IPEの果樹園2016
今週のReview
3/14-24
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イギリスの国民投票 ・・・トランプ大統領の政策 ・・・アメリカとロシアの政治比較 ・・・ハイテク革命と産業政策 ・・・ECBとマイナス金利 ・・・原子力政策はあるか? ・・・ドイツ政治システムの転換 ・・・EU難民政策 ・・・日本の次の改革 ・・・シリア停戦 ・・・金融市場の不安
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times,
The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate,
SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l イギリスの国民投票
NYT MARCH
3, 2016
The
English Lose Their Cool
Beppe Severgnini
イギリス人の特徴は、決して大きな反応を示さないこと、常に冷静であることだった。しかし、それが変わってきたようだ。6月23日に行われるEU加盟を問う国民投票に向けて、人々は激しく論争している。興奮し、熱烈に、情緒的な討論が展開されている。
イギリスが離脱すれば、すなわち、Brexitが起きれば、雇用が失われるだろう。特にシティは、重要な金融センターであるが、雇用を大きく失う。支持者の中には、離脱によって主権を取り戻す、という声がある。しかしThe
Economistは、イギリスがすでに多くの国際条約を結んだ集団として、グローバルに行動する上で自由を制約している、と指摘する。「もし主権を相互依存がないことだと思うなら、世界で最も主権を高めている国家とは北朝鮮である。」
イギリスが変わったことを明確に示したのは、1997年、ダイアナの死であった。ウェストミンスター大聖堂に集まった群衆の行動は、招かれた参列者たちと異なっていた。ロンドンがロンドンではなく、ローマやナポリになった。イギリス人はストイシズムを捨て、沈黙して耐えることをやめた。笑ったり、泣いたり、意見が対立すれば絶叫する。私たち、イタリア人のように。
ヨーロッパは、イギリス人が非合理的な決定をするのを見守るだけだ。EU離脱への投票を「ダンケルク精神」として称揚する者もいる。1940年に、敵に対して単独で立ち向かったのは英雄的であった。しかし、2016年には愚か者だ。
VOX 04
March 2016
Life after
Brexit: The UK’s options outside the EU
Swati Dhingra, Thomas Sampson
FT March
7, 2016
Brexit:
passion is a vote-killer and gives people the creeps
Janan Ganesh
スコットランド分離独立派と、EU離脱派は、決して認めないだろうが、互いによく似ている。離脱に向けて、一瞬のスキを探るプロのスポーツ選手のように。彼らは重要な諸問題がどうなるか、細かい議論をしない。合理的な説得ではなく、情熱を喚起する。問題の細部を知らないからではなく、それをよく知るプロの政治家だから。
NYT MARCH
8, 2016
Cameron’s
Moment of Truth
Matthew D’Ancona
VOX 09
March 2016
NIESR
Conference: “Economics of the UK’s EU Membership”
Angus Armstrong
ロンドンで23
February 2016開催のThe
National Institute of Economic and Social Research (NIESR) 会議“Economics
of the UK’s EU Membership” から、イギリスのEU離脱に関する経済学の視点を紹介する。(動画を含む。)
FP MARCH
10, 2016
Here’s
