IPEの果樹園2015

今週のReview

9/28-10/3

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シリアをめぐる国際政治 ・・・アメリカ連銀の金利引上げ延期 ・・・難民危機とヨーロッパの改革 ・・・女性や介護者を拒む市場 ・・・中国のグローバルな役割 ・・・石油価格と一次産品国家 ・・・日本のコメ文化が終わる ・・・習近平の訪米 ・・・フォルクスワーゲンの不正操作

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  シリアをめぐる国際政治

The Guardian, Friday 18 September 2015

The west must resist playing Putin’s game in Syria. That way calamity lies

Natalie Nougayrède

キッシンジャーHenry Kissingerは、1975年、タイの外務大臣に語った。「(クメール・ルージュは)何人殺したのか? 数万人か?」 それでもあなたはカンボジア人に言うべきだ。我々はあなたの友人になるつもりだ。あなたたちの邪魔はしない、と。

これがプーチンVladimir Putinのメッセージだ。我々はアサド政権と同盟を組むべきだ。シリアの大統領は人殺しであるだろう。しかし、われわれは彼の邪魔をすべきではない。それは、西側の政府がシリアについて直面している最大のジレンマを表現している。

1975年にキッシンジャーが最優先した目的は、クメール・ルージュを北ベトナムの「対抗勢力」として利用することだった。プーチンは、アサドをイスラム国家に対する重要な砦とみなし、シリアに関する新しい国際戦略の中心にロシアを据えようとしている。2013年に、アサドが化学兵器を使用したことに対して、オバマが空爆の約束を果たせなかったとき、その困難な状況から助け出してやったように。

しかし、西側がこの地域で失敗を重ねたことと、ロシアの大統領が救済の手を伸ばすこととは、同じではない。むしろ逆である。

これまで、ロシアはシリアの大統領を一貫して擁護してきた。それは中東におけるロシアの最後の拠点であったからだ。また、それが西側の最大の弱点でもあった。

ロシアのプリマコフYevgeny Primakov元首相は、ロシアがグローバルな地位を得て、アメリカの影響力に対抗するために、中東地域を重視していたし、アラブの春を西側の陰謀による体制転換であると反対した。さらにプーチンは、シリア問題の解決をもたらす「政治過程」として、健全な反政府勢力も含めた早期の議会選挙を実施する、という。つまり、戦争で解体した国家に代わる、まやかしの選挙、まやかしの連立政権だ。

プーチンの語る「テロ対策」とは、イスラム国家との戦争である。他方、アサドは「テロ対策」として、数万人のシリア人を殺害した。プーチンの軍隊がチェチェンでやったように。ロシアはそのシリア軍に対する新しい武器供与を強めている。アサドとイスラム国家は、互いに強め合っているのだ。アサドは、自分たちをイスラム過激派に対する戦いの最前線とみなす。イスラム国家は、アサドの軍隊がスンニ派を無差別に殺戮することに対する保護者であると主張する。

プーチンは、同盟による政治的利益を得て、中東における地位を固め、軍事パレードを示せる。アサドがどうなろうと、関係ない。アサドを容認すれば、シリア内戦が終結し、難民問題が解決できる、というのは幻想である。

SPIEGEL ONLINE 09/18/2015

Abandoning Syria

Few Options Left for Stopping the War

By Christoph Reuter in Beirut

FP SEPTEMBER 18, 2015

Exclusive: The Pentagon Is Preparing New War Plans for a Baltic Battle Against Russia

BY JULIA IOFFE

The Guardian, Sunday 20 September 2015

The four questions we need to answer before bombing Isis or Assad

Paul Mason

2013年の空爆をめぐる論争と同じことが語られている.今回違うのは,すでにイギリスがISISを空爆していることだ.

イギリスが依存してきた2つの同盟構築メカニズムが解体した.1つは,国連安保理である.ロシアと中国が拒否権を使って,国連による虐殺への軍事介入合法化を拒んでいる.もう1つは,アメリカがこの地域への全面的な軍事介入に乗り出す意欲を失ったことだ.

