IPEの果樹園2015

今週のReview

9/28-10/3

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シリアをめぐる国際政治 ・・・アメリカ連銀の金利引上げ延期 ・・・難民危機とヨーロッパの改革 ・・・中国のグローバルな役割 ・・・習近平の訪米

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  シリアをめぐる国際政治

The Guardian, Sunday 20 September 2015

The four questions we need to answer before bombing Isis or Assad

Paul Mason

2013年の空爆をめぐる論争と同じことが語られている.今回違うのは,すでにイギリスがISISを空爆していることだ.

イギリスが依存してきた2つの同盟構築メカニズムが解体した.1つは,国連安保理である.ロシアと中国が拒否権を使って,国連による虐殺への軍事介入合法化を拒んでいる.もう1つは,アメリカがこの地域への全面的な軍事介入に乗り出す意欲を失ったことだ.

ISISが拡大したのは,イラクの西部で米英の国家再建が失敗したからであるし,シリアでアメリカの反アサド派勢力に支援する戦略が失敗したからだ.ロシアは地域の安定化に向けた同盟を呼びかけているが,アサド政権が反政府勢力を敗退させたのは,ロシアが軍事支援したことと,レバノンにおけるイランの軍事組織ヒズボラが穏健派を攻撃したからだ.

イラクとシリアで西側の戦略は失敗した.再び軍事介入する前に,われわれは正しい質問をするべきだ.

FT September 21, 2015

We must compromise with evil in Syria

Gideon Rachman

イスラム過激派がシリアで勢力を拡大しているとき,アサド政権はより小さな悪である.

反政府派は,アサドを絶対に受け入れない,と言う.シリア内戦では,推定で22万人の住民が殺害されたが,そのほとんどがアサド政府軍によるものだ.数百万人の難民がこの体制を嫌って逃げ出した.樽爆弾,化学兵器,誘拐,拷問を続けている.アサド体制は,聖戦主義者よりシリアの穏健派を熱心に爆撃しているのだ.

しかし,私は考えを変えた.シリアには,多くの邪悪な軍隊がいる.その中でも最も悪いのは,内戦の殺戮と破壊が続いていることだ.最重要な目標は,内戦の終結であり,そのために外部の勢力が和平協定を支持するように説得することである.外交的な解決には,当然,アサド政権が含まれる.

長年,西側はシリアの穏健派が勝利することを望んでいた.しかし,アサド政府軍と聖戦主義の武装勢力に対する三つ巴の戦争に,穏健派が勝利し,安定した政府を作ると考えるのは幻想だ.彼らは戦場で勝利することはない.もしチャンスがあるとしたら,それは国連が管理する選挙で,政治過程が始まった場合である.

虐殺にかかわった者たちと交渉のテーブルに就くことを,西側には反対する声があるかもしれない.しかし,平和のために,われわれはこれを行ったことがある.1991年,カンボジアの内戦を終結させる国連が呼びかけた和平交渉で,大虐殺を犯したクメール・ルージュと席に就いたのだ.シリアと同様,カンボジアにも強力な外部勢力がいた.中国,ロシア,アメリカ,ベトナム,タイである.彼らは互いに対立していたが,内戦終結の準備があった.

アサド政権も,反対派も,外部の支援者であるイラン,ロシア,サウジアラビア,アメリカも,完全な勝利は得られない.不道徳な妥協を含む和平を求めている.

むしろ,最大の反対は,これが非現実的で,という主張である.ISISは国際システムを認めず,グローバルなカリフ体制を夢見ている.ISISや聖戦主義者に対する軍事攻撃を協力して進めながら,他の勢力は交渉に参加するだろう.ロシアのプーチン大統領は,ISISに対する共同戦線を呼びかける国連演説を行うようだ.アメリカも,事実上,ロシアとの戦術的な協力を認めている.

アサドを受け入れるかどうかは,国連の管理する選挙結果次第である.1人の人物が外交交渉を人質に取ることはできない.

