IPEの果樹園2015

今週のReview

10/19-24

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グローバルな金融システム ・・・長期停滞ではない ・・・難民危機の政治学 ・・・中国の金融危機 ・・・戦略家プーチン対オバマ ・・・ノーベル経済学賞 ・・・中国はTPPに参加するべきか ・・・アメリカの覇権は失われた ・・・技術革新と政治的関与 ・・・ドイツの覇権は終わった

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  グローバルな金融システム

FT October 9, 2015

Fed rate mystery keeps strong dollar fears alive

Robin Wigglesworth

金融引き締めとドル高によって苦しむのは、ますます海外市場に依存するアメリカの主要企業だろうか、あるいは、発展途上諸国か? ほとんどの国はドルとの固定レートを採用していないが、新興諸国の経済は外国からの借り入れやドルの変動に依存している。

FT October 9, 2015

The global economy flashes warning signs

The Guardian, Sunday 11 October 2015

The world economic order is collapsing and this time there seems no way out

Will Hutton

70年間、ヨーロッパではこうした光景を見なかった。秩序が崩壊するのを明確に示す光景だ。無数の難民たちが、中東の戦争と野蛮から逃れて、絶え間なく流れてくる。

しかし、経済秩序の崩壊が同時に起きている。それほど目立たないが、無数のドル資金が、ブラジル、中国、新興市場から逃げ出している。また銀行が、再融資のコストを無残なほど引き上げて、数兆ドルの資金を貸さなくなった。難民とは違う意味で、資本逃避と銀行の脆弱性はグローバル経済の深刻な機能不全を示すものだ。

先週、3兆ドルの信用膨張と世界経済の成長減速に、IMFは深い懸念を示した。その対策には国際協調が必要であるとわかっているが、それが実現する見込みはない。英米の保守政治をリバタリアンと反国家主義の思想が握っているからだ。中東の解決策も打ち出せない。秩序はいたるところで崩壊しているのに、それを救出できる力は、政治的に弱く、知的に無視されている。

経済の無秩序の核心には世界金融システムがある。グローバルな規模の銀行が、相互に莫大な規模で、ビジネスを行っている。その結果、銀行の信用創造力は全く新しい水準に達した。信用創造は昔からあり、預金者が同時に引き出すことはできない。中央銀行が注意深く規制しなければならない。

しかし、グローバルな銀行システムが登場し、中央銀行の監視と監督は弱まった。資本移動を規制する国も減って、コストを要しない資金が表面的な良好な見通しの経済に対して貸し付けられる。それはまるで難民のように、国境を越える資金となる。

資金流入は、それを正当化する見せかけのブームを生じる。不動産価格が上昇し、企業も家計も、将来に関する強気といくらでも利用できる信用によって自信過剰になる。成長率は高まり、すべてが良好に見える。何かが起きるまでは。しかし、あるとき、住宅価格と商品価格が下落し、資金は急激に流出するのだ。銀行は破たんし、政府は必死に価格を支える。

イングランド銀行の主任エコノミスト、Andy Haldaneは危機を3つの場面に分けた。第1幕は、2007-08年に英米で始まった。第2幕は、ユーロ圏諸国で起きた。ECBは極端に紙幣を増刷し、同時に、赤字諸国に緊縮を強いた。不公正ではあるが、うまくいった。

今、第3幕が始まっている。トルコ、ブラジル、マレーシア、中国など、新興市場経済に対して、グローバル・ファイナンスの洪水が押し寄せた。その不安定な経済が、商品価格の上昇と、それを引き起こした中国のブームに乗って成長した。融資は無限に増大するように見えた。

しかし、中国の銀行は事実上の破たん状態である。その融資のほとんどが返済されない。かつての高成長の幻影を続けるには、急激に融資を伸ばし続けるしかないが、それは不可能になった。本当の成長率は毛沢東時代を下回るだろう。成長の危機は、深刻な汚職をともなう共産党に対する正当性の危機になる。

新興市場から資金が一斉に引き上げ、過剰債務の企業と家計、信用膨張した銀行が残っているけれど、彼らを救済してくれるECBやアメリカ連銀は存在しない。しかし、こうした諸国が世界GDPの半分以上を占めている。

