前半から続く)


l  中国経済の変調

FT September 4, 2015

The global economy and the fallout from China

Project Syndicate SEP 4, 2015

A False Alarm About China

SHANG-JIN WEI

株価の下落は中国の成長を予測するものではない。

中国経済の減速はファンダメンタルズの変化によるものだ。すなわち、人口動態、輸出と工業化からサービスと国内消費へ、先進諸国の需要低下、である。中国の成長の結果として、賃金上昇が進み、以前の技術移転と低賃金による成長モデルはその余地が限られている。

しかし、小売りや住宅部門は伸びており、労働市場も健全にサービス部門で雇用を増やしている。中国の株式市場は、個人投資家が中心となって、短期の利益を求めて売買を行うことが、今回のような下落になった。上場企業は一部の国有企業だけで、経済全体を代表していない。

成長を続ける能力は、株式市場以上に、改革を実行する能力によるだろう。それは長期的に、そう生産性を高めること、にかかっている。国有企業や金融部門を改革し、企業の税負担を減らし、労働市場を弾力的にする。

Project Syndicate SEP 4, 2015

China Confronts the Market

JEFFREY FRANKEL

中国政府や人民銀行PBOCの政策は、人民元の切下げで通貨戦争を招くとか、バブルをあおって、その下落に対しては無駄な市場介入を続け、市場を規制した、という非難がなされている。それは間違った非難である。

市場圧力にゆだねた場合、人民元の減価は大幅に進むだろう。それは人民元の国際的な役割を高め、為替レートの決定に影響力を強めることだけでなく、中国政府の望む成長率の維持にも反している。様々なファンダメンタルズの変化を反映して、人民元の調整は必要なものであった。

中国政府が採用したマージン規制や預金準備室の引き上げは、先進諸国が議論しているマクロ・プルーデンシャル規制に一致している。確かに変動レート制への移行には遠いかもしれないが、人民元の自由な利用を実現する方向で改革を進めている。

FT September 7, 2015

China will stumble if Xi stalls on reform

Robert Zoellick

FT September 7, 2015

China’s changes will help developed world

Diana Choyleva

中国の構造的な成長の減速に、最も破壊的な要素を加えるのは日本だ。日本経済は金融による量的緩和しか刺激策がなく、人民元との破滅的な切り下げ競争を開始する恐れがある。それは、アメリカの金融引き締めを予想して、ますます不安になる投資家たちが中国への信頼回復を難しくする。


l  ギリシャのコーポラティズム文化

Project Syndicate SEP 4, 2015

The Foundations of Greece’s Failed Economy

EDMUND S. PHELPS

多くの政治家やエコノミストたちが緊縮策をギリシャ経済崩壊の原因として非難しているが、それは誇張である。データによれば、ギリシャの緊縮策は歴史的に見て特別ではなく、大幅な失業を説明するほど大きくもない。経済的困窮の原因は、ギリシャ社会の価値観や信念にある、とデータは示す。

ギリシャの公共部門にはコネや身内の利益が支配している。既得権者の影響力、ビジネスと政治のエリートが民間部門も動かしている。市場競争は歓迎されない。ギリシャのコーポラティスト文化が改革と経済成長を妨げるのだ。連帯、管理されない変化の拒否、など、そうした価値は家族の繁栄をもたらすように見えるが、経済停滞、キャリアの固定化の元凶である。

エコノミストの中には、こうした行動的な説明を無意味だと考える者もいる。需要が十分あれば、そうした問題は重要ではない。しかし、回復を遅らせているのは構造的な制約だ。ギリシャだけでなく、ヨーロッパ全体に、コーポラティズムが広まっている。

FT September 6, 2015

Greece, democracy and the labour of Hercules

VOX 07 September 2015

Towards a consensus on the causes of the EZ Crisis

Richard Baldwin, Francesco Giavazzi

VOX 07 September 2015

Breaking the Greek debt impasse

Barry Eichengreen, Peter Allen, Gary Evans

ギリシャは債務を組み替えるべきだ。GDPに連動する、など、いくつかの改善策も含めるべきだ。

NYT SEPT. 8, 2015

Yanis Varoufakis: How Europe Crushed Greece

By YANIS VAROUFAKIS

Project Syndicate SEP 9, 2015

A New Chance for Greece

YANNOS PAPANTONIOU


l  4つのドル

Project Syndicate SEP 4, 2015

The Art of Capital Flight

KENNETH ROGOFF

たとえば、高級絵画の売買によって、資本逃避が行われている。その方法は次々と現れ、中国当局にも規制できない。

ある推定では、近年の中国からの資本逃避額が3000億ドルに達したようだ。

NYT SEPT. 4, 2015

Other People’s Dollars, and Their Place in Global Economics

Paul Krugman

世界には4つのドルがある。グリーンバックというアメリカ・ドル、オージーすなわちオーストラリア・ドル、カナダのルーニー、ニュージーランドのキューイー。

その通貨のあり方は大きく異なるが、いずれの経済も繁栄している。ときには、アメリカ・ドルが国際通貨であるために大きなパワーをもたらす、と言われる。また、それが大きな負担である、とも言われる。

