IPEの果樹園2015

今週のReview

10/26-31

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習近平のイギリス公式訪問 ・・・日本病に感染する中国 ・・・EU難民危機とドイツ ・・・民主党予備選挙とデンマーク ・・・アフリカを世界のパン籠に ・・・デフレ怪獣Chinzila ・・・カースト制とレイプに抗する少女

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  習近平のイギリス公式訪問

The Guardian, Sunday 18 October 2015

The howls of China’s prisoners will haunt this royal welcome for Xi Jinping

Ma Jian

18年前,私は,激しい雨の降る夜明けに,中国人民解放軍の戦車とトラックが香港に入るのを,恐れながら見ていた.中国がイギリス植民地に対する主権を回復したのだ.思想と表現の自由を制限するビッグ・ブラザーの監視を避けて,私はロンドンに移住した.

火曜日,私はモールに立って,中国の習近平主席と彼の妻が,偽装馬車に乗ってバッキンガム宮殿に向かうのを見るだろう.そこには戦車もトラックもないだろうが,私の恐怖は疑いなくもっと深い.ビッグ・ブラザーは再びイギリス本土に現れたのだから.しかも今回は,イギリス政府に,冷たい握手ではなく,恥知らずなほどの追従と抱擁によって歓迎されるのだ.

世界最大の専制支配国家の指導者が,王室警護兵の敬礼を受け,正装した3世代の王族によって迎えられる.習はイギリス両院議会で演説し,Belgian Suite宮殿に泊まる.オズボーン蔵相が述べたように,英中関係の「黄金時代」が始まり,中国は「西側における最善のパートナー」を得るのだ.

しかし,人権よりも貿易を重視する,この卑しい友情によって,誰が得をし,誰が損をするのか?

習にとってこの公式訪問は壮大なプロパガンダである.自国では共産党が民主主義を軽蔑しているとしても,習は西側民主主義諸国が彼を承認し,それが彼の専制支配に高い正当性を与えることを望んでいる.

習の公式訪問は中国の国営放送によって全土に伝えられ,豪華な晩餐会や,女王が自ら用意したといわれる花飾りを紹介する.そのメッセージは明白だ.・・・イギリス連邦の女王が,世界最古の民主主義国家が,中国の主席にこうして敬意を示し,歓迎しているというのに,彼を批判するお前たちは何という愚か者だ?

この取引のために,中国政府は大金を注ぎ込んでいる.Hinkley Pointの原子力発電所や,HS2高速鉄道のような,イギリスのエネルギー・輸送インフラへ.西側の他の国では,これほど大きな役割を,自国の基軸インフラ建設に対して,動揺する経済と,全体主義的政府,将来の不確実さ,人権弾圧の歴史を持つ国家に委ねることなどありえないだろう.しかしオズボーンには,反対の声があるプロジェクトを,自分が唱える緊縮策を曲げずに実現するため,中国の金が要る.原則も,イギリスの安全保障も,捨てる気だ.

習の公式訪問と並行して,中国政府は国内の市民運動や反政府活動家をさらに厳しく弾圧している.中国政府を国際秩序に取り込むのは重要だが,名誉を与え,人権弾圧を無視し,不当な要求を聞き入れるのは,恥知らずであり,不要である.安っぽい友情は,中国で自由を求めて戦う人々に共感するイギリス市民たちを侮辱するものだ.

せめて,キャメロン首相が首相官邸へ帰り,習主席が絹のベッドで眠る宮殿から,ちょうど1マイルの王立芸術学院では,独房の政治犯を示す作品が世界に向けて展示されていることを,彼らが思い出すことを望む.

The Guardian, Monday 19 October 2015

China is rising as the US declines. Britain can’t ignore this reality

Martin Jacques

イギリス外交政策の大転換は、政府がアジアの朴大なインフラ需要に中国が応じるイニシアティブをとるのに参加したとき始まった。アメリカはIMFや世界銀行の脅威になるAIIBに参加しないよう求めたが、イギリスは参加を決断し、ドイツやフランスも続いた。これまでイギリスはアメリカ外交の代弁者と思われていたが、これは、1944年にJ.M.ケインズとアメリカのD.ホワイトが国際金融システムについて議論して以来、初めて、イギリスが示した独自の決断である。

この決断を促したのはオズボーン蔵相だ。胡錦濤主席が2005年にイギリスを公式訪問したとき、中国経済の規模はイギリスより小さかった。現在、中国のGDPはイギリスの3倍以上ある。世界金融危機以来、ますます世界は中国の成長と投資に大きく依存するようになっている。

