IPEの果樹園2016

今週のReview

2/15-20

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EUの民主主義 ・・・経済学の診断 ・・・帝国の崩壊と難民 ・・・マイナス金利 ・・・中国の示す脅威 ・・・トランプとブルームバーグ ・・・世界経済の不安 ・・・シリア和平とアレッポ

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  EUの民主主義

The Guardian, Friday 5 February 2016

The EU no longer serves the people – democracy demands a new beginning

Yanis Varoufakis

EUはカルテルだ。イギリスがEU離脱を選択するのも無理はない。そこには民主主義がないからだ。

正常な国家は、イギリスのように、敵対する集団や階級間の紛争を抑える政治メカニズムとして、何世紀にもわたって進化したものだ(すなわち、国王、貴族、大商人、労働組合、など)。しかし、EUは、そしてそのブラッセルにある官僚制は、こうしてできたものではない。

EUは重工業のカルテルとして誕生した。石炭と鉄鋼。自動車。その後、農業団体。ハイテク産業、など。すべてのカルテルがそうであるように、価格を操作して、得られた利益をブラッセルの官僚制が分配した。

ヨーロッパのカルテルと官僚制は民衆demosを恐れ、石油生産者のカルテルであるOPECや、ほとんどすべての企業がそうであるように、民衆による政府という考えを軽蔑した。意思決定を非政治化することで、「民主主義」から「民衆」を締め出した。すべてンオ政策決定過程が似非官僚的な宿命論に支配されるようになった。各国の政治家たちは、EUの委員会や閣僚会議、Ecofin(財務相会議)、ユーログループ、ECBなど、政治や民主主義を排除した圏域に参加することで利益を受けた。その過程に反対するものは「非ヨーロッパ的だ」という非難を受け、耳障りな不協和音として扱われた。

イギリス人の多くが本能的にEUから逃れようとするのは、重要な意味で、ここに深い理由がある。その直感は正しい。政治的決定を非政治化した代償は、EUレベルにおける民主主義の敗北だけでなく、EU全体に及ぶ経済政策の貧しい成果となっているからだ。

しかし、EUにとどまるのも、単一市場だけ残してEUから離脱するのも、正しい答えではない。真の単一市場には、単一の法制度、単一の産業規制、単一の労働基準や環境保護、それらを強制する単一の法廷、がなければならない。したがって、単一市場の法律を定める共通の議会、法廷の決定を実行する官僚たちが必要だ。

ヨーロッパの政策決定を民主化するためには、意思決定を透明化して、EUの諸機関が債務危機や銀行規制、投資不足、貧困の増大、移民に対処させることだ。ヨーロッパの主権を備えた議会が、国民的な自治を尊重し、各国議会の権限を共有し、地域的な協議会や市町村議会を繁栄しなければならない。

それはユートピアであり、実現できないのだろうか? しかし、このまま非民主的なEUが生き残ると考えることも楽観的過ぎるだろう。それは絶望的なディストピアだ。キャメロン首相は、東欧からの社会福祉を求める移民に対して給付を拒んだ。再国民国家化が要求される。外国人への排斥も起きている。新しい、さらに高い壁が築かれていく。安全保障のために。


l  経済学の診断

The Guardian, Friday 5 February 2016

When economists ignore the human factor, we all pay the price

Timothy Garton Ash

経済学会のメンバーの多くは,物理学に羨望する.物理学のような正確さと予測可能性を経済学も得たい,と思うのだ.しかし,経済学は物理学のようなハード・サイエンス(自然科学)ではない.経済学が正しい判断を示すのは,それが文化や,歴史,地理,制度,個人や集団の心理,すべてを正しく考慮するときだ.J.M.ケインズは,エコノミストが「ある程度まで数学者,歴史家,政治家,哲学者であるべきだ」と書いた.

数年前,マンチェスター大学は経済学の学生にマニフェストを発表した.そこに示されたアプローチとは,経済現象から始めて,学生たちは与えられた道具箱を使い,異なる学派perspectivesがどこまで減少を説明できるか,評価する,という.非現実的な仮定に基づく数理モデルを学ぶのではない.

