IPEの果樹園2015
今週のReview
6/29-7/4
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TPPの誕生に向けて ・・・G7からG2へ ・・・ギリシャのデフォルト ・・・ロシアの軍事的威嚇 ・・・中国の拡大 ・・・トヨタのガバナンス改革
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l TPPの誕生に向けて
NYT JUNE 25, 2015
Who’s Speaking Up
for the American Worker?
By BETH MACY
月曜日の夜,私の町の図書館で,サイン会のテーブルに一人の女性がやってきた.彼女は,新しくペーパーバック版で出た私の本“Factory
Man”を持っていなかった.それはアジアに移転された家具産業の30万人のアメリカ人労働者に何が起きたかを書いた本だ.
彼女は,本を持たずに半時間も並んで,Furniture
Brands International のLane
Furniture工場が閉鎖されたとき,2001年に550人以上がレイオフされた中の一人である,と自己紹介した.屋内清掃など,彼女がするパートタイムの仕事では, 17ドルの本を買うお金が無い,と彼女は囁いた.
私が講演した講堂の前列には,Bassett
Furniture Industriesを引退した販売担当重役が座っていた.彼と妻は近くのリゾートで快適に暮らしているが,家具産業が中国,ベトナム,インドネシアへ移転して,次々に工場が閉鎖され,Bassettに所有する不動産を貸すのが難しくなった.
最前列の別の端で,目に涙をためて,70代の退職者が座っていた.私が写真を示して,食糧配給が始まる2時間も前から外に並ぶ人たちのことを話していたときだ.彼の母はBassettの公営住宅で育ち,彼の父は工場で指を切断した.彼はHenry
Countyの住民でもあった.その町は20年で雇用の半分を失った.それは工場の労働者だけでなく,下請工場,その労働者たちが金を使った商店や食堂の職場であった.
解き放たれた自由貿易は,Henry
County地区を,10年以上,ヴァージニアで最も失業の多い地区の一つにしただけでなく,食糧配給や社会保障支給の多い地区にした.そして,犯罪も増加した.
TPPはアメリカ人の職場を守るのか? あるいは,その消滅を早めるのか? アパラチアの,かつて家具産業で栄えた地帯において,私がいつも最初にされる質問である.
私は経済の水晶球を持たない.しかし,アメリカが国際貿易に占める役割を決める議員たちと違って,私はこの3年間,職を失ったまま元の工場町に住む人々と話し合ってきた.彼らの多くは,TPPが単に「強壮剤付き」NAFTAである,と信じている.条約は企業の強欲な幹部たちとそのロビイストが推進したのだ.
TPPがアメリカのためにハイテクサービス業や農業の貿易を自由化する,と聞けば,彼らは即座に,ビル・クリントンが2000年初めに唱えた「ウィン・ウィン」予測を思い出す.中国のWTO加盟はアメリカ人の雇用を奪わない.むしろそれを守るのだ,と.なぜならアメリカ企業は,増大する中国の消費者に,より多くの製品を輸出するようになるだろう,とクリントンは主張した.
しかし,中国製品のダンピングが明らかでも,中国がアメリカ市場でシェアを拡大した.消費者たちは少しでも安い価格でジーンズやパジャマを変えるなら,WTOのルールも,労働や環境の基準も,気にしなかった.消費者もジャーナリストも,衰退する工場町で増える犯罪と,バングラデシュの衣料工場で起きた火災に関する3面記事とを,結び付けなかった.小さな町のレポーターには,WTOやアメリカ通商代表部が何をしているか,取材するライセンスは無いからだ.国際貿易をカバーするレポーターもBassettには来ない.企業の幹部たちは報道されることを嫌い,株主の利益がすべてである.
TPP支持者は主張してきた.低熟練の製造業が世界化するのは既成事実である.中国やメキシコから職場が戻ってくることはない,と.
では,アメリカでまだ何とか続いている他の製造業はどうか? 2001年以来,輸入の増加で,アメリカ製造業の雇用は3分の1ほど減少した.都市の計画家やTPP支持者は,グローバルな長期的視点で考える,という.確かに,グローバリゼーションは発展途上の世界で人々の生活水準を高める.しかし,極端な低賃金でも喜んで働くインドネシアの農民たちの生活改善は,本当に,2001年から2012年にアメリカで起きた6万3300の工場閉鎖と関係ないのか?
