IPEの果樹園2015

今週のReview

12/7-12

 *****************************

日本は増税するしかない ・・・シリア空爆とイギリス労働党 ・・・シリア内戦と国際政治 ・・・気候変動と技術革新 ・・・ヨーロッパは解体する ・・・中国の5か年計画 ・・・地政学の復活

 [長いReview]

******************************

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  日本は増税するしかない

Bloomberg NOV 26, 2015

Japan's Debt Trap Won't Fix Itself

By Noah Smith

クルーグマンでさえ国債について心配するときがある。それは、ギリシャでもアメリカでもなく、日本だ。

失業率の低い日本に、遊休資源はない。財政刺激策や金融緩和で経済を成長させる余地はほとんどゼロだ。しかし、日本は毎年、莫大な予算赤字を出し続けている。2014年も、GDP7.7%に達する赤字だ。

2014年の消費税引き上げによる税収の増加があり、企業の利益が増えたことと高い法人税率も2015年の財政を潤した。利払いを除くプライマリーな赤字は約3.3%に抑えられた。

しかし、3.3%でもまだ高い。長期的には、名目成長率よりも高い予算赤字は持続不可能だ。現在、日本の名目GDP成長率はおよそゼロだ。長期の潜在的な実質GDP成長率が、人口減少のせいで1%である。日本銀行は、その超人的な努力にもかかわらず、2%のインフレ目標を達成できていない。金利がほとんどゼロでも、毎年、GDP3.3%を政府が借り続けるのは大きすぎる。もし金利が上昇すれば、赤字は爆発する。

もちろん、政府はそれを知っているから、プライマリーな赤字を2018年までに1%に、2020年までにはゼロにする、と約束した。

しかし、その予測は非現実的だ。日本が長期の潜在的成長率を超えてGDPを拡大することを前提している。アメリカと同じように、日本政府も過度の楽観主義に頼る傾向がある。冷めた見方をする財務省の予測では、赤字は2.2%にまでしか減らない。そのためだけにも増税と政府支出の削減を必要とする。

1%の実質潜在成長率と1.5%のインフレ率を達成できると仮定して、漸く、2.2%のプライマリーな予算赤字が持続可能である。日本は破滅を免れるだろうか?

日本政府は、将来、もっと真剣に赤字を削減しなければならない。それは、政府支出を抑え、増税することを意味する。増税は短期的に需要を減らし、また長期的にはゆがみを生じて、経済成長を損なう。政府支出削減の方がよいけれど、それは高齢化し、人口減少する日本にとって、政治的に難しい。ますます多くの支出は年金や老人たちへの給付に向けられているからだ。

このまま赤字を続ければ、ある時点で、日本政府はデフォルトするか、日本銀行による財政赤字の直接金融に頼ることになるだろう。直接金融は最終的にハイパーインフレーションをもたらし、すべての政府と民間の債務をデフォルトにする。

いずれの場合も、日本の金融制度とビジネスは崩壊する。日本の債務はほとんど国内において融資されているから、それでも問題ない、ということかもしれない。結局、債務がなくなって、ビジネスは再生し、新しい金融制度が現れ、労働者たちも何か仕事を見つける。しかし、経済生活の破壊はあまりにも強烈で、日本の政治を過激な運動に占拠させるかもしれない。極左の力がない日本で、それは極右の政治運動となるだろう。そのような体制が採用する政策の失敗で、日本は豊かな先進国という地位を失ってしまう。

こうした悪夢を逃れる道はある。しかし、このままでは難しい。高齢者への給付を削減できれば良いが、おそらく、増税するしかない。


l  シリア空爆とイギリス労働党

The Guardian, Tuesday 1 December 2015

David Cameron has failed to show that bombing Syria would work

Jeremy Corbyn

聖戦主義者から支配領域を取り戻す地上軍が存在する、という首相の説明は、基本的な吟味にも耐えられない。

彼の計画、戦略、地上軍、外交、テロリストの脅威、難民、市民の犠牲者に関して、首相の提案が整理されていないことは、ますます明らかになってきた。

先週、首相は、クルド人部隊や、穏健派のFSAISIL支配領域で行動できないことを認めた。空爆する領域で支配的な勢力は、一層強力な聖戦主義者や過激なサラフィストである。それゆえ、空爆の強化は西側の地上軍を必要とするのだ。首相はそのことを何も言わない。

