IPEの果樹園2015

今週のReview

11/9-14

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政治の対話と偏向 ・・・気候変動と国際会議 ・・・シリア和平に向けて ・・・SDRと国際通貨制度 ・・・南シナ海の米軍 ・・・郵政民営化後の日本 ・・・移民・難民政策の全体像 ・・・ヨーロッパの失敗 ・・・一人っ子政策の廃止 ・・・チャラビ死去

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  政治の対話と偏向

The Guardian, Friday 30 October 2015

From Trident to trans issues, what matters most can be the easiest to forget

Gary Younge

イギリスがトライデント(核弾頭を搭載可能な潜水艦発射型弾道ミサイル)をまだ持っていることを忘れていた。

知っていたはずだが。この10年間はアメリカにいたし、労働党は1世代前に一方的な核廃棄の政策を取り下げていた。核抑止をめぐる論議は次第に公共の議論から消滅してしまったのだ。少数の例外を除けば、イギリスの政治家たちはそれを議論しなくなった。新聞はそれについてかからず、世論調査も行われず、私の知る者でトライデントを議論する者はいなくなった。

冷戦も終わったし、公共サービスに関する近代化の議論が続く中で、トライデントもなくなったように思っていた。学校の無料ミルクや電話ボックスみたいに。

だからJeremy Corbynが党首選挙の中心テーマとしてトライデントを挙げたとき、それをまだ持っているということに驚いたのだ。

イギリスがトライデントを保有するべきか、それは遺物でしかないのか、理性ある人々の意見が異なるかもしれない。しかし、この問題が議論する価値のあることだというのは間違いない。人々はこの問題に関して意見を持っているが、政治家やメディアはその意見を伝えなかった。

ここには、論争に勝つことと、論争をせず、問題を消滅させることとの違いがある。政治問題が主要なテーマに入るかどうか、その条件、手段、目的を決めるのは、問題の重要性や現実との関連の深さではない。政治とメディアのエリートがそれを決めており、大きな偏見と、効果を及ぼしている。

かつてJ.M.ケインズが指摘したように。

長年、学校での無差別銃撃事件が飽きると、大統領たちは哀悼の意を示して、無駄なことだが、国民に祈りを求める。こうして、学校で銃殺された子供たちは、あたかも自動車事故で死亡したかのように理解されるのだ。それは誰もが、この21世紀のアメリカに暮らすことで支払う代償である、と。現在の政治情勢では、この社会から自動車をなくすより、銃をなくすことの方が想像するのも難しいのだ。

しかし、権力のシステムは真空の中で機能するのではない。

トライデントは常にスコットランドで議論されるテーマであったし、Jeremy Corbynが労働党党首に当選したことでイギリス政治にも復活した。あるテレビ番組は経済危機を銀行家の視点で描いていたが、それで緊縮策の反対論が消滅したわけではない。問題は単に街頭に移ったのだ。そして小学校の子供たちが銃殺された後、オバマ大統領は銃規制について語った。


l  気候変動と国際会議

The Guardian, Friday 30 October 2015

Indonesia is burning. So why is the world looking away?

George Monbiot

まるで地獄のようだ。

大地が燃えている。空気は黄土色となって、視界が30メートルにまで減少した都市もある。子供たちは軍艦へ避難する準備をしているが、すでに何人か窒息して死亡した。煙の中で多くの生物種がかつてないスピードで絶滅している。

しかし、メディアは、ケンブリッジ伯爵夫人のドレスがジェームス・ボンドと同じだ、とか、トランプの愚行とか、つまらない話ばかり伝えている。今週、世界で最も注目されたニュースは、ソーセージが健康にそれほど有害なのか、ということだ。

私が議論しているのは、5000キロに及ぶインドネシアの火災だ。ジャーナリストは論説を乗せ、すべての新聞がトップ記事にするべきだ。現時点で、その二酸化炭素排出量はアメリカ経済を越えている。この3週間で、火災が放出したCO2はドイツの年間排出量よりも多い。

火災が消滅させた貴重な、再現不可能な遺産は、ISISが破壊した古代遺産にも匹敵する。

なぜこんなことが起きるのか? インドネシアの森林は、木材や農業の企業によって分断されてきた。泥炭を横切る運河は破壊され、枯渇してしまった。プランテーション企業が残った森林を破壊して移動する。パルプ、木材、パームオイルを得るためだ。土地を一掃する一番安価な方法は、火を放つことだ。それに加えて、今年はエルニーニョがさらに完璧な破局を提供している。

