IPEの果樹園2015

今週のReview

11/23-28

 *****************************

G20に向けたオバマの要請 ・・・韓国の教科書問題 ・・・共和党の金融政策 ・・・中東におけるサウジvsイラン ・・・ミャンマー民主化 ・・・トルコの政治と経済 ・・・ヨーロッパの移民政策転換 ・・・ルワンダ虐殺の再来 ・・・イスラム国家のパリ襲撃 ・・・アベノミクスの衰退 ・・・クリーン・エネルギーのR&D投資 ・・・新興市場の債務危機 ・・・南シナ海 ・・・企業の余剰資金 ・・・IMFの融資政策

 [長いReview]

******************************

主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  G20に向けたオバマの要請

FT November 12, 2015

America’s bold voice cannot be the only one

Barack Obama

7年前,歴史的な危機に直面して,世界不況を避けるためにG20は行動し,より柔軟な基礎の上に世界経済を再建した.そのような試みを通じて,G20は国際経済協力の最も優れたフォーラムであることを証明した.

アメリカの声は勇敢な行動で示された.われわれの経済は回復する,と.1350万人の雇用を生み出し,失業率は5%に下がった.家計やビジネスは債務を減らし,支出と投資を再開した.今日,G20の立ち向かう問題は,世界経済の成長があまりにも遅いことだ.

1に,G20諸国は短期的な需要拡大策を支持し,将来の投資を促すような,財政政策を取るべきだ.アメリカ議会はまさにその決定を下そうとしているが,アメリカが世界経済の唯一の成長のエンジンにはなれない.もし世界がアメリカの消費者に過度に依存するなら,世界経済の回復が犠牲になるだろう.

2に,G20諸国は成長の推進力となる中産階級のポケットに多くの資金を与えることで,需要を刺激するべきだ.中産階級家族への減税,大学費用の抑制,最低賃金の引き上げ,など.中国は特に,消費主導の経済に向けて中産階級の形成を促すべきだ.習近平主席も認めたように,輸出・建設に依存した成長は続けられない.G20諸国は,消費や中産階級家族に過度の課税をするべきではない.

3に,G20諸国は労働市場への参入障壁を低くして,包括的な成長を促進することができる.日本は女性をより多く労働市場に参加させ,ヨーロッパは家族にやさしい職場を増やし,また最近では難民を何万人も受け入れている.アメリカでも移民法の改革,有給休暇の拡大,弾力的な職場,子育てや複数の就業者を持つ家族に配慮した税制,を実現するべきだ.

4に,TPPのような,中産階級に利益をもたらす高度な貿易協定によって,包括的な成長を支援することができる.TPPは,高賃金の雇用を増やし,安全な職場,公平な競争,クリーンな環境をもたらす.

5に,金利が非常に低いときに,世界は公共投資を増やすことで合意する.私は議会に,将来に向けた長期のインフラ整備によって,現在の雇用を増やすように説得している.公共投資は,例えば,クリーン・エネルギーの分野で,民間投資を一気に増やすだろう.パリにおける意欲的な国際合意がそれを促すはずだ.

過去7年間にわれわれが学んだことは,われわれの行動が互いの成功のカギである,ということだ.アメリカは21世紀に向けて,繁栄のためのグローバルな努力を指導するつもりだ.

FT November 13, 2015

The children of the Obama era are angry

Gary Silverman

7年前の今月,オバマはアフリカ系アメリカ人として最初の大統領になった.アメリカは人種による分断を超えて新しい国になる,という楽観論もあった.

しかし,じたいはそうならなかった.ミズーリやイエールの大学で学生たちが抗議行動を起こしたことは重要だ.彼らはオバマの時代の子どもたちであるから.人種差別の残る大学や社会の現実は,彼らの憤慨を刺激した.


l  カナダ新政権

NYT NOV. 12, 2015

An Antidote to Cynicism in Canada

By THE EDITORIAL BOARD


l  韓国の教科書問題

NYT NOV. 12, 2015

South Korea’s Textbook Whitewash

By SE-WOONG KOO


l  共和党の金融政策

Bloomberg NOV 12, 2015

How Republicans Would Really Run the Fed

By Jonathan Bernstein

NYT NOV. 13, 2015

Why Republicans Still Love the Gold Standard

By ERIC RAUCHWAY

火曜日の共和党大統領候補者討論会で,テッド・クルーズ上院議員は,多くの視聴者が頭をかき,ほとんどすべてのエコノミストが首を振るような考えを持ち出した.彼は,金本位制に戻ることを提唱したのだ.彼は,それがブレトンウッズ体制の下で繁栄をもたらし,働く男女の助けになるから,と言った.