首相は、シリアへの空爆がイギリス国民に対するテロの脅威に影響することを語らなかった。また市民の犠牲者、シリア難民に関して、彼は真剣な評価を何も示さなかった。

最も重要なことは、キャメロンが、イギリスによるシリア空爆で戦争の包括的な交渉による政治解決に向けてどのように役立つか、まったく説明できないことだ。それ(政治解決)がISILを敗退させる唯一の道であることは広く認められている。シリアで広範な基礎に立つ、国民多数が支持する政権を交渉しなければならない。そのような解決策の中で、国際的な支援を受けた地域の軍隊が支配領域をISILから奪還するしかない。

中東における14年間の戦争は、私の党首選を導くテーマであった。議会がいかに迷走したとしても、戦争の教訓から学ぶことが重要だ。西側の軍事介入を思い出せば、英軍のシリア空爆はオバマ大統領が「意図せざる結果」と呼んだ以上のリスクを意味する。

FT December 2, 2015

Britain’s Syria debate is more about symbols than substance

Gideon Rachman

議会がシリアにおける軍事行動を承認するかどうか論争している。それはイギリスがアフガニスタンとイラクで戦争を始めたときとよく似ている。しかし、実際は全く違うものだ。

軍事行動は、地上軍を含まず、非常に限定された結果しかもたらさない。すでにイラクにおいてイギリスは空爆を行っている。アメリカ、フランス、オーストラリアなど、先行する諸国に従うことを求めているだけだ。その内容は、2013年に議会がシリア空爆を拒んだ論争にも及ばない。議会の投票は、新しい宣戦布告に関するものではない。イラク戦争で最初の爆弾を落として以来、イギリスはISISと戦争している。

この論争は、その中身よりシンボルが重要なのだ。労働党のコービン党首は、いくつかの重要な点を指摘した。戦争を終わらせる政治的・軍事的戦略を欠き、アフガニスタンとイラクでは軍事介入が失敗した。しかし、キャメロンはそれをすべて知っている。だから軍事行動を厳しく限定しているのだ。

イギリス政府が空爆に参加するのはシンボリックな理由である。西側の反ISIS同盟に参加すること、フランスとの連帯を示すこと、イギリスがもはやグローバルな安全保障に積極的に参加しない、という印象を否定することだ。

こうした理由は中身のない、疑似薬で効果を試すようなものに聞こえるかもしれない。しかし、空爆に参加しない、という決定は、それと逆の効果を持つことをしっかり理解しなければならない。

空爆に反対するのは、その効果に対する懸念を持つ理性的な者だけではない。元ロンドン市長のKen Livingstoneは、彼の自宅を2005年に爆破したテロリストたちを、イラク戦争に対する抗議のために「命をささげた」と述べた。元下院議員のGeorge Gallowayは、サダム・フセインを卑屈に称賛した。

イギリスが、Livingstone-Corbyn-Gallowayのような見解を支持すれば、きわめて混乱し、弱体化したという強烈なシンボルになるだろう。それこそが、議会が英軍のISIS攻撃参加を承認する上で、重要なのだ。


l  シリア内戦と国際政治

The Guardian, Friday 27 November 2015

I know Isis fighters. Western bombs falling on Raqqa will fill them with joy

Jürgen Todenhöfer

パリのテロ攻撃があってから、西側の政治家たちはテロリストが用意した罠にまっすぐはまり込んだ。911後、そうであったように。

2001年、山岳地帯the Hindu Kushに数百人のテロリストがいて国際社会の脅威となっていた。今や、テロとの戦いは推定100万人のイラク人の命を奪い、10万人ものテロリストたちとわれわれは対峙している。ISISはイラク侵攻から半年後に結成された、ブッシュの子供である。

