IPEの果樹園2015

今週のReview

12/21-26

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 戦後の安定した政府 ・・・中国の危険なあいまいさ ・・・ラテンアメリアの左派政権 ・・・反政権・反体制のレトリック ・・・アメリカの金利引き上げ ・・・人民元とSDR ・・・パリ気候変動協定 ・・・イスラム国との戦い ・・・フリーランスの労働組合

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  戦後の安定した政府

FP DECEMBER 10, 2015

Actually, Pakistan Is Winning Its War on Terror

BY SAMEER LALWANI

FT December 11, 2015

What is at stake in Libya talks?

Heba Saleh in Cairo

リビアの政権分裂によりイスラム国家が支配を広げていることについて、アメリカのジョン・ケリー国務長官らはローマで開かれる統一政権に向けた交渉に参加し、合意を促した。エジプトとの国境に近いトブルクの政府は国際的承認を得たものだが、西部には旧カダフィ体制において軍を支配した人物が独自に政府を組織し、石油大臣を任命して、海外のリビア資産について権利を争っている。中央銀行も存在する。

ISISはすでにリビアの海岸線をおよそ300キロも支配している。西側は正当な政府を再建し、その要請によってISISを掃討する軍事介入を計画している。リビアの統一政府に向けて、国連安保理の常任理事国5か国が会議に参加し、エジプト、トルコ、アラブ首長国連邦も代表を送る。

FP DECEMBER 11, 2015

No Foreign Aid, No Peace in South Sudan

BY JASON PATINKIN

FP DECEMBER 12, 2015

Dayton Ain’t Going Nowhere

BY ANDREW MACDOWALL

デイトン合意が、ボスニアとヘルツェゴヴィナとの間で、エスニック・クレンジングを含む、3年半の血にまみれた戦争を終結させてから、20年が経った。それはこの国の憲法としていまだに機能している。しかし外から見て、デイトン合意が欧米の大西洋社会にふさわしい、正式な、リベラルな民主的国家になるという望みをかなえる見込みはない、というコンセンサスが10年以上も前から成立している。

19951214日、クリントン政権の外交交渉を指導したRichard Holbrookeが内戦終結に成功した。ボスニアはEUNATOに加盟することを目標としたが、デイトン合意は、成立時に、これほど長期に続くことを考えていなかった。改定することもできないまま、現在のボスニアは、非常に不公正な、国家として全く機能しない姿になっている。

アメリカよりもEUが中心となって、今や国際社会は、憲法より経済の改革を中心としたボスニア再建を考えている。エスニック・ナショナリストの支配集団が、内戦再発の恐怖に依拠して、縁故関係のネットワークを広げている現状を前提すれば、デイトン合意は最悪の状態を回避するための枠組みと認めるしかない。

デイトン合意は戦場を、イスラム教徒のボスニアとクロアチアの側と、セルビア側とに分割した。その支配領域はほぼ等しい。それらは、内戦再発を防ぐため、その内部がさらに分割された連邦制を採用している。その結果、あまりにも多くの頂点を持つ、多層化した支配体制となっている。デイトンは発展のための手段ではなく、阻止するための道具になった。

55の国家や国際機関から成る高等代表部がデイトン合意を監督しているが、2006年以降、より自主的な統治を促す方針を取ってきた。しかし、国家議長は8か月ごとに輪番制で代わり、教育に関する13の官庁、400万人の国民に150人も大臣がいる。大臣ばかりで、政治指導者はいない。国内政治家たちがシステムの改革を進めるというより、10年の静止状態とナショナリズムの言動が広まっている。

非セルビア住民から見れば、セルビア共和国がデイトン合意で最大になっている。それはセルビアが行ったエスニック・クレンジングやジェノサイドにデイトン合意が報酬を与えた、ということだ。内戦の間、旧ユーゴスラビア軍隊で多数を占めたボスニア系セルビア人たちが、野蛮な方法で支配領域を拡大したものだ。セルビアの好戦的な大統領Milorad Dodikは、しばしば、自治の拡大や独立を主張している。