クルーズは歴史と経済学を誤解している.ブレトンウッズの設計者たちは,それが金本位制にならないようにデザインした.なぜなら金に依拠する通貨制度が世界恐慌に大きな責任を負うべきだから.J.M.ケインズは,それが金本位制の反対のものだと考えた.ブレトンウッズに参加する諸国は,その金の保有量に合わせて金融政策を決めるのではなく,経済の必要に応じて決めるのだから.

しかし,金本位制を支持するのはクルーズだけではない.ロン・ポールもベン・カーソンもそうだ.2012年の共和党選挙公約にも挙げられたように,金本位制は長く保守派の好む考えだった.共和党の主流派にも支持されたのは,金本位制が経済に及ぼす政府の影響を制限する,と考えたからだ.

しかし,深刻な不況からの回復過程にあるとき,金本位制に復帰することは破滅的であるだろう.第1に,人口や財貨が増えるときにも,金は少量にとどまる.金本位制は,長期的に,物価を下落させる圧力となる.人々は支出を抑制するだろう.こうしてデフレの悪循環が生じる.経済は完全に停止し,大恐慌が起きた.

F.D.ルーズベルトは大統領就任の最初の時期に金本位制を廃止した.ドルを「管理通貨」とし,その価値と供給を政策的に変更することに決めた.ルーズベルトは政策的にインフレの期待を創り出して,人々の支出を促したのだ.

なぜこの信用できない政策を今も共和党員は好むのか?  金本位制には政治的な動機がある.この輝く金属が政策担当者たちの腕を縛って,行動の自由を奪うことができる.中央銀行は金融危機に対抗できず,それを予防することもない.この制約こそ,共和党員たちには好ましいものだ.金本位制は,形を変えた「連邦政府の閉鎖」である.


l  中東におけるサウジvsイラン

The Guardian, Friday 13 November 2015

Diaspora Jews offer a rare chance for hope in the Middle East

Jonathan Freedland

Project Syndicate NOV 13, 2015

Winning the Legal War on Terror

BOGDAN AURESCU and JOSÉ GARCÍA-MARGALLO Y MARFIL

FP NOVEMBER 13, 2015

The Blood Feud That Drives the Middle East

BY KIM GHATTAS

表向きは戦争していない2つの国の外相が同じテーブルに就くことは,難しいことではないはずだ.しかし,サウジアラビアとイランは,そうではない.オバマ大統領がサウジ国王に電話し,ケリー国務長官がリヤドを訪問して,ようやく最後の瞬間に,サウジのAdel al-Jubeir外相はウィーンにおける1030日のシリアに関する会談に出席した.

サウジとイランとの対抗が,この数十年の中東におけるダイナミズムを決めてきた.地中海からアラビア半島まで,双方が代理の武装勢力による死闘を繰り返している.リヤドとテヘランとの緊張が地域全体に宗派対立を過熱させた.シリア,イエメン,バーレイン,レバノン.

サウジとイランとの和解がシリアの内戦終結をもたらす決定打にはならないが,「地域の様々な紛争を沈静化するために,実行可能な最も重大なこととして,リヤドとテヘランとが対話し,その緊張を緩和することがある.」

「イランは,シリアにおける大きな投資が続くことを避けたいと思うかもしれない.もし彼らの利害が政治的な解決策の中で確保できるなら.」 他方,サウジはシリアの軍事組織に武器を送り続けている.それをウィーンでの会談の取引材料にするためだ.それはサウジにとってもっと重要なイエメンで,イランの譲歩を得たいからであろう,と見る者もいる.

両国の外相が正式に会談することは歴史的なことだが,互いの不満を述べ合ったにとどまる.しかし,同時に,非公式の会合“Track II”が持たれ,リヤドとテヘランとの専門家たちが双方の妥協可能な領域を探っている.適当な人間が加わっていることが重要だ.彼らはすでに対話の必要を認めており,政府の承認を得て作業を継続している.

