前半から続く)


NYT JAN. 23, 2016

The Way to Stop Trump

Ross Douthat

NYT JAN. 25, 2016

Donald Trump Goes Rogue

Roger Cohen

NYT JAN. 26, 2016

Stay Sane America, Please!

David Brooks

NYT JAN. 26, 2016

Wait. Which Party Is Imploding?

By ARTHUR C. BROOKS and GAIL COLLINS

NYT JAN. 27, 2016

The Twinned Egos of Cruz and Trump

Frank Bruni

NYT JAN. 27, 2016

For Bloomberg, Ambition Vies With Caution

By JOYCE PURNICK

FT January 28, 2016

US election: Trumped by ‘The Donald’

Demetri Sevastopulo

トランプが「政治的な正しさ」を無視して1100万人の非合法移民を国外退去させる,と言ったとき,共和党の幹部は恐慌に陥った.もしトランプが共和党の大統領候補になったら,その激しい移民攻撃が,次の選挙で共和党の候補者たちに影響するからだ.

彼こそは暴露番組のテレビ・スターである.Fox Newsの共和党候補討論会で不当に扱われた,とトランプは女性テレビ司会者を批判し,それが大きく話題になった.政治家たちはこうした形で討論会を無視できなかった.トランプは違う.

共和党の幹部は,トランプだけが頭痛の種ではない.テッド・クルーズもそうだ.ティー・パーティーが支援するテキサスの上院議員で,他の上院議員たちから嫌われている.トランプとクルーズはその支持者に違いがあるが,共通している点は,ワシントン(既存の政治家や政治システム)に対する強い憤りだ.

トランプの支持者は,白人,労働者階級,男性,高校卒業が多い.世界金融危機からアメリカ経済の回復過程で,彼らの賃金水準は停滞したままだった.彼らの多くは非合法移民を嫌っている.賃金の低下や雇用を失うことに関係していると思うからだ.その文化的な変化,人口に占める白人の割合の減少も,彼らの不満になる.

トランプは白人労働者階級の時代精神である,と見ることができる.彼が,「アメリカはもう勝てない」というとき,支持者たちは大きくうなずく.中国を非難し,日本を非難し,メキシコからの非合法移民を非難する.しかし,この男がマンハッタンの邸宅に住み,ボーイング757を自家用機にして飛び回っていることを,アメリカ庶民は無視している点で,弁舌とコミュニケーション能力の天才なのだ.

NYT JAN. 28, 2016

Why Isn’t Marco Rubio Winning?

Ross Douthat

NYT JAN. 28, 2016

Deconstructing Hillary and Bernie

Gail Collins


l  政治的無能さ

NYT JAN. 22, 2016

The Anxieties of Impotence

David Brooks


l  エジプトの体制崩壊

FP JANUARY 22, 2016

Sisi’s Fracturing Regime

BY ERIC TRAGER

FT January 26, 2016

Iran poses an economic challenge to Saudi Arabia

David GardnerDavid Gardner

FP JANUARY 26, 2016

China’s New Grand Strategy for the Middle East

BY GAL LUFT


l  世界株価の動揺

NYT JAN. 22, 2016

How Stories Drive the Stock Market

By ROBERT J. SHILLER

年初からの株価下落で、われわれの周りに流れる話が変わってきた。突然、さらなる株価下落や、もしかしたら不況になる、という。

株価が景気の先行指標である、ということはもちろんだ。しかし、こうしたTalks, Narratives話が示す心理がある。多くの人が語る話は、人々の関心や動機を変えるからだ。

最近よく聞く話は、中国の株価や経済パフォーマンスの悪化だ。これは西側の中国に関する感情が加味されている。中国の失敗は、西側の愛国心や競争心を刺激するのだ。こうした話は、中国がわれわれの経済に及ぼす影響を誇張している。

次に、年初の株価下落に関する話だ。しかし、年初に価格が変化しても、特別な意味は何位もない。キリスト教徒の新年は、ギリシャ正教徒、ユダヤ教徒、イスラム教徒、中国人、などの新年と異なっている。