Joko Widodo大統領は、民主党員だが、ファシズムと政治的腐敗の蔓延する国を支配できない。Joshua Oppenheimerのドキュメント映画The Act of Killingが示したように、今も、1960年代のスハルトが支配した時代に、100万人を殺戮した暗殺部隊の指導者たちが地域社会を支配している。彼らが、違法な森林伐採を含む、様々な犯罪を組織している。

人間の殺りくを繰り返すような者たちが、自然への犯罪を躊躇するはずがない。

われわれにできることがある。企業によっては、Starbucks, PepsiCo and Kraft Heinzなど、犯罪者たちの木材やパームオイルを使用しない、と明言していない。こうした企業が結果を出すまで、その製品を買わないことだ。

パリの国際会議は、重要なことに沈黙したまま、サーカスを続けるだろう。


l  シリア和平に向けて

FP OCTOBER 30, 2015

Putin and Politics Are Behind Obama’s Decision to Send Troops to Syria

BY DAVID ROTHKOPF

これまでオバマ大統領は、その政権内部の意見や外交・安全保障の顧問が求めても、シリアでの軍事力の積極的行使を認めなかった。しかし、ロシアの軍事介入は、多国間交渉を前に、アメリカも軍事介入を決断する強い地政学的バランスの変化になるだろう。

プーチンのシリアにおける長期の動機をワシントンは誤解している。プーチンはシリアの改造も、泥沼化も望まない。彼は単に、シリアの首都の政治体制を維持し、あるいは、彼が受け入れ可能なものにしておきたいだけだ。つまり、アサドが残るか、その後継者を指名することを意味する。それがすべてである。もしシリアの他の部分がかき乱され、ヨーロッパに難民が流入するとしても、ナショナリストたちが増え、EUの支持が弱まるなら、それもプーチンには結構なことだ。いずれにせよ、プーチンのウィン・ウィン・ゲームである。

中東におけるアメリカの行動と、南シナ海で中国に対するアメリカの行動と、同様の意味を持つ。アメリカが軍事力行使に踏み切るレッド・ラインがどこにあるか、示すことになるからだ。

FP NOVEMBER 2, 2015

Whose Lives Matter?

BY STEPHEN M. WALT

世界には悲劇的な土地で犠牲となっている人々が多く存在する。シリアからスーダンまで死者の数が増加しており、住居を捨てて避難した人々が世界には6000万人もいる。

だれを支援し、同情するべきか? 誰を無視するべきか? シリア難民の1人の少年が溺死した写真が注目され、あるいは、2人のアメリカ人ジャーナリストが斬首されたことで大統領は軍事力行使の決断を促された。

「犠牲の社会的構築」に関する9点の枠組みを提示しよう。

1.犠牲者の数が多い。しかし、その反応とは単純な関係で結びつかない。2.誰が犠牲になったか? 自国民か? われわれの友人か? しかし、文化的な同質性や政治同盟だけでは説明できない。3.どのような死に方をしたか? 砲撃、樽爆弾、化学兵器。斬首の録画をばらまく。事態の推移。大規模で迅速な場合と、長期にわたり徐々に発生する場合。4.意図されたか、偶発的か? 5.単純な解決策があるか? 6.犠牲者の効果的な反応。外部の支援を求めて、自己と敵対者のイメージを宣伝する。誰が真実を伝えているのか、判断はむつかしい。7.支援国の目的にとって価値があるか? 8.犠牲者はグローバル・メディアへのアクセスを持ち、それを効果的に駆使できるか? 9.タイミングが重要だ。他の問題で、すでに他国や国際機関が憎まれている場合、支援が好まれない。また、イラクやアフガニスタン、リビアを経験したアメリカは介入を好まない。

こうした事情から、犠牲者が国際社会から支援を受けることは、今後も、ちぐはぐで、場当たり的なものにとどまる。たとえ大規模な悲劇が起きても、その反応は複雑な計算の結果になる。

わずかに言えることは、反政府派の指導者たちは、内戦に及ぶ前にもっと慎重に考えることだ。


l  SDRと国際通貨制度

Project Syndicate OCT 30, 2015

A Special Moment for Special Drawing Rights

JOSÉ ANTONIO OCAMPO

新興諸国や発展途上諸国の問題は、資本移動が高度に景気循環と同じ変動を示すこと、増幅することである。彼らが成長すると大量の資本が流入する。そして、リスクが生じたときには、準備通貨発行国、すなわち、アメリカの金利上昇と資本流出が起きる。ドルは世界中の通貨に対して強くなる。