田舎の,保守的な人々と違って,私はオバマ大統領と同じように,TPPは成長とアメリカの輸出をもたらす,と考えたい.しかし,日本やマレーシアのような通貨操作を禁止する妥協案が,TPPに採用されなかったことに私は戸惑う.TPPが所得格差を拡大することを懸念する.
私は1942年頃のBassettのスライドを紹介する.小さな子供と一緒に,社宅の前で,カップルを撮った写真だ.その少女は,今,70代後半だが,いかに貧しかったかを話した.鉛筆も紙も無かったので,窓ガラスに書いて文字を学んだ,と.しかし,彼女は父が工場で得る賃金で大学に進み,修士を得て,中心部のソーシャルワーカーになった.それはグローバリゼーション以前のアメリカにあった社会的移動であった.
次に,私は1969年頃の白黒写真を示す.一人のぼろをまとった少女が映っている.経済が好調のときは,地元の工場で,彼女の母は飛行機のはんだ付けをした.景気が悪くなると,ウェイトレスやベビーシッターのような下層の仕事をした.その少女が今では51歳の私であり,家族の中で初めて大学に行き,初期のトリクル・ダウン経済学が示すきわめて幸運な例であった.貧しくとも,才能ある子どもは支援を受けて,大学を出ることができたのだ.
しかし,私は創造的破壊を説くエコノミストにはならなかった.この数年は,動揺するグローバリゼーションの背後で,取り残された人々の話を語ってきた.
私は,聴衆がTPPから利益を受ける人々であってほしいと思う.しかし,疑う余地はほとんどない.それはアメリカの工場労働者たちではないのだ.
l G7からG2へ
Project Syndicate
JUN 23, 2015
The Irrelevant
Seven
JOSCHKA FISCHER
グローバリゼーションにより,まだ完全に工業化していない国も,工業化の利益を享受し,世界市場の統合されるようになった.その傾向はグローバルな分業とヴァリュー・チェーンの再編につながり,その背後にはデジタル通信技術がある.
デジタル化の影響は経済を超えて,文化的なバリアを打ち壊す.生活水準の上昇,文化的統合化,そして,特に増大する中産階級に,より広範な政治参加が実現する.政府による国内の監視やコントロールが困難になってくる.
グローバルな経済のバランス・オブ・パワーが受ける影響は予測できないが,これらの変化は疑いなくいくつかの発展途上諸国を上昇させつつ,西側,特にアメリカの技術力,革新能力における優位を維持するだろう.アメリカのシリコン・ヴァレーに実現しているような資本市場の潤沢さ,ダイナミックなビジネス文化は,究極的にアメリカのグローバルな優位を強化する.
しかし,中国とインドのような新興経済が,技術的なキャッチアップを利用しつつ,革新に努力すれば,国際秩序の「脱西洋化」は進むだろう.これらの諸国が既存の大国に挑戦する結果は,将来にしかわからない.たとえアメリカが競争的な優位を保持するとしても,第2次世界大戦以来の,特に,ソ連崩壊後のアメリカの単独超大国という,グローバルな地政学的支配は続かないだろう.
アメリカは,はるかに弱い敵と,勝利することが不可能な一連の戦争を経て,過剰拡大を自覚し,内向きになることを強いられた.その権力の真空には,中東,ウクライナ,東・南シナ海に,地域的な危機が残され,不安定化と無秩序を強めている.パックス・アメリカーナに代わるのは,産業革命以前の分散した世界秩序なのか,中国,インド,ヨーロッパ,ロシアを加えた,5極化なのか?
しかし,EUにも,ロシアにも,インドにも,深刻な問題があるから,アメリカと中国だけが残る.それは中国との新しい冷戦だ.しかし,多くの人が予想するのとは違って,この連結した世界では,米中の共通の利益を損なうような対立や競争は不可能である.中国はアメリカ政府の債務を融資し,そのグローバルな権威を助けている.アメリカ市場なしに,中国の急速な成長や近代化は不可能だった.
冷戦ではなく,関与と相互の適応である.G7は消滅し,G2が始まるのだ.
l ギリシャのデフォルト
FT Saturday, 20
June, 2015
Greece is Europe’s
failed state in waiting
Lawrence Summers
今やギリシャのヨーロッパからの分断は近くに迫っているようだが,ある意味で,それは誰の責任でもない.
