IPEの果樹園2015

今週のReview

7/20-25

 

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中国株式市場 ・・・米中の国際秩序 ・・・チプラスの勝利 ・・・イラン核開発合意 ・・・最低賃金の引上げ

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  中国株式市場

FT July 10, 2015

Equities: A bull market with Chinese characteristics

Tom Mitchell, Gabriel Wildau and Josh Noble

Ginger Zenggeは,北京の格付け会社に勤める26歳の女性であるが,615日が習近平主席の誕生日であることに注目し,株価が下落するのではなく上昇すると考えた.残念ながら,彼女は相場の頂点で多くの株式を買ってしまった.上海総合指数は612日に5,166.35の頂点に達し,わずか3週間で30%下落した.

中央銀行による株式購入,それを「中国式の量的緩和」と呼ぶものもいるが,その他の政府介入によって株価は10.6%回復したが,こうした政府介入は市場の信頼を長期的に損ない,政府の市場改革に問題を残すだろう.個人投資家から金融機関に株式市場のリスクを移すことは,モラルハザードを生じる.空売り規制や市場取引の停止は,リスクを先送りするだけだろう.

マージン取引は,特にシャドー・バンクや,「アンブレラ・トラスト」を介した複雑な資金調達が,株式購入を膨張させてきた.その影響がどこまで及ぶかは予測できない.

Aaron Zhangは,まだ株式を売らない,と言う.「習近平と李克強を信じているから.彼らには7%の成長を実現する強い圧力が働いている.もしそれに失敗したら,彼らは失脚するだろう.・・・そんなことは起きないだろう.6000や,8000でさえ,株価は回復すると思う.」

高齢の投資家たちが北京のDongzhimen China Securitiesに集まっている.80歳ほどに見える女性は,「投資した資金の3分の2を失った」とかすれた声で言う.「私はどうしてもそれを返してほしい.もし返してもらえたら,2度と株式市場に投資しないだろう.」

国営メディアは株式投資のブームを煽った.ブローカーや信託会社は共謀し,政府の政策課題に結びつけて投資を誘導した.国有企業改革や,習の「新シルクロード」インフラ計画だ.政府は,その信頼や国民の評価を損なうことを恐れている.より国家管理型の,より多くの財政支援へ向かうが,中国の国家も無限ではないのだ.

The Guardian, Sunday 12 July 2015

China's stock market turbulence is over? Don't count on it

Larry Elliott

上海株式市場が10日間で失った資産額は,メキシコのGDPより大きい.5月に株式取引口座を開設した1200万人は,潜在的に,破滅的な損失を出しているだろう.

確かに,中国の株式市場は企業の資金調達に重要な役割を果たしていない.また,19世紀のアメリカは,何度も株価の暴落を経たが,第1次世界大戦までに,農業国から世界最大の工業国になった.

しかし,ケインズがかつて書いたように,投機やバブルではなく,企業のポジションが重要だ.資本市場がカジノの副産物のようになっているとき,それが病気を重くする.中国の現状は,2007年の株価下落前にアメリカが示した特徴とそれほど異ならない.資産価格の膨張がファンダメンタルズの悪化を隠していたのだ.

資産価格の下落が最も深刻な影響を示すのは,安価な信用の供与がブームを生じているときだ.2008年の世界金融危機以後,中国政府は不況を回避して称賛された.しかし,今回の暴落で,その評価が変わるのは避けられない.

指導者たちが唱える成長モデルの転換は非常に難しい.その数10年で,GDPに占める消費の割合は50%から35%に縮小してきた.もし投資ではなく,消費に基づく成長に移行し,しかも,7%の成長率を維持するには,消費が年率で11.5%は増大しなければならない.


l  米中の国際秩序

NYT JULY 9, 2015

Can the U.S. and China Get Along?

By ORVILLE SCHELL

米中両国は,非常に異なる歴史,システム,価値観を持っている.中国の台頭がアメリカ側に平和的な調整を受け入れるものであるのか,習近平は明確にアメリカの維持する国際秩序に挑戦する姿勢を示し,双方の国民は対立感情を高めている.株価の下落が転換を刺激する局面において,アメリカと中国が平和的な関係を調整するためには,多くの問題で双方が譲歩する姿勢を示さねばならない.