世界は画期的対応を求めている。グローバルな経済パワーのバランスを繁栄し、新興市場を救済できるような、より大きく、パワーのあるIMFが必要だ。グローバル・ファイナンスの監視、西側諸国の政府による、インフラ投資に集中した、大規模な財政刺激策、そしてマイナスの金利を実現する金融政策が必要だ。

しかしその見通しは、政治的にも、イデオロギー的にも、まったくない。


l  長期停滞ではない

FT October 9, 2015

World’s economic slowdown is a hangover not a coma

Kenneth Rogoff

世界の需要が乏しく、景気回復が遅いことは、長期停滞に入ったことを意味するのか? 他の解釈も可能だ。それは「債務のスーパーサイクル」である。規制緩和と金融取引の過剰が数年続いた後で、その処理負担が数年続くのだ。

長期停滞を予想したアルヴィン・ハンセンは、その後の生産性上昇を予想していなかった。1970年代後半も、スタグフレーションと長期停滞が永続化すると多くのエコノミストは予想した。

インフラの改善に大規模な投資をすることは、良い考えだろうが、それが永久に支出を増やすとはいえない。逆に、もし長期停滞論が間違っているとしたら、大規模な政府支出が、避けようとした投資の減退を招くことになる。

現実には、債務のスーパーサイクルは終わりに近づいている。

グローバルな長期金利が異常に低い理由は、需要の慢性的な不足を意味する、という。しかし、ここでも異なる解釈がある。

金融危機の後、規制が強化され、銀行などの金融機関は政府債券を保有しなければならなくなった。同時に、中央銀行は政府債券を大量に購入して金融緩和を行ったのだ。債券価格は上昇し、金利が低下した。

多くのエコノミストたちが、この超低金利を利用してインフラや教育に投資をするように求めている。ただし、政府が市場より良い投資を選択できれば、という点が重要だ。


l  難民危機の政治学

FT October 9, 2015

Tough talk on immigration makes little economic sense

Martin Sandbu

保守党大会で、Theresa May内務大臣は反移民の姿勢を明確にした。彼女の上げた理由は2つだ。まず、移民は社会の結束を破壊する。

そうだろうか? 多くの移民が住むコミュニティーの方が、移民が少ないコミュニティーよりも受け入れに寛容である。

次に、彼女は、移民は経済を破壊する、という。大規模移民の経済的、そして、財政的な効果はゼロである、と。

どれくらいの移民流入を大規模というのか? イギリスは富裕諸国の平均を下回っている。移民の多い英語圏に比べた場合、はるかに少ない。彼女は移民の影響を受けやすい、未熟練の、最貧困層の利益を代弁する、というのか?

SPIEGEL ONLINE 10/09/2015

Merkel Under Fire

German Conservatives Deeply Split over Refugees

FT October 11, 2015

Germany risks wasting the benefits offered by refugees

Wolfgang Munchau

ドイツが移入民への対応に苦しんでいる。政府はその数を把握できていない。ドイツの論争の関心は、その政治的な結末、特に、アンゲラ・メルケルが開放政策を維持できるか、に集まっている。それは難民の経済的な影響が決めるだろう。

ドイツ首相が難民を受け入れると決めたのは、人口減少の緩和を一つの理由としたはずだ。重要なことは、人口の規模ではなく、労働人口が維持する高齢者の数である。移民流入がそれを抑えることは正しいだろう。

しかし、新しい問題が生じる。時給8.50ユーロのドイツ最低賃金が維持できないとなれば、政治問題になる。それは難民危機の前から高すぎた。

移入民の増加は最低賃金の引き下げを促す圧力になる。難民の多くが非熟練で、当面は失業するだろう。一部が補助金を得た祝業訓練を受けるだけだ。非常に多くが最低賃金を得ている労働者に追加される。

その結果、ユーロ圏内では、実質賃金とインフレがドイツで高くなった、という良いニュースは消滅する。

政府に何ができるだろうか? 最低賃金で難民を雇用するように、企業に補助金を出すかもしれない。しかし、それでは補助金を得られないドイツの最低賃金労働者が締め出されてしまう。他の選択肢として、政府が大規模に出資して、インフラなどの公共工事を行い、難民を雇用するかもしれない。政府・民間部門で慢性的な低投資にあるドイツにとっては、これが十分に経済的な合理性を持つだろう。

