IPEの果樹園2016
今週のReview
2/1-6
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ドイツとヨーロッパの移民システム ・・・反エリートとポピュリスト ・・・ヨーロッパのポピュリズム ・・・中国からの資本逃避 ・・・共和党の候補者争い ・・・世界株価の動揺 ・・・ギリシャ債務危機と難民危機 ・・・ジンバブエのドル化とデフレ ・・・スリランカの再生 ・・・政府債務の安全な水準
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l ドイツとヨーロッパの移民システム
SPIEGEL
ONLINE 01/25/2016
The
Isolated Chancellor
What Is
Driving Angela Merkel?
By Markus Feldenkirchen and René Pfister
メルケルは,東ドイツで壁の向こうに暮らしたことで,難民たちを有刺鉄線で排除する政策を取らないと決めた.政権を担う連立相手の保守派は,これが人道的な危機に対する一時的政策である,と考えていた.しかし,メルケルは固定化してしまった.
これまでメルケルは大きな政治目標を示さず,プラグマティックに決定して,敵を作らなかった.今度は違う.EUサミットでハンガリーのオルバン首相がメルケルを痛罵した.そのうちドイツも国境を閉ざし,オルバンが正しかったと分かるだろう,と.そのときメルケルは返答しなかった.
後でメルケルはオルバンに向けて答えた.「私はあまりにも長く壁の背後で暮らしたから,そのような時代が戻ってくるのを望まない.」
ショイブレは,こうしたメルケルの態度が,難民にとってドイツを歓迎する国にしてしまった,と批判する.メルケルを政権から降ろす計画がすでに現れ始めた.
メルケルが訪問した救援センターであったシリア難民の1人は,今もメルケルの写真を大切に保存している.しかし,彼が称賛したドイツの制度も,流入し続ける難民の多さに,ついに機能を停止したようだ.
l 反エリートとポピュリスト
FT January
26, 2016
The
economic losers are in revolt against the elites
Martin Wolf
敗者も投票する.民主主義とはそういうものだ.もし彼らが騙されたと思い,屈辱を感じているなら,アメリカではトランプに,フランスではル・ペンに,イギリスではファラージ投票するだろう.
彼らは,特に,自国生まれの労働者たちは,自国の国籍を大きな特権として扱う右派と,強力な国家介入を好む左派と,左右両派の権威主義的な体制を唱える政治家たちの唱える,破滅の誘惑に魅せられるだろう.
彼らは特にエリートを嫌う.その国の経済や文化を支配し,先週はダヴォスでワールド・エコノミック・フォーラムに出席したような人々だ.エリートたちはもっと洗練された対策を打つ必要がある.すでに手遅れかもしれないが.
右派の政治プロジェクトは,ずっと,限界税率の引き下げや,移民の自由化,グローバリゼーション,コストのかかる「社会給付」の削減,労働市場の規制緩和,株主利益の最大化であった.左派の政治プロジェクトは,(右派と同じ)移民の自由化,多文化主義,政教分離,多様性,堕胎の自由,人種やジェンダーの平等であった.そしてリバタリアンたちは,左右両派の大義を称賛し,それゆえ少数派である.
エリートたちは国内の忠誠心や問題関心から離れ,グローバルなスーパーエリートを形成し始めた.庶民は,特に,自国で生まれたことを重視する者たちは,こうしたエリートたちから疎外された.自国生まれの人々は,少なくとも相対的に見て,敗者である.金融危機後,経済の回復は遅く,生活水準はなかなか改善しなかった.彼らはエリートを収奪者や無能な支配者と見ている.
元世銀スタッフのBranko
Milanovicによれば,グローバルな所得分配の2つの部分,すなわち最下位5%と,75%から90%の間で,1988-2008年の間に所得が増えなかった.この後者には,高所得諸国の人口の大きな部分が含まれる.またワシントンのthe
Economic Policy Instituteによれば,普通の労働者の給与は,1970年代半ば以来,生産性の上昇に大きく遅れたままである.その理由としては,技術革新,貿易自由化,企業のガバナンス,金融自由化が指摘されるが,特にアメリカで,そして多くの高所得国でも,成長の果実はトップに集中しているのだ.
