IPEの果樹園2015

今週のReview

12/28-1/2

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ヨーロッパ政治の溶解 ・・・IT時代の労働者 ・・・中国の政治不安 ・・・移民・難民論争 ・・・従軍慰安婦論争 ・・・中東の秩序を求めて ・・・リアル・ポリティクス ・・・ドーハ・ラウンドの終幕 ・・・危機から再生する ・・・億万長者たちの寄付 ・・・貧困の思想と政策

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  ヨーロッパ政治の溶解

FT December 18, 2015

Why political apathy rules

Simon Kuper

2016年の政治について言えることが1つある。ほとんどの人が政治に関心を持たない、ということだ。これは、イギリスのEU離脱論争、気候温暖化、トランプ人気、すべてにあてはまる。

国政選挙以外では、人々が政治に関心を失っている。2010年、アメリカの有権者に尋ねた。「お金を払えば、あなただけが選挙区の当選者を民主党員か共和党員か決めることができる、とすれば、あなたはそのためにいくら支払うか?」 調査機関YouGovが驚いたことに、回答者の55%が、ゼロ、と答えた。選挙結果を変えることに、彼らは1ドルも支払わない。

「真の民衆」は政治家の競争を軽蔑しており、もっと重要な問題に関心がある、ということかもしれない。しかし、真実はその逆だろう。ほとんどの人が楽しむ政治とは、政治家たちの個人的な話である。政治家たちをいつも嫌悪しているのは、彼らが退屈だからだ。食べ物、住宅、そして、病気の心配を別にすれば、人々は政治家に、黙っていろ、危険な考えをもてあそぶな、と求めている。

イギリスはもうすぐEU離脱に関する国民投票を行う。しかし、イギリス人の多くはそれに関心がない。ビジネス界や主要政治家たちは、イギリスをEUに残留させるため、苦労して有権者を説得することはないだろう。うんざりするような理由で不可解な世界に飛び出す気など、人々にはないからだ。同僚のJanan Ganeshが述べたように、最も支持されるイデオロギーがあるとしたら、それは「損することを避けよ」である。

過去から現在まで、あらゆる救世主的な候補者が現れて、人々に独自のファンタシーを約束した。しかし、彼らが世界を短期間で変えることに失敗すれば、その無関心がすぐに再発した。成功する政治家は、この25年間、ビル・クリントンも、トニー・ブレアも、アンゲラ・メルケルも、デイヴィッド・キャメロンも、イデオロギーを吹聴しない。有権者たちは、まともな候補を好む。トランプは支持されないだろう。

FT December 18, 2015

We need to remember the brutal history that created EU

Timothy Garton Ash

2045年に出版されたthe Oxford History of Modern Europeには、こう書いてある。

2005年初め、ヨーロッパのプロジェクトと当時は呼ばれていたことが頂点に達した。その前の春に中東欧の10か国がEUに参加し、ヨーロッパ史上最大の自由民主主義による連邦commonwealthとなった。その同盟は憲法条約を提案したが、それは「ヨーロッパ憲章」と呼ばれた。単一の通貨、ユーロは、うまく機能するように見えた。多くのヨーロッパ人にとって、楽観主義が広がった。親ヨーロッパのオレンジ革命がウクライナで起き、見た目はソフトで、ポストモダンなEUが権力を脅かす、とロシアのプーチン大統領は確信した。懐疑的な歴史家であるTony Judtでさえ、2005年には、21世紀もなおヨーロッパのものだろう、と書いた。」

「不幸にして、ヨーロッパの指導者たちは、2015年に数え切れないほどブラッセルで開催された多くのサミットに集まったが、同盟崩壊の危機に及ぶ事態の深刻さを十分に認めなかった。彼らは事態を放置して答えを示さず、それは結局、人々の幻滅を増すことになった。EUはローマ帝国のように、蛮族がブラッセルの官僚機構を占拠することで、一瞬のうちに崩壊したのではなかった。その衰退は神聖ローマ帝国に似ていた。その厳粛な条約、セレモニー、制度は残ったまま、次第に空洞化し、その意味が失われた。だから2043年に、EUが正式に解体を宣言したとき、1806年に神聖ローマ帝国が消滅したときのように、ずっと前から政治的な現実になっていたことを遅れて認めたに過ぎなかった。」

