IPEの果樹園2015

今週のReview

12/14-19

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イギリスの政治再編 ・・・Zuckerbergの寄付より課税 ・・・ル・ペンの右派政治 ・・・中国の金融覇権 ・・・ユーロ圏の解体か,改革か ・・・気候変動に関する国際会議 ・・・難民たちの自由経済圏 ・・・大統領になる者が知るべきこと ・・・人間にとって仕事の変化 ・・・メルケル首相の挑戦

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  イギリスの政治再編

FT December 4, 2015

Before the Syria vote, a battle for Britain

Gideon Rachman

シリア空爆をめぐる議会の論争は、もっと大きな問題を争うものだった。すなわち、イギリスが外国の戦争に介入するのか? いつするのか?

それはイギリスの「介入主義」に関する論争を超えて、イギリス社会の変化、世界に占めるイギリスの位置をめぐる論争だ。それはシリア以上に、イギリスに関する論争である。下院の論争は激しい高揚感を示した。

イギリスはシリアに地上軍を送らない。イラクで行われている空爆をシリアに拡大することが問われた。しかし、その背後には多くの戦争があった。イラン、アフガニスタン、コソボ、ボスニア、スエズ、第1次・第2次世界大戦もあった。

この20年間で、介入主義の浮沈があった。1990年代、イギリス人政治家の多くは、イギリスのボスニア介入が遅かったことで、多くの戦争犯罪と数千の犠牲者を出し、数百万の難民が生じた、と考えた。ボスニア介入は、人道主義的介入を拡大する転換点となった。1998年、コソボ、2000年、シエラレオネに介入した。その3年後にイギリスをイラク侵攻に向けて決断したトニー・ブレアが介入主義者の頂点であった。

しかし、この10年の経験は、介入主義に反対する論争を強めた。2003年の開戦は、今や、大失敗であったとされている。左派にとって、ブレアは今も戦争犯罪人だ。

アフガニスタン介入は、当時、それほど論争されなかったが、数百人のイギリス兵士が犠牲となり、安定した国家も築けず、タリバンは復活しつつある。キャメロンが決断したNATOによるリビア空爆への参加も、その結果は事態を悪化させるものであった。カダフィ体制崩壊後、リビアはカオスに陥り、聖戦主義者の拠点、ヨーロッパへの難民の経路になっている。

2013年までに、イギリスは介入主義から離反し、アサドが内戦で化学兵器を使用したことに対し、キャメロンが求めたシリア空爆を下院は否決した。イギリスはもはや、グローバルな軍事行動をになう気力を失ったのか?

労働党党首となったコービンは、ブレア派の介入主義に強く反対してきたし、イギリスが世界各地で軍事介入する能力を必要とするか、と問い続けた。またテロの脅威がイギリス社会の性質を変えた。2005年のロンドン・テロは国内に育ったイスラム教徒が行ったし、多くの若いイスラム教徒がシリアでISISに参加するために国を出た。国民は、イギリスのシリア空爆がテロ攻撃を増やす、という不安を感じている。

下院における論争の頂点は、労働党・影の内閣の外相、ベンHilary Bennによる空爆支持の演説であった。

ベンの演説は、非常に珍しいことだが、喝采を浴びた。苦渋の顔のコービン党首の横で、支持演説をするのは政治的な勇気を要する。それは典型的なイギリス型の大衆アピールであった。その最後で、彼は良識と寛容の価値に訴えた。

ベンは、ISISを「ファシスト」と呼び、イギリスが同盟国の支援に向かうよう求めた。かつてチャーチルが下院で雄弁をふるったように。仲間の議員たちに彼は問う。イギリス人とはだれのことか? 何に対して立ち上がるのか?

FT December 9, 2015

The policy failures masked by scapegoating migrants

Simon Tilford

イギリスの移民流入は、他のEU諸国に比べて大きくない。社会統合にも比較的成功している。移民問題が政治的な言い訳として利用されているのだ。すなわち、2008-2014年の実質賃金低下、住宅問題、医療サービスの供給不足、である。これらはイギリス自身の公共政策に問題がある。


l  Zuckerbergの寄付より課税

FT December 4, 2015

What Mark Zuckerberg can learn from Warren Buffett about giving

ED Luce

Mark Zuckerberg and Priscilla Chanは、子供が生まれたことを祝って、その資産の99%をチャリティーに寄付すると発表し、これまでのすべての慈善活動家の記録を破った。金縁時代の先行者たち、the Mellons, Rockefellers, Vanderbilts and Carnegiesに比べて、その寄付行為を老年まで待つこともしない。彼は非常に若い。まだ31歳だ。