ギリシャの指導者たちは,彼らが強いられた財政緊縮は,大恐慌以来,工業国が経験した最大の規模であること,債務削減の明確な約束なしに,これをさらに続けることはできないこと,を正しく説明した.ヨーロッパの指導者たちは,ギリシャのために何度も返済の調整に応じたこと,ギリシャだけが別のルールに従うことを各国の市民たちは受け入れないこと,を正しく強調した.IMFは,ギリシャとヨーロッパが合意した計画であれば,何でも受け入れると表明するだろう.
問題は,彼らが受け入れがたい妥協と考えるより,交渉の決裂を恐れることから,もっと多くを得られることだ.歴史家たちは,第1次世界大戦がどのように起きたか,を説明できるが,1世紀を経てもなお,なぜ起きることが許されたのか,困惑している.来週になれば,金融の歴史家たちが,どのようにヨーロッパの金融的な解体が許されたのか,と不思議に思うだろう.
決裂の帰結を明確に示しておくべきだ.ギリシャの財政緊縮は,現在よりも,はるかに厳しくなる.そしてギリシャは破綻国家になるだろう.
ギリシャ国家が崩壊すれば,債権者は秩序正しく債務を組み替えるよりも,もっとわずかしか返済されなくなるだろう.ギリシャからの難民はヨーロッパ各国の財政を逼迫させるだろう.ロシアがギリシャに介入するのは間違いない.
IMFは,その歴史において最大規模の,借り手による返済停止を経験するだろう.LTCNや,サブプライム,リーマンが示したように,危機が感染する恐れは非常に高い.
外交が失敗し,破局に至るのは,各国が自国の関心だけに執着し,他国の政治的な必要を考慮し損なうとき,相手が同意しないことに答を求めるときである.
FT SUNDAY, 21 JUNE,
2015
There is a way past
the insanity over Greece
Willem Buiter
明らかに必要な解決策が試みられたが,それは失敗した.債務の免除と新規融資を得る代わりに,ギリシャ政府と国民は,自分たちで,劇的な改革を実行する,というものだ.
両者の願いは異なっている.ギリシャ人は自分の運命を自分で決めたい.債権者は,融資の限界を決めたい.その両方を満たすには,以下の解決策を取ることだ.
1.財政緊縮と改革に関して,ギリシャ政府の望み通りに,自由に決めることを認める.国際機関(つまりトロイカ)による監視は止める.
2.ギリシャ政府がヨーロッパ諸国やIMFに負う債務は処理する必要がある.ECBは,条約で禁止されている融資を拡大しない.債務を購入するのはESM(European Stability Mechanism)であり,2012年にユーロ圏諸国が債務処理のための基金を設けた.
3.国際機関は,もはやギリシャに融資しない.既存の救済融資に残された72億ユーロは返済されないだろう.そして,ギリシャ政府は自分で財政を決める.
4.裏口から国際機関のカネがギリシャの財政に入るのを阻止するため,ECBが厳格なリスク管理を実行し,もはや政府債務は受け入れない.ユーロ圏の銀行に対するECB融資も,政府債券を担保に行われない.
5.したがってギリシャの銀行の多くは資金を得られない.政府債を担保にしなくても良いように,ギリシャの銀行の自己資本強化と再編を行う.それはヨーロッパの金融当局が行う.ギリシャの銀行は,政府に関係ない十分な担保を提供できるなら,ECBからの資金,そして流動性支援を利用できる.
ECBはギリシャの銀行が政府に新規融資するのを禁止し,保有する政府債券は満期になれば終わる.これによって,ギリシャの政策はギリシャ国民の手に戻るだろう.劇的な形で,ギリシャに対してユーロ圏の銀行同盟を形成し,ギリシャ政府を救済することなく,銀行システムを救済する.これは,ユーロ圏が加盟国の政府債務を秩序正しく再編することを妨げない,という原則を強化する.
これらがうまく行けば,ギリシャは改革を実行し,成長を回復するし,政府は市場で債券発行を再開できる.すべての機関にとって,またギリシャにとっても,これは良いことだ.
