IPEの果樹園2016

今週のReview

1/25-30

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尖閣戦争シミュレーション ・・・台湾総統選挙の興奮 ・・・ポピュリストとしてのトランプ ・・・株式市場の動揺と資本主義システム ・・・イギリス国民投票 ・・・ダヴォスに集まる超富裕層 ・・・習近平のサプライ・サイド革命 ・・・移民・難民の国際システムを改革せよ.

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  尖閣戦争シミュレーション

FP JANUARY 15, 2016

How FP Stumbled Into a War With China — and Lost

BY DAN DE LUCE, KEITH JOHNSON

尖閣諸島、あるいは、中国人が釣魚島と呼ぶ無人島群の1つ、魚釣島に、日本の右翼グループが上陸を試みた。それは東京政府と北京政府との間で長年の紛争状態にあった。その島を日本の領土として国旗を立てる彼らの行為がYouTubeに流され、中国海軍を刺激した。

東京の反応は遅く、なんとか極右の行動を抑えたが、すでに中国側はその行為を敵対的とみなし、武装した沿岸警備隊や海軍の艦艇を尖閣の浅瀬に派遣していた。活動家たち14人を逮捕し、中国に連行して裁判にかける。

翌日、日本の沿岸警備隊とF15戦闘機の編隊が尖閣諸島領域に展開する。中国は海軍の艦艇を引き上げず、双方は衝突に向かうコースに入る。東京政府はワシントン政府に対して、1951年に署名して以来、両国間で相互の防衛を取り決めたとおり、日本の防衛に責任を負うように求める。ホワイトハウスは決断を迫られる。

幸い、このシナリオはアメリカ政府の危機管理室ではなく、ランド・コーポレーションで示されたものだ。Foreign Policy は、戦争ゲームの専門家David ShlapakFPの記者Dan De Luce and Keith Johnsonに依頼して、仮想的な危機を描いてもらった。3人は、ペンタゴンから数ブロックの会議室で話し合った。

断っておくが、われわれは戦争を挑発する政治家とは違う。われわれは攻撃的な選択肢を避けようとしたし、抑制を試みた。それは戦争ゲームのいつの段階でも、中国であれ、アメリカであれ、引き受けた役割を通じてそうしたのだ。しかし、事態は急速にわれわれの手を離れて、日本と中国の双方で高まるナショナリズムの情緒的なエスカレーションに陥った。このシナリオは現実と大きく異ならないだろう。

われわれは戦争を求めず、戦うことを望まなかったが、その結果はひどいものだった。

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条約を守ることは、アメリカにとって絶対だった。それは単に日本や、アジアの問題ではない。ロシア、イラン、NATO、サウジアラビア、イスラエル、その他の国が、アメリカの最も緊密で古い友好国からの支援要請に対してアメリカがどのように反応するのか、注目している。しかしまた、世界で唯一の、他の超大国である中国と、いくつかの無意味な岩礁をめぐって戦争することを、アメリカは何よりも好まない。

それゆえわれわれは、日本の本土を守るためにアメリカの海軍や空軍を使うが、中国に対するいかなる攻撃的な行動も拒否する。米空母ジョージ・ワシントンを横浜から出航させる。それは中国軍が、いわゆる「空母撃破」ミサイルを開発してきたことを知ったうえで、(標的となりやすい)港にとどまっていることはできないからだ。カリフォルニアの第3艦隊は、不測の事態に対処するために、太平洋の北部を目指し始める。われわれはまた、中国側にアメリカの攻撃型潜水艦が紛争海域に展開し、必要なら同盟国を支援することを知らせるだろう。

ここで次の重大な決定がなされる。日本が駆逐艦を尖閣に派遣するのだ。そして、われわれに日本海での駆逐艦の護衛を要請する。われわれはこれを引き受ける。なぜなら、それは本土防衛の一部である、と判断するからだ。

