IPEの果樹園2016
今週のReview
2/8-13
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グローバル・エリートの依拠する不平等と不安定性 ・・・アメリカ政治における富裕層と差別 ・・・株価の大幅な変動と中央銀行 ・・・金融政策の将来にかかる影 ・・・トランプの大統領候補者争い ・・・米中の外交的競争 ・・・アルゼンチンとヴェネズエラ ・・・難民受け入れの国際政治 ・・・Google,
Apple, Facebookに課税できるか? ・・・中国の資本流出と資本規制 ・・・シリア和平交渉 ・・・ロシアの脅威
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign
Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York
Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l グローバル・エリートの依拠する不平等と不安定性
The
Guardian, Friday 29 January 2016
Was there
ever a time when so few people controlled so much wealth?
Eoin Flaherty
裕福になる根本的な新しい方法が発明されたこと。第2次世界大戦後、これほど大きな不平等は存在しなかったこと。
Oxfamの最新レポートは、それに関するデータを示している。62人の個人が人類の富の半分を所有している。
不平等に反対するのは、単に、私たちの生活水準を改善したいからではない。不平等の増大は、成長をもたらす経済システムが機能しなくなっていることに直接かかわっている。2010年以来、所得水準の下半分が得る割合は低下している。それは「グローバルな景気回復」が非常に選別的に頂点を豊かにしていることを意味する。
富の不平等さを過去200年間のリベラルな資本主義システムと結びつけることは、愚かな態度である。歴史上の人物が示すように、富を蓄積する上で軍事的、法的手段が重要であった。
非資本主義的な社会では、富の蓄積はもっぱら暴力的な収奪であった。すなわち、いわゆる「原始的蓄積」である。イギリスの18隻、19世紀に行われた「囲い込み」が有名だ。
しかし、人類の社会に不平等は不可避のものではない。2009年、ノーベル賞を受賞したElinor
Ostromは「共有財のプール」システムを研究したが、それによれば、資源をコミュニティーの財としてプールする社会は、現代の所有権とはしばしば異なった。こうしたシステムは、漁業、灌漑システム、共有の備蓄や森林、などに見られ、トップダウンンオシステムに比べて良好であった。
中世においては、個人による「物的な」富の蓄積が、合理的に所有できる範囲に制約されていた。しかし、現代では、富の蓄積が物に限らず、債権や不動産、そして工場やインフラのような生産手段、さらには人間(奴隷制のように)にも及ぶ。
金融手段による無形の財の取引は、金融産業を成長させた。金融規制の緩和が、近年の不平等拡大の主要な源泉である。1930年代の大恐慌の後、1933年のグラス=スティーガル法のような、金融規制の改革が行われた。その多くが20世紀の後半に取り消されたのだ。金融市場は、資本を持った投資家にとって莫大な利潤を得る最良の機会を提供し、究極のリスクは住宅所有者たちに負わされた。
私たちの社会組織は唯一のものではない。現在の経済秩序は管理できないものでもない。課税や金融規制に関する政府の決定を、われわれが明確に認識できているとしたら、われわれは社会を富の不平等に向かう秩序から転換することができる。不平等をもたらす要因を知れば、それに挑戦することができるだろう。
FP JANUARY
29, 2016
Davos
Haters Gonna Hate, but It’s Not Going Anywhere
BY DAVID ROTHKOPF
ダヴォスとは何か? 非難するのは簡単だが、世界を救うのはむつかしい。
ダヴォスには、政治家やビジネス化の指導者が集まる。そして自分たちでうぬぼれを吐露し合う。そこには、女性、マイノリティ、新興市場の人々、若者が少ない。革新的な方法を見出すのは彼らであるのに。
しかし、集まった人々の話題は訊いてみるに値する。この先の、何について彼らは注意しているのか? 21世紀のさまざまなサミットの中でも、WEFを超える影響力のあるサミットはない。ここに集まらねば、企業はビジネスの機会を失う。