「(イランとサウジは)両国が競争していることを理解しているが、同時に、敵にならないような方法を探している。」

Henner Furtigの著作(Iran’s Rivalry With Saudi Arabia Between the Gulf Wars)は、リヤドとテヘランがどのような関係を経てきたのか、歴史的に解明している。

1979年のイラン革命まで、両国は、共通の敵であるナセルの汎アラブ主義や、サダム・フセインのバース党によるナショナリズムに対抗していた。彼らは中東における共産主義に対抗する戦略である、ニクソン・ドクトリンの支柱であった。

1962年には、当時のファイサル王子に、イランのシャーが、エジプト軍のイエメン侵攻に対抗する軍事支援を申し出たほどだ。しかし、ファイサルは断った。イランがアラブの問題に介入することを嫌ったのだ。イラン革命こそが、宗教を政治手段とし、それまで眠っていたスンニ派とシーア派との対立を激化させた。

最近では1995年に、4夜の交渉を経て、両国が暫定合意に達した。2005年、強硬派のアフマディネジャドが大統領に当選するまで、浮沈はあったものの安全保障の合意が維持された。シリアの内戦終結がウィーン会談のテーマであるが、中東全域で暫定合意が求められている。

「イエメン、シリア、レバノン、イラク、その交渉範囲を拡大することで、ある地域では勝利し、他の地域では敗北する、という解決のための魔法のカギを得られるだろう。」

FP NOVEMBER 13, 2015

Can Anything Save the Israeli-Palestinian Peace Process?

BY NANCY LINDBORG

SPIEGEL ONLINE 11/14/2015

Putin Plan

The Russian President's Strategy for Syria

By Matthias Schepp in Moscow

FP NOVEMBER 18, 2015

Kurds Can’t Be Syria’s Saviors

BY HASSAN HASSAN, BASSAM BARABANDI

SPIEGEL ONLINE 11/19/2015

Obama Security Advisor

'Ground Forces in Syria Are Not Sustainable'

Project Syndicate NOV 19, 2015

Iran’s Syrian Power Grab and Saudi Arabia

NAWAF OBAID

イランの現政府は1400年続いたバランス・オブ・パワーを転換しようとしている。イスラム世界の誕生の地であるサウジアラビアはそれを許さないだろう。

シリアに限らず、現在の中東世界で起きていることを理解するためには、スンニ派とシーア派が分裂した起源、アラブとペルシャの分断、イスラムのガバナンスをめぐる過去の闘いを知らねばならない。

予言者マホメッドが死んだ後、その後継者に関して、実力のある者、年長者である義理の父親Abu Bakrが継承することを支持した。それがスンニ派だ。しかし、一部の異端者は、マホメッドの親族だけが継承できると主張し、マホメッドの義理の息子で、いとこのAli ibn Abi Talibを支持した。それがシーア派だ。現在、イスラム教徒の90%はスンニ派であり、10%がシーア派だ。

この分裂が続く中で、イスラムのペルシャ征服が行われた。1500年まで、ほとんどのペルシャ人はスンニ派だった。その後、シャー・イスマイル、サファビー朝の創設者は野蛮な政策でイスラム教徒をシーア派に改宗させた。ペルシャ帝国を、コンスタンチノーブルのより強力な、熱狂的なスンニ派、オスマンのカリフ国家から切り離すためだ。

こうした歴史は、今日のイランの行動を説明する。彼らは少数派であるという地位を受け入れないばかりか、自分たちのヘゲモニーをイスラム世界全体に樹立しようとしてきた。しかも、イランは単に少数派であるだけでなく、アラブでもないのだ。アラブ諸国の中のシーア派コミュニティーを利用して、その究極の目的はイスラムの2つの聖地、メッカとメディナを奪い取ることである。

テロリズム、代理戦争、武器密輸、核武装の野望、イランが発する巨大な妄想とサウジは闘ってきたが、もう十分だ。それゆえ、サルマン国王は歴史的な軍備拡大を実行しつつある。イランとそのシーア派武装集団が革命の幻想を捨てるまで、サウジはあきらめない。中東全域とさらに広範なアラブ世界に平和と安定をもたらすのだ。


l  ミャンマー民主化

FT November 13, 2015

Aung San Suu Kyi, the Lady who was never for turning

Michael Peel

FT November 13, 2015

From dictatorship to democracy in Myanmar

FT November 17, 2015

Aung San Suu Kyi’s victory sets democracy example to neighbours

Michael Peel in Bangkok


l  シュミット

Project Syndicate NOV 13, 2015

Helmut Schmidt’s World

FRANK-WALTER STEINMEIER


l  トルコの政治と経済

Project Syndicate NOV 13, 2015

Inclusive Growth and Global Justice

RECEP TAYYIP ERDOGAN

VOX 18 November 2015

Why Turkish growth ended: An institutional perspective

Daron Acemoglu, Murat Üçer


l  ヨーロッパの移民政策転換

NYT NOV. 13, 2015

Sweden's Self-Inflicted Nightmare

By BENJAMIN R. TEITELBAUM

スウェーデンが移民に対するメッセージは明白だ。この国へ来るな。

何年も、無責任な移民政策をとった結果、スウェーデンは国境管理を再開し始めた。ヨーロッパ中で、中東とアフリカからの難民受け入れをめぐる議論が起きている。スウェーデンは隣国デンマークに、難民の一部を映すことを依頼したが、デンマークの移民担当大臣はそれを拒んで、むしろスウェーデンの移民政策を批判した。