習近平の訪問は、多くの新しい投資をイギリスにもたらした。イギリスはインフラへの投資を必要としているが、その財源がない。中国は高速鉄道や原子力発電所への投資意欲を示した。こうした投資がなければ、イングランド北部の活性化は不可能だろう。また人民元の最大のオフショア市場であるシティにとっても、中国は将来の成長を意味している。イギリスの「中国旋回」は当然だ。

もちろん、この転換に、中国を歓迎するイギリスはアメリカから離反していく、という反対の声や不安は生じるだろう。事態は複雑だ。中国は台頭し、アメリカは衰退する。2030年までに、中国経済の規模はアメリカの2倍に達すると推定される。中国の台頭を無視することは誰にもできない。ほとんどの国が中国に向けて旋回するのは、かつて全盛期のアメリカに諸国が集まったのと同じである。これは重力の問題であって、抽象論ではない。

アメリカは我々イギリス人と歴史や多くの価値を共有した。中国はそうではない。われわれは自分たちの価値ではなく、それ自身の条件で、中国を理解することを学ばねばならない。人権について、われわれは不満を感じている。しかし、ここでもより大きく見るなら、過去30年で6億人を貧困から救い出した中国は、人権に対する最大の貢献国であると言える。中国はまた、より自由な社会になった。

インフラを更新し、より多くの雇用をもたらす中国との関係を重視することは、アジアに向かう世界、中国中心の国際秩序において繁栄をもたらすものだ。


l  日本病に感染する中国

Project Syndicate OCT 16, 2015

The Japan Syndrome Comes to China

JEFFREY D. SACHS

中国は,今,1世代前に日本人が経験したことを経験しつつある.アメリカがその輸出を抑制するように強く要求した後,経済成長が顕著に減速したのだ.1980年代後半から1990年代初めにかけて,アメリカは日本による製造業の輸出を「不公正」と批判した.日本の輸入製品を制限するために厳しい脅迫を行い,円を大きく増価させることに成功した.それは日本の成長を急停止させるのに役だった.

円は1960年代,70年代に,徐々に増価していたが,その後,アメリカの強い圧力で,1985年にプラザ合意が成立し,多国間の市場介入で為替レートが調整された.円は1984-88年におよそ50%も増価し,日本の輸出増は停止したのだ.

その後しばらくは,国内投資が輸出の減少を相殺したが,もはや増価するしか無いように見える円に対して投機的な資金が流入した.金融バブルが起きたのだ.1990年,バブルが破裂したとき,日本は20年に及ぶ停滞に入った.

中国は同じことを経験するリスクに直面している.2000年代に入ってから,アメリカ政府は中国を貿易制裁で脅し,輸出を抑えて,人民元を増価させ,「消費主導の成長」に転換せよ,と迫った.人民元は2007年に顕著に増価し始め,日本と同様,人民元は増価するしかないと信じて,不安定化する資本流入が急増した.それは金融バブルをともなった.

2007-2014年,中国の人民元は実質実効為替レートが32%増価した.20155月まででは40%の増価である.それはドルに対してだけでなく,円やユーロ,韓国ウォンに対して,実質増価したからだ.8月に35切り下げても,なお人民元は大幅に過大評価されている.

長期の「ジャパン・トラップ」を回避するには,人民元の一層の減価が必要だ.注意すべきは,中国の輸出増の多くはアメリカやヨーロッパではなく,アフリカやアジア,特にインフラや機械,に向かうことだ.


l  EU難民危機とドイツ

Project Syndicate OCT 19, 2015

The Disintegration of Europe

PHILIPPE LEGRAIN

恐るべき速さでEUが解体しつつある。ハンガリーは同じEU加盟国であるクロアチアとの国境にレーザーワイヤーのフェンスを築いた。ユーロ圏の危機が金融の流れを妨げ、経済格差をさらに拡大し、政治的支持を失わせたが、今や難民危機が人の流れや貿易も妨げ始めている。

EUは危機を経験することで前進する、とよく言われる。そのような前進には、少なくとも4つの条件が要る。問題に関する正しい理解を共有すること。前進するための効果的な方策が合意されること。主権の一層のEU集中が受け入れられること、政治指導者たちに変化を促す能力があること。現在、すべてを欠いている。

EU指導者たちは弱く、分裂し、EU統合による将来の利益を信頼できるビジョンとして示す能力がないようだ。EUとして共通の対応策を欠いたまま、危機は悪化し、拡大し、国境封鎖のような一方的行動に向かう。

