(前半から続く)
l ユーロ圏の政治学
Project
Syndicate AUG 17, 2015
A New
Approach to Eurozone Sovereign Debt
YANIS VAROUFAKIS
ギリシャ危機の長い交渉は、ギリシャだけでなくユーロ圏が成長を回復する方策に関心を向けさせた。GDP連動債券やECBによる永久債券としての保有など、様々な議論がある。
ユーロ圏は、成長のために、政府債券のリストラクチャリングに新しいアプローチを必要としている。ところが、EMUの憲法である合意が、政府債券の上限をGDP60%とし、ECBによる各国政府の「救済禁止」、という形で、債務のリストラクチャリングを否定している。
これを解決するアイデアはある。Stuart Holland, and James
K. Galbraithが著したA Modest Proposal for
Resolving the Euro Crisisに含まれる提案だ。
ECBが、債務の転換を希望する政府に対して、それを認めると宣言するのだ。ECBは、政府債券を購入するのではなく、マーストリヒト条約が認めた上限を超えた部分について、その債務のサービスを引き受ける。こうして各国は債務負担を軽減できる。
ECBはそのためにECB債券を発行し、各国はそのクーポンと元本に対する保証となる預金をECBの口座に置く法的義務を負う。各国はECBへの債務を優先的に返済し、ESMがそのデフォルトのリスクをカバーする。
この債券交換には5つのメリットがある。1.債務の貨幣化を伴わない。インフレやバブルを防ぐ。2.ユーロ圏全体で、利子支払いが減少する。3.ドイツの長期利子率に影響しない。4.マーストリヒトの精神を再確認し、モラルハザードを減らす。5.この計画でカバーされた部分と切り離して、GDP連動債券など、他の手段を活用できる。
ユーロ機器の最終的な解決策は連邦制であろう。しかし、その改革には各国間で厳しい対立が生じ、政治的に受け入れがたい。しかし、納税者の負担を増やさない、ユーロ圏諸国の連帯を促す、他の解決策は存在する。
The
Guardian, Monday 17 August 2015
Brutish,
nasty – and not even short: the ominous future of the eurozone
Wolfgang Streeck
ユーロ圏の難問を断ち切れる瞬間があったとしたら、それはいつか?
7月、ドイツの財務大臣Wolfgang
Schäubleが、もしギリシャをユーロ圏にとどめるなら、独仏を前衛とした「コア・ヨーロッパ」の理想が消滅する、と理解したように見えた。ギリシャ人に合わせてルールを書き換えれば、それは南方のフランス、イタリア、スペインに及び、ヨーロッパのコアを永久に分解してしまう。
他方、ギリシャでは、Yanis Varoufakisが福祉国家を解体するように求められ、ギリシャ人のプライドに相容れないでなく、ユーロ圏の提供する「連帯」があまりにも遅く、しかも少ないことを理解した。
Schäubleが提示したのは、ギリシャの自主的な離脱であった(自主的でない離脱は現在の条約に認められていない)。それはギリシャに切下げと自律的な金融政策・財政政策を許す。さらにユーロ圏内でルールを緩和する先例を作らないように、ユーロ圏離脱後のギリシャに対して緊急支援と政府債務の組み替えを認める。それによって、ギリシャをプーチンの手に委ねた、という非難をドイツが受けることも避けられるだろう。
しかし、最後は政治が決める。Varoufakisはチプラスに、Schäubleはメルケルに従った。メルケルの驚嘆すべき政治的手腕は、ギリシャ国民のNOを、その債権者集団の要求こそ「ヨーロッパ構想」へのYESと再定義してしまった。こうしてチプラスは、国民投票に反して、より厳しい融資条件に署名することを許容したのだ。ユーロ圏の経済的破滅を恐れる声、また秘密裏のブラッセルからの支援約束などを受けて、チプラスは自党を割って、旧来の支配政党指導者たちSamaras and Papandreouとともに、融資を受け入れる決断をした。
メルケルはSchäubleの離脱案を交渉手段として利用し、チプラスの服従とVaroufakisの排除を達成した。3年の融資期間は、メルケルが次の選挙を終え、フランスとの対立を避けるものだ。融資が決して返済されないことは、ドイツ国民に伏せたままだ。EU諸国とギリシャ債務を分担したことで、債務のリストラクチャリングを避けるドイツの立場は多くの国に支持されている。何より重要なことは、ギリシャをユーロ圏内にとどめたことで、彼女の政治基盤であるドイツ輸出産業の支持を得たことだ。労働組合も、社会民主党も、アメリカも、彼女に感謝するだろう。
しかし、これで危機が終わる保証はない。ユーロ圏の根本問題は、その制度設計にあるからだ。競争力の弱い国から調整のための切下げ策を奪いながら、彼らの主権は認めている。融資条件は監視されるが、改革の実行は遅れ、融資の配分は止まり、危機を繰り返す。ギリシャ人が求めるのは、平均以上の成長であるが、緊縮と改革を進めたスペインの成長では、ネオリベラルのエコノミストが称賛するとしても、政治的な支持されない。