人口960万人のスウェーデンが、毎週、1万人もの難民を受け入れた。今年だけで第4位の都市の人口を上回る19万人が流入する。学校や教師、教室が足りなくなった。警察は国内の外国人を把握できなくなった。難民たちの生活状態を保障することもできない、と認めた。

難民流入を続くスウェーデンでは、国内の福祉国家も、対外的な人道援助も、破たんしつつある。政府の対応は失敗だった。主要政党は移民問題の論争を政治から締め出したからだ。1980年代後半に誕生したスウェーデン国民党が移民問題を強調したが、その反・税金、ネオナチの集団を主要政党は嫌った。そして社会民主党は、移民を制限するのではなく、移民政策を固定し、いかなる修正の議論もネイティビズムとして非難した。

もっと早く国民的な議論を喚起して、持続可能な移民政策を模索すべきであった。

Bloomberg NOV 13, 2015

Aid Can Curb Migration. The Question Is How.

By Christopher Flavelle

Project Syndicate NOV 17, 2015

Europe Still Needs the Migrants

GILES MERRITT

Bloomberg NOV 18, 2015

Admitting Syrian Refugees Is Good Economics

By Noah Smith

NYT NOV. 19, 2015

Geert Wilders: Let the Dutch Vote on Immigration Policy

By GEERT WILDERS

パリのテロ攻撃に対して、フランス政府が国境を一時的に閉鎖したのは賢明な判断であった。

今回の難民危機が起きる前に、オランダ国民の多数はすでに移民政策が間違っていると示していた。政府や議会はそれを採用しなかった。オランダもスイスやスウェーデンのような、政府に方針転換を強いるような国民投票を法制化するべきだ。

われわれはヨーロッパの中央集権化に反対している。主権のない国家は存在せず、国境がなければ主権は定義されず、保護されない。ドイツのメルケル首相は、その愚かな政策でヨーロッパ諸国を犠牲にした。

EUに代わる完璧な代替案が存在する。1960年にSwitzerland, Norway, Iceland and Liechtensteinによって設立されたEFTAである。それは自由貿易を実現するための友好組織であって、政治的統合化を目的としない。

EU離脱はオランダにとって経済的に有益だ。難民政策も独自に決定できる。テロの犠牲にもならない。難民は中東地域内で受け入れるべきだと考える。莫大な富を持つペルシャ湾岸諸国やサウジアラビアがイスラム教徒を助ける道義的な義務を負うべきだ。

有権者の賢明な判断を無視する政府や議会に対して、民主主義の赤字が存在する。これを解消するため、ブラッセルや各国政府に対する住民投票を行うべきだ。


l  ルワンダ虐殺の再来

FP NOVEMBER 13, 2015

More Than 21 Years Later, Washington Faces Another Problem From Hell

BY COLUM LYNCH


l  イスラム国家のパリ襲撃

FP NOVEMBER 13, 2015

ANONYMOUS VS. THE ISLAMIC STATE

BY E.T. BROOKING

Project Syndicate NOV 13, 2015

The War on Terror Begins Anew

BOGDAN AURESCU and JOSÉ GARCÍA-MARGALLO Y MARFIL

フランス、チュニジア、ケニア、イスラエル、ナイジェリア、もちろん、シリア、イラク、など、現代のテロリズムはどこにでも出現する。まるで中世ヨーロッパの黒死病のように、テロリズムは現代世界を侵食しつつあり、その撲滅は世界の緊急課題である。

各国は治安維持の法制化、特別な諜報機関や警察組織を立ち上げ、その国際的な連携、2国間そして地域の条約を模索している。しかし、テロリズムと戦うグローバルな法制度は存在しない。その状況を変える時が来た。

国際的な水準でテロリズムを抑える試みは、1926年にまでさかのぼる。テロ犯罪を法制化した最初の国であるルーマニアが、国際連盟に対して、テロリズムに対するユニバーサルな刑法を求めたのだ。しかし、今なおそれは成立していない。テロをどのように定義するか、など、重要な問題で各国の意見が一致しないからだ。

