前半から続く)


l  EUの新しい挑戦

Bloomberg SEPT 14, 2015

Europe Discovers a New Geography

By Robert D. Kaplan

多くの危機が襲いかかって、倦怠感の漂うヨーロッパは各地で崩れつつある。地中海はヨーロッパの境界とならず、アフリカの移民やキャラバンがサハラ砂漠の境界を越えていくように、ヨーロッパに向かっている。歴史的にバルカン半島がそうであったように、今もバルカン諸国は近東からの人口移動を抱えている。

数十年も、ヨーロッパの夢とは、EUが脱国民国家型の繁栄と法の支配を実現するパラダイスとなって、徐々に、さまざまな協力関係を拡大して、市民社会の境界線を連続する諸地域に拡大することであった。しかし今、その過程は逆転しつつある。隣接地域の不安定性がヨーロッパ自身に輸出され、民族大脱出の超大陸であるユーラシアが、ヨーロッパを再統合し始めている。

この混乱は、いくつかの国で、社会福祉国家が現行の水準で維持できなくなると同時に、起きている。福祉国家こそ、20世紀の大虐殺を経験したヨーロッパのエリートが示した道義的な答えであった。多年に及ぶ経済停滞、金融政策の失敗がもたらした悪影響は、ポピュリスト運動を生じた。

あまりにも低い成長率に、犯罪やテロ事件が重なって、大衆のムードは急速に暗くなるだろう。ヨーロッパは、何十年もその境界をなくそうとしてきたが、再び境界線を固め、内務大臣たちが設計する警察国家に向かっている。国民性が、まだ、あまりにも血縁や宗教によって決定される大陸において、さまざまな壁が要求されるだろう。

ヨーロッパの脱近代が始まると、流動化した地理が再現し、冷戦の最後の残滓を消し去っていく。というのも、ヨーロッパからイスラム教徒の大集団を切り離していた中東や北アフリカの全体主義的諸国家は、リビアからアフガニスタンまで、主要部分で破壊され、アナーキーが広がっているからだ。ヨーロッパ要塞はもはや存在しない。

古来、人口的な、そして軍事的な、混乱は東からやってきて、ヨーロッパの形を変えた。東からの挑戦は、現在、2つの側面を持つ。イスラム教徒の難民と、攻撃的なロシアである。ロシアは、強くても、弱くても、危険である。強ければ、ウクライナ、モルドヴァ、リトアニアを脅かし、エスニシティや歴史の書き換えを求めるヨーロッパのポピュリストを刺激する。弱ければ、ロシア国内のより悪質なナショナリズムが広がり、経済状態の悪化とともに諸制度が崩壊するだろう。

ヨーロッパは、単に諸国民であるより、諸国家の集まりである。それらはエスニックや宗教にかかわらず、法の支配を守り、個人を守っている。この点で、東側にあった諸国では、EUが人々の信頼を得ていない。

同時にEUの指導者たちは経済状態を改善しなければならない。根本的な、経済・金融改革を通じて、バランス・シートを改善することは、ヨーロッパの他の諸問題を解決する余地を拡大する。持続的な成長は、ポピュリスト政党の魅力を失わせ、ヨーロッパ社会が中東や北アフリカからの移民をもっと多く統合できるはずだ。防衛費の増額はロシアに強いメッセージとなる。若者たちの雇用状態や将来を明るくし、ヨーロッパの長期の安定性に重要な意味を持つ。リー・クアンユーが世界の反対側で示したように、正直で、個人的なコネを遮断した諸制度は、より大きな、敵対する諸国家のある地域でも、シンガポールという小国を生き延びさせることができた。

福祉国家の改革は、その廃棄ではない。根本的には、構造的な経済改革が、スローモーションのヨーロッパ崩壊を解決する。そうでなければ、経済政策や財政政策のダイナミズムを発揮できず、外からの脅威にも自国の利益、ゼロサムの行動に向かって、ユーラシアの混沌に飲み込まれる。それはアメリカを孤立させ、EUが破棄されてナショナリズムのイデオロギーに戻るだろう。