さらに,人口に占める移民の割合が急速に増えた.このことは経済,社会,文化面で,多数の国民に利益をもたらした.しかし,トップの人々,ビジネス界が大きな利益を得たのは明らかだ.自国の労働者に十分な社会福祉を求めたとしても,左派はますます支持者を失った.
こうした問題は,人種的,文化的要素の強い,アメリカで顕著である.南部の白人有権者に的を絞ったリチャード・ニクソンの「南部戦略」は成功した.人種,ジェンダー,文化の変化に憤慨する中産階級(特に男性)において,共和党の戦略は失敗した.減税や規制緩和は,共和党支持者たちに喜ばれなかったからだ.
トランプは保守派ではない,と共和党のイデオローグは批判する.トランプはポピュリストだ.実現できない減税策を唱えて,共和党の財政赤字反対論などバカにする.保護貿易や移民排斥を唱える.彼の支持者たちは,その唯一の資産ともいえる,国籍,を特権化し,無数の外国人と共有することを望まない.ル・ペンやファラージもそうだ.
こうした自国民優先主義者を選挙で勝利させてはならない.特にアメリカの場合,それは世界的に深刻な結末をもたらす.アメリカは,グローバルでリベラルな秩序の創設者であり,保証人である.世界は,正しく情報を理解した,アメリカの指導力を必要としている.トランプはそうではない.
エリートたちは警告を受けている.減税,移民流入,規制の弱体化は右派のエリートを憎ませ,文化相対主義や国境管理の甘さは,左派が市民を犠牲にしたとみなされる.多数の人々がエリートの政治プロジェクトを支持しなくなっている.
その危険な怨嗟はいたるところに充満している.
l ロシアと原油価格の下落
Bloomberg
JAN 22, 2016
Repression
or Reform, Putin Must Decide
By Leonid Bershidsky
石油価格が30ドルにまで下落し,今週,ルーブルは10%減価した.ロシアの経済危機に対処する一貫した対策は示されていない.プーチン大統領は,ソビエト連邦の最後の指導者,ゴルバチョフと同じ選択に直面する.すなわち,経済管理を緩め,対外的な攻勢を抑えて,西側との和解を操縦するか,国内の弾圧に向かうのか?
ゴルバチョフは独立指向のソビエトの各共和国を弾圧するのに失敗してから,前者を選んだが,プーチンは繰り返し自由化の試みに失敗した後で,もはやその選択肢はないだろう.第2の,弾圧という選択肢は,延期されているに過ぎない.
それはチェチェン共和国を自分の封建領土としているRamzan
Kadyrovが,プーチンに対して,事態の悪化を放置せず,自分がやったような容赦ない弾圧と行動を迫るものだ.チェチェンには,連邦予算から突出した巨額の支援が行われているが,石油価格下落により削減が進められている.
