前半から続く)


l  トランプとブルームバーグ

Bloomberg FEB 6, 2016

Democratic Party Is Pushing Away Its Future

By Leonid Bershidsky

FT February 8, 2016

Trump, Sanders and American rage

Gideon Rachman

トランプの演説は非常に退屈で、支持者の中からも早く帰る者がいた。とても独裁者にはなれない。雄弁家ではないし、欠陥の多い人物であるが、トランプが何か月も共和党の大統領候補者争いを支配してきたのは、それほど有権者の間にアメリカ政治のエスタブリッシュメントに対する不満が強いからだ。

多くのアメリカ人は、政治システムがあまりにも腐敗し、機能しなくなっているから、完全なアウトサイダーだけがこれを変革できる、と考えている。プリマスでトランプの支持者の集まりを訪れたとき、そこで会った男性は、裕福そうな弁護士だったが、トランプに投票しないとしたらサンダースに投票する、と語った。

トランプとサンダースは、腐敗した既得権集団やロビイストに金を無心するすべての主流派政治家を攻撃する。トランプは億万長者であるから自分の金で選挙ができるし、サンダースは小さな寄付金を集めた選挙を行い、クリントンのようにゴールドマンサックスから大金を得ているのではない、という理由で有権者は好感を持つ。彼らはこれまでのアメリカ政治の常識を破って、明確な人種差別的言葉を吐き、あるいは、「民主的な社会主義者」を自称する。

アメリカの政治家階級は、漸く、大衆に広がる反エスタブリッシュメントのムードがどれほど強いか、理解し始めた。そして、民主党と共和党だけで政治システムを支配し、他の政治的な党派を拒否してきたアメリカが変わるとき、その政治的安定性によって経済成長やグローバルな権力を高めてきた国民は消滅する。過激な主張に対する免疫を失ったアメリカがもたらす結果を、世界は知るだろう。

FT February 8, 2016

Ted Cruz’s message stays strong in New Hampshire

Sebastian Payne

Project Syndicate FEB 9, 2016

An Unhinged Democracy in America

IAN BURUMA

The Guardian, Wednesday 10 February 2016

The Guardian view on the New Hampshire primaries: taking an outside chance

Editorial

NYT FEB. 9, 2016

Is the Era of Big-Program Liberalism Over?

By MARK SCHMITT

バーニー・サンダースの政府に関する理論は非常に伝統的なものである。それはニュー・ディールにさかのぼる。

サンダースのリベラリズムのエッセンスは政府プログラムである。ハーヴァード大学の政治社会学者Theda Skocpolは、それを「階級を超えた幅広い有権者」に利益をもたらす拡大的プログラム、と呼ぶ。それらは市民たちに、治安や雇用機会を提供する政府の本質的な役割を再認識させる。

国民皆保険制度や大学授業料無料化、企業負担による出産・育児休暇など、個人と政府とをつなぐ普遍的な関係を再建するものだ。こうした政策は、階級対立や政策による勝者と敗者との違いを回避する。それは、オバマ政権や、それを継承するヒラリー・クリントンの、議会による立法化を必要とする大きなプログラムとは対照的である。既存のプログラムや規制を変え、州政府の誘因を変えることで、政府の限界を試すものだ。

サンダースの約束する「政治革命」が成功すれば、大規模なプログラムではなく、複雑な、漸進的な、しばしば目に見えない変化を通じて、将来の社会・経済政策が実現する。コーネル大学の政治学者Suzanne Mettlerはこれを、波の下に「国家を潜水させる」、と称する。政治家たちは、議会の対立が立法化を困難にする中で、こうした改革が大きな変化をもたらすと期待するしかないのだ。

FP FEBRUARY 9, 2016

The Five Biggest Surprises of the New Hampshire Primary

BY MOLLY O’TOOLE

NYT FEB. 10, 2016

Marco Rubio Is Robotic, but Not Out of It

By NICOLLE WALLACE

FT February 11, 2016

America is burning but Michael Bloomberg can put out the fire

William Ackman

何十年も経営の失敗を経てきた世界的な大企業を考える。成長はせいぜいわずかなもので、債務の増大によって維持している。組織もインフラも時代遅れで、国際競争に敗れ、市場シェアを奪われている。経営者は辞任し、株主たちは新しい指導力を期待している。

そのような指導者とは、典型的に、知性、独立心、そして成功した経歴を持っている人物だ。才能ある人々を登用し、細部を理解したうえで権限を与え、交渉し、妥協できなければならない。指導者は雇用する者たち、経営陣、株主たちから尊敬される必要がある。

