ドイツの高度熟練労働者は容易に中国の安価な労働力に代替できなかった、とRobert Gordonは考える。またドイツの労働組合は強く、雇用を守るために闘った。

アメリカの労働者が苦しむ結果になったことには、政府も責任を負っている。Stephen S. Cohen and J. Bradford DeLongは、中国からの輸入増加にアメリカ議会が人民元の切り上げを求めたことは間違いだった、と考える。むしろ、かつて繊維からジャンボジェットへ、玩具から半導体へ投資を移したように、将来の成長産業に積極的な関与を示すべきだった。

それに代わって、政府は住宅や金融部門の富を増やし、ウォール街が1930年代以来の最悪の恐慌に導くのを許したのだ。銀行・金融部門の転換は何の価値も生まなかった。

今後のアメリカ政府が選択する政策について、トランプやサンダースが主張するような、通商条約の破棄は破滅的であるし、改定交渉は容易でない。しかし、将来の貿易自由化はもっと慎重に、長い時間をかけて行うだろう。自由化によるすべてのコストを労働者に負わすことは、強固なセーフティー・ネットがなければ、続けられない。

FP MARCH 15, 2016

These 25 Companies Are More Powerful Than Many Countries

BY PARAG KHANNA

メタ国家企業群の時代the age of metanationalsへようこそ!

たとえばアクセンチュアAccentureは,アメリカン・ドリームを超えて,55ヵ国, 200以上の都市で373000人を雇用する.税率の低い,労働コストの安い,煩わしい規制のない,土地において利潤を最大化する.多くのアメリカ企業,ExxonMobil, Unilever, BlackRock, HSBC, DHL, Visaがそうだ.そして,アメリカの大企業,GE, IBM, Microsoftもそうだ.

アメリカを超えるのはどの国か,と心配するより,メタ国家企業が次のルールを決めるかもしれない.彼らが求めるルールだけが生き残り,彼らが見捨てる国はルールを変えるしかない.Appleはすでに世界のすべての国の3分の2よりも多くの資金を動かしている.

さらに国家の影響がおよばないバーチャル領域へ,企業は活動を移転するのだろうか? もはやシリコン・バレーはウォール街やアメリカ政府よりも強力である,とBalaji Srinivasanは考える.それはハイテク技術者のユートピアではない.クラウドに依拠する企業活動のルールが地上の諸国家を支配するのは不可避であろう.


l  世界秩序のセンターはどこか?

Project Syndicate MAR 11, 2016

Confronting the Fiscal Bogeyman

BARRY EICHENGREEN

世界経済が勢いを失う中で、G20はありきたりの宣言で終わった。構造改革を進め、近隣窮乏化を避ける、と。

再び金融政策だけが景気回復に向けた刺激策を担う。その動機は健全だ。誰かが何かをしなければならず、中央銀行だけがその手段を利用できる。しかし、問題は金融政策の効果も尽きつつあることだ。マイナス金利は銀行から利潤を奪い、そのコストを融資に転嫁することができない。

解決策は単純なものだ。政府による支出の増大である。研究開発や教育、インフラのために、政府が借り入れて支出する。生産的な公共投資は民間投資の利回りも改善する。

しかし、財政余力のあるアメリカやドイツで、財政支出を使って刺激策を支持する意見はない。第2次世界大戦後の西ドイツ経済政策を指導したオルド自由主義 ordoliberalism” はヒトラーやスターリンと同じくらい過度の支出を嫌った。その姿勢は、個人の責任と望ましい総需要の水準とを区別せず、ドイツ人にマクロ経済学を受け入れにくくした。

ドイツ人口の高齢化、1990年の東西ドイツ再統一とその後の財政赤字(それが構造的問題を緩和したより、悪化させた、と考えている)が、多くのドイツ人にとって1920年代とハイパーインフレーションの歴史(学校で教えられている)に重なり、政府による支出増を受け入れがたいものにしている。

アメリカには、連邦政府への権力集中、財政赤字の特権(連邦政府にだけある)、を嫌う2世紀に及ぶ感覚がある。独立から南北戦争まで、連邦政府が奴隷制を廃止するという不安から、特に南部ではそうであった。20世紀半ばの市民権運動でも、連邦政府の権力行使に反対したのは南部の政治エリートであった。リンドン・ジョンソン大統領の「偉大な社会」は、地方政府から人種差別するプログラムを奪うものであった。