FT January
24, 2016
Reasons
for Russia’s rouble rollercoaster ride
Sergie Guriev
ルーブルの変動は、まるでジェットコースターだ。ルーブルの為替レートを決めるのは、石油価格、資本流出、ロシア中央銀行の政策、である。資本流出は予想よりも少なかった。ウクライナに関する制裁で、ロシアへの投資は底に達したからだろう。また、ロシア中央銀行の政策も、為替レートを維持するより、外貨準備を維持するために変動レートを許容する方向に転じた。
しかし、危機は続くだろう。石油の輸出によって財政が維持されている限り、ロシアの経済とルーブルは石油価格の変動に翻弄され続ける。ロシア経済の多様化を政府は目標としてきたが、所有権や法の支配が確立されず、市場による構造改革は進まなかった。
l ヨーロッパのポピュリズム
FT January
27, 2016
Europe’s
new right sounds like the old left
Anne Applebaum
リーマン・ブラザーズが倒産し、国際金融システムが死の苦しみにもだえていたとき、私の友人が電話してきた。世界は終末に向かっている、というのだ。彼は金融市場で働き、信仰に篤いわけではなかったが、「資本主義の危機」は、マルクスが指摘したように、訪れたのだ。
しかし、世界は終わらず、国際的なプロレタリア革命も起きなかった。かつてのようなマルクス主義やそれに近い政治党派が西ヨーロッパにあれば、群衆が街頭を占拠しただろう。しかし、マルクス主義者たちはソ連崩壊で完全に信用を失ってしまった。20年経っても、革命を試みる者はいなかった。経済的にも、政治的にも、左派は支持されなくなっていた。
その後、8年を経て、状況は大きく変化した。Syriza in
Greece, Podemos in Spain and Jeremy Corbyn’s British Labour partyなど、多くの旧左派が復活したのだ。産業を国有化し、自由貿易の阻止を唱えている。しかし、より注目すべきは、極右と呼んでいた右派の台頭である。ヨーロッパのナショナリスト政党は、長く政治の片隅で活動したが、今や、信用を失った「左派」のアイデアを採用して、得票を増やしている。
たとえば、フランスの国民戦線だ。反移民だけでなく、Marine
Le Pen党首になって、旧左派のシンボルや政策を採用した。2014年のメーデーでは、「厳格な財政緊縮策」を「民衆を犠牲にしてグローバル・エリートを利するものだ」と攻撃した。国民戦線は、「エスタブリッシュメント」を追放して、「強力な国家」が輸入に課税し、外国の企業や銀行を国有化する、と主張した。
すでにハンガリーでは、Viktor
Orban首相がそれを実行している。1990年代の民営化で主要な目標となっていた政治的な縁故主義の廃止も、今では復活した。ポーランドではLaw
and Justice partyが、外国の企業や銀行の「再ポーランド化」を進めている。最近、選挙で勝利したが、彼らは社会保障支出の増大を公約した。イギリス独立党も国民医療サービスの増額を唱えている。デンマークとスウェーデンのナショナリスト政党は、自国生まれの国民に対してだけ、福祉国家の拡大を主張する。
オーストリアFreedom
Partyの指導者Heinz-Christian
Stracheは、「ネオリベラル」の合意を攻撃し、グローバリゼーションのもたらす荒廃、国際資本の邪悪さ、大規模な革命の必要性を説き、往年のマルクス主義者そのものだ。
これは時流を利用する日和見主義であろう。しかし、それがどれほど愚かでも、若者には新鮮に思える。特に、反論を許さないインターネット上の宣伝では効果的だ。彼らの政策はすでに何度も試みられ、失敗したものだ。しかし新しいナショナリストの旗の下で、再現するかもしれない。
l 共和党の候補者争い
FT January
28, 2016
US
election: Trumped by ‘The Donald’
Demetri Sevastopulo
トランプが「政治的な正しさ」を無視して1100万人の非合法移民を国外退去させる,と言ったとき,共和党の幹部は恐慌に陥った.もしトランプが共和党の大統領候補になったら,その激しい移民攻撃が,次の選挙で共和党の候補者たちに影響するからだ.
彼こそは暴露番組のテレビ・スターである.Fox
Newsの共和党候補討論会で不当に扱われた,とトランプは女性テレビ司会者を批判し,それが大きく話題になった.政治家たちはこうした形で討論会を無視できなかった.トランプは違う.
共和党の幹部は,トランプだけが頭痛の種ではない.テッド・クルーズもそうだ.ティー・パーティーが支援するテキサスの上院議員で,他の上院議員たちから嫌われている.トランプとクルーズはその支持者に違いがあるが,共通している点は,ワシントン(既存の政治家や政治システム)に対する強い憤りだ.
トランプの支持者は,白人,労働者階級,男性,高校卒業が多い.世界金融危機からアメリカ経済の回復過程で,彼らの賃金水準は停滞したままだった.彼らの多くは非合法移民を嫌っている.賃金の低下や雇用を失うことに関係していると思うからだ.その文化的な変化,人口に占める白人の割合の減少も,彼らの不満になる.