ヨーロッパは、いわゆるマーシャル・プランを提供しそうにない。ユーロ圏の内部で地域的な成長率の格差が大きいにもかかわらず、後進地域への支援は不足している。それは、イタリアの南部、ドイツの旧東ドイツに、GDPの約4%が提供されたが、格差を維持するだけだった。西ドイツの制度に移管された東ドイツでさえ、今なお一人当たりGDPに20%の差がある。
将来、ギリシャが東ドイツのような大幅な改革を実行することはない。通貨主権を取り戻すこともない。政治・財政統合を進めて脱国家化することもない。逆に、各国の他国に対する防衛は強まっている。共通通貨に続く、「改革」と「連帯」の綱引きは果てしない。
南の諸国はヨーロッパ統合に従うことで得られる補償はあまりに少ないと感じ、北の諸国は南に対する財政負担は大きすぎ、その管理は効果がないと感じている。
FT August
18, 2015
Eurozone:
The case against ‘cash for reform’
Martin Sandbu
Project
Syndicate AUG 18, 2015
A
Balance-Sheet Approach to Fiscal Policy
KEMAL DERVIŞ
NYT AUG.
18, 2015
Europe’s
Civil War of Words
Jochen Bittner
Bloomberg
AUG 18, 2015
Why Greece
Can't Fulfill Bailout's Terms
By Leonid Bershidsky
FP AUGUST
20, 2015
With
Resignation, Greek Prime Minister Alexis Tsipras Calls a Referendum on Himself
BY DAVID FRANCIS
l ロボット
NYT AUG.
17, 2015
Robot
Weapons: What’s the Harm?
By JERRY KAPLAN
FT August
19, 2015
The
economic myth of robotics and the robot job-ocalypse
Tim Harford
その不安は現実とかけ離れている。しかし、ロボットは人間の職場を消滅させないが、その配置を変える。中間的な雇用が失われ、底辺と頂点だけに人間が増える。
l ヨーロッパの難民問題
The
Guardian, Monday 17 August 2015
The
exploitation of migrants has become our way of life
Felicity Lawrence
保守党だけでなく、労働党も、グローバリゼーションの移民がもたらす利益と現実のコストを理解していない。東欧や南欧、中東、アフリカからの移民・難民が増えて、労働者の権利や生活条件は脅かされている。
保守党や労働党が考えるような労働市場や最低賃金は機能していないし、国境警備や警察犬、強制送還だけで問題を解決できない。労働党は1970年代のグローバリゼーション支持論を今も掲げている。
SPIEGEL
ONLINE 08/18/2015
Welcome to
Germany
Locals
Step In to Help Refugees in Need
難民をめぐる新しい住民運動が、医療から治安まで、行政の不足した部分を補っている。
地中海で死亡する難民の数を集計していた職員たちが、それにとどまらず救援組織を立ち上げた。彼らは救援のための電話を設け、地中海で生死のはざまを漂う難民たちから電話を受ける。
大学は共同食堂を難民たちに開放して、難民自身による料理の会を学生ボランティアが組織する。その調理法は難民たちの紹介とともに本として出版された。
ドイツの都市にできた難民キャンプにはネオナチの襲撃がある。ボランティアはキャンプの治安を高めるために住み込んでいる。
FT August
20, 2015
Germany’s
plea over migrants must be heeded
l 銀行
FT August
17, 2015
Higher
reserves are a less painful way to fix the banks
Alan Greenspan
l プーチン
FT August
17, 2015
Fear
Vladimir Putin’s weakness not his strength
John Thornhill
l 不平等
The
Guardian, Monday 17 August 2015
The
Guardian view on top pay: filthy riches
Editorial
FT August
18, 2015
Inequality
is unjust, not bad for growth
Chris Giles
