IPEの果樹園2016
今週のReview
3/7-12
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シリア難民 ・・・オバマ外交の遺産 ・・・G20の不決断 ・・・世界貿易の逆転 ・・・日銀のマイナス金利 ・・・世界不況への再接近 ・・・民主主義と指導者 ・・・トランプの台頭 ・・・南スーダン ・・・中国経済の迷走期 ・・・EU離脱は間違いだ ・・・土地ラッシュ
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign
Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York
Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l シリア難民
FP
FEBRUARY 25, 2016
Why China
Isn’t Hosting Syrian Refugees
BY LIANG PAN
シリア難民が周辺諸国やヨーロッパに流入している。内戦終結のための和平会議に参加し、国際的な役割に積極的な中国だが、難民を受け入れる姿勢は全く見られない。中国の指導部は、シリアの秩序崩壊に西側諸国は責任があり、大規模な難民流出とその受け入れは自分たちの失策がもたらした代償なのだ。
アムネスティ・インターナショナルによれば、Turkey, Lebanon, Jordan, Iraq, and Egyptがシリア難民450万人を受け入れ、その他の国が受け入れた数は20万人でしかない。そうした数字は、中国の人口や土地、経済の規模から見れば、わずかなものだ。実際、すべてのシリア難民を受け入れても、1000人の住民に対して3.5人でしかない。トルコは23.7人である。中国の1人当たりGDPはヨルダンとほぼ等しいが、660万人の人口で68万5000人の難民を抱えている。
国際的役割に積極的であるなら、中国政府は難民政策に関しても、自分たちを変える政治的意志を示すべきだろう。
SPIEGEL
ONLINE 02/26/2016
Refugee
Crisis Disunity
A De Facto
Solution Takes Shape in the Balkans
SPIEGEL
ONLINE 02/26/2016
Merkel's
Humane Refugee Policies Have Failed
By Christiane Hoffmann
SPIEGEL
ONLINE 03/02/2016
Rolling Up
the Welcome Mat
Berlin
Moves to Curb Afghan Refugee Influx
By Wolf Wiedmann-Schmidt, Susanne Koelbl,
Christiane Hoffmann and Konstantin von Hammerstein
l オバマ外交の遺産
FP
FEBRUARY 25, 2016
Obama: The
Last Year and the Legacy, Part II
BY ROSA BROOKS
オバマ大統領は任期の最後に、その遺産として改革しなければならないことがある。特に、アメリカの外交政策に関する論争と、軍、情報機関、ホワイトハウスの国家安全保障会議を改革することだ。
安全保障に関する論争は間違っている。昨年、牛に殺されたアメリカ人の方が、イスラム過激派のテロリストに殺されたアメリカ人よりも多かった。しかし、人々のヒステリー状態は、まるでイスラムのテロリスト集団がヒトラーやスターリンにも匹敵するアメリカの脅威であるかのようだ。
オバマは、アメリカの弱さを示した点でしくじったが、正しい判断も示した。イスラムとテロリズムとを同一視する主張に反対し、シリアも含めて、イスラム国に対する大規模な軍事介入も支持しなかった。「9・11後にテロで殺されたアメリカ人の数は、100人に満たない。他方、銃が関係する暴力で殺害された人の数は数万人に達する。」
もしオバマが「永久の戦争状態」を望むのでないなら、テロを人類進化の叙事詩的な脅威とみなすことはやめるべきだ。テロは戦術である。野蛮で、醜い、非合法な戦術だ。しかし、それが西洋文明を転覆するようなことはない。われわれは深刻なテロ攻撃のリスクを最小化するべきだが、他の国民的な優先目標を犠牲にしてはならない。
l G20の不決断
FT
February 26, 2016
Clashes
over policy at Shanghai G20 meeting
Robin Harding in Shanghai and Tom Mitchell
in Beijing
財務大臣と中央銀行総裁が金曜日に上海へ集まった。先週、IMFが要請した大胆な刺激策を取る気はないようだ。
「債務に依拠した成長モデルはもはや限界だ。」ドイツのWolfgang
