IPEの果樹園2015
今週のReview
11/16-21
*****************************
中台首脳会談 ・・・ネイティビズムとロッテルダム市長 ・・・債務依存を減らす ・・・不動産と債務依存 ・・・金融緩和と不安定化 ・・・ロンドンの霧 ・・・ミャンマー民主化の裏で ・・・ヒラリー・クリントンの判断 ・・・エルドアンの勝利 ・・・中国との相互理解 ・・・トウィッター革命の終わり ・・・イスラム圏の改革 ・・・ユーロ圏の金融不安 ・・・ヘルムート・シュミットの訃報 ・・・世界通貨
[長いReview]
******************************
主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign
Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York
Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l
中台首脳会談
FT November 6, 2015
Taiwan: China’s ever tighter embrace
Jamil
Anderlini, Demetri Sevastopulo and Ben Bland
2014年9月、香港で「雨傘革命」が起きているとき、習近平主席は台湾からの代表団を迎えていた。親中派の統一を支持する代表団を相手に、習の言葉は苛烈であった。台湾が中国本土に吸収されるのは歴史的必然である。香港型の「1国2制度」が最善だ、と。
しかし、代表団はショックを受けた。まさに同じとき、イギリス植民地であった香港の住民たちは、「1国2制度」の下で北京が支配することに対する怒りを街頭行動で示していたからだ。
習近平と、台湾の選挙で大統領となった馬英九との、シンガポールにおける緊急会談は、海峡の両側、そしてワシントンにおいて、それ以上の衝撃を与えた。
一見、これは習近平が台湾の選挙に対して影響力を行使するため、同様の強硬姿勢を示したように思える。しかし、習は台湾海峡におけるパラダイム・シフトを、特にアメリカに対して演出したのだ、という見方もある。前任者たちを成約した外交官僚たちの意向を無視する力も示した。
最近まで、ホワイトハウスで台湾政策を担当していたEvan Medeiros(Eurasia
Groupのアジア局長)は、会談を大きな前進とみなす。習は、強制よりも、対等な関係と尊厳に依拠する説得に転換するように見える、と。
しかし、台湾の多くの者には、不可解な会談である。馬英九は2期の退任まで7か月もない。1月の総選挙では国民党の敗北が予想されている。「国民に十分な情報も伝えないまま、緊急に開催されるトップ会談は、台湾の民主主義を損なうものだ。」「退任する前の大統領が自分の政治的な遺産を高めるために台湾の将来を取引することや、無責任な約束をすることを、国民は断じて受け入れない」と、民進党のTsai Ing-wen党首は述べた。
2011年の調査で、台湾300万人の80%以上が、それが中国の軍事侵攻につながらないなら、独立することを支持している。
その後も台湾経済の本土への依存は高まっており、人々は懸念を強めている。昨年、こうした不安から、通商協定を承認しようとした立法院を学生運動家たちが占拠した。
北京でも、習の決断が、長年かけて台北政府を威圧し、弱体化させてきた努力を無駄にするものだ、という強い批判の声がある。北京は台北政府を国際機関から追放するために外交圧力を行使し、それに成功してきた。台湾は世界保健機構にさえ代表を送れない。
ワシントンは、「戦略的あいまいさ」政策の下、台湾に武器を供与するが、中国の攻撃から台湾を防衛する責任を生じる条約は結んでいない。昨年、John Mearsheimerは、中国による台湾統合化を受け入れる余地を残す点で、良い戦略だ、と書いた。中国が超大国になれば、台湾は事実上の独立を諦め、香港と同じ戦略に向かうほかない、と。
会談は25分。互いをミスターと呼び、政治的な身分を示さない。費用を折半して夕食を撮る。中国共産党の支配しないシンガポールで行う。それ自体が習の大きな譲歩を意味する。国内のナショナリストは最近のアメリカによる「航海の自由」作戦に憤慨している。
中国側には台湾の政治情勢に関する誤算があるかもしれない。香港型の統合を受け入れると考えているのだ。民進党が政権を得ても、否定できない先例を残そうとした。
NYT NOV. 6, 2015
Taiwan’s President Caves In to China
By
WU’ER KAIXI
2人が真に偉大な指導者であるなら、大きな譲歩を示して台湾住民の信頼を高めるだろう。たとえば、狭い海峡を挟んで向き合ったミサイル配備を撤去するのだ。
双方が貿易や投資を増やすことに、文化的政治的な自立を失うのではないか、と台湾住民は不安を強めている。この会談が国民党の議会における議席を維持し、政権を得ることができるなら、大きな成果であろう。平和と和解に向けた大きな前進として国際社会にアピールできる。しかし、平和的な交渉は、北京がいつでも台北政府に干渉する過程でしかない。国民は、主権を脅かす政治的な裏切り行為とみなしている。
FP NOVEMBER 8, 2015
Cross-Strait Summit: A Win for
Taiwan’s President?