ただし、そのような感覚は現実に影響する。2000年初めの株価は、新千年を祝って上昇した。実際は、それが西暦でも200111日であるということは無視された。また、1881年以来の最高水準に達していた株価収益率も、無視された。そして2000114日をピークに、株価は急落したのだ。

3の話は、石油に関するもの、特にその低価格だ。数年前は、石油の新しい採取方法、フラッキング、がアメリカの成功を示す話だった。アメリカ社会の技術革新をもたらす能力が称賛された。フラッキング革命は、アメリカを世界有数の石油輸出国にすると言われ、株式市場に影響を与えた。しかし、低価格はこの話の英雄たちを廃業させた。石油供給の増大は問題の一部になった。

4に、2009年から2014年に、アメリカの株価が3倍になり、今年、それが突如として逆転する、という話がある。これも統計的な話ではなく、人間の関心がかかわっている。この株価上昇で富を得る機会を逸した、という人々の意識がある。2008年のショックで人々は株式から手を引いたが、市場の回復を確信する者は利益を得た。また、市場が人々の間違いや、それを正す可能性に非常に敏感であることを示している。

エコノミストのほとんどは、こうした大衆の話や情緒的な影響力に言及しない。歴史家も無視する。しかし、イエール大学の歴史家Ramsay MacMullenは例外である。彼は「歴史とは感覚・感情である。」と書いた。それは我々のすることに影響し、読むことができ、書き手と読者が存在する、と。歴史家はそれを忘れてしまった。

奴隷制に関するElijah Lovejoyの話は、その後、南北戦争と奴隷制廃止に至る。大衆的な話は重要である。それらは革命をもたらし、あるいは市場の崩壊につながる。しかし、話がどのように影響するかは、時が経たねばわからない。

The Guardian, Monday 25 January 2016

How would you pull a Big Short in 2016?

Paul Mason

Bloomberg JAN 26, 2016

Goodbye, Golden Age of Growth

By Robert J. Gordon

将来の技術革新は過去のように高い成長を実現するのか? AI、ロボット、3Dプリンター、その他、デジタル革命からの派生技術は、1920-1970年の第2次産業革命に匹敵するのか? 技術・楽観論者はそうだと言う。しかし、私はそう思わない。1870-1970年、アメリカの生活水準上昇は、特別な1世紀であって、それを再現することはないだろう。

ただし良いニュースとしては、完全雇用が維持される、ということだ。

1920-70年の拡大は、第2次産業革命により生じた。それは、化石燃料、内燃機関、金属加工、工場の自動化、などが合わさって、電気照明、屋内配管、家電、自動車、旅客機、エアコン、テレビ、そして平均寿命が大いに伸びたからだ。

The Guardian, Wednesday 27 January 2016

The Guardian view on the economy: learn the lessons of 2008 before the next slump hits

Editorial

Project Syndicate JAN 28, 2016

The Return of the Currency Crash

CARMEN REINHART


l  教育の無制限な提供

NYT JAN. 22, 2016

What a Million Syllabuses Can Teach Us

By JOE KARAGANIS and DAVID McCLURE


l  将来の経済学

FT January 25, 2016

Humans have nothing to fear from intelligent machines

Luciano Floridi

Bloomberg JAN 27, 2016

Jobs Are Under Attack, But Not by Robots

By Robert J. Gordon

Project Syndicate JAN 28, 2016

Economics in the Age of Abundance

J. BRADFORD DELONG

経済学は、人類が十分な食糧を得ることもできない状態であった時代が前提であった。今なお、人類の多くはそうである。しかし、アメリカの農業に従事する労働者は全体の1%程度でしかない。食糧の輸送や加工、関連産業を含めるともっと増えて14%になるが、彼らは全人口に対して十分な食糧を生産している。しかし、その数は、娯楽や芸術に関連する産業に従事する労働者よりも少ない。

生活に不可欠なものの生産に関する経済学とは異なる、豊富な時代の経済学が求められている。150年前には、K.マルクスやJ.S.ミルが、3世代後にインドとイギリスが経済的に収斂することを信じていた。世界人口の約3分の1は、今も食糧を得るために格闘している。他方、核兵器や、政治の混乱、気候変動による社会混乱、など、多くの問題が解決されていない。

