IPEの果樹園2015

今週のReview

11/23-28

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G20に向けたオバマの要請 ・・・韓国の教科書問題 ・・・共和党の金融政策 ・・・中東におけるサウジvsイラン ・・・ミャンマー民主化 ・・・トルコの政治と経済 ・・・ヨーロッパの移民政策転換 ・・・ルワンダ虐殺の再来 ・・・イスラム国家のパリ襲撃 ・・・アベノミクスの衰退 ・・・クリーン・エネルギーのR&D投資 ・・・新興市場の債務危機 ・・・南シナ海 ・・・企業の余剰資金 ・・・IMFの融資政策

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  G20に向けたオバマの要請

FT November 12, 2015

America’s bold voice cannot be the only one

Barack Obama

7年前,歴史的な危機に直面して,世界不況を避けるためにG20は行動し,より柔軟な基礎の上に世界経済を再建した.そのような試みを通じて,G20は国際経済協力の最も優れたフォーラムであることを証明した.

アメリカの声は勇敢な行動で示された.われわれの経済は回復する,と.1350万人の雇用を生み出し,失業率は5%に下がった.家計やビジネスは債務を減らし,支出と投資を再開した.今日,G20の立ち向かう問題は,世界経済の成長があまりにも遅いことだ.

1に,G20諸国は短期的な需要拡大策を支持し,将来の投資を促すような,財政政策を取るべきだ.アメリカ議会はまさにその決定を下そうとしているが,アメリカが世界経済の唯一の成長のエンジンにはなれない.もし世界がアメリカの消費者に過度に依存するなら,世界経済の回復が犠牲になるだろう.

2に,G20諸国は成長の推進力となる中産階級のポケットに多くの資金を与えることで,需要を刺激するべきだ.中産階級家族への減税,大学費用の抑制,最低賃金の引き上げ,など.中国は特に,消費主導の経済に向けて中産階級の形成を促すべきだ.習近平主席も認めたように,輸出・建設に依存した成長は続けられない.G20諸国は,消費や中産階級家族に過度の課税をするべきではない.

3に,G20諸国は労働市場への参入障壁を低くして,包括的な成長を促進することができる.日本は女性をより多く労働市場に参加させ,ヨーロッパは家族にやさしい職場を増やし,また最近では難民を何万人も受け入れている.アメリカでも移民法の改革,有給休暇の拡大,弾力的な職場,子育てや複数の就業者を持つ家族に配慮した税制,を実現するべきだ.

4に,TPPのような,中産階級に利益をもたらす高度な貿易協定によって,包括的な成長を支援することができる.TPPは,高賃金の雇用を増やし,安全な職場,公平な競争,クリーンな環境をもたらす.

5に,金利が非常に低いときに,世界は公共投資を増やすことで合意する.私は議会に,将来に向けた長期のインフラ整備によって,現在の雇用を増やすように説得している.公共投資は,例えば,クリーン・エネルギーの分野で,民間投資を一気に増やすだろう.パリにおける意欲的な国際合意がそれを促すはずだ.

過去7年間にわれわれが学んだことは,われわれの行動が互いの成功のカギである,ということだ.アメリカは21世紀に向けて,繁栄のためのグローバルな努力を指導するつもりだ.


l  中東におけるサウジvsイラン

FP NOVEMBER 13, 2015

The Blood Feud That Drives the Middle East

BY KIM GHATTAS

表向きは戦争していない2つの国の外相が同じテーブルに就くことは,難しいことではないはずだ.しかし,サウジアラビアとイランは,そうではない.オバマ大統領がサウジ国王に電話し,ケリー国務長官がリヤドを訪問して,ようやく最後の瞬間に,サウジのAdel al-Jubeir外相はウィーンにおける1030日のシリアに関する会談に出席した.

サウジとイランとの対抗が,この数十年の中東におけるダイナミズムを決めてきた.地中海からアラビア半島まで,双方が代理の武装勢力による死闘を繰り返している.リヤドとテヘランとの緊張が地域全体に宗派対立を過熱させた.シリア,イエメン,バーレイン,レバノン.

