IPEの果樹園2015

今週のReview

11/30-12/5

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気候変動に関する国際会議 ・・・シリア内戦とイスラム国家 ・・・ロボットの未来 ・・・金融の未来 ・・・中国の貿易と投資 ・・・ヨーロッパの自由移動 ・・・経済再建と政府の内外の模索 ・・・トルコのロシア機撃墜 ・・・アメリカの感謝祭

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  気候変動に関する国際会議

The Guardian, Friday 20 November 2015

What’s really at stake at the Paris climate conference now marches are banned

Naomi Klein

フランスはテロの後、治安を理由に集会やデモを禁止した。環境問題を議論する国連の会議があっても、本当に環境問題で苦しむ人々の発言はわずかに制限されている。ふつうは、まったく無視されている。気候変動の目標が彼らの生活を破壊しても、抗議の声を上げることができない。

テロだけではなく、これも暴力だ。環境破壊はゆっくりと、あるいは、急激に人々の命を奪う。温暖化ガスの排出を抑えようとしない企業や政府は、その責任を果たそうとしない。地球上の、貧しく、脆弱な人々の生存よりも、エリートたちは生活の豊かさや経済安全保障を重視する。

FT November 26, 2015

India is right to resist the west’s carbon imperialism

Arvind Subramanian

気候変動を抑えるために、先進諸国は石炭からの離脱を国際的に要請している。しかし、それはインドや他の貧しい諸国にとって不安な主張だ。アメリカなどは、国際開発銀行で、化石燃料を利用する途上諸国のプロジェクトに反対投票する。その一方で、アメリカはインドよりも35%も多くの石炭を産出している。

人口の約25%が電力を利用できない、インドのような国にとって、こうしたやり方は「石炭帝国主義」である。先進諸国のそのような要求は、インドや他の発展途上諸国に惨禍をもたらすだろう。

石炭を止めるのではなく、インドにとって唯一の道は、石炭利用の必要性と環境へのダメージ最小化とを組み合わす、効果的な技術、「クリーンでグリーンな石炭」を発見することだ。

インドはすでに再生可能エネルギーへの転換を促すため、炭素税を導入し、炭素の排出をマイナスからプラスの価格に反映させている。対照的に、多くの先進諸国は気候変動の原因であることを無視して、単に、消費者に負担を求めている。

再生可能エネルギーへの転換は、内外の政治にかかわる問題だ。インドの都市は汚染の監視を行い、社会的コストを政策に反映するようにしている。また、再生可能エネルギーの技術開発には、かつて原子爆弾を開発したマンハッタン計画のような、国家プロジェクトを、しかも主要諸国が集まって行うべきだ。

インドにとって最も安価なエネルギーである石炭から離脱するのではない、気候変動の原因に対策を向けるべきだ。


l  シリア内戦

Project Syndicate NOV 20, 2015

The Right Fight Against Terrorism

CHRIS PATTEN

文明を否定するISISのテロ攻撃を終わらせるには、協力して軍事的に敗退させるしかない。ISISは社会を分断しようとしている。国内のポピュリストたちのように、われわれ自身の市民的な価値を失ってはならない。

外交は重要だ。トルコを加え、サウジとイランとの争いと宗派対立を鎮静化し、過渡的なアサド体制の容認とロシアの参加も必要だ。地上においてISISを攻撃するのは近隣諸国とクルド人であるが、西側の支援を強化することだ。

アフガニスタンとイラクの失敗は宥和策を支持しない。NATOにとどまらず、ロシアと中国も参加する国連安保理を動かす方がよい。

FP NOVEMBER 20, 2015

The Cold Realism of the Post-Paris War on Terror

BY EMILE SIMPSON

ジョージ・W・ブッシュと同じように、オランド大統領はフランスが戦争状態にあると宣言した。それは西側にテロとの戦いを再確認するが、同時に、911後の失敗を示すものだ。ネオコンによる体制転換は完全に放棄された。

国家主権による国際システムの原理は、1648年のウェストファリア条約にさかのぼる。1572年、サン・バルテルミの虐殺は、ヨーロッパにおける100年の宗教対立が起こした殺戮の1つでしかない。諸国は互いに内政に干渉し、宗教を支配しようとした。