過去には、このパターンがアメリカの経常収支赤字を増大させ、それを是正する大幅なドル安をもたらした。そのような是正(1979-1980, 1990-1991, and 2007-2008)は、また、いつもグローバルな成長減速や通貨危機をともなった。

この問題は、アメリカの国民通貨をグローバル経済の主要な国際準備通貨として使用することから生じている。ベルギーのエコノミストRobert Triffin1960年代に最初にこれを認め、「トリフィンのジレンマ」と呼ばれた。その国の目的(対外赤字の抑制)と、国際経済の要求(国際準備資産の需要を満たす十分な流動性供給)とは、根本的に矛盾するのだ。世界経済はアメリカ・ドルの信認のサイクルに一致する。アメリカの通貨当局は、金融政策が国際的に及ぼす影響を考慮しない。

システムを安定化する唯一の方法は、真の世界通貨を中心に据えることだ。ジョン・メイナード・ケインズは、1940年代に「バンコール」と呼んだ。1969年、IMFSDRの発行に合意したのも主要な国際準備資産を供給するためだった。

トリフィンが認めて50年を経て、SDRの時代は来るかもしれない。


l  南シナ海の米軍

NYT OCT. 30, 2015

America Challenges Beijing’s Ambitions in the South China Sea

By THE EDITORIAL BOARD

中国政府は、アメリカの行った駆逐艦の派遣を「意図的な挑発行為」と非難した。実際は、オバマ政権が慎重に計画したものであり、それが挑発ではなく、事前に中国に警告していた。駆逐艦は、フィリピンとベトナムが主権を主張して論争している諸島の周辺海域を横断した。

中国が台頭するにつれて、地域への関心を高め、その海軍や沿岸警備隊を急速に拡大しているのは当然である。しかし、アメリカやその他の諸国の行動の自由を制限するとしたら、それは問題だ。

航行の自由を守り、軍事衝突を避ける1つの方法は、ハーグの常設仲裁裁判所である。木曜日、法廷が南シナ海の初頭に関する対立する主張に関して、中国は反対したが、フィリピンの訴えを聞くことを支持した。中国がその仲裁を受け入れるかどうかは、国際法にとって重要だ。

FP NOVEMBER 5, 2015

Washington’s Muddled Message in the South China Sea

BY KEITH JOHNSON, DAN DE LUCE

アメリカが駆逐艦the Lassenを派遣したことは、中国の要求を否定して「航行の自由」を確認する作戦であったのか、他国の領海を「害意なく通過」する行為なのか、政府内部から異なった説明がなされた。それは作戦の効果を失わせるものだ。


l  郵政民営化後の日本

FT November 2, 2015

Japan Post: Painful delivery

Leo Lewis

その雇用者数は24万人、パートタイムを含めれば40万人である。先の正月には18億枚の年賀状を配達した。郵便局には2兆円の預金があり、3400万件の生命保険もある。

郵便局を3つに分割し、日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命、の新規株式公開が行われた。イデオロギー的な対立の末に、2005年の総選挙で民営化が事実上の国民投票になり、決まったからだ。それは自民党を分裂させた。その後も支持者と反対派の対立が続いてきた。

支持者にとって、資産115億ドルの日本郵政民営化は、浪費とクローニズムに対する市場の勝利である。批判派は、サービスの低下、日本の優れたものが失われてしまう、と考える。

民営化によって破壊したものが何か、それは、当時の激しい論争と比べて、だれも反対する声を上げない事実に見ることができる。日本の保守政治を守った旧支配構造が解体して、自民党の安倍首相による現在の権力掌握がある。日本最大のコンビニチェーン店舗数より40%も多い、郵便局のネットワークは、明治維新後の日本が創り出した政治装置でもあった。

インターネットの普及や、グローバルな物流ネットワークの競争、多様な金融サービスの提供、などにおいて、郵便局は変わらなければならない。経営幹部たちは、イギリスやドイツの例(Royal Mail and Deutsche Post)を積極的に学んで準備している。株式公開で日本に新しい株式保有者層が生まれ、安倍首相の構造改革を推進できるか?