「イランは,シリアにおける大きな投資が続くことを避けたいと思うかもしれない.もし彼らの利害が政治的な解決策の中で確保できるなら.」 他方,サウジはシリアの軍事組織に武器を送り続けている.それをウィーンでの会談の取引材料にするためだ.それはサウジにとってもっと重要なイエメンで,イランの譲歩を得たいからであろう,と見る者もいる.

「(イランとサウジは)両国が競争していることを理解しているが、同時に、敵にならないような方法を探している。」

1979年のイラン革命まで、両国は、共通の敵であるナセルの汎アラブ主義や、サダム・フセインのバース党によるナショナリズムに対抗していた。彼らは中東における共産主義に対抗する戦略である、ニクソン・ドクトリンの支柱であった。

最近では1995年に、4夜の交渉を経て、両国が暫定合意に達した。2005年、強硬派のアフマディネジャドが大統領に当選するまで、浮沈はあったものの安全保障の合意が維持された。シリアの内戦終結がウィーン会談のテーマであるが、中東全域で暫定合意が求められている。

「イエメン、シリア、レバノン、イラク、その交渉範囲を拡大することで、ある地域では勝利し、他の地域では敗北する、という解決のための魔法のカギを得られるだろう。」


l  ヨーロッパの移民政策転換

NYT NOV. 13, 2015

Sweden's Self-Inflicted Nightmare

By BENJAMIN R. TEITELBAUM

難民流入を続くスウェーデンでは、国内の福祉国家も、対外的な人道援助も、破たんしつつある。政府の対応は失敗だった。主要政党は移民問題の論争を政治から締め出したからだ。1980年代後半に誕生したスウェーデン国民党が移民問題を強調したが、その反・税金、ネオナチの集団を主要政党は嫌った。そして社会民主党は、移民を制限するのではなく、移民政策を固定し、いかなる修正の議論もネイティビズムとして非難した。

もっと早く国民的な議論を喚起して、持続可能な移民政策を模索すべきであった。

Geert Wilders: Let the Dutch Vote on Immigration Policy

By GEERT WILDERS

パリのテロ攻撃に対して、フランス政府が国境を一時的に閉鎖したのは賢明な判断であった。

EUに代わる完璧な代替案が存在する。1960年にSwitzerland, Norway, Iceland and Liechtensteinによって設立されたEFTAである。それは自由貿易を実現するための友好組織であって、政治的統合化を目的としない。

EU離脱はオランダにとって経済的に有益だ。難民政策も独自に決定できる。テロの犠牲にもならない。難民は中東地域内で受け入れるべきだと考える。莫大な富を持つペルシャ湾岸諸国やサウジアラビアがイスラム教徒を助ける道義的な義務を負うべきだ。


l  イスラム国家のパリ襲撃

Project Syndicate NOV 13, 2015

The War on Terror Begins Anew

BOGDAN AURESCU and JOSÉ GARCÍA-MARGALLO Y MARFIL

フランス、チュニジア、ケニア、イスラエル、ナイジェリア、もちろん、シリア、イラク、など、現代のテロリズムはどこにでも出現する。まるで中世ヨーロッパの黒死病のように、テロリズムは現代世界を侵食しつつあり、その撲滅は世界の緊急課題である。

各国は治安維持の法制化、特別な諜報機関や警察組織を立ち上げ、その国際的な連携、2国間そして地域の条約を模索している。しかし、テロリズムと戦うグローバルな法制度は存在しない。その状況を変える時が来た。

FT November 14, 2015

Paris attacks: France stands at a crossroads

François Heisbourg

フランスは、開放的でない、内向きの社会になって、ロシアの指導するシリアにおける空爆作戦に頼るのか? あるいは、開放的なヨーロッパ社会を維持し、中東における戦略上の慎重さを維持するのか?

