IPEの果樹園2015
今週のReview
6/15-/20
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Edward Snowdenの暴露から2年 ・・・多元社会の擁護 ・・・ギリシャ危機と意見対立 ・・・長期停滞論 ・・・難民政策の考察 ・・・イラク分割 ・・・中東秩序とイスラム国家 ・・・AIIBと南シナ海 ・・・アメリカ外交 ・・・日本と安倍政権 ・・・TPPとTTIP ・・・労働の将来
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial
Times, The Guardian, NYT: New York
Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l Edward
Snowdenの暴露から2年
NYT JUNE 4, 2015
Edward Snowden: The
World Says No to Surveillance
By EDWARD J. SNOWDEN
2年前の今日,私は3人のジャーナリストと香港のホテルの部屋で待っていた.アメリカ国家安全保障局NSAがほとんどすべての電話を記録していることを暴露したが,それに対して世界がどう反応するか,われわれは心配だった.
数日中に,アメリカ政府は第1次大戦中のスパイを禁止する法律で私を告発した.ジャーナリストたちは,アメリカに変えれば逮捕される恐れがある,と弁護士たちに助言された.政治家たちは,われわれの行為が反アメリカ的で,売国奴であるとさえ非難した.
われわれは,貴重な命と引き換えにしたことが無駄であったか,と思う瞬間もあった.暴露に対して人々は無関心で,冷笑的に態度を取るかもしれない.
私が間違っていたことに,これほど感謝したことはない.
2年経って,大きな違いが生じている.1カ月以内に,NSAの侵略的な通話追跡プログラムは違法である,と裁判所が宣言し,議会も縁を切った.ホワイトハウスが指名した究明委員会の報告は,このプログラムで阻止できたテロ攻撃は一つもなく,大統領もかつてその意義を擁護していたが,批判し,廃止を命じた.
これは情報を得た大衆のパワーである.しかし,このすべての市民の歴史的勝利にもかかわらず,多くの政府が市民たちを監視し,技術の進歩が新しい諜報行為を実現している.
それでもバランスが変化したことは明らかだ.われわれ,9・11後の世代は,恐怖や反発ではなく,活力と理性によって行動する.そして権利は隠されたものではなく,社会として,擁護しなければならないのだ.
FT June 5, 2015
Edward Snowden is a
patriot and deserves freedom
Jacob Weisberg
l 多元社会の擁護
FT June 5, 2015
France’s forgotten
class
Simon Kuper
The Guardian, Sunday
7 June 2015
Suburbia – the new
melting pot
Sonia Sodha
イギリスの郊外社会を描く多くのテレビ番組は,現実を正しく示さず,白人の大衆文化を表現している.それらが時代遅れであることを知るべきだろう.ロンドンだけでなく,その郊外まで,単一のエスニック集団が支配的な地域はなくなっている.
政治の議論でも,多様性を正しく表現することができていない.長い間,移民の利益とは経済的な視点しか示されず,文化やアイデンティティーへの影響は無視されてきた.2001年の人種暴動が与えた衝撃とは,イングランド北部のいくつかの町で,異なるエスニック集団が存在するけれど,彼らが,彼らが混じり合わず,互いの文化を理解していないことだった.
政府は「社会的結束」を高める新しい目標を掲げて,熱狂的に取り組むことになった.私は大学生として内務省の夏の研修に参加した.しかし,彼らはそれをどうやって図るのか,誰もわかっていない,という不信を覚えた.
近年は,論調が変化して,多文化的なリベラリズムから,UKIP型のポピュリズムが重要になった.仕事を奪い,社会福祉を求め,公共サービスを劣化させる移民たちのイメージが,事実に全く依拠せず,広められている.
グローバル化する世界で,イギリスが発展するなら,社会はもっと多様化するだろう.政治家たちは多様化のさまざまな利益に関して,積極的に議論するべきだ.ロンドンの優れた教育だけでなく,多様性が寛容,共感,敬意をはぐくむ.UKでUKIPが多くの票が得た地域は,多様性の欠けた田舎であった.ロンドンでは移民に対する態度が肯定的である.
政治家たちは,社会工学という批判を排して,もっと積極的な試みを奨励するべきだ.異なるエスニック集団が共に学ぶことの効果は良く知られている.社会的な隔離,居住区の分離を逆転させるべきだろう.また,North
London Caresは,高齢者とさまざまなエスニックの若者とが介護を通じて互いのことをよく知る優れた試みである.