現在の趨勢を観れば、これがヨーロッパの未来としてもっとも起こりそうな筋書きである。しかし、私たちは何としても避けねばならない。われわれが住むヨーロッパは可能な中でも最悪のものだが、それはほかに繰り返し試みられたどのようなヨーロッパとも比べないときだ。すなわち、ヨーロッパの連携、帝国、連邦、共同体は1つとして永久に続かなかった。だからこそ我々はこのプロジェクトを可能な限り続けるべきだ。

3世代にわたり、戦争、占領、ホロコースト、ファシストとコミュニストの独裁に関する人々の記憶が、これほど多くの人にヨーロッパの統合を支持させた最も深い動機であった。われわれは新しい世代に、われわれの恐ろしい過去に関するもっと生々しい意識を掻き立てねばならない。

まだthe Oxford History of Modern Europeを書き直す時間はある。

Project Syndicate DEC 21, 2015

Patriotism in the Age of Globalization

BILL EMMOTT

マリー・ル・ペンは、政治の断層線をグローバリストと愛国者との間に引いた。それと同じことはイギリス独立党UKIPも、アメリカのドナルド・トランプも主張している。しかし、そのような主張は間違っているうえに、危険である。

ル・ペンやその仲間のポピュリストたちは、グローバリゼーションを自国の犠牲で世界に奉仕すること、その受益者はエリートだけであり、庶民ではない、と主張する。その前半は間違っているが、後半には応えなければならない。多数を無視し、搾取するような民主主義は維持できないからだ。政権や、あるいは、体制そのものが転覆される。

選挙を経た政府は、高失業率や生活水準の低下に解決策を求められる。明確にしなければならないのは、国境を閉ざすことが答ではない、ということだ

開放が繁栄を保障するものではないだろうが、常に成長の条件である。望ましい開放の程度を議論するより、教育、労働市場、科学研究、社会保障政策が、自分たちの社会を世界の変化に適応するよう、どうすれば改革できるかを生産的に論争することだ。愛国者であるとは、そして、国益を実現するとは、グローバリゼーションを最大限に活用する国内政策を常に目指すということだ。

現代の世界では、開放性を管理することが国益であって、それを投げ出すことではない。

Project Syndicate DEC 22, 2015

European Politics With an Islamic Face?

ROBERT SKIDELSKY

イスラム教徒の入国を拒むトランプの主張が、リベラルな道徳的価値観を拒むイスラム世界に対する反対であるなら、われわれはそれに応えねばならない。

ヨーロッパのキリスト教は、例外的に、世俗化した世界と切り離された。イスラム教、特に中東世界ではそれは起きていない。イスラム教の信仰や家族は、法律や社会規範を支配している。もし移民が流入するのを止められないなら、その出生率の高さもあって、ヨーロッパやイギリスにおけるイスラム教徒の割合は増えるだろう。

よりよい生活を求めて移民することは、リベラルな視点から支持されている。しかし、人々は単に経済活動に参加するだけでなく、信仰や文化を帯びている。経済的な成功が必ず文化的な収れんをもたらす、と前提するのは間違いだ。

移民と受け入れ社会とのギャップを減らすために、対話や教育が重視されるのは正しい。しかし、そのギャップが非常に大きく、その数が社会を変えるほどの規模になれば、それだけで宗教政治への回帰を止められない可能性がある。われわれは知らぬ間に、非常に混乱した将来へ向けてさまよっている。テロではなく、統合の失敗こそ恐れるべきだ。


l  IT時代の労働者

FT December 20, 2015

An economist’s dreams of a fairer gig economy

Tim Harford

フリーランスの労働者による社会が、芸術家や音楽家だけでなく、情報通信技術によって拡大する。支配されることも、失業や貧困に悩むこともない、the “gig economy”は理想の社会なのか?