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危機が暗転するのは、日本の漁船を尖閣付近で中国の沿岸警備艇が沈めてからだ。日本の反撃は放水銃や電波かく乱、低空飛行であった。中国の戦艦が日本の戦闘機に銃撃し、それに対して日本軍が中国側の船舶に砲撃する。中国側の戦艦が対艦ミサイルによる反撃を行い、短時間で日本側の2隻が撃沈される。約500人の死者が出る。

日本の小規模な、しかし能力を持つ海軍を維持することと、多方面からの圧力を考慮して、アメリカ政府は同盟国・日本に対等な競争条件を与え、そして北京にわれわれの決意を示すために、誘導ミサイルを積んだ中国の駆逐艦を2隻、魚雷で撃沈する。死者数百名が出る。

こうして中国人の血が流れ、今やアメリカと中国との戦争が始まる。

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北京の指導部は衝撃を受ける。彼らはこれが中国と日本の戦争であることを明確にしていた。アメリカには関係なかったのだ。しかし、今や中国の軍事力は強化され、中国社会も変わった。1979年、中国がベトナムによって大きな敗北をこうむったときと違い、数億のネット市民たちが撃沈された船に対する報復を要求している。

Shlapakは、今、「中国」チームを担当する。その選択肢とは、まず、沈没した船や中国人のナショナリズムを無視する。あるいは、比例的な犠牲をアメリカ軍に負わせる、すなわち、アメリカ海軍を数隻、撃沈する。あるいは、より迅速に、沖縄の米軍基地をミサイル攻撃する。

ナショナリストを刺激するかもしれないが、われわれは非常に抑制されたアプローチを選ぶ。アメリカ軍を苦しめるが、流血は避けるのだ。日本軍には軍事的攻撃を続ける一方で、アメリカに対しては非対称的な能力を発揮する。すなわち、特に、サイバー・金融戦争だ。

すでにアメリカの電力供給システムにおけるグリッドに埋め込んだ軍事手段を起動させ、ロサンゼルスとサンフランシスコが電力を失って闇に陥る。NASDAQの自動トレーディングのデータに介入して、数百億ドルの富を消失させ、他の金融市場にもパニックが拡大する。われわれはまた保有するアメリカ債券の一部を売却すると示唆し、アメリカ・ドルの価値が急落する。

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中国軍は日本の船舶を攻撃し続けている。24時間以内に、日本海軍の5分の1は戦闘できなくなり、数百人が死亡する。また戦争は本土に及び、日本経済への攻撃を行い、エネルギー供給グリッドを破壊し、重要なジェット燃料の補給所を爆破する。

日本は再びアメリカに支援を要請する。東京は3つの具体的要求をする。1.日本が長期に基地を提供してきた空母を派遣して、日本の船舶を防衛してほしい。2.中国の船舶をもっと攻撃してほしい。3.中国本土の対艦ミサイルを配備した基地を攻撃してほしい。

われわれは、アメリカが日本の攻撃に加わって中国本土を爆撃する用意はない、と告げる。中国軍のミサイルによって攻撃され、撃沈される恐れがある空母の派遣も否定する。われわれは東京に、潜水艦と戦闘機を提供し、日本の海軍が撤退することを援護する。アメリカは中国との戦争を避け、日本の海軍が完全に破壊される前に、また、日本経済が圧殺される前に、戦闘を終わらせる。

それは重要な意味のある決定だ。中国は戦術的な勝者になる。北京はアメリカと日本に勝ったと言える。そして尖閣諸島を領有する。しかし長期的には、中国の勝利は幻である。日本と他のアジア諸国は防衛支出を倍増し、中国に対する軍事的・経済的な同盟を形成するだろう。

この戦争で「誰の状態も改善することはない。」

われわれが日本の要請を受け入れたら、どうなるのか? 尖閣の戦闘海域から十分な距離を置いて空母を展開し、中国沿海部の対艦ミサイル基地を含めて、アメリカ軍が数百の基地を正確に破壊する。中国の指導部には、その手段の限定的な性格を説明する。

アメリカ軍のミサイルが中国本土を襲えば、日本の商業貨物船が撃沈され、中国の最新の海軍が潜水艦攻撃で沈没し、その報復に中国軍は沖縄の嘉手納基地を破壊する。空母ジョージ・ワシントンもミサイルで攻撃され、離脱を強いられる。死者は双方で数千人に上る。

アメリカが何をしても、日本海軍や尖閣諸島を守ることはできない。中国は日本を際限なく破壊することができる.