上手く行かなければ,ギリシャ国民は苦しみ続ける.キプロス型の資本規制が行われ,政府は支払に代用貨幣を発行する.政府が離脱をほのめかしても,もはやデフォルトは銀行取り付けを意味せず,ユーロ圏離脱ともつながらない.
ユーロ圏とギリシャから狂気を除去するべきだ.
The Guardian, Monday
22 June 2015
Greece is a
sideshow. The eurozone has failed, and Germans are its victims too
Aditya Chakrabortty
道義的にギリシャを責め,高貴なヨーロッパの目標を擁護する,そんな議論が広く行われている.無責任なギリシャ人は合意を守ることなどないから,ユーロ圏を離脱させるしかない.「賢明な人々」はそう考える.IMFのラガルド専務理事はシリザ政権を,「大人」として振る舞え,と攻撃し,ドイツの新聞はギリシャのボルファキス蔵相に,「精神科で診てもらえ」,と非難する.
しかし,こうした議論は現実を見ていない.ギリシャはユーロ圏のプロジェクト全体に広まる大きな病気の最悪の発症例でしかない.ルール渓谷からローマまで,大陸の至る所で,ヨーロッパの普通の人々にとって,単一通貨はうまくいっていない.
私は,ギリシャの慢性的な汚職や脱税に目をつぶっているのではない.私の言いたいことは,ユーロ圏のプロジェクトがその最初の約束を守れなかった,ということだ.逆に,ドイツも含めて,ヨーロッパ人の生活水準を掘り崩している.かつてOskar
Lafontaineは,統合されたヨーロッパを「生活水準が徐々に収斂し,民主主義が深まり,真にヨーロッパ的な文化が栄える」ことで達成される,と述べた.
単一通貨プロジェクトが信用を失ったのは,生活水準を低下させ,民主主義を破壊し,諸民族のアゴラをさらに遠ざけたからだ.中でも,最初の過程は最も重要である.Heiner
Flassbeck (the
United Nations Conference on Trade and Developmentの元主任エコノミスト)と Costas Lapavitsas(ロンドンのSOAS経済学教授,現在,シリザ所属議員)が発表した研究(Against the Troika)を見ればよい.
1999年から2013年の単位労働コストを示す表によれば,ドイツの労働者がほとんど上昇していない.この期間,フランス,オーストリア,イタリア,南欧の多くよりも,ドイツの労働者は報われていない.ヨーロッパ最強の経済,ドイツの繁栄を築いた人々が,その努力に対して報酬を得られないのに,これをヨーロッパはモデルにする,
ドイツと言えば,高度な熟練の国,輝く工場に高報酬を得る労働者の国,と思っているかもしれない.確かに労働者も労働組合もあるが,それは急速に減少している.今や,低賃金労働者の数が急増し,ほぼアメリカと同じ水準だ.ユーロを責めてはいけない.しかし,労働組合の衰退や,安価な労働者を求めて東欧へ工場が移転したことに責任がある.単一通貨によって,ドイツの低賃金問題がヨーロッパ大陸を破滅させることになったのだ.
フランス,イタリア,スペイン,その他のユーロ圏諸国が,ドイツの慢性的な賃金凍結により,賃金引き下げを強いられている.Flassbeck
and Lapavitsasはこれを,ドイツの「近隣窮乏化政策」,ただし,「自国民を窮乏化してから」他国に及ぶ,と表現した.前世紀には,競争力を失った国は自国通貨を切り下げた.今や同じ通貨圏であるため,彼らにできるのは労働者を安売りすることだけだ.
ブラッセルでも,ストラスブールでも,ヨーロッパの「賢明な人々」は,労働市場や社会保障給付の「改革」を求める共同声明を発表して,普通の人々の生活水準を低下させる.
これが高貴なるヨーロッパのプロジェクトのなれの果てだ.大陸規模で進む,サッチャー革命であり,レーガンの革命だ.他に選択肢はない,という精神が蔓延する.
FT June 22, 2015
The three perilous
options for Greece facing Europe
Gideon Rachman
3つの選択肢がある.そのいずれを選択しても,ヨーロッパは異なるルートで破局に向かう.1.ギリシャに譲歩する.2.強い姿勢で,ギリシャをユーロ圏から離脱させる.3.ギリシャ政府は債権者の要求を受け入れる.