アメリカは,民主主義や人権よりも地球温暖化で協力する,アメリカがカリブ海で示すように,中国が南シナ海である種の「影響圏」を保持する,中国近海におけるアメリカの偵察飛行に新しい制約を認める,台湾向けの武器売却について交渉に応じる,朝鮮半島が再統一するとき,アメリカは軍隊や核兵器をひた朝鮮側に置かない.IMFなどの国際機関で中国のより大きな役割を認める,習近平の進める経済モデルの転換を積極的に支援する.

また中国は,海洋における紛争を国際法に従って解決する,北朝鮮に対する制裁をより効果的に支持する,台湾海峡を超えた軍事力の行使を禁止する条件について交渉する,香港の自治を認めて,普通選挙に向けたタイムテーブルを示す.

これらは重大な相違点であるが,プーチンのロシアが示すような道を選択するべきだろうか? 中国の平和的な挑戦は,アメリカとの勇気ある対話を必要とする.

Project Syndicate JUL 10, 2015

The Limits of Chinese Soft Power

JOSEPH S. NYE

中国は,経済力や軍事力を強めるだけでは,周辺諸国のバランスを取る連携を刺激するだけであることを知っている.それゆえ,敵対関係を緩和する,よりスマートな戦略が求められる.

AIIBで投資を行うだけでは十分なソフトパワーにならない.中国の影響力は欧米や日本,インドで,はっきりといマイナスである.領土紛争や人権を重視しないラテンアメリカやアフリカでは,よりプラスになるが,それでもインフラ建設に中国人労働者を輸入する地域では人気がない.

ソフトパワーは3つの源泉から発生する.文化,政治的完治,外交政策である.正当性を持つ,道義性の高い外交政策が必要だ.中国政府は文化と経済力を強調するが,それを損なう政治的な側面を無視している.

特に重要な問題は,中国政府が高成長だけでなく,ナショナリズムによって権力を固める姿勢が,他国に警戒されることだ.また,検閲の無い,自由な市民社会の優位を軽視している.中国のソフトパワーは政府が供給するだけで,非政府のソフトパワーが無い.アメリカは,イラク戦争のような政府の大失策にも関わらず,多くの民間のソフトパワーがそのマイナスを補っている.

2008年の北京オリンピック成功も,人権弾圧によって,国際的なソフトパワーの形成を他またげただろう.


l  チプラスの勝利

FT July 10, 2015

The big achievement of Tsipras’s proposal is to sow division

Wolfgang Munchau

そばで見れば,この合意には多くの地雷が埋まっている.チプラスがこの5カ月間で達成した者は何か? 債権者側に分裂を生じたことだ.IMFは債務免除を主張している.フランスは初めてギリシャの提案をオープンに支持した.オランド大統領はチプラスの側に立った.

こうしたことがメルケルの立場を弱くした.ドイツが今,NOと言えば,ユーロ圏や独仏同盟を破壊した責任を問われるだろう.しかし,彼女がYESと言うことは,イギリスで保守党がヨーロッパに関して分裂した苦悩と同じことになる.

チプラスの提案は,彼らが国民投票で否決した提案と根本的に変わらない.それでも,チプラスには成果である.合意には債務免除が含まれるだろう.この数カ月でギリシャの経済状態は悪化したが,マクロ経済の調整計画では,ドイツが主張する一層の緊縮ではなく,より緩やかな調整が必要になる.

最も難しいのは,破綻に等しいギリシャの銀行システムをどうするか,である.ECBELAを増大する見通しはない.ギリシャの銀行を23行に縮小し,預金者にも損失を分担させるべきだろう.それらがないまま,債権諸国が追加の535億ユーロを支払うとは思えない.

ヨーロッパ諸国のチプラスに対する最後の信頼も,国民投票によって完全に失われた.ヨーロッパ議会に来たチプラスに共感を示したのは,極左と極右の政治家だけである.メルケルの政権を支える与党は,合意よりも,ギリシャのユーロ圏離脱を好む.フィンランド,バルチック諸国,スロヴァキアも,この合意を受け入れるのか? そこには大きな政治的リスクがある.