トランプは白人労働者階級の時代精神である,と見ることができる.彼が,「アメリカはもう勝てない」というとき,支持者たちは大きくうなずく.中国を非難し,日本を非難し,メキシコからの非合法移民を非難する.しかし,この男がマンハッタンの邸宅に住み,ボーイング757を自家用機にして飛び回っていることを,アメリカ庶民は無視している点で,弁舌とコミュニケーション能力の天才なのだ.
l 世界株価の動揺
NYT JAN.
22, 2016
How
Stories Drive the Stock Market
By ROBERT J. SHILLER
エコノミストのほとんどは、こうした大衆の話や情緒的な影響力に言及しない。歴史家も無視する。しかし、イエール大学の歴史家Ramsay
MacMullenは例外である。彼は「歴史とは感覚・感情である。」と書いた。それは我々のすることに影響し、読むことができ、書き手と読者が存在する、と。歴史家はそれを忘れてしまった。
奴隷制に関するElijah
Lovejoyの話は、その後、南北戦争と奴隷制廃止に至る。大衆的な話は重要である。それらは革命をもたらし、あるいは市場の崩壊につながる。しかし、話がどのように影響するかは、時が経たねばわからない。
l ギリシャ債務危機と難民危機
FT January
25, 2016
Greek debt
is the key to the refugee crisis
Gideon Rachman
EUは、この半年間で2つの重大な危機に直面した。ユーロ危機と難民危機である。偶然も、2つの国が問題の中心にある。ギリシャとドイツだ。
昨年の夏、ドイツはギリシャをEUから離脱させる寸前であった。現在、ドイツは100万人に及ぶ難民の流入に動揺している。難民たちの多くがギリシャからEUに入ってくる。これら2つの問題を外交的に結びつけて、創造的に解決するときだ。
そのアイデアは単純なものだ。ギリシャはEUの支援を受けて、ヨーロッパ北部に向かう難民を北部国境で封印する。その代償として、ドイツはギリシャの債務を免除し、現在の財政危機にも金融支援を行う。ギリシャについた難民たちは、ギリシャの島でEUが運営する難民キャンプに収容し、平和が回復されたときに、シリアや彼らが望む土地に戻ると予想される。
この計画はこじつけのように見えるだろう。しかし、そのいくつかは、実際に試行錯誤の結果として起きていることだ。また、ギリシャに難民を詰め込んでおく、というのは、一見、恐るべき考えである。25%を超える失業率とGDPの180%に達する債務を負う国が、絶望した数十万人の移民を受け入れるのだ。
しかし、問題の根源には債務がある。債務がギリシャ経済を押しつぶしている、とチプラス政権は繰り返し訴えてきた。他方、ギリシャの最大の債権者であるドイツは、ドイツからギリシャ政府への融資が最終的にすべて返済されねばならない、と何度も主張した。難民危機は、いつ返すかもわからない抽象的なギリシャ債務問題より、ドイツの有権者たちにとってはるかに深刻な緊急の問題を生じた。
もしギリシャがドイツの難民問題に対して多大の貢献をしていると思えば、メルケル首相はドイツの有権者にギリシャ債務の免除を説得しやすくなるだろう。そしてドイツが動けば、他の債権者も免除に動く。この取引はギリシャにとっても非常に有益だ。返済不能の債務負担を取り除き、EUの難民受入れセンターとして役割を果たすことができる。そしてEUは、ギリシャ内で難民支援センターに出資し、これを運営して、保護し、子供たちに教育し、大人には働く機会を与えるだろう。
多くのヨーロッパ市民は、命の危険を逃れてくる難民に同情しているが、同時に、中東からの制御できない移民流入を心配している。これらを明確に分離することが重要だ。一方は戦争からの一時的な避難であり、他方は恒久的なEU移民である。2つの結びつきを厳格に切り離すことで,ヨーロッパの世論は支持に変わる.そのモデルは第2次世界大戦後の難民救済だ.数百万人が避難キャンプにいた.たとえ国境が変わっても,彼らの多くは帰還を支持した.