シリアの都市ラッカは、人口わずか10万人だが、フランスのオランド大統領が標的として爆撃している。アメリカ、ヨルダン、ロシア、シリアの戦闘機が空爆しているが、それを強化するものだ。イギリスももうすぐ加わるだろう。軍事キャンプや武器庫に見えるものは何でも、小さな工場、コミュニティの集会所、病院であっても、フランス軍が爆撃している。アラブ世界には、毎日、ラッカで死んだ子供の写真が届いている。ISISは写真を流布し、テロリスト志願者が増える。

国家元首として、オランドはその頭を冷やし、理性を持つべきだ。都市ゲリラを爆撃で敗退させることはできない。ISISの戦闘員が隊列を組んでパレードするのはビデオ撮影のためだけであり、カメラの外では群衆に紛れ、その土地の家族たちが住むアパートに分散している。シリアに西側が地上部隊を送ることも、ISISが願う究極の夢だ。もっぱらイスラム教徒たちを殺害するのではなく、彼らの描く勧善懲悪の世界で、その土地を守ってアメリカ、イギリス、フランスと戦う。

こうした狂信的な戦闘員たちは、軍事訓練に優れ、死ぬことを恐れない。西側の兵士たちは生きることを願う。軍事的手段で西側がISISを圧倒することはできない。

しかし、ISISを敗退させる方法はある。1.アメリカは、湾岸諸国によるシリアやイラクのテロリストに対する武器供給を止める。2.西側は、トルコがイスラム国家との境界線を封鎖し、新しい戦闘員の供給を止めるのを助ける。3.西側は、ISISを支持するシリアとイラクのスンニ派住民が、国民的な和解と政治統合に参加するよう求める。

ISISは、抑圧されたスンニ派住民を水として、そこで泳ぐ魚である。水がなければ、魚は死ぬ。

SPIEGEL ONLINE 11/27/2015

The Answer to Terror

We Need Determination, Not Saber Rattling

An Editorial by Klaus Brinkbäumer

パリのテロ攻撃はヨーロッパに対する脅威を示している。しかし、戦場のレトリックは過剰である。平静さと固い決意こそが、われわれの姿勢である。そして、たとえ好ましくない相手とでも、広範な反IS連合を組むべきだ。

50年前から、世界はグローバリゼーションを考えてきた。経済学、企業、貿易、雇用。そして、一国が風力発電を行っても、他国が大量の石炭を燃やす火力発電所を建てるなら、気候変動は解決しない、という問題があることを知った。また難民危機は、発展した世界と途上諸国とが切り離されないことも学んだ。

現代の情報技術は互いを結びつけて、経済的、政治的、品減的な側面で、世界は一つになっている。今や、テロもそうだ。

ドイツはどうすべきか? イスラム国家のテロは西側だけを狙っているのではない。そのイデオロギーはイスラムのワッハーブ主義による解釈だ。それは西側のパートナーであるサウジアラビアが実践する、野蛮な、中世的思想である。

イスラム国のテロは、エジプトのような専制国家体制や、イラク、シリアのような破たん国家で、経済の壊滅と、多数の若者たちが怒りと無力感に取り残されたところに繁殖した。しかも、こうした無力感は、今やアラブ世界全体に広がっている。

イスラム国のテロは、驚き、不安、衝撃を与えることが目的だ。しかし、シリアやイラクの外で、戦争は起こせない。明らかに、第3次世界大戦ではなく、テロである。イスラム国は諸国の基礎を破壊することなどできないし、気候変動が人類ン位及ぶす長期的に脅威にも及ばない。