ユーロ危機も、難民危機も、コストが問題であり、価値観が衝突して、ドイツの支配的な役割が重要になった。

2010年のギリシャ債務危機は、フランスとドイツの銀行を救済するために利用された。その時に債務処理をしなかったことは、その後の危機を長引かせ、処理コストを膨張させた。同様に、難民危機を解消する公的な財源があれば、彼らが早期に働くことでその利益をもたらす。高齢化の進むヨーロッパ経済は若い労働者を求めている。

最近まで、ドイツの政策担当者たちは、ナチスの過去を償うために、よりヨーロッパ的なドイツを目指し、EUに資金提供してきた。しかし、債務危機で最大の債権国として強い立場を得たことで、メルケル政権はよりドイツ的なヨーロッパを築こうとした。ドイツの近隣窮乏カ的な政策が債務危機を悪化させていることを認めない。逆に、債務国に服従を求め、システム全体を損なっている。

EUはますます経済危機、政治混乱、難民の源泉とみなされ、イギリス人が2017年末にEUを離脱する可能性を高めている。EU離脱派は、自由市場、外国人からの自由、社会主義的なユートピアを振りまいている。もしイギリスのEU離脱、Brexitが実現すれば、EU解体が一気に加速するだろう。

FT October 21, 2015

Angela Merkel stands between triumph and failure

Constanze Stelzenmüller

メルケルが成功すれば、彼女はノーベル平和賞を得るだろう。しかし、失敗すればEUが崩壊する。

今年だけで、ベルリンには80万人が流入するという。150万人という推定もある。ここ数週間は、ドイツの暗黒面も浮上した。難民への襲撃が100件を超えた。極右のポピュリスト運動がソーシャル・メディアや街頭を占拠している。

同時に、多数のドイツ人が難民支援のボランティアに参加している。ヘイト・クライムやヘイト・スピーチに反対し、当局の不決断を批判している。学生たちはスープを配り、ドイツ語や技能を教えている。

ドイツ社会は急速に変化しているし、すでにこれまで、大きく変化してきた。白人のキリスト教徒がほとんどであった国は、移民とその子孫を受け入れ、現在、人口の20%以上を占めている。多文化、多宗教、肌の色も異なる、国家になった。大規模な移民は、福祉国家を守り、経済成長を維持する。かつて1945年以後、1300万人のドイツ人が東欧から帰還した。1990年代、300万人がソ連から流入した。1990103日、1600万人の東ドイツ国民が加わった。

歴史は宿命ではないし、アイデンティティは選択できる。移民たちはヨーロッパを選び、ドイツを選んだ。そしてドイツは彼らを受け入れた。

ただ新社会変化には時間と、資金と、良い政策が必要だ。第2次世界大戦の恐怖は50年続き、東ドイツの再統合には2兆ユーロを要し、トルコ系移民の国籍取得を認めるまで、数十年間も差別されたゲットーが続いた。

メルケルは困難な妥協を模索する。国境に壁を再建するのではなく、移民たちの安全な受け入れ地域と帰還を認め、非合法な斡旋業者を取り締まり、中東危機の鎮静化に向けた外交を展開して、レバノンなどの難民受け入れ諸国に財政支援しなければならない。


l  民主党予備選挙とデンマーク

NYT OCT. 16, 2015

Guess Who Else Is a Socialist?

Timothy Egan

火曜日のTV討論で,ヒラリー・クリントンは,「私はデンマークが好きだ」と言った.ほとんど白人ばかりの,人口570万人しかいない,半社会主義的な国家である.多くのエスニックな国民が集まる32200万人のアメリカの問題を解決する策を見いだす所ではないだろう.

しかし,実際は,多くの者が思う以上に,アメリカもデンマークに似ているのだ.社会主義と言えば,破たんしたソビエト型の国家,マルクス主義者のクラブだと思うから,アメリカ人は嫌う.そのラベルを捨てれば,健康保険や教育,老人への年金を政府が支給することと,創造的な資本主義が併存して,うまく機能している北欧諸国,イギリス,カナダを,アメリカ人の多くは支持するだろう.

彼女は,「アメリカはデンマークではない」とも言った.デンマークは税率が高い.しかし,予算は黒字,国民健康保険,短い労働時間,を実現しており,Forbes誌は世界でビジネスに最も優れた国としてランクした.