難民たちの帰還を前提することは,シリアの将来の再建にも役立つ.パレスチナ難民キャンプのように長期化する場合,彼らの資格を見直す可能性はあるが,このアイデアを超える良い提案は聞いたことがない.現在のカオスを秩序ある状態に改善するべきだ.
l スリランカの再生
Project
Syndicate JAN 25, 2016
Sri
Lanka’s Rebirth
JOSEPH E. STIGLITZ
30年に及ぶ激しい内戦を経て,平和を実現するには,スリランカ政府が過渡的な正義の実現を確保するだけでなく,タミール人を社会統合するバランスの取れた是正策affirmative-action
programsを実施しなければならない.
インフラ,教育,テクノロジーへの公共投資が重要であるが,それはスリランカ経済の成長減速に対する正しい対策にもなる.商品ブームの終わりや観光客の減少によって,スリランカは国際収支危機に向かっている.IMF融資を求めるべきだという意見もあるが,スリランカの国民は支持しないし,幸い,正しい政策を取るための税制を実現できる余地がある.
スリランカには豊かな陽光と風がある,炭素税を導入して,(公共投資で)総需要を増やし,脱炭素のグリーン経済に移行し,(石油輸入を減らして)国際収支を改善することができる.累進的な不動産税を課して,資源を生産的利用に向け,不平等を是正し,税収を増やすことができる.奢侈財の多くは輸入されており,課税することが望ましい.
こうした政策は,通常,勧告される,直接投資を増やすための減税や,政府・民間のパートナーシップと異なっている.前者は効果が疑わしく,また,後者もリスクを政府に追わせて,利益は民間が国外に持ち出す場合が多い.21世紀の開発戦略は学習を重視するものだ.生産を学び,輸出を学び,教育を学ぶ.スリランカの場合,未熟練労働者を雇用する繊維産業のような段階は飛ばして,その高い教育水準を生かし,先端技術部門,高度に生産的な有機農業,高水準の環境ツーリズム,を目指すべきだろう.
そのためには,まだ都市化の遅れているスリランカで,島全体の環境規制と,今後数十年の健全な都市化を計画する必要がある.それは,公共サービスや公共輸送においてモデル都市を実現し,気候変動にも対応するチャンスである.
スリランカのインド洋における戦略的な位置は,地域全体の経済ハブとなり,金融センターや不安定な世界から逃れて安定性を求める者の非難所になる可能性がある.その実現は,過度に市場だけを頼らず,公共財への投資を怠らないようにするべきだ.平和と,国民を代表する政治制度が回復されたスリランカには,それができるだろう.
l 政府債務の安全な水準
Project
Syndicate JAN 27, 2016
The Global
Economy’s Marshmallow Test
JEFFREY D. SACHS
2016年の初めから世界経済は動揺している。株価の急落、国際商品価格の下落により生じた新興経済の後退、難民流入とヨーロッパの不安定化、そして、資本流入の逆転、過大評価された人民元から、中後港の成長も減速した。
この状況を抜け出す4つの原則がある。1.グローバル経済の前進には高貯蓄と高投資が必要である。2.貯蓄と投資の流れはグローバルである。3.完全雇用は高貯蓄に応じる高投資にかかっている。4.ビジネスの民間投資は、インフラや人的資本への公的投資にかかっている。
アメリカのエコノミストたちが、中国に消費を増やし、貯蓄を減らすように求めるのは、間違っている。彼らは単に、アメリカの悪い習慣を広めているだけだ。中国の人口は急速に高齢化している。中国人は老後に備えて貯蓄している。他方、低所得のアフリカやアジアでは、資本が不足し、若者が増加している。彼らは中国の貯蓄を借りて、将来の経済発展に向けた教育、職業訓練、インフラに投資するのがよい。
しかし、こうしたグローバルな貯蓄のフローは自動的に起きない。もし貯蓄の流れが正しい方向で起きなければ、過剰消費や失業が増大する。現代では、社会的なリターンの大きい投資が、低炭素エネルギーや、スマート・パワー・グリッド、情報化された医療サービスなど、政府・民間のパートナーシップで行われている。かつて、鉄道建設、航空、自動車、半導体、人工衛星、GPS、フラッキング、原子力、ゲノム、インターネットもそうだった。
われわれのグローバルな問題とは、金融仲介機能が、長期の貯蓄と長期の投資を適切に結びつけていないことだ。多くの政府、特にアメリカ政府は、教育やインフラに対する長期投資が慢性的に不足している。その結果、グローバルな需要は不足し、高度に浮動的な短期資本が消費や不動産の取引を融資している。
中国のAIIBと “One Belt, One
Road” は、正しい方向を目指している。中国の生産する資本財を、低所得諸国の高成長に向けた投資として購入するよう、融資で助けている。公的・民間の、長期投資を増やすことによってのみ、世界経済は現在の不安定性と低成長から抜け出せる。
Project
Syndicate JAN 28, 2016
How Much
Debt Is Too Much?