健全な民主主義国家は、ドイツのように、自由を信じる市民の勇気に依拠して対抗できる。警察や情報機関を強化しなければならないが、それは市民社会の自由を損なわないように行われる。企業、メディア、個人を監視することは排除する。

ヨーロッパが強固に、戦略を持って、フランスの報復攻撃を支持するには、シリア内戦を終わらせるすべてのことを実行しなければならない。ロシアとイランがアサド政権を維持しようとするなら、イスラム国に対する攻撃でロシアの参加を必要とする以上、当面、アサドの辞任要求は取り下げる。その国王としての威厳を守った退任を受け入れるだろう。戦術的に、エジプトのシシ、トルコのエルドアン、イラク政府とも、われわれは対話しなければならない。

教育と将来への希望だけが、アラブ世界の無力感を打破できる。その感覚こそ、イスラム国やヒズボラ、アルカイダが登場する前の世界を満たしていたのであり、イスラム国後の世界には許されない。必要なものとは、冷静な意思決定、平静で、断固とした外交だ。戦争をたたえる言葉ではない。

国連による仲介が機能することも重要だ。

Bloomberg NOV 27, 2015

Europe Isn't Doomed to a Clash of Civilizations

By Pankaj Mishra

パリのテロで、ヨーロッパに醜い偏見が急増している。世界が文明の衝突に向かうというSamuel Huntingtonの結論をまぬかれるのはむつかしいと感じるかもしれない。

しかし、ヨーロッパは自分たちを何度も作り変えた歴史を持ち、異なる未来が存在している。

ヨーロッパの諸制度はグローバリゼーションの状況に応じて国益を追求するために作られた。テロ、気候変動、国家の解体、大規模移民、難民、資本移動、デジタル・メディア、超国家機関への忠誠心、など。そして、多数の矛盾が生じているのは当然だ。

イギリスの政治家たちは、移民の経済的な必要性を知っていながら、極右の移民排斥論と、その保守的な政治基盤を恐れ、同調している。しかし、イギリス経済は外国資本に寄生しており、政治と多国籍企業のビジネスとの間で、人が入れ替わることにより、移動性に富むグローバル・エリートの地位を政治家は楽しんでいる。

イスラム教徒の人口がいくら増えても、フランスやイギリスは、現地住民の反乱を軍事的に弾圧した帝国の歴史を、捨て去るわけにもいかない。

イタリアの活発なレンツィMatteo Renzi首相が、パリのテロに対して示した提案は面白い。テロ対策の20億ユーロから半分を、大都市の郊外で孤立する若者たちのために、彼らがイタリア社会と文化に積極的に参加できるように支出する、というのだ。また、ドイツのメルケル首相がシリア難民に示した人道主義的な支援策も、大きな賭けである。

レンツィもメルケルも、エスニック集団に依拠した国民国家というヨーロッパの旧モデルが機能せず、選挙において一層の孤立を支持し、国内、国外の「外国人」を敵視することを知っている。しかし、それは破滅的な対立を煽り、経済的な衰退をもたらす、破局のレシピである。

グローバル化して緊密に統合化する世界は、18世紀、啓蒙主義者たちの世界市民という理想である。過度に中央集権化し、弾力性を失った共和国フランスは、ヴォルテールやルソー。カントを嫌うだろう。

もしヨーロッパがその社会・政治モデルの転換に失敗すれば、ヨーロッパだけでなく、それと緊密に縫い込んだ世界そのものが、慢性的な内戦状態に向かうだろう。


l  気候変動と技術革新

The Guardian, Sunday 29 November 2015

Innovation will save our warming planet – so where is the investment?

