IPEの果樹園2015

今週のReview

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イギリス政治のヨーロッパ化 ・・・ユーロ圏の進化 ・・・ギリシャ債務危機 ・・・中国の求める国際秩序 ・・・難民救済の国際会議 ・・・マクロ経済政策の再検討 ・・・中東における帝国主義の終焉 ・・・21世紀の都市による秩序 ・・・ファーガソンの政治的なケインズ主義非難

[長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  イギリス政治のヨーロッパ化

NYT MAY 24, 2015

How Britain Became European

By VERNON BOGDANOR

選挙は社会の鏡であり,人々と政治家との関係を反映する.2015年の選挙は,有権者の政治家階級に対する不信が顕著に示された.有権者は自分たちの生活を転換する力から切り離され,無力であった.

多くの者にとって,保守党のDavid Cameronも,その挑戦者である労働党のEd Milibandも,EU残留を支持し,移民を阻止できず,ゲイの結婚を支持する,同じような政治家であった.

スコットランドで彼らは,緊縮策やトライデント原子力潜水艦を維持する政治家たち,であった.UKIPは,EUから離脱しさえすれば移民問題は消滅する,と主張し,SNPは,UKを離脱すれば緊縮策は終わる,と主張した.

こうした態度は,第1次産業革命の社会・経済的変化を経験した地域で,また,海岸沿いの町やイングランド東海岸の造船地区で,特に強く示された.

かつて,労働党は社会的に不利な地位にある者を代表する任務を負った.それはリベラルな知識人と労働者階級との連携であった.こうした連携は崩壊しつつある.

Ed Milibandは,2008年の金融危機が社会民主主義の運動が正しいことを示し,自由市場や金融市場の見直しにつながると考えた.しかし,彼の主張する社会的に規制された資本主義は支持されなかったのだ.2008年は,社会的連帯が弱まり,国民感情が高まる変化の年になった.

UKIPSNPに共通するのは,イデオロギーの政治から,アイデンティティーの政治に向かった.UKIPは保守党を,右派の視点ではなく,ブリティッシュではないと批判した.SNPは労働党を,社会民主主義の不足ではなく,スコティッシュではないと批判した.分配や民主主義ではなく,帰属意識を問題にした.

それはパラドックスである.経済的にはますます連結しながら,政治的にはますます分解を強める.UKIPSNPの政治的傾向は,もっと過激で,もっと人種差別的,反イスラムなものとしての,大陸の右翼政党と似ている.地中海諸国の左派政党,ギリシャのシリザやスペインのPodemosは,ユーロ圏を支配する制度や銀行家に奪われた主権を取り戻す,という主張に,ナショナリズムが共通している.

EUは,第2次世界大戦後に,人種差別主義を抑えるためにできた.実際,ファシズムやナチズムの敗北後,大陸のナショナリズムは消滅したように見えたが,今や一斉に復活している.それはグローバリゼーションによって利益を受ける者と受けない者との社会的亀裂を反映している.

矛盾したことであるが,UKIPSNPは,ヨーロッパ的な複数政党による連立政治,比例代表制を,イギリスに持ち込むことを推進している.長い間,EUを支持する政治家たちが望んだように,イギリスはまさにヨーロッパに似てきたのだ.


l  ユーロ圏の進化

Project Syndicate MAY 26, 2015

Europe’s Movement Against Moving

HAROLD JAMES

EUの目標の一つでありながら,これまで容易に実現できなかったのは,加盟国間の労働力移動であった.共通通貨の条件として,労働市場の統一も目指されてきた.ユーロ危機の後,労働力の移動性は急速に高まったが,それは豊かな受け入れ諸国で反発を招いた.しかし,最近の選挙が示すように,反移民の右派政党が勝利するという観方は正しくないようだ.

他方,労働力が流出する諸国からも,移民に反対する声が上がっている.最近のポーランド大統領選挙では,勝利した候補者が,若者たちの大規模な流出を抑える,と主張した.ポーランドの若者は,ますます,豊かな,成長する他国の都市においてコミュニティーを拡大し,他方,ポーランドの都市には老人ばかりが残されている.

ヨーロッパは労働力の移動を維持するために,移民流出地域に対する教育費の財源補てん,衰退地域に対する支援策を協力して整備する必要がある.


l  ギリシャ債務危機

Project Syndicate MAY 25, 2015

Austerity Is the Only Deal-Breaker

YANIS VAROUFAKIS

メディアが流布する誤謬を正さねばならない.

Philip Stephens the Financial Timesの最近のコラムで,「アテネは経済改革プログラムを実行する能力も,意志もない」と書いた.それがユーロ圏のパートナーの信頼と好意を損なっている,と.

これは現実とまったく異なっている.われわれの政府は,ヨーロッパのシンクタンクが主張する経済改革のすべてについて実行に務めている.われわれは,ギリシャ国民が改革を支持するように,独自に説得を続けている.税収の改善,プライマリーバランスの達成,投資を促す公的資産活用と組み合わせた民営化,年金制度改革,市場自由化,である.

合意を妨げているのは,債権者が一層の緊縮を求めているからだ.それは回復を妨げ,不況と,財政赤字と,デフレをもたらす.その結果,ギリシャが必要とする改革を実行する意志も,能力も,破壊するのだ.われわれの政府は,こうした治療と称する,病気の悪化を実行するつもりはない.