しかし、それ以外のドルは、決して不利益な条件ではない。ユーロ圏に参加することを拒んだスウェーデン国民は、そのエリートたちの予想を裏切って、経済パフォーマンスを良好に保っている。小国が独自の通貨を持つことは、切下げによって不況を回避することができる点で、有益だ。

人々は通貨の役割や国際通貨制度を誇張している。資本移動と貿易にとって重要なのは、法的・政治的に安定した条件下で、経済が優れた投資機会を提供できるか、ということだ。

FT September 6, 2015

Capital flight now the big concern for slowing China

Henny Sender in New York

FT September 7, 2015

Beijing faces up to its monetary trilemma

たとえ35000億ドルの外貨準備があっても、中国も金融政策のトリレンマを逃れられない。


l  難民と空爆

FP SEPTEMBER 4, 2015

The Curse of the Obama Doctrine

BY DAVID ROTHKOPF

FP SEPTEMBER 8, 2015

President Obama and His Diplomats Check Out of the Waldorf

BY COLUM LYNCH

The Guardian, Wednesday 9 September 2015

Western bombs won’t defeat Isis. Only a wider peace deal can draw its poison

Seumas Milne

難民・移民の危機を空爆で解決できるのか?

シリアを空爆するべきだ。イスラム国家を攻撃するべきだ。イギリス、フランスで、再び空爆や地上君、飛行禁止空域の設定が主張されている。

しかし、NATOの地上軍による占領は成功しなかった。紛争を解消する他の方法は、地域の大国が集まって交渉することだ。シリアは長期に及ぶ代理戦争を戦っている。ロシア、イランが支援するアサド体制に、湾岸諸国、トルコ、西側諸国が様々な反政府組織を支援してきた。

シリア内戦の解決策は、西側が湾岸諸国に圧力を加えることであり、空爆ではない。代理戦争を終われば、イスラム国家も、ヨーロッパ難民危機も鎮静化できる。

FP SEPTEMBER 9, 2015

Obama, Open Your Eyes

BY FREDERIC C. HOF

NYT SEPT. 10, 2015

Obama's Syrian Nightmare

Roger Cohen


l  貧困問題

FP SEPTEMBER 4, 2015

Eat the Rich and Pay the Poor

BY ROSA BROOKS

FT September 8, 2015

Living wage will hit profits and jobs, warns new CBI head

Sarah Gordon, Business Editor

NYT SEPT. 10, 2015

A Smarter Way to Raise Paychecks

By OREN CASS


l  グローバル・リーダーシップとは何か?

FP SEPTEMBER 4, 2015

What Do Politicians Really Mean by “Global Leadership?”

BY STEPHEN M. WALT

私は、アメリカ大統領候補者たちに、「グローバル・リーダーシップを守る」とは何を意味するのか、彼らの説明を聞いてみたい。それがどのようにアメリカ国民の安全と繁栄を保障し、アメリカの基本的な価値を促進することにつながるのか? と。

すべての候補者が言うはずだ。「強いアメリカを再生する。」 「同盟諸国を確保する。」 「アメリカの約束に対する信頼を回復する。」 そういった星条旗を振り回すような発言だけでは不十分だ。あなたの政策を採用することが、どのようにそれらの目的を達成するのか? そして、その証拠を示してほしい。

しかし、他国に比べて、アメリカはすでに十分に安全で、地政学的な優位を持ち、経済は多様で繁栄しており、それを改善するのはむつかしい。世界中から才能ある人々が移民として集まるように、社会はダイナミックで、魅力的だ。

このことは、アメリカが世界の問題に積極的にかかわる必要がない、という意味にならない。しかし、世界各地の問題に関わるのは、その必要を「グローバルなリーダーシップ」として正当化するのが、彼らが思うほど容易ではない、ということだ。特に、最近の事件では、こうした正当化が間違いであったから。

「グローバルなリーダーシップ」とは、ヨーロッパやアジア、ペルシャ湾のような重要地域で「安定性を維持する」ことか? アメリカの抑止力を頼る諸国に対する信頼感を高める? 航海の自由、国際法、環境保護、など、「グローバルな公共財」の供給を行う? 