What Happens if Britain Dumps the EU
BY DAVID FRANCIS
l トランプ大統領の政策
Project
Syndicate MAR 4, 2016
Donald
Trump’s Message
JOSEPH S. NYE
トランプがアメリカのムッソリーニになる、という者もいるが、1922年のイタリアと今のアメリカは似ていない。憲法による制度的なチェック・アンド・バランスがあり、偏らない司法システムもある。本用の危険は、トランプがホワイトハウスに入ると言うことではなく、そのために彼が発言する中で生じるダメージだ。
指導者はその決定の効果によって判断されるだけでなく、その創り出す意味、支持者に教えることによっても判断される。多くの指導者は支持者の集団的なアイデンティティや団結に訴えるが、偉大な指導者は支持者を超えて、世界について支持者に教える。
第2次世界大戦が終わってから、70年間で3度もドイツに侵略されたフランスの指導者であったジャン・モネは、敗北したドイツに報復すれば次の悲劇につながると考えた。そこで彼は、次第にEUへと発展した制度を作る計画を立てた。それにより戦争を考えられないものとする。
他の偉大な指導者の例は、ネルソン・マンデラだ。黒人グループに依拠して、アパルトヘイト時代の不正義と自分が投獄されたことに対する報復をすることも容易にできただろう。しかしマンデラは、たゆまず、支持者たちのアイデンティティを拡大するため、言葉と行動で促した。
現在、アメリカの失業率は4.9%であるが、その繁栄から排除されていると感じる多くの者がいる。彼らはそれを、技術変化より、外国人のせいだと考え、移民流入とグローバリゼーションに反対する。またマイノリティーの多くが、新しいことではないが、人種、文化、エスニシティに関して、文化的な変化に脅威を感じている。
次のアメリカ大統領はアメリカ人に、グローバリゼーションの過程にどのように対応するべきか、教える必要がある。ナショナル・アイデンティティとは、多くの人々が社会の他のメンバーと直接に関わらないという意味で、想像されたコミュニティーである。過去1世紀か2世紀にわたって、国民国家が想像の共同体であった。人々はそのために命をささげ、政治家たちは主要な義務を感じた。それは不可避なことだが、グローバル化した世界では不十分だ。
多くの人々はさまざまな創造の共同体に属するようになった。地元の、地域的な、国民的な、そして世界市民的な共同体だ。それらがインターネットや安価になった旅行で重なり合う。主権はかつてほど絶対的ではない。
ビル・クリントン元大統領は、1994年にルワンダの虐殺を止めるために十分な行動を取れなかったと後悔した。しかし、彼がアメリカ軍を派遣しようとしても、議会で強い抵抗にあっただろう。指導者は今や、世界市民的な傾向と、自分を選んだ有権者たちに対する伝統的な義務との間で、しばしば板挟みになっている。難民危機に直面したメルケルもそうだ。
世界の所得を平等にする、と指導者が約束するのは信頼できない。しかし、貧困や疫病を減らすためにもっと努力すると述べ、彼らを助けるために支持者たちに教えるべきである。指導者の言葉は重要なのだ。
アメリカ大統領候補者たちは、保護主義、移民、グローバルな公衆衛生、気候変動、国際協力に関して、論争している。われわれは彼らに、アメリカのアイデンティティを問うべきだ。そして彼らが支持者たちを説得してアイデンティティの意味を拡大しているかどうか。あるいは、彼らは狭いアイデンティティに固執するのか?
イスラム教徒がアメリカに入ることを阻止する、メキシコとの国境に移民を阻止する壁を築く、その費用は彼らに支払わせる、とトランプは言う。そのような政策が議会を通過することは決してないが、彼の発言は一部の人々に、孤立したポピュリストの雰囲気を高めるものだ。
たとえプラグマティックに行動できるとしても、アイデンティティを歪める人物だ。
NYT MARCH
4, 2016
Clash of
Republican Con Artists
Paul Krugman
FP MARCH
4, 2016
Do
Americans Really Want a Wall?