批判するときも、ダヴォスはそれほど単純なものではない。
Project
Syndicate JAN 31, 2016
The Angry
Quarter
CARL BILDT
FT
February 2, 2016
Bring our
elites closer to the people
Martin Wolf
共和党の大統領候補者争いで、Ted
Cruzは「ペテン師」と言われ、Donald
Trumpを「うぬぼれ屋」と呼んだ。Bernie
Sandersは民主党の社会主義者を自認し、Hillary
Clintonはエリートに好かれているという。エリートへの反発は有権者に広がっている。重大な問題とは、西側エリートを民衆に接近させることはできるのか? どうすればよいのか? ということだ。
われわれは中国人ではない。自薦のエリート集団に公的な領域の判断を委ねてしまうことはないし、中国人もいつまでもこのままでよいとは思わないだろう。市民権、という思想に従えば、良い生活の実現には、単に個人のさまざまな自由だけでなく、公的な領域における発言も含む。
個人の経済的自由の結果として、大きな不平等が生じることがある。それは民主主義の現実的な意味を失わせる。複雑な現代社会のガバナンスには、テクニカルな知識が求められる。すでに、経済・技術官僚のエリートたちと、大衆との間には、大きな差が広がっている。極端な場合、信頼が崩壊する。そうなれば、有権者たちはシステムを掃除する部外者に注目する。アメリカだけでなく、ヨーロッパの多くの国でも、われわれが目撃しているのはこうした変化である。
大衆に嫌われても、エリートたちはガス抜きをするだけで、システムの中心を握り続ける、という意見もある。しかし、それはリスクの高い戦略だ。不満が高まれば、センターも保持できないだろう。たとえ維持できても、エリートの少数者が嫌われ、多数の者が彼らを信頼していないような社会は幸福ではない。
なぜ分断が生じたのか? 1.文化の変化。2.国民のエスニックな攻勢が変化。3.増大する不平等や経済的な不確実さに対する不安。4.エリートたちは腐敗し、自己満足に陥り、無能である、という感覚の広がり。
最近、OECDの報告書も、この数十年間で加盟諸国の不平等が増大していることを指摘した。アメリカでは特にそうだ。「1975年から2012年までの成長のおよそ47%を、税引き前の所得で、トップ1%が得た。」 アメリカがラテンアメリカ型の所得分配に代わるにつれて、その政治にもラテンアメリカ的な、左右両派の、ポピュリストがはびこった。
政治の中心が信頼を回復するために何をするべきか? 人々の関心は、自分と子供たちが生活の改善を実現できること、経済の安全を得る手段を持ち続けることである。経済・政治エリートの能力や良識に信頼を取り戻すことが必要だ。
1.グローバリゼーションのすべての局面の中でも、大規模な移民流入は最も社会を混乱させる。国境の管理と流入を管理しなければならない。2.特にユーロ圏では、財政緊縮に偏ったマクロ経済政策を見直すべきである。3.膨張した金融ビジネスを削減するべきである。4.資本主義をもっと競争的な性格に変えるべきである。5.公平な課税を行うべきである。富を獲得した資産家たちが、政治を支配し、その富を守るための法律や税制を作っているとき、法律に従っているだけだ、というのは理由にならない。
株主利益を最優先することは、その様々な債務を制限するという特権を企業は社会によって認められている以上、より大きなリスクにさらされる人々に対して有利になる形で、制限されるべきだ。最後に、政治に占める献金の役割を制限するべきだ。
西側の政治にはストレスが増している。人々は軽視され、奪われたと感じている。高まる不満をもはや無視できない。
l アメリカ政治における富裕層と差別
NYT JAN.
29, 2016
Plutocrats
and Prejudice
Paul Krugman
共和党の大統領候補者たちの論争は、ますます底辺への競争になってしまい、まるでジョージ・W・ブッシュが寛容と優れた政治指導者の模範に見えてくる。しかし、この醜さの源はどこにあるのか?
それは、民主党候補者の論争の核心にあるものだ。
多くの論者が指摘しているように、ヒラリー・クリントンとバーニー・サンダースとの論争は変革の理論の違い、政治戦略の違いにある。アメリカの何が間違っているのか? なぜこんな風になってしまったのか?
