IPEの果樹園2015

今週のReview

11/2-7

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シリア和平交渉 ・・・中国,ロシア,アメリカの国際秩序 ・・・バーナンキの回顧 ・・・メルケルの権力崩壊 ・・・南シナ海のアメリカ海軍 ・・・黒田日銀総裁の選択

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  シリア和平交渉

NYT OCT. 29, 2015

Ripples of the Iran Deal

Roger Cohen

イラン核合意は、敵対するアメリカ政府とイラン政府との間で、将来の変化を促す隠者の取引であった。わずか数か月で、イランはシリアの和平を求める国際交渉の席に現れた。

シリアの和平は、すべての関係諸国が参加しなければ達成不可能である。イランは、直接にも間接にも、すなわちヒズボラを介して、この内戦に関係している。

イランの発言は抑制されてきた。イラン政府は、強硬派と改革派との微妙なバランスによって成立しているからだ。オバマ政権は、毎週金曜日の礼拝で、「アメリカに死を」と祈っていることを無視するプラグマティックな姿勢を取る。しかし、ネタニヤフにはそれができない。

イランは長い間、パレスチナ問題から目をそらすための存在であった。パレスチナ自治政府の事実上の首都ラマラはエルサレムにあまりにも近い。イスラエルの弾圧それ自体が、パレスチナの抵抗を正当化する面がある。暴力が、ヨルダン川西岸の占領を含む、ネタニヤフの唱える「現状維持」の一部であるからだ。それはイスラエルの民主主義を後退させる。

パレスチナの暴力や長髪より、イランからの圧力が、何よりもイスラエルに真剣な交渉と外交を求めさせるだろう。イスラエルとパレスチナの紛争には深刻な諦観と冷笑主義が支配している。アッバスとネタニヤフが、人々の犠牲が増える中でもゲームを続け、他方で、オバマとローハニは世界を変える合意に達した。

歴史の流れは変えることができる。確かにイランが参加しても、シリアの和平が直ちに成立することはない。それを阻む要因は存在し続けているから。地域全体に及ぶ宗派争い、聖戦・原理主義者、反動的な王朝支配への反発、クルド問題、シリア国民の改革要求、である。

しかし、パレスチナには交渉のテーブルさえも存在しない。


l  中国,ロシア,アメリカの国際秩序

The Guardian, Friday 23 October 2015

The best lesson China could teach Europe: how to play the long game

Natalie Nougayrède

イギリスはEUを離脱して、中華人民共和国の24番目の省になるつもりか? 習近平中国国家主席の公式訪問に際して、中国で働くヨーロッパのビジネスマンたちが冗談として言ったようだ。

中国は、長期的な視点で戦略を立てたゲームをしているが、西側の政治家たちはこれまでより短期の、得点稼ぎに終始している。しかし、成長を続け、安全保障と世界経済にますます影響を増している中国との関係を築くにあたっては、人権と経済的利益とのバランスを考えなければならない。

中国が長期の戦略を展開する。その理由は、中国が非常に長い記憶を持つことや、またある意味で、中国政府が有権者の反応にあまり制約されないことであろう。19世紀に中国が受けた恥辱も彼らは問題にする。アヘン戦争によって門戸開放を強いられたことに対して、175年を経て、その失われた尊厳を取り戻した、と中国人アナリストはイギリス訪問を説明した。

中国との関係は、常に、「ウィン・ウィン」の条件で話し合うことだ。AIIBでも、原子力発電所でもそうだ。ヨーロッパ諸国がバラバラに行動すれば、中国による分断と支配の機会とみなされるだけであろう。事前に考え抜いたことを一貫して主張し、パニックを起こしてはならない。EUが世界に占める位置を戦略的に計画しておくべきだ。

中国が、ヨーロッパよりもはるか以前に、4000年前から文明化されたことを理由に、民主主義の原理には従わないだろう。しかし、中国が高度に選別的なやり方で、ヨーロッパ諸国に、特定の場面で「特別な関係」を求めてくる。EUは世界最大の単一市場であるから、中国にとって魅力的な存在だ。一つの声、一つの価値に依拠して、交渉しなければならない。