政府は契約と競争だけを強制すればよい。景気悪化を抑えるマクロ政策を含めて、政府支出には反対する。こうしてドイツのショウブレWolfgang Schäubleと南部のクルーズTed Cruzとが重なるのだ。

現在の景気停滞を打破するには、歴史に根差すイデオロギー的、政治的な偏見を克服しなければならない。今がその時だ。


l  オバマ外交

FT March 14, 2016

Troubling warnings for the US from the 1930s

Edward Luce

ヒトラー,ミュンヘン,大恐慌,ナチ,1929年の大暴落,そういった話は聞き飽きた.現代の脅威はそれではない.

西側の民主主義は厳しいストレステストを受けている.大西洋の両側で,人々は政府機関への信頼を失った.隣人への信頼も失いつつある.協力は弱まり,国境の開放が維持できるかも疑わしい.われわれは中心ではなく,それに値しないのかもしれない.

2008年の金融危機まで支配的であった楽観が,悲観主義に変わってから,今までずっとひどくなっている.第2に,分配に関する不公平感が広がっている.エリートたちは自分のポケットを膨らませることしか考えていない.第3に,文化的な退廃,ニヒリズムが広がっている.

最後に,グローバルな秩序の衰退である.先週,オバマはthe Atlantic誌のインタビューで,アメリカの同盟諸国の「フリー・ライド」,そして,エリートたちの社会に対する「フリー・ライド」を問題にした.それはアメリカ国民の世論をかなり良く反映している.1930年代のイギリスと違って,アメリカはまだ世界を指導しているが,それを好まなくなっている.

クリントンとトランプの大統領選挙で彼らが何を主張するのか,ロシアも中国も注目しているはずだ.


l  シリアのロシア

FT March 14, 2014

Putin’s Syria ‘success’ has come at an amazing cost

Ivo Daalder

プーチン大統領のシリア軍事介入における「任務完了」宣言は本当だろうか? イラクでブッシュ大統領が示した失敗例に勝るものだろうか?

プーチンは国際的な和平プロセスが進むことを確認してから、宣言によって、軍事介入の主役から、政治・外交的解決の主役にもなろうとした。しかし、その「成功」には膨大なコストがともなっている。アサドは樽爆弾から化学兵器まで、220万人が内外で難民となるような住民への虐殺行為を推進した。ロシア軍もそうだ。

アサド政権が残れば、ロシア軍の軍事拠点も維持できるだろう。しかしロシア軍が去るシリアには、深い政治的・領土的な亀裂が残されている。アサドが権力に残るとしても、それは反体制派との和解を意味していない。むしろ、ロシア軍の圧力が失われれば、紛争は再発し、激化するだろう。

基本的な対立はそのまま残っている。スンニ派、クルド人、イスラム過激派の武装勢力はシリアを分断している。

ロシアは国際外交の舞台に復帰するとしても、ウクライナに関する制裁は続いている。軍事介入で達成された成果は、長期的なものではないだろう。


l  難民危機とドイツ

FT March 15, 2016

The unravelling of Angela Merkel’s power

Gideon Rachman

メルケルの移民に対する「門戸開放」政策は、ロシアからアメリカまで、ナショナリストたちにとってリベラルなエリートが示す失敗のシンボルになっている。トランプはメルケルを、ドイツに破滅をもたらした、と非難した。

ドイツの地方選挙結果は、メルケルに反対する兆候が見られた、と世界中が注目した。しかし、欧米の水準で観れば、100万人の難民を1年間で受け入れたドイツの反応は非常に抑制されている。(イギリスの政治家に、メルケルのような難民政策を取った場合、イギリスはどれくらいの期間続けられるか尋ねた。彼の答えは、「24時間ももたない。」)

しかし、メルケルの政治的立場は大きく弱められた。その権力のピークは過ぎたのだ。先週、難民流入を止めるため、メルケルはEUとトルコの交渉による取引を進めた。同時に、地方選挙で与党が敗北した。

メルケルがEUに難民受け入れ政策を合意させることに失敗したことで、ドイツ国内でも彼女への支持は失われた。ドイツの有権者は彼女に反対し、そのことがEUにおけるドイツ首相の権威を損なった。EUとトルコの取引について、オランド大統領でさえも疑念を表明した。EUサミットがこの合意を承認するのはむつかしい。