同時に、国際的な検察機構、裁判制度、その地理的な、ジェンダー的な観点での公平さが求められる。治安維持機関は容疑者に対する証拠の共有が求められる。

正当性を持った国際刑事裁判所の設立にも、同様の困難があった。市民社会、学会、一般国民からの支持が必要だ。しかし今や、グローバルなテロリズムに対する強力な装置を、われわれは必要としている。

The Guardian, Saturday 14 November 2015

After Paris, Europe may never feel as free again

Nick Cohen

The Guardian, Saturday 14 November 2015

Paris attacks leave France in trauma, fearing for the future

Natalie Nougayrède

FT November 14, 2015

Paris attacks: The global consequences

Gideon Rachman

2001年、ニューヨーク、2005年、ロンドンが同じようなテロ攻撃を受けた。人々はショックと恐怖、将来に対する不安を感じた。しかし、パリは屈しないだろう。大都市の生気は、各地で再生する力を示した。

パリの歴史は、しばしば暴力や衝撃によって満たされてきたし、今でもそうである。革命、殺戮、戦争、占領の記憶が、街のいたるところに存在する。そのすべてにもまして、パリは美しく、静かで、創造性に富んでいる。

パリの復活は疑いないが、同時に、このテロ攻撃はフランスにとっても、ヨーロッパにとっても、非常に微妙な選択の時期に起きた。フランスが中東政策を変更することはないだろうし、シリアやイラクにおけるイスラム国家への空爆を止めることもないだろう。他方、来月行われる、フランスの地方選挙には注目しなければならない。移民政策やイスラム化に反対する極右政党の国民戦線に対する支持が増している。

テロは、ヨーロッパの難民危機やシリア内戦をめぐる政治を直撃する。

FT November 14, 2015

Paris attacks: France stands at a crossroads

François Heisbourg

フランスは、開放的でない、内向きの社会になって、ロシアの指導するシリアにおける空爆作戦に頼るのか? あるいは、開放的なヨーロッパ社会を維持し、中東における戦略上の慎重さを維持するのか?

テロ攻撃が成功したか、失敗したか、それを決めるのは犠牲者の数ではない。攻撃された社会の反応である。ロンドンは冷静さを保ち、平常の生活を続けた。スペイン政府は無能さを示し、ロシアのプーチン大統領は「チェチェン人をその離れで叩きのめす」と約束した。アメリカはイラクの惨禍をもたらし、愛国者法を制定した。

フランス国内では、より厳格な、事後的法制化が求められ、国民戦線の勢力が増すだろう。オランド大統領の非常事態宣言は、巧妙な、それを抑える先手であった。

外交において、敵の敵は友であるという理由で、イスラム国家の敵であるアサド政権やロシアとフランスが手を組む、という戦略を支持する声がある。しかし、事態がさらに複雑である。多数を占めるスンニ派が反発し、ロシアの空爆は過激派への支持者を増やしつつある。

FT November 14, 2015

There is no hiding place from global disorder

Philip Stephens

NYT NOV. 14, 2015

To Have Paris, Defeat ISIS

Roger Cohen

パリの殺りくを経て、フランス大統領は「戦争行為」であると述べた。それはNATO加盟諸国に、第5条に基づく集団軍事行動を要請するものである。

進行するテロ攻撃をなくすには、ISISの拠点であるシリアとイラクを攻撃するしかない。もはやテロリストたちがメディア空間を占め、金融手段を利用するのを許してはならない。ISISは軍事的に掃討できない対象ではない。軍事介入は宗派対立を激化させ、過激派への参加者を増やすだけではないか、という躊躇を捨てねばならない。そのような主張はテロ組織を助けるだけだ。

これは長い戦いである。イスラム世界は、スンニ派とシーア派、サウジアラビアとイランとの対立状態にある。反西側の過激主義を超えて、近代世界との和解を目指すべきだ。過激派によるパリの殺りくを憎む多くのイスラム教徒がいる。受け身であることは、次の攻撃を準備する者たちに時間を与えるだけだ。

NYT NOV. 14, 2015

Don’t Let the Aid for 9/11 Responders Expire

By THE EDITORIAL BOARD

911の被害者に対する支援と保障を継続しなければならない。

FP NOVEMBER 14, 2015

France: Paris Attack an ‘Act of War’ by the Islamic State

BY PAUL MCLEARY

FP NOVEMBER 14, 2015

NATO’s Turn to Attack

BY JAMES STAVRIDIS

Bloomberg NOV 14, 2015

What Does Islamic State Think It Is Doing?

