IPEの果樹園2015
今週のReview
10/12-17
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ドイツ再統一から25年 ・・・TPPの大筋合意 ・・・プーチンのシリア介入 ・・・ヒューマン・クラウド ・・・新興アジアのデフレ ・・・スウェーデンとカナダの移民政策 ・・・量的緩和とデフレ対策
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l ドイツ再統一から25年
FT October
2, 2015
Wishing
happy birthday to a united Germany
かつてGiulio
Andreotti、Margaret
Thatcherなど、ヨーロッパの政治家はドイツ人を恐れた。今、よほどの変人を除いて、皆がドイツの再統一を祝福する。
東ドイツ市民は、かつてない民主的な権利、市民の自由、そして高い生活水準を享受している。近代ヨーロッパで初めて、ドイツは軍事的脅威でなくなった。むしろ、民主主義の見本、厳格な連邦制、平和的な国際秩序への関与を示している。オーストリア、フランス、スウェーデンと違い、右翼のポピュリストたちはいない。ホロコーストから70年で、ユダヤ人コミュニティーが最も急速に増大する国になった、と自慢する。
ドイツはグローバリゼーションを受け入れ、社会の多様化を歓迎する。イスラムをドイツの一部と宣言し、シリアやアフガニスタンなどからの難民たちを歓迎している。しかし、その反面、難民の救援センターに対する攻撃が増えた。
ドイツの平和主義は、その経済力に比べて安全保障問題に関する負担を抑え、パートナーたちの期待を裏切っている。ユーロ危機に対する反応は不十分で、その財政規律や輸出による成長モデルは、ユーロ圏諸国の対立と不安定性をもたらしている。
しかし、ドイツの指導力に関する他国の不満は、パートナーたちが責任を果たさない言いわけでもある。いろいろな問題を考えながら、ヨーロッパはドイツ再統一を祝福する。
NYT OCT.
6, 2015
The Case
for Euro-Optimism
By ULRICH SPECK
EU悲観論が広まっている。しかし、さまざまな危機は同盟を強化する。ギリシャ危機、ウクライナ危機、難民危機がそうだ。
それらの対応は、おおむねドイツによって協力が促されたが、いずれも印象深い。メルケル首相は、ドイツの内外に、非公式なガバナンスのシステムを構築したのだ。
国内では社会民主党との同盟。西ヨーロッパでの支持を得るには、フランス大統領、オランドFrançois
Hollandeとの協力。欧州理事会の委員長には中欧の利害を代表するタスクDonald
Tusk、欧州委員会委員長には、ブラッセルの官僚機構をよく知るユンカーJean-Claude
Juncker,がいる。オバマ大統領は、ヨーロッパ外のパートナーだ。
メルケルを中心とした「権力の地平」は、かつて諸政府が条約に合意したものと非常に異なる。その中心は、ブラッセルではなく、ベルリンだ。それに反発する者は多いが、危機を乗り越えるうえで非常に効果的であった。国家元首たちが定期的に会合し、意思決定の中心的な舞台ができた。イギリスを例外として、周辺諸国に至るまで、繁栄を求めて参加を希望している。
ここにはヨーロッパ規模のガバナンスが誕生しつつある。異なる歴史を持つ28か国が、迅速に、重要問題で妥協を図る。EUは国民国家に代わるのではなく、それらを再定義するものだ。EUは国民国家の協力の上に立つ、政府間組織である。メルケル首相はその取引の中心を占める。通貨、安全保障、国境など、これまで長く内政問題の核心とされてきたことが、EUで合意される。
EUは、ブラッセルの官僚機構と裏取引によるものではなく、政治的な機構になった。遠心力は様々な作用しているが、加盟諸国はEUを求めている。それは彼らのグローバリゼーションに対する挑戦を助けるからだ。
l TPPの大筋合意
Project
Syndicate OCT 2, 2015
The
Trans-Pacific Free-Trade Charade
JOSEPH E. STIGLITZ and ADAM S. HERSH
TPPは自由貿易とは関係がない。自由貿易を抑える、貿易と投資を管理するための交渉だ。それは各国で最も強力な企業利益を代表する。