FT July 10, 2015

The Club Med Marshall Plan

Gillian Tett

数年前,私がアメリカとヨーロッパの政策担当者たちと楽しい夕食をともにしていたとき,話題はギリシャに及んだ.「こうした問題を解決する方法を,皆さん,知っているよね?」と,1人のエコノミストがにやりと笑って宣言した.「ホリデーキャンプだよ!

解決策は2つからなる.第1に,ドイツ人納税者の金を使って,ギリシャに素晴らしいホリデーリゾートを,地元の労働者だけで建設する.第2に,納税者の基金の一部を,ドイツ人年金生活者へのバウチャー(交換券)発行に充当し,すべて込みのホリデーを送る資格が彼らに与えられる.ただし,これを利用できるのはギリシャ・リゾートにおいてだけである.

この仕組みによって,ギリシャが渇望する景気刺激策を得られる,とこの夕食の仲間は論じた.しかも,ドイツ人は経常黒字の一部を国外で支出する.それはヨーロッパの経常収支不均衡を緩和する.しかし,何より素晴らしいことは,と彼は主張したが,ドイツ人納税者が好む何か,他の選択肢に比べて政治的に支持できるもの,を与えることだ.すなわち,納税者たちは,ユーロ圏の破綻した銀行が示すブラックホールに,穴埋めの資金を注ぎ続けているのだ.「こうしてドイツの納税者とギリシャのウェイターたちは幸せになる!」 エコノミストは結論を下し,食堂は笑いに包まれた.これぞ「完璧な地中海クラブ型マーシャルプランだ.」

人類学者のMary Douglasが指摘するように,冗談は無意味な,愚かなことではない.正常な社会秩序や認識を覆して,通常は無視されている矛盾を暴くとき,冗談は強力な,楽しいものになる.ギリシャをめぐる議論が沸騰する中で,なぜ地中海クラブ型マーシャルプランが楽しいのか,考えてみるべきだろう.それは何を暴き,ヨーロッパの指導者たちが今すぐ話し合うべき何を示しているのか?

私には2つのことがわかる.第1に,ヨーロッパ政治経済の根本的な欠陥は,諸国の政府が途方もない額をバラまきながら,有権者たちがそれからどんな利益を得ているとも感じられないことだ.もしそれが橋をかけたり,学校を建てたりするのであれば,納税者は喜ぶだろう.しかし,銀行に資金を注ぐとこでは,納税者が何も観ることはできない.ユーロの官僚制を喜ばすことは納税者の満足につながらない.

2に,ユーロ圏の諸政府は切れ目のない協力関係を駆使して公共財を供給している,と有権者たちが想像することは不可能である.理論的に,単一通貨体制がうまく行くとしたら,それはあたかもアダム・スミスの分業概念が示すように,各地域が最善のことに特化する形で資本と労働力とを動かす,単一の緊密な経済圏としてヨーロッパが機能するときであり,それしかあり得ない.

ほかではそうなっている.例えば,フロリダだ.最近では,アメリカの北部に住む人々,いわば「北の鳥」が飛来する主な目的地になっている.毎年,多数の北の鳥が主に冬にやってきて,中には住宅を買ったり,ここで引退した後に生活したりする者もいる.なぜならフロリダは,相対的に物価が安く,アクセスが良いし,北と共通の言語,文化,法体系があるからだ.

ヨーロッパにも北の国から飛来する住民は多くいる.地中海の海辺にいるイギリス人,ドイツ人,スウェーデン人がそうだ.しかし,この現象はまだまだ少ない.それは言語,文化,法体系が異なるからだ.むしろ実際には,この10年の間に,ギリシャに来るドイツ人は急激に減少した.むしろ豊かなギリシャ人やドイツ人は,マイアミのような土地で不動産を購入するために集まって来る.

観光業がGDP5分の1を占めるギリシャにとって,これは苦しいことだ.同時に,ユーロ圏が機能するためにも,経済的な意味で,逆のことが起きるべきなのだ.

FT 13 JULY, 2015

Germany’s conditional surrender

Gideon Rachman

ギリシャの恥辱とか,圧倒的なドイツの勝利とか,ヨーロッパ民主主義の転覆とか,何と愚かな見出しか? 誰が降伏したのか? それはドイツだ.ドイツは嫌っていた新しい巨額の救済融資を認めた.