現在の慈善事業家たち、Warren Buffett, Bill Gatesをも抜いて、Zuckerbergは、無駄なことに資産を使うより、働き続けることを好み、病気をなくし、教育を改善し、不平等を減らすことに使いたいと考える。その道徳的な模範行為は並ぶ者がない。

しかし、問題がある。シリコン・ヴァレーの規範とは、政府を無視することだ。実際は、非常に多くの政府援助がシリコン・ヴァレーの技術革新を生んだ。医薬品業界と同じである。

Zuckerbergの寄付は企業形態を取り、慈善事業に使われるとは限らない。利益をもたらすベンチャー投資であるかもしれない。しかも、チャリティーではない彼の資産移動に税金がかからない。

彼が唱える、すべての者が基本的な医療を受けられ、すべての子供が最良の教育の機会を得る、という理想は、税金を基にした公共サービスでしか実現できない。ところが、昨年、Facebookが支払った税金は4327ポンドである。間違いではない。わずか4327ポンド! 国際事業本社をアイルランドに置き、そこではグローバル企業を支援する特別な低課税が利用できるからだ。

アメリカの納税者たちは文句を言うべきだろう。彼らが商業化している公共の技術革新に莫大な利用料を支払うのではなく、シリコン・ヴァレーは弁護士たちを使って課税を逃れている。そのような収益は公平ではない。

むしろZuckerbergは、その資産に通常の税金を、たとえば30%を支払い、69%を社会事業のための会社に移すべきだ。Buffettはすでに、超富裕層が資産のすくなくとも半分を寄付するだけでなく、所得に対しては最低限の税金を支払う、という規範を示した。


l  ル・ペンの右派政治

The Guardian, Monday 7 December 2015

France’s cowardly elite is to blame for the rise of Marine Le Pen

Natalie Nougayrède

国民戦線FNが本当に関心を集めたのは1984年、欧州議会選挙で11%近い票を得たときだ。FNはフランス政治と歴史の暗黒を象徴していた。その深い根が、伝統主義的、権威主義的、ウルトラ・カトリック、反共和主義の極右政治という遺産に至ることを、誰も忘れはしないだろう。

FNの創設者、Jean-Marie Le Penは、1950年代のアルジェリア戦争で中尉であったが、拷問にかかわったとして告発された。誰も彼の作った政治団体がフランスの指導的政党になるとは思わなかった。

移民・難民危機や、1月、11月のフランスにおけるテロが、反イスラム、安全保障重視の言論を強めた。しかし、こうした事件だけでなく、社会的・経済的な要因を見逃さないことが重要だ。フランスは、この30年間、大量失業に苦しんできた。グローバリゼーションが仕事を奪い、フランスの地位を低下させるものとして、生存にかかわる脅威と広く認識されている。グローバリゼーションが、フランスの近代化と国際的影響力を増した、1945-1975年の「黄金の30年」を終わらせた。FNの躍進には、こうしたノスタルジアがある。

1970年代の石油危機後に、失業は急激に増えた。政府は借り入れによって福祉国家を維持した。その解決法は2008年の金融危機でさらに複雑化した。1980年代以来、失業率は8%を割ったことがなく、今は10%を超えている。18-24歳の若者では24%、特に、高度な教育を受けない若者は46%が失業している。FNは若者の間で支持されている。

フランスはグローバリゼーションの挑戦に応じそこなったのだ。例えば、教育システムは社会的不平等を強め、社会的な上昇をかなえる階段として機能していない。

FNは、この誰でも知っていることを政治的に利用できた。すなわち、主要政党はどれも、社会的、経済的な苦境に対処できなかった、と。FNの最大の利点とは、政権に参加したことがない、ということだ。多くの有権者が、FNを既存のエリートたちに代わるものとみなすようになった。

それは、FNの現在の指導者Marine Le Penが党のイメージを刷新したことにもよる。47歳の彼女は、父と違って、FNを通じて権力を獲得する戦略を持ち、地方選挙で主要な選挙区を得ようとした。それは600万という記録的な得票数となった。

