IPEの果樹園2015

今週のReview

10/19-24

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グローバルな金融システム ・・・難民危機の政治学 ・・・中国の金融危機 ・・・戦略家プーチン対オバマ ・・・ノーベル経済学賞 ・・・中国はTPPに参加するべきか ・・・アメリカの覇権は失われた ・・・技術革新と政治的関与 ・・・ドイツの覇権は終わった

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  グローバルな金融システム

The Guardian, Sunday 11 October 2015

The world economic order is collapsing and this time there seems no way out

Will Hutton

経済の無秩序の核心には世界金融システムがある。グローバルな規模の銀行が、相互に莫大な規模で、ビジネスを行っている。その結果、銀行の信用創造力は全く新しい水準に達した。信用創造は昔からあり、預金者が同時に引き出すことはできない。中央銀行が注意深く規制しなければならない。

しかし、グローバルな銀行システムが登場し、中央銀行の監視と監督は弱まった。資本移動を規制する国も減って、コストを要しない資金が表面的な良好な見通しの経済に対して貸し付けられる。それはまるで難民のように、国境を越える資金となる。

資金流入は、それを正当化する見せかけのブームを生じる。不動産価格が上昇し、企業も家計も、将来に関する強気といくらでも利用できる信用によって自信過剰になる。成長率は高まり、すべてが良好に見える。何かが起きるまでは。しかし、あるとき、住宅価格と商品価格が下落し、資金は急激に流出するのだ。銀行は破たんし、政府は必死に価格を支える。

イングランド銀行の主任エコノミスト、Andy Haldaneは危機を3つの場面に分けた。第1幕は、2007-08年に英米で始まった。第2幕は、ユーロ圏諸国で起きた。ECBは極端に紙幣を増刷し、同時に、赤字諸国に緊縮を強いた。不公正ではあるが、うまくいった。

今、第3幕が始まっている。トルコ、ブラジル、マレーシア、中国など、新興市場経済に対して、グローバル・ファイナンスの洪水が押し寄せた。その不安定な経済が、商品価格の上昇と、それを引き起こした中国のブームに乗って成長した。融資は無限に増大するように見えた。

しかし、中国の銀行は事実上の破たん状態である。その融資のほとんどが返済されない。かつての高成長の幻影を続けるには、急激に融資を伸ばし続けるしかないが、それは不可能になった。本当の成長率は毛沢東時代を下回るだろう。成長の危機は、深刻な汚職をともなう共産党に対する正当性の危機になる。

新興市場から資金が一斉に引き上げ、過剰債務の企業と家計、信用膨張した銀行が残っているけれど、彼らを救済してくれるECBやアメリカ連銀は存在しない。しかし、こうした諸国が世界GDPの半分以上を占めている。

世界は画期的対応を求めている。グローバルな経済パワーのバランスを繁栄し、新興市場を救済できるような、より大きく、パワーのあるIMFが必要だ。グローバル・ファイナンスの監視、西側諸国の政府による、インフラ投資に集中した、大規模な財政刺激策、そしてマイナスの金利を実現する金融政策が必要だ。

しかしその見通しは、政治的にも、イデオロギー的にも、まったくない。


l  難民危機の政治学

FT October 11, 2015

Germany risks wasting the benefits offered by refugees

Wolfgang Munchau

移入民の増加は最低賃金の引き下げを促す圧力になる。難民の多くが非熟練で、当面は失業するだろう。一部が補助金を得た祝業訓練を受けるだけだ。非常に多くが最低賃金を得ている労働者に追加される。

その結果、ユーロ圏内では、実質賃金とインフレがドイツで高くなった、という良いニュースは消滅する。

政府に何ができるだろうか? 最低賃金で難民を雇用するように、企業に補助金を出すかもしれない。しかし、それでは補助金を得られないドイツの最低賃金労働者が締め出されてしまう。他の選択肢として、政府が大規模に出資して、インフラなどの公共工事を行い、難民を雇用するかもしれない。政府・民間部門で慢性的な低投資にあるドイツにとっては、これが十分に経済的な合理性を持つだろう。

