IPEの果樹園2015

今週のReview

10/5-10

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ASEANの苦悩 ・・・EUと難民危機 ・・・戦争を学び直す ・・・アメリカとロシアのシリア内戦 ・・・アメリカの金権政治 ・・・アメリカと中国 ・・・EMUの将来 ・・・国連安保理改革 ・・・アメリカの金融政策と中国

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  ASEANの苦悩

YaleGlobal, 24 September 2015

Is ASEAN Losing Its Way?

Amitav Acharya

南シナ海で中国が示す行動について、ASEAN内部の分裂が生じている。ASEANはベトナム戦争について、カンボジア内戦について、行動した。そして今、南シナ海について、協力した対応を問われている。

NYT OCT. 1, 2015

Southeast Asia’s Hazy Future

By TASH AW

東南アジアに煙害の季節がやってきた.インドネシアのスマトラ島が主な発生源だ.乾季の今,製紙業やパームオイルの需要に応えて,ジャングルを焼き払う者が増えるからだ.煙害は容易に国境を越えて広がり,すでに何年も,シンガポールやマレーシアは不満を強め,対策を求めている.彼らが憤慨するのは,煙害を抑える効果的な機関がないことだ.ASEANは各国の主権を尊重し,他国の政策に干渉しない.


l  EUと難民危機

The Guardian, Friday 25 September 2015

The refugee crisis gives Europe the chance to evolve

Natalie Nougayrède

FT September 27, 2015

Refugee crisis frays ties between Berlin and east EU

Stefan Wagstyl

FT September 27, 2015

Five concurrent crises push Europe into the realm of chaos

Wolfgang Munchau

ヨーロッパは同時に5つの危機に襲われている。シリアからの難民、ユーロ圏周辺部の債務危機、世界不況、ロシアのクリミア併合とその後の攻撃的な姿勢、そして、フォルクスワーゲンの犯罪行為、である。

カオス理論が好むたとえに、蝶の羽ばたきが、地球の他の場所でトルネードを起こす、というのがある。アンゲラ・メルケルはシリア難民の受け入れを決定したが、それは都市の住宅不足など、ドイツの地方財政に大きな負担を生じている。低所得の国民へ住宅供給を減らすことになり、外国人排斥などの反発につながる兆しがある。

私がこうした状況の変化に見るのは、ドイツ政府の政策対応力が失われてしまう、という危険だ。同時に、世界経済は減速しつつある。ユーロ危機が再燃するかもしれない。ユーロ圏が不況を回避しているのは、近隣窮乏化的な、純輸出に頼る政策をとっているからだ。

難民危機と輸出の減少は、ドイツに財政的な支出を増やし、その黒字を減らすだろう。ユーロ圏の不均衡や赤字国の苦境を緩和する意味で、ドイツの財政支出は良いことだが、問題はドイツが財政均衡を法によって政府に求めていることだ。難民のために支出し、国民への給付が犠牲になるとか、ギリシャへの債務免除を受け入れない、という形で、ドイツの行動は制約されるだろう。

フォルクスワーゲンのスキャンダルも加わり、完全なカオスに向かえば、ギリシャのユーロ圏離脱も含めて、何でも起きる。

Project Syndicate SEP 28, 2015

The Fire Forging Europe

CARL BILDT

統計が示すように、ヨーロッパは難民を吸収できる。それは人口の0.2%でしかなく、高齢化によって減少する労働力人口に比べてもはるかに少ない。

しかし、このことは吸収することが容易であるという意味ではない。難民システムは崩壊寸前であり、住宅や雇用は十分に供給されていないからだ。EU指導者たちにとって最大の問題は、国内の政治的反動を抑えることだろう。移民や難民を攻撃する排外主義やナショナリズムを支持する勢力は、この機会を利用する。

EUレベルにおいて、難民の割り当てと受け入れ義務に関するルールは、コンセンサスではなく、多数決で決められるだろう。28か国中、4か国が反対しているだけだ。

多くの反対意見や緊張にもかかわらず、解決はヨーロッパ規模でなければならない、という、ほぼ全会一致の合意が存在することが重要だ。誰もが、新しい世界の無秩序に対して、共同で立ち向かうのが最善であると認めている。共通の分担システムを導入し、かつては国家の重要機能とみなされた領域でも、主権をEUに移譲することが受け入れられている。

ユーロ危機もそうだった。新しい危機が起き、ブラッセルの会合が開かれ、最初は危機を回避する模索が続き、議論と分裂が生じるが、次第に、共通の対応策が一歩一歩前進し、他の選択肢はないという理解が進む。

現在の無同委は、より強力な同盟の起源となる。ヨーロッパ統合のプロジェクトは、もはやユートピアではなく、小国が集団で共通の課題を解決するプラグマティックなメカニズムなのだ。

EUの人々は、この世界がより危険で、分裂し、迷走しているということに目覚めた。それは彼らを分解するより、協力させるだろう。

NYT SEPT. 28, 2015

What to Do About the Refugees in Calais?