FP SEPTEMBER 21, 2015

Could We Have Stopped This Tragedy?

BY STEPHEN M. WALT

シリアで初めて反政府の抗議活動が起きてから,私は,この紛争にはアメリカの戦略的利益が関係していない,アメリカの露骨な介入は事態を改善するより悪化させるだろう,と確信していた.その後,起きたことは容赦のない苦痛をもたらすものであったが,不幸なことに,私の最初の判断は正しかった,と思う.

もちろん,オバマ政権はシリア内戦をうまく扱えなかった.

オバマ大統領は,2011年に,「アサドは辞任しなければならない」と主張し,アメリカの立場を最大限に固定し,多数の命を救ったかもしれない外交的な解決策を排除してしまった.また2012年には,化学兵器の使用を「超えてはならない限界」として警告し,そんな言葉は助けにならなかったし,オバマへの批判を強めただけだった.オバマ大統領は賢明にも軍事介入を思いとどまり,ロシアの助けを得て,アサドの化学兵器を廃棄する合意を成立させた.他方で,反アサド派の軍事勢力を訓練する,というアメリカの計画は情熱も能力も欠いたものだった.

すでに20万人以上が殺害され,1100万人がシリアの内外で避難民となり,それは元のシリア人口の半分に達する.難民,移民が大挙してヨーロッパに入り始め,EUの微妙な政治的結束を破壊し,内部の極右・排外主義を刺激している.シリアの惨禍は,いわゆるイスラム国家の拡大,スンニ派とシーア派との対立,周辺諸国の不安を高めている.

アメリカはもっと早く軍事介入するべきだった? NATOやアラブ連盟も加えて,飛行禁止空域を設定するべきだった? 地上軍を派遣するべきだった? 初期の民主化の試みを支援し,交渉によって政治的解決を実現できた?

そうかもしれない.

過去がどのような異なるコースを進んだか,われわれは正確に答えることができない.しかし,もっと迅速な,強力な,国際的軍事介入が行われていたら,現在よりも,もっと事態は改善できた,という可能性を排除することもできない.

だが,そのような理想的な結果が得るとして,それは,どの程度ありえただろうか?

この問題について異なる意見の友人たちと話し合ったが,私はなお,シリアへの軍事介入はアメリカの利益にならないし,事態を改善することもない,と考える.その結論は,私にとって楽しいものではない.しかし,それにはいくつかの議論が基礎にあるのだ.

1.アメリカのパワーの限界: 「飛行禁止空域」の設定は,その効果が誇張されている.空軍のパワーだけで地上の結果を支配することは難しい.それは1990年代に「飛行禁止」作戦を空軍が実行しても,2003年に地上軍が侵攻するまで,サダム・フセインがイラクで権力を保持したことでも明らかだ.

2.アサド「復活への賭け」: 最初の時点から,シリア問題の重要な失敗は,アサド体制に魅力的な出口がなかったことだ.権力を失えば,アサドを支持するアラウィート派全体が暴力的な報復を受けるだろう.アサド体制には,「復活への賭け」しかなかった.どれほど事態が悪化しても,どれほどひどい手段を使ってでも,この体制を生き延びさせる.

3.聖戦主義者たちの参加: アサド追放はさまざまな聖戦主義者を内戦に参加させた.そして,アメリカが支援する反政府勢力について,問題を複雑にした.アメリカの供給する武器が,誰の手に渡るか,わからなくなったのだ.さらに,アサド派を敗退させたのは,多くがこうした聖戦主義者の勢力であった.こうしてアメリカが早期に軍事介入することも,リビアの失敗があったため,できなくなった.真に最悪の事態とは,政府が存在しなくなることだ.

4.アメリカによる軍事支援プログラムの失敗: アメリカは,イラクでも,アフガニスタンでも,シリアでも,支援する軍事勢力の訓練,拡大,強化に失敗した.