ISISが拡大したのは,イラクの西部で米英の国家再建が失敗したからであるし,シリアでアメリカの反アサド派勢力に支援する戦略が失敗したからだ.ロシアは地域の安定化に向けた同盟を呼びかけているが,アサド政権が反政府勢力を敗退させたのは,ロシアが軍事支援したことと,レバノンにおけるイランの軍事組織ヒズボラが穏健派を攻撃したからだ.

イラクとシリアで西側の戦略は失敗した.再び軍事介入する前に,われわれは正しい質問をするべきだ.

1に,何が起きているのか? 民主的な反政府運動が起きて,政府軍の弾圧による内戦となった.内戦の中で過激派が増大し,西側に見捨てられて,プーチン大統領の交渉に利用されている.アメリカはかつてシリアの体制破壊を図ったが,2011年のアラブの春には消極的だった.

内戦は,ロシアが支援するアサド政府軍,アメリカが支援する自由シリア軍,イランが支援するヒズボラ,そして,トルコ,サウジアラビア,カタールが支援するいわゆる征服軍,そこにISIS,クルド民族問題,などが重なっている.

内戦の終結は何をもたらすのか? 空爆は誰を利するのか? もしISISが消滅したら,誰がその支配地域を得るのか? 主要諸国が加わった国際条約で決めるというが,シリアの分割や支配地域の固定化が進むかもしれない.かつてアメリカはサウジアラビアやカタール,トルコを利用したが,イランとの核合意によって同盟諸国はアメリカに憤慨し,独自に行動している.

この戦争は非常に醜い戦争となって,ISIS空爆と言いながら,各国政府が宗派争いや,クルド問題の軍事的な打開に利用している.

3に,イギリス軍がシリアを空爆する合法性が確保されていない.シリア市民の殺害は,その4分の3が政府軍によるものだろう.市民の犠牲者や難民を抑えるには,アサド政府軍を空爆するべきだ,と政府は主張する.

4に,地政学的な有効性がない.ロシアが主張するように,イギリスはなぜISISを空爆し,シリア政府軍の空軍基地も攻撃するのか? プーチンはブローカーの役割を主張できる.

これまでの軍事介入が失敗した経験によるなら,われわれは空爆やドローンではなく,効果的な地域同盟戦略を示すべきだ.

FT September 21, 2015

We must compromise with evil in Syria

Gideon Rachman

イスラム過激派がシリアで勢力を拡大しているとき,アサド政権はより小さな悪である.

反政府派は,アサドを絶対に受け入れない,と言う.シリア内戦では,推定で22万人の住民が殺害されたが,そのほとんどがアサド政府軍によるものだ.数百万人の難民がこの体制を嫌って逃げ出した.樽爆弾,化学兵器,誘拐,拷問を続けている.アサド体制は,聖戦主義者よりシリアの穏健派を熱心に爆撃しているのだ.

しかし,私は考えを変えた.シリアには,多くの邪悪な軍隊がいる.その中でも最も悪いのは,内戦の殺戮と破壊が続いていることだ.最重要な目標は,内戦の終結であり,そのために外部の勢力が和平協定を支持するように説得することである.外交的な解決には,当然,アサド政権が含まれる.

長年,西側はシリアの穏健派が勝利することを望んでいた.しかし,アサド政府軍と聖戦主義の武装勢力に対する三つ巴の戦争に,穏健派が勝利し,安定した政府を作ると考えるのは幻想だ.彼らは戦場で勝利することはない.もしチャンスがあるとしたら,それは国連が管理する選挙で,政治過程が始まった場合である.

虐殺にかかわった者たちと交渉のテーブルに就くことを,西側には反対する声があるかもしれない.しかし,平和のために,われわれはこれを行ったことがある.1991年,カンボジアの内戦を終結させる国連が呼びかけた和平交渉で,大虐殺を犯したクメール・ルージュと席に就いたのだ.シリアと同様,カンボジアにも強力な外部勢力がいた.中国,ロシア,アメリカ,ベトナム,タイである.彼らは互いに対立していたが,内戦終結の準備があった.

アサド政権も,反対派も,外部の支援者であるイラン,ロシア,サウジアラビア,アメリカも,完全な勝利は得られない.不道徳な妥協を含む和平を求めている.