しかし、それは労働者個人に大きな不安や負担を強いるかもしれない。これまで企業や労働組合が実現してきた年金、保険、失業手当、などは、最低限の福祉国家がすべての労働者に提供しなければならない。


l  移民・難民論争

Project Syndicate DEC 18, 2015

The Global Migration Blowback

DAMBISA MOYO

2015年、海を渡ってヨーロッパに来た移民の数は約75万人であるが、それは世界の土地を追われた人々、6000万人、のごく一部でしかない。しかし、これほど多くの移民を、リビア、シリア、イラク、アフガニスタンなど、ヨーロッパ大陸外から受け入れるのは、歴史上、初めてのことである。

EUの現在の移民政策は、近視眼的であり、経済のゼロサム思考に偏ったものである。それは国内政策が及ぼす長期的な影響を無視している。移民の供給される源泉を無視したアプローチは、問題を長期的に解決する見込みがない。

それどころかEUはむしろ逆効果になる政策を域内でとっている。たとえば、保護貿易は莫大な補助金で農業を保護し、アメリカと競争することで、そうした補助金を得られない南米、アフリカ、アジアの農民たちを貧しくしている。またアメリカなどが行った大幅な金融緩和は、(ドルと固定した)新興市場の通貨を安くした。今、アメリカの金融緩和が逆転することで、そうした諸国から資本が大量に流出している。彼らの経済が低成長に苦しめば、移民の流出が増すだろう。

Bloomberg DEC 18, 2015

An Immigrant Won't Steal Your Raise

By Noah Smith

移民論争は経済学にも望ましい政策の選択について証拠を求めている。この点で、最もよく引用されるのは、David Card of the University of California-Berkeley1990年の研究だ。Cardは、1980年、フィデル・カストロが突如として大量の移民をマイアミに送り込んだケースthe Mariel boatliftを研究した。

経済学の教科書によれば、大規模な供給の増大はその価格を引き下げる。特に、教育を受けない低賃金労働者は移民と直接に競争して、その影響を受けるはずだった。

しかし、Cardは、そのようなマイナスの効果は生じなかった、と示したのだ。マイアミの労働者の雇用は減らず、賃金も減少しなかった。Cardは、マイアミと同様の都市圏(Atlanta, Houston, Los Angeles, and Tampa-St. Petersburg, Florida)を取り上げて、移民の影響を比べた。それらは人口動態や成長がマイアミと似ていたからだ。

しかし、2015年、George Borjas of Harvard University’s Kennedy Schoolの研究は、Cardの結論と全く逆のことを示した。Borjasは、異なる都市を採用し、より限定した労働者を取り上げた。すると、雇用や賃金に対するマイナスの影響があったのだ。

その後、Borjasの研究は、自分の偏見を証拠によって正当化するために統計を操作したdata miningことが判明した。Cardの研究が正しいと証明された今でも、移民排斥を唱える者たちは、その偏見をBorjasの研究で正当化している。


l  従軍慰安婦論争

NYT DEC. 18, 2015

Disputing Korean Narrative on ‘Comfort Women,’ a Professor Draws Fierce Backlash

By CHOE SANG-HUN

2013年に「従軍慰安婦」についての本を出版するとき、Park Yu-haは少し心配だった、という。人々がその本をどう受け取るか。その反発は、彼女の予想を超えたものだった。

従軍慰安婦には様々な側面がある。たとえ政府が直接に彼女たちを徴用し、強制したのではないとしても、日本が強いた植民地体制によってそれが許されたという責任はある。

しかし解放後も、日本の責任を問い続ける韓国の政治運動が彼女たちを利用した。


l  リアル・ポリティクス

The Guardian, Monday 21 December 2015

Politics isn’t a fairytale about good versus bad

Pablo Iglesias leader of Spain’s Podemos party

「リアル・ポリティクス」とは、ドイツ語の「現実の政治」から始まった。主に国際関係において、国内政治や地方政治とは異なる原理や正当化が行われることを意味する。

「国家理性」とは、国家がその原理や倫理、自国の法律に反しても、自国を守るために採用する例外的な手段を意味する。

これらの言葉は、中国の兵法家である孫子Sun Tzu, マキャベリMachiavelli, リシュリューCardinal Richelieu, ビスマルクBismarck and カール・シュミットCarl Schmittによって使用され、発展した。

映画『アルジェの戦いThe Battle of Algiers』の中で、マチュー大佐は、独立を求めるFLNと戦うフランス部隊を指揮していた。ジャーナリストに、彼の兵士が拷問によって情報を得ているのか、と質問される。マチューは、兵士にとってその任務は勝利することである、と答える。拷問はそのための手段でしかない。

拷問が法的に認められるかどうかを訊くのではなく、アルジェリアはフランスのものかどうか、とジャーナリストたちは訊くべきだ。マチューはそう示唆する。

そのあと、映画は、FLNの指導者Larbi Ben M’hidiが拘束された姿を映す。彼は、ゲリラたちが使うバスケット爆弾が市民たちを殺害していることについて、意見を訊かれる。Ben M’hidiの答えは皮肉なものだ。自分たちはフランスを攻撃したいのだ。フランス人が我々に武器(戦闘機)を与えればそうするだろう、と。