l  移民・難民政策の全体像

The Guardian, Monday 2 November 2015

There’s no perfect answer to the migrant crisis – and we must face that

Jeffrey Sachs

ヨーロッパは孤島ではない。難民の流入を阻止することは成功しないだろう。しかし、無制限に受け入れることもできない。解決策としては、その発生源にある問題に対処するしかない。社会を豊かにするのは漸進的な移入民であり、全面的な開放政策は成功せず、維持できない。

19世紀にアメリカへ来た移民たちは、何も持たず、新しい国からの支援も期待しなかった。社会的給付や社会保障、住宅の保証などなかった。彼らが去った国と入る国との間には、大きな所得種準の差がなかった。彼らは貧しかったが、下層階級を形成することなく、新しい国の貧困層に吸収された。

現在、移民たちは、出身国と5倍から10倍の所得水準の差を持つアメリカやヨーロッパの国家を目指している。社会給付を与えなければ、国境を閉鎖しなくても、移民流入は減る、というエコノミストを、反対派は信じない。社会給付なしに、新しい下層階級が国内に形成されることを懸念するからだ。他方、新規の流入者に社会給付を許せば、財政危機を生じてしまう。

関係諸国は協力して、シリアのアサド体制を終わらせ、イスラム国家を排除しなければならない。また、環境破壊がますます多くの難民を生み出すことを重視して、パリの気候変動会議で国際協力するべきだ。

難民たちの受け入れにも、難民たちの帰還にも、彼らの諸国が安定し、経済を再生するためにも、ヨーロッパとアメリカは投資しなければならない。

NYT NOV. 4, 2015

Let Refugees Settle Italy’s Empty Spaces

Beppe Severgnini

ヨーロッパが多数の難民流入に騒ぐとき,私は古代ローマ人が同じことを議論してm,解決したことを思い出す.ローマ人たちは,軍団に土地を与えたのだ.それは,ローマ帝国の安全保障,経済,人口増加に貢献した.

なぜ私たちも,現代の移民たちに同じことをしないのか? イタリアは,空っぽの土地に彼らを受け入れ,彼らは銃撃されたり,差別されたりすることはなく,生活を再建できる.

そんなことがうまくいくか? 歴史,地理,経済,そして良識は,それが成功すると支持するだろう.しかし,十分ではない.ローマ人たちが生み出したような,長期を見通す政治指導者が必要だ.

FT November 5, 2015

Migrant crisis threatens to raise ghosts of Balkan wars

Neil Buckley

メルケル首相は,今週,驚くような説明をした.バルカン諸国の指導者たちに難民危機に関するEU特別サミットを開くように求めたのだ.軍事衝突のリスクがあるから,と.

バルカン諸国はヨーロッパで最も貧しい国がいくつもあり,紛争を経験した最近の歴史を持っている.EU加盟諸国間でも国境のフェンスが再建されて,20年前の旧ユーゴスラビア解体から生じた亡霊が目を覚ますかもしれない.小さな衝突が深刻な殺戮を招きかねないのだ.

発言の背景には,選挙の事情がある.2週間前,移民問題が刺激となって,ポーランドで保守政党が勝利した.日曜日にはクロアチアでも議会選挙がある.バルカン諸国は互いの政策で深く影響を及ぼすために,クロアチアの社会民主党政権が敗北した場合,国境の閉鎖や難民割当制への反対が強まると予想される.もしドイツが難民受け入れを拒めば,難民たちはバルカン諸国に取り残され,冬が来ても各国には対応策がない.

メルケル首相の行動は,決定的に重要である.


l  ヨーロッパの失敗

Project Syndicate NOV 5, 2015

Europe’s Last Straw?

HAROLD JAMES

ユーロ危機や政府債務危機で大陸が南北に分断され、過激化し、大量の難民流入で西と東(プラス英国)が対立している。ほかにも多くの分断や矛盾が現れている。EU崩壊がこれまでなかったほど迫っているように感じる。

たとえば、EU各国のエネルギー政策を見ればよい。矛盾したエネルギー価格の構造は単一市場の考えに反する。それが各国のエネルギー・ネットワークの統合を非常に難しくしている。フランスは電力の大部分を原子力発電所から得ている、しかしドイツは、2011年の福島における原発のメルトダウン事故の後、一気にすべての原発を閉鎖した。今や再生可能エネルギーに重点を置くが、風や太陽の条件によっては、ますます化石燃料に頼ることになる。