Will Hutton

気候変動に対抗する最も明白な道は、世界のエネルギー供給を変えることだ。西側の生活水準は、この250年間で、40倍にも上昇した。

それは、保守派が好む小さな政府だから、あるいは、社会主義者の支持する大きな政府だから、ではなく、資本主義と科学技術の結合によってであった。必要に応じて政府の支援を受けながら、技術革新の波が次々に起きて、経済の基盤や生産する財の質や量を劇的に変えてきた。

同じことを、今、世界のエネルギー供給について起こす必要がある。可能な限り炭素を排出しないような技術を、諸政府の支援するグローバルな研究開発投資が実現する。気候変動を科学として受け入れない保守派に限らず、現在の関心は限られているから、グローバルな炭素税導入や排出量規制は不可能だ。技術革新こそが地球を救う。

国連の呼びかけに応じて、170か国は自主的な貢献策(INDC)を提出している。パリ会議の課題は、この貢献策をより拡大し、より強い約束にすることだ。それには、化石燃料に代わるエネルギー供給が技術的に可能でなければならない。

特にインドは、中国の経済発展を再現しようとしている。もしそうなれば、世界に130億トンの炭素が追加で排出されるだろう。世界の基本は2度ではなく、4度も上昇する。しかしモディ首相は、インドが貧困と気候変動との選択をするとしたら、気候変動を選ぶ、と明言している。インド人の平均排出量は、ヨーロッパや中国の4分の1、アメリカ人の8分の1である。インドは成長する決意であり、容易に採掘可能な炭素の埋蔵量は莫大だ。

しかし、モディは、インドがさらに膨大な太陽エネルギーを得る可能性もある、ということを理解するべきだ。太陽エネルギーを主要な資源とし、炭坑よりも競争的な価格で供給できる技術を開発することが重要だ。そのための研究や供給・流通システムに投資しなければならない。

民営化がもたらした1つの結果として、そのようなR&D投資は激減した。今や公共事業や太陽エネルギーの発電機製造部門では、その売上の2%しかR&Dに投資していない。これに比べて、医薬品業界では15%である。

政府がこのギャップを埋めるべきだ、Sir David King and lords Browne, Layard, O’Donnell, Rees, Stern and Turnerが書いた“a global Apollo programme to combat climate change”は主張している。もし再生可能エネルギーに関するグローバルなR&D60億ドルではなく、150億ドルに増やせたら、インドが中国の達成した成長を再現しても、世界の炭素排出量は2030年をピークとして減少するだろう。

月曜日、パリでは、オバマ大統領とビル・ゲイツが、大規模な政府・民間基金を発表するだろう。10か国以上が、企業や社会慈善投資家とともに、エネルギーのアポロ計画に参加する。脱端子事業は巨大なグローバル市場になるだろう。


l  ヨーロッパは解体する

The Guardian, Sunday 29 November 2015

Europe’s walls are going back up – it’s like 1989 in reverse

Timothy Garton Ash

ヨーロッパ中で壁が再現しつつある.ハンガリー,フランス,ドイツ,オーストリア,スウェーデン.

ヨーロッパ中で,心の中に壁があり,日ごとに高くなっている.パリの虐殺を見た後では,それも仕方ないことだが.偏見,政治家の煽動,無責任なジャーナリズムが加わって.

2015年に,私たちは1989年の逆転する劇を見ている.鉄のカーテンは,ハンガリーとオーストリアの国境をふさぐ有刺鉄線が切れたことで,崩壊し始めたのだ.今は逆に,ハンガリーのオルバン首相が偏見を唱えて境界をふさいでいる.「ヨーロッパをキリスト教の土地に保つために.」

イギリスにはすでに270万人のイスラム教徒が住んでいる.イスラム過激派は国内で育った若者たちだ.イギリスでも,ベルギーでも,フランスでも.

壁の再現には,3つの変化が関係している.

1EU統合による自由移動.特に,2004年の東への拡大後,「ポーランド人の配管工」をシンボルとして,多くの人々が移住した.今では博士課程の学生や銀行のマネージャーである.ユーロ危機で,ギリシャ人の哲学博士号を得た者たちがロンドンやベルリンでウェイターとなった.イギリスはシェンゲン協定の外でも,こうした統合の一部である.