ギリシャの主権が侵されたと多くの見出しは述べている.特に,500億ユーロの資産を民営化して,そのアテネの資金を外国人が監視する,というアイデアだ.歴代のギリシャ政府が示した汚職と支援者への利益誘導を考えれば,これはとてもよい考えのように思うのだが.

もちろんギリシャの庶民たちは仕事や貯蓄,将来のことで心配している.しかし,すべては冷酷なヨーロッパ人の罪だ,彼らが無思慮な緊縮策を押し付けて,そうでなければ健全であったギリシャ経済を破壊した,という発想は,新左翼の幻想である.ギリシャの政府は何十年も統治に失敗し,税収を超えた支出を続けてきた.

ドイツ人,オランダ人,フィンランド人など,債権諸侯の庶民が起こるのは当然だ.彼らはユーロに参加するとき,「救済禁止」の条項があるから,彼らの税金は他のユーロ圏の国を救済することに使われない,と言われた.ところが,スペイン,ポルトガル,アイルランドを救済し,ギリシャには3度目の救済融資を行う.しかし,ギリシャが債務をすべて返済できないのは明らかで,免除するしかないだろう.

フランスとドイツの反目は明白になった.フランス政府はチプラスを擁護し,ギリシャがユーロ圏にとどまるように求めている.それには確かに理由がある.しかし,ドイツ人の納税者から見るなら,チプラスと抱き合うオランドの姿は最悪だ.

フランスはユーロ圏の緊縮策を逆転するという自国の利益を示したにすぎない.この国は1970年代半ば以降,たった一度も財政を黒字にしたことがない.ギリシャと同様に,経済の構造改革を推進できない政府である.危機の後も,ユーロ圏の強化を唱えているが,そのEU規模の社会制度に対して誰が税金を支払うのか?

ユーロはすでに,ドイツ人のヨーロッパに対する態度を悪化させ,ヨーロッパのドイツに対する態度を悪化させている.

Project Syndicate JUL 13, 2015

Saving Greece, Saving Europe

BARRY EICHENGREEN

ドイツはギリシャに経済的破滅か,ユーロ圏離脱か,選択するように求める.

ドイツのSchäuble財務相はギリシャを一時的にユーロ圏から切り離すという考えを述べたが,これは間違っている.ギリシャの経済状態が悪化する中で,合意できなければ,ギリシャ政府は新しい何かを印刷するしかない.このような経済困窮時に,ギリシャがユーロ圏の参加条件を再び要求されるとしたら,そのまま追放されるのと同じことだ.

こうした言葉は合意文書から削除されたが,その考え方が消え去ったわけではない.ユーロ圏は脆弱で,不安定化に向かいやすくなる.新しい融資プログラムは,経済的な刺激策もないまま,プライマリー・バランスの黒字を要求する.それは不況を深刻にする.ついにはGrexitを開始するだろう.資産の投げ売りを意味する民営化基金も,返済のためだけに使用され,構造改革や成長をもたらすものではない.

ギリシャはもっと厚遇に値する.主権を尊重し,時間をかけて政府は信頼を回復する.死ぬまで返済するのではなく,経済の安定化を優先する.ECBからユーロ圏にとどまる支援を受ける.

ヨーロッパはもっと厚遇に値する.このような政治的不信感や,経済的に間違った救済融資から抜け出す.ギリシャの原罪を支える彼らの貢献が感謝される.ドイツ国民の態度やその指導者の「ルール」を強調する発言のために,ヨーロッパ統合のプロジェクトを犠牲にしない.

ドイツ国民はもっと厚遇に値する.ドイツ国民と政府は,過激な主張に反対する指導者として,その推進者ではなく,内外で評価される.ヨーロッパは背かい情勢に重要な役割を担い,特にドイツは,第2次世界大戦後の政治・経済成果によって,ヨーロッパの仲間たちから敬意と称賛を与えられる.新しく怨嗟や疑念をもたらすのではなく.


l  イラン核開発合意

FT 14 JULY, 2015

Three cheers for a flawed Iran deal

Philip Stephens

これを歴史的な瞬間とは感じない.多くの論争と相互不信の果てに,イランと主要5カ国との核合意はいつも失望であった.しかし,称賛するべきだ.それは成功の可能性があり,他の可能な選択肢に比べて優れているからだ.