FN2017年の大統領選挙に勝つだろうか? それはありそうにないが、こうした問いが立てられること自体、人々が民主主義を無視するトラウマに冒されているということだ。FNへの支持は、フランスの支配エリートが臆病であることの証明だ。グローバルな変化に耐えられるモデルに、フランスを転換できなかった。

しかし、マリー・ル・ペンは何の答も持っていない。その経済プログラムとは、外の世界から、ヨーロッパから撤退することだ。彼女の社会観は、ありもしない同質的なフランスという神話である。彼女は幻想を売った。それでも多くの人に支持されるのは、ほかに買いたいものがないからだ。

FT December 7, 2015

France needs a better way to unseat its ruling clique

Jean-Yves Camus

高位の官僚たちは唯一のエリート大学the École nationale d’administrationから育てる伝統があり、それは既存政党も支配している。FNへの投票は、こうした政治エリートへの不満を表明している。

FNはそうではない。その候補者はさまざまな分野の庶民、ブルーカラーの労働者、都会の若い専門職、中産階級の女性などだ。その破滅的な政策ではなく、この開放性こそ、伝統的な政党が学ぶべきことだ。フランス人の80%が議会や政党を信頼できないと回答している。民主主義システムへの信頼を取り戻さねばならない。

さらに、保守系右派は、そのイデオロギーを再定義し、FNへの支持を低下させる戦略を取るべきだ。共和党は、社会的な保守派から、反EUのナショナリスト、経済のリベラリズムまで、多くのイデオロギーを含んでいる。しかし、後者の地位は低下しつつある。

異質な共和党の両翼に好まれる姿勢を示す、サルコジの試みは失敗した。シェンゲン協定を批判しても、フランスの影響力喪失を嘆いても、FN支持者を奪うことはできない。穏健な保守派から嫌われ、自由市場経済学の称賛も支持されない。むしろ共和党を解体することだ。それは右派を2つの集団に分割する。

1つは、ヨーロッパ統合に一層強く関わり、自由な市場経済学や多文化の社会を支持する。もう1つは、リベラルではない民主主義を支持する、よりFNに近いものだ。多数派がマイノリティーに強制し、フランスはグローバリゼーションから離脱する。

孤立する保守派ではなく、外向きの保守派こそが、フランスの衰退を逆転できる。


l  中国の金融覇権

FT December 8, 2015

The unenviable currency problem facing China

SDRの価値を決める通貨バスケットに人民元が入っても、通貨投機のリスクを減らすわけではない。中国はむつかしい転換期にあり、世界経済の減速やアメリカの金融政策が転換する中で、政府はそれを慎重に管理しようとしている。

輸出や投資に頼る成長から、国内消費に依存した成長への転換を唱えてから、人民元レートは市場による決定を受け入れる不確実な状況が続いている。輸出が大きく減り、外貨準備も減った。中国政府は為替レートの切下げで輸出を伸ばす競争に加わっていない。むしろ中央銀行による金融緩和で消費が伸びつつある。

この状態がさらに改善されることを願うが、短期的に、為替レートの変動を許しながら、長期的な成長モデルの転換を図るのは、世界経済のショックに対して非常に難しい対応を必要とする。


l  ユーロ圏の解体か,改革か

FT December 6, 2015

Europe will stumble before it learns to stand tall

Wolfgang Munchau

イタリア人はユーロによって貧しくなった,と明確に言える.ユーロ圏だけでなく,イギリスの最も低い賃金で働く労働者たちも,移民流入で賃金がさらに低下した.住宅価格も上がっている.オランダ人が不満なのは,いまだにEU全体の治安と司法システムが成立していないことだ.警察は十分に協力してテロと戦っていない.フィンランドは4年も不況に苦しむが,もしユーロ圏を離脱すれば,直ちに景気が回復するだろう.為替レートの切下げは,賃金の引き下げによる競争力改善よりも,はるかに効果的だ.

もしEUが民主的な連邦国家であれば,ユーロ危機は存在せず,移民危機も存在しない.しかし,EUは国家ではない.このまま不均衡が続けば,人々は分離を求めるだろう.

それは公式の分割論ではなく,非公式のものだ.公式のEUがもつ政治的な「意義」は次第に消滅する.しかし,自由貿易圏として反映できるだろう.そのために必要な,最低限の,技術的なインフラとしてEUは再生する.