経済成長の成果を用いて、こうした問題の解決を促す、包括的な社会変化を目指す経済学が必要だ。


l  Googleへの公正な課税

The Guardian, Monday 25 January 2016

The Guardian view on Google’s taxes: the missing algorithm

Editorial

FT January 27, 2016

Alphabet and Apple spell global tax war

John Gapper


l  ギリシャ債務危機と難民危機

FT January 25, 2016

Greek debt is the key to the refugee crisis

Gideon Rachman

EUは、この半年間で2つの重大な危機に直面した。ユーロ危機と難民危機である。偶然も、2つの国が問題の中心にある。ギリシャとドイツだ。

昨年の夏、ドイツはギリシャをEUから離脱させる寸前であった。現在、ドイツは100万人に及ぶ難民の流入に動揺している。難民たちの多くがギリシャからEUに入ってくる。これら2つの問題を外交的に結びつけて、創造的に解決するときだ。

そのアイデアは単純なものだ。ギリシャはEUの支援を受けて、ヨーロッパ北部に向かう難民を北部国境で封印する。その代償として、ドイツはギリシャの債務を免除し、現在の財政危機にも金融支援を行う。ギリシャについた難民たちは、ギリシャの島でEUが運営する難民キャンプに収容し、平和が回復されたときに、シリアや彼らが望む土地に戻ると予想される。

この計画はこじつけのように見えるだろう。しかし、そのいくつかは、実際に試行錯誤の結果として起きていることだ。また、ギリシャに難民を詰め込んでおく、というのは、一見、恐るべき考えである。25%を超える失業率とGDP180%に達する債務を負う国が、絶望した数十万人の移民を受け入れるのだ。

しかし、問題の根源には債務がある。債務がギリシャ経済を押しつぶしている、とチプラス政権は繰り返し訴えてきた。他方、ギリシャの最大の債権者であるドイツは、ドイツからギリシャ政府への融資が最終的にすべて返済されねばならない、と何度も主張した。難民危機は、いつ返すかもわからない抽象的なギリシャ債務問題より、ドイツの有権者たちにとってはるかに深刻な緊急の問題を生じた。

もしギリシャがドイツの難民問題に対して多大の貢献をしていると思えば、メルケル首相はドイツの有権者にギリシャ債務の免除を説得しやすくなるだろう。そしてドイツが動けば、他の債権者も免除に動く。この取引はギリシャにとっても非常に有益だ。返済不能の債務負担を取り除き、EUの難民受入れセンターとして役割を果たすことができる。そしてEUは、ギリシャ内で難民支援センターに出資し、これを運営して、保護し、子供たちに教育し、大人には働く機会を与えるだろう。

多くのヨーロッパ市民は、命の危険を逃れてくる難民に同情しているが、同時に、中東からの制御できない移民流入を心配している。これらを明確に分離することが重要だ。一方は戦争からの一時的な避難であり、他方は恒久的なEU移民である。2つの結びつきを厳格に切り離すことで,ヨーロッパの世論は支持に変わる.そのモデルは第2次世界大戦後の難民救済だ.数百万人が避難キャンプにいた.たとえ国境が変わっても,彼らの多くは帰還を支持した.

難民たちの帰還を前提することは,シリアの将来の再建にも役立つ.パレスチナ難民キャンプのように長期化する場合,彼らの資格を見直す可能性はあるが,このアイデアを超える良い提案は聞いたことがない.現在のカオスを秩序ある状態に改善するべきだ.

FP JANUARY 26, 2016

Refugees Don’t Need Your Pity

BY ANNA BADKHEN

The Guardian, Wednesday 27 January 2016

Denmark’s selfish stance does nothing to help the global refugee crisis

Michala Bendixen

Project Syndicate JAN 27, 2016

The Greece of the Caribbean

ANDRÉS VELASCO

NYT JAN. 27, 2016

Friends and Refugees in Need

Thomas L. Friedman

VOX 28 January 2016

Fiscal cost of refugees in Europe

Joakim Ruist


l  ジンバブエのドル化とデフレ

FT January 25, 2016

Zimbabwe swaps hyperinflation for deflation with use of US dollar

David Pilling and Andrew England in Harare


l  スリランカの再生

Project Syndicate JAN 25, 2016

Sri Lanka’s Rebirth

JOSEPH E. STIGLITZ

30年に及ぶ激しい内戦を経て,平和を実現するには,スリランカ政府が過渡的な正義の実現を確保するだけでなく,タミール人を社会統合するバランスの取れた是正策affirmative-action programsを実施しなければならない.