北京がそうであるように、ヨーロッパも長期のゲームを戦う。

FT October 23, 2015

The fading of an ageing world order

Michael Fullilove

ロシアのシリア軍事介入は、第2次世界大戦以来、最も重要な介入である。それは内戦を激化させる懸念もある。

過去15年間、アメリカはブッシュ大統領の無謀な大戦略とイラク介入によってグローバルな秩序に意志を押し付けようとし、それを不安定化した。オバマはブッシュ政権の失敗から学んだだけでなく、アメリカを過度に慎重にした。その不決断がアメリカの抑止力を信用できないものにした。ワシントンはグローバルな覇権を維持できるのか? これでアメリカが穏健な覇権国になる、と願う者は間違っている。

西側諸国は世界秩序の舞台から引退しつつある。ヨーロッパは高齢化するとともに、権力政治や戦争を回避し、より完全な統合を目指している。選挙区に閉じこもった政治だけがますます支配する。イギリスでさえ、これから数年は、スコットランドのUK離脱と、イギリスのEU離脱が論争を支配し、世界の他の部分を考える時間はないだろう。

ロシアは影響圏を拡大し、グローバルなアクターとしての地位を高めている。イランは、核合意によって制裁を解除され、中東における影響力を強めるだろう。中国は、富とパワーがアジアにシフトする中で、グローバルな秩序の転換に最も重要な国として注目されてきた。その外交政策は、ときに建設的であり、ときには衝突をもたらす。

これら3か国に共通するのは力を地域に集中することであり、アメリカの力がグローバルに分散していることと対照的である。西側が自信を失い、挑戦する国が現れる中で、グローバルな機関がグローバルな問題に対応する能力は制限される。

国際協調はますます死活的に重要になるが、ますます希少になるだろう。かつて、ハリー・トルーマン大統領の国務長官であったアチソンDean Achesonは、構築される世界秩序を回想録Present at the Creationで描いたが、70年を経て、解体する世界秩序を我々は見ている。

FT October 23, 2015

China trusts British diplomacy to improve relations with the US

Tessa Keswick

これまでにも米中関係に緊張はあったが、これほど問題となったのは、市場化以降、初めてだ。アメリカな中国内部の政治的安定性をかく乱しようとするが、中国はアメリカに対するそのような手段がない、と彼らは感じている。

ソ連崩壊とその後の帝国解体について、民主化に対する執着について、北朝鮮、台湾、香港に関して、中国人はアメリカの姿勢に反発する。北京は、「信頼できる中間者」を強く求めている。キッシンジャーとニクソン以来、現在、彼らに匹敵する仲介者はいないからだ。

ここには文化が関係している。西側は法の支配に依拠して考える。どのような交渉も契約に対する信頼がある。中国にはそのようなぜいたくは存在しない。習近平は法の支配を求めているが、中国には存在しない。それゆえ、信頼と友情、が西側の契約に関する法的な保証に代わるものだ。

中国人にとって忍耐が重要であり、理解されたと感じなければ、信頼は成立しない。ワシントンにはこれが問われている。そして、北京がイギリスに求めているのは、中国人とアメリカ人の間に立つ仲介者となることである。オズボーンの中国訪問、習近平のイギリス訪問が成功したのは、こうした地政学的な背景があったからだ。

イギリスは、法の支配を発明し、国際政治、国際貿易のルールに関する先駆者であった。イギリスはアメリカの最も親しい同盟国であり、中国人が認めるように、プラグマティックで、多元的な考え方、仲介者としての才能にも優れている。イギリスは大きなパワーを持たないが、多くのソフトパワーを持ち、それを巧妙に駆使できる。

われわれは太平洋が新しい冷戦に向かうのを回避する手助けができる。イギリスには機会があり、中国は助けを求めている。それはアメリカを含むすべてのものを助けることになる。

FP OCTOBER 23, 2015

Lax Americana

BY STEPHEN M. WALT

アメリカ国家が対抗するべきことは、気候変動でも、中国の台頭でも、イスラム国家でも、プーチンやイランでもない。むしろアメリカは、戦略的に重要でない目標を放棄するべきだ。

多くの者が、アメリカの後退や軍事力行使の不決断を重視する。それは敵がアメリカの弱さに漬け込むのを助長している、と考えるからだ。しかし、こうした主張は事実に反する。オバマ政権は多くの軍事的関与を拡大した。