カソリックの諸国にとって、プロテスタントのエリザベス1世は当時のサダム・フセインであった。彼女は法王ピウス5世によって、イングランド女王を装う者であり、犯罪者として破門された。そして1588年、スペインのフェリペ2世が無敵艦隊を送って体制転換を試みた。このイデオロギー的な分断と革命そして反革命のネットワークは、ドイツとオランダがその暴力の震源であった。

ドイツだけで、16世紀半ばからの宗教戦争は人口の3分の1以上を殺戮した。ウェストファリアの不介入システムによって、ヨーロッパは「永遠の戦争」から抜け出せた。国家を超える上位の正当化を宗教に求めることを放棄して、国家の主権を確立したからだ。トマス・ホッブズは、ウェストファリアから3年後、近代的な国家概念を示すリヴァイアサンを出版した。

1990年代前半から、国家を攻撃することが流行になった。リベラル派の介入主義者たちは「住民を保護する責任」として軍事介入を支持した。他方、ネオコンは民主主義への体制転換を支持した。どちらも間違っていた。パリ攻撃は、国家を軽視した者たちへの報いであった。

FP NOVEMBER 20, 2015

The Threat Is Already Inside

BY ROSA BROOKS

テロ攻撃は今後もあるだろう。われわれはテロ攻撃を、衝撃的、異常な事件としてではなく、テロリストたちを「敗退」させるより、継続する問題として管理するべきだ。

政治家たちはそのように言うことを好まないが、われわれは政治家ではないから、苦痛に満ちた真実を語ろう。

1.犯人を排除することはできない。・・・アメリカの海岸線は95000マイルもある。イラクやシリアからトルコまで歩くことができ、トルコからブルガリアへも歩ける。アメリカの空港には毎年8億人が、ヨーロッパの空港には毎年17億人が到着する。十分に高い壁は築けないし、十分な国境警備員を配置することもできない。

2.脅威はすでに国内に存在する。・・・2005年のロンドン地下鉄も、ボストン・マラソンも、パリのテロ攻撃も、犯人たちの多くは自国民や国内居住者であった。すべての国に不満を抱く若者がおり、インターネットで不満を正当化するイデオロギーが手に入る。

3.諜報機関や検閲・監視でテロ攻撃を排除できない。・・・さらに多くの衛星画像やドローンによる撮影、e-mails、電話、テキストの情報収集・盗聴を行っても、重要な情報をノイズから分離することはむつかしい。アメリカのNSAは毎日数十億件の情報をチェックしている、という。予防することは難しく、良質の操作、社会の警戒態勢、犯人の失敗がある時だけ成功する。

4.イスラム国家を敗退させても、テロ攻撃はなくならない。・・・イスラム国家は最悪のテロ組織ではない。それはナイジェリアのボコハラムだ。かつて、多くのテロ組織があった。イスラム世界だけではない。アメリカの極右過激派はもっと多くの殺りくを行っている。2011年、ノルウェーでは1人の極右テロリストが77人を殺害した。2012年、仏教徒の武装集団が、ビルマの村で、28人の子供を含む70人以上を殺害した。

5.統計的には、テロ攻撃が他の犠牲者に比べて小さな問題である。・・・2000年から2014年、the 2015 Global Terrorism Indexによれば、テロ犠牲者のわずか2.6%だけが西側諸国の居住者であった。銃の暴力を別にすれば、アメリカ人は西側諸国の外(Iraq, Libya, or Syria — or Nigeria, Afghanistan, El Salvador, Honduras, or South Sudan)で暮らす人々より長生きし、病気や暴力で死ぬことが少ない。

10.テロリズムに有利な条件を与えない。・・・国家や非国家組織がテロを組織してきた。それは安価で、容易に、効果を発揮するからだ。たとえば、911テロはアメリカに数十億ドルの損害を与え、株式市場を閉鎖し、空港を利用できなくして、アフガニスタンとイランにおける多額の費用を伴う戦争に導いた。対応によってテロリストの利益を抑えることができる。過剰反応を止めることだ。すべての犠牲者に弔意を示し、さらなるテロを防ぎ、犯人たちを捕らえることに十分な努力を払うが、テロ攻撃は特別でも、異常でもない。

NYT NOV. 24, 2015

John Bolton: To Defeat ISIS, Create a Sunni State

By JOHN R. BOLTON

オバマ大統領の現在の政策は戦略的な視点を欠き、基本的問題に対する答えがない。すなわち、イスラム国家の敗退後、中東はどうなるのか?