政治的ビジョンは強い経済的基礎を要求する。地理は重要だ。しかし、人間の仲介機関はもっと重要だ。

Bloomberg SEPT 16, 2015

Why Russia and the U.S. Disagree on Syria

By Leonid Bershidsky

プーチンの支持するウェストファリア型の国家主権か、より現代の事例に依拠したヨーロッパの支持する「保護する権利」によって国際介入を正当化する国家主権の制限か、プーチンのロシア(そして、中国)とヨーロッパや国連は対立している。アメリカは、その中間である。

Project Syndicate SEP 16, 2015

A Eurasian Solution for Europe’s Crises

SERGEI KARAGANOV

FP SEPTEMBER 17, 2015

The Guns of August, the Cease-Fire of September

BY FILIP WARWICK


l  ユーロ圏の成長戦略

Bloomberg SEPT 14, 2015

Where the Euro Goes From Here

By Clive Crook

Project Syndicate SEP 15, 2015

A Growth Strategy for Europe

HANS-HELMUT KOTZ, ERIC LABAYE and SVEN SMIT


l  シリア危機

Project Syndicate SEP 15, 2015

Solving Syria in the Security Council

JEFFREY D. SACHS


l  民主主義への幻滅

NYT SEPT. 15, 2015

Across the Globe, a Growing Disillusionment With Democracy

By ROBERTO FOA and YASCHA MOUNK


l  ケインズ主義

NYT SEPT. 15, 2015

Keynesianism Explained

Paul Krugman - New York Times Blog


l  共和党候補者討論

NYT SEPT. 17, 2015

Crazy Talk at the Republican Debate

By THE EDITORIAL BOARD

FP SEPTEMBER 17, 2015

Not Much of a Debate

BY KORI SCHAKE

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The Economist September 5th 2015

Trump’s America

The Trump campaign: The art of the demagogue

Europe’s migrant crisis: Merkel the bold

Victory Day celebrations: Parade’s end

Buttonwood: With great power

(コメント) 全く問題にしていなかったトランプが、共和党大統領候補者指名争いで、なぜこれほど成功しているのか? 共和党の選挙マシーンがトランプを排除できなくなったのはなぜか? ティー・パーティーなど、保守派が利用してきたポピュリズム運動に、共和党自身が翻弄されている。トランプにとって、保守派の小さな政府にも、リベラルの大きな政府にも、意味がない。問題が、だれがそれを動かすか、である。トランプは、アメリカ政治システムの敵対的買収に成功しつつある。トランプはいつか消滅する。しかし、議会、大統領、最高裁の、微妙なバランスに立つアメリカ型民主主義のシステムが、深刻な問題に陥った。

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IPEの想像力 9/21/15

「強行採決」をめぐって争う国会。その映像が何度も流れました。

ニュースステーションで、中島岳志の「4つの崩壊」(憲法、国会、保守主義、公明党)論を、そして、寺島実郎からは、祖父のイメージに執着する安倍政権への警告、米中首脳会談に注目せよ、を聞きました。

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卒業研究ゼミの夏合宿です。・・・なかなか、そういうものでもなかったですが。

学生たちの報告を聞いて、皆が卓球やバーベキューで盛り上がった後、近くのお風呂に行きました。それまで、安保法案の話は、まったく出ませんでした。東京の国会前デモを映す映像とは、まるで違う宇宙です。

風呂上がりのテレビルームで、ニュースをつけると、常総市の水害避難、ペルー人男性による連続殺人、と並んで、国会の強行採決が映りました(安倍首相は国民の関心が分散する「幸運」を得たわけです)。少し解説も付いたので、学生たちに「先生はどちらですか?」と、訊かれました.