少し単純化すれば、サンダースの意見では、すべての悪の源は金である。多額の政治献金の影響で、1%の富裕層や企業エリートたちの影響が支配し、政治は醜悪なものになっている。
他方、クリントンの意見では、政治献金は悪の源の1つであるし、その大きな部分であるだろうが、すべてではない。むしろ、レイシズムや、セクシズム、その他の偏見が独自の悪の源である。この見方はそれほど異ならないように見えるが、政治戦略として重要である。
私は、多くの悪の理論派である。寡頭制支配は重要な問題であり、それについて私はずっと書いてきた。しかし重要なことは、アメリカの寡頭制がそれほど強力に機能する仕組みを理解することだ。
彼らは金(政治献金)で影響力を買っているだけではない。アメリカの右派強硬派が勢力を強めたのは、連携することによってであった。低税率と規制緩和を求めるエリートと、社会変化への不安を感じている、特に、変化をもたらすものへの敵意を示す者たちとの連携である。
億万長者たちは、アメリカを右傾化することに成功した。それは単なる陰謀論ではない。特に、市民権運動の後、南部の白人有権者を共和党支持者に変える試みがそうだった。何であれ、保守派の動機を利用して、寡頭制は支配し続けた。人種差別を煽り、人工中絶に関するデマゴギーを広め、共和党がシャドー・バンキングや最高税率の引き下げを行えるように、選挙の年を混乱させた。
しかし、トランプの時代はそれが難しい。1%の富裕層にとって、安価な移民労働者は利益である。計画的な出産をめぐって(トランプと)敵対する気もない。
進歩派にとっての問題は、変革に向けた政治戦略にある。アメリカ政治の醜さのすべてが、巨額の政治献金によるのであれば、労働者階級が右派を支持するのは虚偽意識のせいである。その場合は、虚偽意識を打ち破るような、経済ポピュリズムを訴えることで政治勢力の配置状況を革命的に再編できるかもしれない。
他方、アメリカ政治の分割は、単に政治献金によるだけではなく、進歩派が宥和できないような根深い偏見を反映しているのかもしれない。そうであれば、1%の富裕層や金の問題に的を絞って変革を唱えるのはナイーブ(稚拙)である。私もそう思う。
進歩的な目標は達成できない、というのではない。アメリカは時とともに、さらに多様で、さらに寛容になっている。しかし、同時にさまざまな偏見が残っているのだ。左派からの政治革命を議論できなくするほど、それらの偏見は強力だ。右派がこれほど狂暴になったのは、オバマ政権が達成した、不完全ではあっても素晴らしい勝利、医療保険、税制、金融改革、環境規制を彼らが強く憎むからだ。
悲観的過ぎる? そうは思わない。闘いを続けて、アメリカ社会を改善していくのは、高貴な、意志を高めることではないか?
l 株価の大幅な変動と中央銀行
The
Guardian, Friday 29 January 2016
Are we
heading for a crash?
Project
Syndicate JAN 29, 2016
The Three
Fears Sinking Global Markets
ANATOLE KALETSKY
1月は株式市場にとって、通常、好ましい時期である。投資信託に新しい資金が流入するからだ。しかし、この「1月効果」を否定することになった世界株価の下落は、さらにショックである。
なぜ我々は世界経済を心配しているのか?