5.現実を直視せよ.アメリカは嫌われている: 中東地域でアメリカの果たす役割は,イギリスやフランスの帝国主義に比べて歓迎された,かつてのような積極的な意味を認められなくなった.アメリカの介入は,容易に,「西側」の干渉として非難され,オサバ・ビンラディンが正しかった,と信じさせた.たとえ崇高な動機でシリア政府と戦っても,アメリカの支援を受けると,それを疑われた.戦場でだれか市民が犠牲になると,アメリカ政府が非難され,陰謀論が広まった.

6.誰のために? 何のために介入するのか? どれほどの大国であっても,人道的な理由だけで,多大のコストとリスクをともなう軍事介入に進むことはない.それを正当化するだけの戦略的な利益がなければならない.アメリカにとって,戦略的な問題は複雑であり,深い関与を正当化する直接,簡明な方法はない.結局,民主党政権も共和党政権も,シリアで人殺しの少数派が支配していることを気にしなかったし,アサドが利用できるときには取引に応じたのだ.その意味で,シリアに戦略的利益は限られたものだ.

従って,私がもっとも小さな悪として支持する選択肢は,戦闘の終結に努力を集中することだ.そのためには,アサド政権やロシアの意見も慎重に聴き,協力を求める.停戦後のシリアがどうなるのか,わからないが,もし分割する(アサドが生き残る)なら,それは秩序ある形で,国際的に支援を受けたものでなければならない.

政治は,特に外交は,可能なものを見いだすアートである.


l  アメリカ連銀の金利引上げ延期

Project Syndicate SEP 22, 2015

Why the Fed Buried Monetarism

ANATOLE KALETSKY

なぜアメリカ連銀が金利引き上げを延期したことは大きな驚きを伴って報道されたのか? 金利を引き上げなかったからではなく、その説明が衝撃を生んだのだ。すなわち連銀は、「自然失業率」とみなされている5%より低い水準に失業率を下げることを望んでいる、とわかった。

インフレと失業率との関係は、金融政策の中心テーマである。Milton Friedmanが開拓したマネタリスト理論は、金融政策を狭くインフレ率だけ目標にすることを正当化した。なぜなら、インフレ率を高めるという合理的な期待があれば、金利低下はその効果を発揮しないからである。失業率が低過ぎれば、インフレは加速する。「インフレを加速させない失業率(NAIRU)」が金融政策の前提となった。

この理論は、当時、2ケタのインフレで苦しんでいた中央銀行に、高金利に反対する労働組合などの勢力を無視する正当性を与えた。こうした政治的、イデオロギー的な理由が、実証ではなく、マネタリスト理論を重視されて来たのだ。

今、アメリカ連銀はマネタリストを否定し、かつてのようなインフレと失業とのトレード・オフを考慮する姿勢に回帰した。多くの専門家やジャーナリストが今もマネタリストとして連銀を批判するかもしれないが、それを無視することだ。


l  難民危機とヨーロッパの改革

Project Syndicate SEP 21, 2015

Refugees and Reform in Europe

MOHAMED A. EL-ERIAN

難民危機は、ヨーロッパ再生のチャンスである。

輸送、避難所、国境管理、登録センターなど、ヨーロッパのネットワークには大きなストレスが生じている。問題は協力不足によって悪化している。難民に対する扱いは国によって大きく異なっている。また、難民たちは定住地に関して強い選好を示している。

ヨーロッパには、地域によって高い失業率が生じているが、長期的に見れば、高齢者に対する労働力の比率が低下する大陸である。移民を吸収し、積極的に統合化することは、こうした構造問題を緩和するのに役立つ。難民の多くが、教育ある、労働意欲に富んだ、新しい国でよりよい生活を強く願う人々である。

また、難民危機は他の問題も緩和する。ドイツは、ユーロ圏内の不均衡を解決するために、総需要の水準を高める財政刺激策を嫌っていたが、難民の受け入れやギリシャ支援に財政支出を増やした。それは債務諸国や地域の景気回復に役立つだろう。