Dodikだけでなく、3つのエスニシティにおよぶ、すべての政治家がシステムを悪用して縁故関係やパトロンの利用者となっている。政治家たちはカースト制のように固定され、資金をばら撒いており、政府のスタッフは肥大化し、国営企業が増大する。

イギリスの元サラエボ大使であったCharles Crawfordは、経済的に成功した、自由化され、国家主義を抑えた連邦があれば、セルビア人たちも単一の国家を望むことが減るだろう、という。パトロン関係のネットワークはセルビア人に限ったことではない。旧共産主義諸国、新興市場にも広がっている。デイトン合意だけを責めるのは間違いだ。それでもボスニアは非常に危険である。若者たちの失業率は世界最悪の60%に達する。政治に幻滅した彼らが過激なイスラム主義の土壌になってしまう。

2014年からEUが始めた新しいアプローチは、経済改革を推進し、その成果があればEU加盟を認める。IMFなども改革を支援している。雇用と成長を促し、国営企業のリンクを断って、エスニック・ナショナリストの政治基盤を掘り崩す。エスニックのっ分断線を超えて繁栄し、豊かになるボスニアが憲法改正を支持するだろう、と彼らは期待している。

改革は内側から起こる。それなしには成功しない、と外交官たちは合意している。

Bloomberg DEC 14, 2015

Hey, Europe, Don't Turn Little Kosovo Into a Big Problem

By Marc Champion


l  中国の危険なあいまいさ

NYT DEC. 10, 2015

China’s Dangerous Ambiguity in the South China Sea

By LISELOTTE ODGAARD

10月、北京でYao Yunzhu少将が、中国と他の諸国との軍事フォーラムthe Xiangshan Forumで講演した。少将は、南シナ海における中国の埋め立てが国際的緊張を高めている、というアメリカの懸念に応じたのだ。

アメリカがアジアの海洋において支配的な軍事力であるのに、なぜ中国を犯人として指名するのか? アメリカは、確かに、アジアの多くの諸国と軍事協力関係を築き、海軍を配置している。

しかし、2つの点で、北京の戦略が地域の緊張をためている。すなわち、北京はオープンな議論をしないまま、南シナ海の全域に主権を要求し、しかも、これらを守るために軍事力を行使すると明示した。

中国の示す「9点線」の地図は、その領域も根拠も明確でない。また、それを防衛するという中身もあいまいだ。しかも、そのいくつかで人工島を建設している。中国は意図的にあいまいさを危険なほどに拡大し、軍事力でこれを確立していることになる。

他国にとって、中国の軍事力行使の主張は軍事衝突の危険を高めることになり、東南アジアの中小国はこのリスクをヘッジしようとするのだ。彼らは中国のとの経済関係を深めることで、中国の影響力を地域として受け入れ、同時に、アメリカとの防衛協力関係も強化する。彼らが最優先しているのは、この地域におけるアメリカと中国との覇権争いに巻き込まれないことだ。

北京のあいまいな政策は、1つの結論へ導く。それは、中国がアメリカのアジアにおける同盟関係に挑戦している、ということだ。それが中国の軍艦や戦闘機の移動を妨げる可能性があるからだ。

他方、アメリカの指導者たちは、中国がアジアの国際海域を、他国の船舶を排除できる、排他的なものに転換しつつあるように見える。ワシントンがこれを座視するわけにはいかない。

もし北京が緊張関係を緩和したいなら、交渉の始点を見直すことだ。アメリカは将来のアジアにも含まれる、と。この保証が現状を打開するだろう。互いに軍艦を送ることではない。