しかし、それはイデオロギー的に受け入れられない。メルケルは、難民を受け入れても、ケインズ主義的な財政支出拡大論を受け入れたわけではないからだ。

こうして労働供給のショックは残り、長期的に、ドイツの賃金が減少する。

次に、そのユーロ圏への影響を考える。難民たちはドイツに向かっており、他のユーロ圏諸国には向かわない。それは単一通貨圏内の不均衡を強める効果がある。ドイツの競争力は改善し、実質的な切下げが始まるからだ。調整に苦しむ他のユーロ圏諸国にとって、最も望まない事態である。

明らかな解決策は存在する。ドイツは難民を一部吸収して、公共投資で雇用する。他の難民は割り当てシステムに合意してユーロ圏全体に分散する。こうすれば、難民の吸収は短期にも、長期にも、プラスである。

ユーロ圏の歴史は、彼らが明らかな解決策を拒む、ということを示している。残念だ。

Project Syndicate OCT 14, 2015

The Crisis Europe Needs

BARRY EICHENGREEN

ヨーロッパが難民危機を解決するというのは,国境にさらに多くの有刺鉄線を配置することではない.

シェンゲン協定を通じて,財,サービス,資本,人々の自由移動を実現し,ヨーロッパ規模で供給の連鎖や生産ラインを構築してきた.国境閉鎖や管理再導入は,生産性と競争力を高めることに対して大きなマイナスである.

EUの機関を強化して,移民・難民の管理や地域の受け入れを各国政府に支持しなければならない.それはEUが決めるべきで,各国政府ではない.政治統合が必要だ.ヨーロッパは,戦争や貧困によって破滅する地域を逃れる人々を助けるためにも,援助や外交,助言,軍事的な関与を通じて,その状況を改善するべきである.アフリカや中東の紛争を解決する外交と軍事が必要だ.

EU最大の国家であるドイツにこそ,その役割が求められる.しかしドイツは,その軍事的な侵略の歴史を顧みて,そうした役割を引き受けてこなかった.EU統合のプロジェクトとは,常に,ドイツのパワーをより大きなEU規模の外交に従って発揮させることであった.そうすることでドイツと他の諸国は互いに信頼できる.今がそのときである.


l  中国の金融危機

Project Syndicate OCT 9, 2015

China’s Monetary-Policy Choice

ZHANG JUN

中国指導部は成長モデルのリバランスを実行するために金融コストを引き上げたが、それは成長の減速を「新しい正常」と呼んで正当化している。

製造業は限界利潤を維持できない。地方政府は財政基盤を失い、中央銀行から緊縮を求められる。インフラ投資は歴史的な低水準になっている。不動産部門の成長も抑制されている。地方政府も企業の利払いに苦しみ、それらが悪循環となる。シャドーバンキングからの借り入れが増え、金利はさらに高まる。

今や、中国には金融緩和が必要だ。それは資本市場を拡大し、中小企業へのエクイティ・ファイナンスも提供する。

Project Syndicate OCT 12, 2015

China is Not Collapsing

ANATOLE KALETSKY

IMFの年次総会では,中国の経済減速が次の金融危機に向けた引き金になるのか? という議論が盛んにおこなわれた.しかし,中国が世界経済の最も弱いリンクである,という前提が間違っている.

夏の混乱期に中国は3つの要素を示した.景気減速,金融市場のパニック,間違った政策対応.それらが金融的なフィードバックによって強められることを,世界は2008-2009年に学んだ.しかし,中国でこのような悪循環が続いているのか?

事実はそれを支持していない.しかし,中国経済の悪化を信じているのが金融市場だ.これは,かつてGeorge Sorosの唱えた “reflexivity”という概念に当てはまる.金融市場は間違った期待を生み出し,その後,現実を期待に合わせて変化させる力を持つ.経済モデルはその逆の過程だけをモデル化し,教科書で教えている.

中国の経済は安定し,市場のパニックは去ったようだ.指導部は難しい多くの課題に直面しているが,政策対応は間違っていない.


l  戦略家プーチン対オバマ

FP OCTOBER 9, 2015

Who Is a Better Strategist: Obama or Putin?

BY STEPHEN M. WALT

オバマとプーチン、どちらが優れた大戦略家か?