Schäuble蔵相はそう言った。一層の金融緩和にも懐疑的だ。フランスのMichel
Sapin蔵相も、財政政策の国際協調は実現からほど遠いと述べた。フランスには財源がない。ドイツや中国のように、国によっては実行できるから、グローバルな成長を維持するために実行するべきだ、と。
多くの国はG20に失望した。OECDのAngel
Gurría事務局長は、インフラ投資のような財政政策が長期的には求められる。しかし、当面はむつかしいだろう、という。「我々はそれに緊急性を求めている。」
イングランド銀行のMark
Carney総裁は、マイナス金利を採用した日本などの諸国を批判した。マイナス金利は国内需要に影響する他のチャンネルをふさぎ、もっぱら為替レートに影響する。「個々の国には好ましい政策でも、世界全体にとっては、ゼロサム・ゲームである。」
「さらに、より多くの貯蓄がグローバル市場に押し出され、グローバルな短期金利が低下して、流動性の罠に近づくだろう。グローバルなゼロ金利の下限があり、フリーランチはない。」
Project
Syndicate FEB 26, 2016
Whose QE
Was it, Anyway?
CARMEN REINHART
Bloomberg
FEB 28, 2016
The G-20
Misses Its Sputnik Moment
By Mohamed A. El-Erian
G20は「スプートニク・モーメント」を逃した。グローバルな成長と金融安定性に関する懸念を共有しながら、金融・財政・構造改革の諸政策を組み合わせた、包括的な国際政策協調に合意することはできなかった。世界は、高度な不均衡状態、中央銀行の実験的な金融緩和策に過度に依存する状態が引き延ばされる。
2009年のロンドンG20に比べて、危機管理の緊急性を欠いていることがその理由だ。世界経済の成長維持は今も難しい状態で、各国の不平等(所得、資産、機会)は悪化し、金融的な浮動性が増している。それは政治的な機能不全を強めるだろう。
FT March
2, 2016
Echoes of
the 1930s must focus finance ministers’ minds
Ed Balls
YaleGlobal,
3 March 2016
The World
Is Stuck With Persistent Stagnation
Stephen Roach
2009年の世界GDPはわずか0.028%しか成長しなかった。それは第2次世界大戦後で最も少ない。グローバルな経済均衡化の動きが成長を制約している。1980年から2008年まで、世界の平均成長率は3.5%であったから、2009年の落ち込みは顕著である。その後の回復も3.5%の半分でしかない。
1990年代初めに日本が停滞を経験した、いわゆる失われた10年に似ている。日本のGDPは1992年から2015年まで、平均で0.8%しかなかった。それ以前の45年間が平均で7.25%であったから、その下落は驚異的なものだ。株価と地価の2重のバブルが崩壊した後、バランスシート不況に苦しんでいた。
しかも、日本株式会社が解体し、政治家たちは企業の再編や構造的改革を拒んだ。過剰債務を抱えて、日本経済は「流動性の罠」に落ち込み、2013年から2015年に、アベノミクスで0.7%の成長を実現するまで、失われた20年を経験した。
この日本の経験は、今やアメリカとヨーロッパに広がりつつある。日本が3度目の失われた10年に入りつつあるように、長期停滞を抜け出す近道はない。経済の均衡回復と構造改革を成し遂げた国だけが、改善された姿で成長を取り戻せる。アメリカは、長期の貯蓄を回復し、ヨーロッパは、銀行部門の改革と財政の協力、中国は、過剰貯蓄を活発な消費につなぐ社会保障の整備、そして日本は、急激な高齢化の中でも生産性を高めることだ。
Project
Syndicate MAR 3, 2016
The Global
Economy’s Stealth Resilience
NGAIRE WOODS
l ロシアのシリア介入
FT
February 26, 2016
What
Ukraine’s blackout has exposed
Gillian Tett
YaleGlobal,
1 March 2016
Russia
Achieves Tactical Success in the Middle East, But No Strategic Victory
Thomas Graham
FP MARCH
1, 2016
Iran’s
Diplomatic Dance on Syria
BY REESE ERLICH
NYT MARCH
3, 2016
In Ukraine
Towns Ravaged by War, Evangelical Missionaries Find Fertile Ground
By ANDREW E. KRAMER