ニュージーランドはカナダとアメリカが乳製品を管理することに反対し、オーストラリアはアメリカとメキシコが砂糖を管理することに反対している。アメリカは日本がコメを管理することを嫌っている。これらの産業は国内の有権者団体から強力な支持を受けている。
アメリカが主張する医薬品業界が強く求める知的所有権の拡大について考えてみよう。これは経済学の研究がほとんど支持しない、むしろ競争を抑え、消費者の利益を損なう内容である。
またアメリカが支持する「投資家と国家の紛争処理条項」(ISDS)は、外国の企業・投資家にその国を訴える権利を与える。政府には国民の健康や経済の安定性、環境を守る責任がある。しかし、それが外国企業や投資家の期待される利益を損なった場合、企業や投資家は政府を訴え、補償を得ることができる。こうした市民の利益は二重に損なわれる。政府の公益に関する行動を制限され、しかも、税金で補償を支払う。
こうしたTPPの現実が示すのは、政策過程が企業以外の利害関係者に対して閉ざされた場合、何が起きるか、ということだ。
FT October
7, 2015
The
‘anyone but China’ club needs a gatecrasher
David Pilling
TPPは、中国を排除するためにできた、という批判を、参加諸国は強く否定する。TPPの支持者たちは、しばしばこれを経済学ではなく地政学で正当化する。これはアメリカ政府が「アジア旋回」を唱えて軍事的に行うことを、経済面で補完するものだ、と。外交評議会の報告書で、2人の研究者は、TPPを中国の台頭に対抗するグランド・ストラテジーの一部である、と主張した。
今、TPPの合意ができたことで、加盟諸国はこれが中国を排除するためのものではないと主張したことに従い、中国の参加を呼びかけるべきだろう。
確かに、北京から見ても、TPPに参加することには意味がある。貿易に関する協定というより、投資の保護や規制の標準化を進めるTPPは、利潤を損なった政府を企業が訴える力を強めた。確かに、中国を意識したような、国家の経済的パワーに関する禁止条項がある。しかし、それでもTPPの目標は中国政府の経済モデル転換の目標と概ね重なっている。1990年代に朱鎔基首相は、2001年のWTO加盟を利用して、中国の経済改革を推進した。TPPは同じ役割を果たせるだろう。
国有企業に関しても、知的所有権に関しても、中国の指導部もこうした改革を国内で進める必要があると認めている。中国企業は、積極的にR&D投資を行って、ヴァリュー・チェーンの位置を引き上げている。環境規制関しても、生態系を破壊して投資を誘致することをTPPは禁止するが、中国政府も初期の工業化が生じた環境汚染を浄化する方針に転換している。労働問題で、労働者たちの権利を強化することは、彼らの所得を増やし、消費やサービスに依拠した成長モデルへの移行を促すだろう。
ベトナムがTPPに参加しているのであれば、中国の参加を拒む理由はない。また、日本の安倍首相は、最も明確にTPPを地政学的な機構と見ているが、それでも中国の参加を歓迎した。中国を排除したTPPは、中国封じ込めの合意にしか見えない。中国が加わって、はじめて、その提唱者たちが言うように、TPPはWTO後の貿易協定となるだろう。
l プーチンのシリア介入
FT October
4, 2015
Russia
must work with, not against, America in Syria
Zbigniew Brzezinski
われわれはみんな第1次世界大戦がどのように始まったか知っている。個別の暴力行為が積み重なって、逆転できない軍事行動が開始され、そこには全体に及ぶ戦略的見通しも、より明確な目的もなかった。4年間の殺戮は、勝利する大国が概ね事後的に定式化した野心的目標のために行われた。
その繰り返しを避けるために、まだ時間がある。今度の爆発は中東で、特にシリアで起きている。私は、オバマ大統領がシリアに軍事介入しないという最初の決定を支持した。アメリカが軍事力によってアサドを追放しても、国内にコンセンサスがない中では意味がなかった。アサドは辞任せず、アメリカは効果的な民主的抵抗を組織できなかった。