911後のニューヨークはそのような指導者を必要とした。ブルームバーグMichael Bloombergが、200211日、市長に就任したとき、ニューヨークは燃えていた。その経済は破滅しており、財政はその影響をまともに受けていた。ニューヨーカーたちは怯え、鬱状態にあった。

しかし、わずか数年で、ブルームバーグは数万の雇用をもたらし、60億ドルの赤字を数十億ドルの黒字に転換した。ニューヨークは世界でも最も安全な都市の1つになった。開発を促し、公共教育やインフラを改善し、公園の美化やカーボン・フットプリントの削減で、市民の健康を改善した。

今、アメリカが燃えている。政府は無駄遣いと機能マヒを続けている。公的債務がGDPを超えている。橋、道路、空港、トンネルはぼろぼろだ。学校は子供たちを教えられず、中産階級は縮小し、税制は利潤を挙げる企業を海外に追い出してしまう。移民法のせいで優れた科学者や経営者が競争する他国に向かい、分裂状態の規制では、詐欺や犯罪、汚染、権力の乱用から人々を守れず、他方、成長やグローバルな競争力を損なっている。われわれの国際的な地位は低下し、敵対する諸国はわれわれの主張を真剣に聞かず、軍事的な優位も脅かされている。アメリカン・ドリームは色あせた。

希望があるとしたら、そのカギは正しい指導者を選ぶことだ。ブルームバーグが大統領選挙に参加する可能性を語ったことは、そのような候補が現れたと言える。彼はニューヨーク市長を12年間務め、そばらしい成果を示した。外交政策にも知識を広め、優れた国際慈善活動を行ってきた。プラグマティックで、イデオロギーにこだわらず、だれとでもやっていける。再選や、政党や、大口の政治献金提供者に気を使うことなく、事実だけに依拠して、困難な決断をするだろう。

ブルームバーグは、民主党や共和党の候補ではなく、独立候補になるだろう。それでは勝てないと言うが、アメリカ人の43%がどちらの政党も支持していない。これまでの独立候補は、ブルームバーグほどの業績と金融資産を持っていなかった。

もし共和党のトランプかクルーズ、民主党のクリントンかサンダースと、ブルームバーグが3人で争い、だれも過半数を得られないとき、アメリカ憲法は下院が3人の候補の中から大統領を決めることを認めている。そのとき、共和党が多数を支配する下院は、必ずブルームバーグを選ぶだろう。

火事を消し止めて、アメリカの偉大さを再建するときだ。

NYT FEB. 11, 2016

The G.O.P. Created Donald Trump

Nicholas Kristof


l  難民危機

The Guardian, Sunday 7 February 2016

To help real refugees, be firm with economic migrants

Nick Cohen

FT February 8, 2016

Help refugees into work to solve the integration problem

Scott McDonald

FT February 8, 2016

US immigration: Workers wanted

Gary Silverman

FT February 9, 2016

We should engage with xenophobes, not silence them

Risto Penttila

SPIEGEL ONLINE 02/09/2016

Closing the Balkan Route

Will Greece Become a Refugee Bottleneck?

By Giorgos Christides, Juliane von Mittelstaedt, Peter Müller and Maximilian Popp

FP FEBRUARY 10, 2016

The Death of the Most Generous Nation on Earth

BY JAMES TRAUB


l  世界経済の不安

Project Syndicate FEB 8, 2016

What’s Holding Back the World Economy?

JOSEPH E. STIGLITZ and HAMID RASHID

世界金融危機から7年経ったが、世界経済は回復していない。開発経済諸国の平均成長率は危機以降に54%も下がった。4400万人が失業しているが、危機前の2007年と比べて1200万人多い。インフレ率は危機以来の最低水準だ。

さらに懸念されるのは、先進諸国の成長率が浮動性を高めていることだ。資本取引の完全な自由による国際的なリスク分散で、マクロ経済の浮動性は減るはずだ。失業手当などの社会給付もあり、家計は消費水準を安定化できる。

しかし、財政再建と量的緩和QEという政策は、消費や投資、成長は刺激されず、むしろ事態を悪化させた。

アメリカでQEが消費や投資を増やさない理由の1つは、追加された流動性の多くが中央銀行の金庫に過剰準備として眠っているからだ。連銀は、The Financial Services Regulatory Relief Act of 2006により、こうした過剰準備に金利を支払っている。準備額は2000-2008年の平均2000億ドルから2009-2015年の16000億ドルに増えた。金融機関は融資しなくても、まったくリスクのない連銀預金だけで、過去5年間に300億ドルを得ている。