BY JAMES TRAUB
「政策」とは、調査、考察、論争、という認識活動の全体を意味する。しかしトランプには、サメが計画を持つほどの計画もない。
トランプは、おそらくトランプの支持者たちが考えるように考えている。つまり、世界は彼らのランチを横取りしている、と。彼の世界観を示す言葉は、壁だ。メキシコからの移民、中東からの難民、中国の製品に、アメリカは壁を築く。
これは孤立主義ではなく、相手以上にアメリカがほしいものを手に入れる、というナショナリズムだ。インターナショナリストたちは、アメリカが他国と多くの集団利益を共有しており、緊密の協力に利益がある、と考える。他方、ナショナリズとは防衛的であり、本土がいつも犠牲になっている。彼らはまた孤立主義的である。壁は、そのシンボルだ。
たとえヒラリー・クリントンが大統領になっても、このトランプと他の候補たちが耕したナショナリズムの底流は、彼女の唱えるインターナショナリストの外交政策を縛るだろう。
オバマ大統領がそうだった。大統領候補として、オバマは弱体な国家、破たん国家を支援するべきだと主張していた。しかし、大統領として繰り返し、忍耐力のないアメリカ国民に海外よりも自国の再建を優先すると約束した。オバマがイラクやアフガニスタンから米軍を撤退させすぎたとしたら、それは国民が望んでいたからだ。ドローンはいいが、米軍派遣には反対。
外交専門家たちは大衆の態度が変化したことを重視しない。しかし、将来、クリントン大統領がアラブ地域や北アフリカへの支援を増やすと主張すれば、その限界を直ちに感じるだろう。他方で、オバマが選択したような戦略的撤退は一層ひどい結果となった。指導力とは、市民を説得して、彼らが好まない場合でも、軍を派遣することを意味する。世界への関与を下げることは、より醜い世界をもたらし、アメリカの国益を損なうものだ。
彼女の弁舌がオバマより優れているとは思えない。クリントン大統領にとってトランプが有利に働くとしたら、それは共和党が分裂して、上院の支配を失う場合だ。経済成長の利益が広く波及してナショナリストの熱狂が消滅するとか、イスラム国家がにわかに崩壊するような事態が起きるかもしれない。つまり、新大統領の外交は非常に難しいだろう。
FP MARCH
4, 2016
Donald
Trump, Barbarian Emperor
BY KORI SCHAKE
FT MARCH
5, 2016
FT Debate:
who is Donald Trump most like?
トランプと共通している人物とはだれか?
Edward Luce ・・・多くの歴史的な人物が似ている。Huey Long, George Wallace, Charles
Lindbergh, Ross Perot and Father Coughlin など。しかし、Rupert Murdochを除いては語れない。
Martin Wolf ・・・魅力を描き、ビジネスの洞察にも欠けるが、Silvio Berlusconiだ。ベルルスコーニはファンタシーを育てた。イタリアの改革に失敗したが、トランプのような野蛮さ、攻撃性はなかった。むしろ、Vladimir
Putinを尊敬するトランプは、自分のことをアメリカのプーチンと見ているのだ。
Gideon Rachman ・・・Hitlerと比べるのは不適切だ。1960年代のGeorge Wallace,
1950年代のJoe
McCarthy、1930年代のファシズムへの同調者たち, たとえば、Lindbergh
or Coughlin、そして現代ならSilvio
Berlusconiだろう。
大国が求めるナショナリストの強権的指導者という意味では、習近平、プーチン、エルドアン、モディに似ている。
NYT MARCH
5, 2016
The
Elements of Trumpism
Ross
Douthat
FT March
7, 2016
The
painful twilight of Barack Obama’s presidency
Edward Luce
オバマが大統領就任式で宣誓する姿を,150万人が凍てつく寒さの中で見守った.それを見たスピルバーグが映画で示すことは不可能だ,と述べたのだが,その後,アメリカ最初の非白人大統領は,数十年で最も激しい人種間の分極化を緩和しようと苦労している.オバマに対する期待が大きかっただけに,その失望も深い.
9年前,オバマがイリノイ州のSpringfieldで,リンカーンと同様に,選挙運動を始めたとき,「議会の分裂には耐えられない.」と元大統領の言葉を引用した.オバマは赤い州と青い州との間の隔たりを埋める,新しい政治を主張した.その両方とも,トランプは引き継いで主張している.
FT March
7, 2016
Donald
Trump: the case for the defence
Gideon Rachman
トランプは偽物で、詐欺師で、民主主義への脅威だ、と言われる。しかし、ロナルド・レーガンもそうだった。レーガンは世界戦争を始める、と多くの者が予測した。今では「偉大な大統領」の1人である。トランプもそうなのか?