しかし、それはイデオロギー的に受け入れられない。メルケルは、難民を受け入れても、ケインズ主義的な財政支出拡大論を受け入れたわけではないからだ。

こうして労働供給のショックは残り、長期的に、ドイツの賃金が減少する。

次に、そのユーロ圏への影響を考える。難民たちはドイツに向かっており、他のユーロ圏諸国には向かわない。それは単一通貨圏内の不均衡を強める効果がある。ドイツの競争力は改善し、実質的な切下げが始まるからだ。調整に苦しむ他のユーロ圏諸国にとって、最も望まない事態である。

明らかな解決策は存在する。ドイツは難民を一部吸収して、公共投資で雇用する。他の難民は割り当てシステムに合意してユーロ圏全体に分散する。こうすれば、難民の吸収は短期にも、長期にも、プラスである。

ユーロ圏の歴史は、彼らが明らかな解決策を拒む、ということを示している。残念だ。

FP OCTOBER 13, 2015

South Africa’s Tough Lessons on Migrant Policy

BY ELIZABETH IAMS WELLMAN, LOREN B. LANDAU

Project Syndicate OCT 14, 2015

The Crisis Europe Needs

BARRY EICHENGREEN

ヨーロッパが難民危機を解決するというのは,国境にさらに多くの有刺鉄線を配置することではない.

シェンゲン協定を通じて,財,サービス,資本,人々の自由移動を実現し,ヨーロッパ規模で供給の連鎖や生産ラインを構築してきた.国境閉鎖や管理再導入は,生産性と競争力を高めることに対して大きなマイナスである.

EUの機関を強化して,移民・難民の管理や地域の受け入れを各国政府に支持しなければならない.それはEUが決めるべきで,各国政府ではない.政治統合が必要だ.ヨーロッパは,戦争や貧困によって破滅する地域を逃れる人々を助けるためにも,援助や外交,助言,軍事的な関与を通じて,その状況を改善するべきである.アフリカや中東の紛争を解決する外交と軍事が必要だ.

EU最大の国家であるドイツにこそ,その役割が求められる.しかしドイツは,その軍事的な侵略の歴史を顧みて,そうした役割を引き受けてこなかった.EU統合のプロジェクトとは,常に,ドイツのパワーをより大きなEU規模の外交に従って発揮させることであった.そうすることでドイツと他の諸国は互いに信頼できる.今がそのときである.

NYT OCT. 14, 2015

Europe’s Threat From Within

By ROBERT ZARETSKY

SPIEGEL ONLINE 10/14/2015

Germany's Refugee Challenge

'It's Mostly the Politicians Who Have Been Overwhelmed'

The Guardian, Thursday 15 October 2015

The Guardian view on Sweden and immigration: breaking point

Editorial

スウェーデンの民主主義は、有権者の意見対立を生じないように、うまく機能してきた。しかし、前回の総選挙でナショナリストのスウェーデン民主党が政権を得て以来、政治は深刻な対立を生じている。

スウェーデン民主党は全くの政治的反動であり、自分たちの国と世界を1980年代に戻すこと、すなわち、グローバリゼーションが社会民主主義国家を押し流し、肌の黒い何万もの外国人で満たした前に戻ることを求めている。その政策は混乱しているが、政治的要求は1つである。すなわち、大幅に、かつ永久に、難民の流入を削減することだ。

他の諸政党はスウェーデン民主党を固く無視し、彼らが消滅するのを待った。しかし、昨年12月に、少数の左派と連携して、スウェーデン民主党が予算案の通過を阻止した。政府は根本的な対応を求められた。

FT October 15, 2015

Angela Merkel’s growing agony over Europe’s refugees


l  中国の金融危機

Project Syndicate OCT 9, 2015

The Hidden Debt Burden of Emerging Markets

CARMEN REINHART

新興市場の資本流出には隠された債務のリスクが存在する。1994-95年のメキシコ・ペソ危機でも、1997年のアジア金融危機でも、2010年のギリシャでも、市場は深刻な危機を予測していなかった。

現在、新興市場諸国にどれほどの隠された債務があるのか、それはわかっていない。特に、この10年間、中国と他の新興市場諸国との金融取引は不透明である。中国は多くの巨大プロジェクトに融資してきた。しかし、BISも世界銀行も、それを把握していない。

