前半から続く)


l  石油価格の下落

Project Syndicate AUG 28, 2015

Cheap Oil and Global Growth

ANATOLE KALETSKY

石油価格が,昨年,110ドルから55ドルに半減した理由は,サウジアラビアが市場シェアを拡大するために生産を増やしたからだ.しかし,最近の数週間の下落は何か? 2008年後の金融危機以後の最安値になって,世界経済にどのような影響を及ぼすのか?

ふつう,中国経済の減速が石油価格を下げた,と言われる.まるで世界不況の前兆のように.しかし,それは間違いだ.石油価格の下落は世界景気の回復を強く予想させるものだ.最近,石油価格が半減した時期(1982-1983, 1985-1986, 1992-1993, 1997-1998, and 2001-2002)は,その後,急速な世界成長が続いた.逆に,石油価格の上昇は,その後に世界不況が起きた.

石油価格と世界成長には強力な経済メカニズムが働いている.石油価格が10ドル下げるごとに,3400億ドルが石油生産国から消費国に移転する.昨年8月以来,60ドルの下落は,2兆ドル以上の所得移転が消費国へ向けて起きた.それは2009年の米中における財政刺激策を超えている.

石油消費者はその所得を速やかに消費し,他方,政府は支出を借り入れや外貨準備で維持する傾向があるから,安価な石油価格は世界の景気に必ずプラスである.石油価格が急落した理由は,中国の需要が減ったからではなく,中東の地政学にある.

サウジの政策転換は,イランの核合意の数日前に起きた.イランは制裁を解除され,世界市場に石油を輸出するだろう.石油のトレーダーたちは,この地政学に注目した.石油輸出諸国Libya, Russia, Venezuela, and Nigeriaは,いずれも価格の低下に苦しんでいるが,同時に政治的な混乱に落ち込み,安定化する兆しはない.昨年のイラクのように,今年はイランが供給を増やす.

新たな競争的石油市場で,サウジの独占は破壊され,北米の技術革新が価格の上限を1バレル50ドルほどに決めるだろう.

世界経済を心配するなら,株価など忘れて,安価な石油が世界成長を刺激することを思い出せ.


l  先進諸国と新興経済

Project Syndicate SEP 3, 2015

Globalized Crisis

HAROLD JAMES

2008年の世界金融危機は、アメリカのサブプライム・ローンで始まった。2010年には、ヨーロッパの債務危機に転化した。今では、中国の減速と株価下落が注目されている。ロシアやブラジルの経済も危ない。

グローバリゼーションによって、経済危機はますますグローバルな性格を強め、政策担当者たちの次の課題は自国への破壊的影響の緩和である。

しかし、ヨーロッパの諸問題の原因が単純に1つの原因、共通通貨の採用、で説明できるわけではない。イタリアは長期の停滞を抱え、スペインはアメリカ型の住宅バブルを生じ、ギリシャは政府による景気過熱によって現在の苦境に陥った。持続不可能な政策に対する是正策が必要で、それらの複合した現象がユーロ危機である。

アメリカの危機も不均等だ。フロリダやアリゾナはミシガンと違う問題に苦しんでいる。ロシア、ブラジル、中国の経済は、それぞれ減速した理由が異なる。それらには対処する方法があるけれど、最も効果的な戦略は長期的に生産性を高めることだが、どこにでも当てはまる単純な公式ではない。しかし、残念ながら、政治は短期的な答えを求め、即座に需要を増やそうとする。特に、通貨価値の切下げだ。

他に解決策のない日本が、アベノミクスで円安を進めて成功したが、ヨーロッパも不況を回避するために切下げを求めている。そして、アメリカの回復が早かったのも、ドル安のせいだと疑っている。今や中国の番だ。

問題は、もちろん、すべての国が同時に切下げできないことだ。大恐慌後は保護主義を導いた。また、人間や資本が移動しやすくなった。多くの人々が、新興経済の不振によって、他の土地でよい生活を探し始める。紛争地域の広がりだけでなく、こうした経済移民の増大が、流入する側の国で自国民優先・差別主義を刺激する。

新興経済の裕福な市民は、その資本を守るために、グローバルな避難所、ニューヨーク、ロンドン、ジュネーブなどへ投資する。それは利益をもたらし、ダイナミックな姿をとるが、同時に、住民にとって住宅価格の高騰、過密、長時間の通勤、住環境の悪化を生じる。

1930年代よりも、経済危機の破壊力を抑えることに成功した。しかし、欧米の新しい課題は、他の地域で経済的・政治的な困難を強めないことだ。


l  イスラム国家

NYT AUG. 28, 2015

When ISIS Rapists Win

David Brooks

ISISによる構造化された強姦プログラム、人間の奴隷化は、完全に21世紀の世界を破壊している。ISISは、その支配地域で、国民国家とその時代の記憶を抹消する。その未来とは、カリフ国家の統合体だ。

これは単なる野蛮さではない。全く異なる歴史観の戦争だ。軍事支援や訓練でISISを倒すことはできない。


l  労働

NYT AUG. 28, 2015

Rethinking Work

By BARRY SCHWARTZ

NYT AUG. 28, 2015

Buying Sex Should Not Be Legal

By RACHEL MORAN


l  中国の政治

NYT AUG. 28, 2015

Why Parrot Beijing’s Line?