私は、賛成にも反対にも不満な気持ちを、「不十分だ。」という言葉で返しました。これは、せっかくの問いに、不十分な!答えでした。彼らの話題は、すぐに飛んでしまいました。

・・・私の第1の印象は、これは政治ショー(舞台)だ、でした。現代日本の政治ショーとして、この法案可決は何をもたらすのか? ・・・多数決なんだから、意味ないよ。・・・民主党はアホだ、という学生の感想が、もちろんすべてではないですが、若者の受け取り方だと思いました。(そして、寺島氏が紹介したように、戦争法案に反対する国会前デモで感謝の挨拶をした野党代表たちに、若者は「お前たちのためにしてるんじゃねえよ!」と切り捨てた。)

この政治家たちの「政治ショー」が重大な意味を持つことに失敗したのは、日本に政治的な「5つの不在」があるからです。すなわち、アメリカの不在、政権交代の不在、中国の不在、投資家(資本逃避)の不在、国民の不在。

日本の安全保障に、アメリカが何か言う、要求を示すことがあれば、重大な意味を持ったでしょう。欧米の見方は、安倍氏のナショナリズム、旧式の愛国主義復活に警戒するものの、日本政府のデフレ対策や安全保障の取り組みに期待する、という、東アジアの重要な友好国の姿勢を尊重するものです。

言い換えれば、選挙で民主的に政権を得た安倍首相を含む、日本政治の受容でした。そして、東アジアの安全保障に日本が軍事や人員を負担することを歓迎します。もし民主党が踏み込んだ安全保障構想を示していれば、アメリカがそれを自民党と比較したかもしれません。

政権交代の不在、これこそ、安倍政権の「暴走」、あるいは自信を強めているわけです。もしいまだに、民主党の「政権交代」選挙とその後の権力喪失が影響しているとしたら、敗北から学ぶべきであった民主党の責任は重大です。強行採決しても、自民党や安倍政権の支持率は下がらない、そういう前提が、政治を無風化しています。

安倍政権が批判を無視できるのは、衆参両院で多数を占めているからです。それを助けたのは、中国との尖閣諸島をめぐる紛争でした。あるいは、北朝鮮の拉致問題や核の脅威、韓国との従軍慰安婦問題、靖国神社参拝問題、などです。国際紛争をナショナリズムに転換する間違った政治メカニズムを、自民党政権は利用しました(アメリカ共和党のティー・パーティー)。

中国の不在は、国会が何について議論しなければならないのか、争点を見失わせたと思います。日中の首脳会談は開かれず、互いの政治対話が国内政治に影響することを双方の支配者が遮断しています。日本政府は、日米同盟や抑止力を議論するのではなく、日中関係や東アジアの安全保障構想を示すべきでした。

投資家(株価・国債価格・円相場の急変、資本逃避)の不在も重要です。これが「強靭国家化」の成功でしょうか? まさか。アベノミクスと日銀への期待を引き延ばすしかない、敵対しつつ中国市場に頼るしかない企業家たち、政治的な相場への依存は深刻です。

もし政治家たちが国会で安倍政権の間違った政策を阻止できないと考えるなら、直接、国民に訴えることです。街頭で、駅前で、商店街で、ビジネス街で、政治家たちはパンフレットを配り、報告会を開いて、有権者に安倍政権の間違いを説明しなければなりません。

それは国民の不在です。国民という政治的な主体を生み出すために、日本中の町や村で、さまざまな生活を送る人たちの話を聴き、その願いや苦しみを代弁できる政治家たちがいないなら、政治のショーは茶番でしかない、と言われます。

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「国民」がさまざまな論争に参加し、見聞を広めて、東京の若者たちが起こすデモに呼応して、辺境の農家も、地方都市の商店街も、実力のある政治家や深い外交感覚の水準を見極める姿勢を示すとしたら、政治の舞台の興奮は、この国の浮沈を決めるはずです。

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