不平等な分配は、高い成長率を実現するうえで好ましいが、公正な分配という点で非難された。しかし、最近、平等な分配のほうが成長にも好ましい、という研究が増えている。しかも、IMFやOECDのような、従来は保守的な機関が不平等の抑制策を支持している。
VOX 18
August 2015
Wealth and
income distribution: New theories needed for a new era
Ravi Kanbur, Joseph Stiglitz
l イギリス労働党
Project
Syndicate AUG 18, 2015
Why the UK
Belongs in Europe
CHARLES TANNOCK
The
Guardian, Wednesday 19 August 2015
Corbyn’s
surge can be at the heart of a winning coalition
Seumas Milne
Project
Syndicate AUG 19, 2015
Taking
Corbynomics Seriously
ROBERT SKIDELSKY
イギリス労働党の次期党首になる見込みが高いJeremy Corbynは、財政緊縮策に反対する「左派」として非難されている。
緊縮策に代えて、彼は基本的に2つのアイデアを出した。1つは、投資銀行の設立。もう1つは、「人民の量的緩和」、である。
最初のアイデアは、伝統的なものであり、ノルウェーでも、EUでも、投資銀行を持っている。政府が資金調達して、公共投資を行う。「人民の量的緩和」は、現在、行われている量的緩和が中央銀行による政府債券の購入、その資金供給による民間支出の詩劇であるのに対して、この政策では中央銀行が住宅建設組合や地方議会、地域投資銀行に、直接、資金を与える。バブルを助長せず、直接、インフラ投資を刺激するものだ。
Corbynは、財政再建ではなく、国家の役割や財政支出の最適化に関心を移した。
The
Guardian, Thursday 20 August 2015
Jeremy
Corbyn has the vision, but his numbers don’t yet add up
Larry Elliott
l トランプ
NYT AUG.
18, 2015
Why Latino
Children Are Scared of Donald Trump
Héctor Tobar
Bloomberg
AUG 19, 2015
Two
Arguments for Direct Democracy: Trump and Corbyn
By Leonid Bershidsky
政治舞台における2人Donald Trump
and Jeremy Corbynの登場は、大西洋の両側で民主主義と指導者のあり方に疑問を生じている。よりスイスに近い、直接民主主義が必要かもしれない。
2人が示す共通の問題とは、1.複雑な世界に単純な答えを求める。2.人間的で、実物の目標を示す。3.非民主的な管理エリートたちに反対する。
NYT AUG.
20, 2015
What
Donald Trump Could Learn From the Korean DMZ
By STEPHEN R. KELLY
メキシコ移民を、「強姦魔」、その他の好ましくない連中が流れ込むこととみなすトランプは、国境線に壁を築くよう求めている。その完璧な分離モデルなら、南北朝鮮半島を隔てる非武装地帯DMZに求めるべきだろう。
ただし、アメリカはメキシコと戦争していないし、メキシコは北朝鮮以上にアメリカ製品を買っている。
FT August
19, 2015
Despotic
rulers who display their muscle to turn back time
Alan Beattie
FT August
20, 2015
Clock is
ticking on US equity correction
Michael Mackenzie
l カザフスタン
Bloomberg
AUG 20, 2015
Kazakhstan
Is the Latest Oil-Curse Casualty
By Leonid Bershidsky
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The Economist August 8th 2015
Time to fix
patents
Polish politics: The German test
North Korea’s new monied classes: Bread and
circuses
Buttonwood: Advancing , not retreating
(コメント) 特許や著作権,知的所有権に関して,記事は,革新を促すために個人と社会の利益を妥協させるため,政府が介入する,と考えます.しかし,急速な技術革新やグローバル化の進む世界では,妥協点やその仕組みが革新されなければなりません.