l 世界貿易の逆転
FT
February 26, 2016
World
trade records biggest reversal since crisis
Shawn Donnan in Washington and Joe Leahy in
São Paulo
グローバリゼーションは頂点に達し、逆転したのか? 中国など、新興市場の輸入が減って、輸出に頼っていたブラジルなど、ラテンアメリカ経済が不況に向かいます。しかし、ブラジル通貨の減価、ドル高などに応じて、世界貿易の再均衡化も生じつつあります。
Bloomberg
MAR 2, 2016
What
Happens When Global Trade Goes Virtual
By Justin Fox
世界金融危機後の世界貿易が減少したのは、特に、石油価格の急落による産油諸国と、中国経済尾の減速に代表される需要減退だけでなく、消費者たちが以前ほど物資を欲しがらなくなったからである。インターネットの発達は、データやサービスの国際取引を増やす。国境を超える緊密な統合化、中小企業のグローバル化は、世界貿易の中身を変える。
FT March
3, 2016
Global
trade: structural shifts
Shawn Donnan
l 日銀のマイナス金利
Project
Syndicate FEB 26, 2016
Less than
Zero in Japan
KOICHI HAMADA
マイナス金利は期待されたような効果を発揮していない。理論では、マイナス金利が融資を増やすはずだ。そして株価が上昇し、家計の消費が増え、円が安くなって輸出を増やし、デフレが止まる。しかし、為替レートや株価は思うような良い効果を示さなかった。
1つの理由は、日本経済に関する悲観論が広まっているからだ。しかし、悲観論は事実に反する。アメリカの金利引き上げは好ましいが、中国経済は共産党が国有企業に対する介入を強めて、経済や為替レートに関する市場の不確実さを高めている。それゆえ、為替レートの投機的な変動に対する一時的市場介入が必要である。
The
Guardian, Friday 26 February 2016
The
Guardian view on Japan’s shrinking population: who will look after the old?
Editorial
FT March
4, 2016
Japanese
monetary firepower misses the mark
Gillian Tett
日銀のマイナス金利がうまく機能しない。政府はそれを認めて、もはや「ヘリコプター・マネー」としての老人への現金給付や出産手当を増やすしかない。
l 世界不況への再接近
VOX 26
February 2016
Banking
crisis yet again and how to fix it
Stefano Micossi
Bloomberg
MAR 1, 2016
Deflation
Defeats Impotent Central Banks
By A. Gary Shilling
Project
Syndicate MAR 2, 2016
2008
Revisited?
NOURIEL ROUBINI
われわれは再び2008年へ戻って、世界金融危機を招くのか? 私の答えは、No、だ。しかし、最近の世界経済の事件は、2009年以降の浮動性やリスク・オフよりも、はるかに深刻なものである。その理由は、現在のグローバルなテール・リスクが、1つではなく、7つの源泉を持つからだ。
第1に、中国のハード・ランディング。株価や人民元為替レートの大幅な下落がありうる。
第2に、新興市場には深刻な諸問題がある。グローバル市場が逆風に代わり、マクロ的な不均衡が拡大しており、構造改革を怠って、通貨の減価がドル建債務の返済をむつかしくしている。
第3に、アメリカ連銀はゼロ金利政策を離脱する。
第4に、多くの地政学的なリスクが高まっている。
第5に、石油価格の下落がアメリカや世界の株価を急落させ、融資のスプレッドを高める。
第6に、グローバルな銀行は、低金利(さらにマイナス金利)と規制強化(そして不良債権)により、利潤を減らしている。
第7に、EUとユーロ圏の混乱が再発するだろう。イギリスはEUを離脱する見込みが強まり、ますます高まるポピュリストたちの運動はヨーロッパを分裂させ、EUは中東やウクライナの紛争を鎮静化できない。
これまでのような緩和政策が、減速する経済では十分な効果を発揮せず、混乱を強めるだろう。
Project
Syndicate MAR 2, 2016
The
Politics of Financial Volatility
ALEXANDER FRIEDMAN
Project
Syndicate MAR 3, 2016
Time for
Helicopter Money?