大国間の戦争に内在するリスクを理解しなければならない。それは雪崩のようなものだ。それが起きるとわかっているが、いつ、どのようにして起きるのか、また、そのコストもわからない。

東シナ海について考慮すべきことは、1.同盟は危険なものになる可能性がある。2.日米安保条約によって日本に武器を供与しても、中国からのミサイル攻撃に弱い日本本土は守れない。3.中国軍の増強がすべてを変えた。4.アメリカのスーパー空母より、潜水艦による攻撃が有効だ。しかし、それは戦略的な失敗につながり、米中戦争を招く。5.ナショナリズムはあまりにも強烈で、非常に危険である。

危機を管理する最善の方法は、アメリカがそれを無視することだろう。


l  台湾総統選挙の興奮

FP JANUARY 16, 2016

Taiwan’s Great Recalibration

BY PATRICK M. CRONIN, PHOEBE BENICH

116日、台湾総統に民進党の蔡英文博士が当選した。小さな島の指導者交代は米中関係にも変化をもたらすだろう。

台湾人民は馬英九の「1つの中国」政策によって中国と急速に接近することを阻んだ。同時に、台湾民主主義の危機に対するアメリカのあいまいな姿勢を問うことにもなった。台湾の選挙は、ジェンダーの平等を支持し、若者の自国民意識にも動かされた。立法院の選挙にかかわった若者たちの運動は、新しい政党を生んだ。

台湾人民は、アジア全体の新しい政治運動を示すものである。蔡は、台湾の成長、主権、防衛に関して、政策を微調整するだろぅ。それは地域の情勢や米中関係にも影響する。特に、中国の国有企業による台湾IT企業の買収に反発しており、TPPへの参加を強く望んでいる。防衛面では、サイバー部隊の創設を計画している。


l  ポピュリストとしてのトランプ

FT January 17, 2016

America’s moment of truth on Donald Trump

Edward Luce

「ドナルド・トランプはアメリカ大統領になれるのか?」 それは繰り返し問われたし、その答えは”No”だった。しかし、アメリカ政治は明らかに変わった。

なぜトランプにはこれほど支持が集まるのか? 日本を訪れて、それを強く思った。日本経済は20年以上も停滞しているが、トランプのような発言をしている政治家は1人もいない。安倍晋三への支持率が高いのも経済を回復したからで、彼の目指す、戦争を否定する憲法の改正には反対するものが多い。

日本経済は停滞しているように見えるが、それは人口が減少しているからであり、日本人の中間層は1人当たりの所得を減らしていない。また、日本は基本的に、移民を拒む同質社会のままであり、外国からの大規模な移民流入に問題を転嫁することはできない。経営者の給与は平均賃金の67倍でしかなく、アメリカの331倍には遠く及ばないからエリートを敵視するのも難しい。

トランプを支持する人々は、究極的に、アメリカの在り方を選択しなければならないのだろう。トランプが唱えるような、より日本に似た、閉鎖的社会に向かうのだろうか?


l  株式市場の動揺と資本主義システム

The Guardian, Sunday 17 January 2016

Why are we looking on helplessly as markets crash all over the world?