あらゆる政治企画に関して、ウェーバーが指摘した責任の倫理がある。その背景にあるイデオロギーが、何であれ、政治プロジェクトを正当化する。シオニストは自由な世界を守り、イスラム主義者はアッラーのために、ソ連は社会主義や世界のプロレタリアートを代表して、自分たちの行為を正当化した。

マクナマラRobert McNamaraは、ドキュメンタリーThe Fog of War,の中で、アメリカが第2次世界大戦に敗北していたら、日本の民間人を組織的に爆撃したことで、自分が裁かれただろう、と述べた。言い換えれば、愛国者とテロリストの差とは、戦いの勝者と敗者の差になるわけだ。英国の女王が、IRAのヴェテラン兵士で、現在、北アイルランド政府に参加しているシン・フェイン党の党員であるMartin McGuinnessと握手した。彼女にも尋ねるべきだ。

政治を善悪の童話として示すものには(むしろ)冷笑主義がある。政治において倫理が無意味だ、というのではない。しかし、何かを変えるつもりなら、政治の働く現実を、まず理解することだ。


l  危機から再生する

Project Syndicate DEC 21, 2015

Argentina’s Economic Big Bang

MOHAMED A. EL-ERIAN

新たにアルゼンチン大統領に選出されたMauricio Macriは、先週、高インフレに苦悩する経済を活性化するための大胆な計画を開始した。

長年の経済管理の失敗により、アルゼンチン経済のパフォーマンスは数十年にわたって悪かった。前政権は難しい選択を避け、資源配分を損ない、外貨収入を減らすような、非効率な管理を行って問題を解決困難にした。最近の国際商品価格の下落が、成長のダイナミズムをさらに低下させ、インフレ加速、貧困の拡大、不確実さと金融の不安定性を増して、事態はさらに悪化している。

理論上、政府はこうした危機的状況を克服し、成長と雇用のエンジンを再生するための、5つの基本的選択肢を持っている。

1.好調な時期に蓄えた準備や資産を使う。・・・2.内外から借り入れる。・・・3.政府支出を直接に削減すると同時に、民間部門の支出を減らすように誘導する。・・・4.税や手数料を引き上げ、外貨収入を増やす。・・・5.価格メカニズムを使って経済全体、さらに外国との貿易や金融の調整を加速する。

しかし実際には、政府がこうした政策を行う上で困難が生じる。第1の問題は、職種な要因が、現実であれ、想像上であれ、いくつかの選択肢を失わせることだ。ケースによって、すでに準備や資産はなく、外国の融資者もいない。また、成長回復を破壊する恐れがあるため、財政緊縮には特に慎重でなければならない。

2の問題はタイミングだ。政策が効果を発揮する正しい順序で、政府は実施しなければならない。経済的、金融的取引を理解することに加えて、政府は、政策に対する民間部門の反応を考える必要がある。そして、確かな、持続する、包括的な成長を促すように、供給側の改革と緊密な協力の下で、すべてを進めるべきだ。

Macri政権のアプローチは歴史的に見て例外的なものだ。大胆な戦略を実行するという約束で大統領になった。すなわち、選択肢の中の需要管理や金融緯線よりも、攻撃的な価格自由化と量的管理体制の廃止である。すでに、ほとんどの輸出税や通貨管理は廃止され、為替レートの自由化で、ペソは即座に30%減価した。

こうした順序で改革を実施する政府は少ない。多くの政府は、特に通貨管理の廃止に、もっと躊躇する。その理由は明らかだ。政府は価格自由化を遅らせて、初期のインフレを抑え、賃金・物価のスパイラルを避け、資本逃避を減らしたいのだ。もしこうした問題が生じれば、改革はとん挫し、国民の支持を失う。

外部からの大規模な金融支援が、Macri政権の改革に提供されるべきだ。アルゼンチンが成功すれば、それはラテンアメリカ全体に優れた自由化のモデルを示すだろう。

Project Syndicate DEC 23, 2015

The Kingdom Beyond Oil

GASSAN AL-KIBSI

サウジアラビア政府はかつてない戦略転換を目指している。それには2つの理由がある。第1に、世界石油価格が、バレルあたり100ドルから40ドルへ、大きく低下し、歳入の90%を石油輸出に頼っていることから、財政赤字が生じている。第2に、今後15年間に、600万人の若者が労働市場に参加する。

しかし、政府には新しい指導力が備わっており、改革によって、2030年までにGDPを倍増し、600万人の雇用を創出する力がある。


l  億万長者たちの寄付

FT December 23, 2015

Philanthropy: How to give away $1bn

Stephen Foley

億万長者たちは、10億ドルをどうやって寄付するべきか?