むしろ,最大の反対は,これが非現実的で,という主張である.ISISは国際システムを認めず,グローバルなカリフ体制を夢見ている.ISISや聖戦主義者に対する軍事攻撃を協力して進めながら,他の勢力は交渉に参加するだろう.ロシアのプーチン大統領は,ISISに対する共同戦線を呼びかける国連演説を行うようだ.アメリカも,事実上,ロシアとの戦術的な協力を認めている.

アサドを受け入れるかどうかは,国連の管理する選挙結果次第である.1人の人物が外交交渉を人質に取ることはできない.

FP SEPTEMBER 21, 2015

Could We Have Stopped This Tragedy?

BY STEPHEN M. WALT

シリアで初めて反政府の抗議活動が起きてから,私は,この紛争にはアメリカの戦略的利益が関係していない,アメリカの露骨な介入は事態を改善するより悪化させるだろう,と確信していた.その後,起きたことは容赦のない苦痛をもたらすものであったが,不幸なことに,私の最初の判断は正しかった,と思う.

もちろん,オバマ政権はシリア内戦をうまく扱えなかった.

オバマ大統領は,2011年に,「アサドは辞任しなければならない」と主張し,アメリカの立場を最大限に固定し,多数の命を救ったかもしれない外交的な解決策を排除してしまった.また2012年には,化学兵器の使用を「超えてはならない限界」として警告し,そんな言葉は助けにならなかったし,オバマへの批判を強めただけだった.オバマ大統領は賢明にも軍事介入を思いとどまり,ロシアの助けを得て,アサドの化学兵器を廃棄する合意を成立させた.他方で,反アサド派の軍事勢力を訓練する,というアメリカの計画は情熱も能力も欠いたものだった.

すでに20万人以上が殺害され,1100万人がシリアの内外で避難民となり,それは元のシリア人口の半分に達する.難民,移民が大挙してヨーロッパに入り始め,EUの微妙な政治的結束を破壊し,内部の極右・排外主義を刺激している.シリアの惨禍は,いわゆるイスラム国家の拡大,スンニ派とシーア派との対立,周辺諸国の不安を高めている.

アメリカはもっと早く軍事介入するべきだった? NATOやアラブ連盟も加えて,飛行禁止空域を設定するべきだった? 地上軍を派遣するべきだった? 初期の民主化の試みを支援し,交渉によって政治的解決を実現できた?

そうかもしれない.

過去がどのような異なるコースを進んだか,われわれは正確に答えることができない.しかし,もっと迅速な,強力な,国際的軍事介入が行われていたら,現在よりも,もっと事態は改善できた,という可能性を排除することもできない.

だが,そのような理想的な結果が得るとして,それは,どの程度ありえただろうか?

この問題について異なる意見の友人たちと話し合ったが,私はなお,シリアへの軍事介入はアメリカの利益にならないし,事態を改善することもない,と考える.その結論は,私にとって楽しいものではない.しかし,それにはいくつかの議論が基礎にあるのだ.

1.アメリカのパワーの限界: 「飛行禁止空域」の設定は,その効果が誇張されている.空軍のパワーだけで地上の結果を支配することは難しい.それは1990年代に「飛行禁止」作戦を空軍が実行しても,2003年に地上軍が侵攻するまで,サダム・フセインがイラクで権力を保持したことでも明らかだ.

確かに,飛行禁止空域があれば,アサド体制を弱め,樽爆弾のような残虐行為を抑制できたかもしれない.しかし,アサドの仲間たちは他の方法で虐殺を続けただろうし,限定的な空軍による介入が十分な効果を発揮しない時,それが容易に,アサド追放に向けた次の軍事介入を求める声につながる,という議論が強まったはずだ.

2.アサド「復活への賭け」: 最初の時点から,シリア問題の重要な失敗は,アサド体制に魅力的な出口がなかったことだ.権力を失えば,アサドを支持するアラウィート派全体が暴力的な報復を受けるだろう.アサド体制には,「復活への賭け」しかなかった.どれほど事態が悪化しても,どれほどひどい手段を使ってでも,この体制を生き延びさせる.