BY
ANDREW J. NATHAN, JEROME A. COHEN, HO-FUNG HUNG
Andrew
J. Nathan, Professor of Political Science, Columbia University: 馬英九はこうした会談を長く望んでいた。馬は、対等な地位で会談し、国民に北京との協力が可能なことを示せた。馬の支持率はすでに底にあり、失うものはない。他方、習近平はなぜ応じたのか? 彼は会談によって代価を支払う。
習は、馬英九の意見に同意したのであろう。台湾の大衆に大陸との協力を期待させるような雰囲気を高めようとしたのだ。習は、馬よりも長い時間軸でゲームしている。次の大統領がだれであれ、その行動に影響を与える、と考えたのだろう。
Jerome
A. Cohen, Professor, New York University School of Law: 馬英九の後、台湾が北京から離反するリスクを、当然、習は理解している。この会談を、習は威嚇の強化ではなく、「魅力による攻勢」へと転換し始める機会、と見たのだろう。
習は、南シナ海でフィリピンが国連海洋法条約による裁定を求めている状況に、台湾から支持を得たかったかもしれない。しかし、それは愚かなことだろう。
Ho-fung
Hung, Associate Professor of Sociology, Johns Hopkins University:
馬英九は残りの期間に一層の統合化を実行する力がある。たとえ、中国企業が台湾企業を買収することだ。この会談がそれを実行する口実に使われるのではないか?
FP NOVEMBER 9, 2015
The Cross-Strait Meeting’s Lasting
Impact
BY
JEROME A. COHEN
Project Syndicate NOV 10, 2015
A Chinese Dinner for Two
CHRIS
PATTEN
l
ネイティビズムとロッテルダム市長
FT November 6, 2015
How Europe’s liberals can speak out
Simon
Kuper
ある日、私は生まれ故郷のライデンに帰っていた。オランダの静かな町だ。そして、難民を支持する珍しい政治家の話を聞いた。Ahmed Aboutalebは15歳の時にモロッコからオランダに来て、今はロッテルダムの社会民主党の市長であり、3月の世論調査によれば、最も人気のある政治家だ。
彼の主張は最近のヨーロッパで極めて独特なものである。難民の洪水がヨーロッパ政治を変えたのだ。左右の対立に代わって、今や反移民のネイティビスト(自国民優先、国粋主義者)が、沈黙するコスモポリタンなリベラル派を攻撃している。
ネイティビストは難民流入の前から増えていた。ヨーロッパはこの10年で政府への信頼を失ってきた。しかし、今やネイティビストは高揚の極みにあり、東欧では正統的な政治家でさえも極右のように話している。
ネイティビストの語ってきた話が、難民危機で実際に起きた、と彼らは考えている。政府がまさに難民をコントロールできなくなった。陰謀論がSNSで盛んに流れている。よくある話の一つは、「ユダヤ人」がISISを創った、というものだ。いわゆる「難民たち」もイスラエルが支援する工作者であり、ジョージ・ソロスから金をもらっている。だから彼らはスマートフォンを持ち、「シオニストのメディア」はさまざまな事実を隠している。
対照的に、ヨーロッパのリベラル政治家には何の話もない。彼らの基本的なイデオロギーは、「アウシュビッツを繰り返すな」である。しかし、2000年ごろに、ヨーロッパはナチスの復活を恐れなくなった。リベラルの政治家たちは、あえてコスモポリタニズムを支持する話をしない。
スウェーデンでも国境管理の復活を議論している。ドイツでも、メルケルの懸念(難民の増加)が実現すれば、彼女は辞任するだろう。パキスタン人はそれに向かい始めている。リベラルなメディアで多文化主義の価値を示すと、現実離れしたエリートだ、という反応に直面する。イスラム教徒と住んだことがないからだ、と。実際、ヨーロッパでリベラルの砦としてきた大都市にはイスラム教徒があふれている。
