前半から続く)


l  戦争は減らない

Project Syndicate FEB 12, 2016

More War than Peace

JOHN ANDREWS

2次世界大戦後の趨勢として、また冷戦の終わりにおいて、人類は戦争による犠牲者を減らすことに成功していた、しかし、この数十年で、その傾向は逆転した。

シリア、イラクから、イエメン、リビアまで、アラブ世界に暴力が蔓延している。アフガニスタンではタリバンとの戦いが続き、中央アフリカは資源を求めて、あるいは、エスニックや宗教にかかわり、血みどろの戦闘が広がっている。ヨーロッパの静けさも失われる危機に瀕している。ウクライナ東部の分離独立派は、その停戦合意までに6000人以上を殺害したと言われる。

国際機関が戦争を抑制するように設立されたが、今の戦争は国家と非国家組織、内戦や、国外の大国が支援する代理戦争である。外部の勢力が支援する場合、また、イスラム国家のように13億人のイスラム教徒に参加を呼びかけるような戦争では、敵を強制して望むような行動に従わせることは不可能だ。

北朝鮮は、イスラム国家とは違う意味で、どれほど野蛮な体制でも長期に生き延びるかを示している。暴力の犠牲者が増大する傾向はまだ続きそうだ。


l  ユーロ圏改革

VOX 12 February 2016

How to fix the Eurozone: Views of leading economists

Richard Baldwin, Francesco Giavazzi

VOX 17 February 2016

How to resolve a systemic sovereign debt crisis

Damiano Sandri

債務危機に対して、国際社会には3つの選択肢がある。1.債務国が財政緊縮と黒字による支払い。2.債務の組み替えにより民間債権者が負担する(bail-in)。3.債務の支払いに対して国際社会が財政移転する。

もしその国が国際的な波及を生じない場合、民間権者がどこまで債務負担を組み替えによって緩和するかは、それで債務国が返済する能力を高めることに応じて決まる。しかし、債務国が国際市場を通じて他の債務国にも影響する場合、国際社会は一定の財政移転を行って債務危機の波及を回避し、債務国の財政緊縮を緩和することが望ましい。

ただし、システム上の重要な国に財政移転を多くすれば、それは民間債権者や債務国政府にモラルハザードを生じる。国際機関を通じて財政移転を行うには、事前に債務国への財政移転とその条件として財政緊縮を求めることを合意したルールがあれば、モラルハザードを抑えることができるだろう。そのルールは、債務国と債権者、国際社会の間で、バランスを取って決めることができる。


l  サンダースのアメリカ

NYT FEB. 12, 2016

Livin’ Bernie Sanders’s Danish Dream

David Brooks

アメリカの資本主義はいつでもヨーロッパの資本主義と違っていた。われわれはより企業家的な創造性を好み、安全をそれほど重視しなかった。われわれは消費者の生活水準を重視し、ヨーロッパは被雇用者や生産者の生活水準を重視した。

われわれが独自の資本主義や福祉国家を持つことについては、超党派のコンセンサスがあった。われわれは大陸規模の国であり、その多様性や権力の分散を好んだ。そこには活発な慈善活動や、多様な支出とライフスタイルがあった。

アメリカの価値観は、個人主義や成果、弾力性に偏っている。だから、これほど多くの人々がコンセンサスを拒否したことに驚く。サンダースの支持者はウォール街に憤慨しているだけでなく、この国を北欧のようにしたいのだ。

1.権力をワシントンに集中させる。2.中産階級の選択肢を減らす。3.成功する人々の誘因を変える。4.アメリカの大学をヨーロッパ化して、人々は大学から出たくなくなる。

サンダースのアメリカは、ハミルトンや、トクヴィル、ビル・クリントン、バラク・オバマのアメリカとも違う。これほど多くの人々が、活気のないアメリカを好むのは驚きだ。

NYT FEB. 12, 2016

How Far Left Has America Moved?