2001年暴動の教訓は,事態を放置することが危険である,ということだ.
l 金融規制
FT June 5, 2015
Why performance pay
is a bad incentive for good behaviour
John McDermott
Project Syndicate
JUN 8, 2015
The Quiet Financial
Revolution Begins
MOHAMED A. EL-ERIAN
Project Syndicate
JUN 8, 2015
Rethinking
Inflation Targeting
AXEL WEBER
l 教育
FT June 5, 2015
Expansion of the
university sector has destroyed its status
Jeremy Paxman
Project Syndicate
JUN 8, 2015
Educating Lebanon’s
Syrian Refugees
GORDON BROWN
l ギリシャ危機と意見対立
Project Syndicate
JUN 5, 2015
Europe’s Last Act?
JOSEPH E. STIGLITZ
EUの指導者たちとギリシャ政府は,今も瀬戸際の危機ゲームにふけっている.ギリシャは債権者の要求の半分以上を達成した.しかし,ドイツや他の債権諸国は,書名した返済計画の実行を求めている.その計画は間違っていたことが明白になっており,それを実行することが必要だとか,するべきだと考えるエコノミストは少ないのに.
欧州委員会,ECB,IMFのトロイカは,計画のマクロ経済効果を誤解した.彼らの予測によれば,賃金引き下げなど,さまざまな緊縮策により,ギリシャの輸出が伸びて,契機は急速に回復するはずであった.また彼らは,最初の債務組み換えがその持続可能性をもたらすと考えた.
トロイカの予測は何度も間違った.しかも,大幅に間違ったのだ.ギリシャ国民はコースを変えるように求めたし,政府は署名を拒んだ.
既に述べてきたことだが,合意の余地はある.ギリシャは改革を継続し,そのための支援を歓迎する.他方,債権諸国はもう少し現実を受け入れるのだ.返済可能な額や,異なる財政政策と改革によってマクロ経済の変化が起きることを考える.そして,ギリシャとヨーロッパ全体にとって好ましい合意を実現する.
ヨーロッパには,特にドイツには,ギリシャのユーロ圏離脱に無関心な者がいる.市場はすでにそれを「織り込み済み」であり,その方が通貨同盟にとって良い,という者さえいる.私は彼らがリスクを過小評価していると思う.同じような状態が,アメリカでもリーマン・ブラザーズの崩壊前にあった.それが深刻な影響を及ぼした条件となった情報の透明性や金融機関のリンクについて,その後,改善されたとは思えない.
ヨーロッパの金融規制の不足や金融システムの設計ミスはすでに明らかだ.ユーロ圏は,収斂ではなく,諸国間の乖離を強めた.資本や優れた人材は危機にある国を去ってしまい,債務を返済することがますます難しくなるからだ.市場による悪循環がユーロ圏の中に構造的に存在する.それは次の危機をさらに深刻にするだろう.
ECBのドラギ総裁が,ユーロ圏を救うために何でもする,という宣言がこれまでユーロの信認を維持した.しかし,ユーロ圏加盟諸国は「何でもする」という意志を持っていない.ギリシャとの交渉が示すように,彼らは次の選挙を心配するだけだ.ユーロ危機の最も重大な結果は,ヨーロッパの連帯が失われることだ.
しかし,世界はユーロ解体を許すほど平和ではない.中東の混乱,ロシアの侵略,そして中国は西側に挑戦している.
ヨーロッパとユーロの将来は,指導者たちが経済を理解し,ヨーロッパの連帯を目指す長期的展望に結び付けることにかかっている.この数週間で,その答えを見るだろう.
Bloomberg JUN 5,
2015
Greeks Want
Compromise, Not Posturing
By Leonid Bershidsky
FT Sunday, 7 June,
2015
Two dismal economic
plans for Greece
Wolfgang Münchau
Global Times
2015-6-7
Europe searches for
innovative solutions to financial woes
By Hartmut Marhold
FT June 8, 2015
Obama says time for
Tsipras to make ‘tough choices’
NYT JUNE 8, 2015
The Greek Trap
Roger Cohen
ギリシャの救済は愚かな努力である.ギリシャはとっくに破綻しているからだ.ギリシャ人もそれを知っている.債権諸国が何をしても,ギリシャが債務を返済する手品などない.
左派政権に従うギリシャは,今や1946-49年の内戦を再現しようとしている.今度は共産主義者たちが勝利すると信じて.彼らの敵は国際的な債権者,特にドイツである.ギリシャは80億ドルの救済融資を必要としているのだ.大量の失業者,年金の未払い,脱税,財政再建,以前の債務の返済がある.
これまでの模索は一つの現実を示している.同じ通貨同盟に,ドイツとギリシャが入っていることは騙し合いだ,ということ.経済が全く異なり,気質が全く異なっているのだから.