コスモポリタンのリベラル派は新しい話を必要としている。だからAboutalebに注目する。ライデンに来る前の晩、Aboutalebはロッテルダムで、新しい難民センターの計画について憤慨する聴衆と会合を持った。あまりの怒号と警笛で、会合を5分間中断することもあった。しかし彼らが静まると、彼は聴衆の話を聴いた。彼は常に聴く側だった。人々は話を聴いてほしいのだ、と彼は言う。自分に関心を持っているか、と。しかし、指導者は自分で決断する。窓を開けて、叫ぶことが、民主主義ではない。
難民に関して、Aboutalebは聴衆の求めに応じない。「多くの才能ある人たちが、私たちの町を越えて、ニューヨークやロンドンに行く。」 なぜなら、多くの外国人はオランダが彼らを歓迎していないと感じるからだ。「他者を助ける立場にあるというのは、素晴らしいことだと思う」と彼は言った。
Aboutalebは、流入する難民を実際に議論した。オランダが扱えるものとして、劇的な言葉を使わずに。ほとんど白人だけの聴衆が、立ち上がって彼に拍手した。リベラルが勇気をもって主張すれば、まだ勝利することはできる。
l
ネパール
NYT NOV. 6, 2015
Nepal, Between the Dragon and the
Elephant
By
AKHILESH UPADHYAY
l
不動産と債務依存
Project Syndicate NOV 6, 2015
What To Do About Debt
RICHARD
KOZUL-WRIGHT
Bloomberg NOV 6, 2015
The Devil's in the Debt
By
Adair Turner
2008年の金融崩壊は、自ら招いたものであり、回避できた経済的破滅であった。戦争や政治的混乱の結果ではなかったし、新興経済諸国との競争の結果でもない。所得分配の対立や放漫財政から生じたわけでもなかった。
危機の源はロンドンやニューヨークのディーリングルームでも、シャドーバンキングでもない。金融革新や金融業が個人に大きな利益をもたらすと言われていたグローバルな金融システムの一部であるが。多くの人々が、正当にも、銀行家たちのほとんどだれも処罰されていないことに憤慨している。無能な者や不正直な者もいた。しかし、彼らが危機の原因ではない。
危機後の規制強化も焦点を誤っている。納税者が2度と「大きすぎて潰せない」という銀行の救済に負担を強いられないということを目指している。しかし、政府による銀行救済のコストは金融危機のもたらした災厄のごく一部でしかない。先進諸国経済の公的債務はGDP比で34%増大した(2007-2014年)。国民所得は10%以上も、危機がなかったら達成した水準より少なかった。
根本的問題は、現代の金融システムが不可避的な債務を膨張させることだ。債務は新規投資にためではなく、既存の資産を購入するために増える。ブームが残した債務こそ、金融危機の後に回復が弱い理由である。
銀行は融資によって貨幣を創造する。以前は存在しなかった購買力を創り出す。先進諸国の圧倒的に多くの銀行融資は、新規のビジネスに投資するのではなく、消費のために、既存の資産、特に不動産を購入するために行われる。公共政策で制限しなければ、銀行融資は経済をますます不安定化する。ブーム・バストの循環は避けられない。
中央銀行が金利を上げて融資を抑制すれば、経済成長を妨げる、という反対がある。中国を含めて、多くの新興市場でも同じように言われる。成長を維持しながら債務を安定的な水準に抑えることはできないのか? 2008年のような金融危機は避けられない?
私は、それは間違いだと思う。債務を増やす要因を制限することだ。第1に、不動産の役割。第2に、所得分配の不平等、である。
Bloomberg NOV 9, 2015
Blame Real-Estate Lending. Then Rein
It In.