しかし、突破口は困難なイラクとの核交渉で始まった。アメリカとロシアが協力し、他の大国を説得したのだ、シリア問題の解決についても、中国やロシアの協力が得られる、と期待する者がいた。しかし、モスクワは、アメリカとの政治的・戦術的な協力がないまま、軍事介入を選択した。その中でロシアは、アメリカが支援し、訓練し、武器を供給したシリアの勢力を空爆した疑いがある。それはせいぜい、(誤爆という)ロシア軍の無能さを示すが、最悪の場合、アメリカの政治的な無能さを示そうとする危険な意図の証拠である。
どちらにせよ、地域の将来と、中東諸国の間でアメリカの信用が問われている。この急激に変化する状況で、この地域のさまざまなアメリカの利害を守るには、たった一つしか選択肢はない。アメリカの資産に直接影響するような軍事行動をやめ、それらから手を引くように、モスクワに要求することだ。ロシアが望むなら、アサドを支援する権利はあるが、もしこうした行為を繰り返せば、即座にアメリカは報復する、と。
ロシアの海軍や空軍がシリアにいることは、本土から地理的に孤立し、脆弱である。もしロシアがアメリカを挑発すれば、それらは「武装解除」されるだろう。しかし、さらに望ましいことは、この地域の問題を解決するためにアメリカと協力するよう、ロシアを説得することだ。
アメリカとロシアが中東で政治的・軍事的に協力すれば、さらに建設的な展開として、中国が加わるだろう。北京はますます中東の紛争を阻止することに経済的関与を深めている。また、アメリカは単独行動を好まない。この宗教、政治、エスニック、領土の境界線で分裂し、一層の暴力に落ち込みやすい地域は、帝国主義の再現ではない形の、外部からの支援を必要としている。
中国は傍観しているが、地域的なカオスは容易に北東へも伸び、中央アジアや北東アジアを巻き込む。そうなればロシアも中国も悪影響を受ける。アメリカの利害、その同盟諸国もそうだ。戦略的な決断の時だ。
l ヒューマン・クラウド
FT October
8, 2015
The human
cloud: A new world of work
Sarah O’Connor, Employment Correspondent
雇用者たちは、仕事をする新しい方法として、ヒューマン・クラウドを見るようになった。ホワイトカラーの職場は多くのバラバラなプロジェクトや業務に分割され、その後、世界中のどこからでも、その仕事をやる意思のある労働者たちの、バーチャルな「クラウド」にばらまかれる。彼らはインターネットに接続していればよい。
ヒューマン・クラウドは、スキルの不足を解消し、高失業の地域をなくし、グローバルな能力主義をもたらす。そこでは労働者たちが、その位置、教育、ジェンダー、民族に関係なく、成果によってのみ報酬を受ける。それは、工場制が始まる前の、自分たちの仕事に関する支配を回復する、小規模生産者の時代に回帰するものだ、という者もいる。
批判者は異なる歴史に注目する。それは幸せな職人たちではなく、死んだ目をした生産ラインの労働者だ。ヒューマン・クラウドは、バーチャルな苦汗工場が広がる無法の西部であり、サービス部門はバラバラに解体され、世界的な規模の「底辺への競争」に人々が投げ込まれる。
それがユートピアなのか、ディストピアなのか、それはあなたがヒエラルキーのどこにいるかによるだろう。人々は、より生活コストの安い土地に移住し、より賃金の高い土地で仕事を探すだろう。「静かなオフショアリング」が進行する。
こうした労働者たちは「自営業者」に分類され、被雇用者に比べて、税制や医療で不利となる。法律はそれに適合せず、クラウド化を妨げている。
l 新興アジアのデフレ
FT October
4, 2015
Emerging
Asia: The ill wind of deflation
James Kynge and Jonathan Wheatley
価格の変化はしばしばグローバルな変動の前触れである。13世紀、モンゴルによるヨーロッパ侵攻を最初に示したのは、Harwich港で魚の価格が上昇したことだった。バリチック地方の漁船が侵略者との戦闘に向かい、魚の最大の市場であったイギリスに向けた供給が減ったからだ。
デフレーションとは、生産物の価格が長期にわたって下落することだが、アジアの工業地帯から日本やヨーロッパに冷気を送り込み、アメリカの景気回復も脅かしている。物価が下落することは消費者に好ましいと思うのに、政策担当者たちは恐れている。なぜなら、物価の下落は企業の利潤を減らし、雇用を減らし、総需要を失わせるからだ。