ギリシャ人の多くは最悪の事態を待っている.すでに預金を引き出し,ユーロで他国に移している.企業は略奪に備えて保険に入り,病院は貨幣がなくなった場合の非常事態に準備した.銀行の取付,資本規制,公的債券の流通,など,推測が飛び交っている.
ギリシャへの救済融資は,他の債務諸国(Italy, Spain,
Portugal and Ireland)に準備期間を与えるものだった.しかし,今や感染のリスクは低い.はっきり言って,ギリシャが救済されても数カ月しかもたない.
債権諸侯はシリザに言うだろう.・・・1世紀も債務を支払うより,自分でやってみたらよい.ユーロ圏の中でも,外でも良いから,自分たちの国を再建することだ.外国企業を誘致してギリシャに投資してもらえばよい.プーチンに頼んで,IMFより,ガスプロムに来てもらうことだ.われわれは手を引くから.トロイカに責任を転嫁することなしに,ギリシャ人が信じる道を進め.
しかし,ギリシャ人はどんな権威も嫌う.法を無視して,至る所のレストランで喫煙する.ユーロ圏に入ればどの国も競争できる,ということは間違いだった.リスクがなくなって融資できる,というのも間違いだった.その後の緊縮策によっても希望は持てず,シリザが政権を取って,実行できないような約束をした.
何年たっても,ヨーロッパは消耗し,ギリシャは問題を解決できない.
Bloomberg JUN 8,
2015
Subplots Cloud
Greek Drama
By Mohamed A. El-Erian
VOX 10 June 2015
The modern Greek
tragedy
Jeremy Bulow, Kenneth Rogoff
過度な緊縮策によって,ギリシャから資本が流出している,という通念は間違っている.救済融資が債権諸国の銀行救済を理由としていたのは事実だが,少なくとも最近まで,ギリシャには資金が流入したのであって,融資した資金が流出していたのではない.
Bloomberg JUN 10,
2015
Political Agenda
Behind Greece's Wild Swings
By Marc Champion
FT June 11, 2015
A split verdict on
the blackmail and bullying over Greece
Aristides Hatzis
Project Syndicate
JUN 11, 2015
A Greek Suicide?
ANATOLE KALETSKY
チプラスは債権諸国の融資案を「ばかげている」と言ったが,それは間違いだった.チプラスの強気の戦略は,ギリシャのユーロ圏離脱が他の加盟諸国に波及し,ユーロ圏それ自体にも致命的である,という理解によるものだ.彼にそれを教えたバロファキス財務大臣のゲームのルールは間違っている.
ECBは,ギリシャ債券を無制限に介入して金利を安定化する操作を始めた.ユーロ圏諸国にとって,真の「最後の貸し手」になったのだ.それゆえ,チプラスが考えるような危機の波及は起こらないだろう.
l 長期停滞論
VOX 05 June 2015
Secular stagnation:
The time for one-armed policy is over
Willem Buiter, Ebrahim Rahbari, Joe Seydl
マイナス金利と長期停滞論は,先進経済に広がりそうだ.それが短期に解消するという意見には反対だ.有害なほど長期に及ぶ可能性がある.特に,高貯蓄率の新興市場はなくなりそうにない.量的緩和などの非伝統的な政策では十分でない.インフラ投資,年金,社会保障,投資を促す法整備,など,国に合わせた供給側の政策も必要だ.
l 難民政策の考察
VOX 05 June 2015
The Mediterranean
boat people: What can be done?
Timothy J Hatton
アラブの春と中東における戦争の,最も長期に残る影響の一つは,北アフリカからヨーロッパを目指して船に乗る移民が増えたことだ.2014年には17万人が救出され,推定で3419人がこの渡航の際に死亡した.今年になって,その数ははるかに増加している.
2013年10月に,イタリアが主導した救出作戦Mare Nostrumは,より多くの難民が刺激される,という非難を受けて,その規模を一気に縮小した.
移民のダイナミズムについては,何が解っているのか? 移民が始まると,そのデモンストレーション効果が働き,非合法な移動の専門集団も加わって,累積的に増大する.より厳格な対策が取られると,それは目的地を変更し,彼らの権利を侵害するような結果につながるが,人々はどのような苦難も耐えるから,移民そのものは減少しない.
オーストラリアのケースが興味深い.2001年,オーストラリアは沖合の島で審査し,厳しい条件で抑留を続ける,いわゆる「パシフィック・ソリューション」を採用した.難民の船は,2008年,新政権が政策を緩和するまで,減少した.その後は,以前にもまして急増し,2013年にかつてない規模に達した.