ロシアが最近シリアで取った行動は、多くの人々が、クレムリンはまたホワイトハウスの裏をかき、出し抜いた、と思わせた。

どちらが優れた戦略家か? オバマはリアリズムのセンスを持ち、アメリカの利益が多くの場所で限定的なことを理解していた。アメリカが現地の結果を支配することには制約があり、特に、われわれの社会で、大きく異なる複雑な社会エンジニアリングにかかわる時には、それが重要である。国家建設はあまりにも困難であり、しかも、多くの場合、必要ないのだ。

しかし、オバマは外交のエスタブリッシュメントを指導する必要があったし、彼らは「グローバル・リーダーシップ」に執着した。また、いかなる「非行動」も許さない反対派に直面している。

他方、プーチンは、利用可能な資源に見合った自分の目標に対して、より仕事をした。ロシアのグローバルな地位がさらに低下するのを止めるために、彼は一連の行動を起こしたのだ。

つまり、引き分けであろう。本当の敗者は、ウクライナ、シリア、その他の多くの土地において、その住民たちである。


l  ノーベル経済学賞

FT October 12, 2015

Nobel Prize winner Angus Deaton shares 3 big ideas

Ferdinando Giugliano, Economics Correspondent

不平等 ・・・過度な不平等は社会や政治に悪影響を持つ。しかし、起業など、成功の結果として生じる不平等は望ましいものだ。85%の所得税で不平等を解消するのは支持できない。

開発援助 ・・・病院や子供に対する援助は非常に有益だ。しかし、過度の援助は意図しない結果をもたらす。汚職や、政治エリートと国民との対立である。それゆえ、1.援助をその国のGDPの半分以下にする、2.「グローバルな公共財」に投資する。アフリカへの援助は、アフリカだけでなく、たとえば、その病気を治す世界中の研究に援助する。

貧困の測定 ・・・貧困線にはあまり意味がない。1人当たりの所得より、教育や医療が重要だ。Amartya Senの思想に同意するが、その測定に関して注意するべきだ。

 Project Syndicate OCT 12, 2015

Weak States, Poor Countries

ANGUS DEATON

This commentary was originally published in September 2013.

ヨーロッパの人たちは,アメリカ人よりも,政府のことをプラスに感じている.アメリカ人は,普通,連邦政府や州政府,地方政府の政治家を嫌っている.それでもアメリカのいろいろなレベルで政府は税金を集めているし,国民が生活に必要とするサービスを提供している.

豊かな諸国の多くの市民と同様,アメリカ人も,法律や規制のシステム,公立学校,健康保険,高齢者への社会保障,道路,防衛,外交があるのは当然と思っている.国家は医薬品の開発にも多くの投資をしている.もちろん,すべてのサービスが,誰に対しても,適切に行われているとは言えない.しかし,人々は税金を支払い,その使い方に反対するときは,公に議論し,定期的に選挙して,その優先順位を変えさせる.

豊かな諸国ではこうしたことは言うまでもないことであり,効果的な政府が存在するけれど,世界のほとんどの人々にはそれが無い.

アフリカとアジアの多くの場所で,政府には税金を集めることも,サービスを提供することもできない.政府とそれに治められている人々との間には,豊かな国でも不完全だが,貧しい国にはしばしば何も契約が存在しない.インドのような,中所得の国でも,公立学校や公立病院には大規模な,罰する者のいない,(先生や医師の)欠席が目立つ.民間の医師は,手術も,点滴も,抗生物質も,何でも患者の望むものを与え,政府はそれを規制できない.多くが全くの無資格である.

発展途上諸国では,政府は当たり前のことをしないから,多くの子どもが死んでいる.政府の能力が足りず,規制も強制もできないから,ビジネスを続けるのは非常に難しい.民事裁判所も機能せず,革新的な企業もそのアイデアから利益を得られない.

国家の能力を欠くことが,世界中で,貧困の重要な原因の一つである.効果的な政府と活動的な市民がいなければ,成長のチャンスはほとんどない.しかも,残念ながら,豊かな諸国は問題を悪化させている.

海外援助として貧しい諸国に与えることで,その土地の政府はますます能力を低下させるのだ.主にアフリカで,援助が財政支出の半分にも及び,この問題が顕著に示されている.これらの政府は市民との契約を必要とせず,議会も,税金の徴収も必要としない.彼らが責任を負うのは,せいぜい,援助供与国・ドナーだが,ドナーも自国民の要請(貧しい人々を救う)に応えているだけで,貧困国の政府に与えることしかない.