テロ攻撃が成功したか、失敗したか、それを決めるのは犠牲者の数ではない。攻撃された社会の反応である。ロンドンは冷静さを保ち、平常の生活を続けた。スペイン政府は無能さを示し、ロシアのプーチン大統領は「チェチェン人をその離れで叩きのめす」と約束した。アメリカはイラクの惨禍をもたらし、愛国者法を制定した。

フランス国内では、より厳格な、事後的法制化が求められ、国民戦線の勢力が増すだろう。オランド大統領の非常事態宣言は、巧妙な、それを抑える先手であった。

外交において、敵の敵は友であるという理由で、イスラム国家の敵であるアサド政権やロシアとフランスが手を組む、という戦略を支持する声がある。しかし、事態がさらに複雑である。多数を占めるスンニ派が反発し、ロシアの空爆は過激派への支持者を増やしつつある。

The Guardian, Sunday 15 November 2015

Mindless terrorists? The truth about Isis is much worse

Scott Atran

ヨーロッパにおけるイスラム教徒への反感が強いほど、西側の中東における軍事介入が深まるほど、ISISの指導者たちは喜んでいるだろう。これこそ組織の基本戦略に従うものであるから。カオスを見つけ、カオスを創り出し、カオスを管理する。

FT November 15, 2015

A proclamation against Isis, the party of death

Simon Schama

パリの殺りく者たちがパリで戦争を望んだとしても、それは何より思想の戦争、いまだ試みられたことのない武器で戦う戦争であるだろう。社会の良識、日常生活が成り立っている規範、生活するとき、家族を養うとき、その多くはしばしば試されたり、語られたりすることなく、スポーツを楽しみ、音楽を聴き、料理し、愛し合う。

イスラム主義者が慎重に選んだ場所は、われわれが週末の楽しみを共有する場所であった。フットボール・スタジアム、音楽ホール、カフェ、人々が好んで散歩し、座り、冗談や噂話を交わす場所であった。知らない者同士も、異なる言葉や国、信仰であっても、雑談し、殺戮以外の、いろいろな話をする。

こうした場所が、突然、ISISの歓楽抹殺者たちによって「売春と悪徳」の巣窟とみなされた。人々が都市の純真さと開放性の発露とみなすものを、彼ら暗殺者たちは、宗教警察の監視する、社交性の墓場に変える。公共の娯楽や教育の場は、公開処刑の召喚状が出る場所となる。

そこには、クルド部隊が解放したイラクの都市のように、大規模な集団墓地が残される。

Bloomberg NOV 15, 2015

The Right Kind of War on Terrorism

By Marc Champion

大規模なテロは国家に行動を強いる。問題は、どんな行動を取るか、である。

イスラム国家の最大の敵は、イスラム教徒内の他宗派である。フランスやヨーロッパはイスラム教徒が多いから標的になった。宗教的な寛容、近代化、安定性をイスラム国家は嫌悪する。テロ攻撃の狙いは、その土地のイスラム教徒を支持者にすることだ。フランスのル・ペン、ドイツのPEGIGAは、非寛容、難民排除を求めて、イスラム国家と共闘する。

イスラム国家がヨーロッパで最大の敵とするのは、ドイツのメルケル首相だろう。彼女の寛容政策はシリア難民にとっての救世主であるから。

イスラム国家は、シリアとイラクの戦場で破壊するしかない。世界の主要諸国がようやく協力し始めた。聖戦主義に反対するシリアのスンニ派組織は、これまで西側に軍事支援を求めてきたが満たされなかった。アサド軍の爆撃を防ぐ飛行禁止空域も得られなかった。400万人を超える難民への生活支援も増やしてほしいと求めてきた。

それらはヨーロッパにおける政治の変化に逆らって進むものであり、あらゆる点で間違った選択をする懸念がある。それは結果的に、ますます長い、困難な戦争を招く。

The Guardian, Monday 16 November 2015

What would the world look like if we defeated Isis?

