IPEの果樹園2015

今週のReview

11/16-21

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中台首脳会談 ・・・ネイティビズムとロッテルダム市長 ・・・不動産と債務依存 ・・・ロンドンの霧 ・・・ミャンマー民主化の裏で ・・・ヒラリー・クリントンの判断 ・・・エルドアンの勝利 ・・・中国との相互理解 ・・・トウィッター革命の終わり ・・・世界通貨

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  中台首脳会談

FT November 6, 2015

Taiwan: China’s ever tighter embrace

Jamil Anderlini, Demetri Sevastopulo and Ben Bland

20149月、香港で「雨傘革命」が起きているとき、習近平主席は台湾からの代表団を迎えていた。親中派の統一を支持する代表団を相手に、習の言葉は苛烈であった。台湾が中国本土に吸収されるのは歴史的必然である。香港型の「12制度」が最善だ、と。

しかし、代表団はショックを受けた。まさに同じとき、イギリス植民地であった香港の住民たちは、「12制度」の下で北京が支配することに対する怒りを街頭行動で示していたからだ。

習近平と、台湾の選挙で大統領となった馬英九との、シンガポールにおける緊急会談は、海峡の両側、そしてワシントンにおいて、それ以上の衝撃を与えた。

一見、これは習近平が台湾の選挙に対して影響力を行使するため、同様の強硬姿勢を示したように思える。しかし、習は台湾海峡におけるパラダイム・シフトを、特にアメリカに対して演出したのだ、という見方もある。前任者たちを成約した外交官僚たちの意向を無視する力も示した。

最近まで、ホワイトハウスで台湾政策を担当していたEvan MedeirosEurasia Groupのアジア局長)は、会談を大きな前進とみなす。習は、強制よりも、対等な関係と尊厳に依拠する説得に転換するように見える、と。

しかし、台湾の多くの者には、不可解な会談である。馬英九は2期の退任まで7か月もない。1月の総選挙では国民党の敗北が予想されている。「国民に十分な情報も伝えないまま、緊急に開催されるトップ会談は、台湾の民主主義を損なうものだ。」「退任する前の大統領が自分の政治的な遺産を高めるために台湾の将来を取引することや、無責任な約束をすることを、国民は断じて受け入れない」と、民進党のTsai Ing-wen党首は述べた。

2011年の調査で、台湾300万人の80%以上が、それが中国の軍事侵攻につながらないなら、独立することを支持している。

その後も台湾経済の本土への依存は高まっており、人々は懸念を強めている。昨年、こうした不安から、通商協定を承認しようとした立法院を学生運動家たちが占拠した。

北京でも、習の決断が、長年かけて台北政府を威圧し、弱体化させてきた努力を無駄にするものだ、という強い批判の声がある。北京は台北政府を国際機関から追放するために外交圧力を行使し、それに成功してきた。台湾は世界保健機構にさえ代表を送れない。

ワシントンは、「戦略的あいまいさ」政策の下、台湾に武器を供与するが、中国の攻撃から台湾を防衛する責任を生じる条約は結んでいない。昨年、John Mearsheimerは、中国による台湾統合化を受け入れる余地を残す点で、良い戦略だ、と書いた。中国が超大国になれば、台湾は事実上の独立を諦め、香港と同じ戦略に向かうほかない、と。

会談は25分。互いをミスターと呼び、政治的な身分を示さない。費用を折半して夕食を撮る。中国共産党の支配しないシンガポールで行う。それ自体が習の大きな譲歩を意味する。国内のナショナリストは最近のアメリカによる「航海の自由」作戦に憤慨している。

中国側には台湾の政治情勢に関する誤算があるかもしれない。香港型の統合を受け入れると考えているのだ。民進党が政権を得ても、否定できない先例を残そうとした。


l  ネイティビズムとロッテルダム市長

FT November 6, 2015

How Europe’s liberals can speak out

Simon Kuper

ある日、私は生まれ故郷のライデンに帰っていた。オランダの静かな町だ。そして、難民を支持する珍しい政治家の話を聞いた。Ahmed Aboutaleb15歳の時にモロッコからオランダに来て、今はロッテルダムの社会民主党の市長であり、3月の世論調査によれば、最も人気のある政治家だ。