By ANDERS FJELLBERG

FT September 29, 2015

The benefits of migration are questionable

Martin Wolf

グローバリゼーションは、商品、サービス、資本についてだけでなく、人々についても起きている。高所得国は、裕福であるだけでなく、汚職が少なく、安定している。人々が西側に移住しようとするのは無理もない。

しかし、移民は極右の政治家たちが好む政治論争だ。

世界において示されている実質賃金の差を、最大の経済的な歪みとして、その障壁の全廃を唱えるエコノミストもいる。人の移動も、貿易と変わらない。富の最大化である。

しかし、そのようなコスモポリタニズムは、分割された領土的な自己統治により組織された我々の世界と矛盾する。誰と生活の利益を享受するか、それを決める市民の権利とも矛盾する。

移民をめぐる利益を市民が判断する基準は、人口の規模と移民の性格である。人口が少ないだけで移民の流入を歓迎することはない。裕福な小国では、大規模な移民が生活環境を悪化させる。それが有利であるというのは、防衛負担を減らす点だけであろう。

移民を支持する主張は、移民たちが若く、低賃金で、労働意欲や企業家精神に富んでいる、といった違いを強調する。実際、EUでは、移入民が唯一の人口増加要因になる日も近い。過去10年間で見れば、移入民による労働力人口の増加は、アメリカで47%、ヨーロッパで70%であった。

高齢化にともない、労働者が支える退職者の割合を下げるために、移入民が重視されている。しかし、その効果はわずかであり、それを満たす実際に必要な移民の規模は莫大である。

また、長期的な財政に与える影響を、OECDは予測している。過去50年間、累積した移民の財政負担は平均でおおむねゼロであった。その影響は、移入民の持つ熟練その他の性格によって変化し、労働市場の弾力性によっても変わる。

移民は現在の労働者を補完するのか、代替するのか? 誰の地益を実現するのか? 経済的には、高齢者の負担、住宅などへの投資、混雑費用、など、自然人口増加と似ている。その利益を受けるのは、常に、移入民である。

他方、移民は経済学だけではなく、人々の変化を意味する。文化をもたらし、多様性やダイナミズムをもたらす。同時に、社会的な隔離や分断をもたらす。

国家は完全に閉じることも、完全に開放することもない。そのバランスはむつかしい。しかし、各国が論争において、市民たちの利益を最優先するのは当然である。

Project Syndicate SEP 29, 2015

The Limits of the German Promised Land

HANS-WERNER SINN

難民の流入は急速に受け入れ能力の限界に達するだろう。EU諸国に対してドイツは受け入れ分担システムの合意を求めたが、「モラル帝国主義」という非難を受け、拒否された。ドイツとしては難民と経済移民を区別して、後者には上限を貸すしかない。そうすることで、難民たちへの住宅や言語教育を提供し、彼らが受け入れ社会において暮らすことを助けられる。

Project Syndicate SEP 30, 2015

Europe’s Reality Check

JOSCHKA FISCHER

FT October 1, 2015

Do not blame Angela Merkel for the refugees

Philip Stephens

Project Syndicate OCT 1, 2015

Life After Schengen

BILL EMMOTT

EUが信頼を失いつつあるとき、国境管理を復活させることは、それほど悪い考えではない。

確かに、ヨーロッパ内の境界線を消すことはシンボリックな意味がある。しかし、難民危機は、シェンゲン協定を、EU全体の政治的統一について信頼を損なうものに変えた。それは国民国家の秩序や法の支配に関する能力が失われたという状態を示している。

1985年、シェンゲン協定が最初に成立した時、加盟していたのは5か国(Belgium, France, Luxembourg, the Netherlands, and West Germany)だけだった。それから急速に増えて、今ではEU加盟28か国中の22か国、そして、4つの非加盟国(Norway, Iceland, Switzerland, and Liechtenstein)が含まれる。

