IPEの果樹園2015

今週のReview

8/17-22

 *****************************

ヨーロッパの移民・難民危機 ・・・資本主義への攻撃 ・・・ユーロ危機の先に ・・・中国共産党の支配 ・・・安倍首相の戦後70年談話 ・・・人民元切下げの意味 ・・・新興市場の先に

 [長いReview]

******************************

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  ヨーロッパの移民・難民危機

Project Syndicate AUG 11, 2015

We the People of Europe

LASZLO BRUSZT and DAVID STARK

ヨーロッパの統一を強く願う人々は,アメリカ合衆国の創設に関心を向けてきた.他方,多くの人々は,単一市場に政治的な基礎を欠くヨーロッパの問題は,アメリカの先例とは異なる,と反対する.

しかし,アメリカが創設された時代とヨーロッパで続く政治・経済危機とは,顕著な類似性を示している.アメリカ憲法の制定とアメリカ人の誕生は,ヨーロッパが直面する最も困難な問題のいくつかを解決できる日が来る,と考える理由となっている.

13の植民地が結んだ連合規約は,共同市場と,中央銀行を含む共同の諸制度を創り出した.しかし,彼らは財政政策の対立に多くの時間を費やし,債権者と債務者とが反目し,通貨をめぐって闘争した.北部と南部の州の間で,また,大きな州と小さな州との間で,亀裂が深まった.生まれたばかりの国が分裂に向かっているように見えた.

1780年代,アメリカの政治指導者たちの小さな集団が,こうした問題を完璧なまでに再編成した.彼らが考えたことは,政治家たちの間違った確信や不適切な情報,市民を軽視していることが問題の原因ではなく,不適切な政治構造に問題がある,ということだった.

連合規約の下では,現在のEUと同じように,すべての政治がローカルであった.政府の選挙は各州で行われ,州を超えた公約や政党は存在しなかった.Alexander Hamilton, John Jay, James Madison, and George Washingtonのような指導者たちは,この構造が選挙区や地域に限定した利益を主張する政治家を増やすのであり,「国益」すなわち連邦に参加した諸州の共有する利益が犠牲になっている,と考えた.

これらの問題に対して,アメリカ憲法の起草者たちは,アメリカ合衆国人民に責任を負う国民政府を創ることを提案した.この政府は全同盟の利益を代表して権力を与えられ,諸州の対立を解消するために行動する.そうすることで,アメリカの主権は,その人民に存する,という全く新しい概念をもたらした.

しかし,人民主権というのは新しい原理としてではなく,共有された主権として,連邦主義の原理,さまざまなレベルの政府が,互いに競争するより一致する,というシステムとして考えられた.

アメリカと全く同じ解決策がEUに適用できるわけではないが,ギリシャが債権諸国と対立したように,動機や正当性,問題解決の能力について,国家を超えた政府がなければ,ギリシャの主権は他国の主権を浸食する.将来の危機を回避するには,ヨーロッパの利益を代表する政治家が必要である.

アメリカ憲法が「われわれアメリカ人民は」と書いたとき,まだ,アメリカ人という強いアイデンティティを持つ者は少なかった.市民たちの多くは生まれた土地から30キロの範囲で生活していた.彼らの政治意識は,たとえあったとしても,その州であって,合衆国という同盟ではなかった.国民政府の樹立がそれを変えたのだ.

ヨーロッパの現状は,危機に瀕しているが,1780年代のアメリカに比べて,それほどひどくない.勇気ある政治行動によって,歴史を変え,安定した,新しい政治同盟を誕生するだろう.

FT August 12, 2015

UK migration: Toil, trouble and tension

Helen Warrell

何マイルもキャベツやブロッコリーが並ぶ,リンカーンシャー,ボストン近辺の畑で,東欧を抜け出した移民たちが低賃金で,昇進の見込みのない,農作物の収穫をするために畑に散らばっている.彼らの労働のおかげでスーパーマーケットの棚は満たされている.しかし,小さな地方の町で彼らがいることは公共サービスに負担をかけ,住民たちの不満を高める.

保守党は,イギリスの社会福祉が手厚いから,ヨーロッパ中から,さらに遠くからも,移民や難民が集まってくる,と主張する.

「地元の人々や政府は,ここに東欧からの移民がいるべきではない,といった話ばかりする.彼らは儲けている,と.しかし,悪いのはギャングや仲介業者である.私たちは,ただ,働いて,良い生活をしたいと思って来たのだ.」


l  資本主義への攻撃

NYT AUG. 7, 2015

Capitalists, Arise: We Need to Deal With Income Inequality

By PETER GEORGESCU

私たちは,豊かな生活をもたらした資本主義のエンジンを失う危険を冒すことになる.