2.難民危機.中東からアフリカに広がる,戦争,テロ,独裁者を失った後の経済崩壊から,大量の難民が流出している.ヨーロッパにある約束の土地,ドイツに向けて.国連の推定によれば,今年,85万人以上がヨーロッパに入り,3485人が海で行方不明になった.地中海は,希望と絶望を分ける,巨大な墓場になっている.

3.イスラム過激派のテロリストたち.その多くは国内で過激化し,シリアやアフガニスタンで殺人術を学んできた.

政治やメディアにおいて,これらは混在し,誰もが混同して恐怖を高めている.ポーランド人の配管工とシリアの自爆テロリストは,想像の中でつながっている.

私は,かつてメルケルがつぶやいたことを思い出す.彼女は,鉄のカーテンの下で暮らすとはどういうものかを知っていた.若者たちに,自由で開かれたヨーロッパの価値を示すため,私たちは1日か2日,国境を閉鎖してみることだ,と.

もしかすると,メルケルの実験は始まったのかもしれない.それはある意味で,彼女が指導してヨーロッパの他の諸国も自分と同じ政策を取ると確認する前に,ドイツがすべての難民を歓迎する,という非常に寛大な誤算を犯したからだ.

その実験の結果がどうなるのか,誰にもわからない.ヨーロッパはかつて,壁を倒したことで有名であったが,今や壁を再建する土地になりつつある.


l  中国の5か年計画

NYT DEC. 1, 2015

China's Fitful Economic Reforms

By ESWAR PRASAD

かつて私がIMFの中国チームを率いていたとき,中国の中央銀行は人民元の為替レートを操作していると見えたので,北京で中国政府スタッフに質問した.その回答は,要するに,中国は市場の力によって決定している,ということだった.しかし,言い換えれば,中央銀行は需要と供給の双方を管理して「市場が決定する」為替レートを固定した水準に抑えている,というわけだ.

IMFは,人民元に,グローバルな準備通貨の地位を与えた.しかし,政府の市場経済への移行は,まだ,全く不十分なものである.中国の成長は減速し,為替レートや株価が浮動性を増している.中国は経済崩壊や金融危機に向かっているわけではないが,その「安定性や秩序」を維持するという好ましい意図と,限定された,乏しい改革のせいで,市場は自由に機能できない.

かつて為替レートを管理したように,政府は企業や国民の期待を管理しようとしている.しかし,指導者たちは国民に,自由化の利益だけでなく,そのリスクを学ぶように求めねばならない.政府による管理を強化するのではなく,企業や制度の一層の改革を進めることである.


l  地政学の復活

Bloomberg DEC 2, 2015

If World Slips Toward War, Blame Leaders' Imaginations

By Leonid Bershidsky

2009年にGeorge Friedman21世紀の地政学に関する本を出版したとき,その予測はまるでコメディのように思われた.しかし,今では,それが現実になった.21世紀に,アメリカとポーランドの結成する軍事同盟と,トルコと日本の結ぶ軍事同盟との間で,戦争が始まると予想しても,それを笑うことはできない.

戦争は,指導者たちの世界観から生まれる.ドイツの元外相Joschka Fischerが最近書いたように,ヨーロッパは,世界が法の支配によって秩序を決めるというおめでたい発想をやめるべきだ.世界の秩序はパワーが決めている.地政学は復活した.

********************************

The Economist November 21st 2015

Hoe to fight back

The industrial internet of things: Machine learning

Chinese investment in Africa: Not as easy as it looks

Charlemagne: The fly Dutchman

(コメント) テロ攻撃は,外国における信者の「グレイ・ゾーン」を分裂させ,イスラム国の(信仰の)領土にすることを望んだ,それを阻むためにも,安全な生活と宗教的な寛容さ,法の支配を人々が信頼できるようにすることだ.テロと戦うとは,そういう意味である,と指摘します.同時に,EUの境界線を守り,域内の自由移動を維持すること,シリア内戦の終結に向けた軍事.外交的な取り組みの強化,地中海からアフリカに及ぶ経済再建によって若者たちの不満を吸収すること,が考察されます.和平の交渉はまだ非常に困難であっても,始まっています.