ヨーロッパ中を、どこでも国内と同じように、飛行機でも、自動車でも、列車でも、移動できることは、非常に便利である。

しかし、難民危機のままシェンゲン協定を維持すると、それ自体が、排外主義・極右の宣伝に誇張した数字が使われ、難民を支援する地方財政の支出の根拠を欠くような事態につながる。少なくとも、難民たちが地域の経済に貢献するまで、その地にとどまっていることが望ましいからだ。


l  戦争を学び直す

FT September 25, 2015

We need to relearn the arts of war and grand strategy

Niall Ferguson

冷戦の時代をthe “long peace”と呼んだ。しかし、ソ連崩壊から20年間は、さらに平和であった。1970年代を解雇すれば、現代がどれほど平和であるかわかるだろう。アメリカにとってベトナム戦争(47424人)は、イラク戦争(3527人)よりも大きな戦死者をもたらした。年平均の戦死者数は、約25万人(from 1982 to 1988)から、17000人以下(between 2002 and 2007)に減った。

なぜ減ったのか? 6つの説明がある。1.長期的な文明化、2.民主主義と超国家機関の普及、3.人口学的変化、若者が減った、4.核兵器からインターネットまで、技術変化、5.超大国の指導者たちが戦争回避に成功した、6.暴力や戦争を賛美するイデオロギーが変化した。

こうした変化は永久に続くだろうか? それを否定する最も重要な問題は、旧来型のイデオロギーが復活したことだ。それは20世紀のナショナリズム、ファシズム、共産主義ではなく、政治的イスラム主義だ。

暴力のエスカレーションは続くだろう。イスラム圏でそれは起きるが、その地域から難民やテロリズムが周辺地域にも波及する。経済的な不安定性、若者の増大、破壊的な技術変化、暴力的なイデオロギーが、世界を戦争に引き戻す。

西側市民たちは、1991年以後の平和の配当を、消費パーティ、レバレッジ、投機で失った。金融の二日酔いをお磁歪ながら、今や地政学的な再編が起きている。我々は再び、大戦略と戦争に関して学ぶしかない。


l  国連・持続的開発目標

FT September 25, 2015

The UN obsession with global targets for poverty

NYT SEPT. 28, 2015

An Ambitious Development Agenda From the U.N.

By THE EDITORIAL BOARD

FP SEPTEMBER 28, 2015

Who Foots the Bill for Ending Extreme Poverty?

BY MARK SUZMAN

Project Syndicate SEP 29, 2015

Sustainable Governance Goals

TONY BLAIR

政治家は、激しい選挙運動が終われば、企業経営者にならねばならない。多くの目標を掲げるthe Sustainable Development Goals (SDGs)は、その優先順位や効果的なリズムを考えるべきだ。

実現のためには資金がいる。豊かな先進諸国は、援助だけでなく、貿易の障壁をなくし、さらに、知識や革新を広め、移民を受け入れるために、障壁をなくすべきだ。自分たちの資源の利用を認めること、投資を行うことが重要だ。


l  アメリカとロシアのシリア内戦

Project Syndicate SEP 25, 2015

No Time to Lose in Syria

JAVIER SOLANA

FP SEPTEMBER 25, 2015

Russia’s Game Plan in Syria Is Simple

BY JULIA IOFFE

なぜプーチンはシリアのアサド政権へ支援を強化するのか? プーチンは一貫してアサドを支持してきた。しかし、アサドの支配領域は急速に減少している。自分の負けを認めないために、プーチンは掛け金を増やしたのだ。

他の見方では、ロシアはアメリカの退却後にできた真空を埋めている。この地域に影響力を拡大するというより、ウクライナ侵攻後、ロシアが国際政治で失った影響力を回復し、アメリカと並ぶ超大国としての発言力を示したいのだ。

より強硬な意見によれば、アラブの春により、ロシアは中東における影響力を失ってきた。他方、アメリカはイラク侵攻によって失った地位を回復するように見えた。しかし、今やアメリカは進路を見失っている。ロシアの協力が必要なのだ。

Bloomberg SEPT 25, 2015

Why Putin Wants to Meet Obama

By Leonid Bershidsky

会談は,プーチンの男性誇示の外交スタイルにオバマが頑迷さを対峙させたように見える.しかし,和平交渉は,プーチン,アサド,オバマ,メルケルの利益になるものだ.

FT September 27, 2015

US-Russia: The battle for Syria

Geoff Dyer and Kathrin Hille

FT September 27, 2015

Deal with Russia is Obama’s least worst option

ED Luce

2人の指導者が会談する.一方は,苦渋に満ちた世界の指導者.他方は,野蛮な機会主義者.そこで話し合われるのはシリア内戦だが,中東の安定化やEUにまで影響している.

4年に及ぶ内戦は,避難民の負担により近隣諸国を押しつぶしつつあり,シリアにおける殺戮は悪化するばかりである.このままではヨーロッパが包囲された不安に侵され,近隣国には統治不能な状態が広まる.