ルート1:ギリシャの勝利.債権者側は,増税や社会保障費の削減を諦める.それは危機を避けようとして,ユーロ圏を破壊する.アイルランド,ポルトガル,スペイン,ラトビアのように,厳しい緊縮策を進めた諸政府は即座に支持を失う.シリザと同じ左派勢力は,債務の支払いを拒否せよ,と主張するだろう.ナショナリストや極左派の勢力への支持が増大する.ユーロだけでなく,EUの存続も疑わしい.
ルート2:ギリシャ離脱.EU指導者たちは,妥協せず,ギリシャのデフォルトとユーロ離脱を容認する.官僚たちはその影響を抑えられると楽観している.しかし,金利は上昇し,イタリアやスペインに新しい危機が誘発される.ECBが無制限に介入すれば,短期的には,感染を抑制し,金利を低下させることもできる.しかし長期的には,これが債務危機の保証にはならない.EU政策担当者たちは,より高級的な対策として,通貨統合の銀行同盟による強化を目指す.しかし,ギリシャのデフォルトで貨幣を失った有権者は南欧の銀行と同じ銀行同盟を支持しない.また,さまざまな問題で,ギリシャがユーロ圏離脱後にEUの政策と不和を生じるだろう.
ルート3:ギリシャが折れる.たとえギリシャが救済融資の条件を受け入れても,その債務は返済不能に見え,債務危機が再現するだろう.改革が実行できる保証もない.ギリシャ危機はユーロ圏の根本的な欠陥を示した.歴史的に,国家が保証しない通貨制度は崩壊した.指導者たちはユーロ圏をますます国家に近付けるつもりだろうが,過去5年を見ても,そのような改革は政治的に不可能だ.
指導者たちが単一通貨のプロジェクトを採用したとき,彼らは地図の無い,危険な領域に踏み込んでしまった.安全な退却路も存在しない.
l 中国の拡大
FT June 25, 2015
It will take silky
diplomacy to build China’s new road
Ahmed Rashid
パキスタンと中国との国境を超えるthe
Karakoram Highwayは,漢時代のシルクロードにさかのぼる.中国は新しいシルクロードを建設するために,資金を出すと同時に,特に,アフガニスタンとパキスタンの政府が内戦を終わらせることを求めた.また,西域のウィグル人反政府勢力との関係を断つように求めた.
中国が,この地域の複雑な部族,エスニック,宗派の問題を理解しているのか,地域や西側の専門家は疑っている.中国は,これまで,反対派,イスラム勢力との対話を拒んできた.アフリカでは,輸入した中国人労働者を雇用して,現地社会に反発を生じている.
もし新しいシルクロードが平和をもたらすとすれば,中国外交は地域の政治を巧妙に誘導しなければならない.
l トヨタのガバナンス改革
FT TUESDAY, 23
JUNE, 2015
Toyota’s latest
model should be copied
Peter Tasker
トヨタは新しい株式を発行する.これは1990年代の危機から続く,コーポレート・ガバナンスを,銀行中心から株主中心に転換する試みである.しかし,欧米に従って機関投資家の利益が会社の経営を支配しないように,長期の個人株主を増やす仕組みを採用した.それは5年間,株式を転売することができないが,その後は転売し,あるいは普通の株式に交換できる.その間,企業は技術開発に必要な資金を株式市場の変動から隔離できる.
欧米株主の反対にもかかわらず,従来の株式市場には偏りがあった.経営に関与できる機関投資家と違い,個人の株式は売却するしかなかったからだ.大株主や機関投資家は不当に巨大な権力を得て,メディアやベンチャー企業を支配できた.トヨタの試みはこれを抑える効果がある.
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The Economist June 13th 2015
Watch out
Insurance in Asia: Narrow-minded
Iceland’s economy: The flows resume
State-owned assets: The neglected wealth of nations
(コメント) 世界金融危機を何とか鎮静化したと思ったら,もう次の危機が待っている.しかも,主要諸国は金融危機の対抗手段をもはや出し尽くして,この先には対抗策が無いかもしれない.どうすれば早く政策を正常な水準に戻せるのか?
アジアの保険,アイスランドの資本規制撤廃,あるいは,世界のインフラ整備に負けない国有資産の有効活用,を議論しています.それらは市場を活用することを支持する議論ですが,読者は反対のことを考えてしまう・・・?