われわれは明確な考えをNATO諸国、その他と、共有する必要がある。どのような作戦を計画するにも、この問題を解くことが決定的に重要だ。戦略は下から積み上げるものではない。究極の目的があって、戦術が定義できる。

イスラム国家は旧オスマン帝国の領域から、アサド大統領の体制とイランが支配的なイラク政府に反対する、スンニ派の活動から現れた新しい政治体である。同じく、独自のクルド人の国家が、事実上、誕生しつつある。

こうした状況でイスラム国家を打倒し、その地域にアサド体制が再建されることも、イランの傀儡であるイラク政権が支配を再生することも、実行できないし、望ましくもない。むしろ第1次世界大戦後の地図を描き直して、アメリカは新しい、スンニ派国家の独立を助けるべきだ。

「スンニスタン」は石油産出国として経済的なパワーがあり、アサド政権とバクダッドに対抗する力を持つだろう。湾岸諸国の支配者たちは自国の安全保障についてイスラム過激派の脅威に直面しており、この新国家を財政支援するだろう。トルコも、NATO加盟国であり、南部の安定化を支持して、新国家についても容認するだろう。

独立国家としてのクルディスタンは、このアプローチを強化する。もはや彼らはバクダッドにも、ダマスカスにも、抑えられない力をつけた。トルコとの境界地帯で深刻な問題を抱えるが、クルディスタンの独立はアメリカの支持によって国際的な承認を得るだろう。

スンニ派国家の構想は、ロシアとイランが支持する構想に厳しく対抗する。彼らの目標は、アメリカとイスラエル、アラブの友好諸国の利害と根本的に対立した、旧国境に従ったシリアとイラクの再建である。したがって、イスラム国家に対するアメリカとロシアの同盟は、軽率であり、望ましくない。

新しいスンニ派国家を樹立する構想だけが、スンニ派住民にイスラム国家への支持を失わせるだろう。それは、長期的にも、地域秩序の安定化に役立つ。「スンニスタン」はスイスではない。これは民主主義の支援ではなく、厳粛な、現実政治である。


l  ロボットの未来

FT November 20, 2015

Robots will enrich not replace us

David Willetts

ロボットが我々の仕事を奪いに来る。Martin Fordがその著書The Rise of the Robotsで主張する。イングランド銀行の主任エコノミストAndy Haldaneも、先週、イギリスで1500万人の仕事が機械化されるだろう、と警告した。

技術革新は、いつも、職場にある者にとっての脅威である。自動運転の開発競争がそうだ。電化は第2次産業革命を導いたが、余計なものとなった産業で多くの職場が放棄され、旧来の熟練で生きる労働者たちを置き去りにした。長年の労働によって得られた熟練が、今や、何の価値もない。

それゆえ大学卒業生が、徒弟奉公人よりも、長期的に所得を増やしたのだ。彼らの方が技術変化に対する適応力が高いからだ。

かつて工業都市は炭坑や水の供給地に隣接したが、それは機械を動かすためであった。次第に機械が自立して、工業都市は衰退した。今では産業集積が大学や研究機関の周辺に形成されている。

しかし、ロボットや機械化が特製の職場や産業を苦しめても、経済全体としてはそれに適用できる。工業化は職場を激変させて、旧産業を消滅させるが、他方で、働く人々の数は増大した。その発展経路は今も続いている。技術進歩は消費者に途方もない利益をもたらす。より安価な商品、かつて誰も想像できなかったような新しい商品をもたらすからだ。

ロボットに対する偏った恐怖がアメリカに見られるのは、労働者を犠牲にして、企業が利益の大部分を取得し、しかも、労働市場への参加が減少しているからだ。それはロボットの性ではなく、アメリカの政策の失敗に責任がある。

イギリスでは、技術革新が進むことではなく、それが十分に早く市場に波及しないことが問題である。政府は雇用者の旧来の職場を守るためではなく、機械化やロボットへの投資を支援するべきだ。新技術は既存の大企業にとっての脅威である。