彼の主張は最近のヨーロッパで極めて独特なものである。難民の洪水がヨーロッパ政治を変えたのだ。左右の対立に代わって、今や反移民のネイティビスト(自国民優先、国粋主義者)が、沈黙するコスモポリタンなリベラル派を攻撃している。

ネイティビストは難民流入の前から増えていた。ヨーロッパはこの10年で政府への信頼を失ってきた。しかし、今やネイティビストは高揚の極みにあり、東欧では正統的な政治家でさえも極右のように話している。

ネイティビストの語ってきた話が、難民危機で実際に起きた、と彼らは考えている。政府がまさに難民をコントロールできなくなった。陰謀論がSNSで盛んに流れている。よくある話の一つは、「ユダヤ人」がISISを創った、というものだ。いわゆる「難民たち」もイスラエルが支援する工作者であり、ジョージ・ソロスから金をもらっている。だから彼らはスマートフォンを持ち、「シオニストのメディア」はさまざまな事実を隠している。

対照的に、ヨーロッパのリベラル政治家には何の話もない。彼らの基本的なイデオロギーは、「アウシュビッツを繰り返すな」である。しかし、2000年ごろに、ヨーロッパはナチスの復活を恐れなくなった。リベラルの政治家たちは、あえてコスモポリタニズムを支持する話をしない。

コスモポリタンのリベラル派は新しい話を必要としている。だからAboutalebに注目する。ライデンに来る前の晩、Aboutalebはロッテルダムで、新しい難民センターの計画について憤慨する聴衆と会合を持った。あまりの怒号と警笛で、会合を5分間中断することもあった。しかし彼らが静まると、彼は聴衆の話を聴いた。彼は常に聴く側だった。人々は話を聴いてほしいのだ、と彼は言う。自分に関心を持っているか、と。しかし、指導者は自分で決断する。窓を開けて、叫ぶことが、民主主義ではない。

難民に関して、Aboutalebは聴衆の求めに応じない。「多くの才能ある人たちが、私たちの町を越えて、ニューヨークやロンドンに行く。」 なぜなら、多くの外国人はオランダが彼らを歓迎していないと感じるからだ。「他者を助ける立場にあるというのは、素晴らしいことだと思う」と彼は言った。

Aboutalebは、流入する難民を実際に議論した。オランダが扱えるものとして、劇的な言葉を使わずに。ほとんど白人だけの聴衆が、立ち上がって彼に拍手した。リベラルが勇気をもって主張すれば、まだ勝利することはできる。


l  不動産と債務依存

Bloomberg NOV 6, 2015

The Devil's in the Debt

By Adair Turner

2008年の金融崩壊は、自ら招いたものであり、回避できた経済的破滅であった。戦争や政治的混乱の結果ではなかったし、新興経済諸国との競争の結果でもない。所得分配の対立や放漫財政から生じたわけでもなかった。

危機の源はロンドンやニューヨークのディーリングルームでも、シャドーバンキングでもない。金融革新や金融業が個人に大きな利益をもたらすと言われていたグローバルな金融システムの一部であるが。多くの人々が、正当にも、銀行家たちのほとんどだれも処罰されていないことに憤慨している。無能な者や不正直な者もいた。しかし、彼らが危機の原因ではない。

危機後の規制強化も焦点を誤っている。納税者が2度と「大きすぎて潰せない」という銀行の救済に負担を強いられないということを目指している。しかし、政府による銀行救済のコストは金融危機のもたらした災厄のごく一部でしかない。先進諸国経済の公的債務はGDP比で34%増大した(2007-2014年)。国民所得は10%以上も、危機がなかったら達成した水準より少なかった。

根本的問題は、現代の金融システムが不可避的な債務を膨張させることだ。債務は新規投資にためではなく、既存の資産を購入するために増える。ブームが残した債務こそ、金融危機の後に回復が弱い理由である。

銀行は融資によって貨幣を創造する。以前は存在しなかった購買力を創り出す。先進諸国の圧倒的に多くの銀行融資は、新規のビジネスに投資するのではなく、消費のために、既存の資産、特に不動産を購入するために行われる。公共政策で制限しなければ、銀行融資は経済をますます不安定化する。ブーム・バストの循環は避けられない。

中央銀行が金利を上げて融資を抑制すれば、経済成長を妨げる、という反対がある。中国を含めて、多くの新興市場でも同じように言われる。成長を維持しながら債務を安定的な水準に抑えることはできないのか? 2008年のような金融危機は避けられない?