しかし、メルケルを批判する者には代替策がない。たとえ彼らの主張するような、厳しい境界線の管理と難民受け入れ数の上限を低く設定しても、深刻な問題が生じるだろう。移動ルートが変わり、難民への扱いは悪化し、すでに弱体なギリシャの体制が混乱を深める。

メルケルの犯した失敗は、ユーロ危機と比較することでよくわかる。ユーロ危機に対して、メルケルはドイツ国民の関心や不安を熟慮し、モラル・ハザードや意図しない結果が起きることを理解しつつ、フィンランドからギリシャまで、EU諸国の中で中道の立場を選択した。それはドイツの金融力と相まって、メルケルをヨーロッパの指導者としたのだ。

難民危機は違う。メルケルはドイツ国民の忍耐力について賭けに出た。ヨーロッパにおける中道の立場を捨て、最も急進的な姿勢を取った。特に、EUトルコ間の取り決めは、信頼を欠く飛躍である。エルドアン大統領のような移り気な専制体質の指導者を、EUは信頼すべきか? EUの多くの国が反対しているのに、EUがトルコ人にビザなしの入国を認め、トルコのEU加盟を進めると、トルコ人が信用するだろうか?

この合意が失敗に終われば、メルケルの権威はさらに失われる。


l  中国の経済改革

Bloomberg MAR 14, 2016

Why Is Change So Hard for China?

By Christopher Balding

経済改革というのは,ダイエットを誓う新年の抱負と同じだ.簡単に宣伝され,簡単に忘れられる.

なお,中国人は西側と違うと思っているだろう.ほとんど一夜にして新しい産業を興し,2015年だけで30万人の官僚たちを汚職で処罰した,という国であれば.改革を公約した国家が実現できないわけはない?

それは認識の問題でもある.中国のほんとうの成長率はわからない.いつでも目標は達成している.しかし,中国の官僚制度には現状を維持する強い偏りがあるだろう.当局は,企業の倒産を好まず,新興部門を育成する.その損失は地方政府の債券で融資されるから,ゾンビ企業が増えるのだ.

経済を動かしているのは,中央政府ではなく,地方政府である.それは単に距離の問題だけでなく,政府支出の85%を地方政府が行うからだ.改革には強い文化的な障壁がある.官僚制には失敗や縮小を奨励する仕組みがない.政府は,1.奨励メカニズムを導入し,2.重要問題に向けた改革派を育成し,3.市場型のリスク・テイキングを促進する.


l  コロンビアの内戦終結

Project Syndicate MAR 14, 2016

Waging Peace in Colombia

JUAN MANUEL SANTOS

コロンビアは,西半球で最古の,唯一残された軍事紛争を終結する時期に近づいている.5年以上にわたるFARC (Revolutionary Armed Forces of Colombia)との交渉で,半世紀の末に,内戦終結が後退しえない局面に到達したのだ.

これまでの多くの失敗の後で,なぜ成功したと言えるのか?

われわれは周到に計画し,注意深く条件を整備した.1.コロンビア国家とそれを支持する軍隊との関係を変えた.2FARCの指導者たちが真剣な交渉に自分の利益を見いだし,彼らが暴力やゲリラ戦争で目的を達成できないことを確信させた.3.外交政策を根本的に転換し,近隣諸国や地域における関係を改善した.

交渉は4年前に,限定された,焦点を絞った議題と,手続きに関する明確なルールを確立する秘密交渉で始まった.FARCがそうした過程に合意したのは初めてであった.それには5つの議題があった.地域の開発,政治参加,麻薬輸送,犠牲者と移行期の正義,最後に,紛争の終結,である.紛争終結にはDDRdisarmament, demobilization, and reintegration)が含まれる.

201210月のオスロで枠組み合意に署名し,キューバで公式に交渉が始まった.ホスト国とノルウェーが保証役となり,ヴェネズエラ,チリがそれに加わった.その後,アメリカとEUが交渉に特使を派遣した.

初めから,すべてに合意するまで何も合意しない,というのが交渉の基本ルールであった.それはコロンビアの過去の失敗や他の国のケースから学んだものだ.われわれは国際的な助言者のグループを決めた.彼らはその経験から,和平交渉の困難な時期を乗り越える材料を与えた.