他方、アメリカの軍事力が積極的に行使されることで平和や世界秩序が維持された、という主張も、パックス・アメリカーナの黄金時代を理想化した懐古主義でしかない。アメリカの「グローバル・リーダーシップ」は、朝鮮戦争(300万人の死者)を防げなかった。中東における戦争の続発(1956, 1967, 1969-70, or 1973)を防げなかった。アメリカは約10年に及ぶベトナム戦争で200万人近くを死亡させた。イラン・イラク戦争は100万人が死亡したが、ワシントンは何もしなかった。むしろ化学兵器を使用したと知りながらサダム・フセインを支援した。アメリカの「リーダーシップ」はルワンダの虐殺を止めなかったし、それを一部とする中央アフリカの戦争も放置した。最近の中東の戦争状態を導いた2003年の侵攻はアメリカによるものだった。中米やラテンアメリカにおけるアメリカの軍事介入は言うまでもない。

しかし、オバマは撤退を延期しすぎたし、事実は、イラクやアフガニスタンの増派でも失敗を重ねた。敵対する集団間で、政治的な和解を推進できなかったからだ。もっと早期に撤退し、アメリカの外交がどうなるか、アメリカの戦略的な利益を国民に対して明快に説明するべきであった。それを避けて、戦略的に重要でない地域への関与を約束し、その実行を疑われたのだ。


l  バーナンキの回顧

FT October 23, 2015

Lunch with the FT: Ben Bernanke

Martin Wolf

連銀は金持ちのために役立つだけか? 庶民を不幸にしているのか? バーナンキは、アメリカの不平等がもっと長期の趨勢であると答えた。株価が高いのは、それだけ収益が低いことを意味する。彼らの意見は、連銀に、景気回復を促すな、と主張することになる。議会に財政政策を求めるべきだ。

ハイパーインフレーションの危険はない。逆に、大恐慌が技術革新や成長を促した、とは思えない。

危機前の金融政策が悪かった、と批判される。バーナンキも関わっていた。インフレ目標は間違っていた? 200年以降、金利は低すぎたのではないか? 

バーナンキは、金融政策がバブルを起こしたのではない、と答えた。バブルはマニアによる心理的な現象だ。ITブームや住宅ブームは金融政策のせいではない。しかし、連銀は他の金融監督行政と共犯であった。彼らは構造的な脆弱性が増す中で、バブルを助長した。しかし、あらかじめすべての脆弱さを予測できないし、個別の合理的行動が集団的な非合理性をもたらす。それゆえ金融監督は重要だ。他方、リスク・テイクを促す制度には行き過ぎがあった。

「大きすぎて、潰せない」という問題か? 銀行を分割してはどうか? 銀行の規模をコミュニティーの水準まで分割しても、現在の優れた機能が失われるだけで、実際、1930年代の大恐慌は起きた。彼は、自己資本を高めることが正しい、と答えた。その必要な水準はリスクに応じて変わるから、ストレステストを重視するべきだ。自己資本規制は国際的な論議になっている。アメリカは国際規制に配慮したが、むしろアメリカの銀行とアメリカに視点を持つ銀行に対する規制を独自に強化するべきだ。資本市場のバルカン化になる、と反対するのは間違いだ。

「ヘリコプター・ベン」の異名を持ったバーナンキが、銀行や株式市場に対する量的緩和よりも、直接に人々が支出を増やす資金供給を考えないはずがない。彼は、減税と量的緩和の組み合わせを支持した。

2008年のリーマン倒産は避けられたか? 彼の答えは、絶対に避けられなかった、である。買い手がいなかった。債権者がリーマンに対する資産の売却に殺到した。連銀が融資しても、法を破って担保を与えても、破産した会社を所有しただけであろう。

バーナンキは、危機前にミスを犯したかもしれないが、アメリカと世界を恐慌から救った。人類は彼に救われたが、それほど感謝していない。

Project Syndicate OCT 29, 2015

The Tragedy of Ben Bernanke

J. BRADFORD DELONG

バーナンキの回顧録The Courage to Actを悲劇として読むのは避けられない。彼は連銀議長になる準備がだれよりもできていた。しかし、その職において、彼の行動は遅れたし、ついに追いつけなかった。

大恐慌の再来を防いだのはバーナンキのおかげであるが、その後の景気回復には失敗した。(第1に)彼は2000年に、中央銀行は「常に」、少なくとも中期的に見て、量的緩和で完全な回復を実現できる、と論じた。

バーナンキは、アメリカのマネタリー・ベースを5倍(8000億ドルから4兆ドル)に増やした。その後、それが失敗に終わると、さらに9兆ドルへ倍増させた。最後には、財政支出の拡大を議会に求めて、かなわなかった。