私は、それは間違いだと思う。債務を増やす要因を制限することだ。第1に、不動産の役割。第2に、所得分配の不平等、である。


l  ロンドンの霧

NYT NOV. 6, 2015

The Return of London’s Fog?

By CHRISTINE L. CORTON

ロンドンの霧の多さは、地形によるものだったが、19世紀、産業革命の象徴になった。同じことは世界中の都市で起きた。

霧が深すぎて自分の足元も見えなくなった。霧は家畜の死の原因や、ロンドン市民の健康を損なうものとなった。また、犯罪の隠れ蓑にもなった。

それでも、なお数十年間、排煙を規制する法律は大幅に緩和された効果のないものしか議会を通らなかった。

既得権者として、工業化をになう経営者たちは規制を嫌った。彼らはむしろ家庭からの排煙を非難した。また、罰金はあまりにも少額であった。イギリス人は暖炉に対する文化的な愛着を捨てなかった。石炭をやめてガスや電気に変えるという主張で支持者を失うことを、政治家たちは恐れた。

大規模な災害が状況を変えるために必要だった。1952年、5日間続いた“great killer fog”は推定で4000人を死亡させた。1956年、空気清浄化法が成立した。


l  ミャンマー民主化の裏で

The Guardian, Monday 9 November 2015

Why Aung San Suu Kyi’s ‘Mandela moment’ is a victory for Myanmar’s generals

Maung Zarni

軍部は、1990年と違って、憲法によって富と権力を保障されている。その支配体制を維持するために、弾圧する必要はないのだ。

スーチーへの高い支持を得て、NLDは勝利の予感に酔っているように見える。外国人ジャーナリストたちも、25年間の自宅軟禁を経て、自由と民主主義の新しい時代を開く、その非暴力とプラグマティックな指導者に感動している。

ミャンマーは「マンデラの瞬間」に達したのか?

選挙の喜びと勝利を大衆が祝ったのは、これが最初ではない。19905月にも、スーチーは議席の82%に及ぶ決定的な勝利を得た。しかし将軍たちは、選挙の結果を無効にし、選出された議員たちの多くを投獄した。NLDには共産主義者が浸透しており、国家安全保障の脅威である、と彼らは弁解した。

今や、同様に選挙の結果、民主化を受け入れることに対して、軍部には十分な用意ができている。彼らはそれを「規律に満ちた民主主義」と呼ぶ。その意味は、選挙で権力を得た政府や議員に対して、規律を課すパワーを軍隊に保証する、ということだ。政府は、軍部が選んだ道を、軍部が定義した議会制民主主義を守らなければならない。

その主要な手段が、2008年の憲法だ。そこには、軍隊の主要な利益(軍の予算、ポスト、利権、安全保障問題)が法律や議会の監視より上位に置かれている。特に、軍の司令官が内閣の安全保障にかかわる閣僚(防衛、内務、国境問題担当)を指名し、大統領および副大統領の候補者を承認する。言い換えれば、軍人のトップは、いつでもふさわしい時にクーデタができるのだ。

Min Aung Hlaing司令官が笑顔であるのも当然だ。クーデタは「考えられない」と彼は述べた。与党USDPの指導者で、元将軍のHtay Ooは敗北を認めた。それにもかかわらず、彼は余裕をもって、いかなる結果も受け入れる、と語る。これは軍部が演出した民主化なのだ。

4半世紀に及ぶ軍部の「ビルマ的資本主義」では、ヒスイ、天然ガス、その他の資源の取引による巨万の富を確保し、憲法が保障するパワーを得て、将軍たちが笑いを絶やすことはない。

ワシントン、ロンドン、パリ、カンボジアの民主的政府は、ビルマを成功モデルとして称賛する。それは中国に対抗して推進された、ビジネス、外交、軍事的関与がもたらした勝利である、と。スーチーはマンデラに等しい地位を証明し、彼女のプラグマティックな戦略が成果を上げ、人権を求めて闘うだろう。