By
Adair Turner
銀行を改革したり、ボーナスを抑制したりするだけでなく、融資の量と配分を管理する必要がある。
根本問題は不動産だ。不動産の売買に融資が行われ、それがさらに不動産価格を引き上げ、融資を増やす。不動産関連の融資を制限する。不動産の需給に関する対策を取る。モーゲージ融資の規制を強化し、高利融資の宣伝を制限する。税制も、債務による減税を廃止するべきだ。
都市の地価高騰は資産を不平等化している。不平等を放置したまま融資の増大を抑えるなら、われわれはデフレに苦しむだろう。不平等化の根本原因にも取り組むべきだ。情報や技術変化、金融取引が不平等化を強めている。「人々のスキルを高めよう」というのは、大きな格差の一部を扱うだけだ。
所得や資産移管する再分配政策が必要だ。ベーシック・インカムや最低賃金引き上げも有効だ。不平等化は、矛盾したことに、再分配政策への支持を失わせる効果がある。
Project Syndicate NOV 9, 2015
A Step Forward for Sovereign Debt
JOSEPH
E. STIGLITZ and MARTIN GUZMAN
国内と同じように、国際融資にも破産処理を合法化することが望ましい。それを実行する法的枠組み欠くことが、アルゼンチンでも、ギリシャでも、危機を拡大した。
9月、国連は国家債務の組み替えに関する改善策の重要原則を提示した。しかし、圧倒的な支持を得ながら、アメリカなど、6か国(the
US, Canada, Germany, Israel, Japan, and the United Kingdom)は反対した。
l
金融緩和と不安定化
Project Syndicate NOV 6, 2015
Confronting the Coming Liquidity
Crisis
CAMILA
VILLARD DURAN
トルコで開催されたG20サミットは、グローバルな通貨・金融危機に対する安定化のメカニズムに合意することができなかった。IMFの制度的な強化、SDRの利用拡大は議論されてきたが、アメリカ議会の党派争いはそれを阻んでいる。近年は、チェンマイ・イニシアティブ(the ASEAN countries, plus
China, Japan, and South Korea)やBRICSによるthe
Contingent Reserve Arrangement (CRA)が示すような、流動性の地域的な供給が合意されている。しかし、こうした通貨スワップの錯綜した世界が金融危機への信頼できるメカニズムにはならない。
NYT NOV. 6, 2015
Austerity’s Grim Legacy
Paul
Krugman
FT November 8, 2015
Central banks: Peak independence
Ferdinando
Giugliano in London, Sam Fleming in Washington and Claire Jones in Frankfurt
Project Syndicate NOV 9, 2015
Is US Monetary Policy Made in China?
BARRY
EICHENGREEN
中国は人民元がこれ以上に減価しないよう、市場に介入している。それはおそらく月に600億ドルほどと考えられる。アメリカ連銀のQE3は、毎月、400億ドルの財務省証券を購入した。それに匹敵する売却かもしれない。
中国の外貨準備とその構成、市場介入は、公表されておらず、アメリカ連銀も、ECBも、QEからの離脱に極めて微妙な判断が求められる。
FT November 10, 2015
In the long shadow of the Great
Recession
Martin
Wolf
FT November 11, 2015
We were wrong about universal
banking
John
Reed
l ロンドンの霧
NYT NOV. 6, 2015
The Return of London’s Fog?
By
CHRISTINE L. CORTON
ロンドンの霧の多さは、地形によるものだったが、19世紀、産業革命の象徴になった。同じことは世界中の都市で起きた。
霧が深すぎて自分の足元も見えなくなった。霧は家畜の死の原因や、ロンドン市民の健康を損なうものとなった。また、犯罪の隠れ蓑にもなった。
それでも、なお数十年間、排煙を規制する法律は大幅に緩和された効果のないものしか議会を通らなかった。
既得権者として、工業化をになう経営者たちは規制を嫌った。彼らはむしろ家庭からの排煙を非難した。また、罰金はあまりにも少額であった。イギリス人は暖炉に対する文化的な愛着を捨てなかった。石炭をやめてガスや電気に変えるという主張で支持者を失うことを、政治家たちは恐れた。
大規模な災害が状況を変えるために必要だった。1952年、5日間続いた“great
killer fog”は推定で4000人を死亡させた。1956年、空気清浄化法が成立した。
Project Syndicate NOV 11, 2015
Paris and the Fate of the Earth
PETER
SINGER
FT November 12, 2015
Environment: High pressure in Paris
Pilita
Clark, Environment Correspondent
Project Syndicate NOV 12, 2015
Keeping the Climate-Finance Promise
NICHOLAS
STERN
l
ミャンマー民主化の裏で
NYT NOV. 6, 2015
The Lady and the Election
By
DELPHINE SCHRANK
様々な妨害にもかかわらず、アウン・サン・スーチーとNLD(the
National League for Democracy)への支持は非常に高い。軍政が定めた憲法には欠陥が多い。しかし、その中で闘って、彼らは議席の過半数を得ようとしている。候補者には、解放された政治犯よりも、新しい候補者たちが並ぶ。彼らの多くは大学卒業生たちであり、ミャンマーのさまざまな分野を改革する意欲に燃えている。
FP NOVEMBER 6, 2015
Mythmaking in the New Myanmar
BY
TIMOTHY MCLAUGHLIN
The Guardian, Monday 9 November 2015
Why Aung San Suu Kyi’s ‘Mandela
moment’ is a victory for Myanmar’s generals
Maung
Zarni
軍部は、1990年と違って、憲法によって富と権力を保障されている。その支配体制を維持するために、弾圧する必要はないのだ。
スーチーへの高い支持を得て、NLDは勝利の予感に酔っているように見える。外国人ジャーナリストたちも、25年間の自宅軟禁を経て、自由と民主主義の新しい時代を開く、その非暴力とプラグマティックな指導者に感動している。
ミャンマーは「マンデラの瞬間」に達したのか?