今なら言えるが,平和を実現することは,戦争を実行するよりも,はるかに,はるかに困難である.私はその両方を,かつて防衛大臣として,今は大統領として実行した.

和平交渉は,いくつかの方法によって,困難を乗り越えた.われわれは750万人以上の紛争の犠牲者とその補償システムを,紛争解決の中心問題に据えた.われわれはまた,国際戦争犯罪に対する捜査,判決,有罪宣告,を国際刑事裁判所ローマ規程に準じるものにした.こうしてゲリラは,初めて,武装解除と移行期の法廷に合意した.

武力紛争に満ちた世界で,コロンビアの和平が成功することは非常に有益である.麻薬戦争に巨額のコストを支払いながら,勝利できなかった.それはゲリラの重要な財源であるからだ.しかし和平により,FARCは合法的な作物に転換する.ゲリラによる攻撃を恐れずに,狙撃兵や地雷を恐れずに,兵士,警察官,民生スタッフは作業できる.

ゲリラのパイプライン攻撃で漏出する石油被害はなくなり,世界で最も多様な生命圏を保護し,紛争による熱帯雨林の破壊も終わらせる.

今や,われわれの和平に反対する国はどこにもない.国連安保理がDDRの監視に国際ミッションを認める決議を全会一致で行った.

一部の軍人に反対する声はあるが,それは政治的な理由である.内戦はこの国に大きな負担を強いて,進歩を妨げ,繁栄と近代を奪ってきた.われわれには半世紀を経た内戦を終わらせる自信がある.


l  トランプ,ベルルスコーニの嘘と笑い

Project Syndicate MAR 14, 2016

Trump’s Italian Prototype

BILL EMMOTT

億万長者であるトランプDonald Trumpがアメリカ大統領選挙の候補者争いで躍進したことは、恐怖と魅惑の両方を刺激する。どのような比較も完ぺきではないが、最も優れた比較相手はイタリアのメディア王で、首相を3期も務めたベルルスコーニSilvio Berlusconiである。

彼らの表面的な類似点ではなく、重要な特徴は、実体のないセールスに徹すること、人気を得るために、有利になるためなら、真っ赤な嘘でも喜んで話すこと、そして、自分の批判する者を許さず、沈黙を求める激しさである。

ベルルスコーニの政策公約には、まさに彼の基本イデオロギーとも言えるが、常に、一貫性がなかった。選挙に勝つために、彼は何でも言って有権者の投票を集め、政権を得ると連立戦術を繰り返した。彼の唯一の目標は、自分のビジネスの利益であった。

トランプも同じである。問題は、彼がホワイト・ハウスを得るのか? である。アメリカ憲法には権力を分割して抑えるチェック・アンド・バランスのシステムがある。しかし、民主主義において世論を操作する強力な武器があれば、トランプはベルルスコーニのように、これを破壊するだろう。

ベルルスコーニの最盛期には、メディアと世論を操作した。イタリア人は、ほとんどすべての政治家が利己的だ、と考えていた。ベルルスコーニはこの感覚をマヒさせた。2008年の世界金融危機の中でも、イタリア人は自国の経済や社会はうまくいっている、と信じていたほどだ。彼の政権が続く間、重要な改革を推進するべきであったイタリア政府は多くの時間を失った。

どうやって彼にそんなことができたのか? ジョーク、虚言、笑顔である。それがうまくいかなければ、嫌がらせ、名誉棄損の訴訟を行った。ベルルスコーニは、主要なテレビ局といくつかの日刊紙を、直接、あるいは、家族を介して、所有している。彼の邪魔になる者を汚す仕組みを、反マフィアの著名な作家Roberto Savianoは「泥マシーン」と呼んだ。ベルルスコーニの親しい友人はいくつかのマフィアと結びついている。

こうした戦術はトランプも同じだ。トランプも敵に対して攻撃的で、特にメディアの中の敵を攻撃する。名誉棄損訴訟も利用した。もし大統領になったら、ソーシャル・メディにおける批判を支配するつもりだ。彼の主張は楽天的で、いつもジョークと大きな笑顔を振りまく。人々が不機嫌で、幻滅した時代には、この手法が非常に効果的で、しかも非常に長期に及ぶことをベルルスコーニは示した。