直接に貧困層に援助を届けることができても,それは,その政府を効果的なものに変え,住民の現在と将来を豊かにすることにはならない.


l  中国はTPPに参加するべきか

 (China Daily) 2015-10-10

TPP not start of an 'economic Cold War'

By Chu Yin

中国はTPPに参加するべきか,激しい論争が起きている.それは中国国民の中に,中国の台頭と経済構造転換の将来についての不確実性があるからだ.

TPPは,中国の国際的影響力や,アジア太平洋における地域協力の促進にとって脅威である.しかし,そこには中国が利用できる良い面もある.

TPP合意には,中国の影響力に対抗することがその一部に含まれていた.しかし,これを「新しい経済冷戦」の始まりと考えるなら,それは不可能な企てだ.それは確かにアメリカのアジアにおける戦略的利益を表すが,なお,地域経済統合の枠組みでもある.それは中国の経済発展,地位向上の方向と一致する.

高い水準の包括的な自由貿易協定は,中国の遅れた部門にとって厳しい課題であるが,先進的な部門にとっての機会でもある.国有企業,労働基準,政府契約,などは,中国内の地域によって時間を要するが,地元産業にも前進とTPP基準を満たす可能性と余地はある.

TPPはまた,競争力のある中国企業が国際的企業に変身することを促す,大きなプラットフォームと機会を提供する.Lenovo Huaweiは,すでに世界各地で投資を行っている.

さらに,TPPは反中国の単純な発想で集まった集団ではない.20世紀の後半,イデオロギー的な対立が冷戦を生んだ.近年,米中関係は微妙なものもあるが,全体として両国関係は安定し,進歩的である.TPPを価値観の共有による同盟だという意見は,勝手な思い込みだ.

TPP内でも,Singapore, Malaysia, Vietnam, Chile and Mexicoは異なる政治システムの国である.TPP参加はアメリカから利益を得るが,彼らは利益を最大化するためにアメリカと中国を天秤にかけているのだ.重要なことに,参加12か国の中で8か国はすでに中国と自由貿易協定を結んでいる.New Zealand, Australia and Malaysiaと中国の関係は歴史上最も良好である.シンガポールと中国とは相互に最大の投資国である.

中国はもはや低賃金労働力による輸出国ではなく,国内需要に依拠した超大規模な市場に向けて前進する.その過程で生じるアブソープション効果は,TPPによって妨げられることがない.この過程においては,いかなるパワーも中国を封じ込めることができない.唯一,中国自身が冷戦型の閉鎖的思考に囚われることがなければ.

内外に自由貿易圏を築き,新シルクロード,改革と開放の深化を絶えず求めるなら,経済転換も,内外の課題も,中国は解決できる.


l  アメリカの覇権は失われた

FT October 12, 2015

A global test of American power

Gideon Rachman

世界人口の5%足らず,世界経済の22%の国が,いつまで世界の支配的な軍事・政治権力を握っていられるのか? この問題は,中東,東欧,太平洋で,急速に深刻さを増している.

冷戦が終結して以来,アメリカの圧倒的な軍事的優位が世界政治の中心的な事実であった.しかし,今,重要な3つの地域で,それが試されている.先週FTが伝えた3つの事件がそれを示す.1.シリアで軍事展開を強めたロシアに対して,アメリカが警告した.2.南シナ海で中国が主張する領海に,アメリカの戦艦が挑戦した.3.イギリスは,アメリカとドイツに協力して,バルト海諸国に軍を駐留させると合意した.

アメリカの軍事力こそが,世界中の境界線を保証している.「ボーダーレス・ワールド」といった流行りの話題に反して,領土の支配が,今でも世界政治の基本である.「世界秩序とは領土的な秩序である」と,イギリスの元外交官Sir Robert Cooperは述べた.ブルッキングス研究所のThomas Wrightは,同様に,国際政治の安定性は,「健全な地域の秩序,特に,ヨーロッパと東アジアにかかっている」と述べた.それは周辺から欠け始めている.

アメリカは外交の焦点を中東からアジアへ「リバランス」する,と言われていたが,中東からの退却がアジアにおけるアメリカの地位を掘り崩しつつある,と議論されるようになった.強いアメリカというイメージを回復するため,オバマ大統領は強力に反撃するべきだ,と求められている.しかしオバマは,なお,イラクトリビアでアメリカの軍事力行使が示した破壊的な効果を意識しており,ロシアや中国と軍事的に対抗するリスクにも正しく慎重さを維持している.