この国が私に与えてくれた機会は素晴らしいものだった.私は1954年にルーマニアから移民としてアメリカに着いた.両親は私が7歳の時にアメリカに来て働いていたが,ルーマニアはソ連に占領されて帰国できなくなった.私は10歳の時,15歳の兄と強制労働キャンプにいた.アメリカ人民の支援とアイゼンハワー大統領の介入で,5年後に,私たち兄弟はアメリカの両親と再会できた.親切と慈善のおかげで,私は学校に行き,プリンストンとスタンフォードのビジネススクールに入った.

しかし,労働者の訓練や技術開発に投資しなくなったアメリカ企業の利潤は減り,それを大きな配当にするため,株式を買い戻すようになった.

アメリカの経営者たちの中には,私と同様に,不平等に対して行動することへのコンセンサスを示す者がいる.第1に,企業はもっと雇用を増やし,技術革新,研究開発に投資するべきだ.第2に,生産性上昇の果実を被雇用者たちと分かち合うべきだ.それは貧しい家族に追加の所得をもたらし,債務に頼らずに生活できるようになる.企業にとっても売り上げを増やす.課税による社会給付の支出が減る.

これは空想の話ではなく,自由な企業システムを再活性化し,機会や高い生活水準を実現する話である.

FT 9 August, 2015

Corporate long-termism is no panacea — but it is a start

Lawrence Summers

この数か月,一般に,経済パフォーマンスを改善し,特に,中産階級の所得を改善することに向けた,さまざまな革新的提案が起きている.しかもそれらは,政府の行動によってではなく,経営者の意思決定に関する権限や動機づけを変えることによって,改革を唱えるものだ.その目標は,企業が,より長期的な視野を持ち,労働者,顧客,その他のステークホルダーと企業の成果をより多く分かち合うようにすることだ.

こうしたアプローチに向かう強い条件が存在する.近年の経済危機は,実物経済が過度に投機的な市場に依存することで増幅された.プロの経営専門家たちが投資計画を削るより,むしろ中産階級がよい職場を守りながら生産性上昇を続けられることを,私たちは望んだ.しかし,政府の行動に関する期待が非常に低い水準にあるため,こうした改革を,政府のプログラムではなく,企業の行動を変化させるものとして考えるようになったのだ.

企業行動は,アメリカ資本主義の機能を決定する,という意味で,投資家,経営者,そして大統領候補者たちにとっても,非常に重要だ.企業は,コストを抑制しつつ,労働者を雇用し,動機付けねばならない.総コストが変わらなければ,賃金を増やすほうが労働者の生活はよくなる.底辺への競争が生じるケースでは,最低賃金を規制することには理由がある.

利潤シェアに関する提案も,強気リスク回避傾向を労働者たちが示す場合,これを個別に企業が導入することは難しい.この場合,優遇税制が支持される.

同時に,すべての企業が長期的思考に向かうべきか,という問題がある.かつて日本の系列企業システムは,株式の相互持ち合いを通じて,経営者が市場圧力を受けないようにした.しかし,マクロ経済の問題を別にしても,日本企業は市場の規律を欠き,電子,自動車,ITなどの分野で,指導力を失ってしまった.

企業経営には大きな違いがある.アメリカ政府にGMが救済されたように,自動車産業は長期的思考を支持する最有力産業だ.他方,シリコンヴァレーの新興企業群には市場の規律が重視されるだろう.利潤がなく,収益もほとんどないのに,あまりにも長期的な視点で評価され,ときにはバブルを生じてしまう.

銀行預金や財務省証券で,企業が過剰な資金を保有している状態は,もっと別の問題を示している.彼らは,生産的な投資機会を見出せないのだ.生産的計画なしに,彼らの支出を強いることは無駄である.株主への配当をやめさせて,その代わりに企業買収が増える,というのでは意味がない.

生産的な投資ができることを投資コミュニティに納得させることが重要だ.


l  ユーロ危機の先に

Project Syndicate AUG 6, 2015

What Greece Needs to Prosper

EDMUND S. PHELPS

一国の繁栄をもたらすのは,革新と企業家精神であって,「雇用」や,それをもたらす「需要」で測るのは間違いだ.

ギリシャを観ればよい.ギリシャの経済危機は「緊縮」策の結果ではない.そのような主張は,歴史を誤解し,政府の財政政策の力を誇張している.すなわち,ギリシャの雇用が減ったのは,緊縮策を取る以前から始まっている.政府が信頼を失ったから起きたのだ.