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IPEの想像力 6/29/15
1993年に生まれた,と聞いて,驚きました.学生たちが,日本の経済や政治のあり方,国際秩序に関して,本当に重要だと思うことは,何なのか?
たまたま,ゼミの見学に来た学生も,彼と同じことを質問しました.地域の経済再生を考えたい,と.もはや都会に出れば仕事がある,という時代ではないのです.企業や学生にグローバル化を魔法の杖のように推薦し,強要する議論に,彼らは賛同しません.
ユーロ圏ではギリシャのデフォルトが始まり,アメリカと日本はTPPの合意を決断する最終の詰めに入り,中国はAIIBの設立に50カ国の署名を集めました.
TPPが成立しても,工場労働者たちの生活は良くならない,とNYTに載ったコラムの著者BETH MACYは予想します.
なぜ技術革新や国内の市場競争は肯定するのに,貿易自由化については雇用が減るとか,所得が減るとか,反対するのか? 彼女が貿易自由化に否定的であるのは,NAFTA,WTO,TPPが実現する国内産業の再編成について,人々の生活が改善する,という十分な社会的合意が成立していないからです.
むしろ,技術革新や市場競争には,かつて,国内でも強い反対があったはずです.今も,さまざまなIT技術やAIの導入に対する不満・不安は強いと思います.一握りの技術者や企業の幹部だけが大きな利益を得ること,さらに,それを買収して,投資家たちがグローバルな大企業を一気に展開することは,それに並行して多くの雇用を破壊し,地域や家族の幸せを奪ってしまうからです.商店街も,書店も,レコード店も,食堂も,次々に閉鎖されています.
漢時代の栄光を再現し,あるいは,国内の需要不足や過剰生産力,雇用不安を緩和するため,中国政府にはAIIBを推進する十分な理由があると思います.しかし,中央アジアや南アジア,アラブ地域,アフリカ,ラテンアメリカなど,危険な紛争地域にインフラ投資を行うには,欧米諸国が失敗した歴史を学んでおくべきでしょう.FTの記事でAhmed Rashid は,AIIBが新しいシルクロードを築いて,平和と繁栄,文化の興隆する時代に向かうには,内戦の地域を外交によって治める知恵が必要だ,と訴えます.辺境地帯の紛争で軍事力を過信して秩序を強要すれば,ソ連も,アメリカも失敗したように,帝国の夢を失います.
ギリシャが離脱してもEU統合が続くとしたら,政治的にも,文化的にも,市場=機能統合の過程に付属する社会制度や融和のメカニズムを人々が信頼するからでしょう.シリザの政権崩壊は,ドイツやEUにも政策思想の見直しを迫っています.
アイルランドの国民投票でも,オランダ,イギリス,フィンランドでも,アメリカ最高裁でも,同性婚やパートナーシップが認められました.
恐怖と不安,社会的合意やモラルの崩壊は,超保守派による政治的再編に向かう,危険な感情を政治が蓄積することを意味します.新しい不安の時代に,第2次冷戦,第3次世界大戦が,すでに始まったのかもしれません.
これらは,日本が長期に苦しむ複合障害と似た,グローバルな複合・合併症であり,個々の解決策が全体の症状を緩和するより,悪化させる懸念があります.一つの危機の終息が,予期しないところで,予期しない障害を誘発する,国際システムの移行期における不安です.新しい社会・政治システムが登場するまで,この不安は続くのでしょう.
学生たちは,新しい地域経済の誕生,を考えます.
私は,週末,母と一緒に買い物したり,料理をしたり,母と話しながら楽しく食べます.高齢化する日本社会では,それが日常的な景色なのでしょう.もし安定した職場や,医療・年金・介護システムが失われれば,社会の安定性は根底から崩れます.
日本の町を歩けば,商店街は衰退し,大型店とコンビニを除けば,町に残るのは医院と薬局だけです.日本の生産性と豊かさは,1.高度なIT化,ロボット化,グローバルな商品連鎖の中で高位を占める知識・文化産業,2.多くの安価な輸入財,サービスを担う勤勉な外国人労働者,そして,3.高齢化する社会の共通コストを抑制する仕組み,にかかっている,と思います.
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