しかし、この「民主主義」を実現するために犠牲となった者たちのことは忘れられる。内戦地帯で投獄されている学生たち、労働運動家、農民、エスニック・マイノリティー、排除されたままのロヒンギャ、イスラム教徒たち。


l  ヒラリー・クリントンの判断

FP NOVEMBER 6, 2015

The Hillary Clinton Doctrine

BY JAMES TRAUB

2011113日、ヒラリー・クリントン国務長官は、注目すべき予言的な演説を行った。「この地域の土台は砂の中に沈みつつある。」と、彼女は警告した。「もし若者たちが信じる未来を築くことをあなたたちが管理できないなら」、彼女はアラブ諸国の首長たちを前にして、「あなたたちが守る現体制は崩壊するだろう」と言った。

その翌日、チュニジアの独裁者は国外に逃れた。2週間後には、数万の群衆がカイロのタハリール広場に集まって、ムバラク大統領の辞任を求めた。

それに続く1週間、クリントンと、オバマ政権の同僚たちは、この驚くべき事態の推移にどのように対処するべきか、激論を交わした。専制支配の柔らかい手先に即座の死を求める街頭の若者たちに味方するのか、あるいは、クリントンが懲らしめてきた支配者たち、同時に、それでも、アメリカのパワーと外交が支えている安定した秩序を代表する者たちの側に立つのか?

オバマが大きく頼りにしていた国家安全保障の若い顧問たち(Denis McDonough, Ben Rhodes, and Samantha Power)は、「アラブの春」をオバマが繰り返し述べた「歴史の転換局面」で変化の側の立つ絶好の機会とみなした。

クリントン長官は、彼らがナイーブだ、と考えた。彼女はJames Steinberg副長官に、タハリール広場の群衆が、ムバラクのいないエジプトを支配するとか、できると信じる理由はない、と考えた。彼女はムバラクと親しく、特に、その妻のSuzanneと親しかった。当時、国家安全保障会議の中東上級局長で、タカ派のリアリストであったDennis Rossでも、クリントンが古い友人に頼りすぎる、と思った。

128日、国家安全保障会議で、クリントンは、オバマが歴史の正しい側に立つべきだと求める人々を退けた。2日後、NBCMeet the Pressに出演したクリントンは国民に、ムバラクは地域の安定的秩序の源であり、真の民主主義に向けて平和的な移行を行うだろう、と称賛した。


l  エルドアンの勝利

FP NOVEMBER 6, 2015

Turkey’s Democratic Tipping Point

BY STEPHEN M. WALT

私はAKP政権下のトルコをかなり好意的に見ていた。民主的なイスラム主義政党であり、よく組織された、近代的な選挙マシーンを持っていた。特に、その外交における「近隣諸国との摩擦ゼロ」外交は、トルコの地政学的な優位を高め、地域的な影響力を最大化する試みだった。

しかし、多くの他の観察者と同じように、私もAKPの支配に幻滅し始めた。彼らは新聞を弾圧し、クーデタ計画をねつ造して軍人を告発し、当時のエルドアン首相(現在の大統領)は批判を一切受け入れず、問題があれば外国の陰謀だと非難した。

6月の選挙は、現代トルコの民主主義にとって分水嶺になると思った。もしAKPが反対派と和解して連立政権となれば、それはより安定性や実効性を欠く政府になったかもしれないが、重要な先例ともなっただろう。民主主義が長期に機能するためには、選挙で敗北したとき、異なるグループが権力を解体すること、彼らが将来の選挙による勝利を可能であると確信していなければならない。単一の政党が何年も権料を独占し、反対派は権力を得るチャンスがないと信じたとき、他の手段で権力を獲得することを考えるはずだ。それゆえ、6月の平和的な権力移譲があれば、それは健全な兆候であった。

しかし、そうではなかった。AKPの敵対者たちは連立を拒み、エルドアンは再び選挙を行って議会の過半数を得た。しかも111日の選挙では、AKP支持派の群衆がいくつかのメディアを襲撃し、政府はアンカラにおけるテロをイスラム国家とクルド人との全くありえない「混合物」として非難し、政府系テレビは圧倒的に多くの時間をAKPの報道に配分した。「自由ではあるが、ひどく不公平な」選挙であった。