トランプを擁護することは可能だ。彼の主張は、共和党の他の候補者たちより穏健だ。金融ビジネスに関する税の抜け穴をふさぎ、アメリカ人全員に医療保険を国家が提供する。福音派の右派が激しく攻撃する家族計画に賛成している。
オバマと同様に、軍事介入や外国の民主主義を再建する計画には反対している。イランとの合意を放棄することは間違いだと言う。リビアに米軍を派遣するよう主張したのはケーシックやルビオだ。
メキシコ国境に壁を築き、イスラム教徒の入国を禁止する、という繰り返される主張は、アメリカの既存の法律で実行可能だ。しかも、条件を付けている。
トランプは有権者の「醜い」本能に訴える。しかし、有権者の関心に応え、政策として示すのは政治家の務めだ。ポピュリズムとして「正しい思考を好む」人々は嫌悪するが、それは民主主義とつながっている。
トランプの経歴が示し、自身も語るように、彼は何よりプラグマティックな取引の達人であり、交渉開始の時点ではラディカルな姿勢を取るが、最後に妥協を導く。だからトランプを大統領にしたい、とは思わないが。
The
Guardian, Tuesday 8 March 2016
Millions
of ordinary Americans support Donald Trump. Here's why
Thomas Frank
SPIEGEL
ONLINE 03/08/2016
America's
White Revolt
Trump
Tears the Republicans Apart
By Holger Stark
NYT MARCH
8, 2016
Only Trump
Can Trump Trump
Thomas L.
Friedman
NYT MARCH
8, 2016
Reviving
the Working Class Without Building Walls
Eduardo Porter
トランプの支持者たちに、メキシコとの国境を壁で閉ざすことが必要ない、と理解させるような優れた代替政策はあるか?
快適な生活や好ましい仕事に関して労働者たちの期待が高まるとき、それにこたえる経済政策は見つかっていない。良い教育や職業訓練を約束するだけでは、もはや彼らをだませない。数十年間にわたって彼らの生活水準は低迷しているのだから。
減税や最低賃金の引き上げ、雇用への支援、最後の手段として政府による雇用、など、伝統的な手法は、さらに革新的な所得や雇用への支援策とともに試みられる。しかし、トランプの支持者たちは「貧者への施し」に反対する。それが彼らのことであっても。
Project
Syndicate MAR 9, 2016
The
Politics of Anger
DANI RODRIK
先進的な民主主義諸国でポピュリストたちの反動が起きても驚くことではないが、むしろそれが遅かったことに驚く。
20年前でも、主流の政治家たちは高度にグローバル化した時代の不確実さや不平等さに対して対処したがらなかった。それがデマゴーグたちに安易な解決策を主張させる余地を与えたのだ。当時はRoss Perot and Patrick Buchananであったが、今ではDonald Trump,
Marine Le Penなどである。
グローバリゼーションが頂点に達した第1次世界大戦前の時代から、われわれは教訓を学ぶことができる。Jeffry Friedenが示したように、当時、国際的な経済的結びつきを重視する主流派の政治家たちは、社会改革や国民のアイデンティティを抑えた。それは戦間期の社会主義やファシズムなどの過激な政治運動となって、グローバリゼーションを終焉に導いた。
当時にとは違い、大恐慌を経験した後の先進民主主義諸国は、失業手当、年金、家族手当、など、社会的なセーフティーネットを拡充し、世界経済にはIMFやWTOのような機能的な国際機関が現れた。さらに、政治的に過激な運動は大幅に後退している。
しかし、高度にグローバル化した経済と社会的な結束との間に生じる軋轢は本物だ。財。サービス、資本の市場が国際化することで、それを有利と見る、世界市民的な、専門家や熟練職の集団と、それ以外の社会集団との間に、対立が生じる。
社会対立は2つの亀裂の周りに集中する。民族、エスニシティ、宗教など、アイデンティティの亀裂、そして、社会階層による所得の亀裂である。トランプのような右派のポピュリストは前者、サンダースのような左派のポピュリストは後者に、格差があることを強調する。どちらの場合も、彼らの怒りは他者(よそ者)に向かう。仕事を奪った中国人、ギャングの抗争を拡大したメキシコ人、テロを広めたイスラム教徒、政治システムを金まみれにした大銀行、を攻撃する。