オバマの希望は,イランとの合意を彼の遺産にすることだ.これによって中東世界のバランス・オブ・パワーが変化する.前任者のGW.ブッシュが軍事力によって同じことを試み,失敗した.オバマは,外交によって,より優れた成果を示したいのだ.リチャード・ニクソンがウォーター・ゲートの犯罪で評価を損なったが,同時に,中国を開放したことで記憶されているように,オバマは,核拡散の悪夢を阻止した,という記録を残したい.

テヘランには明らかに意見対立が存在する.しかし,ザリーフ外相が指摘したように,制裁によっても遠心分離機の増加とウラン濃縮は阻止できなかった.合意によって核開発を遅らせることには意味がある.アメリカなど,常任理事国とドイツ(P5+1)を騙すことは容易でないはずだ.

合意は,テヘラン内部の利害計算を変える.イラン国民は,制裁による亡命者の地位,さらにはアメリカによる核施設への空爆リスクを好むのか,あるいは,核兵器開発の寸前で止める状態を好むのか? 国内政治では,プラグマティストと,核武装しなければアメリカによる体制転換のリスクがある,という強硬派,とが対立している.

イラクからレバノンに広がる混乱が意味することを,1つだけ挙げるとしたら,秩序は地域の大国によって支持しなければ回復できない,というものだ.確かに,混乱の背後にはイランの攻撃的な姿勢がある.しかし,イスラム過激派に対するサウジアラビアの矛盾した姿勢,クルド人の自治権を抑えるトルコの姿勢,にも問題がある.

この合意には,欧米と,ロシア,中国が参加する.オプティミストなら,たとえその端緒でしかないとしても,ルールに依拠した国際システムに相互利益を見出し始めた,という希望を持つだろう.

他の選択肢はもっと悪い.核兵器のない秩序の方が良い,という主張を,関係する諸国が現実に維持することが重要だ.

NYT JULY 14, 2015

Obama Makes His Case on Iran Nuclear Deal

Thomas L. Friedman

アメリカが,他の主要諸国と組んで,イランにもっと強く核開発の放棄を要求しなかったのか,という不満に,オバマは答えます.

アメリカが,イランと和解し,中東地域の不安定化を強める介入にかかわるイランを国際社会に受け入れることは間違いだ,という批判にも,オバマは答えます.

アメリカは,シリアや,イスラム国家の問題を解決できないし,サウジアラビアやイスラエルとの関係も悪化した,という批判に,オバマは答えます.

そして,アメリカが進めるイラン核開発計画の抑制,国際監視体制,制裁解除によるイランとの経済関係拡大を通じて,イラン国内で生じつつある社会・政治改革を支援できる,という自分の考えを説得します.


l  最低賃金の引上げ

Project Syndicate JUL 16, 2015

Minimum Wage or Living Income?

ROBERT SKIDELSKY

ロボットが人間の職場を急速に消滅させる時代が始まった.

これまで,スピーナムランド制から始まって貧困層の所得を補助する法律がある.また,M.フリードマンが唱えたマイナスの所得税という補助金もある.いずれの考え方も,職場はあるけれど,所得が足りない人々を支援するものだった.

最低賃金の引き上げ,もしくは,生活賃金闘争が注目されている.オズボーン蔵相は最低賃金を引き上げ,雇用者の負担で政府による低賃金生活者への支援を減らそうとしている.しかし,政府の負担を減らせても,これですべての者に生活できる賃金を実現することはないだろう.

そのためには,ベーシックインカムが必要になる.社会はそれを可能にするほどすでに豊かである.また,ベーシックインカムは働く意欲を目的にしたものではなく,職場がない者の生活を可能にするものである.

すべての者が,働く選択肢の自由を拡大し,生活できる社会を目指してどうか?

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The Economist July 4th 2015

Europe’s future in Greece’s hands

The Greek crisis: There comes up a day

Charlemagne: The end of fudge

Race in America: Lost, but now found

Chechnya dispatch: Diamond ring, iron fist

China and commodities: Cornering the markets

Puerto Rico: A Caribbean fuse

(コメント) ギリシャの危機も,プエルトリコの危機も,その具体的な拡大や結果は政治によって決まります.政治家たちは自分に都合のよい計算を優先し,他社のコストや全体のコスト,長期の不安定性を軽視します.ユーロ圏のしくみも,アメリカの自治区と裁判所も,長い紛争と住民の苦しみに応えているようには見えません.