ロボットが職場を奪うことではなく、労働者たちが引退するよりロボットの普及が遅いことの方が問題だ。出生率の低さと移民への反対が、日本をロボット開発の指導的な国にした。高齢者のための支援ロボットも開発している。

産業がロボットを迅速に採用しないのは、それを機械として、既存の工場安全性により制限するからだ。ロボットは人間から遠ざけるのではなく、もっと弾力的に使用するとき、その能力を発揮する。あたかも同僚であるかのように。

公共政策の主要テーマの1つとして、ロボットからの収益を市民の間でどのように分配し、レジャーを増やすか、と議論する未来が来るだろう。われわれには働くもの以上に多くの仕事がある。ロボットは、脅威ではなく、その解答なのだ。


l  金融の未来

Bloomberg NOV 22, 2015

The Future of Finance

By Clive Crook

Adair Turnerの新著"Between Debt and the Devil"や、John Kay’s "Other People's Money," Alan Blinder's "After the Music Stopped"は危機後の金融について考察する。

Kayの姿勢は金融の在り方を問い直す点でユニークだ。金融システムは何のためにあるのか? 現代の金融経済はその理想からどれほど離れてしまったか?

金融は、余剰資金を持つ家計と、投資のための借り入れを必要とする企業や政府とを仲介する。金融仲介サービスの価値は、こうしたエンド・ユーザーの間に存在する。

Kayの視点からは、現在の金融経済はウォール街やシティのためにあり、こうした金融仲介ではなくなっている。その恐るべき複雑さは、仲介を取引することを仲介する商品を取引する仲介業のものである。金融ビジネスが現在のように大規模化する必要はない、と彼は考える。さらに厳格で、複雑な規制をすることにも彼は反対する。たとえば「トービン税」は、意図しない結果を生じるだろう。

正しい対策は、金融業に与えられている補助金を取り除くことだ。そうすれば、市場の力が金融を正しい方向に誘導する。それは単に、自己資本の増強、だけではない。政府による保護がなければ、多くの銀行はリスクの高い金融取引に見合った自己資本を得られない。それゆえ預金に依拠する銀行は、特に安全な資産だけを保有する。つまり、事実上の、ナロー・バンキングだ。

Kayは、グラス=スティーガル法の商業銀行と投資銀行の分離よりも、もっと進んだ改革を支持する。金融ビジネスは、最終のユーザーたちの異なった需要に特化した、小さな専門銀行群になる。零細企業への慎重な融資を成功させるには、精緻な方程式やロケット・サイエンスよりも、かつての銀行家たちが持っていた専門知識を再発見することが重要だ。

企業家たちとの長いランチや、ゴルフ・コースでの対話で得る情報が、Bloombergの金融情報よりも有益だろう。


l  ヨーロッパの自由移動

Bloomberg NOV 25, 2015

Want to Get Richer? Accept Refugees

By Leonid Bershidsky

シリア難民に関する政治論争が来西洋の両岸で荒れ狂っている。しかし、難民流入の効果は、成長にプラスであるだろう。

西側世界で最大のシリア難民流入国となるドイツは、来年、GDP0.2%上昇させ、12.5%の成長に達するだろう。それはもっぱら政府支出の増大によって生じる。ドイツ政府は、難民1人当たり約12000ユーロを支出する。それはブラックホールに吸収されるのではなく、国内需要を増加させる。ドイツは財政緊縮を緩和するべきであったとき、難民たちがメルケルの心を開いたのだ。

なぜ難民に関連して支出するのが効果的なのか? ドイツ人が子供を産むのを増やすとしたら、それは遅く、労働力の減少に間に合わない。政治的に受け入れられる説明としては、難民流入で、現地の官僚、社会サービス、教育で雇用が増える。それは難民ではなく、自国民の雇用だ。そして、労働力が増えることで、彼らを雇用する経営者も増える。

2011年以来、200万人以上の難民を吸収しているトルコで、すでにそれらが起きている。難民の多くは労働許可もなかったが、インフォーマルな、低学歴の、女性のトルコ人労働者と、大規模に入れ替わった。そして、トルコ人労働者は上位の職種に移動し、女性の就学率が上昇した。

しかも、難民たちには資産を持つ者がおり、受け入れ国では投資や起業が増える。

FP NOVEMBER 25, 2015

How to Save the Schengen Zone

BY KATHLEEN R. MCNAMARA

主権国家間を,パスポートを見せることもなく移動できるのは,EU21世紀のガバナンスとして得た主要な成果である.グローバリゼーションについて多くの人が語るが,労働者も,引退した者も,学生も,ヨーロッパのどこにでも暮らせる.それは,メキシコ人,カナダ人,アメリカ人には想像できない.

