IPEの果樹園2016

今週のReview

2/8-13

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グローバル・エリートの依拠する不平等と不安定性 ・・・アメリカ政治における富裕層と差別 ・・・株価の大幅な変動と中央銀行 ・・・金融政策の将来にかかる影 ・・・トランプの大統領候補者争い ・・・難民受け入れの国際政治 ・・・中国の資本流出と資本規制

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  グローバル・エリートの依拠する不平等と不安定性

The Guardian, Friday 29 January 2016

Was there ever a time when so few people controlled so much wealth?

Eoin Flaherty

裕福になる根本的な新しい方法が発明されたこと。第2次世界大戦後、これほど大きな不平等は存在しなかったこと。

Oxfamの最新レポートは、それに関するデータを示している。62人の個人が人類の富の半分を所有している。

不平等に反対するのは、単に、私たちの生活水準を改善したいからではない。不平等の増大は、成長をもたらす経済システムが機能しなくなっていることに直接かかわっている。2010年以来、所得水準の下半分が得る割合は低下している。それは「グローバルな景気回復」が非常に選別的に頂点を豊かにしていることを意味する。

富の不平等さを過去200年間のリベラルな資本主義システムと結びつけることは、愚かな態度である。歴史上の人物が示すように、富を蓄積する上で軍事的、法的手段が重要であった。

非資本主義的な社会では、富の蓄積はもっぱら暴力的な収奪であった。すなわち、いわゆる「原始的蓄積」である。イギリスの18隻、19世紀に行われた「囲い込み」が有名だ。

しかし、人類の社会に不平等は不可避のものではない。2009年、ノーベル賞を受賞したElinor Ostromは「共有財のプール」システムを研究したが、それによれば、資源をコミュニティーの財としてプールする社会は、現代の所有権とはしばしば異なった。こうしたシステムは、漁業、灌漑システム、共有の備蓄や森林、などに見られ、トップダウンンオシステムに比べて良好であった。

中世においては、個人による「物的な」富の蓄積が、合理的に所有できる範囲に制約されていた。しかし、現代では、富の蓄積が物に限らず、債権や不動産、そして工場やインフラのような生産手段、さらには人間(奴隷制のように)にも及ぶ。

金融手段による無形の財の取引は、金融産業を成長させた。金融規制の緩和が、近年の不平等拡大の主要な源泉である。1930年代の大恐慌の後、1933年のグラス=スティーガル法のような、金融規制の改革が行われた。その多くが20世紀の後半に取り消されたのだ。金融市場は、資本を持った投資家にとって莫大な利潤を得る最良の機会を提供し、究極のリスクは住宅所有者たちに負わされた。

私たちの社会組織は唯一のものではない。現在の経済秩序は管理できないものでもない。課税や金融規制に関する政府の決定を、われわれが明確に認識できているとしたら、われわれは社会を富の不平等に向かう秩序から転換することができる。不平等をもたらす要因を知れば、それに挑戦することができるだろう。

FT February 2, 2016

Bring our elites closer to the people

Martin Wolf

共和党の大統領候補者争いで、Ted Cruzは「ペテン師」と言われ、Donald Trumpを「うぬぼれ屋」と呼んだ。Bernie Sandersは民主党の社会主義者を自認し、Hillary Clintonはエリートに好かれているという。エリートへの反発は有権者に広がっている。重大な問題とは、西側エリートを民衆に接近させることはできるのか? どうすればよいのか? ということだ。

われわれは中国人ではない。自薦のエリート集団に公的な領域の判断を委ねてしまうことはないし、中国人もいつまでもこのままでよいとは思わないだろう。市民権、という思想に従えば、良い生活の実現には、単に個人のさまざまな自由だけでなく、公的な領域における発言も含む。

個人の経済的自由の結果として、大きな不平等が生じることがある。それは民主主義の現実的な意味を失わせる。複雑な現代社会のガバナンスには、テクニカルな知識が求められる。すでに、経済・技術官僚のエリートたちと、大衆との間には、大きな差が広がっている。極端な場合、信頼が崩壊する。そうなれば、有権者たちはシステムを掃除する部外者に注目する。アメリカだけでなく、ヨーロッパの多くの国でも、われわれが目撃しているのはこうした変化である。