 VOX 09 December 2015

Stability bonds for the Eurozone

Ángel Ubide

ユーロ圏は,システムを安定化するために債券を発行することが望ましい.債券発行の仕組みを正しく設定することで,加盟諸国の異なる景気循環や経済構造,政治的ダイナミズムを,マイナスではなく,プラスに関わる形に変えることができる.それはモラルハザードを抑え,財源を各国からEUに徐々に移転し,財政再建にも反しない.

近年,そのような提案がいくつかなされて,論議を呼んでいる.


l  気候変動に関する国際会議

NYT DEC. 6, 2015

Trust and Money at Core of Crucial Paris Talks on Climate Change

By CORAL DAVENPORT

気候変動に関する国際会議は,2つの問題に集約される.信頼と資金だ.

温暖化を抑えるために184の政府が抑制策を示している.それらは新条約の核心であるが,問題は,政府が約束を守るか,という点だ.善意に訴える以外に,何の強制力もない.

アメリカは法的強制力のある条文を強く求めた.各国は状況をモニターし,成果を検証し,国際機関に抑制した排出量を報告する.しかし,多くの発展途上諸国はこれに反対し,この問題はアメリカと中国との対立になった.

「透明性が非常に重要だ」とアメリカの交渉スタッフは言う.中国側も,透明性は相互の信頼に欠かせない,という.アメリカは,原子爆弾を監視する機関であるIAEAの気候変動バージョンとして,専門家による国際機関を求めている.ブラジルやインドネシアの森林を衛星で監視することも提案されている.

多くの国にとって問題は,炭素排出を関し,追跡するため,政府に資源がないことだ.つまり,技術支援や財政支援が必要な国がある.アメリカはまた,専門家による支援を提案している.

2009年,ヒラリー・クリントン国務長官は,化石燃料からクリーン・エネルギーへの転換,温暖化による影響の緩和のため,開発諸国から年1000億ドルの資金移転を提案した.しかし,これは民間投資を考えていた.納税者への負担となると,議会は強く反対する.インドは,開発諸国からの公的資金の配分が,国際条約成立のカギである,と求めている.

こうした留保にもかかわらず,条約は合意されるだろう.それは130人の犠牲者を出した先月のテロ事件で,会議の主催国であるフランスに同情が集まっているからだ.どの国もフランスが成立に向けて強い関与を示した会議で,明白な反対は示さない.しかし,その中身を可能な限り薄め,無効にするかもしれない.


l  難民たちの自由経済圏

Project Syndicate DEC 7, 2015

Development Zones for Syrian Refugees

MARKUS BRUNNERMEIER, HAROLD JAMES and HANNES MALMBERG

フランスとドイツの経済大臣は,シリアなどからの難民を減らし,地域を安定化するため,100億ユーロの基金を提案した.その投資計画は,トルコが試みてきたガジアンテップ自由経済圏the Gaziantep Free Economic Zoneを拡大するものであるべきだ.

EUはこの自由経済圏を支持して,シリアからの難民や企業家たちと,トルコや周辺諸国の労働者も含めて,投資と雇用を拡大する経済圏にするだろう.そのために,EUは住宅の建設に融資し,オフィス,倉庫,公共サービスを整備して,地元の建設業者にも需要が増えることが目標になる.

歴史にはダイナミックなセンターが広大な地域から資源や人々を集めたことを示す例が豊富にある.中国で1980年代に成長を開始したのも,鄧小平が設けた経済特区からであった.


l  大統領になる者が知るべきこと

FP DECEMBER 7, 2015

The Top 5 Things the Next President Needs to Know About Foreign Policy

BY STEPHEN M. WALT

アマチュアも混じる大統領候補者たちを考えると,地上最強の国の大統領になった場合,必要な外交政策の基礎知識を持ってほしい,と思う.それは世界中の指導者の名前を覚えることでも,アメリカが結んだすべての国際条約を知っていることでもない.貿易に関するヘクシャー=オリーン理論を説明できることでもない.基本は,次の5つである.

1.地政学.・・・世界が善悪の基準で動かない.単純な予言は意味がない.自国も他国も同様に,自分たちの利益でしか動かない.利他主義や高貴な理由で動くのはまれである.国家にとって安全保障が何よりも重要だ.だから領土や国境に関わって起きることには敏感である.プーチンがウクライナやグルジア,シリアに対して行ったことは,特別なことではない.アメリカも自分の裏庭(中米・カリブ海域)でやったことがある.