「需要学派」は,財政緊縮があるかどうかに関係なく,政府支出の増大は雇用を恒久的に増やす,と考える.しかし,追加の政府支出は債券の発行を必要とし,それを外国投資家が購入しなければ,ギリシャ国内で売るしかない.国内で成長のための装備がない国で,賃金に対して家計の債券購入が増えるだろう.労働供給は減り,雇用も縮小する.

支出不足がギリシャの危機の原因ではないように,取るべき解決策は,支出増ではない.正しい治療は,そのコーポラティズムを解体することだ.縁故や口利きによって公共部門はますます多くを雇用し,エリートや既得権益が民間部門にまで広がっている.それはヨーロッパの左派勢力の利益かもしれないが,ヨーロッパの利益ではない.

ギリシャは真の構造改革を実行するべきだ.それは債権国の役割ではなく,ギリシャ人の責任だ.

FT August 10, 2015

Berlin must lead Europe towards closer union

Constanze Stelzenmüller

EUは,ヨーロッパ諸国にとって,さまざまな問題の解決策であった.ヨーロッパ内の対立を解消し,大国と小国との発言力の違いを調整し,グローバリゼーションや,中国,ロシア,など,地政学的圧力にも対抗するために,EUは前進するべきだ.

メルケルのように,危機を繰り返しながら漸進的に進むのか? あるいは,少なくともユーロ圏内で,財政・政治同盟へと一気に飛躍するのか? ヨーロッパは共通の軍隊も,共通の移民政策も,必要としている.

ヨーロッパ最強のドイツ,そしてメルケル首相は,一層の統合を他の諸国が受け入れるように行動し,説得する,その責任を負っている.

Project Syndicate AUG 13, 2015

How the IMF Failed Greece

ARVIND SUBRAMANIAN

ギリシャは,融資を受けて緊縮策を続けるか,融資を拒んでユーロ圏を離脱するか,という選択を迫られた.しかし,もう1つの選択肢があったはずだ.十分な融資を受けて,ユーロ圏を離脱する,というものだ.

いずれにせよ,ギリシャが回復するには,プライマリーバランスの回復と構造改革は避けられない.ユーロ圏を離脱し,債務を削減して,大幅な切下げができるなら,これらの達成は容易になる.EU内で深刻な意見対立があっても,IMFならそれを行えたはずである.


l  中国共産党の支配

FT August 10, 2015

China’s delusions of regional hegemony

Philip Bowring

西側による世界の終わりは,アジアの興隆ではない.むしろアジアという地域のまとまりは分裂している.日本は敵対し,韓国も懸念し,東南アジア諸国は敵対していないが,歓迎するわけでもない.アメリカとその同盟諸国に加えて,ベトナム,インド,など,新しく加わる対抗勢力が増えている.中国は,自然な形で,アジアの指導国になれない.

中国の友好国はパキスタンと北朝鮮しかない.どちらも不安定な国家であり,中国の外交を制約している.中国の高い成長も,すでに終わりつつある.

中国共産党が描くアジアの覇権構想は,異なった歴史と政治目標を持つアジア諸国の間に受け入れられることはないだろう.


l  安倍首相の戦後70年談話

FT August 11, 2015

Asia: History lessons feed rival nationalisms

Tom Mitchell, Robin Harding and Simon Mundy

教科書と愛国的な記憶とは,今も,日本と.日本が20世紀前半に軍事的拡大を企てた2国,すなわち中国と韓国で,新しいナショナリズムの競合を生じている.

中国は日本の侵略戦争と自分たちの勝利を大いに称賛し,政治的に使用する.しかし,韓国のナショナリズムはもっと複雑だ.犠牲の感覚と分断が続く現実,中国の興隆に対する警戒感が混じっている.

各国の教科書による歴史叙述の相違を,FTは専門家たちに依頼して独自に調査した.その結果は,意外に,重要な点で大きな差はない,という結果だった.日本の教科書も,南京虐殺や従軍慰安婦を認めているし,中国の教科書にも毛沢東による文化大革命の問題点が指摘されている.

日本の靖国神社には,日露戦争の勝利がアジア諸国でナショナリズムを鼓舞し,独立を目指す指導者たちに強く支持された,と記述されている.しかし,アジアの政治家たちが,そのような歴史観を共有するわけではない.中国や韓国のナショナリストたちにとって,日本との戦争に勝利したことが独立であった.