大衆に嫌われても、エリートたちはガス抜きをするだけで、システムの中心を握り続ける、という意見もある。しかし、それはリスクの高い戦略だ。不満が高まれば、センターも保持できないだろう。たとえ維持できても、エリートの少数者が嫌われ、多数の者が彼らを信頼していないような社会は幸福ではない。

なぜ分断が生じたのか? 1.文化の変化。2.国民のエスニックな攻勢が変化。3.増大する不平等や経済的な不確実さに対する不安。4.エリートたちは腐敗し、自己満足に陥り、無能である、という感覚の広がり。

最近、OECDの報告書も、この数十年間で加盟諸国の不平等が増大していることを指摘した。アメリカでは特にそうだ。「1975年から2012年までの成長のおよそ47%を、税引き前の所得で、トップ1%が得た。」 アメリカがラテンアメリカ型の所得分配に代わるにつれて、その政治にもラテンアメリカ的な、左右両派の、ポピュリストがはびこった。

政治の中心が信頼を回復するために何をするべきか? 人々の関心は、自分と子供たちが生活の改善を実現できること、経済の安全を得る手段を持ち続けることである。経済・政治エリートの能力や良識に信頼を取り戻すことが必要だ。

1.グローバリゼーションのすべての局面の中でも、大規模な移民流入は最も社会を混乱させる。国境の管理と流入を管理しなければならない。2.特にユーロ圏では、財政緊縮に偏ったマクロ経済政策を見直すべきである。3.膨張した金融ビジネスを削減するべきである。4.資本主義をもっと競争的な性格に変えるべきである。5.公平な課税を行うべきである。富を獲得した資産家たちが、政治を支配し、その富を守るための法律や税制を作っているとき、法律に従っているだけだ、というのは理由にならない。

株主利益を最優先することは、その様々な債務を制限するという特権を企業は社会によって認められている以上、より大きなリスクにさらされる人々に対して有利になる形で、制限されるべきだ。最後に、政治に占める献金の役割を制限するべきだ。

西側の政治にはストレスが増している。人々は軽視され、奪われたと感じている。高まる不満をもはや無視できない。


l  アメリカ政治における富裕層と差別

NYT JAN. 29, 2016

Plutocrats and Prejudice

Paul Krugman

少し単純化すれば、サンダースの意見では、すべての悪の源は金である。多額の政治献金の影響で、1%の富裕層や企業エリートたちの影響が支配し、政治は醜悪なものになっている。

他方、クリントンの意見では、政治献金は悪の源の1つであるし、その大きな部分であるだろうが、すべてではない。むしろ、レイシズムや、セクシズム、その他の偏見が独自の悪の源である。この見方はそれほど異ならないように見えるが、政治戦略として重要である。

私は、多くの悪の理論派である。寡頭制支配は重要な問題であり、それについて私はずっと書いてきた。しかし重要なことは、アメリカの寡頭制がそれほど強力に機能する仕組みを理解することだ。

彼らは金(政治献金)で影響力を買っているだけではない。アメリカの右派強硬派が勢力を強めたのは、連携することによってであった。低税率と規制緩和を求めるエリートと、社会変化への不安を感じている、特に、変化をもたらすものへの敵意を示す者たちとの連携である。

億万長者たちは、アメリカを右傾化することに成功した。それは単なる陰謀論ではない。特に、市民権運動の後、南部の白人有権者を共和党支持者に変える試みがそうだった。何であれ、保守派の動機を利用して、寡頭制は支配し続けた。人種差別を煽り、人工中絶に関するデマゴギーを広め、共和党がシャドー・バンキングや最高税率の引き下げを行えるように、選挙の年を混乱させた。