By Tobin Harshaw

Bloomberg NOV 14, 2015

No City Is Safe While the War Is On in Syria

By Leonid Bershidsky

The Guardian, Sunday 15 November 2015

Mindless terrorists? The truth about Isis is much worse

Scott Atran

ヨーロッパにおけるイスラム教徒への反感が強いほど、西側の中東における軍事介入が深まるほど、ISISの指導者たちは喜んでいるだろう。これこそ組織の基本戦略に従うものであるから。カオスを見つけ、カオスを創り出し、カオスを管理する。

彼らには戦略本がある。10年以上前に書かれたThe Management of Savagery/Chaosである。アルカイダのメソポタミア支部のために書かれ、それが今のISISとなった。

ソフト・ターゲットを攻撃せよ。一般大衆に恐怖をばらまき、経済に損害を与える。旅行者が犠牲になれば、その被害は大きい。

若者の反発、エネルギー、理想主義をつかめ。彼らには自己犠牲の用意がある。

兵士を集める枠組みがある。2015年初めに、ISISのオンライン・ジャーナルThe Grey Zoneに載った。イスラム教徒は、善と悪の間、宗教国家と異端者の国の間でさまよう者たちだ。

異教徒の国を「戦場の家」に変える。ラディカル・イスラム主義の台頭と、外国人嫌いの、エスノ・ナショナリストたちが相互に破壊的な気分を高める中で、中産階級は政治的な影響力を失う。かつて1920年代、30年代に、共産主義者とファシストがヨーロッパの民主主義を破壊したように。

ヨーロッパの人口再生率は低く、中産階級がその生活水準を実現するため、労働力を維持するためにも大規模な移民流入が必要である。彼らが移民に対する寛容さを失うほど、そこにはISISが拡大する。ISISが管理するカオスの条件があるからだ。

The Guardian, Sunday 15 November 2015

Paris attacks: This is a war of ideas

Bruno Tertrais

The Guardian, Sunday 15 November 2015

The Guardian view on the Paris attacks: amid the grief, we must defend the values that define us

Editorial

FT November 15, 2015

Paris attacks: The treacherous path to defeating Isis

David Gardner

ISISとの戦いは決してシリアやイラクの戦場だけではない。

アメリカのJohn Kerry国務長官は、「シリアの流血を止める時だ」と述べ、ロシアのSergei Lavrov外相も、ISISに対する「効果的な国際的連携」を支持した。しかし事態の推移からは、それが時期尚早であるとわかる。

4年半のシリア内戦で、30万人が殺害された。ISISがシリアとイラクにカリフ国家の成立を宣言してから1年半がたつ。国際的な対策は、ISISの拡大を抑えたにすぎない。スンニ至上主義者の攻撃は、シーア派やクルドが支配する地域に及んだ時、反撃を受けて撤退した。

その反撃に対するISISの反応が、戦場を拡大するシナイ半島でのロシア機撃墜、ベイルートの自爆テロ、そして今回のテロでもあっただろう。バタクラン劇場で89人を殺害した犯人の1人は、毎日、シリアやイラクで起きている鵜ことを味わえ、と言ったようだ。フランスが十字軍への参加を止めない限り、殺戮のにおいをかぐだろう、と警告したわけだ。

フランスはアメリカによる空爆の安定した同盟国であった。先週、アメリカ軍は効果的なラッカ空爆を行った。またその前から、クルド人の軍事組織ペシュメルガが、ラッカとモスルとをつなぐ都市を攻略した。パリへのテロ攻撃で、ISISは次の空爆を先制的に防ごうとしたかもしれない。

各国の戦闘機による空爆が続くシリアの空の下で、十字軍への反撃を説く聖戦主義者の訴えは力を発揮する。また、アルカイダの指導者たちがブッシュ大統領の侵攻を挑発して、ますます多くの戦闘員を得たように、ISIS2つの巨大な供給源を持っている。1つは難民であり、もう1つはヨーロッパ内部で差別されているイスラム社会だ。アメリカ指導であれ、ロシア指導であれ、空爆戦略はこうした問題に何も答えていない。

ジャコバン的なフランス市民への同化を求めるアプローチも、移民コミュニティーの並存社会を放任するイギリスのアプローチも、社会統合に成功していない。移民とその子孫は文化的に阻害され、出身の文化からの分離してしまって、アイデンティティの問題を抱えている。彼らの信仰を利用して、聖戦主義者たちはシリアやイラクでも、外国でも、戦場とテロ攻撃の要員を補充している。