FP DECEMBER 14, 2015

The U.S. Navy Wants to Show China Who’s Boss

BY DAN DE LUCE

太平洋において圧倒的な優位を保っていた米軍が、中国の急速な軍事力の拡大、ロシアの進出に、軍事衝突の可能性を完全に否定できないことを理解し、最新型対艦ミサイルを配備する。


l  ラテンアメリアの左派政権

FP DECEMBER 10, 2015

The Sad Death of the Latin American Left

BY CHRISTOPHER SABATINI

チャベスHugo ChavezとルーラLuiz Inacio “Lula” da Silvaは新しい世界秩序を夢見たが、その後継者たちNicolás MaduroDilma Rousseffは夢の砕けたかけらを見ている。

チャベスは、イランのような、その石油を使った外交で、またルーラは対照的に、世界秩序の改革を構想して、アメリカのパワーをけん制する外交を展開した。しかし、チャベスの友人で、後継者になったMaduroの下で、革命よりも、政策の失敗、汚職、犯罪の増加が顕著である。ヴェネズエラもブラジルも、アメリカの助けを必要としている。

NYT DEC. 17, 2015

How to Fix Latin America’s ‘Strongman’ Problem

By DAVID LANDAU, BRIAN SHEPPARD and ROSALIND DIXON

ラテンアメリカには、選挙やクーデタで権力を握り、長期の独裁に至ったケースが多く存在する。大統領の多選を禁止する憲法を定めているのは、それを避けるための合意について重要な制度化を試みたものである。しかし、大統領たちはこれを回避しようとする。

1つのアイデアは、再選される前に、少なくとも1期の間、立候補できない、と定めることだ。大統領は、再選を唯一の改革の選択肢として示すことが多い。


l  反政府・反体制のレトリック

The Guardian, Friday 11 December 2015

The lesson we learn from Donald Trump: the left should fight fire with fire

Jonathan Freedland

SPIEGEL ONLINE December 11, 2015

Fear, Anger and Hatred

The Rise of Germany's New Right

ドイツの政治的ムードは変化してきた。民主主義への無関心が次第に増え、他方、外国人嫌いが急速に増えている。極右の暴力事件が広がり、毎晩のようにどこかの難民居住施設が放火される。

それはまだ過激な少数派である。しかし、新しい右派運動が増大している。それは、かつてのような頭を剃り上げた暴漢たちの極右とは違うものだ。新しい右派は社会のブルジョア層からも参加している。保守的な価値を持つインテリ、敬虔なキリスト教徒、政治階級に憤慨する人々。左翼と見られる人々も参加している。プーチンを称賛する、反グローバリゼーションの、過激な平和主義者たちだ。

100万人の難民がドイツに流入したことは、新しい右派運動の触媒となっている。「意識の高い市民たち」が新しい右派に取り込まれている。

Project Syndicate DEC 11, 2015

Should We Honor Racists?

PETER SINGER

NYT DEC. 11, 2015

Empowering the Ugliness

Paul Krugman

FP DECEMBER 11, 2015

Joan of Dark

BY JAMES POULOS

FT December 13, 2015

Trump is not America but he could be

ED Luce

バラクは話がうますぎた。アメリカ人の多くはそれを理解できず、大統領がイスラム過激派に対して敗北を認めた、と憤慨する。彼らは任期の終わる大統領の話など聞いていない。衰退する中産階級の宿命を止める言葉を待っている。精緻な分析ではなく、もっと心のこもった話が聞きたい。

アメリカ人はむつかしい時代を生きている。テロもその1つだ。ヨーロッパもそうだ。しかし、アメリカでは、重火器を持った若い夫婦が、隣人たちを殺し続けた。彼らは死後の楽園を夢見るカルトである。

強い中産階級がいた、世界の工業力を率いたアメリカはどうなったのか? もはや多くの工場がアメリカから消えた。今ではぎりぎりの生活を維持するために、昼も夜も、3つの職場で働き続けている。自分の子供たちがもっと豊かになる、と信じることもできなくなった。

白人中産階級の平均寿命が短くなっている。増大する自殺、アルコール中毒、郊外都市におけるヘロイン中毒の蔓延。911以来、アメリカで25万人もが中によって殺害された。それは多くの子供たちを含む。しかし、われわれはそれをテロとは呼ばない。