NYT OCT. 19, 2015

Something Not Rotten in Denmark

Paul Krugman

デンマークは国民健康保険、無料の大学教育、奨学金、大幅に補助されたデイケア、を提供している。それゆえ高負担の税を求めているが、それでも荒廃が広がることはなく、アメリカと同様の生産性と雇用創出を実現している。国際比較で、「生活満足度」は世界最高水準だ。

世界金融危機からの回復は遅く、不完全であるため、アメリカよりも劣っているが、それはユーロ圏として共通の金融・財政政策が失敗したからだ。スウェーデンと比べれば、それは明白だ。アメリカの保守層がデンマークを否定するのとは違った理由である。

NYT OCT. 21, 2015

Are You Sure You Want the Job?

Thomas L. Friedman

アメリカにはトランプ、フランスにはマリ・ル・ペン、アラブ世界にはISIS、ロシアにはプーチン。

彼らは冷戦の時代やポスト冷戦の時代へ、確実さと繁栄の時代へ、戻ると約束する。こんな時代をもたらした伝統的なエリートを追放し、変化に対する壁を築き、怒れる男たちに超権力を与えることで。彼らの約束はすべて偽物だが、彼らが取り戻すという混乱は本物だ。


l  アフリカを世界のパン籠に

Project Syndicate OCT 16, 2015

The African Breadbasket

PAUL KAGAME and K.Y. AMOAKO

アフリカには耕作可能な土地(世界の60%)と豊富な生態系を持ち、技術革新を導入する可能性がある。現在、食糧輸入に頼っているアフリカは、世界のパン籠になる力を秘めている。

アフリカ農業は、まだ、生産性を一気に高める技術へのアクセスを持たない、狭い農産物に限られた、工業部門やより広い経済圏とのリンクを欠いた、小規模農家が担っている。それはアフリカの貧困を地方で固定することを意味する。

彼らの農業を根本的に転換するには、高度な投資を行い、作物を多様化し、成長する都市の消費市場とリンクしなければならない。世界中で、農業の発展が工業化と生活水準上昇のカギであった。

ただし政府は、土地所有権を農村共同体から切り離し、個々の農家に対して確立することで、投資のインセンティブを高めると同時に、共同体的な土地所有が保証している伝統的な関係を重視しなければならない。農村から雇用を失わせる技術が導入されるとき、大量の失業が発生するなら、政府はこれを他の雇用や都市への移住で吸収しなければならない。

環境へのダメージに配慮し、都市の荒廃や水の汚染を避けねばならない。農業発展の計画は各国政府が立てるとしても、そのアイデアを交換し、優れた経験を学ぶためにも、国際協力は有効だ。


l  デフレ怪獣Chinzila

FT October 19, 2015

China-Brazil link is top threat to global economy

Gene Frieda

世界経済における驚異として、もはやChinzila — the nexus between China and Brazilを見ることはなくなり、むしろ脅威となった。

中国の減速は国際商品価格の下落や需要の減少によって新興市場に金融的なストレスを生じている。2012年以来、中国の成長モデルは寿命が尽きてきた。さらに、株価下落や人民元減価が政策ミスを導いた。外貨準備を失い、銀行は自己資本調達の機会を失って、人民元の減価圧力は続いている。

資本流出を止めるために、中国当局は国内債券市場のバブルを刺激している。それは2016年に大幅な人民元安を生じるかもしれない。それはブラジルの金融不安を悪化させる。債務の膨張が止まらないことに政府は気付いた。

ブラジルの問題は従来の債務危機と異なり、むしろ国内のクレジット・ブームである。巨額の資本流入で、国内金利が大幅に下がった(2001-07年の12%から、危機後のQEによる5%へ)。しかも政治不安と政策への信頼性欠如は、漸進的な調整政策のオプションを奪ってしまった。急激な金融引き締め、通貨安、財政の均衡化が強いられるだろう。潤沢な外貨準備を持つ中央銀行だが、民間部門の債務危機を救済するためには容易に使わない。

中国が需要を維持することも、仮定としては、考えられる。インフラよりも消費を重視した財政刺激策、金融システムからの不良債権除去、金融仲介から社会保障まで、様々なシステムの改革。しかし、こうした政策は成長期でさえ政治的に難しいものだった。

それゆえ、大幅な人民元の減価を市場は恐れるのだ。怪獣Chinzilaが世界デフレを解き放つ。


l  カースト制とレイプに抗する少女

NYT OCT. 17, 2015

A Rapist’s Nightmare

Nicholas Kristof

インド北部の村では、アッパー・カーストの男たちに強姦罪を問うことはなかった。男たちは何の恐れもなく、少女たちを破壊し続けていた。

しかし、カーストの底辺に属する一人の勇敢な少女が反撃したことも理由となって、それは変化し始めた。世界中のレイプに苦しむ女性たちは、アメリカも含めて、強姦を法によって罰することができない現実に苦しんでいる。