Charlie Mungerは,Berkshire HathawayWarren Buffettのパートナーであった投資家であるが,2003年,金融危機の前の講演で述べていた.Berkshireの業績は効率的市場仮説を全く相手にすることなく達成された,と.企業財務に効率的市場の考えを適用するのは,経済学でやる以上にばかげている,とも述べた.

私たちはエコノミストの話を聴くとき,医者に診てもらうのと同じように聴くべきだ.それは科学の要素を含む.特に医薬品に関しては,経済学よりも多く含む.しかし医薬品の研究それ自体は,私たちの健康の多くが他の要素,特に心理的な要素や,まだよくわかっていない要素にも関係していることを示している.エコノミストたちも医者と同じである.

FT February 7, 2016

No free lunches but plenty of cheap ones

Larry Summers

トレードオフは経済学の考え方の中心にあり続けてきた。「フリーランチはない」という警句が、経済学の核心を示すものだった。多くのトレードオフがある。ガンとバター(軍備と福祉)。政府と民間。効率性と公平性。質と量(費用)。短期業績と長期成果。

エコノミストは、政策決定に際して、競合する目的の間で選択することを重視した。トレードオフ経済学は、政治の行き詰まりを説明する。あらゆる変革には勝者と敗者がともない、民主主義の保証は誰もが拒否権を持つことになるとしたら、変化はほとんど生じない。

しかし、私はますます、「ノー・フリーランチ」命題が過度の単純化である、と信じるようになった。そして経済学を過度に陰鬱な学問にしている、と。最近の経験から見て、インセンティブを改善し、戦略的に投資することで、われわれは競合する諸目的を、従来考えられていた以上に、大きく達成できるのだ。

たとえば、アメリカの社会保障制度を考える。従来は、費用、量、質がトレードオフである、と考えていた。しかし2010年、the Affordable Care Actが成立してから、給付の範囲は拡大し、費用はGDPの増大に比例するようになり、大幅な節約を実現している。その理由は完全にわかっていないが、成功例を増やす新しいアプローチが重要な役割を果たしたと言える。

同様に、ホスピス型の終末医療を認めたことは、治療よりも患者の満足を重視し、患者の生活を改善しつつコストを抑えた。しかも、それが余命も延長している。また再分配は経済成長を損なう、と言われてきた。確かに増税は誘因を損なうが、事態はもっと複雑だ。反独占や規制の強化は、教育の機会や金融危機の抑制に関係しており、経済パフォーマンスを改善し、消費者を助けて公平性を高める。

需要不足の経済では、税の累進性を高めることで、公平の達成と遊休資源の完全雇用を促すことができる。公平性と効率性とは、トレードオフではなく、適切な政策によって両方を改善できるのだ。

公共政策だけでなく、同じことが民間企業にも言える。ヘンリー・フォードは5ドルの日給を支払う ことで、労働者の生活を改善し、利潤を増やした。最近、その例にAetna, Walmartなどの企業が従った。社会的責任を果たすことで労働者や顧客への魅力を増す、と多くの企業は報告している。

トレードオフは、制約ではなく挑戦である、とみなすべきだ。それを発見する意志のある者にとって、多くの安いランチはある。経済学もその探索に役立つべきだ。そうすれば、もっと楽しい学問になれる。


l  帝国の崩壊と難民

NYT FEB. 8, 2016

Will Germany Give Up on Integration?

Ivan Krastev

EUの境界線に向かう数百万の人々を見れば,移民こそ最高の革命だ,と分かる.それは個人にとっての革命だ.EU20世紀のユートピアよりも魅力的であり,しかし,それは存在している.

しかし,その様子が変わってきた.移民たちの革命がヨーロッパにおいて反革命を勃発させかねなする多くの難民たちを,この国は統合できるのか? 最近まで,EUの自信と回復力を表すシンボルであったメルケル首相が,今ではゴルバチョフのような人物,高貴であるが無邪気な,「私たちにはできる」という政策によってヨーロッパを危機に導いた者とみられている.

過去25年間,ドイツはEUの東に向けた拡大を最も強く支持した国であった.そこにはベルリンの経済的・地政学的な利害が反映されていた.ドイツは東欧の最大の貿易相手国であり,投資国である.しかし,それだけで現在の危機は克服できないだろう.難民を統合し,東欧を統合する.もしベルリンがそれをあきらめたら,戦後の統合過程は事実上終わるのだ.