By HELEN GAO

FP AUGUST 31, 2015

How to Draw a Cartoon of Xi Jinping in Bed with Another Man

BY ISAAC STONE FISH

シリアのアサド大統領が、ロシアと中国の支援を受けて、虐殺を続けている漫画。イスラム国家に比べても、毛沢東のほうがもっと多く殺した、と自慢する肥満男性の漫画。

中国人の政治風刺漫画家、Wang Limingは、Rebel Pepperとして有名である。習近平が若い男とセックスした後の風刺漫画を描いたが、中国で暮らせなくなった。日本に逃れて生活し始めたが、日本政府は亡命者を受け入れず、特に中国からの亡命を認めない。

秘密警察に囲まれて、中国に連れ帰られる、という彼の悪夢は今も消えない。

FT September 1, 2015

Chinese environment: Ground operation

Lucy Hornby

FP SEPTEMBER 2, 2015

We’re Still Fighting the Japanese in Bed’

BY ROBERT FOYLE HUNWICK


l  ソフトな目標

FP AUGUST 28, 2015

The Soft Logic of Soft Targets

BY STEPHEN M. WALT

ハイウェイ事故、家庭内のもめごと、自殺、これらの方が、テロよりも多くの犠牲者を出している。


l  イラン合意

FT August 30, 2015

The real cost of the Iran deal

Roula Khalaf

オバマ政権は、イラン合意を議会で支持してもらうため、これが中東の同盟関係を組み替えるような大きな取引ではない、と主張している。しかし、王政や軍事独裁を再建した諸国、サウジアラビア、エジプト、ヨルダンで、これまでの同盟関係は失われ、それを修復するのに多くの援助や安全保障への関与を約束する必要があるだろう。

イラン合意のコストは、まだ増えそうだ。

NYT SEPT. 1, 2015

What Should Obama Do Next on Iran?

By NICHOLAS BURNS

NYT SEPT. 3, 2015

Iran: The Obamacare of Foreign Policy

Roger Cohen


l  ユーロ圏

VOX 31 August 2015

The state of the monetary union

Thomas Philippon

Project Syndicate SEP 1, 2015

Democratizing the Eurozone

YANIS VAROUFAKIS

同じように政策は危機をもたらしたが、中国はこれを解決するために財政資金を投入し、EUは問題を悪化させてきた。住民に対する責任を負って行動しているのは、EUではなく、中国政府の方である。


l  アメリカの移民論争

The Guardian, Monday 31 August 2015

With so many Republicans vying for the wingnut vote, it was only a matter of time before one solved immigration

Stuart Heritage

NYT SEPTEMBER 3, 2015

Is Immigration Really a Problem in the U.S.?


l  新興市場とは何か?

FT August 31, 2015

Emerging markets: Fixing a broken model

James Kynge and Jonathan Wheatley

Project Syndicate AUG 31, 2015

A Tale of Two Theories

JEAN PISANI-FERRY

FP AUGUST 31, 2015

What Future For Emerging Markets?

BY JEFFREY E. GARTEN

私は講義で、新興市場をグローバルな金融システムに取り込むことが重要である、と説明してきた。しかし、学生はそれに納得しない。中国に始まる株価の下落を見るとき、彼の方が正しかったのか?

新興市場の時代は終わった、というのは間違いだ。様々な考察を検討する。

FT September 2, 2015

Malaysia’s economic frailty is all too familiar

David Pilling

FT September 2, 2015

World faces third deflationary wave

Dominic Rossi

VOX 02 September 2015

Six questions about China’s rise from 1953

Anton Cheremukhin, Mikhail Golosov, Sergei Guriev, Aleh Tsyvinski

NYT SEPT. 2, 2015

Will Germany Succumb to Hate?

By ANNA SAUERBREY

FP SEPTEMBER 2, 2015

The Emerging-Market Beauty Pageant

BY TIM ADAMS


l  中国の軍事パレード

FT August 31, 2\015

Militarism is a risky temptation for Beijing

Gideon Rachman

共産党の権力は、2つの正当性の源泉を持っている。1つは、急速な成長。もう1つは、ナショナリズム、中国民族の復興。

経済モデルが動揺する中で、軍事パレードはナショナリズムへの傾斜を意味する。しかし、ナショナリズムに頼ることは危険な賭けだ。地域の緊張が高まり、小さな領土紛争が誤算から大きな軍事衝突へエスカレートする。

中東に比べて平穏に見えるアジアだが、中国、日本、アメリカが参加する戦争が意味する破壊の規模は絶大だ。

FP SEPTEMBER 1, 2015

Why Is China Still Dredging Up the Ghost of Imperial Japan?