重要なことは、2人とも無慈悲で、自分の目的を達成するためにはどんなことでもする気だ、という点である。トランプを過小評価してはならない。ベルルスコーニか、それを超える大惨事になるだろう。それを避けるには、彼を批判し続け、彼の嘘を暴き、その言動に責任を取らせ、そうする者に彼が放つ侮辱と脅迫に負けないことだ。

イタリア人の多くがベルルスコーニの嘘や失態にはお手上げ状態で、彼がすぐに辞めるだろうとか、それほど有害ではない、と思っていた。しかし彼は居座り、多くの害を与えたのだ。アメリカでトランプに同じことを許してはならない。


l  ヨーロッパにおける共通通貨の条件

VOX 14 March 2016

Minimal conditions for the survival of the euro

Barry Eichengreen, Charles Wyplosz

共通通貨を維持するためには政治統合が必要なのか? しかし、アメリカの歴史的経験を観ても、南北戦争の前には完全な政治統合は無理だった。ユーロ危機を回避する問題と、ヨーロッパの政治統合とは切り離して考えるべきだろう。

経済理論は、公共財の供給には規模の経済があるから政治統合を支持するが、他方で、人口が異質で、異なる選好を持つとき、中央集権的な公共財供給にはコストが高まる。権限の集中に抵抗が強いのだ。

ヨーロッパは政治的統合を進めることと、抑えることと、その両方を求めている。ユーロ危機の再発を防ぎ、その存続を確保するには、4つの条件から、分野によって異なる改革を進めるべきだ。

1.金融危機や金融規制は集権的に行われる。ECBはインフレ目標を定め、金融市場の混乱を抑える。ECBは次第に通常の中央銀行として機能するだろう。金融機関の透明性を高め、各国の中央銀行から債券を購入する。

2.銀行同盟をヨーロッパ規模で行う。金融機関の監督と救済や処理を集権的に行う。しかし、ヨーロッパでは、大恐慌前のアメリカ諸州と同じく、預金保険を他国の銀行に与えることを支持しないだろう。ドイツの憲法裁判所はユーロ債の発行に反対する。それゆえ、ユーロを守る特別な問題に限定して、EUもしくはユーロ圏レベルに権限を与えて、納税者の負担を制限しながら、銀行の安定化を集権的に行う。

3.財政政策に関しては地域の選好が大きく異なっており、金融政策が統一されたことで、むしろ各地域の権限を高める、すなわち、財政政策を再国有化するべきだ。財政政策の波及効果は限られている。銀行の救済は行わないというルールを、むしろ、銀行の政府債券保有を禁止する、に変更すればよい。救済がないとき、投資家は各国の財政を厳しく評価する。

4.財政政策を機能させるためにも、既存の持続不可能な債務負担を処理する必要がある。債務の組み替えは公共財の性格がある。しかし、債権者・諸国は反対する。この場合、債務国政府に厳しい健全化の条件を課し、集権的な機関によるゼロクーポン永久債の発行を介して、過剰債務を処理する。債務国・債権国の利益や負担、モラル・ハザードを生じない制度の設計は可能だ。

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The Economist March 5th 2016

India online

Online retailing in India: The great race

Hong Kong and the mainland: Fear-jerker

Charlemagne: The end of Heile Welt

Internet governance: We, the networks

The IETF: Mother of consensus

Free exchange: Red ink rising

(コメント) 輸送や倉庫に限界がある,と指摘します.しかし,インドのオンラインショッピングをめぐる巨大な投資合戦がインドと世界をどのように変えるのか,注目されます.

香港映画祭に出された “Ten Years” という映画は,香港の民主化デモに北京が戦車を送り込んで鎮圧することはなかったが,これから10年の間に起きる事件を描く,というSF映画です.

戦後のドイツ人が求めてきた “Heile Welt” は,難民を受け入れる背景にあったドイツ人の風土的受容力でした.しかし,その箱庭は周辺で起きた多くの大爆発に耐えられません.インターネット世界の<国家>を構築する試みや,エンジニアたちのラフな合意は面白いです.また中国の中央銀行も,デフレ,債務,人民元の為替レート,外貨準備,など,金融市場にリンクした苦痛を味わいます.

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IPEの想像力 3/21/16

研究室に来た学生たちの質問や意見から,学ぶことは多いです.それは,異国を旅行するようなものだから.先日も,研究室に学生が質問に来てくれました。・・・何を学ぶべきか? あなたは何を研究してきたのか?