経済危機の条件を含めて、深刻化する諸問題がAKPの勝利を助けたようだ。AKPは自分たちを安定と秩序の党であると宣伝してきたから。しかし、指導者たちが過ちを犯さないと確信し、批判の声を無視するなら、その課題はますます困難になるだろう。ロシアのプーチン、イスラエルのネタニヤフ、そしてかつてのアメリカ大統領、ジョージ・W・ブッシュのように、エルドアンとその仲間は国民の恐怖をあおって支持を高めた。

楽観的な予想に従えば、こうして権力基盤を固めたAKPは、今こそリベラル派にも理解を示す時である。持ち越されてきた構造的な改革、中央銀行の独立性、輸出の促進、人的資本の形成、などを実行し、クルド人との和平交渉を再開するだろう。

逆に、もっと暗い予想では、エルドアンとAKPがこれまでの路線を正しかったと確信し、言論の弾圧、政府に従わない学者に圧力をかけ、トルコの社会的分断化を強める。アメリカやヨーロッパにとって、トルコの戦略的な重要性は変わらず、かつての軍事政権を受け入れたように、その変化を受け入れるしかない。


l  中国との相互理解

NYT NOV. 6, 2015

China’s Pacific Overtures

By SIMON WINCHESTER

中国の海軍増強や沿岸警備から防衛ラインの拡大は、アメリカにとっての脅威なのか? 中国はそうではないと主張する。十分に大きな太平洋で、アメリカと同じ存在を知らしめたいだけである。傷ついた尊厳を回復することが北京にとっては重要であって、領土の略奪ではない。

アメリカの司令官は、「航行の自由」作戦を継続する、という。しかし、中国はそれを好戦的な挑発行為であると考える。アメリカにとってより懸命な政策は、何が最も重要かを明確にすることだ。これらの海域を通過する自由、貿易のルートを保障することである。中国人もこれに反対しない。

中国の台頭は止められないことだ。太平洋を平和の海にする慎重さが求められている。

FT November 8, 2015

Grasp the reality of China’s rise

Larry Summers

中国は今や世界経済に影響を及ぼされるのと同じくらい、世界経済に影響を与える。この数年で、中国の成長が世界の所得、貿易、商品需要に占める割合は、3分の1から半分の間にもなる。

先週、中国訪問から帰って、世界は中国経済の展開、政策の短期・中期目標、協力と緊張を管理するための制度に関する理解を、共有するべきだと確信した。習近平主席は、正当にも、「新しい大国間関係」と呼んだ。しかし、それは新しい国際経済アーキテクチャーに組み込まれねばならない。それから実質的な改革や更新が行われるべきだ。

1に、アメリカと世界社会global communityは、中国の経済的な成功を、グローバルな繁栄と積極的な社会・政治改革の推進者として歓迎するべきか、あるいは、中国を封じ込め、経済的に弱めて、グローバルな脅威への対応力を奪うべきか?

2に、中国が長期に持続的な成長を実現するため、短期的には成長を低めるような改革を推進することで、輸入が減り、経常黒字が増大するかもしれない。この時、アメリカは従来のように人民元の切り上げを求めるべきか? あるいは、中国の改革を維持するために人民元の減価を受け入れるべきか?

アメリカは中国を封じ込めるべきだ、という主張が、TPPを中国抜きで推進することや、AIIBへの反対にも示された。しかし、習近平のイギリス訪問が示したように、そのような姿勢はアメリカ自身を孤立させる危険がある。中国の経済は不振になれば、敵対的な戦略やナショナリズムが強まるだろう。われわれの目標は、相互の成長と繁栄であり続ける。

最後に、だから我々は、国際アーキテクチャー、制度面を改革しなければならない。TPPでも、AIIBでも、IMF改革でも、アメリカは改革を後退させている。

『平和の経済的帰結』で、J.M.ケインズは経済学の最優先課題を示した。「未来の災厄は、境界線や主権の問題にではなく、食糧、石炭、輸送にある。」 中国の台頭に応じてなすべきことは多くあり、改革が通商と経済学の世界に求められている。


l  トウィッター革命の終わり

NYT NOV. 11, 2015

Why Did the ‘Twitter Revolutions’ Fail?