KEMAL DERVIŞ
先進諸国が経済の持続的な回復を促す政策は、もう尽きたのか?
ゼロ近辺の低金利、中央銀行による財政刺激策への直接融資、いわゆるヘリコプター・マネー、さらに極端な意見として、民間企業の賃金引き上げを促す「リバース・インカム・ポリシー」(逆向きの所得政策)が検討されている。
こうした政策が長期化すれば、資本の効率的配分を妨げ、バブルを生じ、金融危機につながると警告されている。また、金融資産価格の上昇がもたらす分配の不平等化も批判される。
世界経済が、非正統的な政策によって苦しんでいるのであれば、金利を上げるほうが有益かもしれない。しかし、単独で行ってはいけない。小さな金利引上げ政策を、財政や分配の政策の一部として行わねばならない。インフラ整備や熟練技術の刷新のための公共投資、穏健なタイプの所得政策、雇用増への「説得」である。
こうした手法を、さらに主要諸国が協力して行う。なぜなら、もし主要な中央銀行が単独で金利を上げたら、通貨の増価、競争力の低下、輸出の減少によって、その国は罰せられるだろう。総需要や雇用を損なうのだ。
主要諸国の中央銀行が一致して金利を上げれば、その効果は相互に相殺する。為替レートや競争力を変えることなく、金利をプラスの水準に上げることができる。それにより正統的な金融政策の余地を確保するのだ。
財政刺激策も同時に行われる。物的・人的なインフラの整備、特に、クリーン・エネルギーとデジタル時代の熟練形成に役立つものが刺激策の焦点になる。
正統派と独自の行動は経済停滞を解決できない。革新的な国際政策協調の時期が来た。それは欲張った主張というより、不可欠の主張である。
FT March
4, 2016
If easing
is not Europe’s answer, an alternative is elusive
Lorenzo Bini Smaghi
l 民主主義と指導者
NYT FEB.
26, 2016
The
Governing Cancer of Our Time
David Brooks
多様な社会で、秩序を維持し、物事を実現するには、本質的に2つの方法しかない。政治か、独裁である。妥協か、むき出しの強制である。
政治とは、異なる集団、利害、意見が同時に存在していることを認め、それらをバランス、和解、妥協させる何等かの方法を模索する。少なくともその多数に関して。政治のマイナス面は、人々がその求めるものをすべて得られないことだ。政治は混乱し、限定され、真に解決されたという問題は何もない。つまり失望が常態である。
しかし、政治には優れた点がある。果てしない対話の中で、他者について学ぶ。それに代わるものより良い。すなわち、権威的な独裁者がだれでも殴りつけて支配する。バーナード・クリックは『政治の用語』に書いた。「政治とは、分割された社会を不当な暴力を使わずに支配する方法である。」
この1世代で、政治を拒む人々が現れた。ティー・パーティのように、こうした集団は、政治的経験のない者を選挙で代表にしようとする。「アウトサイダー」を求めるのだ。妥協や取引を非正当化する。究極において、彼らは他者を認めない。ある種の政治的ナルシシズムに陥る。抑制がなく、彼らと彼らの原理が全面的に勝利することを求める。
この反政治の傾向がわれわれの民主主義に破滅的な効果を及ぼす。議会には政治のスキルや経験を持たない人々が増え、政府が機能しない。それは政府に対する憤慨を強め、一層のアウトサイダーを求める。
ドナルド・トランプは、伝統的な候補者と違う、通常の政治から切り離されている、と言うが、それは間違いだ。トランプは、こうした反政治化の極致である。
FP MARCH
3, 2016
It’s Time