共産主義体制の崩壊を導いたポーランドが,同時に,保守的・宗教的な社会であることは,EUの現在を示しています.あるいは,韓国との戦争状態をぎりぎりまで進める北朝鮮の「パンとサーカス」が,試されています.
世界金融危機後も,資本主義が衰退する兆しはない,という指摘です.そうであることが不幸であると思います.
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IPEの想像力 8/24/15
運転免許証の更新のために、生駒警察署まで行きました。初めて行ったので場所が分からず、少し心配しましたが、生駒旧市街の真ん中あたりでしょう。かなり古い建物で、内部はちょっと薄暗い感じです。
しかし、公共機関がだれに対しても公平な扱いを保証しています。まじめな公務員たちの確かな仕事に、私はいつも感心します。
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ヨーロッパの移民・難民危機が,債務危機に並んで,政治システムを動揺させています.問題を解決するためには,彼らが新しい社会の一部として活発に再生する条件を提供しなければならない、と思います.つまり,チャーター・シティ、成長特区、などです.
技術革新と生産システムの転換を社会のすべての参加者に伝えるダイナミズム,利潤による動機づけが中心となった政治経済システムを,近代以降のヨーロッパから世界にかけて広めたことは,良い面も悪い面もあったでしょう.
そのもっとも良い面は,人々を貧困や停滞,旧秩序から解放する,ということでした.しかし,富裕化自体がこのダイナミズムを損なうとき,当然,システムの正当性,存在理由が疑わしくなります.
おそらく,最も悪い面は,個人主義,富や効率による評価,コミュニティや社会的な連帯感の破壊,です.システムが破壊的な影響を強め,不安や敵意を強める中で,こうした疑念が憤慨に変わるのも当然です.
職場における労働組合,住民による市民活動や組織化の試み,その限界と活性化が,経済活動の回復と結びつく3番目の領域ではないでしょうか? 1つは,市場のダイナミズム.2つ目は,政府による政策介入,です.
ある程度まで、所得分配は社会を豊かにする誘因として正当化されます,しかし,その源泉を無視して,金融部門が集める巨額の利益は,金融危機の社会的コストに見合わない,と批判されるようになりました.
人々が移動しやすく,しかも社会的な連帯を高めることができるシステムを築くことで,グローバルな金融危機を繰り返す時代を脱け出せるかもしれません.
年金・社会保障の整備,さらに、銀行や株式市場ではなく、社会システムを介して「金融緩和」を行うほうが、デフレや不況を緩和するでしょう。富裕層に増税し、雇用を増やす企業に減税するだけでなく、住宅や土地制度の偏りも,不平等を拡大するのではなく、緩和するように再編してはどうでしょうか?
難民たちを救出・支援するドイツ人の試みを紹介した記事が印象的です。
"Über den Tellerrand
Kochen," or "Cooking Beyond the Plate's Edge"は、難民自身が故郷の料理をゲストたちに提供します。この企画は成功し、難民たちの故郷や政治情勢を伝える情報とともに、レシピを集めた本を出版しています。
国や地方によっては、貧困に対して、無償の給食や教育のシステムがあれば、私たちはもっと自由に、もっと平等な社会を享受できるでしょう。今や、政府ではなく民間の手で、様々な支援や審査も実行されています.
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国境を越えてたどり着いた難民たちにも、ここが彼らの新しい故郷になるように、さまざまな給付や支援が用意されていることが望ましいでしょう。閉鎖された商店や空き家、休耕地の目立つ過疎地域、廃村に、難民たちは自由の女神を建てるでしょう。
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