Ivan Krastev

3年の革命の波が終われば,彼らは皆,間違っていた.西側メディアも,同じ間違いを最近犯した.Thomas Friedmanは「広場の人々」による蜂起と呼び,Francis Fukuyamaは「グローバル中産階級の革命」と呼んだ.しかし,ポーランドでも,トルコでも,保守政党が勝利した.抵抗する者たちは脆く,Recep Tayyip Erdogan大統領の敵対戦略が成功したのだ.2012年,モスクワで起きた反政府デモも,プーチンが権力を強化するだけに終わった.アラブの春は,その中でも最悪だ.エジプトでは独裁体制が復活し,シリア,リビア,イエメンでは内戦と国家の崩壊に至っている.

反政府派のグローバルな抗議は,明らかに,社会の分裂状態を示すものだ.しかし分断化によって勝利するのは「安定性の政党」であって,「希望のネットワーク」ではない.抗議がもたらす社会的・政治的混乱は,より民主的,多元的な社会ではなく,国家や国民的指導者の周りに支持を固める.それはアンチ・コスモポリタンに向かう動きである.

なぜ「トウィッター革命」は敗北するのか? ではなく,それが成功すると信じたのはなぜか,を問うべきだ.3つの要因が考えられる.

1.マルクスやユーゴーと同様に,政治評論家たちは明白な現実を認識できなかった.冷戦終結後のナルシシズムが広まっていたからだ.

2.アメリカの政治学は,複雑な社会変化やグローバルな問題を,単純化された命題に還元した.民主主義国同士は戦争しない,民主主義は諸国を豊かで,汚職のない社会にする,すべての国は民主主義に向かっている,といった主張だ.リベラルな神学がマルクス主義に入れ替わった.

3.「シリコンバレー効果」に幻惑された.社会変化の考えや戦略が,歴史的経験ではなく,もっと技術のユートピア的な可能性によって決まる,と信じた.しかし,革命はささやくことで生じるが,政府は生じない.新しい抗議運動の多くが,制度を破壊する情熱を高めた結果,大きな代償を支払った.

組織は過去のもの,ネットワークが未来を決める.国家は重要ではない.自発性こそが正当性の源泉だ.抗議運動は,こうした流行の考え方の犠牲になった.創造的破壊の結末は,安定性への希求である.権力を固める瞬間をじっと待って,プーチンやエルドアンが勝利した.


イスラム圏の改革

FP NOVEMBER 9, 2015

Islam Is a Religion of Violence

BY AYAAN HIRSI ALI

イスラム圏において新しい過激化の波(al Qaeda, the Islamic State, and Boko Haram)を促す条件とは何か? どうすればそれを敗退させることができるか? 暴力の拡大は,イスラム教の信仰と関係があるのか?

イスラム教徒が置かれた条件は世界中で大きく異なっている.しかし,私の考えでは,3つのイスラム教徒に分類できる.それらのどの集団が優位になるかで,イスラムと暴力との関係が変わるだろう.

1に,教義や経典に書かれていることを実践しなければならない,と主張する原理主義者,第2に,信仰は篤いが,非イスラム教徒への暴力や不寛容を認めない多数派,第3は,イスラム教の教えにある暴力への賛美を改革しようとする改革派.ムハンマドの新興を広める過程で,その歴史的条件を反映して,コーランには暴力や聖戦を支持する言葉が多く含まれている.


l  世界通貨

Project Syndicate NOV 11, 2015

Is It Time for Global Money?

LARRY HATHEWAY and ALEXANDER FRIEDMAN

世界はますます統合されつつある.現在の国民国家に依拠した国際通貨制度はリスクが高く,非効率である.世界通貨,世界単一通貨制度が望ましい.

もし世界が単一の通貨で動くなら,通貨戦争はなくなり,価格は透明性を増し,外国為替取引の煩雑さやヘッジのコストが消滅する.世界の資本配分はもっと効率的になるだろう.