これは連銀から金融部門への、あまりにも寛大な、概ね隠された補助金である。先月の金利引き上げで、今年の利子は130億ドル増えるだろう。

QEはゼロに近い金利によって、インフラ、教育、社会的部門に投資を増やすことが期待された。しかし、政府は債務の削減を図っている。また民間投資も、2008年以降は減少したままだ。増えたのは非金融部門の社債であるが、それは投資ではなく、自社株などの買い戻しに使われている。QEは企業のレバレッジ増大、時価総額の増大を刺激し、金融部門の利益を増やした。

QEは実体経済を回復するより、リスクなしの利益や、金融的な投機を刺激している。連銀はむしろ、銀行の保有する過剰準備にペナルティーを科すべきだ。

また、超低金利は発展途上諸国や新興諸国の経済運営に大きな負担となっていた。発展途上諸国への資本流入は20082000億ドルから20106000億ドルに変化したように、莫大な資本流入を吸収する金融市場がなく、また、2006年以来6150億ドルという急激な資本流出にも対応できない。その投資はインフラなどの固定資本ではなく、資産バブルを生じるものである。

分配の平等と長期的な思考を促し、効果的な規制と適切な誘因を金融活動に与えるように、市場経済のルールを変えるべきだ。インフラ、教育、技術革新に公共投資を増やし、炭素税を含む環境税を導入し、独占その他の不労所得に対する課税を強化するべきだ。

The Guardian, Tuesday 9 February 2016

The Guardian view on the world economy: don’t drive on winding roads with a steering lock

Editorial

FT February 9, 2016

The global energy landscape beyond the here and now

Spencer Dale

FT February 10, 2016

The two moons pulling the tides of gloom for emerging markets

James Kynge

マイケル・ルイスがThe Big Shortで描いた、アメリカ住宅市場のバブル崩壊と同じものが、再び、新興市場の債券市場で起きるだろう。アメリカ市場には、金融機関を救済するアメリカ連銀という最後の貸し手がいたけれど、新興市場には存在しない。

しかも、連銀などが行った量的緩和QEの結果として、新興市場に資本が流入し、バブル崩壊の悪循環を生じたことがわかる。流入した資本は、ブラジルから、タイやトルコまで、低利融資という抑えきれない浪費や投機への動機を与えた。中国やアフリカでもそれは顕著である。

今や、大規模な資本流出が始まった。

FT February 11, 2016

Rush for havens as market turmoil intensifies

Dan McCrum, Miles Johnson and Richard Milne

Project Syndicate FEB 11, 2016

The Submerging-Market Threat

ANDERS ÅSLUND

新興市場の崩壊は、そのブームが構造改革をともなわなかった結果である。構造改革には腐敗した指導者を退場させる必要があるから、民主主義が重要だ。西側の築くグローバルなガバナンスの基準(民主化、法の支配)や国際機関(IMF)は今も非常に重要である。

西側諸国は、今後、20年は続く新興市場の改革に対して、協力して対処することが重要だ。ロシアに対する制裁、TPPTTIPは、国際協調による規範を示すものだ。中国とロシアの挑戦は、その改革が平和的なものではなく、しかも対外的な攻撃によって国内対立を宥和する姿勢を好む恐れがある。


l  シリア和平とアレッポ

FT February 8, 2016

Aleppo’s agony will test the resolve of Europe

NYT FEB. 8, 2016

America’s Syrian Shame

Roger Cohen

プーチンのシリア政策は非常に明確だ。反政府勢力が支配するアレッポを包囲し、何万ものシリア難民をトルコ国境に追い出している。

プーチンは、シリア領土の有益な部分を支配して野蛮なアサド政権を強化している。穏健な反政府派を爆撃して降伏させ、西側が煽動するいかなる体制転換も許さず、ジュネーブの外交交渉を利用して地上の戦闘で現実を変える言い訳にする。目標の5番目か6番目に、シリア軍を強化してイスラム国家と対抗できる日が来るかもしれない、というだけだ。

問題は、このプーチンのシリア政策がオバマの政策と区別できないことだ。

もちろん、オバマは今もアサド政権を非難し、アサドが政治的な移行過程を生き延びるとは考えていない。しかし、それはしょせん言葉だけで、オバマは何もしない。

450万もの難民を出しているシリア最大の町,アレッポは,サラエボであり,ミュンヘンだ.彼らはプーチンの気まぐれに振り回され,アサドの無慈悲な復活に苦しむ.それはオバマ政権がシリアに関する無益で無為な5年間を送ったからだ.