ロシアが押し付けた安全保障の脅威は、2008年から強まり、昨年、クリミア併合、ウクライナ東部への侵攻によって深刻化した。戦闘の継続や領土問題を解決しなければならないが、輸入エネルギーへの依存も問題だ。ロシアはシリア内戦でもヨーロッパの安定性や安全保障を脅かしている。北アフリカや中東におけるヨーロッパ外交の失敗は、難民危機となって表れている。

あたかもそれではまだ不十分であるかのように、EUの民主的な正当性が疑われている。過激派の主張が勢いを得て、分離主義者が増えている。

ヨーロッパは危機に圧倒されている。しかし、EUの創設者であるJean Monnetは、EUが危機の予想によって築かれたことを強調した。「ヨーロッパは危機の中で形成されるだろう。それはさまざまな危機に対して採用された解決策の総和である。」

しかし、そのような危機は小さな、解決できる程度のものである、と主張する者もいる。あまりにも大きな危機は、また、あまりにも多くの危機は、EUの対応能力を超えて、崩壊に向かう、と。

実際は、多くの危機が同時に襲うことで、取引の範囲を拡大し、解決が容易になることもある。対立する利害が効果的な対策を阻んでいるEUは、問題領域のリンケージが前進のカギである。EUは各国の主権を奪うのではなく、相互利益の妥協を交渉する舞台になるのだ。

南欧諸国への債務免除を拒んでいたドイツが、今や、難民危機を緩和するために包括的なEU規模の解決を求めている。各国軍事力の統合化は、財政赤字に苦しむ中で、戦略的な効果を高め、コストを抑制できる。

ヨーロッパは1989年の精神を回復する必要がある。ハンガリー=オーストリア国境を越えた人々が、閉鎖的思考を打ち破り、改革と自由を即座に求めたのだ。2015年には、国民国家が提供できるより多くの、外部の圧力や戦略的ショックに対する保障をヨーロッパ諸国家が必要としている。それを提供できるのは、唯一、EUだけだ。


l  一人っ子政策の廃止

FT November 4, 2015

Beijing cannot control babies or banks

David Pilling

中国共産党は、一人っ子政策と預金金利の規制を廃止すると発表した。どちらも重要な政策転換だ。

1979年に導入された一人っ子政策は、最も嫌われた政策だった。役人たちは罰金を科し、不妊手術を求め、堕胎を強制した。その社会的な結果は、同様にグロテスクな、男女比のゆがみであった。すでに中国は、世界で最も急速に高齢化する国になっている。労働力を安価に利用して組み立て加工を行える時代は終わり、もっとサービスや技術革新に投資しなければならない。

他方、預金金利の制限も、貯蓄を人為的な低金利で集め、政府が好む重工業への投資を誘導する仕組みだった。しかし、サービスや技術革新は政府が最も管理できない分野であり、低金利政策も時代遅れになった。むしろ、消費者のポケットに多くの資金を供給する方がよい。

株価が急落して以来、中国の政策は矛盾している。銀行システムの真の自由化を恐れ、計画化に戻り、高金利で自由な銀行業を処罰する動きがみられる。

その前に、共産党は海峡の向こう側、台湾を見るべきだ。そこではだれもが自由に子供を産めるが、出生率は1.0である。女性の子宮を国家管理する中国でも、それは1.6だ。市場の力は共産党よりも強い。


l  チャラビ死去

NYT NOV. 5, 2015

Why America Invented Ahmad Chalabi

By GIDEON ROSE

イラクの政治家チャラビAhmad Chalabiの訃報がニュースになった。イラクの核兵器開発に関する情報をもたらし、アメリカを戦争に向けた。亡命政治家として、問題に苦しむイラクをパラダイスに転換しようとした。

真実はそうではない。チャラビはイラク戦争の原因ではないし、もしチャラビがいなければ、アメリカ政治は他の誰かを見つけただろう。イラクの問題ではなく、アメリカの問題を解決するためにチャラビは見いだされた。

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The Economist October 24th 2015

Reinventing the company

Nepal and India: Mr Oli’s winter challenge

Civil-military relations: Who will fight the next war?

Haiti’s election: No bums to throw out

Poland’s resurgent right: Voting for a better yesterday

Swiss elections: Head them off at the pass

Charlemagne: Refugee realpolitik

(コメント) 企業の新興種族が示す姿について,期待したような中身はありませんでした.アメリカが外交だけでなく軍事的な役割を担うためにも,国内の兵士を確保できない状況を問題視します.