Paul Mason

国家と国家が戦争した時代に、将軍たちは政治家たちに問題を忘れないように促した。「我々は敵を跪かせることができる。しかし、平和をデザインするのは政治家たちだ。」

1991年から2003年のどこかで、アメリカはこの原則を忘れた。イラクは実質的に、シーア派、クルド人、そしてISISの支配領域に分割された。アフガニスタン各地でタリバンが復活した。シリアの分裂状態は数百万人の難民をヨーロッパやトルコ、レバノンに流出させた。イスラム・ファシスト体制のISISはヨーロッパを襲撃した。

それはNATOの問題になっている。ヨーロッパのイスラム社会で戦うのは、内戦を挑発するものだ。他方、有権者は軍事介入の効果を信じていない。人権を無視するシリア政府やトルコ政府との協力も嫌っている。彼らはクルド人や非宗教の抵抗者を攻撃している。

つまり、どのような勝利を望むのか? 大規模な監視、治安、軍事行動を、イラクやアフガニスタンでは見られないような抑制と説明をともなって実施すれば、有権者は受け入れるのか? それを拒むなら、われわれは戦場を避け、ISISを封じ込め、難民問題を処理し、斬首ビデオが流れるのを無視する。

FT November 16, 2015

Insecurity may change the state and those who run it

Janan Ganesh

リバイアサンはいつも間違ったたとえである。国家は自分の心を持った怪物ではない。少なくとも民主主義の下では、それは我々の好みや関心を反映する。われわれは文字通り、自分たちにふさわしい政府を得るのだ。

国家がその規模や機能を変えるのは、まさに社会がそう望むときである。福祉の充実は工業時代の労働者階級がそれを求めたからであり、防衛予算が高い比率を維持したのは生存の危機を感じる時代であったからだ。安全保障の懸念が後退したとき、イギリスはその平和の配当を減税や国民医療保険に支出した。需要が供給を決定する。その逆ではない。

911はイギリス政治を変えなかったが、パリで起きたテロ攻撃でこの変曲点を超えたかもしれない。国家は再びその発生時の機能、安全保障、に戻るのだ。

公共の議論において最も立場を分極化するテーマは、近年ずっと、ケインズ派に敵対する財政緊縮策であった。将来の前線は、海外のテロ集団に対して積極的な軍事行動を主張する介入主義者と、安全保障はイギリスの要塞化にあると信じる孤立主義者との間にできる。

最も顕著な違いは、われわれが国家の指導者に望むイメージに示されている。まだプロの政府顧問たちの時代は終わっていないかもしれないが、安全保障の喪失という雰囲気はそれを強いる。有権者たちはもっと高齢の、軍服を着た経歴を持つ人物を好むだろう。

選挙において重要なことは、有権者は時代の注目テーマに対応した、ガッツのある人物を求める、ということだ。問題が経済学から安全保障に変わった以上、政治も変わるだろう。政治は、プロの政治専門家たちに任せるには、重要すぎる。

NYT NOV. 16, 2015

Fearing Fear Itself

Paul Krugman

テロ攻撃に対して、それを戦争と呼ぶことは正しい対応ではない。これは恐怖をばらまく組織的な企てであって、ブッシュ大統領が述べたような、西側文明を滅ぼす企てではない。戦争とテロ攻撃との区別を失わせることは、テロリストが望んだように、その組織を現実以上に大きく見せ、彼らの大義をもっともらしくするだけだ。

フランス経済はシリア経済の20倍以上あり、ISISがフランスを征服することはあり得ない。テロ攻撃の危険性は、その対応を間違うことにある。

彼らを宥和することは間違いだ。たとえば、フランスが国際的なISISに対する軍事連携から抜けることは、それでISISの次のテロ対象にならないと希望するのであれば、間違いだ。実際、西側の帝国主義がすべての悪の根源であり、軍事介入が中東のテロリズムを広めた、と批判する者はいる。アメリカでは、宥和策という非難がリベラル派に向けられる。それは彼らが保守派のような強硬な表現を使用しないからだ。

より大きな間違いは、テロのすべての脅威を取り除かねばならない、という主張が事態を悪化させることだ。現実の世界はあまりにも複雑であり、たとえ超大国でもすべてのテロを避けることはできない。ラムズフェルドは、テロ攻撃をイラク侵攻の口実に利用した。

最後に、テロ攻撃で他の重要な諸問題から関心を失うことは間違いだ。オバマ大統領が、気候変動は我々が直面する最大の脅威だ、と言ったとき、彼はまったく正しかった。テロが人類の文明を滅ぼすことはないが、気候変動にはそれができる。