Will Hutton

世界の金融市場が動揺している。対立は資本主義の核心にある。資本主義は富を創る最高の機械であるが、それ自体で運動を規制するような性格はない。

資本主義の下では、労働組合や法律、公的介入があることで、経済活動は健全さを保ち、需要も安定する。そのためには、法律、金融、貿易の国際的な枠組みが必要である。

石油の価格が下落すれば、われわれは購買力を増し、消費や雇用を増やすことができるはずだ。ところが、市場はパニックに陥った。石油の高価格を前提した投資や融資が膨張しており、それは世界中の銀行システムや中国のポンツィ型経済の融資拡大、成長・雇用水準の維持、資源採取の海外投資が前提していたことを破壊するものだから。

グローバルな無秩序が広がっても、資本主義にはそれを是正する力がない。英米の国民所得に占める利潤の割合は史上最高に達し、労働者の組織率は低下し、短期契約に依存する経済活動が増えている。富裕層は自宅の地下室にスイミングプール、映画館、スポーツジムを揃えるが、中産階級の間に広がる貧困にはまるで関心がない。

中国では、何十兆ドルもの融資を行う、実質的には破たんした銀行が、さらにひどい影の銀行と一緒に、レーニン主義と強欲な資本主義との破滅的な統合を示している。中国共産党は、その信用を破壊しながら、消費者と企業に国有銀行から融資し続けているのだ。それは崩壊を準備された巨大建築物である。その損失が現れたとき、一夜にして消滅する。その頂点にあるのは、1バレル60ドル以上の石油価格を前提した石油・天然ガス・化学産業への投資だ。

この細心の注意を要する時期に、アメリカ連銀は金利を引き上げた。インフレの危険は全くないにもかかわらず、ビジネスを正常化するためだ。異常な経済において求められた金融手段を失うことに、システムは耐えられないだろう。アフリカやラテンアメリカのいわゆる新興経済からは資本流出が加速する。

経済思想を根本的に転換する必要がある。世界労働市場と21世紀の労働組合を強化するべきだ。金融市場のパワーを制限するべきだ。信用の膨張を銀行のバランス・シートによって直接に管理し、銀行をカジノから切り離すべきだ。株主の利益によって大企業が踊るのではなく、価値を創り出すことを優先するべきだ。

すべては新しい世代の政治指導者を求めている。1980年以降の思想を捨てて、世界を作り直すときだ。

FT January 18, 2016

How to wean the world off monetary stimulus

Robert Zoellick

7年続いた政府が主導する需要維持の時代を終えて、世界は異常な金融緩和から、民間主導の成長に移行する必要がある。中国市場の動揺は世界に波及したが、それは深刻な不確実さと新しいアプローチの必要性を示すものだ。

1に、Lawrence Summersは、世界は需要不足の「長期停滞」に向かうと懸念する。新興市場はグローバルな需要不足に直面し、資本逃避、投資減少、通貨価値の下落に直面する。中国も重工業からサービス業への難しい移行を迫られる。各国の政府は通貨価値を下げて需要を奪い合い、保護主義が広まる。その解決策は政府が支出を増やすこと、特に低金利を利用した大規模なインフラ投資である。

しかし第2に、Kenneth Rogoffは、世界経済が債務超過の「スーパーサイクル」で後半の過程にあるだけだ、とみなす。歴史が示すように、緩やかではあっても、成長は回復するし、時間がたてば債務超過は解消される。システミックな市場の危機はグローバル経済への懲罰期間である。それゆえSummersのような政府支出は債務依存を長引かせる。金利を低くして、債務処理を促すことが正しい。無駄な国家プロジェクトを増やしてはいけない。

3に、Michael SpenceKevin Warshは、生産性の上昇や民間部門の潜在力を強調する。極端な政策は民間部門の期待をゆがめてしまう。投資、利潤、税、付加価値、政府の行動について、民間部門は予想する。彼らの行動を妨げてはならない。民間投資や雇用を助けるように、税制や規制を改革するべきだ。しかし、それには政治的な行動が求められ、ポピュリストたちの刺激する混乱が意思決定を妨げる。その結果、金融緩和への過度の依存が続くのだ。