危機は、ヨーロッパの不完全な政治、制度、金融の構造を改革する決定的な前進に向けた触媒にもなるだろう。難民流入に対応を苦しむギリシャに対して、ヨーロッパの債権諸国は大幅な債務免除を決断するかもしれない。また、ヨーロッパのガバナンスを改善し、加盟諸国の多数が賛成しても、少数の国がその決定を阻むようなことはなくなるだろう。

ギリシャの経済・金融危機を長引かせた経過を見て、難民危機はさらに複雑で、管理不可能だ、と悲観主義者は考える。しかし歴史は、現在の難民危機のような規模と広がりを持つショックが、重大な政策対応をもたらす潜在的圧力になったことを示している。

FT September 22, 2015

A refugee crisis that Europe cannot escape

Martin Wolf

It needs a comprehensive and effective strategy. Yes, this time pigs do have to fly.

ユーロ圏の危機や、ウクライナをめぐるロシアとの抗争、イギリスのEU離脱に向けた国民投票など、ヨーロッパには扱いたくない問題が多いけれど、難民の潮流こそ、最も扱いたくない問題である。

難民危機の扱いを誤れば、現代のヨーロッパが築かれた基礎となる価値観を破壊することになる。まず、難民と移民とを分ける。絶望的な状況を逃れた人々への同情と、より有利な条件を求めて国を移動する人々の受け入れをめぐる計算とは違うものだ。

しかし、中東やアフリカの混乱状態が続けば、その規模は処理できないものになる。短期的には欧米が受け入れを増やすしかない。しかし、その分担案には強い反対がある。

長期的には、難民たちを統合するために支援しなければならない。言語教育や住宅など、その経済的負担を拒む国もある。シリア周辺と、ギリシャとイタリアに顕著な、フロンティア国の過重負担を軽減しなければならない。

中東の不安定化に関与しながら無責任な諸国には、負担を引き受ける道義的責任がある。アメリカやイギリス、フランスだ。シリア、イラク、リビアに対する秩序回復と経済復興のための支援が必要だ。同様に、人身売買を元から断つ。ヨーロッパの外交と強制力とを組み合わせる必要がある。アメリカは秩序の破壊ではなく、もっと秩序の安定化に役割を担う。

ヨーロッパ市民たちは要塞の中で静かに暮らすことを願うのかもしれない。しかし、彼らはカオスの世界に生きている。協力の道を見出すべきだ。包括的で、効果的な戦略を持つこと。そうだ。今度こそ、動きの鈍い政治家たちも、空に向けて飛ぶしかない。


l  中国のグローバルな役割

The Guardian, Saturday 19 September 2015

George Osborne: It’s in Britain’s interest to bond with China now

George Osborne and Jim O'Neill

2030年の世界を想像することだ。子供たちは将来の仕事のために、試験勉強に励んでいる。中国は世界最大の経済になっている。中国語は世界中の国で教えられているだろう。

国際貿易のための新しいシルク・ロードは、道路、高速鉄道、橋梁、ハブ空港などからなり、上海や北京から、新疆を経て、カザフスタン、パキスタン、アフガニスタンを通り、西ヨーロッパやイギリスに至る。

この15年間で、中国経済の規模は、イギリス、フランス、ドイツ、日本を抜いた。その成長は印象的であり、いまでも、2年毎に、オーストラリアの経済規模を追加している。中国の台頭を恐れるべきだという者もいるが、私はそのような思考を拒否する。それはイギリスを時代遅れにするだけだ。

われわれは中国を受け入れる。中国との最善の関係を築くことが、イギリスにとって最善の時代をもたらす。イギリスはこの機会を逃してはならない。中国とイギリスの金融部門が協力すること、素晴らしい美術館や博物館を持つ2つの文化が関係を深めることは、双方にとって利益になる。