ROBERT SKIDELSKY
家計にとって債務と所得の安全な比率、政府にとっては債務とGDPの安全な比率は、あるのか? 答えはYESである。しかし、それがなんであるかを正確に言うことは不可能だ。2000年以来、債務が膨張しているだけでなく、政府債務の問題が過度の関心を呼んでいる。
戦争のときにも債務は増えた。しかし、その後の財政均衡が期待されていた。今は債務が増え続けても、むしろ税率を下げている。何が「安全な」比率であるのか、はそれが置かれた条件によって変わるのだ。
デンマークとアメリカを考えてみる。2007年、デンマークの家計は、所得に対する債務比率が269%に達した。他方、アメリカの場合、そのピークは125%であった。しかし、デンマークの家計で破産する率はほとんど無視できるほどであり、アメリカとは違った。アメリカは不況の中にあり、住宅債務の4分の1が市場化された形で住宅の価格を下回り、戦略的にデフォルトを選ぶ家計もあって、さらに住宅価格を下げた。
その違いは、借り手の配分による。デンマークで債務は高所得の家計に多かった。またモーゲージは不動産の価値の80%以下に制限されていた。他方、アメリカの債務は、最も低い所得の家計が高い債務・所得比率を示した。モーゲージは、アメリカだけでなく、スペイン、アイルランドでも、投機的に利用された。
政府については、日本の債務/GDP比率が230%である一方、ギリシャは177%である。しかし、その帰結はギリシャの方が日本に比べてはるかに悪い。その違いは、貸し手の配分による。日本の国債の保有者はほとんどが国民(しかも日銀ではない)である。その関心は政治的な安定性にある。ギリシャの政府債券はその多くを外国の銀行が保有する。外国人の保有する債券には信認の危機がすぐに生じるけれど、国内貯蓄からの政府借入は制約されない。
GDPに対する政府債務の比率は、ドイツ、ギリシャ、アイルランドを例外として、上昇しつつある。債務の目的が重要だ。それが現在の消費を維持するために使用されているなら、債務危機になりやすい。他方、現在のように実質金利がゼロやマイナスのときは、政府が投資する好機である。それが生産的な資産に投資されているなら、債券保有者は心配する必要がない。
長期的に見て、債務は生産性を高めることによってのみ返済できる。しかし、政府はこの長期の再建過程を短縮できる。景気回復が不十分なとき、成長が停滞するときに、増税したり、社会福祉を削減したりするのは間違いだ。財政再建には、成長率を高める積極的な政策が必要だ。デフレ的な効果のある財政政策より、それを打ち消す金融緩和が重要である。
政府が中央銀行からの借り入れに頼ることも、中央銀行からの債務は返済する必要がない、と明言することもタブーである。しかし、政府の債務/GDP比率だけに関心を向けることは間違っている。
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The Economist January 16th 2016
The yuan and the markets
Chinese politics: A crisis of faith
China’s labour market: Shocks and absorbers
Free exchange: Fight or flight
Immigration and asylum: Migrant men and European women
Barack Obama: A voice in the wilderness
Water politics: Sharing the Nile
Botswana: Losing its sparkle
(コメント) 中国の株価から成長、そして人民元にも不安が広まってきた。それは中国政府やエリートたちへの信認の危機になってくる。資本逃避を抑えるのはむつかしい。しかし、人民元を変動させて大幅な減価を許すことも、為替レートを固定することも、必ずしも答えにならない。現状のまま不安を放置すれば、外貨準備が減少する。さまざまな改革を進めて行けば、労働市場が効果的に機能するのか?