ウィーン会談は、だれもがISISを主要な脅威と認め、停戦を求めているが、求める合意の中身は異なる。シーア派イランとスンニ派サウジとが和解する兆候はない。

トルコの担当者は、イラクから学ぶことが重要な契機になる、という。アサドを追放することと、ISISに対抗できる軍隊や反政府組織を解体することとは区別するべきだ。シリアで殺戮に加担していない指導者たちのリストを検討している。

FT November 15, 2015

A proclamation against Isis, the party of death

Simon Schama

パリの殺りく者たちがパリで戦争を望んだとしても、それは何より思想の戦争、いまだ試みられたことのない武器で戦う戦争であるだろう。社会の良識、日常生活が成り立っている規範、生活するとき、家族を養うとき、その多くはしばしば試されたり、語られたりすることなく、スポーツを楽しみ、音楽を聴き、料理し、愛し合う。

イスラム主義者が慎重に選んだ場所は、われわれが週末の楽しみを共有する場所であった。フットボール・スタジアム、音楽ホール、カフェ、人々が好んで散歩し、座り、冗談や噂話を交わす場所であった。知らない者同士も、異なる言葉や国、信仰であっても、雑談し、殺戮以外の、いろいろな話をする。

こうした場所が、突然、ISISの歓楽抹殺者たちによって「売春と悪徳」の巣窟とみなされた。人々が都市の純真さと開放性の発露とみなすものを、彼ら暗殺者たちは、宗教警察の監視する、社交性の墓場に変える。公共の娯楽や教育の場は、公開処刑の召喚状が出る場所となる。

そこには、クルド部隊が解放したイラクの都市のように、大規模な集団墓地が残される。

FT November 15, 2015

The Paris jolt to America 2016

ED Luce

パリのテロは2016年アメリカ大統領選挙にも影響する。共和党員たちは、自分たちの言ったとおりだ、と自信を強めている。民主党員は戦争をあおるような発言を慎んでいる。彼らの自制心は称賛できるが、それは政治的にマイナスである。

すでにアメリカ国民の多数はアメリカが中東に軍事介入することを容認している。オバマはそれに抵抗しているが、行動を求める圧力が増すだろう。オバマの言葉は信用を失ってしまい、政治はその真空を埋めようとする。

FT November 15, 2015

Intelligence failure or not, Germany and Britain are now at risk

John Sawers

FT November 15, 2015

Paris attacks: Time for engagement, not fearful retreat

NYT NOV. 15, 2015

What Will Come After Paris

By THE EDITORIAL BOARD

FP NOVEMBER 15, 2015

The Right Time for America to Lead From Behind

BY KORI SCHAKE

FP NOVEMBER 15, 2015

Top EU Diplomat Warns of Dangers of ‘Extreme Nationalism’ After Paris Attack

BY JOHN HUDSON

FP NOVEMBER 15, 2015

After Paris, a Grim New Reality in the Terror War

BY DAN DE LUCE

Bloomberg NOV 15, 2015

Paris and the U.S. Presidential Election

By Albert R. Hunt

Bloomberg NOV 15, 2015

France Has Had Its 9/11. Now What?

By Marc Champion

1月のシャルリーエブド襲撃後と、今の状況は全く違う。当時、パリは団結した。ル・ペンの自国民優先主義政党・ナショナルフロントだけが、その悲劇を政治的に利用したが、国民に無視された。シャルリーエブドはフランスの911ではなかった。

今は違う。ル・ペンの国境封鎖を、誰もが議論している。サルコジ元大統領は、フランス外交を転換し、ロシアのプーチン大統領およびそのシリア政策と同盟し、国内の過激派シンパ11500人に電子的な腕輪を装着させるよう強制するべきだ、と主張する。アメリカのような愛国者法が議論されている。

イスラム国家は、こうしたフランス政治の変貌を喜んでいるだろう。どのような主張をしても、効果的な対策にはほとんどならない。もしイスラム国家に対する空爆を国際連携で強化するなら、彼らは楽しめないはずだ。しかし、ラッカへの20回の空爆が事態を変えないことを、オランド大統領も知っている。オランドはNATOの第5条を要請するべきか考えている。それは、イギリスに参加を容易にするだろう。しかし、空爆だけではイスラム国家を滅ぼせない。