選挙の喜びと勝利を大衆が祝ったのは、これが最初ではない。1990年5月にも、スーチーは議席の82%に及ぶ決定的な勝利を得た。しかし将軍たちは、選挙の結果を無効にし、選出された議員たちの多くを投獄した。NLDには共産主義者が浸透しており、国家安全保障の脅威である、と彼らは弁解した。
今や、同様に選挙の結果、民主化を受け入れることに対して、軍部には十分な用意ができている。彼らはそれを「規律に満ちた民主主義」と呼ぶ。その意味は、選挙で権力を得た政府や議員に対して、規律を課すパワーを軍隊に保証する、ということだ。政府は、軍部が選んだ道を、軍部が定義した議会制民主主義を守らなければならない。
その主要な手段が、2008年の憲法だ。そこには、軍隊の主要な利益(軍の予算、ポスト、利権、安全保障問題)が法律や議会の監視より上位に置かれている。特に、軍の司令官が内閣の安全保障にかかわる閣僚(防衛、内務、国境問題担当)を指名し、大統領および副大統領の候補者を承認する。言い換えれば、軍人のトップは、いつでもふさわしい時にクーデタができるのだ。
Min Aung Hlaing司令官が笑顔であるのも当然だ。クーデタは「考えられない」と彼は述べた。与党USDPの指導者で、元将軍のHtay Ooは敗北を認めた。それにもかかわらず、彼は余裕をもって、いかなる結果も受け入れる、と語る。これは軍部が演出した民主化なのだ。
4半世紀に及ぶ軍部の「ビルマ的資本主義」では、ヒスイ、天然ガス、その他の資源の取引による巨万の富を確保し、憲法が保障するパワーを得て、将軍たちが笑いを絶やすことはない。
ワシントン、ロンドン、パリ、カンボジアの民主的政府は、ビルマを成功モデルとして称賛する。それは中国に対抗して推進された、ビジネス、外交、軍事的関与がもたらした勝利である、と。スーチーはマンデラに等しい地位を証明し、彼女のプラグマティックな戦略が成果を上げ、人権を求めて闘うだろう。
しかし、この「民主主義」を実現するために犠牲となった者たちのことは忘れられる。内戦地帯で投獄されている学生たち、労働運動家、農民、エスニック・マイノリティー、排除されたままのロヒンギャ、イスラム教徒たち。
FT November 10, 2015
Myanmar’s election is a first step
on a hard road
Thant
Myint-U
l
ヒラリー・クリントンの判断
FP NOVEMBER 6, 2015
The Hillary Clinton Doctrine
BY
JAMES TRAUB
2011年1月13日、ヒラリー・クリントン国務長官は、注目すべき予言的な演説を行った。「この地域の土台は砂の中に沈みつつある。」と、彼女は警告した。「もし若者たちが信じる未来を築くことをあなたたちが管理できないなら」、彼女はアラブ諸国の首長たちを前にして、「あなたたちが守る現体制は崩壊するだろう」と言った。
その翌日、チュニジアの独裁者は国外に逃れた。2週間後には、数万の群衆がカイロのタハリール広場に集まって、ムバラク大統領の辞任を求めた。
それに続く1週間、クリントンと、オバマ政権の同僚たちは、この驚くべき事態の推移にどのように対処するべきか、激論を交わした。専制支配の柔らかい手先に即座の死を求める街頭の若者たちに味方するのか、あるいは、クリントンが懲らしめてきた支配者たち、同時に、それでも、アメリカのパワーと外交が支えている安定した秩序を代表する者たちの側に立つのか?