Mark ZuckerbergFacebook)が娘への手紙で約束した寄付は世界中の億万長者の間に論争を起こした。Facebookで成功した億万長者から、ほかにも共同創設者のDustin Moskovitz、その妻であるCari Tuna、投資家Sean Parkerがいる。

Chuck FeeneyDuty Free Shoppers)は現代のthe “giving while living” movementを指導する。

Prince Alwaleed bin Talal al-Saudthe Saudi investor)は伝統的な慈善活動団体を残す。

ヘッジファンドからは、Paul Singerや、John Paulson

Pierre OmidyareBayの創設者)。Jeff SkolleBayの幹部)。・・・Bill Gates。・・・Laurene Powell Jobswidow of Steve Jobs)。・・・


l  貧困の思想と政策

VOX 23 December 2015

Challenges in maintaining progress against global poverty

Martin Ravallion

新著The Economics of Poverty: History, Measurement and Policyでは、豊かな国や貧しい国で行われた論争を評価した。貧困をどうやって測るか? どれくらい貧困はあるか? なぜ貧困はあるのか? 貧困をなくすために何ができるか? 過去200年間で、貧困に関する主流の思想は大きく変わった。

初期には、貧しい者が貧しい以外に何かできる力を持つとは考えなかった。貧困は不可避的に続くのであり、著名な思想家たちが、貧困は経済進歩に必要だとか、貧しさがなければ、だれも土地を耕したり、工場で働いたり、軍隊に入らないだろう、と主張した。

こうした考えは今も、ショックから貧しいものを守るという社会の安定性に関して主張される。反貧困政策についての貧困者保護論は、2000年以上もさかのぼることができる。こうした支持論は事態が正常に戻れば失われる。恒常的な貧困対策を公共政策として考えることはなかった。

2の議論は、近代的な考え方であり、貧困を公共政策で解消するべき社会的病理と考える。それは力強い成長経済では完全に矛盾しないと思われた。個人の自由に対する制約を取り除くことで成長にも貢献する。国家が積極的な役割を果たすと認められたが、問題は、政府が何を、どのように行うか、である。

相対的な貧困、不平等を、その様々な関連する要因に分解して対策を考えることが大きな前進をもたらした。良質な学校教育や医療システムは、どこでも重要な条件であるが、各地で政府は正しい政策を個々に見出さねばならない。

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The Economist December 12th 2015

Playing with fear

Anti-immigrant Populism: The march of Europe’s little Trumps

Integrating refugees in Europe

European business and refugees: Getting new arrivals to work

African demography: The young continent

India and Japan: ever closer friends - Come together on the Abe road

German Politics: Usula major

The Fed and emerging markets: The secular sulk

Free exchange: The gifts of the moguls

Finance in films

(コメント) なぜヨーロッパで極右のポピュリズムが栄えるのか? なぜアメリカ大統領選挙で保守派の勢いが続くのか? 市場を開放し、国境を開放し、グローバリゼーションや人母自由な移動を支持するThe Economistは、安全保障の危機だけに説明を求めません。壁を築くことより、経済成長こそが真の解決策であるのに、またイスラム教徒を敵視するより、彼らを助けることが正しいのに、それを積極的に支持し、説得できない主要政党に、問題を認めます。

難民危機の解決は、さらに巨大なアフリカの人口危機を考える練習問題でしかありません。

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IPEの想像力 12/28/15

「辻井伸行 X オーストリア」を観ました。特に、リストの「ラ・カンパネラ」をアンコールで弾いたとき、その演奏に、オーケストラや観衆が息をのんで聞きほれたように、私も感動しました。

辻井の演奏する横で、指揮者の佐渡裕がしょんぼり(!)と段差に座って聴いていました。番組の中で、佐渡は、神が与えた才能と、自分のハンデを克服したいという決意が、辻井の演奏に特別な高揚感を与え、聴衆を感動させるのだ、と述べていて、納得しました。