2に、Kenneth Rogoffは、バーナンキが貨幣供給を狭く理解しすぎだ、と考える。政府が、債務の市場均衡に積極的に関与している。

3の論者たちは、QEよりも、インフレ目標を2%に定めるだけでよい、と主張する。

4に、Larry Summers and Paul Krugmanに代表されるケインジアンは、金融政策で景気回復は起きないと考える。それは、金融政策の効果を強調したMilton Friedmanの夢想でしかない。人口と生産性の変化が、それを正しく見せていただけだ。回復には財政刺激策が必要である。

この論争は、1930年代にJ.M.ケインズがマクロ経済学を誕生させたときの論争に匹敵する重要さを持っている。ケインズの答えは明確だ。「完全雇用には、投資を何らかの形で社会化するしかない。」


l  メルケルの権力崩壊

FT October 29, 2015

If Angela Merkel is ousted, Europe will unravel

Philip Stephens

考えられないことが、たった一晩で、そうだと思えることになった。メルケルは政権を失うかもしれない。

メルケルは信念を強調しない政治家である。彼女の政権が長期に及ぶのは、ドイツ国民の雰囲気をつかむ中間的な均衡点を見出すのが優れていたからだ。そして、潜在的な敵対勢力を無慈悲に遠ざけた。メルケルはヨーロッパの内外で危険からドイツを守った。

しかし、難民危機では違った。メルケルはバルカン半島を横切って来る難民たちを受け入れると決めた。壁を築いたり、国境に兵士を派遣したり、強制送還の列車を動かすより、それは正しいことだった。しかし、それが反対派を刺激した。難民の数があまりにも多く、各地で受け入れ態勢はパニックを生じ、事態がコントロールできなくなってきたからだ。

ヨーロッパ中で中道の政権政党が、左右のポピュリストに対して、支持を失っている。人々は政権政党が自分たちに安全を提供できないと感じているからだ。メルケルの長期政権と与党内での離反は、マーガレット・サッチャーを思い出させる。しかも、メルケルを失うことは一層の危機を意味する。

ショイブレではメルケルの果たした役割を引き継げない。メルケルはヨーロッパ政治の確実さを示していた。彼女こそ、1989年の再統一を代表する政治家であり、ヨーロッパの和解と統合の保証人であるからだ。

Project Syndicate OCT 29, 2015

Europe’s Politics of Dystopia

NOURIEL ROUBINI

最近のポーランドにおける保守政党の勝利は、ヨーロッパ各地で起きている反リベラルの国家資本主義、ポピュリスト的な右翼がもとめる権威主義体制の傾向を示す1つである。Putinomics in Russia, Órbanomics in Hungary, Erdoğanomics in Turkey, or a decade of Berlusconomics from which Italy is still recovering. そして、Kaczyńskinomics in Poland

慢性的な危機や停滞に対して、不満を受けた彼らが政権を取れば、メディア、特にテレビを支配し、EUに反対する行動を強め、あらゆる超国家的なガバナンスに反対する。自由貿易、グローバリゼーション、移民、外国企業による直接投資、に反対し、自国の企業や労働者、そして国営企業、権力者につながる民間ビジネス、金融グループが優先される。

反市場のイデオロギー、アイデンティティや主権を侵すリベラルな資本主義、グローバリゼーションに反対する傾向は、左派にも共通している。そうした経済コーポラティズムと専制支配は1930年代に見られたものだ。

もし経済的な貧血症が慢性化し、雇用と賃金がすぐに上昇しないなら、ポピュリスト政党はさらに多くのヨーロッパ諸国で権力を得るだろう。もっと悪いことに、ユーロ圏の危機は再発し、ギリシャのユーロ圏離脱がドミノとなって、ユーロ圏は崩壊するかもしれない。あるいは、イギリスのEU離脱がEUの解体を刺激し、イギリス、スペイン、ベルギーといった他のヨーロッパ諸国も内側から分割される。


l  南シナ海のアメリカ海軍

FP OCTOBER 27, 2015

U.S. Dispatches Warship to Challenge China’s Artificial Islands

BY DAN DE LUCE, KEITH JOHNSON

2次世界大戦の終結以降、アメリカ海軍は世界中で航行の自由を防衛してきた。それに挑戦する国家は、敵であれ、味方であれ、通常の行為として作戦の対象になった。2014年には、中国を含む19か国が、この作戦の対象になっている。