1929年、アメリカの株価下落を大恐慌にした原因もデフレーションであったと考えられる。Ben Bernanke が、2008-2009年の金融危機で、量的緩和QEを決断したのも、物価の累積的な下落が主要な動機であった。
アジアのデフレーションを示す証拠は注目されている。製造業の過剰設備、貿易需要の減少、生産性の衰微、がそうだ。中国はその最大の例である。デフレーションが世界的な脅威になっている。アジアの供給過剰が西側の需要不足と均衡しないことは、その基本条件である。デフレーションが西側のQEによる需要の底上げを圧倒する。
アジアの問題は、消費者物価ではなく、生産者物価の下落に示されている。日本を望む主要なアジア諸国で下落し、中国では42か月連続で下落している。しかも、その下落スピードが増していることが警戒を要する。すでに大幅な雇用削減を始めた大企業が注目される。
アジア中で企業の収益は悪化しているが、その債務超過は「バランスシート不況」のリスクを高めている。債務の利払いや返却が企業に支出や投資よりも貯蓄を強いるから、成長がさらに減速するのだ。債務の急激な膨張が危機を長引かせる原因になっている、と指摘する専門家もいる。アジアの過剰生産力が処理されず、デフレーションを長引かせるからだ。
IMFは、先月、アメリカ連銀の金利引き上げは債務を負った企業のストレスを高める、と警告した。アメリカの需要を押し上げるポンプとしてQEを行っても、アジアのデフレーションは需要の不足ではなく、供給の過剰が問題だ。果てしなくQEを行っても、過剰生産力は解消しない。政府のさまざまな支援策も加わり、安価な融資によって企業は生き残る。
ドルに対するアジア通貨の下落は、輸出を刺激するはずであったが、むしろ需要を抑え、デフレーションを悪化させている。こうした事態は、多年度に及ぶスーパーサイクルの一部と見ることができる。それは1890年代から4回起きた。下降期は15年から26年続いた。
l スウェーデンとカナダの移民政策
FT October
5, 2015
Sweden
immigration: Don’t look back
Richard Milne in Sodertalje
Jalalは目覚めると,シリアのローカルテレビを観る.道路の向こうにあるシリア正教会でお祈りする.週末には,アッシリア・プロフットボールの2つのチームを応援できる.しかし,ここはシリアではなく,スウェーデンの町Sodertaljeだ.
多くの難民や移民を受け入れてきたスウェーデンは,現在の難民危機に示唆するものがあるだろう.ストックホルムの南西35キロにあるSodertaljeは,シリアやイラクからの難民が多い.Ronnaの学校では,750人の生徒のうち2人だけが両親ともスウェーデン人である.
新しい移民たちは自由に居住地を選べる.その結果,多くの移民がすでに住む地域に集まる.彼らはスウェーデン語に苦しみ,自分たちの町から出ようとしない.失業率は2倍以上で,ますますスウェーデン社会との統合が遅れる.
より健全な混住を求める声もある.エスニック間の緊張が高まり,排外主義的な攻撃や発砲事件が各地で起きている.人種暴動が起き,反移民の社会民主党員は移民政策の見直しを求めている.
NYT OCT.
7, 2015
Canada
Knows How to Respond to a Refugee Crisis
By ADRIENNE CLARKSON(カナダ総督from 1999 to 2005)
3歳の少年Aylan
Kurdiが,顔を伏せて,トルコの海岸に死体となっている写真を見たとき,私は衝撃で静止した.
同じ歳の幼児であった私は,1941年12月,香港が日本に征服された直後に,中国人難民となった.赤十字のおかげで,私の父は2つの船,鉄道を経て,1942年8月にカナダへ着いた.それはモザンビーク,南アフリカ,ブラジル,そしてニューヨーク港を経た,長い旅であった.
当時,カナダは非白人の移民を差別していたから,両親と私の7歳の兄は,カナダ行きの船を逃すところだった.しかし,1人の職員が,私たちに乗船するように言った.私たちに与えられた時間は8時間だけだった.1人につきスーツケースが1つ.兄は,それがないと眠れない枕を許された.祖母が母にコメの炊き方をくわしく教えていた.しかし,それ以後,祖母には2度と会えなかった.
