IPEの果樹園2015

今週のReview

8/24-29

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日本の政治的限界 ・・・中国の経済不安 ・・・中国の限界と人民元 ・・・中東の政治的限界 ・・・新興市場の政治的限界 ・・・ユーロ圏の政治学 ・・・ヨーロッパの難民問題 ・・・イギリス労働党 ・・・トランプ

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  日本の政治的限界

NYT AUG. 14, 2015

Shinzo Abe Echoes Japan’s Past World War II Apologies but Adds None

By JONATHAN SOBLE

FT August 16, 2015

Asia should focus more on the future than the past

NYT AUG. 16, 2015

Japan's Plutonium Problem

By PETER WYNN KIRBY

FT August 17, 2015

Japan: A pacifist’s plan to arm the world

Leo Lewis and Robin Harding

日本の兵器が侵略地域を拡大したのは70年以上前だ.日本の兵器産業が再び世界市場で優れた兵器を販売するようになった.

Bloomberg AUG 17, 2015

Japan Exports Its Way to Irrelevance

By William Pesek

さまざまなニュースがあったが,輸出の減少はアベノミクスにとって致命的である.アベノミクスの景気刺激に及ぼす効果は,事実上,2012年以来35%の円安と輸出増加が支えてきたからだ.

しかし,中国が示すように,アジアは輸出主導の成長モデルから離脱しなければならない.さもないと,人民元切り下げは1990年代後半の通貨戦争を再現してしまう.安倍は,もっぱら大企業の輸出利益を増やすのではなく,根本的に国内雇用を増やすべきだ.

NYT AUG. 18, 2015

Abe’s Avoidance of the Past

By HOWARD W. FRENCH

NYT AUG. 18, 2015

Should Japan Allow Its Military to Fight in Foreign Wars?

FP AUGUST 18, 2015

Fukushima’s Dangerous Aftershocks

BY JEFFREY LEWIS

日本政府は高濃度のプルトニウムを大量に備蓄する政策を進めている。それはイランが核武装を懸念され、それを管理する国際条約を結んだのと同じ水準である。こうした政策が他国によって模倣される余地を与えている。


l  中国の経済不安

FT August 16, 2015

Problems for China’s economy extend far beyond currency

Gabriel Wildau in Shanghai

FT August 17, 2015

Global battle looms between forces of reflation and recession

Jay Pelosky

世界は今、リフレーションとリセッションとの間で戦いが生じている。アメリカ、ヨーロッパ、日本の開発諸国では、リフレーションが進められてきた。他方、新興市場における急激な減速がこうしたプラスの力を圧倒し、世界不況の可能性が生じている。

その決定的な局面が、中国による人民元の切下げであった。中国は世界の消費者から競争者に変わった。

アメリカ経済が長期の回復を実現し、日本やヨーロッパがこれに続くことで、世界経済が成長するための需要を生み出すはずであった。しかし、アメリカの景気回復は弱く、中国はアジアに対してマイナスの影響をもたらし、ギリシャもヨーロッパで同様のマイナス要因である。

2010年以来、新興市場が世界経済のエンジンであったが、その背景には中国の消費があった。その意味で、中国が世界の消費者ではなく、競争者になることは深刻だ。中国の過剰生産力が国内市場の代替と輸出に向かう。

アジアでは、中国の減速、円安、ドル高が鉄の三角形をなす。また、世界的には、国際商品市場が悪化して、株式市場でも投資家の弱気が強まる。マイナスの資産効果が働くだろう。

Project Syndicate AUG 17, 2015

Facing Down Secular Stagnation in China

ANDREW SHENG and XIAO GENG

NYT AUG. 17, 2015

China’s Devaluation of Its Currency Was a Call to Action

By KEITH BRADSHER

FP AUGUST 17, 2015

You Don’t Know Zhou

BY DANIEL ALTMAN

中国人民銀行PBOCの総裁Zhou Xiaochuanは、数年かけて、通貨取引や資本市場を徐々に自由化してきた。先週、その金融政策で世界を驚かせた。その意図しているものが何か、よくわからない。

人民元の切下げは、即座に、意図的な輸出促進策だ、と批判された。世界に安価な輸出品を増やしてデフレにしてしまう、と。他方で、これは中国が進める市場自由化の一環でしかない、と支持する意見もある。

もし競争的な切下げなら、通貨供給を増やすはずだ。他方で、市場自由化であれば、むしろ通貨供給を減らして為替レートの変動を抑制するだろう。残念ながら、この違いを判定できるほど、PBOCはデータを十分に公開していない。