イギリス経済は先進諸国の中で最も高い成長率を実現し、財政赤字を半減させた。中国からイギリスへの投資は、ドイツ、フランス、イタリアへの投資を合計したよりも大きい。たとえ中国の成長が減速しても、中国市場の重要性は変わらない。イギリスの製造業、インフラ、小売り、金融サービスは中国市場に大きな機会を見出す。また、中国企業もイギリスのグローバルなR&Dセンターに魅力を感じるだろう。

傍観すること、後退することは間違いだ。中国の提供する機会を、最大限、生かすべきだ。


l  習近平の訪米

FP SEPTEMBER 21, 2015

On Economic Fronts, the U.S. and China Are Stronger Together

BY ROBERT D. HORMATS

中国の習近平主席がはじめてアメリカに国賓として訪問するのは、特に重要な時期にあって、重要な意味がある。

それはもちろん、中国の株式市場が示す浮動性と、予想以上の成長の減速、さらに最近の人民元切下げが加わったからだ。しかし、こうした問題で他の重要なテーマを議論しないことは許されない。

より重要な広いテーマとは、中国とアメリカの両方で、その経済政策と経済発展が相互に重要な影響を及ぼし、その他の世界に対して、両国が貿易、投資、通貨、資本市場の問題で緊密の協力する責任がある、ということだ。両国とグローバル経済の生産性を高めるように議論がまとまるためには、重要問題について議題を整理しなければならない。

1.   浮動性の回避 ・・・アメリカは異常な低金利から脱出し、中国は消費・サービスの内需型成長に転換する。それが市場に過度の浮動性を与えないよう、両国はもっと頻繁に協議するべきだ。スムーズに移行を実現することは、それぞれの国内政治的な重要な課題である。双方が『干渉』するような事態を回避するべきだ。良好なコミュニケーションこそ最需要である。

2.   相互投資協定、世界経済秩序、SDR ・・・これらの問題を通じて、中国の経済改革にアメリカが支持を与え、アメリカは中国が国際秩序の責任ある役割を担うことに確信を得なければならない。

3.   G20の改革と活用 ・・・G20は活性化し、もっと効果的に利用できる機関にするべきだ。中国の役割は特に重要だが、同時に、他の諸国、日本、ドイツ、フランス、インド、などが基軸的な役割を担っている。

4.   通貨操作 ・・・中国の通貨操作に関する疑念は今もアメリカ側にある。為替レートを悪用することは、禁じ手、であるべきだ。しかし、競争力を改善し、為替レートを安く設定する様々な方法がある。そのいくつかは市場の力が作用するものとして受け入れられ、他に関しては集団的な不安定化をもたらすために拒否される。北京も、市場型の通貨体制に移行しなければならない。

5.   為替レートのコンセンサス ・・・この問題は中国にとどまらない。為替レートの切下げは全体として利益をもたらさず、保護主義やナショナリズムを刺激する。2008年の金融危機後はG20が有効にそれを抑制できた。米中双方が緊密に協力して、金融危機がさらに深刻な落ち込みに至るのを阻止した。

世界経済は、その意味で、今回の米中サミットに期待している。

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The Economist September 12th 2015

Exodus

Europe’s challenge: Strangers in strange lands

The Federal Reserve: False start

Business in China: The China that works

Banyan: Hazing rituals

Charlemagne: Leading from the front

(コメント) 人口移動問題が、アメリカ連銀の金融政策決定と中国の成長モデル転換に合わさって、ヨーロッパ大陸のパニックを誘います。

The Economistの姿勢は明白です。移民を受け入れて、その労働する権利を認めること、です。その方がコストはかからず、受け入れ国の経済を改善する条件となります。あるいは、移民たちはそのような国を目指すでしょう。

アメリカ連銀は、異なる理由の間でむつかしい選択をしますが、デフレの悪循環から逃れるほうが、インフレを抑える心配よりも重視されるべきだ、と主張します。他方、中国の成長減速に関する悲観論は、民間部門の成長と技術革新のダイナミズムに関する強い楽観によって否定されます。

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IPEの想像力 9/28/15

国際政治経済学(IPE)とは何か? IPEは、国家を超える秩序の問題を考えます。それは、「経済成長」の背後にある、権力の問題、影響圏の問題、帝国や国際通貨の問題です。卒業していくゼミ生たちは、明確に理解できたでしょうか?