アメリカの大統領が黒人であることによって,多くの事件が平和的に解決される方向を明確にできたと記事は評価しています.チェチェンの独裁者はもはやモスクワの支配からも離れた恐怖支配の楽園を築き,他方,中国の経済的なパワーは国際商品市場の変更を静かに促進するほど重要になっています.

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IPEの想像力 7/20/15

私は現在の安保法案に反対です.衆参両院で自民党が多数を制しているこの国会で,どうしても成立させてしまう,という考えは間違っている,と思うからです.

Reviewをまとめながら,安保法案をめぐる議論で軽視されている問題を示唆する,世界の変化を思いました.安倍政権は「国際情勢の変化」を,最も重要な理由に挙げています.

数週間前のThe Economistに,中東の石油がますます多く中国に輸出されている,という記事が載っていました.中東の市場には中国製品があふれ,産油諸国の第1の貿易相手国が中国になっているのです.アメリカが軍の関与を嫌って,さらに,イランとの核合意で湾岸諸国を見捨てる,と不安を高めているとき,中国からの外交や政治に関する影響力が強まるに違いありません.

アメリカには国内のシェール・オイルやガスがあります.少なくとも,中東の秩序が,日米や尖閣諸島の安保論議を超えて,より複雑な外交・安全保障の能力を問うものであるに違いない,と思いました.安保法案の審議過程で議論された,ペルシャ湾の封鎖,ホルムズ海峡の掃海活動,など,その議論の中身だけでは,地底の湖を裸で泳ぐような恐ろしさです.

アメリカとイランとの核合意は,オバマが外交による国際秩序の転換を試みたものだ,と安直に受け取ってはいけないかもしれません.P5+1(常任理事5か国+ドイツ)による安保理・制裁・核拡散防止体制が,その実効力を試された,というべきもののようです.しかし,オバマが戦争を回避する外交力を発揮して,地域の安全保障や国際秩序に具体的に取り組んだ姿勢は,私たちの国にも求めたいです.

アメリカが日本を助けるのは,それがアメリカの安全保障や経済成長にとってプラスになるからです.同じように,アメリカにとって中国との関係も,協力と対抗とが混在する,複雑な関係を長期的にマネージするものになるのでしょう.中東でも,南シナ海でも,そこに共通するのは,地域の大国間で均衡を模索するダイナミックな変化を,アメリカは外から関与する形で,常に強い影響力を維持しよう,と考えるのではないでしょうか?

中国の株価下落について記事を読むと,私は国際協調の議論を思い出します.かつて,為替レートの安定化や,財政政策による景気刺激策,金融政策・規制によるシステムの安定化,などが,民主主義的な,発達した資本主義諸国で議論されました.同じことが,中国など,新興諸国を含めて,巨額の国際資本移動をともなう世界経済の様々なリスクに対して,真剣に議論する時代を,私たちは否応なく生きています.・・・境界線や領海沿いに,いくら多くの歩哨や警備艇を出しても,次の戦争を防げません.どうすればよいのでしょうか?

最悪の場合を避けるために,国際協力が高まるはずです.同時に,最悪の場合に備えて,自国の食糧やエネルギーを確保し,経済・金融システムを強化し,外交とともに防衛力も整備しなければなりません.しかし,それだけでよいのでしょうか?

「地中海クラブ型マーシャルプラン」を,各地の優れた財,技術,労働者が,互いに市場を提供し,活発な貿易と投資を刺激するアジアでも実現するために,不均衡や社会的軋轢の生じた地域間で,問題を克服する公的関与を高めることでしょう.たとえば,介護や農業,夜間のサービスなどに,外国人労働者が参加する仕組みがあれば,彼らの仕送り,受入国経済の柔軟性が増します.日本の高齢者がアジア諸国のリゾート開発に参加したり,高度な医療サービスを物価の安い諸国で受けるツアーが開発されたりします.

私は,優れた安保法案が必要だと思います.もっと審議を広げて,もっと多くの国民からアイデアを取り入れ,国境を超えた安全保障を整備する,修正案を求めます.安全保障に関する,近隣諸国と将来に向けた内外の合意を築くときです.

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