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2015年の世界では、一方には超資産家が活躍し、他方に難民危機がありました。ギリシャの資産家が島を借りて、難民たちが暮らすインフラを整備した、と聞きます。MicrosofteBayFacebookによって現れた超資産家たちが、石油、鉄鋼、自動車の超資産家たちとは異なる、富裕層の新しい法則を目指す気配があります。

彼らはますます、驚くほど若く裕福になり、きわめて不平等な世界にいて、非常に多くの情報や人々の評価にさらされているのです。社会主義の思想が衰えた後、急速に保守化し、ナショナリストや宗教的な右派が支持を集める民主主義体制の下で、世界に地域紛争や内戦が広がる中、不安を感じているのではないか、と思います。

政府は貧困が広まるのを解決できないだけでなく、危機において彼らを守ってくれないのではないか。

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市場の統合化が進むとき、それによって局所的な危機を市場が緩和する、と思われました。金融の自由化が進むときは、それが一時的なショックを融資によって平準化する、と思われました。

しかし、より大きな市場が企業規模を拡大し、その支配力を強めました。より自由な金融ビジネスのグローバルな競争は、中央銀行の監視や規制をますます無効にして、利潤追求を優先し、各地のバブルを刺激しました。金融システムの公的救済と財政破たんを深めた末に、危機後も、金融政策によるマクロ経済の制御をむつかしくしています。

大企業や大銀行による独占的な市場支配を監督・制御することや、国民国家の範囲を超えて貧困の問題を解決し、不況や失業を緩和し、技術革新の利益を広く享受できるシステムを、超資産家ではない私たちも、実現したいと願います。

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IT革命を経て、その便利さにもかかわらず、生きることが難しい、不安定な、不公平な社会が広がります。

かつて、Windowsが毎年のようにバージョンアップしていたとき、「そろそろ年貢の納めどき」というコピーを観ました。IT社会に生きる者たちは、そのOSを通じてコンピューターにつながれます。さまざまな情報機器やアプリが更新され、そのたびに新しいスキルを要求されます。そして、再教育や訓練するより、スタッフを使い捨て、仕事を短期に外注する方がよい、という経営スキルや、教育機関の宣伝・競争が広まったのではないか、と思います。

グローバル企業や超富裕層は、本国や受入国の制度・法律を変える力を持ちます。タックス・ヘイブンだけでなく、脱税に近い免税制度や低税率の適用、投資の優遇制度を、国家や地方政府、開発特区が競って採用します。こうしたグローバルな仕組みに依拠した富の蓄積とは、超富裕層がますます社会の豊かさとは切り離された地主や貴族になることを意味します。

The Economistは、企業の集中・巨大化が、ごく少数の企業に高い収益をもたらす事実に注目し、その理由を、ネットワーク効果、に見ています。Facebookも、Uberも、Amazonも、彼らが最初に示した優位は小さなものであったでしょう(あるいは、その優位はなかったかもしれない)。しかし、利用者が増えると他に比べて魅力が増し、同時に、彼らは競争相手を次々に買収して、新しい技術革新やビジネスモデルを呑み込んでいきました。

超富裕層が漠然とした不安(や善意)から教会や学校に寄付し、慈善活動をすることは、独占利潤や社会的な差別に由来する「貴族的」行為です。政府の機能や選挙システム、政治運動を改善することを通じて、彼らのように富の蓄積ができない、もっと直接に社会を豊かにする仕組みを広めるべきでしょう。

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本当は、辻井伸行のコンサートも無料で聴けたら良いでしょう。超富裕層などいなくてもよい。巨大な金融機関は、どうしても必要なら、1つの小さな島に限定して、金融ビジネスを自由化するのがよいと思います。

優れた音楽家やスポーツマン、科学者は、人々の称賛と敬意を唯一の報酬として、社会を豊かにし、一緒に庶民の暮らしを楽しめばよいはずです。

私的に所有し、売買することが望ましい分野は、ずっと小さくてよいでしょう。知識や芸術を独占し、売買する仕組みを通じて利益を増やす過程は、多くの者を排除し、支払い能力によって差別する制度を正当化しています。こうした富の分配と秩序の在り方は、それを強制する権力と結びついて、富や権力をめぐる争いの一部になります。

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