進歩派にとっての問題は、変革に向けた政治戦略にある。アメリカ政治の醜さのすべてが、巨額の政治献金によるのであれば、労働者階級が右派を支持するのは虚偽意識のせいである。その場合は、虚偽意識を打ち破るような、経済ポピュリズムを訴えることで政治勢力の配置状況を革命的に再編できるかもしれない。

他方、アメリカ政治の分割は、単に政治献金によるだけではなく、進歩派が宥和できないような根深い偏見を反映しているのかもしれない。そうであれば、1%の富裕層や金の問題に的を絞って変革を唱えるのはナイーブ(稚拙)である。私もそう思う。

進歩的な目標は達成できない、というのではない。アメリカは時とともに、さらに多様で、さらに寛容になっている。しかし、同時にさまざまな偏見が残っているのだ。左派からの政治革命を議論できなくするほど、それらの偏見は強力だ。右派がこれほど狂暴になったのは、オバマ政権が達成した、不完全ではあっても素晴らしい勝利、医療保険、税制、金融改革、環境規制を彼らが強く憎むからだ。

悲観的過ぎる? そうは思わない。闘いを続けて、アメリカ社会を改善していくのは、高貴な、意志を高めることではないか?


l  株価の大幅な変動と中央銀行

Project Syndicate JAN 29, 2016

The Three Fears Sinking Global Markets

ANATOLE KALETSKY

1月は株式市場にとって、通常、好ましい時期である。投資信託に新しい資金が流入するからだ。しかし、この「1月効果」を否定することになった世界株価の下落は、さらにショックである。

なぜ我々は世界経済を心配しているのか?

市場心理に影響する3つの不安がある。すなわち、中国、石油価格、そして、アメリカもしくは世界不況だ。

中国の株式市場は世界に影響するものではない。真の不安は、中国当局が人民元を大幅に切り下げるのではないか、あるいは、偶発的な失策により為替レートを制御できなくなり、破滅的な資本逃避が起きるのではないか、ということだ。

しかし、1月末にかけて市場は落ち着くように見えた。その冷静な見方を翻したのは、中国の外貨準備がさらに大きく減少しており、この先も多年にわたり、中国の減速を管理する問題は続くとわかったからだ。

2の不安は、石油価格の下落である。中国に関する懸念とは逆に、市場の考える石油価格と景気の関係は、単純に、間違っているように見えた。石油価格と株価がマイナスに関係する、逆の相関、を示すべきだからだ。しかし、毎日、10%も下落するのは短期の混乱をもたらす。石油とその関連産業に融資が行われているし、レバレッジによる投資家は証拠金を求められ、資産を投げ売りすることにもなる。

こうして、投資家が石油価格の下落に見ているのは、世界経済やアメリカの不況である、という最後の不安に至る。市場はしばしば間違った予測をするが、こうした市場の不安が現実を変えることもある。金融システムそれ自体にも、そのようなことが起きる。

小規模なエネルギー関連企業の倒産が、銀行業へのグローバルな圧力を生じ、融資が減って、そうでなければ石油の低価格から利益を受けている企業や家計が、むしろ支出を減らすのだ。中国の人民元が切り下げられれば、新興市場は甚大な影響を被る。さらに、金融規制は融資基準を厳しくするように要求を続け、金融緩和が必要な条件を無視してしまう。

自己実現的な予測と政策の失敗が致命的な形で結びつくとき、現実は金融市場の悲観によって押しつぶされるだろう。


l  金融政策の将来にかかる影

Bloomberg FEB 1, 2016

Market Swings Expose Central Banks' Influence and Limits

By Mohamed A. El-Erian

中央銀行は、債券市場に対する短期の影響力を示すが、その長期の効果については疑問がある。金融政策は成長のエンジンではない。そして、長期的に、ますます中央銀行の本来の力を失っていくようだ。

金融市場は連銀の姿勢を不十分な穏健派と見ていた。世界経済の弱さを認めていながら、金融引き締めへのキャンペーンを止めようとせず、まして追加の刺激策を考えなかったからだ。しかし、アメリカ経済の見通しについて、連銀の信認は失われ始めた。