今回の作戦は、政府内で長く論争となり、メディアによって報道され、実行が予想されてきた。アメリカは、南シナ海での監視活動を強め、「航行の自由作戦」“freedom of navigation operation”を繰り返しても、中国の行動を抑止することはないだろう、と考えている。しかし、アジアにおける同盟諸国の信頼を高めることはできるかもしれない。

中国政府は、特に、経済状態が悪化しているときに、軍事的な衝突を回避しようとするはずだ。しかし、南シナ海全体について中国の主権を主張し続けるだろうし、アラスカ沖に海軍を派遣したような、アメリカに対する同様の作戦を取るかもしれない。

指導者たちが軍事行動を望まなくても、ナショナリズムの高まりを抑制できるとは限らない。

Bloomberg OCT 27, 2015

Battle Over China's Artificial Islands Has Just Begun

By Josh Rogin

国防長官Ashton Carterとアメリカ海軍太平洋司令官Harry Harris提督は、航行の自由作戦を以前から主張していた。しかし、他の政府高官には、中国との協力関係が別の分野で難しくなることを懸念する意見があった。

作戦の時期が問題になった。ホワイトハウスは、米中首脳会談で、習主席が、人工島を軍事利用するつもりはない、という発言を得るまで待つことを望んだ。ケリー国務長官は、パリの気候変動会議まで待つように主張した。米軍内にも、対立を避け、人民解放軍との関与を強めることを求める声がある。

何人かの共和党議員は、こうした作戦を定期的に、繰り返し行うように、と支持している。アジア中国との紛争を抱える諸国は作戦を支持している。防空識別圏に関する中国の宣言に対して、アメリカは1度だけB52を飛ばした。同盟諸国は、それが中国の姿勢に対してほとんど無意味であったと考える。

このまま中国が既成事実にしてしまうのを阻むには、アメリカがその外交、経済、軍事的な手段を、いつ、どのように使うか、にかかっている。アメリカ政府内部にコンセンサスはない。

Project Syndicate OCT 29, 2015

Challenging China

BILL EMMOTT

1996年にビル・クリントン大統領が海軍を台湾沖に派遣して以来,アメリカが中国に対して行った最も大胆な軍事介入である.それはシンボリックな行為として歓迎できる.しかし,十分ではない.もし中国が拡大する野心に合わせて海洋法を解釈するなら,それに対抗して繰り返し,定期的に,他国と協力して,その領土的な主張に対抗しなければならない.

中国の様々な反発には根拠がなく,その本当の理由は,中国がアメリカと同等の超大国になった,という確信である.何世紀にもわたり,中国はこの地域の最大で最強の国家であった.周辺の海を支配し,近隣諸国を隷属国家として扱っていた.2世紀の例外的なギャップを解消して,今また,東アジアの旧秩序,と彼らが思うものを再建しつつある.

それは,他国を考えないなら,必ずしも不合理なことではない.アメリカも同様の資格で隣国を扱えるだろうが,カナダやメキシコは,中国周辺の多くの国ほど,アメリカに侵食されたり,侮辱されたりしていると感じていない.また,アメリカの戦略的思考が貿易や航行の自由を脅かすこともない.中国はそうではない.重要なことは,アメリカがより大きな国際的支持と承認を得ていることだ.

明らかに,中国は拡大し続けるだろう.主権を要求し,事実を積み重ねる.これに反対するには,その主張が間違いであることを繰り返し示すことだ.それは「事実」ではなく,「意見」に過ぎない.

そのために,多くの国から多くの船が,日常的に,軍艦も商船も,中国が主権を要求する海域を航行する必要がある.これは,中国が東シナ海で,日本の尖閣諸島周辺海域で行っていることだ.その行動は違法であるが,彼らの主張(日本の主権はない)を示している.

たとえそれが偶発的な衝突や対立を意味するとしても,何もしないこと,1度だけ派遣することは既成事実を中国に与えることだ.


l  黒田日銀総裁の選択

FT October 28, 2015

Japan’s economy: Credibility on the line

Robin Harding in Tokyo

前任者の「漸進主義」を批判して登場した,黒田総裁によるQQEはその信認を失いつつある.当初,円は80円から120円まで減価し,株価は倍増した.しかし,インフレ期待を高めることで金利を下げる,という論理は支持されない.このままQQEを続けて期待を失わせるか,さらに過激な金融政策の転換を指導するか.