市場心理に影響する3つの不安がある。すなわち、中国、石油価格、そして、アメリカもしくは世界不況だ。
中国の株式市場は世界に影響するものではない。真の不安は、中国当局が人民元を大幅に切り下げるのではないか、あるいは、偶発的な失策により為替レートを制御できなくなり、破滅的な資本逃避が起きるのではないか、ということだ。
しかし、1月末にかけて市場は落ち着くように見えた。その冷静な見方を翻したのは、中国の外貨準備がさらに大きく減少しており、この先も多年にわたり、中国の減速を管理する問題は続くとわかったからだ。
第2の不安は、石油価格の下落である。中国に関する懸念とは逆に、市場の考える石油価格と景気の関係は、単純に、間違っているように見えた。石油価格と株価がマイナスに関係する、逆の相関、を示すべきだからだ。しかし、毎日、10%も下落するのは短期の混乱をもたらす。石油とその関連産業に融資が行われているし、レバレッジによる投資家は証拠金を求められ、資産を投げ売りすることにもなる。
こうして、投資家が石油価格の下落に見ているのは、世界経済やアメリカの不況である、という最後の不安に至る。市場はしばしば間違った予測をするが、こうした市場の不安が現実を変えることもある。金融システムそれ自体にも、そのようなことが起きる。
小規模なエネルギー関連企業の倒産が、銀行業へのグローバルな圧力を生じ、融資が減って、そうでなければ石油の低価格から利益を受けている企業や家計が、むしろ支出を減らすのだ。中国の人民元が切り下げられれば、新興市場は甚大な影響を被る。さらに、金融規制は融資基準を厳しくするように要求を続け、金融緩和が必要な条件を無視してしまう。
自己実現的な予測と政策の失敗が致命的な形で結びつくとき、現実は金融市場の悲観によって押しつぶされるだろう。
Project
Syndicate FEB 2, 2016
The End of
the New Normal?
MOHAMED A. EL-ERIAN
低成長ながら、案敵的な経済が回復する、という「ニュー・ノーマル」の考え方を主流派が受け入れ始めていたとき、疑念が生じた。世界は経済的、金融的な転換局面に入ったのではないか? その方向は重要政策の決定に依存している。
世界金融危機の後、誰も「ニュー・ノーマル」など議論していなかった。危機は先進的な経済から生じており、構造的、長期的な問題を抱えた新興市場の危機とは違う。一時的な交代は起きても、急激なV字が他の回復を示すだろう、とほとんどの者が予想していた。
しかし、危機はより深刻である、先進的な経済が長期の低成長時代に固定されるだろう、とわかってきた。2009年5月、PIMCOの私の同僚が、それを「ニュー・ノーマル」と名付けた。最初、まったく無視されるか、冷淡な反応を受けたが、実際に、経済は回復しなかった。低成長、多年に及ぶ高失業率、不平等の拡大、などが示されたのだ。
政策担当者たちが包括的な政策を示せば、経済はより安定した繁栄に向かう。包括的な成長、不平等の抑制、本当の金融安定化が達成される。それはすなわち、成長に向かう構造改革の促進(インフラ投資、税制改革、労働者の再訓練)、財政規律の回復、債務依存の脱却、グローバルな政策協調である。技術革新が続き、企業が資金余剰を投資に回せば、潜在的な生産力が発揮される。そして、人為的に引き上げるのではなく、資産価格が上昇するのだ。
政治的な機能不全が続き、そのような政策は実行されないかもしれない。どのような未来の経路が現れるかは予測できない。しかし、この数か月の増大する金融変動に直面して、政策担当者の姿勢が試されている。
NYT FEB.
3, 2016
Toxic
Loans Around the World Weigh on Global Growth
By PETER EAVIS
FT
February 4, 2016
Why it
would be wise to prepare for the next recession
Martin Wolf
中央銀行には何ができるのか? 債務の削減、QEの増大、マイナス金利、そしてQEの恒久化。最後のケースは、中央銀行が政府や消費者のポケットに資金を追加する。
Project
Syndicate FEB 4, 2016
The Global
Economy’s New Abnormal
NOURIEL ROUBINI
「ニュー・アブノーマル」a
New Abnormalの起源とは何か?