NATOが地上軍を派遣することはまず無理だ。ヨーロッパ中の過激派細胞を破壊するため、諜報機関と警察を強化し、特にベルギーの警戒を強めることが、再発を防止する。

Bloomberg NOV 15, 2015

Who Benefits Most From Paris Attacks? Assad

By Josh Rogin

Bloomberg NOV 15, 2015

Declaring War on Terror Is Good Rhetoric, Bad Policy

By Noah Feldman

911後のブッシュ大統領と同様に、オランドもテロ攻撃を「戦争行為」と呼んだ。それを道義的な「戦争」とみなして非難するとしても、政治的には間違っている。

フランスに対抗して戦争を呼びかけるイスラム国家は、こうして国際秩序における「国家」の地位を得られたことを喜ぶだろう。NATOが動くとしても、アメリカも、フランスも、空爆以外に地上軍を派遣するとは思えない。

すでに空爆は進めている。そうであれば、長期的に衰退することはあっても、イスラム国家に勝利する見込みはないのである。勝利できない戦争を主張するのは間違いだ。

もしブッシュ大統領が「戦争」を宣言しなければ、アメリカはタリバンへの空爆にとどめただろう。アフガニスタンに侵攻することはなく、ましてやイラクのフセイン体制を崩壊させることもなかっただろう。911テロで、アメリカが国家安全保障の観点から外交政策の転換や戦争を支持したのは、失敗であった。

Bloomberg NOV 15, 2015

The Right Kind of War on Terrorism

By Marc Champion

大規模なテロは国家に行動を強いる。問題は、どんな行動を取るか、である。

イスラム国家の最大の敵は、イスラム教徒内の他宗派である。フランスやヨーロッパはイスラム教徒が多いから標的になった。宗教的な寛容、近代化、安定性をイスラム国家は嫌悪する。テロ攻撃の狙いは、その土地のイスラム教徒を支持者にすることだ。フランスのル・ペン、ドイツのPEGIGAは、非寛容、難民排除を求めて、イスラム国家と共闘する。

イスラム国家がヨーロッパで最大の敵とするのは、ドイツのメルケル首相だろう。彼女の寛容政策はシリア難民にとっての救世主であるから。

イスラム国家は、シリアとイラクの戦場で破壊するしかない。世界の主要諸国がようやく協力し始めた。聖戦主義に反対するシリアのスンニ派組織は、これまで西側に軍事支援を求めてきたが満たされなかった。アサド軍の爆撃を防ぐ飛行禁止空域も得られなかった。400万人を超える難民への生活支援も増やしてほしいと求めてきた。

それらはヨーロッパにおける政治の変化に逆らって進むものであり、あらゆる点で間違った選択をする懸念がある。それは結果的に、ますます長い、困難な戦争を招く。

The Guardian, Monday 16 November 2015

Isis hates Middle Eastern civilisation too

David Shariatmadari

The Guardian, Monday 16 November 2015

What would the world look like if we defeated Isis?

Paul Mason

国家と国家が戦争した時代に、将軍たちは政治家たちに問題を忘れないように促した。「我々は敵を跪かせることができる。しかし、平和をデザインするのは政治家たちだ。」

1991年から2003年のどこかで、アメリカはこの原則を忘れた。イラクは実質的に、シーア派、クルド人、そしてISISの支配領域に分割された。アフガニスタン各地でタリバンが復活した。シリアの分裂状態は数百万人の難民をヨーロッパやトルコ、レバノンに流出させた。イスラム・ファシスト体制のISISはヨーロッパを襲撃した。

それはNATOの問題になっている。ヨーロッパのイスラム社会で戦うのは、内戦を挑発するものだ。他方、有権者は軍事介入の効果を信じていない。人権を無視するシリア政府やトルコ政府との協力も嫌っている。彼らはクルド人や非宗教の抵抗者を攻撃している。

つまり、どのような勝利を望むのか? 大規模な監視、治安、軍事行動を、イラクやアフガニスタンでは見られないような抑制と説明をともなって実施すれば、有権者は受け入れるのか? それを拒むなら、われわれは戦場を避け、ISISを封じ込め、難民問題を処理し、斬首ビデオが流れるのを無視する。

J.M.ケインズが1939年にイギリスの指導者たちに問いかけたように。われわれが勝利するとき、世界はどうなっているのか? それに答えたから、英米市民はナチズムとの全体戦争を耐えた。

今、どのような和平会議を望むのか? 戦争が終わる時、われわれの社会はどうなっているのか?

FT November 16, 2015

Do Paris terror attacks highlight a clash of civilisations?

Gideon Rachman

(後半へ続く)