ダウ平均株価が300ポイント以上も下落した。日本銀行が、連銀とは逆に動いた。日銀はECBに倣ってマイナス金利を導入した。中国人民銀行は流動性を追加供給した。

株式市場では、これらを世界の中央銀行が追加の刺激策をとったと解釈した。そしてグローバルに株価が上昇した。同様に注目すべきは、安全な避難所としての債券市場から資金は流出しなかったことだ。逆に、ドイツでもアメリカでも、債券価格は上昇した。

中央銀行が短期的に株価に与える影響力は疑いない。流動性を供給し、債券価格に影響することで、投資家の気分をリスク・テイクに向けることができる。

しかし、より長期の効果は何か? 非正統的な金融政策は経済に持続的な利益をもたらすのか? あるいは、こうした政策への依存が長引くことで意図しない結果をもたらすのか? しかも、中央銀行間の政策が乖離しつつある。

先週、発表された第4四半期のデータは、私の考えと一致するものだ。金融緩和政策にもかかわらず、経済成長はその潜在力の非常に低い水準でとどまっている。中央銀行の政策手段は、成長のエンジンではなく、総需要の均衡をもたらしたり、超過債務を除去したり、グローバルな政策協調の手段ではないのだ。

中央銀行が経済の長期的な改善に役立つことは少ない。短期的に資産価格を上昇させる結果は、それらが経済の基礎的条件から切り離され、ますます浮動的な変動を示す。さらに大幅な乱高下を覚悟するべきだろう。


l  トランプの大統領候補者争い

SPIEGEL ONLINE 02/01/2016

America's Agitator

Donald Trump Is the World's Most Dangerous Man

By Markus Feldenkirchen, Veit Medick and Holger Stark

「私を信じてほしい。私が事態を変えてやる。もう一度、われわれは大いに尊敬されるだろう。『恐れる』などという言葉を私は望まない。」 トランプのスローガン"Make America great again!"は、アメリカが国際条約にも、マイノリティにも、良識の基準にも制約されない、という意味だ。

トランプは特異な人物だ。非常に裕福であり、選挙資金をすべて自分で出すことができる。ニューヨークの不動産王であり、TV番組のスターであり、候補者争いの前から、他の大統領候補者にはない有名人の性格があった。

トランプには躊躇や自省がない。ジェブ・ブッシュを、「エネルギーのない男だ」と繰り返し述べた。マルコ・ルビオは、努力家だろうが、「ウラジミール・プーチンのような強い指導者たちと交渉する」ときには手が出せないだろう、と言う。テッド・クルーズには、カナダ生まれであり、大統領になれない、と言う。そして、「ヒラリー・クリントンが、その夫に満足できないのなら、アメリカに満足するわけがない」と、ネットでささやいた。

共和党の関係者はトランプを嫌っている。しかし、クリントンを大統領にしたくない、と思う共和党支持者は、たとえトランプを嫌っていても、彼を支持するかもしれない。


l  米中の外交的競争

Project Syndicate JAN 29, 2016

Xi of Arabia

MINGHAO ZHAO

中国は外交政策の転換を図りつつある。批判者たちは見解を改めるべきだ。

習近平主席はサウジアラビアとイランを訪問して帰国した。両国は中東地域の2大国で、互いを倒そうと狙っている。こうした中東で中国は積極的な外交を展開する。中国の影響は、アメリカよりも建設的なものなのか?

中東情勢は混乱を深め、新しい30年戦争、とRichard N. Haassが呼んだように、内戦と代理戦争も区別できない。イラク侵攻でスンニ派のサダム・フセイン体制を破壊したアメリカは、イラクをシーア派政権に導き、スンニ派のサウジアラビアを包囲する状況を創り出した。それゆえシリアの内戦はこれほど激化したし、シリア内戦も、トルコが加わって、たとえ相互に戦争になることはなくても、和平を実現する見込みはない。