ソ連やユーゴスラビアが示したように,戦争がなくても,辺境における帝国の崩壊は中枢における革命によって終わるしかない.


l  マイナス金利

Project Syndicate FEB 9, 2016

The Negative Rates Club

DANIEL GROS

2008年以来、各地の中央銀行はグローバルなデフレ圧力に対抗し、アメリカ連銀はゼロ金利政策を維持している。イングランド銀行、日銀、ECBも、連銀のQEに追随したが、インフレ率は上昇していない。

今や、連銀は金利を引き上げ、ECBと日銀は金融緩和を強めている。こうした金融政策の乖離を説明するものは何か?

簡単な答えは、債務である。アメリカとイギリスは経常収支の赤字を出しており、日本とユーロ圏は黒字である。マイナス金利は債務者に有利で、債権者には不利であるから、英米の景気回復は早く、ユーロ圏と日本の景気にはほとんど刺激効果がない。

ある条件では、金利の低下が貯蓄を増やす。例えば、退職後の生活を貯蓄に頼る者は、一定の貯蓄額を目指して支出を減らすだろう。閉鎖経済では債務者と債権者の損得が相殺される。しかし開放経済では、対外資産を蓄積した経済では資産の方が多い。そして、マイナス金利の効果は弱い。それは国による金融政策の差に表れている。

石油価格の下落は、産油諸国や新興市場経済、そして工業諸国で異なった問題を生じる。工業諸国は、デフレに加えて、経常赤字の減少、もしくは、黒字の増加が生じる。ドイツの経常黒字はますます増大し、ユーロ圏内の不均衡増大が問題になる。

中央銀行は独立性を確保し、長期的な目標を我慢強く追求するものと前提されている。しかし完全雇用には遠く、中央銀行が低インフレに満足することはむつかしい。ただし、QEを拡大することは答にならないだろう。


l  中国の示す脅威

Project Syndicate FEB 9, 2016

China’s Exchange-Rate Trap

BARRY EICHENGREEN

中国の政策を批判するのは簡単だが、建設的なアドヴァイスをするのはむつかしい。中国政府には、もはや良い選択肢がないからだ。

明らかに、中国はより完全な変動レート制を採用することで、一方的な投機を撃退できるし、経済的なショックを吸収できるだろう。しかし、「出口戦略」と呼べるようなもの、すなわち、ペッグ制からより完全な変動レート制に移行する方法について、中国政府が円滑にこの過程を管理できる時期は過ぎ去ったのだ。

そのためには経済に対する信認があり、為替レートの弾力性を増すことは増価も減価も起きる、という核心を強めるものでなければならない。かつて、そのような時期もあったが、今は無理だ。

では、最もましな選択肢は何か? 通貨当局は、人民元を複数の通貨のバスケットに固定することを考えている。そして、経済の再編やバランスの回復を促すのだ。しかし、最近の政策失敗の後では、投資家たちが政府を信用しない。すでに毎月の資本流出は1000億ドルに達している。3兆ドルの外貨準備をあてにはできない。

2の選択肢は、人民元の為替レートの変動幅を拡大することだ。例えば、毎月の為替レート変動を複数通貨による参考レートから1%まで許す。その減価によって競争力を高め、過大評価という懸念を排除できる。しかし、世界の需要が減退しているとき、1%の減価が輸出を伸ばすとは思えない。むしろ、一層の減価を予想した資本流出を刺激する。

3の選択肢としては、一気に、たとえば25%の切下げを行うことがある。この政策を支持するには、これによって次の切下げはないと考え、政府が繰り返し切り下げないと言い続けたことに市場は影響されないと考え、すでに苦境にある中国企業が1兆ドルに及ぶ外貨建て債務の返済を苦にせず、中国と市場で競争する諸国が人民元の大幅切り下げによる破滅的な衝撃を最小化できる、と考えるしかない。