テロ攻撃に対する正しい反応は、様々な難しいトレード・オフ(プライヴァシー、移動の自由、軍事費、など)に対する慎重な判断による、多方面にわたる対策を実行することだろう。それはパリのテロ攻撃が起きる前から変わらないし、この事件があったからと言って、わずかにバランスが変化するだけで、大きく変わることはないだろう。

あなたが記憶しているように、911もそうであった。

FP NOVEMBER 16, 2015

Don’t Give ISIS What It Wants

BY STEPHEN M. WALT

こうした大きな悲劇に対する政治や社会の反応は良く知られている。だが、それらは殺戮者が望んだことである。彼らの大義に関心を集め、その過激な目的を実現する手助けとなる。

最も重要なことは、怒りに翻弄され、非難し合うのではなく、落ち着いた決意、明晰な頭脳、思慮深い対応を維持することだ。効果的な対策のための5つの教訓を述べたい。

1.脅威を全体の中で考える: われわれがそれを許さない限り、テロ攻撃は都市や社会を変えない。さまざまな問題があるけれど、ヨーロッパは2度の大戦による殺戮を経ても、現在、豊かで、自由で、安全であり、歴史上のいかなる時より平等で、安定していることを、変えることはできない。テロ攻撃を受けた場所や都市が、その後に復興していることを見れば、それがよくわかる。テロリズムは弱者の武器である。

2100%の安全は保障できない: 過激派が無関係な他者を殺害し、自殺してしまうような事件を、完全の予防することはできない。可能な標的は多くあり、たとえロシアや中国のような強権的国家でも、大規模なテロ事件が起きた。パリ攻撃は21世紀の特徴であり続ける。

3.過激派を敗退させるには、その起源を理解することだ: 聖戦主義者の暴力はイスラム教が起源ではない。それは偏狭な、原理主義者による解釈に依拠した、少数派の政治運動である。しかしまた、アメリカやヨーロッパの行動と政策が無関係であると主張するのも間違いだ。アラブやイスラム世界の人々は、西側の政策に深い怒りを感じ、怨恨を抱いている。例えば西側は、さまざまなアラブの独裁者を支援したし、イスラエルがパレスチナ人を弾圧する野蛮な政策を支持してきた。西側は空爆や制裁を繰り返し、短期的な利益になると思えば、中東諸国に侵攻したのだ。外国の軍隊が同じことを自分たちに対して行うとしたら、われわれはどう反応するか、考えてみることだ。しかも、1度ではなく、多年にわたって。そして現代では、弱者の側が大国に対して、その本土でも反撃する条件が増えた。

4.イスラム国家は戦略を持って行動しており、それに屈してはならない: 彼らの長期的な戦略目標は、シリアとイラクで領土的支配を確立し、さらに、イスラム世界とそれ以外に向けて「カリフ国家」を拡大することである。イスラム教徒とその外の人々の間で、イデオロギー対立を煽ることは、中間的な人々を分裂させる。フランスなどの西側諸国がイスラム教徒を弾圧し、中東の混乱地域を占領することは、彼らの主張を証明し、自分たちをイスラム世界の守護者にする。イスラム国家の仕掛けた罠にかからず、その戦略をくじくことだ。

5.冷静に、行動を維持する: アメリカが15万人を駐留させてもイラクを安定化できなかった。たとえイスラム国家を軍事的に崩壊させても、組織の多くの中核人物は逃れ、新しいテロ集団が生まれるだろう。残された地域の混乱を終息させて、より正当な、実効的な政府を樹立することは、この地域に住む人々の問題である。侵攻した軍隊や、歴史的に多くの過ちを犯した西側が指導できることではない。

The Guardian, Wednesday 18 November 2015

Shoot-to-kill won’t make us safe from terror – just sorry

Gary Younge

警官たちの意見はバラバラだった.しかし,すぐに合意が形成された.この男はジハード戦士であり,ロンドン地下鉄を爆破しようとしている.

彼の名は,Jean Charles de Menezes.ブラジル人の27歳,電気技師だった.テロリストではない.壊れた火災警報器の修理に向かう途中だった.