インフラ,教育,テクノロジーへの公共投資が重要であるが,それはスリランカ経済の成長減速に対する正しい対策にもなる.商品ブームの終わりや観光客の減少によって,スリランカは国際収支危機に向かっている.IMF融資を求めるべきだという意見もあるが,スリランカの国民は支持しないし,幸い,正しい政策を取るための税制を実現できる余地がある.

スリランカには豊かな陽光と風がある,炭素税を導入して,(公共投資で)総需要を増やし,脱炭素のグリーン経済に移行し,(石油輸入を減らして)国際収支を改善することができる.累進的な不動産税を課して,資源を生産的利用に向け,不平等を是正し,税収を増やすことができる.奢侈財の多くは輸入されており,課税することが望ましい.

こうした政策は,通常,勧告される,直接投資を増やすための減税や,政府・民間のパートナーシップと異なっている.前者は効果が疑わしく,また,後者もリスクを政府に追わせて,利益は民間が国外に持ち出す場合が多い.21世紀の開発戦略は学習を重視するものだ.生産を学び,輸出を学び,教育を学ぶ.スリランカの場合,未熟練労働者を雇用する繊維産業のような段階は飛ばして,その高い教育水準を生かし,先端技術部門,高度に生産的な有機農業,高水準の環境ツーリズム,を目指すべきだろう.

そのためには,まだ都市化の遅れているスリランカで,島全体の環境規制と,今後数十年の健全な都市化を計画する必要がある.それは,公共サービスや公共輸送においてモデル都市を実現し,気候変動にも対応するチャンスである.

スリランカのインド洋における戦略的な位置は,地域全体の経済ハブとなり,金融センターや不安定な世界から逃れて安定性を求める者の非難所になる可能性がある.その実現は,過度に市場だけを頼らず,公共財への投資を怠らないようにするべきだ.平和と,国民を代表する政治制度が回復されたスリランカには,それができるだろう.


l  核外交

Project Syndicate JAN 26, 2016

Nuclear Diplomacy’s Next Stop

CHRISTOPHER R. HILL


l  政府債務の安全な水準

Project Syndicate JAN 27, 2016

The Global Economy’s Marshmallow Test

JEFFREY D. SACHS

2016年の初めから世界経済は動揺している。株価の急落、国際商品価格の下落により生じた新興経済の後退、難民流入とヨーロッパの不安定化、そして、資本流入の逆転、過大評価された人民元から、中後港の成長も減速した。

この状況を抜け出す4つの原則がある。1.グローバル経済の前進には高貯蓄と高投資が必要である。2.貯蓄と投資の流れはグローバルである。3.完全雇用は高貯蓄に応じる高投資にかかっている。4.ビジネスの民間投資は、インフラや人的資本への公的投資にかかっている。

アメリカのエコノミストたちが、中国に消費を増やし、貯蓄を減らすように求めるのは、間違っている。彼らは単に、アメリカの悪い習慣を広めているだけだ。中国の人口は急速に高齢化している。中国人は老後に備えて貯蓄している。他方、低所得のアフリカやアジアでは、資本が不足し、若者が増加している。彼らは中国の貯蓄を借りて、将来の経済発展に向けた教育、職業訓練、インフラに投資するのがよい。

しかし、こうしたグローバルな貯蓄のフローは自動的に起きない。もし貯蓄の流れが正しい方向で起きなければ、過剰消費や失業が増大する。現代では、社会的なリターンの大きい投資が、低炭素エネルギーや、スマート・パワー・グリッド、情報化された医療サービスなど、政府・民間のパートナーシップで行われている。かつて、鉄道建設、航空、自動車、半導体、人工衛星、GPS、フラッキング、原子力、ゲノム、インターネットもそうだった。