1979年,カナダは次の難民危機として,ベトナムのボート・ピープルを,待つのではなく,職員たちが助けに行った.彼らは1日20時間働き,東南アジア中で6万人の難民を助けた.難民たちは,181の旅客機をカナダ政府がチャーターして費用を負担し,軍基地へ空輸した.
難民は受け入れられ,登録され,カナダ側の支援グループがいる各地の街に向かった.そこでは子供たちが学校へ行き,親たちは住宅と仕事が得られるように支援を受けた.
カナダの移民支援スタッフたちは,再び,各地に派遣されるだろう.カナダは人口の1%,35万人の移民を,毎年,受け入れると決めている.カナダは難民危機の扱い方を知っており,それを他国に教えることができる.引退したスタッフたちがその経験をドイツやスウェーデンの現場に伝えている.ヨーロッパ諸国やトルコ側の難民の手続きに関して,現地スタッフを訓練している.
私は,Aylan Kurdiがカナダに来たとしたらどうなっていたか,と考える.カナダにはすでに彼の叔母が住んでいる.拡大家族が彼を歓迎し,庇護しただろう.もし彼が,私がそうであったように,カナダで育ったとしたら,どうなっただろうか? 彼はカナダの小さな町に住み,ユダヤ人の薬屋で処方箋を見せて,咳止めの薬を無料でもらう.薬屋の主人は彼の息子に,Kurdiを雪の中,歩いて送っていくように言う.フランス語圏のカナダで,彼の家族は小さなアパートの中に住居を得ただろう.そして隣人たちから,彼の母はシチューや豆の煮込みの調理法を教わるのだ.
私は近くの公立小中学校と高校に行き,公立の大学を出た.私の兄はMcGillへ行って,外科医になった.私はトロント大学へ行き,TV局の報道記者になり,その後,カナダ総督になった.幼いKurdiは,こうした機会を得ることがなかった.
l 量的緩和とデフレ対策
FT October
7, 2015
Global
economy: The case for expansion
Lawrence Summers
世界経済が直面する危険は、2008年のリーマンブラザーズ倒産以来、今が最も深刻である。
グローバルなデフレの悪循環という幽霊が現れた。工業諸国の成長が衰え、それは資本輸出を減らして、新興市場を損ない、そのことがさらに西側経済の成長を遅くする。政策担当者たちは、西側が不況に戻るリスク、グローバルな不況を生じるリスクを、著しく過小評価している。
われわれは新しいマクロ経済の時代にある。そこではデフレのリスクがインフレのリスクよりも大きく、市場経済が自立的に回復する力に頼れない。世界の経済戦略を緊急に転換する必要がある、と私は確信している。
成長の減速、低インフレの予想、実質ゼロ金利、これらの組み合わせを説明するのは、長期停滞論である。高い貯蓄率、投資の減退、リスク回避傾向の強まりが、完全雇用に見合う金利の水準を下げる。名目金利がゼロになって、それ以上下げることができないことは、大きな制約となるのだ。第1に、所得分配の不平等化、第2に、人口減少、労働者の減少が成長率の予想を下げている。
IMFと世銀がリマで政策担当者を集めた会合を開いた。彼らは自己満足に浸る時間などないはずだ。成長の減速が金融危機後の一時的な結果である、という考えは愚かなものだ。アメリカ、ヨーロッパ、日本のデータを見るべきだ。世界経済が止まりかけている。
アメリカ連銀、ECB、日銀は、一層の減速を阻止し、世界を不況から救わねばならない。債券利回りが1%を下回っていることは、既存のQEが景気刺激の効果を発揮しないということだ。資産への投資に伴うリスクを顕著に減らす支援策が必要だ。それは財政刺激策のための国債を購入する以上のことであるだろう。
世界経済が直面するリスクは、日本がかつて経験したものと似ているだろう。日本は25年間も停滞し、それを解決するために何もできなかった。
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The Economist September 26th 2015
Dirty secrets
Progress in
Ukraine: Look west, Maidean
The war in
Syria: The cost of inaction
Bello: A big
leap towards peace in Columbia
Bagehot: The
Osborne Doctrine
Foreign tech
firms in China: Cards on the table
China’s
consumers: Doughty but not superhuman
(コメント) フォルクスワーゲンの不正は環境保護の国際監視体制、特にヨーロッパがでたらめであることを暴露した、と言います。シリア内戦の惨状は、アメリカの不行為がもたらした高価な買い物です。コロンビアの武装組織と政府との和解は、世界のモデルになるはずでした。
そして、中国をめぐって、イギリス蔵相の「オズボーン・ドクトリン」が強いる3つの賭けに言及し、中国が目指す「自主創新」「リバランス」が欧米のハイテク超国家企業を手なずけ、世界の最後の消費者として、完全にアメリカの地位を奪えるか、という問いを発します。答えは、否定的なものですが、そう問わねばならない欧米日の弱さも明らかです。
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IPEの想像力 10/12/15
労働市場や労働契約というものが、インターネットの普及によって、大きく変化するかもしれない、とFinancial Times やThe
Economist、New
York Timesは書いています。
どうして、何が、起きるのか?