イラクやリビアで体制を破壊した後の混乱を知ったアメリカ政府は,イスラム国家の攻勢が強まる中で,アサド体制を一気に破棄することはできなくなった.アメリカとロシアが共同開催するアサド政権と反政府諸勢力との会合は,アサドが出席しても,しなくても,イスラム過激派を排除するものだ.

オバマも国内の共和党や安全保障専門家からの厳しい批判があり,他方,プーチンも国内のイスラム教徒2000万人を抑圧している.どちらもイスラム国家の打倒に協力の利益を見いだすのである.

FP SEPTEMBER 28, 2015

Obama Opens the Door to a Syria Deal With Russia and Iran

BY COLUM LYNCH, JOHN HUDSON

FT September 28, 2015

Putin is exploiting a vacuum left by the west

Richard Haass

FP SEPTEMBER 29, 2015

Realists, Beware of Russians Making Deals

BY CHRISTIAN CARYL

FT September 30, 2015

The tortuous diplomacy behind Russia’s Syrian bombs

Roula Khalaf

Project Syndicate SEP 30, 2015

Putin’s Crooked Road to Damascus

ANDREI KOLESNIKOV

NYT SEPT. 30, 2015

Syria, Obama and Putin

Thomas L. Friedman

オバマ大統領のシリア政策は議会で不人気だ.しかし,私は改めてこれを支持しようと思う.

彼は自分の信念においてなすべきことを述べたが,それは機能せず,袋叩きにあっている.彼の表現はその政策を超えてしまい,政策は失敗したのだ.

しかし,共和党員たちのオバマ批判は,われわれの経験を示す思慮を外れたものだ.彼らは平気で,爆撃せよ,シリアに軍隊を派遣せよ,などと言うが,それはイラクやリビアよりもうまくいくという理由は何もない.バルティモアの都市貧困地区を治安回復できない者が,アレッポの事態を収拾できるとは思えない.しかも,上空からの空爆で.

私は,オバマのアンビバレントな有機を,その批判者たちの無思慮よりも高く評価するが,それはアメリカが何もしないことの言い訳にならない.何かしなければならないが,それにはシリアにおけるわれわれの敵と味方を明瞭に理解しておく必要がある.

ロシアのプーチン大統領が,狡猾な狐のように,立ちすくむアメリカ人をしり目に,軍隊や戦車,ミサイルをシリアに送って要塞化している,と言われる.もっとオバマが大胆で,タフで,スマートな大統領だったらよかった,と.

しかし,それは違うだろう.もしアメリカが何もしないと,プーチンは木に登ったまま,降りることができないはずだ.ロシアはアサドに肩入れしすぎて,イランに親しいシーア派に属するアラウィート派,アラブで多数派を示すスンニ派の虐殺を続ける戦争の指導者を護る,主要な庇護者になってしまう.

1か月もたてば,ロシアは世界の大国だと自慢するプーチンも,自分がスンニ派の標的として最上位におかれたことに恐怖を覚えるだろう.それがプーチンの望みなのか?

プーチンが無事に期から降りるには,アメリカの助けを得て,シリア内戦の政治的な解決策を実行することしかない.ロシアとイランがアサドを説得して武装解除し,シリアから亡命するのだ.そして反対派が帰還するのと交換に,アラウィート派のコミュニティーは報復を受けず,安全と利益を保護すると約束される.この取引を保証するため,両派は国際的な軍の駐留を要請する.

シリアへの介入を成功に導くような穏健派の軍事力は存在しない.

Bloomberg SEPT 30, 2015

Russia Confirms the UN's Irrelevance

By Leonid Bershidsky

Project Syndicate OCT 1, 2015

The Middle East Meltdown and Global Risk

NOURIEL ROUBINI

もし西側が中東地域を無視し,あるいは,アメリカが2兆ドルを費やしてアフガニスタンやイラクで一層の不安定化を生んだような,軍事的なやり方で対処するなら,地域の不安定化は増すばかりだろう.むしろその外交・金融資源を駆使して,成長と雇用の創出を支援するべきなのだ.アメリカでもヨーロッパでも,そして世界経済も,その選択をまだ何十年も待つのだろうか.

Bloomberg OCT 1, 2015

Putin in Syria Is Just Like Putin in Ukraine

By Leonid Bershidsky


l  朝鮮半島

Project Syndicate SEP 25, 2015

A Korean Helsinki Process?

YOON YOUNG-KWAN

韓国指導部の姿勢が変化し,さらに中国の姿勢も明確に変化した.米中が支援する朝鮮半島の和平プロセスを始めるときだ.リビアの体制崩壊とイランの核合意を経て,国際情勢も変化した.制裁は効果がない.しかし,北朝鮮を軍事的強硬策だけで説得できない.


後半へ続く)