ヨーロッパの移民がケルンで起こした女性への性的ハラスメントや犯罪について、オバマ・ドクトリンの理想と現実について、ナイル川をめぐる流域諸国の対立と協力のメカニズムについて、そしてダイヤモンド鉱山の発見から民主的なガバナンスを確立したはずのボツワナが、世界需要の減退に初めて経験する需要減少のショックに耐える局面で、政治の力量が問われています。
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IPEの想像力 2/1/16
ロシアや中国の通貨が価値を失うとき,その背後で、何が起きているのでしょうか?
社会が変化する過程で、市場が強く作用する.それは確かであり,しかも,そのメカニズムを描く点で経済学は知識を積み重ねてきました.
しかし、貧困や欠乏をめぐる震災後の社会は、経済学を変えませんでした。金融危機後の格差や不安定さが増大する社会も、インターネットが増幅する欲望をもてあそぶ社会も、経済学を変えていません。それは、逆に、経済学の限界、対象領域や問題意識の狭さを表明しているのではないでしょうか?
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Eテレ・日曜美術館で、村上隆の「五百羅漢図」を観ました。
村上氏については何も知りません。番組は、「スーパーフラット」を紹介し、日本の伝統美術とアニメの感覚を基に、世界に向けて発信することで、ニューヨークの指導的なアーティストの1人となった、と解説していました。
映画やテレビに似たスタジオ形式の美術製作をアメリカで始めた村上氏は、「五百羅漢図」を100メートルにわたって、キャンバス100枚に描く作業を組織します。ボランティアとして集まった美大生約300人と作った協同芸術作品です。
「五百羅漢図」には、天を突く巨大な羅漢から、子供が見ても楽しむことのできる小さな羅漢たちまで、さまざまな容姿の羅漢が、異なる若い画家たちによって表現されました。龍、白虎、白鯨。鳳凰。孔雀もいます。それぞれのキャンバスは4面の異なる大画面を構成し、観衆を異世界に招く仕掛けを用意しています。
釈迦が人々の苦難を救う、というメッセージは、その時代時代によって意味と形を変えながら、継承されてきたものです。Eテレが紹介していたのは、作品と3・11東日本大震災との関係でした。アウシュビッツの後、芸術家たちが悩んだように、村上氏は3・11後の芸術の可能性を悲観し、同時に、狩野一信が安政大地震の後に描いた五百羅漢図を観て、この作品を描こう、と確信したそうです。
巨大な作品の構想は、3・11に早期の支援を行ったカタールの王女が展覧会を依頼したことから生まれたようです。王女が間違って、資料として送ったロサンゼルスの美術館と同じものを、村上氏の展示会場として建ててしまった。それに見合う大きな作品を村上は考えた、と言います。
「怪物を描くこと」に村上氏はこだわります。日本の怪獣文化は、現代世界に通じており、さまざまな映画にも表現されます。人間は,今や,怪物化している、という言葉に共感します。
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この果樹園は、大学に職を得て、安定した所得を与えられながら、これでよいのか、と走り続けてきた私にとっての「五百羅漢図」かもしれません。
東欧・ソ連の社会主義圏崩壊や「アラブの春」、世界金融危機を、好ましい方向への社会変化に導けなかった理由は、市場・市民的自由を解放する過程で生じた混乱から、社会科学の刷新を求める声に応えなかった思想家たちの責任です。石油の市場価格は暴落したまま、中東地域の秩序が再編される歴史的瞬間を待っています。そして中国でも、市場によって発揮される、生産力の爆発的な拡大と欲望や不安の連鎖・波及を扱う、政治社会過程の再編が続きます。
市場が強く作用するとき、その秩序崩壊の圧力によって辺境から政治社会の岩盤が破壊されていくことを、世界の中枢都市に住む人々もようやく意識するようになりました。
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