こうした選択肢を排除すると、資本規制を強化すること、しか残らない。しかし、それは中国が推進してきた人民元の国際化に反するし、SDRを構成する通貨に加えたIMFの決定にも逆行する。資本規制の強化は国内の改革を延期させる。それが長引けば、為替危機は成長を破壊するだろう。


l  トランプとブルームバーグ

FT February 8, 2016

Trump, Sanders and American rage

Gideon Rachman

トランプの演説は非常に退屈で、支持者の中からも早く帰る者がいた。とても独裁者にはなれない。雄弁家ではないし、欠陥の多い人物であるが、トランプが何か月も共和党の大統領候補者争いを支配してきたのは、それほど有権者の間にアメリカ政治のエスタブリッシュメントに対する不満が強いからだ。

多くのアメリカ人は、政治システムがあまりにも腐敗し、機能しなくなっているから、完全なアウトサイダーだけがこれを変革できる、と考えている。プリマスでトランプの支持者の集まりを訪れたとき、そこで会った男性は、裕福そうな弁護士だったが、トランプに投票しないとしたらサンダースに投票する、と語った。

トランプとサンダースは、腐敗した既得権集団やロビイストに金を無心するすべての主流派政治家を攻撃する。トランプは億万長者であるから自分の金で選挙ができるし、サンダースは小さな寄付金を集めた選挙を行い、クリントンのようにゴールドマンサックスから大金を得ているのではない、という理由で有権者は好感を持つ。彼らはこれまでのアメリカ政治の常識を破って、明確な人種差別的言葉を吐き、あるいは、「民主的な社会主義者」を自称する。

アメリカの政治家階級は、漸く、大衆に広がる反エスタブリッシュメントのムードがどれほど強いか、理解し始めた。そして、民主党と共和党だけで政治システムを支配し、他の政治的な党派を拒否してきたアメリカが変わるとき、その政治的安定性によって経済成長やグローバルな権力を高めてきた国民は消滅する。過激な主張に対する免疫を失ったアメリカがもたらす結果を、世界は知るだろう。

NYT FEB. 9, 2016

Is the Era of Big-Program Liberalism Over?

By MARK SCHMITT

バーニー・サンダースの政府に関する理論は非常に伝統的なものである。それはニュー・ディールにさかのぼる。

サンダースのリベラリズムのエッセンスは政府プログラムである。ハーヴァード大学の政治社会学者Theda Skocpolは、それを「階級を超えた幅広い有権者」に利益をもたらす拡大的プログラム、と呼ぶ。それらは市民たちに、治安や雇用機会を提供する政府の本質的な役割を再認識させる。

国民皆保険制度や大学授業料無料化、企業負担による出産・育児休暇など、個人と政府とをつなぐ普遍的な関係を再建するものだ。こうした政策は、階級対立や政策による勝者と敗者との違いを回避する。それは、オバマ政権や、それを継承するヒラリー・クリントンの、議会による立法化を必要とする大きなプログラムとは対照的である。既存のプログラムや規制を変え、州政府の誘因を変えることで、政府の限界を試すものだ。

サンダースの約束する「政治革命」が成功すれば、大規模なプログラムではなく、複雑な、漸進的な、しばしば目に見えない変化を通じて、将来の社会・経済政策が実現する。コーネル大学の政治学者Suzanne Mettlerはこれを、波の下に「国家を潜水させる」、と称する。政治家たちは、議会の対立が立法化を困難にする中で、こうした改革が大きな変化をもたらすと期待するしかないのだ。

FT February 11, 2016

America is burning but Michael Bloomberg can put out the fire

William Ackman

何十年も経営の失敗を経てきた世界的な大企業を考える。成長はせいぜいわずかなもので、債務の増大によって維持している。組織もインフラも時代遅れで、国際競争に敗れ、市場シェアを奪われている。経営者は辞任し、株主たちは新しい指導力を期待している。

そのような指導者とは、典型的に、知性、独立心、そして成功した経歴を持っている人物だ。才能ある人々を登用し、細部を理解したうえで権限を与え、交渉し、妥協できなければならない。指導者は雇用する者たち、経営陣、株主たちから尊敬される必要がある。

911後のニューヨークはそのような指導者を必要とした。ブルームバーグMichael Bloombergが、200211日、市長に就任したとき、ニューヨークは燃えていた。その経済は破滅しており、財政はその影響をまともに受けていた。ニューヨーカーたちは怯え、鬱状態にあった。

しかし、わずか数年で、ブルームバーグは数万の雇用をもたらし、60億ドルの赤字を数十億ドルの黒字に転換した。ニューヨークは世界でも最も安全な都市の1つになった。開発を促し、公共教育やインフラを改善し、公園の美化やカーボン・フットプリントの削減で、市民の健康を改善した。


l  世界経済の不安

Project Syndicate FEB 8, 2016

What’s Holding Back the World Economy?