こうした諸国は内戦に介入して異なる勢力を支援し、宗教的な過激化と、暴力の非国家化・民間化を進めた。イスラム国家だけでなく、様々なテロ組織が従来の対策では排除できない状況になっている。中東の対抗する諸国だけでなく、アメリカはもちろん、フランスやロシアなど、地域外の諸国も地政学的な目的から介入を強めている。今や、中国もそこに加わった。

中国語の「危機」は、「危険」と「機会」を意味しており、まさに、中国の新しい中東外交にそれが示されている。多くのアクターは、経済的な機械よりも宗教的・地政学的な関心が強い。中国はそうではない。習はカイロで演説した。「中東において代理戦争を目指すのではなく、われわれは和平会談を目指している。何らかの影響圏を求めているのではなく、中国はその「一帯一路」戦略の友好諸国に加わることをすべての勢力に求めている。」

これは2013年に主席となって以来、習近平が目指しているものだ。ある地域から他の地域に「旋回」するアメリカと違い、中国は「諸国間の政治」を「ネットワーク間の政治」に変え、「支配」ではなく「連結」を訴える。中東は「一帯一路」戦略に欠かせない重要な地域である。そのために中国が主導するAIIBがインフラに投資する。

中東諸国とのエネルギー協力はその中心だが、さらにインフラ建設と、貿易・投資の拡大、という2つが重要である。原子力、人工衛星、新エネルギー、こうしたハイテク分野が協力の突破口になるだろう。中東はエネルギーの優位を生かして、工業化と経済の多様化を進めるのであり、中国はそれを支援する。

中東外交の成功には、もちろん、緊張の緩和、紛争の鎮静化、弱体な国家の安定化が前提である。そのための諸国間におけるスマートな外交が求められる。しかし、平和と開発とは密接に結びついている。過激派に向かう流れに抗するにも、中東の諸国は人々に経済的機会を、すなわち貿易、投資、雇用を提供しなければならない。

これらの面で、中国は多くを提供できるのだ。


l  アルゼンチンとヴェネズエラ

Project Syndicate JAN 29, 2016

Argentina’s Uncertain Prospects

MARTIN GUZMAN and JOSEPH E. STIGLITZ

アルゼンチンの大統領選挙でMauricio Macriが勝利し、12年に及ぶキルチネルNéstor and Cristina Fernández Kirchnerの時代が終わった。

アルゼンチン経済は対外不均衡を拡大し、インフレが高まって、政策を誤れば危機に突入する。しかし、いくつかの面で、アルゼンチン経済の状態は大きく改善している。

2003年、政権を得たキルチネルは、ワシントン・コンセンサス(金融規制緩和、貿易自由化、民営化)とドル・ペッグによって10年続いた実験的な繁栄の崩壊を経験した。失業、不平等、貧困、国歌政務は、すべてが急激に上昇した。大幅な脱工業化と、教育システムの欠陥は、アルゼンチン経済の将来を損なうものだった。

しかし、切下げとデフォルトに続いて、アルゼンチンは驚異的な回復を示した。キルチネル政権は、需要を抑制したまま、失業、貧困、不平等の現象に導いた。それは債務の大幅な組み替えと、世界経済の拡大を背景に、為替レートの大幅な切下げが競争力を高めて、輸出を増やしたからだ。蔡工業化と雇用の増大が生じた。

Macriの改革は、対外赤字と財政赤字を減らし、同時に、インフレを抑えることを目指している。輸出作物への課税を下げ、為替管理を撤廃した。それが輸出の急増と直接投資の流入を増やし、赤字のつなぎ融資も得られる、と楽観論者は考える。

悲観論者は、世界経済の減速や隣国ブラジルの不況、一層の切下げが必要になって、消費者物価が高まる、と考える。それは切下げ予想から輸出や輸入の延期につながる。しかも、最初の政策が、明らかに多数の労働者を犠牲に、農業にかかわる富裕層への富を増やす、所得分配を悪化させる政策であった。


l  難民受け入れの国際政治

FT February 4, 2016

Angela Merkel’s open door has harmed those it was meant to help

Paul Collier

紛争から逃れる人々を助けることは、基本的な国際的責務である。シリアには1100万もの難民がいる。アンゲラ・メルケルはこの責任を認め、広く称賛されたように、難民危機に対処する道義的な指導力を発揮した。しかし、エコノミストとして、私はこの判断を疑問に思う。ドイツ首相の介入政策は、その効果から見て、転換するべきだ。