彼はもちろん死んだ.警察が7発も頭に銃弾を撃ち込んだから.彼らは完全に間違っていたのだ.

発見次第射殺する,という政策は,こうした大きな間違いを生じることを知っていなければならない.それは偏見に基づいた判断に従うかもしれない.どのような思い込みも,死を招く.西側の尊重する価値などどこにもない.野蛮さだけだ.

NYT NOV. 18, 2015

Cabs, Camels or ISIS

Thomas L. Friedman

パリのテロ攻撃を考える前に,2つのニュースを知ってほしい.

ドバイの研究所(the Reproductive Biotechnology Center in Dubai)でクローンのラクダが誕生した.ラクダは豊穣をもたらす.タクシーの新興企業がアラブ世界のUberCareem.com)を開始し,そのための資金6000ドルを調達した.女性の運転を禁止しているサウジアラビアで,特に,需要があるはずだ.

アラブ世界では, Sisi ISISの間の選択しか人々にはなかった.エジプトのAbdel Fatah al-Sisiは近代化を約束し,ISISは歴史を逆転する.しかし,ここに第3の選択肢があった.人々に投資し,豊かな生活の島を形成することだ.専制,王朝,脆弱な民主制(Tunisia, Jordan, Lebanon, Kurdistan, Kuwait, Morocco and the U.A.E.),その中で若者たちは潜在的な道を見いだした.パリではなくベイルートで,ラクダやタクシーのニュースが尊厳を回復する.

FP NOVEMBER 17, 2015

France Is at War… With Germany

BY JAMES POULOS

サルコジ元大統領は国民に警告した.あとはカオスが来るだけだ,と.自分の任期では,財政規律を無視し,防衛体制を強化し,集権化を進めた.

フランスは危機に直面し,オランド大統領は戦争状態と認めて,非常事態を宣言した.それは,フランス政府が政治的にも,経済的にも,先頭に立つ,という意味である.もはや,EUの中で,後部座席に座っていることはできない.またそれは,静かな形で,ドイツのメルケルと敵対することを意味する.

サルコジは,ドイツに経済問題で敗北したことを恨んでいる.ユーロ危機で,メルケルはEU諸国を分裂させた.再び政治が重要になり,経済問題で独裁的にふるまうことはできない.


l  クリーン・エネルギーのR&D投資

FT November 16, 2015

To find the energy to save the earth, shoot for the moon

Richard Layard

もしクリーン・エネルギーが,石炭,天然ガス,石油を掘り出し,燃やすよりも,安価に生産できるなら,こうした汚れた燃料は地中にとどまり,地球の気候は守られるだろう.とても単純なことだが,その生産コストの削減を誰が実現できるのか?

これまで民間企業が,いくらか補助金を得て行ってきたが,そのコスト削減はあまりにも遅い.公的に資金提供された機関がR&Dを担うべきだ.最近数十年の転換をもたらした科学の進歩は,コンピューター,半導体,衛星通信,インターネット,ブロードバンド,遺伝子解明,原子力,は政府による資金提供で行われた研究の成果であった.そのような投機的な試みには大きなリスクがあるから,民間部門が資金提供できないからだ.たとえできたとしても,その知識は人類すべての公共財とすべきであって,それを最初に得た私企業の利益にするべきではない.

アメリカ,ヨーロッパ,アジアの主要経済が,政府と民間の国際共同事業として,安価な半導体を開発した.その研究成果は公的に利用できた結果,半導体価格が驚異的な速さで下落した.ときに「ムーアの法則」と呼ばれるが,これは人間が決めたものだ.再生可能エネルギーでも,われわれは同じようなコスト削減を選択する必要がある.

マンハッタン計画やアポロ計画のように.再び共通の脅威があるのだから.計画を動かす熱意,尊厳,エネルギーを刺激するのに,目標が必要だ.10年以内,クリーンな電力を,石炭による発電よりも,低コストにする.これを1130日にパリで始まる国際会議の議題にしたい.