JOSEPH E. STIGLITZ and HAMID RASHID

世界金融危機から7年経ったが、世界経済は回復していない。開発経済諸国の平均成長率は危機以降に54%も下がった。4400万人が失業しているが、危機前の2007年と比べて1200万人多い。インフレ率は危機以来の最低水準だ。

さらに懸念されるのは、先進諸国の成長率が浮動性を高めていることだ。資本取引の完全な自由による国際的なリスク分散で、マクロ経済の浮動性は減るはずだ。失業手当などの社会給付もあり、家計は消費水準を安定化できる。

しかし、財政再建と量的緩和QEという政策は、消費や投資、成長は刺激されず、むしろ事態を悪化させた。

QEはゼロに近い金利によって、インフラ、教育、社会的部門に投資を増やすことが期待された。しかし、政府は債務の削減を図っている。また民間投資も、2008年以降は減少したままだ。増えたのは非金融部門の社債であるが、それは投資ではなく、自社株などの買い戻しに使われている。QEは企業のレバレッジ増大、時価総額の増大を刺激し、金融部門の利益を増やした。

QEは実体経済を回復するより、リスクなしの利益や、金融的な投機を刺激している。連銀はむしろ、銀行の保有する過剰準備にペナルティーを科すべきだ。

また、超低金利は発展途上諸国や新興諸国の経済運営に大きな負担となっていた。発展途上諸国への資本流入は20082000億ドルから20106000億ドルに変化したように、莫大な資本流入を吸収する金融市場がなく、また、2006年以来6150億ドルという急激な資本流出にも対応できない。その投資はインフラなどの固定資本ではなく、資産バブルを生じるものである。


l  シリア和平とアレッポ

NYT FEB. 8, 2016

America’s Syrian Shame

Roger Cohen

プーチンのシリア政策は非常に明確だ。反政府勢力が支配するアレッポを包囲し、何万ものシリア難民をトルコ国境に追い出している。

プーチンは、シリア領土の有益な部分を支配して野蛮なアサド政権を強化している。穏健な反政府派を爆撃して降伏させ、西側が煽動するいかなる体制転換も許さず、ジュネーブの外交交渉を利用して地上の戦闘で現実を変える言い訳にする。目標の5番目か6番目に、シリア軍を強化してイスラム国家と対抗できる日が来るかもしれない、というだけだ。

問題は、このプーチンのシリア政策がオバマの政策と区別できないことだ。

もちろん、オバマは今もアサド政権を非難し、アサドが政治的な移行過程を生き延びるとは考えていない。しかし、それはしょせん言葉だけで、オバマは何もしない。

450万もの難民を出しているシリア最大の町,アレッポは,サラエボであり,ミュンヘンだ.彼らはプーチンの気まぐれに振り回され,アサドの無慈悲な復活に苦しむ.それはオバマ政権がシリアに関する無益で無為な5年間を送ったからだ.

大統領とその顧問たちは,さまざまな言い訳の背後に隠れている.すなわち,シリアはアメリカの重大な国益ではない.軍事介入が事態を改善するより悪化させるリスクがある.現地の様々な勢力はいずれも分裂状態で,信頼できない.戦争状態を終わらせるために行動することを議会は支持しない.「安全地帯」を建設し,あるいは,アサドの空軍を破壊する法的な根拠がない.アフガニスタンやイラクの教訓を学ぶべきだ.シリアはロシアのアフガニスタンになり,スンニ派の恨みを買う.アメリカの弱腰を世界にさらしても,中東で新しい戦争を始めてはならない.

こうして,アメリカのシリア政策はプーチンにアウトソーシングされた.モスクワの戦争終結を支持するしかない.もし幸運にもプーチンがISISをたたけば,アメリカは何もしなくて済む.