アメリカは、あらかじめ決めたとおり、笑ったり、泣いたり、ブーイングもする操作された民主主義ゲームやショーになった。さあ、トランプを歓呼の声で迎えよう。われわれは民主主義に生きている。彼が勝者だ。そうなればアメリカは負けだ。

世界はまだあきらめていない。アメリカが世界を指導するには、トランプを選挙戦から追放せよ。

The Guardian, Monday 14 December 2015

The strange case of America’s disappearing middle class

Paul Mason

アメリカで中産階級とは、イギリスの労働者階級を意味する。ただし、アメリカの政治家の誰も「労働者階級の価値」を問題にしない。彼らが重視するのは「中産階級の価値」だ。

中産階級が民主主義の基盤であり、政治的安定性や合意を支えてきた。しかし、アメリカの中産階級はネオリベラル政策の中で減少している。特に若者はますます債務に依存するようになった。合意は失われ、ソーシャルメディアは警官による黒人やマイノリティーへの発砲事件を繰り返し伝えている。イスラム教徒へのヘイトクライムが注目されている。

アメリカのビジネス社会は、次第に、トランプとその支持者たちによる人種差別、合理性を欠いた主張に深く絶望している。

FT December 14, 2015

Marine Le Pen, climate and the defeat of nationalism

Gideon Rachman

ル・ペンも言うように、政治はますますナショナリストとグローバリストとの競争になっている。

パリのテロがあって数週間後に、気候変動に関する国際会議が開かれたことは、国際社会に占めるフランスの地位と強さを示すものになった。気候変動は、ナショナリストたちが明らかに対処できない、グローバルな行動を求めている。だから多くのナショナリストは温暖化が起こっている事実を、単純に、否定するのだ。

トランプは、自分の交渉力を駆使し、移民たちに国境の壁の建設費用を支払わせる、と主張する様に、中国やインドに炭素排出に支払わせればよい、と主張する。オバマはこうした非難を予想して、気候変動の合意をアメリカの指導力の成果である、と説明した。その言葉はアメリカ以外の人々には自己中心的な見方に思えるだろうが、アメリカ国内でだれからも厳しい非難を浴びている大統領の立場を考えるなら、理解できる。

もし「指導力」を爆撃の回数で測るなら、「弱腰オバマ」論は説得力がある。しかし、気候変動条約は、オバマの任期最後に得られた重要な成果の1つである。同様に、今年、オバマはイラン核合意、TPP合意、キューバとの国交再開、という外交面の前進を示した。

これらの成果をもたらした深い忍耐、妥協の精神、細部への注意、寛容さ、これらはアメリカの右派に顕著な、暴力的で、単純な解決策を求める傾向と、全く対照的である。

自国のナショナリストたちを抑える必要があるのは、アメリカとフランスだけではない。インドや中国の政府も、自国の成長を犠牲にするような西側の決めた制限を受け入れた、と責められる。しかし、北京では市民を窒息させるスモッグが襲い、インドが依存している水源としての氷河が後退しているとき、彼らも気候変動の阻止に利益を共有することを認め、西側が創った問題だという声を抑える。

気候変動条約は成立し、国民先生は敗北した。しかし、グローバリストが得た優位は小さなものだ。経済停滞、テロ攻撃、移民に対する恐怖、ナショナリストたちが栄養とする苦境は続くだろう。

NYT DEC. 14, 2015

Trump’s Weimar America

Roger Cohen

ワイマールのアメリカへようこそ。ビアホールは反抗的になり、人々は政治に倦んでいる。もっと断固とした主張を、答えを求めている。

2つに敗戦に怒り、政治は過激化する。復讐心に満ち、多くの人々の実質賃金は停滞し、イスラム教徒を排除し、アメリカの偉大さを回復するという強権の指導者を求める。

トランプは道化師だ。いや、そうではない。彼は本気だ。何かを目指している。彼をまじめに扱わないのは愚か者だ。

アメリカは賠償金を支払っていないし、ハイパーインフレーションも起こしていない。しかし、明らかにアメリカ政治はヨーロッパ化している。テロの恐怖が広がり、政治は分極化して機能しない。ヨーロッパは戦後復興を、平和、統合、経済同盟により達成し、ファシスト的な右派の復活を抑える最善の保証が福祉国家である、と信じていた。