シェンゲン協定は,政治的にEUが正当性を維持するカギでもある.EU1992年に「EU市民」という法的概念を創造した.それは国民国家型モデルを根本的に現代化するものである.これらの記録は新しいアイデンティティを生み出した.

しかし,ユーロ圏の危機が示したように,EUは不完全な政治統合により深刻な問題を生じている.ユーロができたことに応じる,政治,財政,銀行制度がなく,通貨危機の源泉となっているのだ.シリア内戦と難民危機は,EUが新しい治安システムを築いていないことを示している.EUの国境警備や諸国間で情報収集の共有化が必要だ.

移動の自由は意図しない結果としてイスラム国家のテロ攻撃に結びついた.歴史において,すべての新しい政治体が生き残れたわけではない.


l  経済再建と政府の内外の模索

Project Syndicate NOV 23, 2015

A Hard Look at a Soft Global Economy

MICHAEL SPENCE

政府債務を減らす最善の方法が,名目GDPを増やし,財政支出を削ることだ,というのは健全な姿勢ではない.

中央銀行だけでは成長を実現できない.金融政策を補完する改革や伝達経路を政府が改善し,マイナスの副作用を回避するべきだ.

より多くの政府投資や民間投資を効率的に行うことができない現状に対して,その障害を取り除くべきだ.さらに政府は,再分配を行い,基本サービスを供給し,進行中の経済構造の変化に労働者たちが利益を受けられるように,諸手段を採用しなければならない.

Project Syndicate NOV 24, 2015

The Trouble with International Policy Coordination

JEFFREY FRANKEL

30年間の沈黙を破って、マクロ政策の国際政策協調が政策担当者たちの話題に上がっている。ほとんど国で成長の回復は遅く、アメリカでは金利の上昇が控えている。しかし、残念ながら、国際政策協調が無視された理由は今も同じようにある。

国際政策協調の昂揚期は、1978年から1987年まで、G7のボン・サミットで始まり、1985年のプラザ合意を含む。だが国際政策協調の利益は疑われている。例えば、ドイツ人は、ボン・サミットで財政刺激策の協力に合意したことを悔やんでいる。なぜなら、結局、1970年代後半のインフレに病んだ時期に、リフレーションは間違った目標であることがわかったからだ。同様に、日本人は、プラザ合意で過大評価されていたドルの減価に成功した後、円高が進んだことを悔いるようになった。

さらに、新興市場の世界経済や通貨に占める役割がますます重要になるのと並行して、グローバル・ガバナンスの改革は進まなかった。それゆえ、彼らの成功は国際政策協調の障害になったのだ。

定期的な情報交換や、政策の意図を説明し、他国への不意の影響や認識の差を減らすのは良いことだ。しかし、国際政策協調は有益ではないし、それが特に自分たちの政策対立や制約を外国政府の責任に転嫁するときは、むしろ有害である。

他国になにかするように求める前に、自国の政策を改善することだ。


l  アメリカの感謝祭

FP NOVEMBER 25, 2015

The Top Ten Things Americans Should (Still) Be Grateful for in 2015

BY STEPHEN M. WALT

深刻な問題が多く存在する世界で,感謝祭に何を祝うべきか? 政治家たちがまき散らす恐怖と不安を,すべて無視せよ.アメリカ人なら,第1に,アメリカに暮らしていることを祝うべきである.

NYT NOV. 26, 2015

World War III

Roger Cohen

3次世界大戦にはならない,と信じて.

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The Economist November 14th 2015

The never-ending story

The world economy: Pulled back in

Rice: Hare-grained

France’s National Front: Phantom menace

Bagehot: Trouble in Labourland

(コメント) 3つの問題に関心を持ちました.1.世界経済は第3の金融危機に向かうのか? サブプライムローンから,ユーロ圏の政府債券,そして,新興市場へ.2.コメの国内生産保護・補助金・補償は,裕福な農民を喜ばせるだけで,都市労働者や貧困層を苦しめ続けるのか? 3.難民危機とパリのテロが重なって,ヨーロッパやアメリカの政治は新しい行動主義政党が,エリート政治と社会民主主義から支持を奪うのか?