主流派の政治家たちは説明を示してきた。彼らは低賃金や不平等の拡大を、彼らのコントロールできない技術進歩のせいにした。またグローバリゼーションやそのルールは避けられないと主張した。その対策は技術教育や将来のよりより生活であった。
現実には、すべてが政府の過去の選択によって決まった。すなわち、GATTを廃止してWTOにしたこと、TTPやTTIPのようなメガ地域通商協定、金融の自由化、国境を超えた資本移動、金融危機後にもそれを変えなかった。Anthony Atkinsonが見事に示したように、技術変化も政府の関与によって影響されてきたのだ。それが雇用と平等をもたらすかどうか、政策が影響している。
ポピュリストたちの主張を、危険だ、間違った解決策だ、と主張するより、主流派の政治家たちは希望の持てる具体的な解決策を示さなければならない。内外の経済運営に関して、断端で大規模な改革を実行しなければならない。かつてニューディールや福祉国家、ブレトンウッズ協定が戦後の市場に依拠した社会、長期の成長を可能にしたように。
NYT MARCH
9, 2016
Googling
Is Believing: Trumping the Informed Citizen
By MICHAEL
P. LYNCH
NYT MARCH
9, 2016
A Lesson
in Hillary Clinton’s Loss in Michigan
By THE EDITORIAL BOARDMARCH
Project
Syndicate MAR 10, 2016
The World
According to Trump
BERNARD-HENRI LÉVY
NYT MARCH
10, 2016
The
Neocons vs. Donald Trump
By JACOB HEILBRUNN
Bloomberg
MAR 10, 2016
A Better
Way to Dissuade Trump Supporters
By Cass R. Sunstein
FT March
11, 2016
Pragmatism
may yet prevail in America
Gillian Tett
FT March
11, 2016
Donald
Trump has friends across the Atlantic
Philip Stephens
l メディアの統制
FP MARCH
4, 2016
How China
Won the War Against Western Media
BY BETHANY ALLEN-EBRAHIMIAN
FP MARCH
4, 2016
The Death
Blow to Turkey’s Media
BY NATE SCHENKKAN
NYT MARCH
9, 2016
Europe’s
Illiberal Democracies
Sylvie Kauffmann
l アメリカとロシアの政治比較
Bloomberg
MAR 4, 2016
Russia
Missed Its Chance to Be Like America
By Leonid Bershidsky
ロシア人は多くの点でアメリカに似た国に住んでいる.巨大な国土,冒険心,それと並んで無法状態や暴力,インフラは後からできる.では,なぜロシアはアメリカにならなかったのか?
かつて,ロシア人には市場に対する反感がある,と思われていた.しかし調査によれば,モスクワ市民とニューヨーク市民との間に,大きな差は無かった.ただし,市場や価格に対する政府の介入,規制について,ロシア人の方が肯定的であった.
両者の違いは,民主的な価値に関するもので顕著に示されている.モスクワ市民の37%は,2015年でも,反体制派を許すべきではない,と答える.社会に破壊的なほどの自由を許すより,厳格な秩序のもとに生きるほうがよい,と考えるモスクワ市民は76%にも達した.
こうした父権主義的な国家への志向が,アメリカとロシアとを分けるものだ.
Bloomberg
MAR 7, 2016
The U.S.
Election's Echoes of 1996 Russia
By Leonid Bershidsky
異常なアメリカ大統領選挙は,1996年のロシア大統領選挙に似ている.その後,ロシアの脆弱な民主主義は破壊され,ウラジミール・プーチンが専制的な支配体制を固めた.
エリツィンは,心臓発作に襲われ,支持率も最悪であったため,再選をあきらめるように妻に求められた.しかし,崩壊する政治経済秩序をジュガノフGennady
Zyuganovと共産党によって奪われないために,立候補を決意する.ジュガノフたちの主張は,共産主義と言うよリ,現代アメリカの極右・自国民優先主義者と同じであった.