l 金融政策の将来にかかる影
FT January
29, 2016
Federal
Reserve: Credibility on the line
Sam Fleming in Washington
連邦準備銀行のイエレンJanet
Yellen議長は、10年間で初めての金利引き上げを行った。ニューヨークの金融街には、成長や賃金上昇がともなわないことに抗議する群衆がいた。
金利引き上げ前は、サンダースなど、左派からの批判だけであったが、2月に入って、株価下落が各地で起きると、連銀の判断は間違っている、という多くの批判が生じている。連銀はその信認を損なわれつつある。
特に、ECBは量的緩和を続け、日銀はマイナス金利を導入する、という決定を行った。こうした連銀とは逆の判断が、イエレンの権威を強く損なったのだ。ほぼゼロ金利の経済状態では、金利引き上げの意味が全く違う、と指摘する専門家もいる。世界最大のヘッジファンドBridgewater
Associates を動かすRay
Dalioなど、投資家たちは、連銀に今後の利上げ計画を放棄するように求めている。
インフレ期待を下げてしまうリスクを、連銀は過小評価した。3年以上前からインフレ率は目標よりも低く、石油価格の下落やドル高もそれを強めていた。金利引き上げを計画していることが世界景気や株価にマイナスの影響を与えるという批判を、最近まで連銀は受け入れなかった。
労働市場の改善が、連銀の政策転換に向かう主要な根拠であった。それゆえ、世界の株価が下落しても、まだ連銀は判断を変えないだろう。しかし、連銀の楽観は一掃された。イエレンと金融政策決定委員会の足元まで揺れている。
FT January
29, 2016
Japan
joins negative rates club
FT January
29, 2016
Central
banks struggle to make things clear
MARTIN FELDSTEIN
アメリカ連銀の量的緩和QE政策は成功したが、ECBのQEは同じ成果を生むのか? なぜアメリカのQEは経済の回復をもたらしたのか?
連銀がQEを導入したのは、2009年のアメリカ経済が伝統的な金融政策や財政刺激策でも十分に回復しなかったからだ。バーナンキ議長は、QEによって長期金利を下げ、低リスクの債券から株式や他の高リスク証券に投資家を動かした。その政策は、住宅を含む資産の価値を高め、それゆえ消費を促した。
その戦略は成功した。2013年だけでも株価は30%、住宅価格は13%上昇した。その年、家計の資産は10兆ドルも増加した。資産の増大は消費者の支出を増やし、それは乗数効果を伴って、GDPの2.5%増大と、失業率の8%から6.7%への減少をもたらした。
ECBの目的は非常に異なっている。ヨーロッパにはアメリカのような住宅所有の広がりがない。住宅価格の上昇を通じて、QEが消費を刺激することはできない。むしろ、ECBの目的は、ユーロ安を促して輸出を増やすことであろう。
私は数年前からユーロ安を主張していた。それゆえECBのQEもユーロ安として支持するが、その効果は限られている。なぜなら、ユーロ圏諸国の主要な貿易相手はユーロ圏内であり、為替レートと関係ない。ヨーロッパのユーロ圏外との貿易はドル建で行われ、ドル建価格に調整が及ぶには時間がかかる。
ECBの債券購入は、銀行の保有資金を増やすことで融資を促すものだが、そのような効果は見られない。インフレ率を目標の2%より高くするのも、QEではなく、現実の需要が増えなければ実現できないだろう。すなわち、失業率が低下し、賃金が上昇して、需要を増やすことだ。
QEが、いまもまだ12%に達する失業率を下げる効果は期待できない。むしろすでにマイナスの短期金利をさらに下げるだけである。
ユーロ圏諸国は、ECBのQEに頼らず、もっと構造改革と財政刺激策を重視するべきだ。
Project
Syndicate JAN 29, 2016
The
Shortcomings of Quantitative Easing in Europe
Bloomberg
FEB 1, 2016
Japan's
Experiment With Rates of Less Than Zero
By Noah Smith
Bloomberg
FEB 1, 2016
Market
Swings Expose Central Banks' Influence and Limits
By Mohamed A. El-Erian
中央銀行は、債券市場に対する短期の影響力を示すが、その長期の効果については疑問がある。金融政策は成長のエンジンではない。そして、長期的に、ますます中央銀行の本来の力を失っていくようだ。
金融市場は連銀の姿勢を不十分な穏健派と見ていた。世界経済の弱さを認めていながら、金融引き締めへのキャンペーンを止めようとせず、まして追加の刺激策を考えなかったからだ。しかし、アメリカ経済の見通しについて、連銀の信認は失われ始めた。