オバマがアサドに退陣を求めても,空爆,飛行禁止,反政府軍への支援,など,その他の圧力を駆使しても,アサドの計算はそれほど変わらない.唯一,内戦終結を早める可能性は,アサドが保護された地位に去ることを認める選択肢であった.アメリカがそれを(確かに楽しいものではないから)最初から排除した.しかも,シリア政府を非常に弱いと見くびり,簡単に放逐できると信じて,真剣な外交努力を欠いた.

3.聖戦主義者たちの参加: アサド追放はさまざまな聖戦主義者を内戦に参加させた.そして,アメリカが支援する反政府勢力について,問題を複雑にした.アメリカの供給する武器が,誰の手に渡るか,わからなくなったのだ.さらに,アサド派を敗退させたのは,多くがこうした聖戦主義者の勢力であった.こうしてアメリカが早期に軍事介入することも,リビアの失敗があったため,できなくなった.真に最悪の事態とは,政府が存在しなくなることだ.

4.アメリカによる軍事支援プログラムの失敗: アメリカは,イラクでも,アフガニスタンでも,シリアでも,支援する軍事勢力の訓練,拡大,強化に失敗した.

5.現実を直視せよ.アメリカは嫌われている: 中東地域でアメリカの果たす役割は,イギリスやフランスの帝国主義に比べて歓迎された,かつてのような積極的な意味を認められなくなった.アメリカの介入は,容易に,「西側」の干渉として非難され,オサバ・ビンラディンが正しかった,と信じさせた.たとえ崇高な動機でシリア政府と戦っても,アメリカの支援を受けると,それを疑われた.戦場でだれか市民が犠牲になると,アメリカ政府が非難され,陰謀論が広まった.

6.誰のために? 何のために介入するのか? どれほどの大国であっても,人道的な理由だけで,多大のコストとリスクをともなう軍事介入に進むことはない.それを正当化するだけの戦略的な利益がなければならない.アメリカにとって,戦略的な問題は複雑であり,深い関与を正当化する直接,簡明な方法はない.結局,民主党政権も共和党政権も,シリアで人殺しの少数派が支配していることを気にしなかったし,アサドが利用できるときには取引に応じたのだ.その意味で,シリアに戦略的利益は限られたものだ.

従って,私がもっとも小さな悪として支持する選択肢は,戦闘の終結に努力を集中することだ.そのためには,アサド政権やロシアの意見も慎重に聴き,協力を求める.停戦後のシリアがどうなるのか,わからないが,もし分割する(アサドが生き残る)なら,それは秩序ある形で,国際的に支援を受けたものでなければならない.

政治は,特に外交は,可能なものを見いだすアートである.

FP SEPTEMBER 23, 2015

The Saints and Smugglers of Syria’s Civil War

BY ELIZABETH DICKINSON


FT September 18, 2015

Why it is wrong to forget Lehman’s fall

Gary Silverman

FT September 20, 2015

Perplexing failure of Europe’s centre-left

Wolfgang Munchau


l  アメリカ連銀の金利引上げ延期

FT September 18, 2015

Breaking free from the US Federal Reserve’s spell

Project Syndicate SEP 18, 2015

Ready for a US Rate Hike?

SHANG-JIN WEI

NYT SEPT. 18, 2015

Watching the Fed, and Remembering the Tequila Crisis

By NELSON D. SCHWARTZ

アメリカの金利引き上げは、主要な貿易相手国や世界の金融市場にショック・ウェーブを広めるだろう。アメリカ連銀は、それが1994年や1995年初めに起きた衝撃を再現することに懸念を強めている。当時の関心はメキシコであった。

アメリカの金利上昇は新興市場諸国の為替レートや金利を不安定化する。特に、通貨の弱い国、債務が過大な国において、深刻な影響がすでに起きている。結局、メキシコはアメリカとIMFによって救済された。いわゆるテキーラ危機とその他の1990年代の混乱が、アメリカ連銀に金利引き上げを延期させた。

国内事情ではなく、こうした国際事情が金融政策の理由として示されたことに、支持する声もあるが、反対する声もある。Lawrence H. Summersは、この決定を支持し、中国など、新興市場には多くの浮動性が現れており、リスクは過小評価される傾向がある、と注意する。他方、Frederic S. Mishkinは、こうした説明は状況を複雑にする、と批判する。