By STUART STEVENS

The Guardian, Tuesday 16 February 2016

Thomas Piketty on the rise of Bernie Sanders: the US enters a new political era

Thomas Piketty for Le Monde


l  オバマ外交

NYT FEB. 12, 2016

Madeleine Albright: My Undiplomatic Moment

By MADELEINE ALBRIGHT

Bloomberg FEB 12, 2016

A Better Question About Clinton and Kissinger

By Leonid Bershidsky

FT February 14, 2016

Hillary Clinton’s big, complicated world

Edward Luce

かつてブラジャーを燃やした過激な女性解放論者が、今では政治のエスタブリッシュメントだ。トランプ支持者の反クリントン感情も、サンダースの国民保険制度案も、クリントンを苦しめる。

FT February 16, 2016

The revival of American isolationism

Gideon Rachman

なぜ中東やロシアの蛮行が続くのか? オバマへの非難は正しいか? 「腰抜け」、「無力で無為な」大統領と避難しているトランプやサンダースは、グローバリゼーションからの撤退を主張する孤立主義者である。それは国際的な軍事力や経済的な関与において、重大な影響を及ぼすだろう。トランプの態度は重商主義であり、サンダースは左派の孤立主義者だ。


l  北朝鮮

NYT FEB. 13, 2016

Time to Take North Korea Seriously

By THE EDITORIAL BOARD


l  人民元の通貨不安

NYT FEB. 13, 2016

Chinese Start to Lose Confidence in Their Currency

By KEITH BRADSHER

FP FEBRUARY 15, 2016

Why Is China Spending $43 Billion for a Farming Company?

BY KEITH JOHNSON

Project Syndicate FEB 16, 2016

The China Delusion

ROB JOHNSON

事実上の為替レート固定化を続ける中国の動揺は、グローバル金融市場に不安を広めている。人民元の大幅な切下げが起きれば、そのデフレ圧力は新興市場から、ゼロ金利やマイナス金利を採用した先進経済にまで影響するだろう。

為替レートの不安が中国の成長モデル転換によって生じていることを考えれば、それは容易に解消されない。中国の指導部には直面する諸問題を解決する一貫した政策がないらしい、という疑念が強くなっている。

変動レート制も、バスケット・ペッグも、為替レートの不安を払しょくできず、一貫した開発戦略によって外貨準備が増えることを示すしかない。しかし、国営銀行や国有企業を利用して市場に介入することで成長を操作してきたモデル自体が、新しい開発モデルの成功を阻んでいる。

FP FEBRUARY 18, 2016

China’s New Age of Fear

BY EVA PILS, TAISU ZHANG, ISABEL HILTON


l  アメリカの敗北

NYT FEB. 14, 2016

How America Was Lost

Paul Krugman

本来、法廷は政治を超越したもののはずだが、実際はそうならない。新しい最高裁判事の指名には困難が生じる。アメリカを再び統治可能な国にしてほしい。


l  アメリカ建国

FP FEBRUARY 15, 2016

America Was Founded on Secrets and Lies

BY STEPHEN F. KNOTT

アメリカ建国の父たちは嘘つきで、諜報や情報操作を行っていた。それらなしにはアメリカ独立革命は成功しなかっただろう。


l  次の金融危機

FT February 15, 2016

‘Lehman Brothers: A crisis of value’ by Oonagh McDonald

Review by John Plender

FT FEBRUARY 16, 2016

Banks are still the weak links in the economic chain

Martin Wolf

銀行は今も、それ自身が脆弱であるだけでなく、システムに脆弱性を生じる結び目になっている。特に、総需要の慢性的な不足が、中国経済の減速により悪化しつつある。レバレッジが彼らをさらに弱くしている。

VOX 16 February 2016

The case for growth-indexed bonds in advanced economies today

Olivier Blanchard, Paolo Mauro, Julien Acalin

Project Syndicate FEB 18, 2016

Closing Developing Countries’ Capital Drain

JOSEPH E. STIGLITZ and HAMID RASHID

発展途上諸国からの大規模な資本流出に対応した政策が必要だ。先進諸国のQEから生じた高い利回りを求める資本が、商品ブームに沸く発展途上諸国に流入した。資本移動の自由化を諸国に拡大する主張は間違いだった。投機的な短期資本移動が景気循環を増幅することに対して、国際システムには何ができるのか?

発展途上諸国の政府は、債務をGDP連動型の債券に転換するべきだ。また、場合により、選択的な、的を絞った、時限措置として、資本流出に対する規制を行うべきだ。特に銀行システムにおける資本流出は阻止するのが望ましい。1997年、マレーシアの資本規制は成功した。資本流出や為替レートを一時的に規制することは、発展途上諸国が破滅的な金融危機を避けるために有効な政策だ。