Bloomberg AUG 12, 2015

70 Years Later, Japan Should Still Say It's Sorry

By The Editors

戦後70年談話で,過去よりも未来に向けた話をする,という安倍首相は,判断を間違ったようだ.過去の侵略に対して,その犠牲者に真摯に謝罪することは,今後,日本が軍事力を整備する条件であるからだ.

安倍政権を支持する日本の右翼集団は,中国や韓国の指導者たちの態度に強い不満を持っている.安倍が何を言っても,彼らが満足するはずがない,と冷笑している.しかし,安倍が明白に歴史の見直しや靖国神社参拝,タカ派の外交姿勢を示すからこそ,彼が歴史的な反省を示し,犠牲者たちに謝罪することには重要な意味がある.

相互の和解を求める力は作用している.日本経済の復活だけでなく,中国,韓国にとっても,貿易や投資が最も重視すべきことである.謝罪がすべての緊張を緩和するわけではないが,安倍はその機会を無駄にすべきではない.


l  人民元切下げの意味

FT August 11, 2015

Why China’s devaluation might not trigger a currency war

James Mackintosh, Investment Editor

世界金融危機のとき,中国が通貨戦争を仕掛ける,というHongbing Songの本がベストセラーになった.わずか1.9%の下落に,しかも,1階だけという話であれば,騒ぐことではない.

しかし,通貨トレーダーたちの見方は違う.上下の0.06%を認めた人民元のダーティフロート(管理変動制)において,これはかつてなかった大きな下落である.さらに大きな下落が続く,と彼らは見ている.

人民元が下落する十分な理由がある.ユーロ,円,新興市場の通貨は,すべてドルに対して大幅に減価してきた.ドルにほぼ固定している人民元にとって,貿易額で加重した人民元レートが大きく増価しているのだ.中国人民銀行PBOCによれば,17%のインフレ率を考慮すれば,人民元の実質増価はさらに深刻だ.

経済は減速し,株価が下落している.金融緩和を行ってきたが,人民元の価値はそれほど変わっていない.PBOCの新しい方針が何か,まだわからないが,「市場指向」と表現している.

しかし,切下げが続くとも思えない.もし大幅な切り下げを望むのであれば,円安の効果に相当するほど,1度にもっと大きく下落させただろう.また,IMFを通じて,中国政府は人民元の地位向上を求めている.

下落は続くかもしれない.しかし,大幅な減価と輸出競争で,中国が世界にデフレを輸出するとは思えない.

FP AUGUST 11, 2015

Let the Global Race to the Bottom Begin

BY PATRICK CHOVANEC

中国人民銀行PBOCは,人民元の切上げが国際収支不均衡を減らし,中国の輸出に依存した成長モデルを転換することを理解していた.

しかし,残念ながら,国内成長の減速によって,その過剰貯蓄を需要に転換するより,今や日本とドイツが行っているように,アメリカの成長に対して輸出を伸ばす過去のパターンに戻ろうとしているのかもしれない.2008年以前,中国は過剰に輸出し,アメリカは過剰に債務を増やしながら,国際的な不均衡を拡大する成長モデルを続けていた.アメリカは最後の支出を提供したのだ.しかし,これは中国にとっても,アメリカにとっても,持続可能ではない.勝者のいない底辺への競争である.

1.9%という切下げの大きさよりも,その意味するところが重要だ.アメリカ経済の回復が確かであるから,アメリカ連銀はこの秋に金利を引き上げる,と予想されている.他方,ヨーロッパと日本は通貨発行を続けて,経済を刺激するために金利を下げようとしている.そのせいで資金はアメリカに流れ,アメリカ・ドルはその相対的な価値を引き上げているのだ.中国の最近の切り下げは,まるでアメリカの7月における2%のドル高を相殺するように見える.中国はアメリカ連銀の金融引き締めに従わない,というように.しかし,それは間違いだ.中国こそ信用の膨張を誰よりも抑制しなければならないはずだから.

人民元の切下げは,中国経済の問題を何も解決しない.むしろ中国人民銀行は一層の減価を抑えることが難しくなるだろう.

もし第3四半期のアメリカの成長が弱ければ,アメリカは金利引き上げを遅らせるかもしれない.それはマイナスの影響を抑えるが,アメリカにとっても,世界にとっても望ましいことではない.むしろ中国のような慢性的黒字国は,世界に需要を開放して均衡を回復することだ.中国にはそれができる.しかし,われわれは,中国の低成長と,世界経済の近隣窮乏化シナリオが始まったことを目撃しているのだ.

FT August 13, 2015

Lessons for China from past currency peg mistakes

Gene Frieda

スイスの為替レートをユーロに固定した政策が,アメリカの金利引き上げを前に,変動レート制に移行して大幅な変動を生じたことに比べて,中国の反応は遅かった.中国も人民元をドルにほとんど固定する政策から,市場によって為替レートの安定した水準へ導こうとしている.