しかし,ユーロ圏でも,国民国家に依拠する限り,ユーロの超国家的な正当性には疑問が残る.同様の試みが,大西洋や太平洋を越えて,実現する見込みはさらに低い.また,日々の金融政策決定に比べて,最後の貸手として金融機関の救済を行うかどうか,その判断の正当性を問われるとき,中央銀行は国家の法的枠組みに依拠するしかない.

既存のバラバラになったグローバル通貨秩序に依拠して,それでも世界単一通貨への統合を目指すことはできる.アメリカの金融緩和が終わるとき,新興市場における資本流出を緩和するように,IMF融資を求めたインド中央銀行総裁のように,グローバルな機関を強化することだ.関税や非関税障壁を減らすだけでなく,グローバルなインフラ整備に投資する額を増やす.ハーモナイズした,透明な,容易に理解できる規制・監督を目指すことだ.

世界通貨の目標は,国際通貨制度の敵ではない.

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The Economist October 31st 2015

The trust machine

Turkey’s election: Sultan at bay

Ending a war: Lessons from Colombia

Special Report COLOMBIA: The promise of peace

Lexington: A city wants more refugees

(コメント) ビットコインを支持する論説に興味を持ちました.しかし,その要点は,ビットコインではなく,完全な取引履歴を公開することで,コインを含めて,全く未知の相手とも安全な取引ができる,というアイデアにあるようです.

コロンビアの内戦終結に向けた取り組みこそ,世界が最も必要としている,戦争と平和の転換メカニズムかもしれません.前進のための要点は何か?

和平に向けた軍事的圧力,話し合いの条件を明示,信頼できる交渉チームを指名,犠牲者への補償を大規模に制度化,真実委員会と減刑・社会奉仕,非政府組織・反政府軍の武装解除と安全保障,辺境地域の経済活性化(脱麻薬,ハイテク都市,アメリカ市場,インフラ整備と金融,大規模農業),政府機関の汚職追放・能力拡充,選挙を通じた政権参加,司法の独立・マクロ政策・内政の安定化.その他,コロンビアが学んだことを,中東を含めて,各地が学びなおすでしょう.

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IPEの想像力 11/16/15

l  911とアフガニスタン・イラクへの英米軍による侵攻

l  中東世界をどうするのか? イスラエルの核や独裁・専制支配国家、構想力

l  移動の自由、難民、ビジネス、観光旅行、ロジスティックス、非合法活動の国際化

l  犯罪組織と警察

l  戦争状態の殺戮行為と、暴力を賛美する過激思想

l  安全保障国家、サミット、内務省による国際管理体制

パリで起きた同時テロによる犠牲者とイスラム国家の犯行声明は、「戦争状態」という言葉に結び付けるしかない生々しい切迫感があります。

直後の報道番組,解説者の話を聴きながら,メモを取りました.

l  戦争状態か? オランド大統領は「フランスは戦争状態にある」として全土に非常事態を宣言した。かつて、911の後にブッシュ大統領が「戦争だ」と断言したことを思い出す。

フランスはイスラム国の首都,ラッカへの爆撃を行った.イスラム国家との戦争を続ける意思を示した,というのは,ブッシュのアメリカがアフガニスタンに侵攻したことで,今はどうなったか,と考えた末の反撃でしょうか?

テロによる政治的な主張を,暴力以外の形で実現することが重要だ,と思います.イスラム国家の拡大を阻止して,その地域の安定した政治的秩序を築くための,和平交渉,政治的な発言の保証,がそれではないか?

l  「パリ市民とともにある。」 ベルリン空輸。オバマの唱えた「普遍的価値」

軍事衝突に対する他国の反応は,国際秩序の性格を示します.アメリカや,ドイツ,イギリスは,フランスへの連帯を強調しました.日本も同様です.しかし,言葉だけなら,何とでも言えるでしょう.イスラム国家への軍事的な対応,シリア難民,イラク再建,中東紛争に関する姿勢と行動が問われます.各国の主張は異なっています.

ロシアやトルコとの協力を,いわゆる西側諸国はどう考えるのか? シリア内戦を止めるため,オバマはプーチンとしぶしぶ握手しました.

安全保障と普遍的な価値とは,宗教戦争のように,切り離すべき問題かもしれません.