われわれのグローバルな問題とは、金融仲介機能が、長期の貯蓄と長期の投資を適切に結びつけていないことだ。多くの政府、特にアメリカ政府は、教育やインフラに対する長期投資が慢性的に不足している。その結果、グローバルな需要は不足し、高度に浮動的な短期資本が消費や不動産の取引を融資している。

中国のAIIB “One Belt, One Road” は、正しい方向を目指している。中国の生産する資本財を、低所得諸国の高成長に向けた投資として購入するよう、融資で助けている。公的・民間の、長期投資を増やすことによってのみ、世界経済は現在の不安定性と低成長から抜け出せる。

Project Syndicate JAN 28, 2016

How Much Debt Is Too Much?

ROBERT SKIDELSKY

家計にとって債務と所得の安全な比率、政府にとっては債務とGDPの安全な比率は、あるのか? 答えはYESである。しかし、それがなんであるかを正確に言うことは不可能だ。2000年以来、債務が膨張しているだけでなく、政府債務の問題が過度の関心を呼んでいる。

戦争のときにも債務は増えた。しかし、その後の財政均衡が期待されていた。今は債務が増え続けても、むしろ税率を下げている。何が「安全な」比率であるのか、はそれが置かれた条件によって変わるのだ。

デンマークとアメリカを考えてみる。2007年、デンマークの家計は、所得に対する債務比率が269%に達した。他方、アメリカの場合、そのピークは125%であった。しかし、デンマークの家計で破産する率はほとんど無視できるほどであり、アメリカとは違った。アメリカは不況の中にあり、住宅債務の4分の1が市場化された形で住宅の価格を下回り、戦略的にデフォルトを選ぶ家計もあって、さらに住宅価格を下げた。

その違いは、借り手の配分による。デンマークで債務は高所得の家計に多かった。またモーゲージは不動産の価値の80%以下に制限されていた。他方、アメリカの債務は、最も低い所得の家計が高い債務・所得比率を示した。モーゲージは、アメリカだけでなく、スペイン、アイルランドでも、投機的に利用された。

政府については、日本の債務/GDP比率が230%である一方、ギリシャは177%である。しかし、その帰結はギリシャの方が日本に比べてはるかに悪い。その違いは、貸し手の配分による。日本の国債の保有者はほとんどが国民(しかも日銀ではない)である。その関心は政治的な安定性にある。ギリシャの政府債券はその多くを外国の銀行が保有する。外国人の保有する債券には信認の危機がすぐに生じるけれど、国内貯蓄からの政府借入は制約されない。

GDPに対する政府債務の比率は、ドイツ、ギリシャ、アイルランドを例外として、上昇しつつある。債務の目的が重要だ。それが現在の消費を維持するために使用されているなら、債務危機になりやすい。他方、現在のように実質金利がゼロやマイナスのときは、政府が投資する好機である。それが生産的な資産に投資されているなら、債券保有者は心配する必要がない。

長期的に見て、債務は生産性を高めることによってのみ返済できる。しかし、政府はこの長期の再建過程を短縮できる。景気回復が不十分なとき、成長が停滞するときに、増税したり、社会福祉を削減したりするのは間違いだ。財政再建には、成長率を高める積極的な政策が必要だ。デフレ的な効果のある財政政策より、それを打ち消す金融緩和が重要である。

政府が中央銀行からの借り入れに頼ることも、中央銀行からの債務は返済する必要がない、と明言することもタブーである。しかし、政府の債務/GDP比率だけに関心を向けることは間違っている。

Project Syndicate JAN 28, 2016

In Search of Growth Strategies

MICHAEL SPENCE

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The Economist January 16th 2016

The yuan and the markets

Chinese politics: A crisis of faith

China’s labour market: Shocks and absorbers

Free exchange: Fight or flight

Immigration and asylum: Migrant men and European women

Barack Obama: A voice in the wilderness

Water politics: Sharing the Nile

Botswana: Losing its sparkle

(コメント) 中国の株価から成長、そして人民元にも不安が広まってきた。それは中国政府やエリートたちへの信認の危機になってくる。資本逃避を抑えるのはむつかしい。しかし、人民元を変動させて大幅な減価を許すことも、為替レートを固定することも、必ずしも答えにならない。現状のまま不安を放置すれば、外貨準備が減少する。さまざまな改革を進めて行けば、労働市場が効果的に機能するのか?