to Abandon the Pursuit for Great Leaders
BY STEPHEN M. WALT
冷戦が終わってすぐの頃、アメリカの政治と経済のシステムは魅力的なモデルに見えた。リアリズムを信じていた学者たちは歴史のゴミ箱に捨てられ、スマートな人々の多くが、専制君主や独裁者、権威主義者たちは消滅しつつある、と考えた。民の声は神の声、と信じる人々はますます意気盛んで、多くの国が代表制、市場経済を採用し、人権を重視して、世界はカント的な平和の世界に変わる。人々が幸せに暮らす、エデンの園になるだろう、と主張した。
そのような考えはもはや全く見られない。現代世界の政治的趨勢で驚くことは、多くの人々が偉大な指導者が必要だ、と考えていることだ。偉大な指導者は、煩わしい国内の制約に従わず、制度の構築やリベラルな価値を無視する。人々は、暗闇を抜け出し、明るい、栄光の未来に向けて、彼らを導く指導者に従う、と考えられている。
例えば、中国では習近平が、鄧小平や毛沢東に匹敵する権力を固め、経済運営にいくらか失策を犯しても、その個人崇拝が弱まる気配はない。さらに、トルコではエルドアン、エジプトのアブデル・アル・シシ、モスクワのプーチン、ハンガリーのオルバン、ポーランドのカチンスキーが率いる右翼の新政権が、そうした傾向を示す。
自由の国、アメリカの話に戻れば、広報など焼き捨て、粗末なビジネスの経歴しかない低俗な資産家が、共和党の指名獲得に近づいている。大げさな外国人排斥と「アメリカを再び偉大な国にする」という公約しかない。
強い指導者、将来を展望できる指導者に期待する傾向は、なぜ生じるのか?
第1に,強い指導者への願望には長い歴史がある。アテネの民主主義やローマ共和国もそうだった。現代のリベラルな民主主義は人類の歴史で相対的に見て新しい。ほとんどの社会集団はリベラルな価値に制約されなかったし、指導者たちがチェック・アンド・バランスの制度に制約されたり、文書化された憲法によって権力を制限されたりすることなどなかった。
第2に、階層的な秩序を持つ多くの部門が社会には存在する。そこにおいては頂点にいる者の重大な決断が畏怖と尊敬をもって受け入れられる。産業界の巨人たちは,Jeff
Bezos, Bill Gates, Larry Ellison, or the late Steve Jobsのように,軍事指導者に対する畏敬の念と似たものを持っていた.論争好きで悪名高い学者の世界でもそうだ.大学は資金を集め,革新的なプログラムを実行し,大学の全国順位を高め,フットボールチームが勝利し,学生,教授会,職員,同窓会が喜ぶような,ダイナミックな学長や学部長を求めている.
私が言いたいのは,現代の多くの制度が,たとえ高度に民主的な社会でも,非常に権威的に運営されている,ということだ.しかし,組織のトップにふさわしい人物を据える,という発想の問題点を,欧米の既存の民主的諸制度の欠陥,政治家たちの偽善的な経歴,多くの無表情な役人たちが示している.
最後に,偉大な指導者というのは,民主主義が求める大量の情報に対する理解と困難な判断の重荷から私たちを免除してくれる,という安易な姿勢,誘惑である.われわれは自分の願いを偉大な指導者に託するだけで,後はすべて指導者がやってくれる.民主主義が破たんするたびに,独立した,決断力のある,信頼できる誰かを探すことが繰り返されている.
歴史はそれに警告する.偉大な指導者というのは,自分の無謬性を過信するものだ.彼らはしばしば,自分たちの支配に対する脅威や,その権威を損なう障害を取り除くことにたけている.それは緊急に多くのことを実行するという意味で,効率を高める.しかし,それが重要な,正しいことであるとは限らない.偉大な指導者が間違いを犯すとき,誰が彼を止めるのか?