宗教的な情熱の世俗化,穏健化は,誰もが経済過程に参加して,勤労により豊かな暮らしや富を得られる,という仕組みを受け入れることで実現するものです.宗教的な穏健派,改革派との協力で,原理主義者による自爆テロの実行を阻むには,信仰の篤い人々が積極的に発言し,説得しなければなりません.

秘密裏の諜報活動ではなく,公開して行われる信者たちの対話において,テロを根絶できるでしょう.

l  日本の安保法制が試されるとき

日本ではどうか? テロ対策が強化される,というとき,国内に外国人やイスラム教徒が少ないことは,有利である,と考えるだけでよいのか? 尖閣諸島から,南シナ海,マラッカ海峡,インド洋,ホルムズ海峡まで,世界のどこにおいても軍事力の行使ができる,と安保法制では議論していたと思います.

政治体制や価値を争うのではなく,戦争と犯罪行為に関する国際合意を積み重ねることでしょう.領土紛争の外交的な解決は,その条件です.

l  イスラム国家とは何か? 宗教・革命運動の情熱は消滅に向かうか? S.ウォルトは、イスラム国家が拡大過程から確立過程、暴力の抑制に向かうと予想しました。

国家形成期の問題,国境の確立や内戦・革命の拡大,ハイテク化した紛争をめぐる合意形成の問題は,イスラム国家に限らず,歴史的に,そして将来も,繰り返し現れます.

アメリカの維持してきた第2次世界大戦後の国際秩序が,西側による協調として再生できるのか,新興勢力を取り込むための制度改革に成功するのか,地域紛争やテロが主要国に概念の修正を迫っている,ということか.

l  内戦終結と政治対話

パリのテロが起きる前,The Economistがコロンビアの特集記事を載せました.

左派のイデオロギーが支持されなくなり,ラテンアメリカや中米各国で,選挙によって政権を得た左派のモデルが広まることは内戦終結の重要な条件です.

国内においても,麻薬や誘拐,襲撃による資金調達ではなく,成長する経済への参加を求め,軍や警察を改革して汚職をなくし,犠牲者への国民的な補償メカニズムを立ち上げました.イスラム国家の穏健派が外交的な和平に応じるときも来るでしょう.

l  移民・難民支援と社会統合、各地のイスラム社会

むしろ,フランスや,主要諸国の国内改革が問題です.

イスラム教徒への差別,社会の分断・隔離状態が続くこと,移民・難民を排斥することで治安が維持できると過信すること,など,ダイナミックな社会でありながら,連帯感や相互扶助を高める合意や仕組みがなければなりません.

多様な仕方で,働く機会が豊富にあり,経済成長が維持され,ショックは制度的に緩和され,分配の平等さや生活の最低条件が権利として保障されているなら,異教徒のテロを恐れるより,彼らを受け入れることができるでしょう.

テロや内戦を繰り返す社会は,財政破たんや社会の荒廃によって,暴力が支配する破たん国家の領域に呑み込まれます.

l  たとえば,鎌田聡やノーム・チョムスキーは事件に接して何を想うのか?

l  ヨーロッパ政治や市民意識における、リベラルな穏健派から、極右の自民族優先、ネイティビズム・国粋主義

l  井上ひさしの劇『母と暮らせば』。「戦争を継ぐ 山田洋次・84歳の挑戦」。坂本龍一の音楽、原民喜の「鎮魂歌」に込められた小さな希望で、被爆後の長崎を映しながら終わる。

l  パリの気候変動に関する国際会議から関心と政治力が失われ、難民危機について保守系・極右の移民排斥論者が自信を深め、民主主義や国際的な協力、国際機関を軽視する。それは不況を長引かせ,通貨・金融危機を広め、財政破たんを加速し、自由で平等な社会という理想を失わせる。

戦争とテロはその境界線を消して、外交も、国内の市民的な秩序も、大きく損なわれてしまう中で、それによって力を得る者たちの、少なくとも当初は、力強い勝利として現れます。

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911との比較。2001年、9/24-29Reviewに、当時の議論を整理して書きました。

(1) 国際調査団の派遣

(2) 対テロ情報収集・諜報活動の整備

(3) 第三国への政治亡命

(4) 新しい国際安全保障体制の合意

(5) 犠牲者への同情と生活再建・テロ容認社会への浸透と経済援助

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