13歳のBitiya(仮名)が畑で働いていたとき、彼女を4人の上位カーストの男たちが襲い、裸にしてレイプした。彼らはレイプを録画し、もし彼女が誰かに話したら、ビデオをばらまき、兄弟を殺してやる、と脅した。

6週間後、Bitiyaの父親が町で少年の見ているポルノビデオに、娘が映っているのを知った。男たちは店で11ドルのビデオにしたのだ。父親は警察に訴えたが、関心を示さず、逆に、それを知った村の長老たちはBitiyaを公立学校から追放した。彼女は優秀な生徒であったが、他の少女たちに悪い影響を与える、というのだ。

彼女を学校に戻すように、公的な圧力が生じたが、長老たちはBitiyaの家族に対して、懲罰のため、食糧配給を拒んだ。Bitiyaは、かつて不可触民と呼ばれた、カーストの中の最底辺、Dalitである。

市民社会は4人の男たちを逮捕し、その後、保釈した。裁判は長引き、ひどい証言を聞いた後、Bitiyaの父は心臓発作で亡くなった。家族はアッパー・カーストの復讐を恐れて、16歳の兄も外出できなくなった。

被告たちはBitiyaに、告訴を取り下げ、和解させるために15000ドルを持ってきた。Bitiyaはそれほどの大金を見たことがなかったが、受け取ることを拒んだ。「私は彼らが投獄ざれることを望む。」「すべての人が強姦によって罰せられることを知ってほしい。」

Bitiyaとその家族の決意は、インド社会を変えつつある。


l  オバマ外交の迷走

FT October 18, 2015

Barack Obama’s painful Afghan journey

ED Luce

ベトナム戦争との同一視は確かに行き過ぎである。1968年に、米軍は50万人以上がベトナムにいた。オバマが来年残すのは9800人だ。戦死者はこれまで2500人に達するが、ベトナムでは6万人が死んだ。しかし、類似点もある。親米政権は腐敗が激しく、その軍隊は役に立たなかった。アフガニスタンでもそうだ。

さらに重要なことは、オバマの新計画に信用に足る終結策がないことだ。これこそベトナム戦争との重大な類似点である。若い外交官として出発したホルブルックはベトナム戦争に関して、アメリカは国益によって正当化できないほど多くの兵士を失っている、と上官に主張した。共産軍への外部からの支援、特にソ連と中国を止めない限り、アメリカは敗北するだろう、と。アフガニスタンも同じだ。ホルブルックは、パキスタンを真の同盟国にする計画を持ち、2国を含めて考えた。しかし、オバマの最近の演説でも、アフガニスタンには28回言及したが、パキスタンは2回だ。

14年間も駐留したアメリカ軍の上げた成果は容易に失われかねない。タリバンは支配地域を拡大している。イランがタリバンに資金援助し、アフガニスタン内で拠点を広げている、という証拠がある。イランは、同盟か、敵か? 答えることは難しい。アフガニスタンが新しいシリアになるかもしれない。ただし、ここで地上軍を置いているのは、ロシアではなく、アメリカだ。

アフガニスタンがオバマに教えた苦い教訓は3つある。

1.アメリカ国内政治への配慮が足りなかった。

2.アフガニスタンは兆候でしかなく、本当に深刻な問題はパキスタンだ。

3.ホルブルックの歴史的類推は適切だ。「タリバンが去った後、すべてが可能に思える黄金時代があった。アメリカはそこで何をしているか、説明しそこなった。」

ベトナムと同じだ。将軍たちは決定を支配し、タリバンは迫ってくるが、アメリカの指導者たちは事態の変化に振り回されているだけだ。

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The Economist October 10th 2015

The Trans-Pacific Partnership: Every silver lining has a cloud

The Trans-Pacific Partnership: Weighing anchor

Europe’s migrant crisis: Angela the beleaguered

Germany’s refugee srisis: Merkel at her limit

The Democratic primary: Berning up

Russia’s Syrian war: An odd way to make friends

English cities: All politics is local

(コメント) TPPに関する記事は,むしろ悲観的なものであり,アメリカ国内での反対論を懸念します.メルケルが直面する難民危機が,トルコのEU加盟交渉に新しい意味を追加しました.シリアに空爆したロシア政府のシナリオとプロパガンダの行方を憂慮します.