James Scott and Amartya Senが探求したように,独裁は真に甚大な破滅をもたらしがちである.なぜなら彼に説明を求め,途中でコースを変えさせるために情報を提示させる制度がないからだ.Lee
Kwan Yew,Stalin,Mao Zedong,Napoleon,誰であれ,絶大な権力を持つ者は慢心に陥り,破滅の道に向かう.
指導者を選ぶ際には,注意してほしい.
l トランプの台頭
NYT FEB.
26, 2016
Twilight
of the Apparatchiks
Paul Krugman
自覚がないことは致命的だ。トランピズムに直面した共和党指導部の不運は、まさにそれだ。
トランプの人種差別主義や外国人排除に、共和党員が賛同するとは思わないのか? 共和党がやってきたことはそれである。半世紀も人種差別を煽り、白人労働者が政府を軽蔑するようにした。あんな連中に給付を与える政府だ、と。
NYT FEB.
27, 2016
From Obama
to Trump
Ross Douthat
NYT FEB.
29, 2016
Trump's Il
Duce Routine
Roger Cohen
NYT MARCH
1, 2016
Why Trump
Now?
Thomas B. Edsall
アメリカの製造業雇用者数は36%も減少した。すなわち、1979年の1930万人から2015年の1230万人である。他方で、人口は43%増えた。
40年間にわたる変化が有権者たちの怒りを生み出した。中産階級、労働者の生活を悪化させたのは、特に2つの変化だ。1.社会的な上昇の可能性が失われた。2.中国の台頭による貿易や製造業の変化だ。
2016年1月の論文“The
China Shock” で、David
Autor, David Dorn and Gordon Hansonがそれを示した。中国からの輸入の衝撃は、経済学の教科書が示すような、労働者の国内移動によって吸収されなかった。労働者たちは非貿易財部門に移動できず、製造業が衰退すると、その地域が衰退し、失業者が増えた。高賃金の労働者は調整が容易であったが、低賃金労働者は大幅な賃金の低下に苦しんだ。
ポピュリズムの処方箋は明白だ。中国からの輸入増、工場の機械化、マクロ経済の低迷、こうしたものが混じり合って、政治的なシチューができた。そして2008年9月の金融崩壊が、この鍋を沸騰させたのだ。
ブッシュ大統領が署名したTARP(Troubled
Asset Relief Program)は、主要な金融機関の救済に使われた。金融崩壊とその後の経済不況をもたらした、まさにその金融機関と重役たちがTARPで助けられた。この「救済の衝撃」を決して過小評価してはいけない。
アメリカ人にとって最大の、しばしば唯一の資産である住宅の価格が下落し、職を失って、凍てついた、あるいは停滞した経済に直面し、不平等が拡大するのを観た。
2010年1月、最高裁はCitizens
Unitedに関する判決で、裕福な個人や企業、労働組合が無制限に政治献金することへの道を開いた。政治団体を通じて、ウォール街は政治家たちを動員できるようになった。
2010年3月、オバマ大統領は、the
Affordable Care Act通称オバマケアを成立させた。白人中産階級や労働者の多くは、マイノリティーに不当に大きな保証を与えるために、自分たちの保険を減らした、と認識した。
2010年の中間選挙ではティー・パーティが躍進し、民主党候補や、共和党の穏健派候補を破った。有権者たちの憤慨は2つの標的に絞られた。「その価値のない富裕層(救済を受けた)」と「その価値のない貧困層(保険を得た)」である。
共和党指導部の重要テーマは、規制されない金融や、貿易、不平等の拡大ではなく、「他者(よそ者)」であった。移民、マイノリティー、政府による弱者への支援策を攻撃した。しかし、彼らの主張したトリクル・ダウンも、規制緩和も、問題を緩和できなかった。だからコントロールできなくなったのだ。
共和党を支える連合体は崩壊し、トランプが選挙区を動かし始めた。
(後半へ続く)