大統領とその顧問たちは,さまざまな言い訳の背後に隠れている.すなわち,シリアはアメリカの重大な国益ではない.軍事介入が事態を改善するより悪化させるリスクがある.現地の様々な勢力はいずれも分裂状態で,信頼できない.戦争状態を終わらせるために行動することを議会は支持しない.「安全地帯」を建設し,あるいは,アサドの空軍を破壊する法的な根拠がない.アフガニスタンやイラクの教訓を学ぶべきだ.シリアはロシアのアフガニスタンになり,スンニ派の恨みを買う.アメリカの弱腰を世界にさらしても,中東で新しい戦争を始めてはならない.

こうして,アメリカのシリア政策はプーチンにアウトソーシングされた.モスクワの戦争終結を支持するしかない.もし幸運にもプーチンがISISをたたけば,アメリカは何もしなくて済む.

オバマのこうした逡巡と勝手な仮定の話で,パリやカリフォルニアのテロは起きた.EUは難民の大群によって危機を生じている.今や,シリアはオバマ政権の恥辱であり,たとえ国内政策で何か成果を上げたつもりでも,それを圧倒するマイナスが残るだろう.

シリアはアメリカの外交的な信念が滅んだ血まみれの土地となっている.

FT February 9, 2016

Syria’s future lies in its neighbours’ hands

Dmitri Trenin

FT February 10, 2016

Death in Aleppo, victory in Russia, havoc in Europe

Roula Khalaf

NYT FEB. 10, 2016

The Many Mideast Solutions

Thomas L. Friedman

FT February 11, 2016

‘Munich moment’ as Kerry faces narrowing options in Syrian war

Geoff Dyer in Washington

YaleGlobal, 11 February 2016

Russia’s Syrian Intervention Gives the West a Chance to Re-Engage Turkey

Marc Grossman


l  ナイジェリア

FP FEBRUARY 8, 2016

Nigeria Is Coming Apart at the Seams

BY MAX SIOLLUN


l  カナダ

The Guardian, Tuesday 9 February 2016

Trident is too important an issue to be shouted down

Owen Jones


l  南シナ海

YaleGlobal, 9 February 2016

With Tensions Rising, Asia Should Not Delay Settling South China Sea Disputes

Humphrey Hawksley


l  ウルグアイ

NYT FEB. 9, 2016

Uruguay’s Quiet Democratic Miracle

By UKI GOÑI


l  韓国

NYT FEB. 9, 2016

Seoul’s Colonial Boomerang

By SE-WOONG KOO


l  TPP評価をめぐる推定モデル

Project Syndicate FEB 10, 2016

The Trade Numbers Game

DANI RODRIK

TPPを支持するモデルでは,115年後の所得増は,アメリカの0.5%からベトナムの8%まである.しかし,Peter Petri and Michael Plummerのよく似たモデルでは,影響を受ける産業で雇用が顕著に減少する.

TPPの反対派であるJeronim Capaldo of Tufts University and Alex Izurieta of the United Nations Conference on Trade and Development (along with Jomo Kwame Sundaram, a former UN Assistant Secretary-General)モデルは,その2大国家,アメリカと日本で賃金低下,失業増,国民所得の減少を示している.

自由化の効果に関する合意はない.TPPを支持するThe Peterson Institute for International Economicsは,アメリカの賃金を上昇させると主張するが,その雇用を増やす効果は推定できない,という.

問題が,現実の世界が貿易理論家の好むような仮定に合わないことだ.賃金や雇用に輸入財がマイナスの影響を与えるという懸念は,David Autor (MIT), David Dorn (University of Zurich), and Gordon Hanson (UC-San Diego)によって学問的にも支持されている.

エコノミストたちは,なぜ貿易の増大が賃金や雇用にマイナスの影響を及ぼすのか,十分に理解できていない.いずれのモデルも十分に正しいとは言えない.


l  マクロ・プルーデンシャル政策

VOX 10 February 2016

The use and effectiveness of macroprudential policies: New evidence

Eugenio Cerutti, Stijn Claessens, Luc Laeven


l  ブラジル

FP FEBRUARY 10, 2016

The Rot at the Heart of the Brazilian Economy

BY CHRISTOPHER SABATINI


l  北朝鮮の核とミサイル

FP FEBRUARY 10, 2016

‘It’s Time for Another Nixon-in-China Moment’

BY JOHN DELURY, ZHU FENG, SEONG-HYON LEE

FP FEBRUARY 10, 2016

Make Pyongyang Pay

BY SUNG-YOON LEE, JOSHUA STANTON


l  ハイパーインフレ

Bloomberg FEB 10, 2016

Hyperinflation Paranoia Guides the Fed

By Noah Smith

Bloomberg FEB 10, 2016

Venezuela Could Learn From Weimar Hyperinflation

By Stephen Mihm


l  ブレキジット

NYT FEB. 11, 2016

Britain, Better-off Out of Europe

By LOUISE MENSCH

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The Economist January 30th 2016

America’s primary elections: Outsiders’ chance

Walmart and low-wage America: High expectations

Charlemagne: Value shoppers

Free exchange: The Italian jobs

(コメント) アメリカの大統領候補者を決める各党の予備選挙では,政治のアウトサイダーがシステムの改革に向けたメッセージとして支持されています.他方で,メルケルが政策による安定化において深刻な危機に陥ったのはなぜか? ドイツのリアリズムが注目されます.