Project Syndicate OCT 9, 2015

China’s Monetary-Policy Choice

ZHANG JUN

中国指導部は成長モデルのリバランスを実行するために金融コストを引き上げたが、それは成長の減速を「新しい正常」と呼んで正当化している。

製造業は限界利潤を維持できない。地方政府は財政基盤を失い、中央銀行から緊縮を求められる。インフラ投資は歴史的な低水準になっている。不動産部門の成長も抑制されている。地方政府も企業の利払いに苦しみ、それらが悪循環となる。シャドーバンキングからの借り入れが増え、金利はさらに高まる。

今や、中国には金融緩和が必要だ。それは資本市場を拡大し、中小企業へのエクイティ・ファイナンスも提供する。

Project Syndicate OCT 12, 2015

China is Not Collapsing

ANATOLE KALETSKY

IMFの年次総会では,中国の経済減速が次の金融危機に向けた引き金になるのか? という議論が盛んにおこなわれた.しかし,中国が世界経済の最も弱いリンクである,という前提が間違っている.

夏の混乱期に中国は3つの要素を示した.景気減速,金融市場のパニック,間違った政策対応.それらが金融的なフィードバックによって強められることを,世界は2008-2009年に学んだ.しかし,中国でこのような悪循環が続いているのか?

事実はそれを支持していない.しかし,中国経済の悪化を信じているのが金融市場だ.これは,かつてGeorge Sorosの唱えた “reflexivity”という概念に当てはまる.金融市場は間違った期待を生み出し,その後,現実を期待に合わせて変化させる力を持つ.経済モデルはその逆の過程だけをモデル化し,教科書で教えている.

中国の経済は安定し,市場のパニックは去ったようだ.指導部は難しい多くの課題に直面しているが,政策対応は間違っていない.

FT October 13, 2015

Solid growth is harder than blowing bubbles

Martin Wolf

アメリカだけでなく,中国でもバブルによる回復に頼るのか?

FP OCTOBER 15, 2015f

Froth and Frenzy in China’s Start-Up Scene

BY BEN YUNMO WANG


l  ヒラリー・クリントン

NYT OCT. 9, 2015

Hillary Clinton’s Opportunist Solution!

David Brooks

拡大する所得格差の時代に、候補者たちは過激な政策を掲げてしじをえようとする。しかし、選挙で勝つためには、中道的な政策を支持しなければならない。

ヒラリー・クリントンは主要な政策の立場を転換することでこれを実現しようとしてきた。

Bloomberg OCT 13, 2015

Listen to Clinton's Promises in the Debate

By Jonathan Bernstein

NYT OCT. 14, 2015

Queen Hillary Came to Play

Charles M. Blow

FP OCTOBER 14, 2015

Did Hillary Clinton Rise Above the Rest in the First Democratic Debate?

BY KORI SCHAKE

Bloomberg OCT 14, 2015

Clinton Wants Obama to Confront Putin in Syria

By Josh Rogin

Bloomberg OCT 14, 2015

The Hillary and Bernie Show

By Margaret Carlson

Bloomberg OCT 14, 2015

Clinton Won the Debate, Not New Hampshire

By Jonathan Bernstein


l  戦略家プーチン対オバマ

FP OCTOBER 9, 2015

Who Is a Better Strategist: Obama or Putin?

BY STEPHEN M. WALT

オバマとプーチン、どちらが優れた大戦略家か?

ロシアが最近シリアで取った行動は、多くの人々が、クレムリンはまたホワイトハウスの裏をかき、出し抜いた、と思わせた。

これは正しいか? それに答えるため。私は各国を、7年程度はさかのぼって、広い視点で評価すべきだと思う。プーチンはしばらく好調だった。石油や商品価格が上昇した2012年は、ロシアが急速に成長し、WTOに加盟して、ワシントンとモスクワの悪化した関係を、ある程度は情の通うものにリセットした。しかし、その後のプーチンの成果は損なわれた。ロシア経済は、現在、深刻な不況にある。2014年のロシア経済はGDP2兆ドルを切っており、アメリカ経済が過去6年間で拡大した大きさにも劣る。アメリカ経済はもっと多様で回復する力がある。