1990年代のアジアやラテンアメリカで喧々した通貨危機の教訓とは,為替レートの固定化が国際収支不均衡の拡大,資本移動の増大,金融市場のバブルを増幅する,ということだ.

人民元には,大幅な経常収支の黒字が以前より減ったものの,不均衡を増幅した結果,為替レートや資本移動の変化が増大するかもしれない.中国の切下げはスイスより遅い.しかし,アジア諸国の危機に比べて,巨額の外貨準備,国際資本取引自由化をしていないこと,は危機を抑える有利な点である.

為替レートの急激な変動を避けるには,時間をかけて改革を進めるしかない.

********************************

The Economist August 1st 2015

The World If

Moldova’s economy: Gutted

(コメント) Special Report が面白い.もし歴史が異なった経路を進んだら,現実はどうなっただろうか? という問いを立てています.もしヒラリー・クリントンが当選したら,100日間はどうなるか? プーチンによってロシア内部の地域独裁者や分離主義が刺激され,ロシアが分裂したら? 人民元がドルに代わって国際通貨になったら? 第2次世界大戦後,中国の内戦で蒋介石が勝利していたら?

ヨーロッパで最も貧しい国であるモルドバが,金融政策が崩壊し,国際的な支援も受けられないほど,深刻な政治スキャンダルに今も振り回されていることに,経済発展の最悪の条件を理解します.

******************************

IPEの想像力 8/17/15

アジアのナショナリズムが,軍備拡大や領土紛争だけでなく,通貨・経済戦争で刺激されるのは,まだ決まったわけではありません.

ゼミ生との話がきっかけで,面白い本を読みました.P.テミン&D.バインズ『リーダーなき経済』です.タイトルからは予想しませんでしたが,ケインズの研究と経済史との関係に,国内均衡と対外均衡を達成するマクロ経済学の現代の課題を組み合わせた,優れた考察です.

人民元の切下げは,これがもし中国内部の政治経済改革や,米中,そしてアジア諸国間での政策協力を促す対話の始まりであるなら,大いに歓迎すべきことです.金融市場におけるバブルは,中国政府の予想を超えて深刻な影響を及ぼし,内外における協調を模索する動機を与えます.

2008年の世界金融危機に関する議論は,さまざまな視点で深められてきたと思います.金融市場が円滑に,効率的な資源配分やショックの均衡化を促すのであれば,市場に委ねることが人々の投資や雇用を高めるもっともよい方法である,という主張に,私は公平な分配の問題を除いて,おおむね賛成するようになりました.

しかし,金融市場(そして為替レート)は大きく均衡から外れ,ときにはショックを増幅します.市場の影響をめぐる各国政府の判断は異なり,支配的な勢力や指導に翻弄されています.その結果,国際収支不均衡がデフレ的な国内均衡を強いるとき,指導的な国家(諸国)が協調を促す必要があるのです.

ユーロ圏では,ドイツとギリシャとの不均衡が「調整」されなければなりません.同様に,中国の外貨準備とアメリカの債務が世界需要の水準を維持する上で必要な役割を果たす必要があるのです.ポンドからドルに代わったような,ドルから人民元への移行なのか? と言えば,テミンらは違うと考えます.ケインズは,多角的な世界経済の安定化を制度化しようとしていました.

それは,1980年代にジョン・ウィリアムソンが主張した「目標相場圏」です.日米欧の3極は,国内需要の維持と,国際収支不均衡に関する為替レートの水準で合意することが,金融危機やドルの大幅な変動を避けるうえで重要でした.しかし,プラザ合意の成果は,その後の金融的混乱で大幅に損なわれました.

世界恐慌の再現は防がねばなりません.安倍は習と協力し,メルケルはチプラスと協力し,オバマは習と協力して,世界経済の回復と安定性を維持するマクロ政策の相互の調整を制度化し,金融市場に代わる民主主義的なプロセスを確立するチャンスがあります.

日本に代わって,今や中国が注目されています.しかし,日本経済の復活の条件とその重要性は,それに劣りません.安倍首相の戦後70年談話が失った機会をBloomberg は指摘しています.日本は,アジア諸国に対する謝罪を明確にする中で,安全保障や経済の相互依存を協調的に高める機会を得るはずでした.

それは軍事的脅威を抑え,ナショナリズムを穏健化する条件でもあります.アジアのナショナリズムを協調型の国際システムに向けてほしいです.

******************************