トランプは,もうこれ以上,オバマ政権がクリントンによって続くことを見たくないだろう,と国民に訴える.ジュガノフが,エリツィンの政権をこれ以上続いてほしくないと願うロシア国民に訴えたように.他方,クリントンは,無謀な権威主義者が核兵器のボタンを押すのを許すのか,と訴える.
エリツィンは勝利したが,2度目の心臓発作で死にかける.彼は病気のことを有権者に告げなかった.ジュガノフの敗北で共産党は解体するが,トランプの指名獲得は共和党を破壊するだろう.健康状態が悪化したエリツィンは2期目の権力を掌握できなくなり,Boris Berezovskyのようなオリガークたちが,元KGBの若い狡猾なスパイを後継者として支持する.エリツィンの辞任後,プーチンは直前に首相に指名されていたが,大統領代理となった.エリツィンはソ連の復活を阻止しようとしたが,不正選挙やオリガークの政治介入は同様の支配体制に向かった.
クリントンは,2期目のエリツィンと同じ,弱い大統領になるだろう.彼女には後継者を指名する権力もなく,アメリカ人は民主党からの大統領が3期に及んだことを嫌悪して,2020年の選挙を迎える.
l アルゼンチン
FT March
5, 2016
Argentina:
Macri’s change of rhythm
John Paul Rathbone and Daniel Politi
l ハイテク革命と産業政策
The
Guardian, Sunday 6 March 2016
Who will
care for us in the future? Watch out for the rise of the robots
Madeleine Bunting
The
Guardian, Tuesday 8 March 2016
When robots
do all the work, how will people live?
Tom Watson (イギリス労働党副党首)
技術進歩による社会変化は止められない.オズボーンGeorge
Osborne蔵相は運転手のいないトラックのイギリス一般道における実験を許可した.新しい自動化の時代を祝ったわけだが,それは同時にイギリスの多数の労働者に劇的な効果をもたらすだろう.
バンク・オブ・アメリカの推定では,1世代内で,すべての製造業の雇用が自動化により半減する.9兆ドルの節約だ.私はこうした変化に対抗するため,新しい産業政策が必要だと考える.しかし,保守党の多くの議員は政府の役割を何でも嫌い,産業政策を拒否する.
ロボットの経済的影響や倫理的ジレンマを分析する王立委員会はない.なぜ,ロボットがもたらす時間と富を公平に分配する方法を決める,労働組合,雇用者,政府を含む新しい制度がないのか? 自動運転トラックは,道路の配送効率を一気に改善し,時間もコストも減らし,事故を無くすだろう.しかし,産業の転換によって大規模に雇用が失われる.
その変化の大きさを知るには,資本主義をもたらし,社会を永久に作り変えた最初の産業革命を見るしかない.多くの反対にもかかわらず,都市と鉄道はひろまり,市庁舎,図書館,画廊,博物館,銅像,広場が生まれた.工業化は大きな富と寄付行為,生活条件の改善を意味したが,大混乱,膨大な貧困,児童労働,伝染病,労働災害,スラム,高い乳児死亡率も意味した.
新しい経済の在り方を文明化したのは,都市行政の指導力,利益をもたらす有徳の資本主義,団結した労働者の力が混ぜ合わされた成果であった.それはあまりにも大きな変化であった.ある時点では,ナポレオン戦争に動員されたよりも多くの兵士がラッダイト運動に対抗して展開したのだ.
われわれはすでに砂時計型の経済に住んでいる.富を持ち,資本にアクセスできるトップには余裕があり,他方で,自動化できないような,低賃金の,平坦な雇用が広がっている.中間層は空洞化しているのだ.新しい技術はこれを強めるだろう.しかし,以前と違って,消えるのは労働者階級の仕事だけではない.病気の診断,年次報告書の作成,裁判所の刑事訴追,ソフトウェアの設計も,コーヒーを入れるのと同様に,消滅する.