世界政治において何が「歴史を見直す修正主義」なのか,その論争が複雑さを加える.アメリカはロシアや中国の領土要求を世界秩序への挑戦とみなす.しかしロシア人は,アメリカの支援するシリアやウクライナで「体制転換」こそが世界秩序の土台を損なっている,と考える.北京やモスクワは,アメリカの支持する体制転換の犠牲者になるのを恐れている.またアメリカ人も,領土的な修正主義が世界に広まり,無政府的な,危険地帯が広がることを心配している.

こうした不安の混合が,地域紛争のレシピである.


l  技術革新と政治的関与

Project Syndicate OCT 13, 2015

Governments’ Self-Disruption Challenge

MOHAMED A. EL-ERIAN

西側の政府が直面している、今、最も難しい課題は、技術革新の構造転換力を実現可能にし、個人や企業の変化に導くことである。彼らが創造的破壊に対して開放的で、その手段や手続きだけでなく考え方も含めて、改造し、アップグレードするのを許容しなければならない。この課題を遅らせるほど、現在および将来の世代は多くの機会を失う。

世界中のますます多くの人々、産業部門、活動が、自己実現能力を高める技術革新の影響を受けている。都市輸送から、居住、娯楽、メディアまで、だれもがより広い活動にアクセスし、関与できる。金融や医薬品に関する伝統的な規制や壁も崩壊しつつある。

しかし、歴史的な構造転換は、政府が変化の力を解放しなければ十分に実現しないだろう。すなわち政府は、膨大なプラスの外部性を内部化し、マイナスの衝撃を最小化するのだ。残念ながら、多くの先進諸国ではこれが非常に難しい。その理由の一部は、金融危機と不況からの回復過程がうまくいっておらず、政府の信頼や機能が損なわれていることだ。

反体制の、既存政党ではない勢力や候補者が大西洋の両側で現れ、経済ガバナンスの最も基礎にまで混乱をもたらしている。

実際、西側の政治経済構造は、様々なやり方で、深刻かつ急激な変化を阻むように設定されている。一時的、反復的な変動が、基本的なシステムに不当な影響を及ぼさないようにしているのだ。しかし、現在のように、重大な構造的、長期的な変化が起きれば、先進諸国のこうした制度の在り方は、効果的な行動に対する深刻な障害になる。

政治献金やロビーの政治的影響力は、この課題をさらに難しくする。彼らは、システム全体の長期的な福祉を改善するために行動するより、ミクロな動機を追及し、その一部は伝統的な階層、しばしば、エスタブリッシュメントの富裕層がシステムを支配し続けるのを助ける。そうすることで彼らは、アップグレードや転換に特に重要な、小規模の、新興プレーヤーを阻止するのだ。

たとえ政府が構造転換を促す政策を実施しようとしても、技術科もたらすかつてない移動制と連携効果によって、国民国家の法的なパワーは浸食されている。真に効果的な対応は、破壊的な技術革新の利益を完全に発揮させることだが、それには多国間の協力・協調が欠かせない。ところが、構造転換それ自体が、既存の国際制度や構造の正当性に疑いを生じる。

こうしたことから、迅速かつ包括的な構造転換は明らかに難しい。西側政府にとって最善の選択は、漸進的な変化を追及すること、様々な手段を駆使して、その変化が時間を経て臨界点を越え、社会構造を転換するように導くことだ。たとえば、政府と民間とのパートナーシップ、政府の意思決定過程に外部の助言者を入れる、政策対応を高める諸機関の協力、国境を超える民間部門の連携を駆使した国際協力、など。

経済の機能変化とは、既存の集権的な勢力から、諸個人のパワーがかつてないほど高まることへ、相対的なパワーシフトをともなう。政府は、その自己破壊的な変化に対して社会が開放的であるよう、その利益を最大化しなければならない。


l  ドイツの覇権は終わった

Project Syndicate OCT 15, 2015

The End of German Hegemony

DANIEL GROS

ドイツの経済的な頂点は過ぎ去るだろう.ほぼ完全雇用でありながら生産性上昇率は非常に低い.労働力人口は減少している.ドイツの金融的な余力は,その輸出が資本財に偏り,中国とその関連の新興市場で投資ブームが終わるときに,失われる.難民危機では,ドイツが東欧・中欧諸国に受け入れを頼む立場になった.