2016年は、各国が構造改革を実行する政治的意志によって決まるだろう。もし金融政策から成長政策への転換を実現できなければ、未来はSummersRogoffが予想するものに向かう可能性が高い。すなわち、低迷する経済、通貨戦争、分配をめぐるポピュリスト政治。小さな危機が繰り返され、経済を苦しめる。

政治家たちは、今、運命を切り拓くのか、あるいは、経済的実験の結末を将来の再検討に委ねるのか、問われている。


l  イギリス国民投票

The Guardian, Thursday 21 January 2016

Whether Brexit or Bremain, fear will triumph over fear

Timothy Garton Ash

EU離脱に関するイギリスの国民投票は、恐怖と恐怖との比較になる。1つは、悪しきヨーロッパ超国家への帰属、主権、民主主義、アイデンティティ、国境管理の放棄に対する恐怖。もう1つは、ノルウェーやスウェーデンのように、寒い外にとどまる恐怖。EUがルールを決めるとき、発言することはない。

しかし、国民投票は賭けである。有権者は紙に書いてあることに答えるとは限らないからだ。

フランス、ドイツ、アメリカの情報を観れば、イギリス国民が離脱を選択すれば、独仏は直ちに関係を強化し、ユーロ圏をEUの中で要塞化するだろう。アメリカはイギリスに関心を失い、ユーロ圏との関係を重視する。

しかし、残留派はこの投票を「恐怖」によって勝利すると考えるだけでは不十分だ。特に若者たちは、EU加盟をプラスとみなしているからだ。それは彼らの「繁栄」、「次世代への機会」、なんであれ「強者」になることを意味する。EU支持派は、恐怖ではなく、希望に訴えるべきだ。


l  ダヴォスに集まる超富裕層

The Guardian, Tuesday 19 January 2016

We’ve been conned by the rich predators of Davos

Aditya Chakrabortty

今秋、地球上の最も裕福な人々が、世界最大のタックス・ヘイブンである、雪に覆われた山に集まるだろう。ダヴォスの会議場に参加するには、3日間で10万ポンドくらいの費用がかかる。

彼らはジェンダーの平等を議論し、技術革新を論じるだろう。われわれの経済エリートたちは、世界経済がどれほど動揺しているときでも、こんな風に世界を見下ろしている。大きな思想、よき意図、勤勉さ、など、能力主義の素晴らしさを説く。われわれは苦労している。われわれはその資産に値する働きをしたのだ。

それを却下するには、Oxfamのデータを観るだけでよい。62人の超資産家たちが世界人口の半分よりも多くの富を所有している。35億人の人類と同じ富を支配するのだ。

この超資産家たちにとって、能力主義など、まったくの嘘である。35億人の誰一人も、ウォルマートの所有者Walton家のような、巨大な富の中に生まれたことはない。彼らはたった6人で1490億ドルを所有している。サウジ王室のAlwaleed王子のように、260億ドルを得ることもない。

自分で資産を得た超富裕層の時代、というお世辞は、多くの遺産によって富を得た資産家たちの中に立っている。しかも、富の森林はもっと深刻な姿を示している。10年前、388人の超資産家が世界の富の半分を所有していた。2011年までに、その数は117人に減った。昨年は、わずか80人だ。今はトリクル・アップの時代なのだ。中産階級、労働者たちの所得は、超富裕層によって吸い上げられていく。

イングランド銀行は、3750億ポンドの量的緩和で生じた利益の40%がわずか5%の家族にもたらされた、と認めた。超資産家のファンド・マネージャーStanley DruckenmillerQEを、「中産階級と貧困層から富裕層への、かつてない大規模な所得再分配」と呼んだ。

超富裕層は、そのQEがもたらす狭隘な利益を、世界経済全体のために良いことである、というふりをしている。QEのように不公平な経済政策は、もし平等な社会であれば実現しなかっただろう。公共投資や政府支出によって景気回復を目指したはずだ。この巨大な不平等は、1%の人々が、自分に都合のよい法律や税制を実現し、そのような政治家を買収することで守られている。