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The Economist November 7th 2015

The indispensable European

Angela Merkel: The chancellor’s crucible

Cross-strait relations: Hands across the water

Bello: The politician as thinker

Charlemagne: The dispensable French

Free exchange: The Japanese solution

(コメント) テロが起きる前のヨーロッパでは、難民危機とメルケル首相の政治的決断が議論されていました。フランスは、たとえ難民問題でも、メルケルの決断に従うしかなかったのです。

しかし、パリのテロはフランスを変えました。それはフランスとヨーロッパ政治のバランスを変えたからです。

アベノミクスは終わり、日銀はQQEを拡大すべきか? 国家破産を免れるためには、日銀が国債を完全に保有して、債務の貨幣化を管理する方がよい、と指摘します。

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IPEの想像力 11/23/15

「これは戦争状態ですか?」と質問されました。そうだ、とも、いや違う、とも言わず、私は答えを保留しました。

状況と国内の社会的・政治的反応により必要な対策が決まり,単一の正しい答えはない,という難しい問題です.

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テロリストとはだれのことか? T.G.アッシュは「経歴・目標・手段・文脈」を重視します(『ダンシング・ウィズ・ヒストリー』).

「残虐性へと転落するかと思うと,武装闘争をやめて交渉するほうが政治目標を達成しやすいと結論すれば暗闇から再登場することもある」 ・・・政治目的の暴力行使をすべてテロリズムと呼ぶわけではないという現実の,「相違に対する洗練された理解」をどのようにして得るのか?

国家(内政と外交)についても,それは言えます.

イスラム国家とは何か? S. Waltが指摘したように,それは歴史上の国家建設過程や革命運動と同じ,激しい暴力の時代,イラクやシリアの内戦から生まれた新しい権力の確立過程かもしれません.それゆえ,一定の領土を支配し続けるために,彼らは自爆テロや斬首から,より通常の国家戦略へと,その性格を変えるのです.

そして,中東における内戦状態の広がりは,かつてR. Kaplanが描いたように,エジプト,トルコ,サウジアラビア,イランのような歴史的文明圏に依拠する国家(大国間の覇権争い)と,それ以外の地域における暴力的な対抗関係(紛争・衝突)として理解できます.ルールや影響圏に関する暫定合意から,大国間関係が安定化するとともに,紛争は抑えられます.

他方,フランスのような民主的な先進工業諸国でも,移民.難民,旧植民地支配と,周辺地域の破たん国家から,暴力による権力や領土の確立を唱える内戦状態が自国内にも紛争を再現します.政府は市民的秩序を守って,諸政策を組み合わせて,これに対応しなければなりません.

国家の行動について、こうした「経歴・目標・手段・文脈」を評価することです。

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オランド大統領は,非常事態宣言を早期に解除し,次の方針を国民と友好諸国に繰り返し説明するべきです.

1.シリア内戦を終わらせる国際会議を開くこと。

2.フランスにおける社会・政治的な統合を維持し、内戦を回避すること。

3.ヨーロッパへの難民流入を抑えるために、周辺地域において避難民の生活を保障し、治安回復と帰還、生活再建を助けること。

戦争ではないとしても、戦争行為と呼ぶほどの市民的秩序に対する否定を、「新しい内戦」として理解することは、その正しい解決策を示すでしょう。

コロンビア、ネパール、シエラレオネ、など、中米、中東、アフリカの各地で、内戦終結のための交渉を政府は模索しています。和平の暫定合意、武装闘争の放棄、軍・警察の再編、特別法廷と免罪・特赦、被害者の救済・補償、そして、憲法制定のための議会を開くため,代表選挙が行われ、新しい憲法を定めます。

貧困地帯でゲリラア戦を展開した左派の革命運動は、その理想を捨てることなく,選挙によって政権獲得を目指します.地主や支配層も、極右の暴力集団やファシスト、国粋主義者に協力するより、貧困層への教育や雇用の機会を増やし、社会保障を充実させ、経済成長で安定した秩序を得られる、と確信します。

そして平和な諸国では、たとえ地球の裏側からテロと内戦が輸出されても、それに応じられる堅固な社会的連帯と責任ある政治システムを築くのです。

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