ウォルマートが賃金を上げて,かつてのようにフォード主義を実践するのか? イタリアの若い首相は,労働市場に大胆な改革を行うのか?

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IPEの想像力 2/15/16

Yanis VaroufakisTimothy Garton Ashの記事を紹介しながら,こんな風に考えました.

「経済学は科学か?

平均的な市民や,合理的に自分の満足を比較できる計算機のような人間を仮定することは,理論化の手続きとして採用される「寓話」です.

しかし,観察されたデータからさまざまな変化を関連付け、それを説明する仮説を検証し、効果的な政策や制度改革の参考基準にする、という意味で、経済学は科学になる、という考えがあります。

こうした経済学の理想を「凍結された科学」と呼んではどうでしょうか?

抽象化されたモデルから、合理的に推論できることを、客観的なデータの中でも見出すことができる以上、ノイズを排除するとき、長期的には、必ず、モデルが予測することに向かって現実は変化するだろう、という考えもあります。

こうした経済学の理想を「数学・天文学・一般相対性理論への羨望」、もしくは、「ニュートン」と呼んではどうでしょうか?

もし科学であることが「ニュートン」に近づくことであれば、さまざまな経済問題を言葉や記号で「抽象化」して、図解して,「数学化」して、「方程式の解」を得るようにしたとき、その正しさを確立できる(立証した)、と思うわけです。

しかし、私は「凍結された科学」の解凍(解答ではなく)について、疑問を感じます.また「ニュートン」が主張する「正しさ」には反対しました。解凍すれば,色も,形も,味も変わるからです.しかし,処理の手続きが美しければ,それらはデータや数学を用いることで発揮される「真理=心理効果」が生じる、と考えます。

「社会科学や人文学」が対象にする問題や作品には,人間とその意識や行動が関わっています.モデルや仮説を示し,データやノイズを制御しても,善悪や美醜,政策の効果は「価値判断」であり,経済学による「科学」の僭称は,それを正当化するために利用される「イデオロギー」です.

あるいは,市場という集団的な現象が,比較的規則正しく,秩序ある反応を示す時期と,そうした傾向や長期的趨勢が,大きな混乱や突発的な事情によって激しくかく乱され,予想外な影響を一気に拡大する時期とがある,と考えることもあります.前者の時期には,冷凍と解凍,変化の予測は,一定の役割を果たします.ただし,後者を無視する,という原罪をともないます.

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金融危機や,移民・難民危機,内戦や貧富の格差による著しい不平等,差別など,技術革新やブーム,フロンティア,社会の再建,豊かさへの参加,さまざまな制度化された条件が生き方に影響します.

国際政治経済学IPEは、物理学や天文学を理想としていません。政治学や経済学から学ぶことが多いのは当然ですが、もっとも理想となるモデルは、むしろ文学でしょう。

「あるとき、小さな町で、一人の少年が少女に出会う。少年は運命的な恋に落ちる。しかし20年後、その町から遠く離れた異国の戦場で、彼は死亡する。少女の行方はわからない。」

この20年間を説明するために、私たちはさまざまな物語を書くことができます。彼の生きた時代について、社会意識・制度や政治の変化、経済状態、重要な事件について、具体的に描くには,くわしく調査しなければなりません。彼が生まれた年や国・町を決め,その時代の精神や指導者の演説,深刻な危機とそれへの社会の反応などを,作家は細部まで描くでしょう.彼が育ったのは,どのような社会であったか?

なぜ彼のことを書くのか? 後の指導者であるから? 重大な事件に関与した? 同じ背景を,同じ年,同じ町に生まれた多くの子どもたちが共有しています.しかし,彼や彼女の結末はそれぞれ異なり,どの1つも正解ではありません.<正解>は無いのです.

現実の「真理」は,社会や意識,時代,彼らが共有した問題,恐れや願い,などと切り離せません.それ以外の寓話的な「真理」は,議論を刺激することで社会を想像するための仕掛けです.

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