NYT DEC. 14, 2015

Marine Le Pen, Postponed

Sylvie Kauffmann

Project Syndicate DEC 15, 2015

The French Rally to the Republic

BERNARD-HENRI LÉVY

FP DECEMBER 15, 2015

When You Close Your Eyes and Think of America, What Do You See?

BY CHRISTIAN CARYL

Bloomberg DEC 17, 2015

Muslims Should Be Grateful to Trump

By Pankaj Mishra


l  アメリカの金利引き上げ

FT December 11, 2015

Reasons why a Fed rate rise does not matter

John Authers

FT December 11, 2015

New problems but old tools at Federal Reserve

過去7年間、金利は変更されなかった。金融引き締めはアメリカと世界経済の新しい時代を意味する。他の開発諸国と新興諸国はまだ景気回復を遂げていない。それに加えて、アメリカの金利上昇に直面する。

最後の金融引き締めが行われてから、世界は大きく変化した。それにもかかわらず、金融政策の枠組みはほとんど変わっていないことに驚く。連銀は基本的に、名目需要と経済のキャパシティ、特に労働市場とを比較して、インフレ圧力を測っている。中央銀行に関するさまざまな新しい理論が議論されたが、ほとんど影響しなかった。

2006年には、1つの目標と1つの手段とをモデルとした、インフレ目標に従って短期金利を変更する、という枠組みが支配的になった。しかし、グリーンスパンは従わなかったし、バーナンキはインフレ目標を支持したが、早期に量的緩和を採用して、世界金融危機後のデフレと闘うことを優先した。

イングランド銀行は「マクロプルーデンシャル政策」を唱えてきたが、金融的な不安定性に正しく対処するには何をするべきか、経済学者たちにも合意がない。

FT December 15, 2015

How the US Federal Reserve intends to raise rates

Robin Wigglesworth, US Markets Editor

Bloomberg DEC 16, 2015

The Fed Wants a World That Makes Sense Again

By Noah Smith

連銀(Fed)は、ついに、短期金利を引き上げた。ゼロ金利政策(ZIRP)の時代が終わる。

金融市場はそれを避けられないものと考え、すでに新しい情報ではなくなっていた。市場が反応しなかったことではなく、Fedの意思決定過程について示すものが重要だ。

なぜ、今、金利を上げるのか? コア・インフレがちょうど目標の2%である。歴史的に見て、労働力の市場参加は低く、若干の余裕があることを示す。他方、中国の減速は世界経済に脅威を与えており、アメリカ経済にも打撃を与える可能性がある。他の主要開発国の中央銀行は量的緩和QEを継続する中で、Fedは不思議にもタカ派に寄ったようだ。

極端な金融緩和はインフレを加速する危険がある、とエコノミストたちは考える。FedQEを始めたとき、John Cochraneはそう警告した。また最近では、2012年、Martin Feldstein and Steve Williamsonがインフレについて警告した。

しかし、インフレは起きず、そうした中尉は無視された。それに代わって、金融安定性、という議論が起きた。低金利融資が無責任な投資を促し、バブルになる、と。債券市場のバブルを警告する声が多くなった。

しかし、たとえバブルがあるとしても、それは破裂しなかった。株価の浮動性は低く、低金利は投資を促しただろう。投機的なマニアを生じなかった。インフレも、金融的安定性も、FedQEとゼロ金利を止める理由にはならなかった。

Fedが金融を引き締めたのは、新しい主張、すなわち、正常への回帰であった。タカ派は、長期にわたってゼロ金利を維持することは要するに正常ではない、と主張した。1980s90s2000sにおいて、金利はインフレよりも高かった。金利上昇は経済を損なうが、インフレを抑える。金利引き下げは経済とインフレをともに刺激する。Fedはそのような時代に戻したかったのだ。