他は,選挙と政治の関係です.内戦が終わっても憲法の制定や地震と政権樹立に苦しむネパール,地震後の政治が混乱したまま内戦にもなりそうな選挙を控えるハイチ,難民危機で保守派が勢いを得たポーランド,同様に,難民危機を生かして躍進する新興右派勢力の動向が興味深いスイス,ドイツに関して,興味深い考察が読めます.メルケルの難民政策から生じた3つの新要素は,国内のプラグマティズム,ヨーロッパの権力政治,トルコに対するキッシンジャー型外交.

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IPEの想像力 11/9/15

世界各地の選挙は、投票によって、政治が変わることを示しています。ミャンマー、トルコ、ポーランド、ギリシャ、ハイチ、クロアチア,アメリカ大統領候補者の予備選挙。

NHK大阪放送局「かんさい熱視線 熱い夏のあとで」は、20代初めの若者たちが政治に参加した夏を回想します.

ボブ・マレーの歌詞を紹介し,ラップを歌うようにデモの主張を伝える様子.自分の経験から,どうしても政治をこのままにしておけない,と感じた若者たち.引きこもり、自殺、リストラ,派遣社員、など,バブル崩壊後の悲観的な時代を生きてきた.「世の中をよくする」ことが,政治にはできるはずだ,と,声を上げた彼らは信じています.

確かに,安保法案は成立してしまった.それを阻止することはできなかったが,これは前進だ,と彼らは語ります.「この夏はあっという間だった」と思うことが,とてもうらやましい.

彼らを観た歩行者や,大阪の若者たちのほとんど,彼らの友人でさえ,そんな活動に意味なんてないよ,と笑って応えます.政治に何かを求めたり,自分たちが政治に期待したりすることはない.それが当然で,現実の中に固く住みついた「政治」の観念であるから.

 “熱い夏”を経験した者たちは,その感覚を変えることに成功したのです.だからこそ,予想もしないほど自分の時間と労力を注ぎ込んで,たとえ結果的に廃案にできなくても,重要な達成感を得たのではないか,と思います.

福島原発事故の影響で自主避難した女性は,人と話すときに後ろめたい感じがした,と言います.その地域の住民が受けた苦しみから,遠くにいることへの後ろめたさ.安全保障の問題は,誰かの負う問題ではなく,私の,あなたの問題だ,と真剣に感じたからこそ,その経験を語り,街頭に立ち,公衆に訴えることにしたのです.

キャンパスに帰ると,何もしないで,楽しく過ごす学生たちにいらだちを覚える,と同志社大学のキャンパスを背景にした,1人の若者は語ります.

関西の若い芸人たちが応えます.何を望むか? それは,仕事.もっと自分たちを呼んでくれる舞台があること.NHKもどうですか? これは政治的デモなどではなく,何かのイベントみたいなもの? もっと違う理由で人が集まって,騒いでいるだけだろう,と思った.

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しかし,ミャンマーの首都で,スーチーさんの家の前に集まった大群衆の熱気と同じものを,若者たちも分かち合ったのです.早朝から,投票のために並ぶ人々は,政治に参加することの喜びを語っています.

不安や恐怖から政治は生まれます.しかし,国境を閉ざすことが解決策ではない.自分ではなく,他人が苦しむことを容認すれば,次は自分たちが苦しむことになる.難民危機でEUの崩壊を恐れるより、さまざまな問題がリンクして交渉に解決の余地を拡大する過程を重視するべきだ,とHarold Jamesは書いています.2008年の金融危機もそうだった.改革のチャンスをつかみ損ねたヨーロッパは,もう一度,1989年の精神を呼び戻して解決するべきだ,と主張します.

政治的な発言が制度を変えるには,多くの抵抗や矛盾した性格の闘争を経ることが多いでしょう。既存の制度による組織の利害や影響圏の分割争いに,すべての時間と労力を消耗することを,政治,と呼びます.日本の若者たちが理想を持ち、社会を変えることができる、と信じるような「発言」の仕組みをさまざまな場面で用意できれば、彼らを遮断するのではなく,彼らが政治を変えることで,時代を変えるのです.

本棚で眠っている,ジグムント・バウマンの『政治の発見』を読もう,と思いました.彼らのくれた熱気を消さないように.

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