同様に重要なことは、アメリカが過去7年間に重要な同盟国を失ったことはなく、多くの国(インド、ベトナムなど)との関係を改善したことだ。ロシアと中国の関係はある程度の協力を深めているが緊密な同盟とはとても言えない。他方で、ウクライナ危機はヨーロッパとの関係を深く損ない、G8から排除されてしまった。アメリカはアジアのパートナー諸国と大規模な通商協定を締結したが、プーチンの唱える「ユーラシア経済同盟」は成立していない。プーチンがシリアのアサド体制を守るよう迫られたのは、ロシアが中東でそれほど弱い基盤しかないことを示すものだ。

しかし、プーチンがその弱い地位で、オバマの強い地位に対抗して、うまく行動してきた、という印象は避けられない。その印象は、オバマの外交政策における大失敗と、そうした挫折した計画から容易に撤退できないことから生じている。オバマはアフガニスタンからもっと早く撤退するべきだったし、リビアの体制転換にはかかわるべきでなかったのだ。対照的に、プーチンはもっと積極的な役割を示した。1995年や、2000年でさえ、ロシアの地位は最低で、何をしても評価された。

プーチンが行ったことで優れた点が一つある。それはロシアが達成可能な単純な目標を、そのほどほどの強さを生かして追求したことだ。ウクライナはEUに接近して加盟後、NATOにも加盟しようとしただろう。プーチンはウクライナをロシアの同盟国に戻すことには関心がなく、それを阻止するため、「紛争の凍結」状態を作り出すことに成功した。この否定的な目的が達成困難なものでなかったのは、ウクライナが腐敗し、分裂した、ロシアに隣接する国家であったからだ。シリアでの目標も、同様に、単純で、現実的な、その限界ある手段に見合うものだった。

これに対して、どちらに紛争についても、アメリカの目標は希望的な発想と戦略的な矛盾を示していた。ある意味で、ネオコントリベラルな国際介入主義者たちは、ロシアのリアリスト的な行動に虚を突かれたのだ。西側の目標、例えば、機能する民主的なウクライナ国家の建設は、可能ではあるが、その最初からあまりにも大きな課題であった。

どちらが優れた戦略家か? オバマはリアリズムのセンスを持ち、アメリカの利益が多くの場所で限定的なことを理解していた。アメリカが現地の結果を支配することには制約があり、特に、われわれの社会で、大きく異なる複雑な社会エンジニアリングにかかわる時には、それが重要である。国家建設はあまりにも困難であり、しかも、多くの場合、必要ないのだ。

しかし、オバマは外交のエスタブリッシュメントを指導する必要があったし、彼らは「グローバル・リーダーシップ」に執着した。また、いかなる「非行動」も許さない反対派に直面している。

他方、プーチンは、利用可能な資源に見合った自分の目標に対して、より仕事をした。ロシアのグローバルな地位がさらに低下するのを止めるために、彼は一連の行動を起こしたのだ。

つまり、引き分けであろう。本当の敗者は、ウクライナ、シリア、その他の多くの土地において、その住民たちである。

FP OCTOBER 9, 2015

Snap Poll: Will China, Iran, and Russia Cooperate With the United States?

BY DANIEL MALINIAK, SUSAN PETERSON, RYAN POWERS, MICHAEL J. TIERNEYO

FP OCTOBER 9, 2015

The Paradox of Power in the Network Age

BY DAVID ROTHKOPF

Project Syndicate OCT 12, 2015

Which Way for US Foreign Policy?

JOSEPH S. NYE

オバマ大統領が国連総会で演説したとき,イスラム国家への対抗策として,あまりにも外交を強調し,軍事力の行使を十分に議論しなかった,という不満が多く聞かれた.シリア内戦い軍事介入したプーチン大統領と比べて,アメリカの大統領選挙運動が激しくなることで,共和党の候補者たちにはオバマを孤立主義だと非難する者もいる.

コロンビア大学のStephen Sestanovichが呼んだように,これは,アメリカ外交に見られる,「最高水準の目標追求」と「目標の縮小」との間の振幅であろう.

目標の縮小は,孤立主義ではない.最高水準の目標を追求してあまりにも深くコミットした後で,世界におけるアメリカの役割をこれ以上損なうことがないよう,過去の大統領たちも行ったことである.孤立主義かどうかではなく,3つの問題に答えるべきだ.