オランダで,モロッコから来た移民のコメディアンが,なぜ移民排斥を主張する有力政治家にも劣らない強い関心と国民的な支持を得ているのか.

******************************

IPEの想像力 12/7/15

国際政治経済の先週の小テストで,「シリア内戦は第3次世界大戦に向かうのか?」と問いました.もちろん,決まった答えはありません.

私はこう考えました.

1.テロの予防,内戦の終結について,暴力からのガバナンス形成を考える特有の難しさがあります.

2.内戦の終結に関して,既知の解法はありません.コソボ空爆や,シエラレオネ介入,コロンビアの麻薬戦争から政府交渉へ,さまざまな経験から学ぶ努力が必要です.

3.しかし,第3次世界大戦を考えるうえでもっとも重要なことは,シリア内戦がEUの危機につながる恐れです.Paul KrugmanNOURIEL ROUBINIなど,多くの論者が重視しているように,ユーロ危機,ウクライナ危機,難民危機,そしてテロ攻撃は,ヨーロッパが新しいガバナンスに向けて制度を革新する圧力となっています.

もしヨーロッパ諸国が分裂状態を深め,同時に,市場の解体が経済も大幅な落ち込みに向かうなら,中東からヨーロッパ,アフリカまで,秩序の失われた混乱が広がるなら,それを利用して,あるいはその波及を恐れて諸大国の介入が強まり,第3次世界大戦は避けられないものとなるでしょう.

****

私は安倍政権の誕生過程とその政治的性格を支持しませんでした。安保法案の審議過程も,原発再稼働も,沖縄における米軍基地の移転も,政治指導者としての安倍首相は,日本の方針を国民に説得する,十分な時間と論理を欠いていたと思います.

しかし、シリアへの空爆をめぐるイギリス労働党の分裂を知ると,日本でも安全保障問題で野党が十分な批判的役割を果たせなかったのではないか,と感じます.国民の平和主義や歴史認識を,野党としてどのように変えていくのか,アジアや世界の新しい秩序形成にかかわる中身を,積極的に議論していない,と感じるからです.

またアベノミクスは、その奇矯なネーミングにも関わらず,バブル後の長期の停滞やデフレ,財政破たんに向かう債務累積を回避し,日本経済を再生するための,金融危機後のマクロ経済政策,構造改革論でした.世界金融危機後は,欧米諸国にもその意義が共有されてきたし,同時に,欧米が量的緩和に進むほどのショックを,日本の政策論争は財政再建論の流れによって混乱していた,と思います.

先日,NHK日曜討論で,甘利明産業再生担当大臣が,安倍政権の経済再生を全体として積極的に提示しました.企業の収益が改善し,賃金が上昇すること,さらに,設備投資や消費が上向くことを目標として,政労使の協議で推進しているというとき,私は感心しました.法人税,子育て支援,介護,固定資産税,TPP,消費税など,政権として何を目指すのか,自民党政権の成長政策を描いて成功している,と思ったのです.

安倍・自民党政権が,長期に成果を上げる可能性(期待)を私は否定しません。

****

気候変動に関する国際会議で,日本が中国やインドを説得し,国際的な枠組みを提案する機会があれば,それはEUの政治不安が続く中でも,その調整を助ける国際政治の安定化に貢献するでしょう.

あるいは,中国が愛国教育として,日本人を軍国主義の狂気に病んだ国民だと子供たちに教えるのをやめ,日本は,靖国神社の宗教行為を政治から完全に切り離す,と約束し,両国民に同時に戦後の和解と協力の成果を発表する,ということはできないでしょうか?

日本経済の成長を回復したという実績を安倍首相が得るなら,和解できると思います.リアリストであり,ナショナリストであることは,日中の指導者が相手を理解し,協力する妨げにはなりません.

******************************