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週末は合同合宿でした。その夕食会で受けた質問です。

・・・「先生の専門は何ですか?」 ・・・「何を研究しているのですか?」

しかし、私の答えは迷走しました。大変、申し訳ないです。

まず、しばし沈黙。・・・適当な答えがない。IPEだ、というのは答えにならない、と思いました。

次に、国際通貨制度、通貨危機を取り上げました。他方で、移民問題、労働力移動も考えてきました。何か、とんでもなく違う問題だ、と思うかもしれない。

そして、漸く、それは、・・・グローバル・ガバナンスや、国際政策協調や、国際システムの不安定化、・・・などと答えたのですが、間に合わなかった。

本当に答えを求めるなら、IPEとは何か? ということに、私自身がスマートな答えを見つけなければなりません。

・・・それは、国家を超えたガバナンスの問題を扱います。成長モデルの転換と波及、各地の制度やシステムの調整、グローバル化する市場が生じる危機やパニック、それによって激化する各地の権力争い、あるいは、政治経済構造、社会紛争、戦争を扱います。

私のゼミ生たちが、「グローバル・ガバナンス」として、どこかの事典の記事(おそらくネットから)を引用していたことが不満でした。合宿直前の勉強会で、私は自分たちのゼミの論文の柱に、ガバナンスという視点を求めて話し合ったからです。

・・・ガバナンス、とは何か? (私はこの言葉が嫌いです。)

ガバナンス論の背後には、国際関係論や国際政治学が前提してきた、アナーキーがある。アナーキー(国家主権のネガ)というだけでは、もはや手に負えないほど、国境を越えて問題が生じている。危機が頻発し、波及している。グローバル・ガバナンスは、ガバナンスの誕生、という問題(協調・協力、規制・強制、規範・法・ルール、など)を、国家を超えて問う姿勢だ。

1つの答えは、覇権安定論、大国だった。圧倒的な大国がある(均衡する)時代には、国家を超えた平和と秩序がある。しかし、それが失われるときはどうするか?

もう1つの答えは、国家以外の秩序の源泉である。かつての宗教や、近代の市場拡大のような。近代国家の権力そのものが、その正当化の根拠を変えてきた。ガバナンス論では、多国籍企業や国際機関・NGOs、メディアやインターネット、など、様々な要因で、ガバナンスの誕生が新しい姿を取ると考える。・・・

私は、大学院でルイス・モデル(労働力移動と成長の加速)を学び、その後も、成長やその政治的限界、空間的な再編、といった視点から、グローバルな成長の波及を実現する政治経済秩序を考えてきました。そのため、合理的・数理的なモデルではなく、戦争や金融パニックといった、大きな歴史的事件(の圧力)によって、ガバナンスの変化を理解するべきだ、と考えています。

国際通貨制度の改革が成功し、国際移民支援システムが誕生して、各地の成長する地域を結んだ、リベラルな社会や文化が繁栄する。それは、たとえば、R.クーパーが、国際通貨制度の評価基準をPPP(平和、繁栄、参加)と述べたことに似ている、と思っています。

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合宿というのも、学ぶための仕掛けです。ある者は企画に参加し、その準備や調整に忙殺され、苦労ばかりしました。優秀な報告を聞き、他のゼミの姿勢から学ぶ者もあれば、熱心に報告を聞くこともなく、飲み会に参加すれば合宿だ、と思う者もいたはずです。

集団的なパワーを高めるために、規範や制度への不満から、彼らが学ぶ能力を高める機会となってほしいです。

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