世界はアメリカ連銀の決定に大きな関心を払っており、新興市場の脆弱性は高まっている。しかし、ブラジルなど、新興市場諸国が破局に向かっている、と必ずしも考えるべきではない。こうした経済は、かつてに比べて為替レートの弾力性を高めている。

それでも、国際商品市場の価格下落は、こうした商品の輸出に依存している諸国に強い影響を与えるだろう。ブラジル、インドネシア、ロシア、そして中東の産油諸国だ。

Glenn Hubbardは、アメリカ連銀がこうした理由で金利水準の「正常化」を延期することについて、警告している。すでに多くの事前の注意が市場に与えられている。新興市場諸国は十分に準備時間を与えられたのだ。この過程は漸進的であるし、すでに市場に反映されている、と。

Robert E. Rubinは、これがアメリカの金利の上昇期に入ったことを意味しない、と市場に周知させるべきだ、という。将来の金利引き上げは、経済が回復し続け、インフレの明白なリスクを避けるために高金利が必要だとデータが示す場合にのみ、行われる。それは不確実さを減らし、人々の懸念を和らげる。

FT September 20, 2015

The Federal Reserve’s big messaging problem

ED Luce

NYT SEPT. 21, 2015

The Rage of the Bankers

Paul Krugman

FT September 22, 2015

Central banks have made the rich richer

Paul Marshall

量的緩和(QE)は、高額ボーナスに浸る銀行業界を救済し、裕福な者をますます裕福にした。イギリス労働党や左派勢力が、この点をもっと攻撃しないのは驚きである。

中央銀行はその政策を注意深く説明して、実際の効果を隠している。日銀の円増発は明らかに円安を促しているが、安倍首相や黒田総裁はそう言わない。アメリカでそんなことを言うのは政治的な自殺行為だ。ECBのドラギ総裁も、債券市場に人為的な歪みを生じさせ、ヨーロッパ周辺の政府債券に低金利を許している。

それらを認めるのではなく、中央銀行は2つの目的を説明する。1QEは、銀行システムの資金を供給し、1930年代のような金融ひっ迫を避ける、2QEは、いわゆる「ポートフォリオ効果」を通じて、債券購入を増やし、すべての資産価格を上昇させる。

銀行やトレーダー、資産マネージャーは、こうしたQEから多くの利益を得ているのだ。これに対して、労働党の新しい指導者たちMr McDonnell and Jeremy Corbynは、インフラ建設に目標を限定したQEを求めている。すでにイングランド銀行はQEの終息を目指しており、この要求が実現することはないが、新しい金融危機に直面したなら、大いに注目を集めるだろう。

たとえ政府に融資することに反対する意見があっても、QEは分配に大きな影響を与えており、インフラ投資型のQEにより、自由市場はその正当性を得るだろう。

Project Syndicate SEP 22, 2015

Why the Fed Buried Monetarism

ANATOLE KALETSKY

なぜアメリカ連銀が金利引き上げを延期したことは大きな驚きを伴って報道されたのか? 金利を引き上げなかったからではなく、その説明が衝撃を生んだのだ。すなわち連銀は、「自然失業率」とみなされている5%より低い水準に失業率を下げることを望んでいる、とわかった。

インフレと失業率との関係は、金融政策の中心テーマである。Milton Friedmanが開拓したマネタリスト理論は、金融政策を狭くインフレ率だけ目標にすることを正当化した。なぜなら、インフレ率を高めるという合理的な期待があれば、金利低下はその効果を発揮しないからである。失業率が低過ぎれば、インフレは加速する。「インフレを加速させない失業率(NAIRU)」が金融政策の前提となった。

この理論は、当時、2ケタのインフレで苦しんでいた中央銀行に、高金利に反対する労働組合などの勢力を無視する正当性を与えた。こうした政治的、イデオロギー的な理由が、実証ではなく、マネタリスト理論を重視されて来たのだ。

今、アメリカ連銀はマネタリストを否定し、かつてのようなインフレと失業とのトレード・オフを考慮する姿勢に回帰した。多くの専門家やジャーナリストが今もマネタリストとして連銀を批判するかもしれないが、それを無視することだ。

FP SEPTEMBER 23, 2015

Our Currency, Everyone’s Problem

BY PAOLA SUBACCHI


後半へ続く)