「ヒューマン・クラウド」というアイデアを紹介しています。
一方の側では、自分の専門的な技量や経歴、仕事仲間や注文を受けた人たちからの評価、仕事の動画ビデオや評価のためのデータなどを、クラウドに載せます。他方の側は、どのような仕事を望むか、その条件を詳しく載せます。スカイプによるインタビューなどを経て採用し、報酬を支払えば、労働契約は成立するはずです。
「コースの定理」によれば、会社ができるのは取引コストがあるからだ、と言います。では取引コストがなくなったら、会社や労働組合はどうなるのか? 労働市場が、企業や民族、地域、国境を越えて統合され、仲介組織は消滅して、ネット上に移動します。
社会企業家を研究する学会の話を聞いたところ、学会費は無料だ、ということでした。会員名簿はグラウドに書き込み、学会の開催通知や連絡もネット上で行い、事務所やスタッフを必要としない時代であれば、それで十分かもしれません。
AIが急速に進歩する結果として、次第に人間の労働は、コンピューターを補助するだけになるのでしょうか? AIの学習スピードは人間よりもはるかに早く、様々な技能や熟練だけでなく、複雑な文化や芸術にも自動翻訳機能が普及するでしょう。労働の報酬は、極端に2極化するのか? あるいは、むしろ職人的な共同体が繁栄するのか? 企業や労働契約のない世界で、労働規制や最低賃金制度、失業手当は機能しなくなる?
東京オリンピックのデザインが盗作だと疑われたように、音楽でも、著作でも、インターネット上で検索し、盗用や複製が氾濫します。国境を越えて、これらを徹底的に取り締まるのか、むしろ積極的に許容するのか、ビジネスや、社会の利益という視点で、議論を始めるときでしょう。
もしデフレが続くなら、賃金の引き上げが労働者の最も重要な目標ではなくなります。職場の自主的な管理や雇用の安定性、ゆとりある労働時間や仕事の内容に関する合意形成といった、賃金や労働時間では示せない労働条件の改善が主要なテーマになると思います。
工場制度や労働組合が誕生し、あるいは、金融危機や大量失業でマクロ経済学が誕生したときのように、新しい時代には「ベーシック・インカム」や「人民のためのQE」のように、新しいアイデアが試されるでしょう。
ユーロ危機や移民・難民問題として議論されていることが、次の時代には、優れた労働者たちを競争的に保護し、招待しているかもしれません。グローバル企業の雇用戦略は、世界の主要都市や主要教育機関におよび、学校の競争は優秀な子供の奪い合い、という発想に向かいます。しかし、ブランドなど重要ではなくなる頃、学校も消滅して、教育は「ヒューマン・クラウド」に移動し、ほとんどすべて無料になります。
グローバリゼーションは、労働者がコミュニティーを再興する条件です。小さな労働組合や協同組合が残るとしたら、それらは自由、平等、友愛の理想を実現する、相互扶助的な地上のネットワークです。
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When
I saw the photo of three-year-old Aylan Kurdi lying dead, facedown, on a
Turkish beach last month, I felt an electrifying stillness.
この筆者が衝撃で動けなくなったのは、彼女も同じ年齢の難民であったからです。
一人の幼児の姿に、私たちは人類の歴史的、社会的な可能性のすべてを見ます。この少年や少女が、のちにカナダ総督にもなることができると知ったら、難民を見る目が変わるでしょう。それは難民の苦しい旅が、私たちの社会や文明を試す機会に変えます。
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