ヨーロッパの移民がケルンで起こした女性への性的ハラスメントや犯罪について、オバマ・ドクトリンの理想と現実について、ナイル川をめぐる流域諸国の対立と協力のメカニズムについて、そしてダイヤモンド鉱山の発見から民主的なガバナンスを確立したはずのボツワナが、世界需要の減退に初めて経験する需要減少のショックに耐える局面で、政治の力量が問われています。

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IPEの想像力 2/1/16

ロシアや中国の通貨が価値を失うとき,その背後で、何が起きているのでしょうか?

社会が変化する過程で、市場が強く作用する.それは確かであり,しかも,そのメカニズムを描く点で経済学は知識を積み重ねてきました.

しかし、貧困や欠乏をめぐる震災後の社会は、経済学を変えませんでした。金融危機後の格差や不安定さが増大する社会も、インターネットが増幅する欲望をもてあそぶ社会も、経済学を変えていません。それは、逆に、経済学の限界、対象領域や問題意識の狭さを表明しているのではないでしょうか?

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Eテレ・日曜美術館で、村上隆の「五百羅漢図」を観ました。

村上氏については何も知りません。番組は、「スーパーフラット」を紹介し、日本の伝統美術とアニメの感覚を基に、世界に向けて発信することで、ニューヨークの指導的なアーティストの1人となった、と解説していました。

映画やテレビに似たスタジオ形式の美術製作をアメリカで始めた村上氏は、「五百羅漢図」を100メートルにわたって、キャンバス100枚に描く作業を組織します。ボランティアとして集まった美大生約300人と作った協同芸術作品です。

「五百羅漢図」には、天を突く巨大な羅漢から、子供が見ても楽しむことのできる小さな羅漢たちまで、さまざまな容姿の羅漢が、異なる若い画家たちによって表現されました。龍、白虎、白鯨。鳳凰。孔雀もいます。それぞれのキャンバスは4面の異なる大画面を構成し、観衆を異世界に招く仕掛けを用意しています。

釈迦が人々の苦難を救う、というメッセージは、その時代時代によって意味と形を変えながら、継承されてきたものです。Eテレが紹介していたのは、作品と311東日本大震災との関係でした。アウシュビッツの後、芸術家たちが悩んだように、村上氏は311後の芸術の可能性を悲観し、同時に、狩野一信が安政大地震の後に描いた五百羅漢図を観て、この作品を描こう、と確信したそうです。

巨大な作品の構想は、311に早期の支援を行ったカタールの王女が展覧会を依頼したことから生まれたようです。王女が間違って、資料として送ったロサンゼルスの美術館と同じものを、村上氏の展示会場として建ててしまった。それに見合う大きな作品を村上は考えた、と言います。

「怪物を描くこと」に村上氏はこだわります。日本の怪獣文化は、現代世界に通じており、さまざまな映画にも表現されます。人間は,今や,怪物化している、という言葉に共感します。

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この果樹園は、大学に職を得て、安定した所得を与えられながら、これでよいのか、と走り続けてきた私にとっての「五百羅漢図」かもしれません。

東欧・ソ連の社会主義圏崩壊や「アラブの春」、世界金融危機を、好ましい方向への社会変化に導けなかった理由は、市場・市民的自由を解放する過程で生じた混乱から、社会科学の刷新を求める声に応えなかった思想家たちの責任です。石油の市場価格は暴落したまま、中東地域の秩序が再編される歴史的瞬間を待っています。そして中国でも、市場によって発揮される、生産力の爆発的な拡大と欲望や不安の連鎖・波及を扱う、政治社会過程の再編が続きます。

市場が強く作用するとき、その秩序崩壊の圧力によって辺境から政治社会の岩盤が破壊されていくことを、世界の中枢都市に住む人々もようやく意識するようになりました。

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