BY DANIEL TWINING

FP SEPTEMBER 2, 2015

A Fantasy Fit for Kings’

BY JOHN DELURY, PAMELA KYLE CROSSLEY

The Guardian, Thursday 3 September 2015

The Guardian view on China’s display of military muscle: to what end?

Editorial

FT September 3, 2015

China’s parade sends an unmistakable message

NYT SEPT. 3, 2015

Military Parade in China Gives Xi Jinping a Platform to Show Grip on Power

By CHRIS BUCKLEY

FP SEPTEMBER 3, 2015

Assassinating Chiang Kai-shek

BY RICHARD BERNSTEIN


l  トルコとクルド

FP AUGUST 31, 2015

Turkey’s Kurdish Guerrillas Are Ready for War

BY ALIZA MARCUS


l  ロボット

FT September 2, 2015

Pepper the robot cannot rescue us from demographic decline

Diane Coyle


l  アメリカにとって脅威とは何か?

NYT SEPTEMBER 2, 2015

What’s the Greatest Threat to U.S. National Security?

何が、アメリカの安全に対する最大の脅威か?


YaleGlobal, 3 September 2015

IMF to the Aid of Ukraine: Well-Intended, But Misguided

David R. Cameron

********************************

The Economist August 22nd 2015

Editing humanity

Genome editing: The age of red pen

Bello: The migrant nation

Arab armies: Full of sound and fury

The sell-off in commodities: Good-bye to all that

(コメント) 人間の遺伝子を原子レベルで解明できる,という話は知っていましたが,その中身を切り貼りできる,しかも,高校の実験室でもできるほど簡単だ,とは知りませんでした,さまざまな動植物の品種改良や薬品・治療法の開発,病気や害虫の根絶,など,人間の改造も含めて,神の領域を冒すことにモラトリアムが提唱されていますが,守られない,というわけです.

ラテンアメリカの移民社会について,アラブ諸国の新しい(そして非効率で無能な)軍事力,国際商品市場の価格下落と,その長期変動,が面白いです.

******************************

IPEの想像力 9/7/15

エコ〜るど京大の,くすちゃんハウス,ぬか漬けプロジェクトに協力しました.ぬか漬けの天地返しです.

ちょっとした話もするように,という要望で,あまりにお粗末な第1回目の録画は没になり,撮り直しです.・・・なお,賀茂川を超えて,百万遍に向かいますが,早く着いたため,吉岡書店で古本を探し,早坂忠の名著,『ケインズ 文明の可能性を求めて』を思わず買いました.200円です.

さて,話は,ぬか漬けです.サステナビリティを重視する啓発活動の一つ,というのですが,私の専門は国際政治経済学です,ということで,まず,「経済学者はエコに冷たい」と話しました.

経済学は,エコなんてもうからない,と考えるでしょう.補助金や関税でエコを推進するのは間違っている,と断言するのが経済学者です.・・・どうかな? そして,エコロジーは成長にマイナスだ,と言うのです.前のブッシュ政権は京都議定書の改正に反対でした.

儲からないから,成長にマイナスだから,というのは,本末転倒です.・・・人間の社会や経済は,何のためにあるのか? と思ってしまいます.

しかし,同じ目的を達成するのに,それが効果的で,無駄をなくし,経済活動と整合的な形になるとしたら,それは間違いなく経済学の主要な貢献です.市場は,人々の行動を変える偉大な変換装置にもなります.

まあ,そんな話はせず,私は大震災と福島原発事故の後も,日本は原発を(平気で!?)再開し,成長を唱えている,と不満を述べました.他方,遠く,ドイツのメルケル首相が,原発政策を完全に放棄したのです.

次に,では国際政治学はどうか? と考えました.残念ながら,国際政治学もエコには無関心(あるいは,優先順位がとても低い)です.国際政治で,エコを実現するのは難しいからでしょう.自国がエコに優れた政策を実行しても,その改善は自国だけでなく,他国にも及び,しかも,他国はもっとひどい汚染や環境破壊を続けるかもしれません.国際政治は,強制も,協力も,十分に実現できません.

こんな話でぬか漬けを混ぜては,どうにも味気ない(腐ってしまう),と後悔しました.

確かに,オバマは最後になって,いよいよ期待されてきたエコに取り組む気配です.しかし,うまくいくでしょうか? 議会は共和党が支配しています.すでに関心は,次の大統領に移っています.

つまり,・・・最後に,中国の大気汚染を取り上げたのは,儲からないとしても,成長にマイナスでも,中国政府は大気汚染を解決しなければならない,という国民の強い要請を無視できないからです.エコは,共産党政権を揺るがす問題です.株価や住宅価格が下落し,人民元が不安定化しても,中国政府は以前ほど厳しい管理体制を取れません.国民の不満を,不平等や大気汚染の解決によって,政府への支持に転換しなければならないはずです.

次の国際秩序が,中国を抜きには考えられない以上,エコは国境を超えて重要です.アメリカも,中国も参加する,環境のための協力の枠組みを,日本政府は呼びかけるときです.

・・・国民の意識が変わり,政治が変われば,エコは実現します.

******************************