1.アメリカは外交と軍事にどれくらいの税金を使うのか? 問題はガン(軍備)とバター(消費)の選択ではなく,ガンとバターと増税との選択である.教育やインフラ,研究・開発への投資を削減することと,防衛予算との,ゼロサム状況を問われている.

2.アメリカは他国の内政問題に,どこまで,どのように関与するのか? 独裁者が大規模な虐殺をしている時,アメリカはその良心に従い行動する.しかし,単独で軍事力を行使すべきでないし,成功の見込みがなければ行使しない.

3.アメリカは,国家を超えた問題に対処するため,制度やネットワーク,政策をどのように強化できるのか? 上院は,国連海洋法に反対し,下院はIMF改革案を通過させることができず,議会は太祖排出量の上限を設定することに強く反対している.

こうした論争は,まだ始まってもいない.

NYT OCT. 12, 2015

Obama’s Doctrine of Restraint

Roger Cohen

FT October 14, 2015

Putin vs Obama: the battle for best ally

Roula Khalaf

FP OCTOBER 14, 2015

America’s Problem With World Leaderishness

BY ROSA BROOKS

選挙戦で外交政策に関する論争をどうすれば改善できるか?

Project Syndicate OCT 15, 2015

Testing Putin in Syria

RICHARD N. HAASS


l  ノーベル経済学賞

FP OCTOBER 9, 2015

Who’s Going to Win the Nobel Prize in Economics?

BY DANIEL ALTMAN

この月曜日に発表されるノーベル経済学賞は、だれのものか?

Ben Bernanke。彼はすでにアメリカ連銀を退いたが、世界大恐慌が再現するのを防いだ点でだれよりも大きな貢献をした。すでに10年前に早見融が量的緩和を行ったが、Bernankeは以前の金融緩和と注意深く区別した。そして、世界各地で経済停滞に対抗する新しい金融政策を政策担当者たちに与えたのだ。

Anthony Atkinson。所得と資産の不平等に関して、ピケッティがベストセラーを書く前から、Atkinsonはこの問題を研究していた。

Martin Weitzman, William Nordhaus, and Nicholas Stern。気候変動と環境問題に関して、エコノミストたちは多くの関心を向けるようになった。

Paul Romer。技術革新を成長モデルから切り離していた時代に、彼は投資が技術革新に影響する成長モデルを開発した。最近は、チャーター・シティを実現することに奔走している。

Elinor Ostrom、ノーベル経済学賞は男性ばかりであった。彼女は、初めての女性受賞者になった。今年はどうか?

The Guardian, Sunday 11 October 2015

Don’t let the Nobel prize fool you. Economics is not a science

Joris Luyendijk

Bloomberg OCT 11, 2015

The Trouble With Economics

By Clive Crook

Dani Rodrikの新著 "Economics Rules"は面白い。経済学は科学ではない。政策の答えはすべて状況によって変わるからだ。経済学は1つのモデルではなく、多くのモデルを必要とする。それは社会の柔軟性を示すものだ。

政策を決めるのは大まかな経験則でしかない。状況がすべてである。しかし、インセンティブは重要だ、というのは陳腐な一般化ではない。Rodrikは、正しく機能する市場と合理的な主体を前提する経済学に、それは1つの理論でしかない、という。しかし、それは有益であり、インセンティブと意図しない結果に関して学ぶことができる。

経済学の問題とは、政策決定者が自分の好むモデルを押し付けることでも、最善のモデルについて合意できないことでもない。それは科学の中で常にある。問題は、エコノミストたちが特定の価値でモデルを選択するのに、そうではないふりをする、あるいは、そう信じていることだ。

研究室ではなく、一般人の政策論争において、エコノミストの言うことを人々は科学だと思ってしまう。それが間違いだ。

FT October 12, 2015

Nobel Prize winner Angus Deaton shares 3 big ideas

Ferdinando Giugliano, Economics Correspondent

Angus Deaton, 69歳は, Princeton Universityで、health, well being, and economic developmentを研究している。消費に関する彼の研究は、グローバルな不平等から援助政策にまで及び、政策決定や学術研究に影響を与えた。