面白い記事は,サンダース候補に関する分析と,イギリス保守党政権が進める地方分権の大改革が,グローバリゼーションとクロスする視点です.大阪都構想は,何より,イギリス保守党と連携するべきでした.

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IPEの想像力 10/26/15

BS-TBSマンデードキュメント「負けてたまるか~戦う農家 岡本重明」(2015.10.26)を観ました。

安倍政権の国家戦略特区は、規制改革を目指すために、成功モデルを示して他地域にその試みを広げる、いわば新興諸国・中国型の改革です。国際競争を理由に、既得権を打破して、主要産業の活性化を図る政府の意図が、新しい政策を模索するさまざまな関係者の間に対立をもたらします。

こうした政策形成のプロセスこそ、政権政党と官僚制の存在理由を問うものだと思います。この番組で私は、下からの、当事者たちの規制改革や政策決定に向ける情熱を,岡本重明という個性的な農業企業家の姿に見ました.

岡本氏は、農地の利用規制に不満を持っています。農民は.農地を利用して沿道で店を出したり,米を加工して新しい商品を作ったりすることで,利益を得ることができない.岡本氏は、農協や農業委員会の姿勢に不満を持っています。彼らは機械化を勧めたり,農産物の多様化に向けてマーケティングしたり,することもない.

岡本氏は、中央政府・官僚ではなく、市長や農業委員会が変わればできる、と考えます。岡本氏は,養父市の特区に参加し,また、タイの農家にもおいしい日本米の生産ができる、と技術指導に努めます。

そんなとき,新米の買い取り価格が大幅に下がりました。

コメの国際市場価格と規制・政治の問題が,日本農業を挟撃します。国際環境の変化や技術革新,それに必要な投資と長期計画をめぐって,農業はどこまでビジネスなのか? 政治なのか?

岡本氏は、市長選挙に立候補します。組織を持たない岡本氏は敗北しますが,選挙で当選した政治家の半分も得票したことに,本来の,政治の覚醒を見る思いです.

岡本重明氏の熱い思いに,強い感銘を受けました。

ネットを検索すると,「リアル 国家戦略特区 養父市 農業再生を託された男」(スーパーニュースアンカー 2014.10.16)が,同じ養父市の、三野昌二副市長(広島出身、経営コンサルタント)を紹介していました.

特区は,棚田のコメをブランド化したり、企業による土地購入を容易にしたりして、さまざまな分野から参入を促す。レタス工場や,都市の若者を招くパートナーズの試みを取り上げていました。

他方,NHK日曜討論では,こうした市場化の試みが農家の数%に対する意味があるとしても,全体をどうするのか,示すものではない,と反対する声も聴きました.

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PHILIPPE LEGRAIN のコラム(“The Disintegration of Europe,” Project Syndicate OCT 19, 2015)は,EU難民危機が政治的な打開策を進める条件を4つ示します.

「問題に関する正しい理解を共有すること。前進するための効果的な方策が合意されること。主権の一層のEU集中が受け入れられること、政治指導者たちに変化を促す能力があること。」

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MOHAMED A. EL-ERIANのコラム(“Governments’ Self-Disruption Challenge,” Project Syndicate OCT 13, 2015)を思い出しました.

「政治献金やロビーの政治的影響力は、この課題をさらに難しくする。彼らは、システム全体の長期的な福祉を改善するために行動するより、ミクロな動機を追及し、その一部は伝統的な階層、しばしば、エスタブリッシュメントの富裕層がシステムを支配し続けるのを助ける。そうすることで彼らは、アップグレードや転換に特に重要な、小規模の、新興プレーヤーを阻止するのだ。」

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PARAG KHANNAのコラム("The End of the Nation-State?" NYT October 12, 2013)は,進行の諸都市や経済特区を,新しいグローバルな政治体の誕生,と見ます.都市化,技術変化,資本蓄積は,グローバルなインフラを整備した飛び地へ,国民国家の外部に流出する.それらの繁栄のカギは,近隣諸地域の超国家的な安定性であり,TPPはそれを目指すものかもしれません.

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中東であれ,ドイツ,イギリス,中国であれ,政治にもフロンティアがあり,新しい覚醒が生じます.

豊かで,高齢化した諸国の政治では,安定化のための補償メカニズムと制度化を再編し,革新して,技術変化と若者の意欲をどのように社会として実現できるか,政治権力をめぐる組織や社会運動の成否は,その優れた答えを競い合っているのだな,と思いました.

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