ダウ平均株価が300ポイント以上も下落した。日本銀行が、連銀とは逆に動いた。日銀はECBに倣ってマイナス金利を導入した。中国人民銀行は流動性を追加供給した。
株式市場では、これらを世界の中央銀行が追加の刺激策をとったと解釈した。そしてグローバルに株価が上昇した。同様に注目すべきは、安全な避難所としての債券市場から資金は流出しなかったことだ。逆に、ドイツでもアメリカでも、債券価格は上昇した。
中央銀行が短期的に株価に与える影響力は疑いない。流動性を供給し、債券価格に影響することで、投資家の気分をリスク・テイクに向けることができる。
しかし、より長期の効果は何か? 非正統的な金融政策は経済に持続的な利益をもたらすのか? あるいは、こうした政策への依存が長引くことで意図しない結果をもたらすのか? しかも、中央銀行間の政策が乖離しつつある。
先週、発表された第4四半期のデータは、私の考えと一致するものだ。金融緩和政策にもかかわらず、経済成長はその潜在力の非常に低い水準でとどまっている。中央銀行の政策手段は、成長のエンジンではなく、総需要の均衡をもたらしたり、超過債務を除去したり、グローバルな政策協調の手段ではないのだ。
中央銀行が経済の長期的な改善に役立つことは少ない。短期的に資産価格を上昇させる結果は、それらが経済の基礎的条件から切り離され、ますます浮動的な変動を示す。さらに大幅な乱高下を覚悟するべきだろう。
Bloomberg
FEB 1, 2016
Central
Banks Can't Do Much More
By Clive Crook
Bloomberg
FEB 4, 2016
Good Luck
Drawing Conclusions About Monetary Policy
By Noah Smith
l トランプの大統領候補者争い
FT January
29, 2016
US
Election 2016: Wild political season kicks off in Iowa
Simon Schama
NYT JAN.
29, 2016
Why Are We
Ambivalent About Hillary Clinton?
By GAIL SHEEHY
NYT JAN.
30, 2016
Hillary
Clinton for the Democratic Nomination
By THE EDITORIAL BOARD
SPIEGEL
ONLINE 02/01/2016
America's
Agitator
Donald
Trump Is the World's Most Dangerous Man
By Markus Feldenkirchen, Veit Medick and
Holger Stark
ドナルド・トランプは、憎悪を煽る、新しい権威主義的運動の指導者だ。西側と世界にとって、トランプがアメリカ大統領に選出されることほど有害なことはない。ジョージ・W・ブッシュでさえ、彼に比べたら論理的で、理性に富む人物になる。
トランプは、最近、アメリカン・フットボールについて話した。それは領土を奪い合うスポーツである。勝利するため、選手はタフで、恐れを知らない。選手たちは反対チームの誰かにタックルされる。しかし、ますます多くの研究で、ゲーム中のタックルは破滅的な結果をもたらす、とわかってきた。敵の選手を止めるために頭から衝突する。そして脳の障害、抑鬱、自殺に至ることがある。
トランプは、これまで素晴らしいタックルだと思っていたプレーが、暴力的な頭からのタックルだ、という。それに今では審判たちが違反の旗を上げる。「フットボールはソフトになった。この国もそうだ。」
「私を信じてほしい。私が事態を変えてやる。もう一度、われわれは大いに尊敬されるだろう。『恐れる』などという言葉を私は望まない。」 トランプのスローガン"Make
America great again!"は、アメリカが国際条約にも、マイノリティにも、良識の基準にも制約されない、という意味だ。
トランプは特異な人物だ。非常に裕福であり、選挙資金をすべて自分で出すことができる。ニューヨークの不動産王であり、TV番組のスターであり、候補者争いの前から、他の大統領候補者にはない有名人の性格があった。
トランプには躊躇や自省がない。ジェブ・ブッシュを、「エネルギーのない男だ」と繰り返し述べた。マルコ・ルビオは、努力家だろうが、「ウラジミール・プーチンのような強い指導者たちと交渉する」ときには手が出せないだろう、と言う。テッド・クルーズには、カナダ生まれであり、大統領になれない、と言う。そして、「ヒラリー・クリントンが、その夫に満足できないのなら、アメリカに満足するわけがない」と、ネットでささやいた。
こんなことで辞任する者はいないだろうが、トランプを支持する群衆は、こうした点で、彼こそがますます大胆で、その強さを示している、と確信する。
雑誌New