不平等 ・・・過度な不平等は社会や政治に悪影響を持つ。しかし、起業など、成功の結果として生じる不平等は望ましいものだ。85%の所得税で不平等を解消するのは支持できない。

開発援助 ・・・病院や子供に対する援助は非常に有益だ。しかし、過度の援助は意図しない結果をもたらす。汚職や、政治エリートと国民との対立である。それゆえ、1.援助をその国のGDPの半分以下にする、2.「グローバルな公共財」に投資する。アフリカへの援助は、アフリカだけでなく、たとえば、その病気を治す世界中の研究に援助する。

貧困の測定 ・・・貧困線にはあまり意味がない。1人当たりの所得より、教育や医療が重要だ。Amartya Senの思想に同意するが、その測定に関して注意するべきだ。

 Project Syndicate OCT 12, 2015

Weak States, Poor Countries

ANGUS DEATON

This commentary was originally published in September 2013.

ヨーロッパの人たちは,アメリカ人よりも,政府のことをプラスに感じている.アメリカ人は,普通,連邦政府や州政府,地方政府の政治家を嫌っている.それでもアメリカのいろいろなレベルで政府は税金を集めているし,国民が生活に必要とするサービスを提供している.

豊かな諸国の多くの市民と同様,アメリカ人も,法律や規制のシステム,公立学校,健康保険,高齢者への社会保障,道路,防衛,外交があるのは当然と思っている.国家は医薬品の開発にも多くの投資をしている.もちろん,すべてのサービスが,誰に対しても,適切に行われているとは言えない.しかし,人々は税金を支払い,その使い方に反対するときは,公に議論し,定期的に選挙して,その優先順位を変えさせる.

豊かな諸国ではこうしたことは言うまでもないことであり,効果的な政府が存在するけれど,世界のほとんどの人々にはそれが無い.

アフリカとアジアの多くの場所で,政府には税金を集めることも,サービスを提供することもできない.政府とそれに治められている人々との間には,豊かな国でも不完全だが,貧しい国にはしばしば何も契約が存在しない.インドのような,中所得の国でも,公立学校や公立病院には大規模な,罰する者のいない,(先生や医師の)欠席が目立つ.民間の医師は,手術も,点滴も,抗生物質も,何でも患者の望むものを与え,政府はそれを規制できない.多くが全くの無資格である.

発展途上諸国では,政府は当たり前のことをしないから,多くの子どもが死んでいる.政府の能力が足りず,規制も強制もできないから,ビジネスを続けるのは非常に難しい.民事裁判所も機能せず,革新的な企業もそのアイデアから利益を得られない.

国家の能力を欠くことが,世界中で,貧困の重要な原因の一つである.効果的な政府と活動的な市民がいなければ,成長のチャンスはほとんどない.しかも,残念ながら,豊かな諸国は問題を悪化させている.

海外援助として貧しい諸国に与えることで,その土地の政府はますます能力を低下させるのだ.主にアフリカで,援助が財政支出の半分にも及び,この問題が顕著に示されている.これらの政府は市民との契約を必要とせず,議会も,税金の徴収も必要としない.彼らが責任を負うのは,せいぜい,援助供与国・ドナーだが,ドナーも自国民の要請(貧しい人々を救う)に応えているだけで,貧困国の政府に与えることしかない.

直接に貧困層に援助を届けることができても,それは,その政府を効果的なものに変え,住民の現在と将来を豊かにすることにはならない.

NYT OCTOBER 12, 2015

What Angus Deaton, the Latest Nobel Winner, Says About Foreign Aid

By VIKAS BAJAJ

NYT OCT. 12, 2015

Why Angus Deaton Deserved the Economics Nobel Prize

Justin Wolfers

FP OCTOBER 12, 2015

Why Angus Deaton Deserved the Nobel Prize in Economics

BY CHRISTOPHER BLATTMAN

Bloomberg OCT 12, 2015

Angus Deaton Richly Deserves His Nobel

By Editorial Board

Bloomberg OCT 12, 2015

Nobel Economist Showed We're Helping the Wrong People

By Cass R. Sunstein

Bloomberg OCT 12, 2015

A Nobel for a Real-World Economist

By Noah Smith

Bloomberg OCT 14, 2015

Three Economists Worthy of a Nobel

By Noah Smith


後半へ続く)