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The Economist January 30th 2016

America’s primary elections: Outsiders’ chance

Walmart and low-wage America: High expectations

Charlemagne: Value shoppers

Free exchange: The Italian jobs

(コメント) アメリカの大統領候補者を決める各党の予備選挙では,政治のアウトサイダーがシステムの改革に向けたメッセージとして支持されています.他方で,メルケルが政策による安定化において深刻な危機に陥ったのはなぜか? ドイツのリアリズムが注目されます.

ウォルマートが賃金を上げて,かつてのようにフォード主義を実践するのか? イタリアの若い首相は,労働市場に大胆な改革を行うのか?

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IPEの想像力 2/15/16

Yanis VaroufakisTimothy Garton Ashの記事を紹介しながら,こんな風に考えました.

「経済学は科学か?

平均的な市民や,合理的に自分の満足を比較できる計算機のような人間を仮定することは,理論化の手続きとして採用される「寓話」です.

しかし,観察されたデータからさまざまな変化を関連付け、それを説明する仮説を検証し、効果的な政策や制度改革の参考基準にする、という意味で、経済学は科学になる、という考えがあります。

こうした経済学の理想を「凍結された科学」と呼んではどうでしょうか?

抽象化されたモデルから、合理的に推論できることを、客観的なデータの中でも見出すことができる以上、ノイズを排除するとき、長期的には、必ず、モデルが予測することに向かって現実は変化するだろう、という考えもあります。

こうした経済学の理想を「数学・天文学・一般相対性理論への羨望」、もしくは、「ニュートン」と呼んではどうでしょうか?

もし科学であることが「ニュートン」に近づくことであれば、さまざまな経済問題を言葉や記号で「抽象化」して、図解して,「数学化」して、「方程式の解」を得るようにしたとき、その正しさを確立できる(立証した)、と思うわけです。

しかし、私は「凍結された科学」の解凍(解答ではなく)について、疑問を感じます.また「ニュートン」が主張する「正しさ」には反対しました。解凍すれば,色も,形も,味も変わるからです.しかし,処理の手続きが美しければ,それらはデータや数学を用いることで発揮される「真理=心理効果」が生じる、と考えます。

「社会科学や人文学」が対象にする問題や作品には,人間とその意識や行動が関わっています.モデルや仮説を示し,データやノイズを制御しても,善悪や美醜,政策の効果は「価値判断」であり,経済学による「科学」の僭称は,それを正当化するために利用される「イデオロギー」です.

あるいは,市場という集団的な現象が,比較的規則正しく,秩序ある反応を示す時期と,そうした傾向や長期的趨勢が,大きな混乱や突発的な事情によって激しくかく乱され,予想外な影響を一気に拡大する時期とがある,と考えることもあります.前者の時期には,冷凍と解凍,変化の予測は,一定の役割を果たします.ただし,後者を無視する,という原罪をともないます.

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金融危機や,移民・難民危機,内戦や貧富の格差による著しい不平等,差別など,技術革新やブーム,フロンティア,社会の再建,豊かさへの参加,さまざまな制度化された条件が生き方に影響します.

国際政治経済学IPEは、物理学や天文学を理想としていません。政治学や経済学から学ぶことが多いのは当然ですが、もっとも理想となるモデルは、むしろ文学でしょう。

「あるとき、小さな町で、一人の少年が少女に出会う。少年は運命的な恋に落ちる。しかし20年後、その町から遠く離れた異国の戦場で、彼は死亡する。少女の行方はわからない。」

この20年間を説明するために、私たちはさまざまな物語を書くことができます。彼の生きた時代について、社会意識・制度や政治の変化、経済状態、重要な事件について、具体的に描くには,くわしく調査しなければなりません。彼が生まれた年や国・町を決め,その時代の精神や指導者の演説,深刻な危機とそれへの社会の反応などを,作家は細部まで描くでしょう.彼が育ったのは,どのような社会であったか?

なぜ彼のことを書くのか? 後の指導者であるから? 重大な事件に関与した? 同じ背景を,同じ年,同じ町に生まれた多くの子どもたちが共有しています.しかし,彼や彼女の結末はそれぞれ異なり,どの1つも正解ではありません.<正解>は無いのです.

現実の「真理」は,社会や意識,時代,彼らが共有した問題,恐れや願い,などと切り離せません.それ以外の寓話的な「真理」は,議論を刺激することで社会を想像するための仕掛けです.

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