それに対して,以前の政策がさらに強化した形で復活し,一時滞在を認めず,沖合の島における審査が再開された.特に,オーストラリアの船は難民の乗るボートを境界の外に押し戻すことにした.小舟が沈没する恐れがある場合,救命艇を与え,インドネシアの海岸まで行くための燃料を入れた.こうした政策は人道的な見地から激しく非難されたが,難民の流入は止まった.
地中海においても同じことをするべきか? 状況はもっと複雑だ.難民の数は多く,北アフリカはさらに近い.難民船を押し戻しても,減少しないだろう.難民が利用するボートを破壊し,仲介組織を解体することは意味があるけれど,軍事的な攻撃は密輸業者より民間人に被害をもたらす.
遭難する人々を救出することは良いことであり,移民の多くは安全な暮らしを求める難民である.この20年,ヨーロッパは彼らにとっての避難場所となった.EUはその事態に十分な政策を決定していない.難民政策のハーモナイゼーション,難民受け入れ数の分担,が検討されているが,主要国の移民論争により実現は非常に難しい.
北アフリカ沿岸の,アクセスが容易な場所に,難民や経済移民の審査所を設けることは重要な前進となるだろう.しかし,その評判は悪い.しかし,専門的な期間として,十分な財源と施設を用意すれば,それは改善できる.その場合,政治的な評価と,難民を抑制する厳しい処置とが,バランスされねばならない.
YaleGlobal, 11 June
2015
Desperate Millions
Flee Poverty, Persecution and Inequality
Joergen Oerstroem Moeller
他国の無関心,不介入が,宗教的迫害や過激派の拡大を許している.人口要因は今後も移民・難民を増やすだろう.気候変動や世界の貧困問題も,発展した諸侯の努力で改善できる.
マーシャル・プランに負けない資金援助を組織するべきだ.そして,地域のエリートたちは,女性の参加や教育に関しても改革を進め,経済発展のために,協力して抵抗を抑えることができる.
l イラク分割
NYT JUNE 5, 2015
The Separation
Strategy on Iraq
David Brooks
中央政府はいつも権力に地方に分割することを嫌う.2006年,上院議員であったJoe Bidenや, Les Gelbなどが,イラクの分権化案を提示した.彼らはガバナンスが忠誠心に依拠するべきだと強く信じていたからだ.いくつかの重要な権限を除いて,スンニ,シーア,クルドの地域に分割することを支持した.
当時,ジョージ・W・ブッシュ政権はこれを拒否し,シーア派のマリキ首相が中央政府の権限を強化し,バクダッドに集中した.しかし,政府は宗派対立を悪化させ,スンニ派都クルド人の反政府ゲリラが増えた.
オバマ政権は,マリキを失脚させ,より穏健な,責任ある指導者に交代させた.しかし,権力の集中は変えなかった.スンニ派はなお排除され,弾圧された.政府機関は信用を失い,宗派の分断化が進んで,数では優勢な政府軍がイスラム国家に敗退した.オバマ大統領による米軍の撤退は早すぎたために,権力の真空が生じ,イスラム国家がスンニ派の不満を背景に支持を得た.
アメリカは今や,イスラム国家と戦うために,イランが支援する民兵組織と協力しなければならない.権力の集中化は間違いだった.イスラム国家は地域の宗派争いを利用し,地域全体に戦争を拡大しようとしている.イランも各地のテロ組織を支援し,イランを傀儡国家にしてしまった.
分権化案を再考するときだ.
アメリカは,権力を分割し,過激派を排除して,現在の宗派争いの激化を穏健化する方向に転換するように,それぞれの側で助けるべきだ.可能な限り,彼らは問題を自分たちで解決する.宗派間でスペースを設け,対立の鎮静化を図る.
確かに,宗派の地理的な分離は明確でない.しかし,分離と鎮静化は,可能な,もっともましな選択肢である.
l 中東秩序とイスラム国家
FP JUNE 5, 2015
Doubling Down on a
Doubtful Strategy
BY MICHAEL KNIGHTS
FT June 8, 2015
Battling Isis: A
long campaign ahead
Erika Solomon and Sam Jones
FT June 10, 2015
Humour as a weapon
in the faltering fight against Isis
Roula Khalaf
Project Syndicate
JUN 10, 2015
The Kurds in
Command
MOHAMMED AYOOB
FP JUNE 10, 2015
What Should We Do
if the Islamic State Wins?