金融引き締めは経済を少し損なうだろうが、正常への回帰はそのリスクに値する、とFedは考えた。成長でも、インフレでも、安定性でもなく、正常さこそFedの関心である。


l  金融危機の処理

FT December 11, 2015

In praise of post-financial crisis paranoia

Rupert Harrison

NYT DEC. 12, 2015

Fannie and Freddie’s Government Rescue Has Come With Claws

By GRETCHEN MORGENSON

Project Syndicate DEC 15, 2015

The Great Greek Bank Robbery

YANIS VAROUFAKIS

「バッド・バンク」を創って不良債権を分離しなければ、いくら公的資金を使って銀行救済を繰り返しても、銀行の再建や景気回復は実現しない。トロイカはこの合理的な判断を拒んだ。2度の救済を終わっても、ヘッジファンドや外国の銀行が投機的なギリシャへの銀行買収を続けた。そして、3度目の救済が必要になる。

トロイカに従うシリザ政権は、その公約を果たせず、支持を失うだろう。また、公的資金を使いながら、ギリシャの銀行は、民間の投資家や銀行家によって所有されてしまう。

VOX 15 December 2015

The Single Resolution Fund: How much is needed

Daniel Gros, Willem Pieter de Groen

NYT DEC. 15, 2015

Fixing Fannie and Freddie for Good

By JIM PARROTT and MARK ZANDI


l  ブラジルとロシア

Project Syndicate DEC 11, 2015

IMF Therapy for Brazil

MONICA DE BOLLE and ERNESTO TALVI

Project Syndicate DEC 11, 2015

Putin’s New Prudence

ANDERS ÅSLUND

プーチンは2008年の世界金融危機の後に大規模な景気刺激策をとって失敗したが、今回はそれを修正した。ロシアの中央銀行も、ルーブルの価値を大幅に下落させるのではなく、むしろ金利を一気に引き上げて、その後は徐々に下げている。財政の慎重な不況緩和策と、金融政策による外貨準備を保持は、ロシア経済を維持するのに適当な選択だろう。

しかし、それにはプーチンが約束した目標をいくつも切り捨てることになった。ロシアの大企業は中身にかかわらず救済してきたが、今度は大企業も倒産させた。富裕層の銀行や国営の石油会社も、かつてより不安を強めている。

ロシアの生活水準は緩やかに上昇してきたが、大きく低下した。ロシア経済のGDPは、ドルで観て、2014年には21000億ドルだったが、今年は11000億ドルに減少する。中産階級はドルで給与を得ているから、この減少はショッキングだ。

エネルギー価格の低下はまだ数年続きそうである。プーチンへの反発は致命的であるかもしれない。


l  人民元とSDR

Project Syndicate DEC 11, 2015

The Renminbi Goes Forth

PAOLA SUBACCHI

人民元はSDRの価値を決める通貨バスケットに入った。しかし、人民元はドルやユーロ、ポンド、円と同じような「国際通貨」ではない。人民元による貿易決済は増えているが、まだアジア太平洋に偏っている。人民元で債券発行や融資はほとんど行われていない、他国の中央銀行が人民元を準備として保有するのも少ない。

しかし、人民元は他の発展途上諸国と違い、自国市場が圧倒的な経済規模を持っている。中国は、その経済改革と同様に、人民元も、政治・経済パワーも、まだ形成途上にある。

中国の指導者たちは、ドルに交代することを目指しておらず、国際通貨・金融システムがドルだけに依存した状態から、多通貨によるシステムに変化することを支持している。それは十分に実現可能である。

G20は北京で開催される。グローバルな金融システムが永久に変わったことを示すだろう。

NYT DEC. 11, 2015

China to Track Renminbi Based on Basket of Currencies

By KEITH BRADSHER

Project Syndicate DEC 17, 2015

China’s Institutional Challenge

ANDREW SHENG and XIAO GENG


後半へ続く)