消費税の引き上げが失敗であった,という.財政赤字の不安,など,日本の中で反対意見がある.安倍首相はインフレ率に関心を失ったようだ.マイナスのインフレ率や,財政赤字への直接金融,などは,黒田総裁が認めていない.

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The Economist October 17th 2015

The new game

Bello: The persistence of Peronism

How Spain deals with migrants: Forward defence

Charlemagne: The TTIP of the spear

(コメント) The Economistは,アメリカが広めるリベラルな価値を支持する.民主主義,自由市場,人権を維持する国際システムに挑戦するロシアや中国には,それらがない.アメリカが明確な目標を掲げるなら,多くの国の協力を得ることができる.

確かに,イラクやアフガニスタン,リビアの独裁者からの解放は,安定した政治システムをもたらさなかった.しかし,オバマは撤退すべきではない.アメリカ自身の国内改革を実現し,政治の混乱を解決することが重要だ.

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IPEの想像力 11/2/15

NHKBS3で「刑事フォイル 50隻の軍艦」を観ました。

イギリスの海岸に上陸しようとしたドイツのスパイが逮捕されます。彼のボートが潮流に流されているとき、海岸で殺人事件が起きます。彼が唯一の目撃者でした。

「戦争中でも、殺人罪を問うのか? 」

フォイルは収監されている彼を訪ねて、彼が処刑されるだろうということに同意し、それに関しては何もできない、と断ったうえで、証言を得ようとします。なぜ彼は協力するのでしょうか?

彼は、交換条件を提案します。自分の家族に伝言をしてほしい、と。「最後まで家族を愛している。さようなら。」 フォイルは、それを必ず伝える、と約束します。

それでも、なお、物語は問いかけています。このドイツ人スパイの証言は真実なのか? そして、フォイルは彼との約束を守るのか?

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ドイツ軍の空爆で破壊された住宅から、高価なコインを盗んだ消防隊員がいます。仲間たちと常習的に窃盗を行い、だれでもやっていることだ、と戦場の楽しみを肯定します。

フォイルは彼らが隠していた盗品を見つけ出し、彼を逮捕して、強く非難しました。この戦争を起こしたヒトラーが憎いのと同様に、お前のような奴が、戦争を利用して、傷ついた人たちの苦しみをさらに増すことで、戦場の泥沼を広げている,と。

戦場での盗みは,「場合によっては処刑される。」というフォイルの説明に、犯人はおびえます。まさか、そんな重い罪にはならないだろう、と。つまり、彼は考えたのです。

「戦争中でも、窃盗犯を処罰するのか? 」

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ドイツ軍の攻撃に苦しむイギリスは、財政的にも、軍事力に関しても限界に達し、アメリカからの支援を待っていました。アメリカの参戦は遅く、漸く「武器貸与法」によって大規模な支援が始まります。たとえボロボロの軍艦でも.

この物語では、イギリス政府が強く願うアメリカの支援を促すのに,アメリカ人の実業家ペイジが重要な役割を果たす、と期待されています.しかし,彼は,「嘘つきで、泥棒で、殺人犯」でした。ペイジはオックスフォードの友人から技術を盗み、それによってアメリカで事業を起こし、資産家となった,とフォイルは究明します。イギリスに来たペイジは、その男に脅迫され,彼を射殺しました。

アメリカ議会では参戦に反対する声が強く、ペイジの協力はどうしても必要である、とイギリス政府は判断します。ペイジの警護と監視に当たるイギリスの諜報関係者は、フォイルに犯人を逃すように求めます。私の方が高位の判断を下せる、と。

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オバマは、シリアにおいて飛行禁止空域を設けませんでした。空爆も認めませんでした。民主化を求める反政府勢力に軍事支援を行いましたが、その成果は全くの失敗でした。南シナ海では,中国の主権を国際法が認めていないことを示すために,人工島の12カイリ内をアメリカ海軍の軍艦で航行させました.

戦争は,国家が軍事力を行使して大規模に破壊し,殺戮し,領土や資源を略奪します.しかし,戦争が終われば,私たちの社会は殺人や窃盗を許さず,法によって処罰します.

中国が埋め立てによって拡大する人工島も、アメリカ海軍の作戦も、安全保障という公共財の手段として、国家を超えた監視と管理にゆだねる日が来るでしょうか?

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