BY STEPHEN M. WALT
困惑するが,可能性として考える時が来た.イスラム国家が勝利したとき,われわれはどうするべきか?
勝利とは,その戦闘・支配領域を拡大することではない.イスラム国家が一定の支配領域で,破壊する試みを挫いて,権力を維持する,本当に国家になる,ということだ.
イラク軍はもはや存在しない.アメリカによる訓練計画は失敗した.大規模な外国軍の介入だけがイスラム国家を敗退,消滅させるだろうが,アメリカもアラブ合同軍も,そうしないだろう.
つまり,アメリカはイスラム国家との関係を,封じ込めてきた過去の革命国家と同じように扱うべきだ,とMITのBarry Posenは主張する.私も同感だ.イスラム国家は,その残虐さや戦術にもかかわらず,グローバルなアクターではない.その軍事力も,支配領域も,インターネットによる志願兵の募集も,わずかな成功でしかない.資源や工業力を得たわけでもないのだ.
イスラム国家は,もはや,初期の衝撃を利用できない.その残酷さを宣伝して,戦闘を優位に進めることはできなくなった.かつてのバース党官僚たちがいるから,支配領域を警察国家として統治できるだろう.
今や,空想的な飛躍として,イスラム国家は封じ込められるが消滅せず,持続する統治機関になる,と考える.課税し,境界を管理し,軍事力を整備し,地方の支配集団と協力する.近隣諸国は,その密貿易を許すだろう.そして,他の諸国もイスラム国家を合法的な政府と承認し始めるのではないか?
それをどれほどバカげたことに思うとしても,国際社会はしばしば,追放しようとした革命運動を,次第に,その権力が確立されたと承認した.1917年のボルシェビキ革命の後,欧州諸国が認めても,アメリカは1933年までソ連を認めなかった.同様に,世界最大の人口を持つ国.中華人民共和国と正式な外交関係を1979年に持つまで,30年間も承認しなかった.イスラム国家も国際社会が受け入れ,国連に加盟するのだろうか?
おそらく,女性の奴隷化,市民への拷問,捕虜の斬首,のような野蛮行為について,イスラム国家は永久に許されるべきではない,と思うだろう.しかし,指導者たちが国連の代表ではなく,国際法廷の被告席に座ると思うのは,快適だが,難しい.
イギリス人なら,Downton
Abbeyを楽しみにしているのではないか? あの貴族の先祖たちは,暴力と野蛮さ行為で英連邦の征服を実現した.ウェールズ人やスコットランド人なら誰でも良く知っていることだ.アメリカ人たちはその「自由の帝国」を北米大陸でどうやって広めたのか? 大量虐殺,強姦,飢餓,そして多くの頭皮を収集した.ボルシェビキや毛沢東主義者がどうやって国家を得たのか? イブン・サウドの下でワッハーブ派は,またシオニストたちは,どのように国家を得たのか? 故Charles Tillyは,国家の樹立が何世紀にもわたる野蛮な行為であることを明確に示した.
国家の「受け入れ可能な」行為について,その規範は過去1世紀に劇的に変化した.過去の野蛮行為が,現代のイラクやシリアに広まる聖戦主義者による野蛮行為を許す理由にはならない.しかし,彼らが十分に長期の権力を維持した場合,受け入れられ,合法化されたのだ.
諸国家のコミュニティーに参加するために,過激な革命運動は,そのすべてではないが一部の熱狂的行為を放棄する.30年以上も前にKenneth Waltzが指摘したことだが,最終的に,すべてのラディカルな国家は「システムに社会化される」.その大げさなイデオロギーは実現できないし,その革命の大義に対する忠実さはコストが高く,非生産的で,自分たちの体制の生存を脅かすことに気づく.革命運動の内部に妥協を求める者,少なくとも外部の世界にプラグマチックな対応を求める者が現れる.新国家も国際的な規範を受け入れ,パリアからパートナーに変身する.特に,その国家の利害が他の諸国と重なるときに.
しかし,間違ってはならないが,そのような「社会化」は自動的に生じない.他の諸国が協力して罰する必要がある.イラクとシリアの一部で,イスラム国家が確立される,とはそういうことだ.
アメリカは国家として,イスラム国家を封じ込めるサウジアラビア,ヨルダン,トルコ,イランの協力の試みを指導する.彼らが最もイスラム国家に対する脅威を感じている.アメリカは他国がイスラム国家の影響力を削ぐこと,財源を奪うことを助け,辛抱強く,その過激さが内部から失われることを待つのである.
FT June 11, 2015
Middle East peace
needs UN resolution
Philip Stephens
(後半へ続く)