オバマが大きく頼りにしていた国家安全保障の若い顧問たち(Denis McDonough, Ben
Rhodes, and Samantha Power)は、「アラブの春」をオバマが繰り返し述べた「歴史の転換局面」で変化の側の立つ絶好の機会とみなした。
クリントン長官は、彼らがナイーブだ、と考えた。彼女はJames Steinberg副長官に、タハリール広場の群衆が、ムバラクのいないエジプトを支配するとか、できると信じる理由はない、と考えた。彼女はムバラクと親しく、特に、その妻のSuzanneと親しかった。当時、国家安全保障会議の中東上級局長で、タカ派のリアリストであったDennis Rossでも、クリントンが古い友人に頼りすぎる、と思った。
1月28日、国家安全保障会議で、クリントンは、オバマが歴史の正しい側に立つべきだと求める人々を退けた。2日後、NBCのMeet
the Pressに出演したクリントンは国民に、ムバラクは地域の安定的秩序の源であり、真の民主主義に向けて平和的な移行を行うだろう、と称賛した。
NYT NOV. 7, 2015
Hillary in History
Gail
Collins
FT November 8, 2015
Read my lips: the Bush era is over
ED
Luce
NYT NOV. 11, 2015
Cruz vs. Rubio: The Overture
By
ROSS DOUTHAT
l エルドアンの勝利
FP NOVEMBER 6, 2015
Turkey’s Democratic Tipping Point
BY
STEPHEN M. WALT
私はAKP政権下のトルコをかなり好意的に見ていた。民主的なイスラム主義政党であり、よく組織された、近代的な選挙マシーンを持っていた。特に、その外交における「近隣諸国との摩擦ゼロ」外交は、トルコの地政学的な優位を高め、地域的な影響力を最大化する試みだった。
しかし、多くの他の観察者と同じように、私もAKPの支配に幻滅し始めた。彼らは新聞を弾圧し、クーデタ計画をねつ造して軍人を告発し、当時のエルドアン首相(現在の大統領)は批判を一切受け入れず、問題があれば外国の陰謀だと非難した。
6月の選挙は、現代トルコの民主主義にとって分水嶺になると思った。もしAKPが反対派と和解して連立政権となれば、それはより安定性や実効性を欠く政府になったかもしれないが、重要な先例ともなっただろう。民主主義が長期に機能するためには、選挙で敗北したとき、異なるグループが権力を解体すること、彼らが将来の選挙による勝利を可能であると確信していなければならない。単一の政党が何年も権料を独占し、反対派は権力を得るチャンスがないと信じたとき、他の手段で権力を獲得することを考えるはずだ。それゆえ、6月の平和的な権力移譲があれば、それは健全な兆候であった。
しかし、そうではなかった。AKPの敵対者たちは連立を拒み、エルドアンは再び選挙を行って議会の過半数を得た。しかも11月1日の選挙では、AKP支持派の群衆がいくつかのメディアを襲撃し、政府はアンカラにおけるテロをイスラム国家とクルド人との全くありえない「混合物」として非難し、政府系テレビは圧倒的に多くの時間をAKPの報道に配分した。「自由ではあるが、ひどく不公平な」選挙であった。
経済危機の条件を含めて、深刻化する諸問題がAKPの勝利を助けたようだ。AKPは自分たちを安定と秩序の党であると宣伝してきたから。しかし、指導者たちが過ちを犯さないと確信し、批判の声を無視するなら、その課題はますます困難になるだろう。ロシアのプーチン、イスラエルのネタニヤフ、そしてかつてのアメリカ大統領、ジョージ・W・ブッシュのように、エルドアンとその仲間は国民の恐怖をあおって支持を高めた。
楽観的な予想に従えば、こうして権力基盤を固めたAKPは、今こそリベラル派にも理解を示す時である。持ち越されてきた構造的な改革、中央銀行の独立性、輸出の促進、人的資本の形成、などを実行し、クルド人との和平交渉を再開するだろう。
逆に、もっと暗い予想では、エルドアンとAKPがこれまでの路線を正しかったと確信し、言論の弾圧、政府に従わない学者に圧力をかけ、トルコの社会的分断化を強める。アメリカやヨーロッパにとって、トルコの戦略的な重要性は変わらず、かつての軍事政権を受け入れたように、その変化を受け入れるしかない。
NYT NOV. 7, 2015
Turkey’s Troubling ISIS Game
Roger
Cohen
Project Syndicate NOV 10, 2015
When Financial Markets Misread
Politics
DANI
RODRIK
NYT NOV. 10, 2015
Turkey’s Authoritarian Drift
Mustafa
Akyol
NYT NOV. 12, 2015
Turkey Haunted by Its Ghosts
Roger
Cohen
(後半へ続く)