l  デジタル社会

FT February 15, 2016

The hidden costs of a cash-free society

FT February 15, 2016

Digital dilemma: a tale of two coasts

John Thornhill

FT February 17, 2016

Notebook – Uber drivers’ tempers flare in San Francisco

Leslie Hook


l  中国の脅威

Project Syndicate FEB 17, 2016

China’s Thirst Threat

BRAHMA CHELLANEY

NYT FEB. 17, 2016

Chinese Missiles in South China Sea Underscore a Growing Conflict Risk

By MARK LANDLER and MICHAEL FORSYTHE

FP FEBRUARY 17, 2016

Crunch Time for Washington and Beijing in the South China Sea

BY DAN DE LUCE, KEITH JOHNSON

もうすぐ、ハーグの常設仲裁裁判所が南シナ海の諸島に関する領有権論叢に初めての判断を示す。習近平主席は、アメリカ訪問でオバマ大統領に、南シナ海の軍事化に反対する、と約束した。しかし、今週、衛星写真は中国がWoody Islandに最新鋭の対空ミサイルを配備したことを示した。アメリカによる「航海の自由」作戦に反発して、中国は実力で阻止する構えだ。他方、ハーグの判断を中国に強制することができない限り、南シナ海の周辺諸国と中国との紛争はエスカレートするだろう。ASEAN諸国は、ルールによる国際秩序、紛争の軍事化を回避すること、航海の自由、を主張している。アメリカの姿勢が問われるだろう。


l  大学というビジネス

FP FEBRUARY 17, 2016

How to Get Tenure

BY STEPHEN M. WALT

主要大学でテニュア(終身在職権)を得るには何をするべきか?

1.大学は、あなたの成果よりも、今後の成長の可能性に賭ける。

FT February 18, 2016

Running a university is not like selling baked beans

Martin Wolf

イギリスは、アメリカやヨーロッパに比べて、圧倒的に多くの優れた大学を育てている。しかし、新しい政府の報告書は、大学に競争を導入し、民間ビジネスを導入することで、その潜在能力をさらに発揮させる、と唱えている。

高等教育機関の経営にとって、民間ビジネスの発想はふさわしいのか? それは教員と研究者の共同体である。文明の精華であり、単なるビジネスでも、職業訓練所でもない。

大学に競争的な市場は存在しない。学生たちは大学を十分に評価できない。だから彼らは学生なのだ。彼らは大学の評価に頼る。その評価に見合う教育を期待する。だから大学の長期の評価は最も重要になる。

政府による学生への融資や、競争による大学の淘汰は、大学にとって反対の効果を及ぼすかもしれない。金融緩和が納税者に与えた負担や、政府による市場志向の改革を、高等教育機関でも試すことで失敗してはならない。


l  低成長

NYT FEB. 17, 2016

Are We Doomed to Slow Growth?

By ADAM DAVIDSON


l  日本経済のまやかし

FT February 18, 2016

Japan’s vanishing golf courses sum up Abenomics

Henny Sender

日本のゴルフコースは優れた金融指標である。バブルの時代にできたものはメッキが剥げた。

アベノミクスも、効果があったのは円安だけだ。その他の矢は、財政刺激策や構造改革だが、わずかな効果しかない。

円安で得た企業の記録的な利潤を、成長に向けた投資や賃金上昇にするため、政府は企業の改革を進めている。

財政政策では、オリンピック・スタジアムより、老人のために施設を建てなければならない。それは財政赤字を増やし、債務を膨張させる。日銀のインフレ目標は、金融緩和でリスク投資を促しているが、銀行株は下落し、日経平均を下げた。

起業の財テクを非難したはずだ、今では日銀が金融エンジニアリングに頼っている。

FT February 18, 2016

Japan will have to double down on stimulus to save Abenomics

Robin Harding in Tokyo

東京から見て最も望ましいのは、G7による財政刺激策の国際協調である。しかし英米とドイツは支持しないだろう。国内では消費税の引き上げ延期が考えられる。ただし、選挙に際して控除品目に関する公明党との合意をしたことが無駄になる。日銀は追加の緩和策を求められる。


l  グローバルな不平等

Project Syndicate FEB 18, 2016

The Inequality Puzzle

DAMBISA MOYO

YaleGlobal, 18 February 2016

Opportunities, Not Oppression, to Stop Illegal Mining in the Peruvian Amazon

David J.X. Gonzalez

********************************

The Economist February 6th 2016

How to manage the migrant crisis

Europe’s migrant crisis: Forming an orderly queue

Interest rates: Negative creep

Ted Cruz: The man in the ostrich-skin boots

Mining in Latin America: From conflict to co-operation

Special report Turkey: Erdogan’s new sultanate

Call centres: The end of the line

HSBC: London v Hong Kong: East is Eden

Finland’s economic winter: Permafrost

Free exchange: Trade in the balance

(コメント) ヨーロッパの移民・難民危機について、いよいよ欧州移民準備基金と連邦移民管理局が創設されるかもしれません。それは将来、国際移民システムに向かうのでしょう。

アメリカ大統領候補者の共和党予備選挙に現れたテッド・クルーズとは何者か? トルコの改革を推進し、大きな成果を上げながら、独裁者への誘惑に導かれるエルドアンとは何者か?