産業革命時代の偉大な資本家たちが理解したように,彼らには労働者のための住宅を建て,医療を提供する必要があった.しかし,Google,
Amazon and Facebookのような巨大ハイテク企業は,莫大な資金を保有しているが,インフラや教育,熟練形成,医療に対する投資は非常に少ない.しかも政府にはこうした大企業に課税する力がないために,状況は悪化している.
第2の機械化時代,ドローンとロボット,人工知能の時代にふさわしい,新しい産業政策の展開において,労働党は先頭に立つつもりだ.
NYT MARCH
8, 2016
A Future
Without Jobs? Two Views of the Changing Work Force
By EDUARDO PORTER and FARHAD MANJOO
将来のユートピアか、ディストピアについて、富を創るために無数のロボットや自動機械が働く中で、人間はどうやって生活するのか?
Silicon Valleyは、国民すべてがベーシック・インカムを得る(a universal basic income:UBI)、と考える。グローバリゼーションと技術変化でアメリカの労働者が仕事を失う現在の労働市場について、それはどういう意味を持つのか?
Farhad ManjooとEduardo Porterは、異なる答えを示す。そこで彼らに対談してもらう。
Manjooは、UBIのような大きな構想によって社会を変えることが望ましい、と考える。技術変化によって、ますます不確実で不安定な、長時間の、ストレスに満ちた仕事が増えている。多くの人に仕事がなくなってしまう。UBIはリバタリアンも支持する。なぜなら、政府を組織する最もシンプルな方法だから。課税や給付に複雑な書類や官僚制度は必要ない。
PorterはUBIに反対する。それは科学者たちの妄想だと思う。そもそも自動化は、仕事を失わせて生産性を高めていない。生産性が伸びない中でUBIを実現するのはむつかしい。仕事が消滅することではなく、良い仕事が失われていることが問題だ。むしろ低賃金や雇用創出を補助し、労働時間の短縮を求める現在の政策が望ましい。SFの発想に偏る科学者たちは、市場のもたらす自由や社会の在り方を軽視している。彼らの話はハクスリーやオーウェルの悪夢を思わせる。Aldous Huxley’s “Brave New World” or George Orwell’s “Animal Farm.”
FT March
10, 2016
Today, a
board game; tomorrow, the world
l ECBとマイナス金利
FT March
7, 2016
Bank for
International Settlements warns of negative rates risk
Claire Jones — Frankfurt
マイナス金利に対して,無います金利に対して個人や金融機関がどのように反応するのか予測することはできない,とBISは警告した.また銀行は負担を預金者に転嫁できず,そのビジネスモデルとしての生命力を失っている.
FT March
7, 2016
A world
stumped by stubbornly low inflation
Larry Summers
インフレ目標に復帰する証拠はない.G20では主要諸国が積極的なマクロ政策を用いて需要不足に対処する姿勢を示さなかった.デフレや長期的な停滞に向かうリスクに,対応が遅れている.
Bloomberg
MAR 8, 2016
The ECB's
Dilemma
By Mohamed A. El-Erian
ECBの緩和策は,全体としてのマクロ政策の転換がなければ,短期的な効果しかない.日銀によるマイナス金利政策は,円安ではなく円高,株価上昇ではなく下落,議会における説明要求,預金者による資金引き出し,が生じた.非正統的な金融政策を中央銀行が続けることの副作用は抑えられない.金融政策は効果を失い,政治的な脆弱性が増す,という日銀の苦境を,ECBは迅速な行動で回避できるのか?
Bloomberg
MAR 10, 2016
More
Central Bank Surprises
By Mohamed A. El-Erian
Bloomberg
MAR 10, 2016
Europe
Presses the Panic Button
By Mark Gilbert
ECBの金融政策に対しては,市場が楽観と悲観のシーソーを繰り返している.財政政策による刺激策がなければ,QEによる資金供給は失敗を重ねてしまうことになる.
FT March
11, 2016
Mario
Draghi delivers a bold expansion of stimulus
FT March
11, 2016
China’s
example has policy lessons for the west
Joe Zhang
FT March
11, 2016
Mario
Draghi and the ECB take on the naysayers
Martin Sandbu
(後半へ続く)