かつてクレムリンの意図を推測する人々が多く活躍していた。今では中華人民共和国を動かす、共産党政治局の動きを推測する人々が多く存在する。こうした秘密の意思決定がなければ、無駄な仕事であるが。

FT August 18, 2015

A currency skirmish that was not made in China

Henny Sender

Project Syndicate AUG 18, 2015

China’s Daring Depreciation

YU YONGDING

中国の目標は成長モデルの転換、市場自由化である。競争的な切下げを刺激することは中国の利益にならない。すでに世界輸出の12%を占め、様々な輸入原材料を必要とし、ドルによる資金調達を企業がしている中では、人民元切下げは好まれない。

パニックの形で人民元が安くなるとしても、それは中国の長期的目標を妨げるものである。

FP AUGUST 18, 2015

Is China About to Plunge the World into Recession?

BY DAVID WERTIME

Project Syndicate AUG 19, 2015

China’s Debt Termites

GENE FRIEDA

NYT AUG. 19, 2015

Blind Faith in China’s Stock Market

Yu Hua

SPIEGEL ONLINE 08/20/2015

Ready for Take-Off

China Steers Course Between Prestige and Profit

By Bernhard Zand


l  中国の限界と人民元

FT August 16, 2015

Ancient origins of President Xi’s harsh brand of justice in China

Isabel Hilton

FT August 17, 2015

China’s social media explosion has shattered the official silence

Haining Liu

FP AUGUST 18, 2015

Why Is China So Fascinated by Amateur Porn?

BY ROBERT FOYLE HUNWICK

中国でも性革命が起きつつある。野外でのセックス、地下鉄、インターネット。多くのセックス・スキャンダルが起きている。法律が禁止しても、自家製の低級ポルノが氾濫している。

FT August 19, 2015

China: Weakened foundations

Jamil Anderlini

アジア通貨危機のとき、中国は人民元の対ドル固定レートを守った。世界金融危機でも、中国は人民元を安定化して、国内需要を刺激するために大規模な融資をおこなった。

中国政府は通貨戦争の危険を知っている。しかし、それでも人民元を切り下げたのは、国内景気の落ち込みがひどく、それを回復する政策を持たないからだ。人民元の切下げで輸出を刺激することを選択した。

中国の成長を支えてきたのは、輸出の増大と都市建設に伴う公共投資であった。輸出の落ち込みは激しく、都市開発はすでに過剰な債務となって、破たんした開発地区が増えている。

Project Syndicate AUG 19, 2015

The Value of China’s Devaluation

BENJAMIN J. COHEN

中国の長期的目標は、ドルに代わって人民元が国際通貨になることである。そのために、IMFSDRを構成する通貨として人民元を組み込むように働きかけてきた。その条件の1つは、世界貿易で主要な割合を占めること。中国はすでに第1位である。もう1つの条件は、その通貨が自由に利用できることだ。

人民元の取引は厳しく制限されてきたが、それでも10か国以上とスワップ協定を結び、オフショア市場を育成し、人民元建の預金や債券発行を増やし、国内の資本市場を開放しようとしている。為替レートに関する取引の制限は重要な問題であった。

今回の人民元切り下げは、ユーロや円の大幅な減価に比べて、注目するような規模ではない。むしろ、為替レートの市場自由化に向けた動きである。

FT August 20, 2015

Making it big in China requires a large measure of localisation

Richard Waters

FT August 20, 2015

No need to idolise China’s accident-prone technocrats

Michael Schuman

中国の官僚たちが成長を持続する点で先進諸国よりも優れている、と思われた。しかし、政治的動機によって支配された政策は間違いを犯しやすい。中国共産党は成長や雇用を国民の支持や政治的正当性の条件と考え、通貨危機でも、株価暴落でも、間違った対応を強いている。

かつて日本もそうだった。1970年代、80年代、アメリカは東京の官僚をスーパーマンだと考えた。しかし今、変化を拒む官僚たちを日本経済の最大の障害とみなしている。

Project Syndicate AUG 20, 2015

China’s Self-Destructive Maritime Strategy

MASAHIRO MATSUMURA

FP AUGUST 20, 2015

Let China Join the Global Monetary Elite

BY SCOTT KENNEDY

中国は人民元をSDRに加えたがっている。アメリカがそれを妨げることは、アメリカの利益にならない。

人民元がSDRの構成通貨になっても、実質的な利益はないだろう。SDRは国際準備通貨ではなく、それほど利用されていない。他方で、中国はそれによって大きなコストを強いられる。市場の自由化や脆弱性、政策介入の抑制など、市場自由化を進める中国にとって通貨危機のリスクを高めることになる。