避難民は移住者になることを望まない。住居を捨て、安全な場所に避難するしかないのだ。彼らの最優先目標は正常な生活に戻ることである。数百万人に対して、この願いをかなえることは国際社会の責務である。それは、避難所と職場を提供する、ということだ。

避難所には人々が容易に移動できる必要がある。シリア難民の多くはまだ国内におり、彼らが避難できるのは隣国のレバノンやヨルダンである。近隣諸国は避難者を受け入れる責任がある。しかし、彼らも貧しいから、国際社会の難民政策を持続可能にするには裕福な諸国からの財政的な負担が必要だ。ヨルダンの債務・GDP比率は、2011年の70%から2014年の90%に上昇した。

正常な生活を取り戻すもう1つの条件は職場である。避難所を提供する諸国は、自分たちの雇用も不足している。ヨルダンのシリア難民は、都市で非合法な職に就き、地元の住民の恨みを買っている。ヨーロッパ企業は、ヨルダンが設けている工業地区に投資して、難民やヨルダン国民の雇用を増やすべきである。

ロンドンで開催された難民会議では、これら2つの原則が示された。世界銀行は企業が投資するまで、それを促すインフラ投資を推進する。これに比べて、メルケルの国境開放策はどのような効果をもたらすのか?

難民たちはドイツまでの移動が保障されないから、非合法な業者に大金を支払う。現在、それは約6000ドルである。その資金を得るには、多くの場合、住宅を売るしかない。住宅を所有する、比較裕福なシリア人だけが、避難のために捨て値で住宅を売ってドイツに向かう。しかも移動の途中で溺れ死ぬ者も多い。帰国することは考えられない。

難民たちは国境を超えて、移民に変化してしまう。ハンガリーとの国境で移動を阻止された難民たちを混乱から救うために、メルケルは一時的に国境を開放した。それは救済するという国際的な責務を果たすものだが、難民を増やす間違った効果を生じた。

大みそかのケルンで起きた女性たちへの暴行によって、ドイツ国境は閉鎖に向かうだろう。メルケルの判断はすべての難民が享受する資産、裕福な人々が難民を助けようという気持ち、を損なったのである。


l  中国の資本流出と資本規制

Project Syndicate FEB 2, 2016

The Great Escape from China

KENNETH ROGOFF

6000億ドルの貿易黒字があっても,3兆ドルの外貨準備があっても,中国の人民元には急激な減価の危険がある.中国経済の減速と,漸進的な金融自由化が海外投資を許したことが結び付いて,資本流出は増えている.合法的にも15万ドルまで資金を持ち出せるから,20人に1人の中国人がそれを実行すれば、外貨準備はすべて消滅する.さまざまな非合法の形でも,資本流出は起きるのだ.人々が人民元安を心配すればするほど,ますます資本が流出し,不安は株式市場にも及ぶだろう.

多くの投機も行われる.政府が取り組むのは,まず信頼できるマクロ経済データを提供して,透明性を高めることだ.ドルではなく,13の主要通貨のバスケットに固定する、という考えも,ドル・ペッグと同じ諸問題を生じるだろう.

中国は,より完全な変動レート制に向かうのがよいだろう.しかし,実際には,まだ多くの危険な振幅を為替レートは経る可能性が高い.

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The Economist January 23rd 2016

Who’s afraid of cheap oil?

The millennial generation: Young, gifted and held back

Lexington: Karl Rove’s history class

Global Pentecostalism: Ecstasy and exodus

The economic impact of refugees: For good or ill

Free exchange: All at sea

(コメント) 特に面白かったのは,若者と中高年者との対立,カール・ローブが描くポピュリストを撃退した大統領選挙,キリスト教の熱狂信仰,です.なぜマッキンリーはブライアンに勝てたのか? ペンテコスタリズムが何か? よくわかりませんが,カリスマ的な説教師がいれば,一気に信者と資金を集めてグローバル化する,という宗教運動に,社会不安や秩序崩壊の時代を感じます.