アメリカの例外主義とは,その歴史や文化ではなく,何よりも,その地理的孤立によって与えられている.近くに,アメリカの脅威となるような強国が存在しない.だから,アメリカは世界中で自由に介入できる.他国はアメリカに協力を求め,アメリカはそれを利用して有利な外交を展開する.他方,他国はアメリカの指導者が自国にとって不利益となる行動をとることを恐れている.アメリカが何と言おうが,ロシアはNATOの拡大を受け入れないし,中国は近隣に米軍が駐留していることを自分たちへの脅威と考える.

他国は常にアメリカの行動にフリー・ライドできる.アメリカが国際協力を期待しても,他国は分担せず,アメリカはすべてを自分で担うことになる.


l  人間にとって仕事の変化

Project Syndicate DEC 9, 2015

The Evolution of Work

DANI RODRIK

歴史的に,豊かになるには,つらい労働によるしかなかった.しかし,産業革命で,着実に労働生産性を高めるという初めての時代になった.ただし何十年も,労働者たちはその成果を得られなかった.労働時間は延長され,ひどい生活条件の都市に移住し,平均的な生活水準が低下したことを示す指標もある.

資本主義それ自体が変形したことで,労働者はその成果を共有するようになった.地方の余剰労働力が枯渇したこと,労働者が組織化されて利益を主張したこと,革命を恐れて資本家が妥協したこと.労働者にも市民権,政治的権利が認められるようになった.そして民主主義が資本主義をさらに変えた.教育や訓練に対する公共投資が増え,より生産的で自由な労働が請託可能になった.

結局,技術進歩が産業資本主義を打倒したのだ.工業部門は他の分野よりも急速に生産性を高めて,労働者が「過剰」となり,サービス分野に移動することになった.サービス経済では,一部の労働がより楽しいものに変わったが,多くはそうではなかった.銀行家,コンサルタント,エンジニアは,産業労働者よりもずっと多くを稼ぐようになった.

オフィスワークは工場労働と違って,多くの自由と個人の自立性を得た.しかし,専門的なサービスに比べて,教師や看護婦,ウェイターはそうではなかった.未熟練労働者は,産業資本主義の時代に交渉で得た利益も失うことになった.労働組合は衰退し,雇用の保護は失われ,労働者の交渉力は大きく低下したからだ.

労働市場には新しい分裂が生じている.安定した,高所得の,満たされたサービス労働と,流動的で,低所得の,不満足な労働である.脱工業社会の労働者は,教育やスキルの水準,労働市場の制度化に従って,異なる程度の不平等に生きる.

豊かな国でも,不平等,排除,二重性が顕著に存在し,スキルの配置は偏り,多くのサービス労働が,教科書にある「理想的」なスポット市場になっている.

他方,中・低所得の国では,圧倒的な数の労働者がこうした転換を経験していない.しかも,転換を経験しないだろうと考える2つの理由がある.1.労働条件の改善,労働者の組織化,集団交渉は,経済発展の実現の後に遅れて実現した.2.技術革新のグローバリゼーションは,製造業の労働を大きく変化させ,中・低所得諸国が工業化によって十分な雇用を実現することはできないだろう.むしろ,「早期脱工業化」が進んでいる.製造業が拡大するより,サービス経済化が進む.

発展途上諸国の労働者には,困難な未来が予想される.


l  メルケル首相の挑戦

NYT DEC. 9, 2015

Angela Merkel’s War for Europe

Jochen Bittner

メルケル首相は,その10年の首相在任中に,ドイツが戦争に参加することを避けてきた.最近ではリビアがそうだ.しかし今,シリアにおける介入において,新しいタイプの世界戦争に初めて参加しつつある.それはイスラム国に対する戦争というより,EUの連帯を維持するための戦争である,と彼女が考えるからだ.

The Guardian, Thursday 10 December 2015

After her finest hour, Merkel now needs help from all Europe

Timothy Garton Ash

中世都市の城壁を洪水が超えていくように,ヨーロッパを襲う複合した多数の波がメルケルの不動の政治的地位をも侵食し始めている.難民流入を社会が受け入れるには,非常に困難な政治過程が待っている.

ドイツが中欧のカナダにはならないだろう.しかし,ドイツの傑出した指導者であるメルケルの挑戦は,シリア系ドイツ人,イラン系ドイツ人,アフガニスタン系ドイツ人,イスラム教徒のドイツ人が,ここを故郷であると感じるまで続く.