アメリカ人の基本的な価値を実現するために「グローバルなリーダーシップ」を求める、というのは、最も現実に反している。共和党も民主党も、近年、こうした価値を実現しなかったからだ。イラク侵攻は中東の過激主義を刺激したし、人権を否定するエジプトの軍政をアメリカは支援した。

「グローバルなリーダーシップ」を、もっと明確な、アメリカの利益をもたらすために支持する主張もある。しかし、アメリカの軍事力維持には、国内の財政赤字を拡大した、という主張がある。政府債務の増大が、バブルにつながる政策を好み、その後に金融危機に至った。

アメリカが自分たちを要塞化して、世界の問題から切り離されることを、私は支持していない。しかし、納税者たちは負担する理由を聞きたいし、積極的な外交政策がどのように利益をもたらすのか、知りたいはずだ。

NYT SEPT. 8, 2015

The Anti-Party Men: Trump, Carson, Sanders and Corbyn

David Brooks

SPIEGEL ONLINE 09/10/2015

America's Oligarch Problem

How the Super-Rich Threaten US Democracy

An Essay By Markus Feldenkirchen


l  分割された労働者たち

FP SEPTEMBER 4, 2015

Workers of the World, Divided!

BY BENJAMIN SOLOWAY, ED JOHNSON

NYT SEPT. 9, 2015

Walls, Borders, a Dome and Refugees

Thomas L. Friedman


l  イギリス労働党

FT September 7, 2015

A more progressive manifesto for Labour

Matthew Taylor

The Guardian, Tuesday 8 September 2015

The City’s stranglehold makes Britain look like an oh-so-civilised mafia state

George Monbiot

Bloomberg SEPT 8, 2015 2:00 AM EDT

Advice for the New Old Left

By Clive Crook

FT September 10, 2015

Jeremy Corbyn for UK Labour party leader? Blame the bankers

Philip Stephens


l  アメリカ連銀

Project Syndicate SEP 7, 2015

Fed Up with the Fed

JOSEPH E. STIGLITZ

世界金融危機からの回復はまだ不十分であり、アフリカ系、ヒスパニック系のアメリカ人には、危機による多くの失業者が残っている。連銀が金利を引き上げるのは景気の過熱を抑えることが一般的であり、今はむしろインフレが好ましい。

金利引き上げ論は、労働者ではなく、銀行家たちの利益である。

FT September 8, 2015

The case for keeping US interest rates low

Martin Wolf

FT September 9, 2015

Why the Fed must stand still on rates

Lawrence Summers

FT September 9, 2015

Era of low interest rates fails to generate growth policymakers expected

Sam Fleming in Washington

超低金利と量的緩和は、連銀が望んだような景気刺激効果を生んでいない。他方で、金融市場は不安定化しつつある。

FT September 9, 2015

Interest rate rise: turning point looms for US debt binge

Eric Platt in New York

FT September 9, 2015

Monetary policy operates with a time lag so US Fed must act soon

Richard Fisher

連銀はインフレを測るべきだ。新しい指標を作ってはどうか?

Project Syndicate SEP 10, 2015

The World When the Fed Raises Rates

MARTIN FELDKIRCHER, FLORIAN HUBER and ISABELLA MODER


l  政治指導者たちの認識

Project Syndicate SEP 7, 2015

The Crisis of Our Crises

JEREMY ADELMAN

ギリシャの債務、シリアの内戦、ウクライナの膠着状態、こうした事態は無関係に起きているのではない。

過去60年間は、世界が史上かつてない平和と繁栄を経験したが、その理由は単純だ。各国は自発的に国際社会に統合化し、そこではルールや規範が共有されていたのだ。しかし、その傾向は変わった。各国は部分的な危機対策、緊縮やダメージ・コントロールをバラバラに試みている。指導者たちは、相互依存した世界の扱い方を忘れたのだ。

かつてハーシュマンAlbert O. Hirschmanは、危機が解体に向かうことも、統合に向かうこともある、と述べた。諸個人や組織は、苦境において政策担当者への信用を失うと、その制度や社会から逃げ出す”exit”か、あるいは、一緒にそれらを再生しようとする。

現代では、危機がはるかに解体の傾向を強めた。ギリシャを苦しめる資本逃避は昔からあった。アダム・スミスは移動可能な資本を、一般的な利益に役立つ公共政策の改善を促す力がある、と考えた。しかし、緊密に統合化した現代世界では、マウスをクリックすると、資本が国境を超える。投資家たちは妥協を模索している時間がない。