経済学者の経済学批判が面白いです.さっぱりわからない,と互いを非難する様相です.客観的な真理ではなく,観察に基づかない,イデオロギーなのか,事実を発見することによって変わるのか,アプローチに関するコンセンサスはあるのか,社会的な価値観に強く影響されるのか,何が間違いであるか,何が優れているか,について合意できるか・・・

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IPEの想像力 2/8/16

アルゼンチンのデフォルトや,アイスランドの資本規制を,資本市場は拒みましたが,IMFは容認し,今では公認しています.

富の在り方が金融資産の国際市場取引と情報技術によって大きく変化しました.その結果,戦争によらずに市場で奪い取ることを許さない,富を生産するシステムに関して政治秩序に広く合意する,そんな理想が唱えにくくなりました.人々は不安と不満を強めています.

国際通貨制度は,国境によって分割された世界が,平和と繁栄とを共有する重要な仕組みである,というのが,国際政治経済学のメッセージです.帝国の通貨が世界中で利用される時代にも,主要諸国が合意したメカニズムで対外不均衡を調整し,通貨的な秩序を各地の政治的秩序や経済メカニズムと接合する時代にも,そうでした.戦争によって富を奪うより,富を生産するシステムに参加することが,覇権(国家を超える秩序)の重要な条件なのです.

中国の経済成長や人民元の管理に関する信認が失われ、サウジアラビアやアメリカの石油と中東情勢に関する信認が失われ、EUのさまざまな危機に関するドイツの信認が失われ、世界の景気回復のために主要諸国の中央銀行が採用した過激な金融政策に関する信認が失われました。

各地の政治経済秩序は,非常に困難な時期を,まだこれから経験するかもしれません.

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世界金融危機後,不況を回避する金融政策としての,QEやマイナス金利の時代は,資本市場の不安定化を強め、資本規制の時代へ向けた合意が徐々に形成されつつあります.このようにして,いつか,経済思想の基本が転換するのだと思います.

資本市場をめぐる最適通貨圏は,世界である,と言えます.少なくとも,国境で切れることはなく,発達した金融機関の活動を受け入れる開放型システムが展開する限り,全地球に及ぶでしょう.しかし,労働市場をめぐる最適通貨・経済圏は,国家よりもずっと狭い範囲でしか成立しません.いずれの場合も,市場が機能するには,交通手段や情報交換ネットワーク,法律や行政の統合,住民と統治者との一体感が必要です.

経済政策と国際政治の対立が結びついた帝国主義の時代が再現しないためには,政治経済的な秩序の領域が,ある程度,柔軟に変化することを求められます.最適通貨圏が,その拡大するロジックを支えたように,資本規制は領域を縮小・再編するロジックとして,正当に理解され,合意されることが望ましいのです.金融危機の波及やQEに頼った政治経済秩序の延命策は,金融機関と金融ビジネスの肥大化や,金融市場という富の在り方を見直す条件を形成します.

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内戦,宗教対立,領土紛争,核拡散,大気汚染,温暖化,その他,さまざまな衝突と秩序崩壊が起きる世界で,成長の維持や安定した金融システムの基準(理想)は,話し合いによる解決の条件です.

ヘリコプター・マネー、もしくは、政府の公共サービスと生産者家族を介した資金供給メカニズムを築き,ポピュリストたちの広める憎悪と収奪の政治を,真面目に働く人たちにも指導者たちが正面から論破するべきです。移民・難民規制とチャーター・シティ,インフラ投資の刺激策,財政移転のための国際協調など,それらが工場の国際移転と移民に関する供給側のIMF,雇用や社会統合のための国際移住・投資基金となって,次の世界不況を回避するために樹立されます.

20年後に,難民の子どもたちが観るのは,どのような世界なのか?

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