アメリカがAIIBを阻止しようとしたように、IMFで人民元の追加に反対することはできるが、それは中国がIMFとは別の国際金融システムを模索する方針に助成するだけである。


l  中東の政治的限界

FT August 16, 2015

Saudi Arabia’s hard choices on oil and regional influence

Nick Butler

NYT AUG. 19, 2015

The World’s Hot Spot

Thomas L. Friedman

FP AUGUST 19, 2015

Making a State by Iron and Blood

BY ROSA BROOKS

イギリスは奴隷貿易に基づいた帝国を築いた。ドイツは人類史上最大のジェノサイドを犯した。いつの日か、イスラム国家がアメリカの同盟国になることを完全に否定できるだろうか?

イスラム国家の野蛮な戦術は著しい。公開斬首刑、非武装の捕虜に対する殺戮、女性や少女の奴隷化。しかし、西洋の歴史に照らせば、イスラム国家もグローバルな正当性を得る過程にあるのかもしれない。

フランス革命にともなう殺戮、オスマントルコによるアルメニア人虐殺、ホロコーストを犯したドイツなど、アメリカは彼らを許し、同盟国として認めている。国家建設というのは、いつも血まみれのビジネスだった。斬首も、拷問も、非武装市民の虐殺も、多くの国の歴史にある。

イスラム国家やその指導者Abu Bakr al-Baghdadiを狂人とみるだけでは正しくない。おそらく彼は、野蛮さと恐怖を、計算して使っている。彼らは歴史的な教訓、すなわち、最も野蛮な犯罪集団も数十年で国際社会に受け入れられた、ということを理解している。アメリカはアフガニスタンでタリバンに対して同じように軍事攻撃を行い、その野蛮さを宣伝したが、彼らを消滅させることはできなかった。そして、今ではタリバンとアフガニスタン政府との和平交渉を支持している。

もちろん、イスラム国家の指導者たちは国際社会の正当性など求めていないかもしれない。領土的な国家の支配を確立することより、テロや非領土的な権力を求めるのかもしれない。しかし、我々はイスラム国家を破壊できないなら、彼らと交渉して取引するべきだろう。

最終的にはアメリカが勝利するとしても、数十年後もイスラム国家はなくならないと思う。

Project Syndicate AUG 20, 2015

The End of Iran’s Islamic Revolution

SAÏD AMIR ARJOMAND

なぜアメリカは、毛沢東の中国と合意するより、ホメイニのイランと合意するまでにこれほど長期間を要したのか?

強硬派の後には穏健派が主導権を握る、という近代の革命の歴史が示すように、イランでも穏健派が勢力を拡大してアメリカに接近したとき、アメリカ政府は交渉を進めなかった。その後、アフマディネジャドが大統領に当選し、ホメイニの反米姿勢を復活させてしまった。

Bloomberg AUG 20, 2015

How Islamic State Pushes Egypt Toward Chaos

By Noah Feldman


l  新興市場の政治的限界

Project Syndicate AUG 17, 2015

The Great Emerging-Market Bubble

BILL EMMOTT

新興市場の問題は、国際商品価格や、フラッキングによる石油価格の下落、アメリカの金利、エルニーニョ、中国の減速など、さまざまに指摘されている。しかし、答えはもっと単純で、しかも伝統的である。問題は政治なのだ。

ブラジル、インドネシア、トルコ、南アフリカ、そして中国も成長が衰えた。しかし、大企業の経営幹部やアナリストたちは、今も、新興市場の高成長に期待している。技術や経営方法を輸入し、財・サービスを輸出して、その低賃金と生産性上昇とを利用できる、と信じている。

新興市場が持続的に高い成長を示すためには、その政治制度が柔軟で、必要な成長経路の転換を柔軟に実現しなければならない。ところがブラジルは、2010年以来のインフレ抑制と不況回避を維持できず、国家資本主義への執着によって混乱している。

政治システムの基本的な機能は、競争する利害集団や権力ブロックを円滑に媒介し、より広い公益を実現させることだ。シンガポールの管理型民主主義はそれを実行したが、中国はその模倣に失敗した。民主主義化、権威主義体制か、というのは成長にとって最も重要な問いではない。柔軟性と適応力が、高成長を実現する。その決定的要因は政治制度にある。

政治こそが重要なのだ。

FT August 19, 2015

The world should fear an emerging market rout


(後半へ続く)