私は,多くの本や論説を読むとともに,多くの優れた研究者や政治家、政策担当者、交渉に参加した人たちから、直接に話を聴いて刺激を受けることを勧めました。

なぜなら,20代の若者にとって,優れた刺激を受けるほど,何乗倍にも能力は高まる,と思うからです.優れた書物が持つさまざまな情報や深い考察を習得できれば,私たちはその何十年におよぶ研鑽の成果を,たとえ部分的にでも,習得できます.あるいは,何を学ばねばならないか,やみくもに探す必要がなくなります.優れた書物は,闇に浮かぶランプや,嵐の海の灯台です.

しかし,おそらく書物だけで,そのような効果は発揮しないでしょう.それは感覚的に近寄りがたく,理解できないからです.私は,自分が研究をまとめきれなかったことを後悔していますが,その若い学生には,できるだけ多く,優れた研究者や経験者の声を聴いてみるべきだ,と勧めました.

アメリカとイギリスに滞在して研究の時間を与えられたとき,私は研究者たちの意見を聞きに行きました.誰が面白かったですか,と聞かれて,R. Cooper C. Wyplosz, B. Eichengreen, などを挙げました.また,ケンブリッジでJohn Smithに会ったとき,彼らが(ケインズ主義を無視する当時の雰囲気においても)国際通貨制度の改革案を具体的に提示する理由として,その機会が訪れたとき,アイデアがなければ実現できない.と静かに語ったことを余談で話しました.

私がIPEの研究でしてきたことは,多分,3つある.(・・・まあ,学生たちには3つあるとか,5つの要因とか,限定して話すように指導するので,と断りました.)

国家を超える秩序(の可能性)を考えるのがIPEですが,第1に,私は特に「アイデア」の重要性を強調しました.今で言う「コンストラクティビズム」に近いわけです.そして,第2に,国際通貨制度の改革論争を取り上げました.言い換えれば,通貨危機の研究です.第3には,国際移民,あるいは,大いに注目されているヨーロッパの難民危機のような,国境を超える人口(など,社会構造の調整)問題を,もう1つのIMSとして重視しました.

IMSには2つあり,1つは国際通貨制度,もう1つは国際移民システム(ルールに合意し,共通の調整過程を支援する国際移民基金)です.

日本では,誰に会うべきですか? と訊かれて,私は答えられませんでした.まったく思いつかない.数回前のReviewで取り上げた河野龍太郎(BNPパリバ証券)をようやく挙げました.どうしてこんなに知らないのか? 日本の政治風土やメディアのあり方を考えました.

後で思いついたのは,藻谷浩介(日本総合研究所、日本政策投資銀行)です.その饒舌と特異な論調の冴えは,記憶に残っています.ネットで探しても,なるほど,です.・・・伊藤、藻谷両氏、アベノミクスめぐり賛否両論の熱い議論─WSJカフェ(2013/06/04 4:31 pm ET); 藻谷浩介 「安倍政権は経済的な“反日”の極み」(日刊ゲンダイ2014929日)

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藻谷氏を思い出したのも,数年前にゼミの学生が「里山資本主義」を取り上げたからです.

先週,卒業式の後,ゼミ生から彼女のばあちゃんが秋田の村で一人暮らしだ,という話を聞きました.畑や雪下ろしはどうしているのか,と話し合いました.日本がどうなっているか知るために,各地の「限界集落」を自分で歩いてみたいな,と思いました.

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先週,読んでいたThe Economist February 27th 2016の記事から,東アジア・西太平洋における軍拡競争と,中国における過剰生産力の問題に興味を持ちました.

南シナ海における領有権争いで,軍事支出が競争的に増えている,ということです.戦争は起きなかったが,急速に軍備(特に潜水艦)が増強されているのです.しかも,地域を包括する安全保障の制度が存在しません.むしろ,深刻な歴史的亀裂が再現しています.

あるいは,中国の過剰生産力問題です.ガイトナーが金融危機に際して次々に救済を決断したように,中国政府による融資と投資の増大は称賛されました.しかし,今はどうか? 世界中は,次の金融危機とグローバルなデフレを恐れています.

若者たちが大いに学び,主張することです.何度か危機を経験した末に,指導者たちもアイデアを共有し,国家を超えるルールに合意して,調整を促す共通基金を設けるのではないでしょうか?

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