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The Economist November 28th 2015

Clear thinking needed

Special Report CLIMATE CHANGE: Hot and Bothered

(コメント) 気候変動の特集記事が面白いです.しかし,時間がないので紹介は次回にします.

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IPEの想像力 12/14/15

月曜日の夕方、実家で晩御飯を作る前に、たまたまニュースを見ていると仮設住宅の話でした。かつて私も津波の被災地で仮設住宅を訪問し、何人かにお話を聴きましたが、その後、それが被災者の役に立ったとは言えません。テレビで観る仮設の家並みは、その時と変わりません。

高齢の女性は、新しい住宅へ移ることもできず、次第に仮設住宅から人が減っていく中で、寂しい思いをする、と漏らします。集まって体操をするとき、他の住民と話すのが楽しみだ。苦労を分かち合うのが助けになる、と語りました。

自治体は空室の多くなった仮設住宅の治安を心配し、警備を委託するケースもある、と紹介されています。しかし、「支援」という言葉の意味を、もっと考えるべきだ,と私は思いました。

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NHKの「にっぽん紀行」を観ました。大分県日田市中津江村は、かつて金鉱山で栄えた山村ですが、今では人口が10分の1に減って、高齢化した村になっています。村の40代のある男性は「ちょいてご」と地元の言葉で表される小さな手助けをしています。

100歳で商店を営む女性は、身体が痛くて家から出られなくなりました。「ちょいてご」を頼みます。彼は、この女性が心配でした.台所の窓を開ければ見える傾斜地に、桜の小さな木を植えることにしました。動けないようなときも、窓から桜が見えるように、と。おばあさんは、桜が咲くまで生きてるかな、と言いますが、彼に励まされて、せっかく植えてくれた桜の花が見たいから生きてよう、と願います。

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次の国会に向けて、野党議員は日本の隅々を回って、国民の声を聴き、その悩みや希望を知る必要があります。

野党は、安全保障に関する憲法改正の議論に対案を準備しなければなりません。

野党は、財政再建と成長のための戦略を示さねばなりません。

野党は、派遣労働者や社会保障制度に依存している高齢者の生活を改善し、若者たちのエネルギーを取り込む仕組みを提案しなければなりません。

野党は、中国、韓国を含む東アジアの将来に向けて、アメリカやEU, インドとの関係について、国際秩序の積極的な構想を示さねばなりません。

国家は,人々の願いをかなえるためにあります.神様が与えた秩序でも,権力者が理念を実現する道具でもない,権力の意志や心を体現するために,人々と国家との関係を常に問い直す必要があります.

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「母を入院させ一人になった 子どもの貧困の現場を歩く」という記事を読みました。銀行の待ち時間に、手に取ったAERAで見つけました。

http://dot.asahi.com/aera/2015120700033.html?page=1

小学生の頃,働けなくなった母と話す時間が増えた、と少し喜んだと言います.しかし,少年はとうとう母を入院させるしかなくなり、生活保護費で定時制高校に通います.今まで、少年を助けてくれる大人はいなかった,と語ります。

「居場所が激減し、子どもたちが漂流している。その多くが、塾や習い事に通えず、放課後の時間を持て余す貧困層だ。・・・篠原恵さんは、集合住宅やマンションの駐車場で夕方、ゲームをしている小中学生を頻繁に見かけるようになった。」

学校は貧困対策より,先端教育、アントレプレナーシップやリーダーの養成に金をかける。「子育て支援」に転換して,無料の児童館が閉鎖された。たむろする子供たちを追い払うために、マンションが駐車場にモスキート音を流す、というのは恐ろしい話です。

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一人では生きることが難しい。誰でもそう感じる時があるでしょう。一緒に生きる家族や仲間がいれば、もっと違う,穏やかな老後や,勉強の好きな子供たち、被災者の生活維持と集団的な再生があったはずだ、と思うのです。

家族がいて本当によかった、と,亡くなる前に父は言いました。私の焼いた塩サバを、こんなうまいものは食べたことがない、とほめてくれたのを想い出します。

AERAの記事は、最後に、板橋区の無料塾「ワンダフルキッズ」を紹介します。家、学校、さらに「第3の居場所」を子供たちに提供することで、同じ不安を抱えた子供たちが触れ合い、大人が手助けできます。少年は、ここに通う中で、素直に話し、前向きな気持ちになれた、と言います。

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