政策担当者たちは改革のための合意形成を試みるが、統合化や協力を促す協定・政策を再生する見込みは悪化した。

しかし、グローバルな統合化の危機は、グローバル・システムを再生する触媒にもなる。大恐慌と第2次世界大戦後がそうだった。

ヨーロッパは、ギリシャ債務危機を包括的に解決せよ。改革に向けて投資せよ。脱税を防いで、雇用をもたらすインフラの更新や教育に投資せよ。ロシアとの危機をあおってはいけない。むしろ、多くの重要な国際問題で協力せよ。

指導者たちが、危機の共通の源泉、世界の緊密さを認識することだ。


l  日本の救済

Bloomberg SEPT 7, 2015

This Woman Could Revive Japan

By William Pesek

FT September 9, 2015

The third arrow of Abenomics: a scorecard

Robin Harding and Leo Lewis in Tokyo

Bloomberg SEPT 9, 2015

Japan's Tax Cuts Don't Go Far Enough

By William Pesek


l  ドイツの離脱

Project Syndicate SEP 9, 2015

Should Germany Leave the Euro?

MICHAEL HEISE

ギリシャのユーロ圏離脱が議論になった結果、ドイツが離脱する方がヨーロッパ経済にとって良い、という考えも関心を集めている。

しかし、ドイツの離脱は間違いだ。1.ドイツ離脱によるユーロ安が成長につながる、というのは間違いだ。インフレが高まるだけであろう。2.競争力は、為替レートだけで決まらない。3.ユーロ圏の試みを完全な失敗とみなすのは間違いだ。

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The Economist August 29th 2015

The Great Fall of China

China and the world economy: Taking a tumble

Migration to Europe: Let them in and let them earn

Migration in Europe: Looking for a home

(コメント) 中国を含めた新興市場が、アメリカの金融引き締めで、資本流出による通貨・金融危機を再現するのか? 記事は、アジア通貨危機との根本的な違いを指摘します。問題は長期的に生産性を高めることである、と。

ヨーロッパの難民危機、移民問題に関して、私はルイス・モデルを思います。その閉鎖型と開放型に加えて、今やグローバル型があるのでしょうか? 記事が、難民たちを受け入れて、彼らが労働者として優秀であることを活用できる市場と社会であるように、と主張する点は、まったく私も同意見です。

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IPEの想像力 9/14/15

Foreign Policy誌でSTEPHEN M. WALTが、トランプに限らず、アメリカ大統領候補たちに「グローバル・リーダーシップ」の意味を訊いてみたい、と書いていました。

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ヨーロッパの債務危機と難民危機は、さらにウクライナ危機や極右政治家や分離独立主義にもおよびます。

しかし、ヨーロッパの政治は世界の縮図でもあります。同じようなことは、形を変えてアメリカでも起きていますし、東アジアでも始まっていると思います。

政治経済の安定的な秩序の下で、人々が協力し、統合化が円滑に調整される過程は、ある地理的な限界と、社会的に共有された政治意識、共同体の繁栄に関する思想・理想を必要とします。

1次世界大戦と第2次世界大戦は、長い一つの戦争であっただけでなく、大西洋を越える戦争であり、また、太平洋を挟んだ戦争でもありました。

民族に依拠した国民国家という政治モデルが革命や政治不安を刺激し、資本が組織する市場経済という経済モデルが金融危機や大量失業を生みました。

世界に中心となる国家、機能する政治経済モデルと支配的な思想があるとき、他の地域でも統合化に向けた抗争が刺激され、各地の社会対立や国際紛争に、大国が安定的に関与する仕組みが現れます。

イギリスが中心であった世界には、工業化や自由貿易、帝国主義と国際金本位制がありました。

アメリカが中心になった世界では、完全雇用と需要管理を説くケインズ主義があり、アメリカ経済の成長とドルの供給、核兵器をはじめ、圧倒的な軍事力の集中がありました。

中国がもし中心となって世界を再構築するとしたら、それは何を支配的なルールにするのでしょうか?

・・・あるいは、もはや単独で中心となる国は現れないのでしょう。ドイツが平和的にヨーロッパを統合するとか、インドがパキスタンやバングラデシュと統一した政治体を築くようなことがない限り。

むしろ、・・・情報通信革命やロボット、人工知能、性革命から生命科学の急速な知識増大で、コミュニティーや生命体としての姿を大きく変え、エコロジー危機と難民危機を繰り返し経験し、さらに都市化し、高齢化し、少子化する社会に生きる人類は、まったく異なる文明への転換を迎えるのではないでしょうか?

こうした問題、すなわち、グローバルな政治経済危機について、私は日本の政治家たちに訊いてみたいです。

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