富裕諸国の金融ビジネスとマイナス金利、ラテンアメリカの国際鉱山行と政府の関係、フィリピンを変革したコール・センターとAIやロボットとの戦い、香港上海銀行はどの国家に属するのか?

グローバリゼーションにおけるユーロ圏に入ったフィンランドの経済苦境や、エコノミストたちの説く「貿易の利益」が現実に合わないことについて、考えねばならないことがあります。

******************************

IPEの想像力 2/22/16

大学に入ったばかりの1回生に向けて、私は本を紹介したいです。きっと学ぶ意欲に燃えているから,読みやすい,分厚い本がよいでしょう.

トニー・ブレア『ブレア回顧録』、ティモシー・ガイトナー『ガイトナー回顧録』、そして、トーマス・フリードマン、マイケル・マンデルバウム『かつての超大国アメリカ』です。

****

私たちは十分な,深い相互依存関係と,危機の経験,そして次の危機への不安を共有しています.歴史家たちは,おそらく,金融政策への過度の依存と,国内政治を制約する国際関係の悪化が,歴史的な大戦争への条件であった,と議論するでしょう.

ロイター通信のコラムで「通貨安競争、伊勢志摩合意で終止符を=河野龍太郎」を読みました.優れた考察だと思います.

量的緩和やマイナス金利という金融緩和策は,政治的決断や行動が遅れることに対して,デフレや不況を回避する責任を中央銀行が引き受け,非伝統的な領域に踏み込んだ論争的(緊急)手段です.金融秩序や市場の安定性を損なう,という懸念が強まっています.

「伊勢志摩合意(安倍合意)」とは,次の4つの協調ルールを意味します.1.米連邦準備理事会(FRB)が、国内のインフレが高まらない限り、利上げを中断する.2.日銀とECBは追加緩和を自制し、ある程度の通貨高を甘受する.3.中国は、こうした日米欧からのサポートを得た上で、対ドルでの人民元の大幅切り下げを回避し、資本規制の強化も検討する.4.信認に足る長期的な財政再建と、当面の景気減速を和らげるため、財政に比較的余裕のある国から、ある程度の景気刺激策を講じる.

河野氏は,これらの合意を世界金融危機後の処理コストに関する分担合意である,と考えます.これは,ケインズ主義の国際的なルールを再生するものでしょう.危機後の債務処理と,市場需給を反映した供給条件の調整を促し,新しい金融不安やデフレ・不況を回避して,成長に向けた円滑な移行を協力して実現します.

中国を含む主要経済(通貨)圏によるG4が,政策の目標として合意を明文化することには,市場型の協調として,それ自体に重要な意味があります.さらに河野氏は,覇権国・準覇権国は極端な金融政策を自制する,新興国も完全フロート制に向けて為替レートの柔軟化を進める,と唱えています.

Damiano Sandri, “How to resolve a systemic sovereign debt crisis,” VOX 17 February 2016にも共感しました.それは,国際金融システムで重要な地位を占める諸国の債務危機(銀行危機)について,1.その国の財政緊縮策,2.民間債権者(銀行)のコスト分担,3.国際機関を介した財政移転,という3つのバランスを最適化するルールに,あらかじめ合意しておくことで,危機の波及(伝染)を回避し,モラルハザードも抑えることができる,という主張です.

周知のように,国際協調のルールや集団行動は,合意を実行するより,破壊するほうが容易です.たとえば,ロシアが債務危機に陥る場合,国際社会は(制裁ではなく)財政移転によってコストを分担するでしょうか? 中国と近隣諸国が南シナ海で深刻な軍事衝突に至るとき,G4合意は守られると市場が信じるでしょうか?

最後に,新しい国際マクロ政策協調の可能性は,シリア内戦と南シナ海をどうするのか,という問題に国際的な合意を見いだす政治指導者たちの能力と切り離せません.G4サミットで合意する条件に向けて,安倍政権の能力が問われます.

****

脱原発を実行し、ユーロ危機、ウクライナ危機、難民危機を経て、フランスやポーランドだけでなく、ロシアやトルコとの関係を維持しなければならなかったメルケルの時代も、ブレアやガイトナーが味わったような苦渋を残して、もうすぐ終わるのでしょう。『メルケル回顧録』を読みたいです。

******************************