YorkerのGeorge
Packerが書いた本
"The Unwinding"は、アメリカの経済的な、そしてもっと重要な意味で、道徳的な衰退を描く。Packerは、トランプがファシストの性格を持っている、と言う。彼がロシアの権力者プーチンを大いに称賛するのは、苦心して妥協を探る民主主義の価値を追求する政治家たちより、プーチンがトランプに強い印象を与えるからだ。
トランプを支持するアメリカ人なんて狂っている、とヨーロッパの人々は言うが、トランプはルペンやオルバンとよく似ている。2008年の金融危機が多くのアメリカ人にトランプのような人物を受け入れ可能にしたし、強い支持を生む背景にある、Packerは考える。彼らは無視されており、政治の中心から切り離され、裏切られた、と感じているからだ。
Michael D'Antonioはトランプの伝記を書いた。トランプとは全く逆の性格で、明るく、思慮深い人物だ。彼は、その初期にはトランプの協力を得て、彼の伝記を書いた。何度もインタビューし、家族や3人の妻とも話した。しかし、D'Antonioもトランプの批判者でしかないとわかると、計画は即座にキャンセルされた。
トランプは本を読まない。アメリカ社会について何も真剣に、深く考えていない。外交政策について誰を顧問にするかと訊かれて、トランプは、自分でテレビショーを観るよ、と応えた。D'Antonioによれば、アメリカ社会は野心と自己栄達という2つを中心に回っている。だからトランプは最もふさわしい英雄なのだ。彼ほど野心とナルシシズムを強く示す人物はいない。
共和党の関係者はトランプを嫌っている。しかし、クリントンを大統領にしたくない、と思う共和党支持者は、たとえトランプを嫌っていても、彼を支持するかもしれない。
NYT FEB.
1, 2016
How Both
Parties Lost the White Middle Class
By R.R. RENO
The
Guardian, Tuesday 2 February 2016
The
fractures in America’s political landscape have been exposed
Gary Younge
FT
February 2, 2016
Trump
defeat in Iowa throws Republican race wide open
Demetri Sevastopulo and Courtney Weaver in
Des Moines
FT
February 2, 2016
Two split
parties braced for an ugly fight after Iowa
Edward Luce in Iowa
FT
February 2, 2016
Republicans
look to Rubio after Iowa result
NYT FEB.
2, 2016
Donald
Trump Isn’t Real
David Brooks
NYT FEB.
2, 2016
A Triumph
for Ted Cruz
By ARTHUR C. BROOKS and GAIL COLLINS
FP
FEBRUARY 2, 2016
Cruz Takes
Iowa With Tough Talk While Clinton, Sanders Split Caucus Vote
BY MOLLY O’TOOLE
Bloomberg
FEB 2, 2016
The Perils
of Hindsight in Iowa
By Jonathan Bernstein
Bloomberg
FEB 2, 2016
If Only
Russia Could Have Iowa's Democracy
By Leonid Bershidsky
FP
FEBRUARY 3, 2016
Hail to
the Hugely Classy Commander-in-Chief
BY MICAH ZENKO
FP
FEBRUARY 3, 2016
The Big 5
and the Sad State of Foreign Policy in 2016
BY STEPHEN M. WALT
ルビオは無邪気なネオコンだ。テッドは誰からも嫌われている。ヒラリーはタカ派であり、バーニーは巨大な魚が空を飛ぶようなものだ。トランプが世界をぶちかます姿など、想像するだけでも最悪だ。
FT
February 3, 2016
Marco
Rubio becomes the man to beat in New Hampshire
Demetri Sevastopulo in Washington
NYT FEB.
4, 2016
The
Plausibility of Ted Cruz
Ross Douthat
NYT FEB.
4, 2016
And Now,
the Marco Memo
Gail Collins
(後半に続く)