もちろん,新興市場にも異なるタイプがあり,コメの農家と都市労働者とが合意できる解決策があると思います.それはしかし,難民危機や債務・通貨危機,テロの脅威について,行動主義的保守派との論争に翻弄される既存政党の分裂状態により,主要国でもなかなか実行されません.

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IPEの想像力 11/30/15

政治経済学が誕生したのは、政治的な対立の背後には、宗教的な対立ではなく、経済的な成果の分配をめぐる対立が、その社会システムと切り離せない形で生じている、と理解したからではないか.もしそうであれば,政治経済学の答えは,常に,政治にある.いや,政治過程の改善にある,と思うのです.

ニュースでCOP21の紹介をしていました。パリの会場には,約190ヵ国からの代表団が作業するために,さまざまな情報通信手段を利用できる部屋が用意され,2国間や多国間,地域内の交渉を促す中小の会議場が用意されています.大国の指導者が直接に対話できる機会が提供され,あるいは,小国の指導者も大国や全体会議において発言する機会が得られます.

こうした会議はどのように進むのか? 議題の提出や合意文書の作成に向けた準備交渉,妥協や表現を調整するための専門家会議,首脳会談が繰り返されるでしょう.会場の外では抗議活動や自分たちの主張を宣伝する諸団体が,世界のメディアと向き合い,あるいは,相互の連携を拡大・再編しているはずです.

国際会議の決議というのは,開幕する前にすべて決まっている,という者もいます.しかし,政治は常に突発的な事態への対応の連続です.政治家たちは自国を代表して,優れた反応やセンスを求められます.その成果を決めるものとしては,国際会議の交渉や意見集約の仕組み,エネルギーと気迫がどこに集まるのか,取引材料は何か,問題の切迫性,認識や痛みの共有,などが指摘できます.シナリオ通りに終わる戦争がないように.

WTOのドーハ・ラウンドが合意形成に失敗したとき、その理由は参加国(そして拒否する力を持つ国)が多すぎる,アメリカと新興市場の主張が異なりすぎる,農業や金融市場,投資,労働など,従来の国内制度を根本的に変える内容を含む,アメリカ政府が国内の支持を得られない,という不安がある,と指摘されました.TTPTTIPの交渉と政治論争は,その合意形成手続きや政治的な意志決定に関する挑戦なのです.

暴力ではなく、信仰でもなく、買収でもなく。

アメリカ議会は,IMFの分担金を変更する国際合意に従いません.京都議定書からも離脱しました.ブレトン・ウッズ協定からも,国際連盟からも,世界経済会議からも離脱しました.強硬派はIMFもアメリカ連銀も廃止しようとしています.IMFは,こうしたアメリカの姿勢に振り回される中で,中国の人民元をSDRの構成通貨として認めることにしました.The Economistが書いたように,それは中国の改革を支持し,同時にIMFやグローバル・ガバナンスを推進するために中国の参加を確保したい,という判断であったように思います.

他方,Roger Cohenの寓話(“World War III,” NYT Nov. 26, 2015)は,好奇心の強い子供と賢く優しい母親の対話として書いています.

「ママ,第1次世界大戦がどうして始まったか,もう一度,話してくれる?

It’s a sad story. The world was organized in one way, and that way collapsed, and in the process millions of people were killed.”

Wow. How was it organized before?”

There were things called empires. They controlled vast territories full of different peoples, and some of these peoples wanted to rule themselves rather than be governed by a faraway emperor.”

ひどい,悲しい話だ,と母親は嘆きます.しかし,もう帝国はないから大丈夫.・・・アメリカ? アメリカは帝国じゃない.

しかし,帝国がないのに,多くの人が死んでいる場所もあるね.と子供は尋ねます.シリアで.

母親は,そのあまりにも複雑な事情を話しますが,子どもは,まるで第3次世界大戦だね,と心配します.母は,今日が感謝祭であることを指摘して,大丈夫,今はすべてが全く違うから,と言います.

Totally?”

Totally. We have life, liberty and the pursuit of happiness. Happy Thanksgiving, my love.”

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