ドイツの成長率はEUの平均を下回るだろう.その財政規律の要求は無視され,インフレが高まらないなら,ECBもより自由に金融緩和するだろう.それはEUへの支持を高めるかもしれない.しかし,ドイツの統合問題は残る.

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The Economist October 3rd 2015

Dominant and dangerous

Special Report: The sticky superpower

War in the Muslim world: Putin dares, Obama dithers

A slowdown among Asian economies: Running out of puff

Abenomics: Less of the same

(コメント) アメリカ経済は世界GDP23%,商品貿易の12%しか占めていない.しかし,それにもかかわらずドル圏は,(ドルと固定レートもしくは緊密に連動する金融政策を取る)中国などの諸国を含めて,世界GDP,世界人口の,ともにほぼ60%に達する.・・・それはドルの強さを示しているが,同時に崩壊の不安を掻き立てている.

西側世界とイスラム圏はどうか? ロシアの介入にはどういう意味があるか? アジア経済が減速し続けている?

アベノミクスが示す「新3本の矢」には,もちろん,厳しい見方が示されています.600兆円のGDPを唱えたのは,政府債務の対GDP比を隠すため,そして,シリア難民を受け入れない政府の姿勢は人口減少にも無策である.

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IPEの想像力 10/19/15

国際通貨制度IMSの改革について,私は考えてきました.それは,為替レートの変更に関する判断であったり,国際通貨の供給に関する問題であったり,通貨危機や金融危機の構造的な原因と政治の関係,国際規制の可能性であったりしました.

私にとって,IMSのイメージはブレトンウッズ協定が示した基軸通貨制度です.

The Economist Special Report (The sticky superpower) は,アメリカの働きを,ケインズが国際金本位制下のイングランド銀行をたとえた「オーケストラの指揮者」ではなく,アナーキーで超国家的な集団の中で支配的地位にある「ラッパー」,と呼んでいます.

19世紀の金本位制と比べて,現代の国際通貨・金融システムが苦しんでいる問題は,記事によれば,3つあります.1.諸国家間の不均衡を集団行動によって調整すること.2.グローバルな資本移動の規模が膨張し続けていること.3.国際通貨としてのドルとその発行国であるアメリカの役割が乖離していること.

IMSの根本問題とは,調整,融資,信認,と言われます.国際収支(ふつうは経常収支の)不均衡をどのように調整するか,さらに言えば,国家を超えた円滑な調整過程について,どのような政策の採用を諸国間で合意できるか,が重要です.もしこれが確立されているなら,不均衡の融資を抑えられるし,突然のショックに対しても潤沢な流動性(国際通貨)を供給できるでしょう.逆に,調整過程に関する合意がなければ,国際通貨は過剰に(あるいは過少に)供給され,その通貨の価値やシステムへの信認を損なうのです.

記事は,アメリカの世界経済に占める比重が低下し続ける中で,ドル(もしくはドル圏)の地位が高いままであることを,構造的に不安定性が蓄積されている,と考えます.

こうしたドルを管理するはずのアメリカ政治には,パラノイド型の内紛が頻発し,不安がいっぱいです.1.党派的な争いによって政治が機能しない.民主・共和両党で,経済外交に関する不満が高まっている.2.中産階級や労働者がグローバリゼーションを支持しない.所得分配は不平等化し,雇用が失しなわれている.アメリカの影響力が低下する中,中国を信用できるパートナーとはみなせない.3.金融危機とその処理過程において,ウォール街は国民の怒りをかった.かつて財務長官を輩出したゴールドマンサックスやシティグループは,政府の力を補完できない.むしろ彼らを攻撃する「ポピュリスト」が政治を動かす.

では,IMSはどうなるのか?

記事は,中国が新しいIMSを築くことに懐疑的です.中国の支配層が何より優先するのは,国内の政治的安定性だからです.ロンドンを利用して人民元のオフショア取引を広めるとしても,中国は資本自由化(人民元によるIMS)に慎重です.

つまり将来に見るのは,バラバラな諸制度の併存,混住システムです.すでに変動レート制が,そもそもそうなのです.混住と難民(内戦?)の時代は予想外に長期化し,もし理想的なシナリオを描くなら,アメリカや中国などが改革を競争するはずです.

私は未来を,戦争と帝国の時代になる,という予想を裏切って,国際協調の時代,と呼びたいです.その条件を模索するには,今,ここで,あなたの国が始めるしかありません.

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