彼らは資産市場で何十億ドルもの利益を上げながら、われわれは福祉国家が空洞化し、賃金が凍結され、雇用者たちが投資しないことを観ている。しかし、こうしたことはダヴォスの話題にならない。


l  習近平のサプライ・サイド革命

FT January 19, 2016

China’s Xi turns to Reagan and Thatcher for economic inspiration

Tom Mitchell in Beijing

習近平主席は、鄧小平以来の体制転換を実行する指導者になる、と期待された。さらに今、かつてアメリカのレーガン大統領、イギリスのサッチャー首相が実行したような、サプライ・サイドの改革を実行する時期に直面している。すでに膨大な債務で、追加的な需要を刺激することが難しくなっているからだ。過剰生産力を抱える部門は多いが、スプレー式のトイレのように、消費者が求める商品やサービスは生産できない。

しかし、レーガンやサッチャーと違い、中国政府は、鉄道など、重要な国有部門を縮小するつもりはない。英米型の破産処理と債務処理・再編が最初に大きなコストを生じることを好まないが、日本的な長期の処理も望まない。その中間的な改革を目指すだろう。


l  移民・難民の国際システムを改革せよ.

Project Syndicate JAN 19, 2016

Economists on the Refugee Path

ROBERT J. SHILLER

現在のグローバルな難民危機に第2次世界大戦直後を思い出す。当時はヨーロッパだけで4000万人の難民がいた。暴力、強制移住、迫害、所有権やインフラの破壊、それらが人々に居住地からの避難を強いた。

もっと長期的に難民を研究する必要がある。UNHCRは、2015年、700億ドルの予算を得たが、難民1人当たりでは100ドルほどでしかなく、必要不可欠な食糧や避難所も足りない。

アメリカ経済学会の会長として、2016年、私は今月初めの年次総会を利用して、深刻な経済問題に注意を向けた。難民危機は、他のさまざまな意味を持つが、経済問題でもある。しかし、集まった論文は少なく、移民の専門家たちを招いたセッションSixty Million Refugeesを開催することにした。私は彼らに、難民危機を経済問題として描き、意味のある政策を提案するように求めた。

Timothy J. Hattonは、世界中の難民が生じている原因を検討した。難民危機は、豊かな国に逃げ込むための口実でしかない、という反対論を彼はよく聞いた。しかし、難民の多くは、政治鉄器迫害、人権蹂躙によって生じており、経済的な理由ではなかった。

Semih Tumenは、220万人のシリア難民がトルコの国境地帯における労働市場に及ぼした影響を示した。彼の研究は、難民の受け入れに反対する人々がしばしば利用するが、雇用を奪い、賃金を低下させただけでなく、難民流入後、地元の人々に対する公的雇用を増やしたこと、地域経済を刺激したことを指摘している。

Susan F. Martinは、移民の原因ではなく、「保護する必要に焦点を当てた法的制度」を求めている。そのルールは、難民たち自身にも、出自国の政府に対しても、インセンティブとなることが考慮されねばならない。たとえば、独裁者がマイノリティを国外追放することを望まない。

Jeffrey D. Sachsは、新しい難民管理システムを詳しく提案した。Sachsは、そのようなシステムが長期的に世界経済をどう変えるか、考察した。彼は、システムのルールに、受入国にとって有益な難民だけでなく、低熟練の絶望的な人々を受け入れるように求めている。またフローの率を規制し、諸国間で負担を公平に分ける方法をエコノミストたちが見つける必要がある。

非効率な、しばしば非人道的な国際システムを、ルールや制度の検証を通じて、エコノミストが改革するべきだ。

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The Economist January 9th 2016

The Saudi blueprint

Saudi Arabia: Young prince in a hurry

North Korea’s nuclear weapons: Another bombshell

China market meddling: The control quagmire

Politics in Taiwan: A Tsai is just as a Tsai

Liberal economists: Three wise men

Puerto Rico defaults: When the salsa stops

Politics in the Middle East: The Arab winter

Nigeria’s federation: A house divided

Buttonwood: Loathe thy neighbour

(コメント) サウジアラビアと台湾の変化に驚きました。もしその指導者たちが、自分たちのガバナンスを変えることに成功するとしたら、それは明らかに、地域の、そして世界の安全保障や経済的繁栄に深く結びついた過程として重大な意味を持ちます。

市場を受け入れることで成長し続けたからこそ、中国の政治権力は迷走します。

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IPEの想像力 1/25/16

戦争のシミュレーション・ゲームに関して、FPの記事が興味深いです。テレビを観ても、池上彰が、宮家邦彦が、NHKの解説が、日本政府の外交・安全保障を議論しています。

「シミュレーションのチームとプレイヤーとしては、日本政府(首相官邸・外務省・防衛省)、米国政府、某国、パラダナオ共和国(南シナ海に位置する架空の国家)、オーストラリア、ASEAN 、フリケニア共和国(アフリカ大陸の架空の国家)、メディア(日本メディア・国際メディア)を設定した。」

(キャノングローバル戦略研究所、20回 PAC政策シミュレーション「新安保法制はシームレスか?」概要報告と評価

このシミュレーションは、新しい安保法制によって、日本は「シームレスな」(切れ目のない)防衛体制・非常事態への対応を実現できるか、という視点で実施されました。南シナ海の紛争、アフリカにおけるPKO活動で、日本政府と議会は法に依拠した適切な対応をとれるか? 南シナ海でアメリカとの協力は遅れ、PKO法でも職員の誘拐という事態に対応できない。

安全保障をめぐる内外のコンセンサス形成は、こうしたシミュレーションの積み重ねと情報交換、他国の考え方や政治の限界を理解する能力に依存します。

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防衛省の研究員と宮家は、安倍首相のロシア「非公式」訪問について議論していました。国際政治はグローバルな配置を観て動く。プーチンと合意することだけが目標ではない。日本にも国際政治を動かす指導者が漸く現れた、と安倍首相を称賛します。

ロシア経済は落ち込んでおり、財政も、ルーブルの価値も、危険な状態にあります。ウクライナへの介入で、欧米との関係は極めて悪い。「原油価格の下落がもたらしたロシアの経済危機が北方領土を解決するテコにはならない。」・・・ではテコは何か? 「地政学的な危機が生じたとき、領土問題は解決する。それは中国だ。」

プーチンは何を目指すのか? 政権の維持と、強いロシアの実現である。つまり、安倍晋三や金正恩と同じです。(STEPHEN M. WALTの「5分で学ぶ国際関係論」も参照。今週のReview 5/26/2014

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政治は権力を維持する(あるいは、次の戦争に勝利する)ことがすべてを正当化する、という視点から始めても、最後は、何のための権力なのか、という問いを生じます。

「アラブの冬」というThe Economistの記事は、「アラブの春」で何一つ変わらなかった、という悲観を、逆説的な形で否定します。中東の秩序を変える新しいモデルは、イスラム国家にある、と。それは「唯一、革命の波が巻き起こした新しい当地のモデルである。」

ISの法はグロテスクであるが、カオスの中で秩序を希求する人々にとって、その迅速で厳格な正義は魅力的である。ISは、自分たちの兵士の中でも腐敗を決して許さない。そして、非常に限られたものであるが、医療、教育、社会保障のような公共サービスに焦点を絞っている。ISは、アラブ諸国の高度に中央集権した支配体制ではなく、地方の監督者に大幅に権限を与え、商業を国家管理するより、むしろ規制(促進)し、課税する。

そこに欠けているのは、人権や多様性の尊重、公的な責任のシステム、コーランの警句によって正当化されたカリフではなく、人民の意思と利益を反映する立法過程である。「アラブの春」は、まさにこうした民主主義の要素を求めた。

国際政治をめぐる戦争と革命のシミュレーションに、指導者だけでなく、私たちも参加することです。

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