ギリシャが,スペイン,ポルトガル,アイルランド,キプロスと異なり,回復しないのは,その緊縮の規模が,少なくとも,2倍に達するからだ.2010年に,イギリスとギリシャはGDP比で同じ規模の財政赤字があった.イギリスはギリシャよりも緩やかに財政再建を行い,しかも,イングランド銀行の金融政策は不況を緩和した.ギリシャにはそれらが許されなかった.その結果,イギリス経済は回復したが,ギリシャは今も停滞している.

債権者はギリシャにさらに大きな緊縮策を求めるが,それは本当の経済改革や持続的な成長をもたらすものではない.


l  中国の求める国際秩序

FT May 28, 2015

Now China starts to make the rules

Philip Stephens

問題は逆転した.中国は国際秩序の責任あるステークホルダーになれるか? かつて欧米はそう問いかけた.しかし,今は違う.AIIBが示したように,欧米は中国の築く国際秩序にステークホルダーとして参加するか?

マラッカ海峡は,常に,中国の指導者たちの関心事であった.インド洋も,パキスタンも,中央アジアも,中国はその関心に従って関与を強めている.中国は,その経済,金融,外交の影響力を駆使して,ユーラシア統合を描こうとしている.それは影響圏の形成につながる.

ロシアも,インドも,中国の影響力を歓迎していない.パキスタンへの援助が成功しないことは,アメリカが良く知っている.しかし,21世紀の新しい秩序は,中国の求めるクラブに参加するかどうか,という形で始まった.


l  難民救済の国際会議

Project Syndicate MAY 28, 2015

Europe’s Refugee Problem, Then and Now

ZEID RA'AD AL HUSSEIN

ジュネーブ湖の南岸沿いにあるthe Hotel Royale in Évian-les-Bainsに行くと,32カ国が集まった,1938年の国際会議the Évian conferenceを思い出す.

エヴィアン会議は,ドイツとオーストリアのユダヤ人難民を救うために開催された.ヒトラーの反ユダヤ主義が生んだ大規模な難民危機を解決するため,アメリカのF.D.ルーズベルト大統領が招集したのだ.ルーズベルトは集団的な行動によってのみ危機は解決できると信じていたし,ヒトラーもまた,他の諸国がユダヤ人を吸収できると期待していた.

しかし,ヨーロッパ中で,難民は拒否されたのだ.エヴィアン会議でも,迫害に遭っているユダヤ人に多くの代表が不安や失望を表明したが,多数の難民を受け入れるような,具体的行動は示さなかった.

もちろん,彼らにはホロコーストを予測することはできなかったし,ヨーロッパが次の破滅的な戦争に入ることも知らなかった.それにもかかわらず,彼らの良心の欠如には息が止まるほどだ.その後,こうした諸国の多くもナチスによって占領され,破壊された.

ナチスは,ヨーロッパに広がる反ユダヤ主義を知っただろう.また彼らは,ユダヤ人の国外追放が不可能であることを知ったのだ.

今日でも,反ユダヤ主義,イスラム教徒迫害,人種差別,排外主義,移民排斥,は広がっている.イギリスの主要なタブロイド新聞は,移民たちを「ゴキブリ」と呼んだ.それはルワンダで,1994年に,ツチ族の虐殺を呼び掛けたラジオ放送と同じ言葉だ.ヨーロッパ中で政治家たちは,自国の問題について,恥知らずにも,移民たちを非難している.

ヨーロッパの移民・難民危機に対する現在の提案は全く不十分だ.移民とマイノリティーに対する攻撃を,野蛮なものも,言葉によるものも,もっと見えにくい政策も,すべて受け入れてはならない.

移民に強く反対する政治家たちは,次に自分たちが国民の寛容な受け入れを願うことになる,と知るべきだ.


l  マクロ経済政策の再検討

VOX 25 May 2015

Ten Takeaways from the ‘Rethinking Macro Policy. Progress or Confusion?’

Olivier Blanchard

415-16日にIMFが開催した会議「マクロ政策再考」から得たものを,チーフ・エコノミストのOlivier Blanchardが紹介する.

1.「ニュー・ノーマル」とは何か? ・・・過剰債務による一時的なものか,長期停滞に至るのか? その場合,ゼロ金利やマイナス金利が必要か?

2.それは政策にどのような影響を及ぼすか? ・・・むしろ財政政策が重要なになる.財政赤字を減らすのではなく,増やすべきか?

3.金融のシステム・リスクを減らせるか? ・・・さまざまな新しい規制は成功するか,それとも,シャドー・バンキングを増やすだけか? 意図しない結果は?

6.マクロ・プルーデンシャルと金融規制の違いは? ・・・ダイナミック・アジャストメント,局面に応じて規制を変化させることだ.

9.資本移動の複雑な効果を理解できるか? ・・・グローバリゼーションと金融資産の増加はその影響を強めている.為替レートにとどまらず,金融システムに及ぶ.資本規制については意見が分かれている.

10.国際通貨制度改革は進んだか? ・・・新興市場の安全な資産に対する需要が増大している.国際流動性を供給できるか? 為替レート制度には完全な答が無い.多くの国はこのまま管理為替レートである.金融政策の他国に対するスピルオーバーは,重要にもかかわらず,良く理解されていない.それゆえ,新興市場の不満は,コンセンサスを欠いたままだ.


l  中東における帝国主義の終焉

FP MAY 25, 2015

It’s Time to Bring Imperialism Back to the Middle East

BY ROBERT D. KAPLAN

現代では,帝国主義は不評であるが,帝国は歴史を通じてガバナンスの通常の手段であったし,帝国の崩壊は混乱を意味した.中国やインドの古代から,20世紀を通じて第1次世界大戦までのヨーロッパがそうだ.

今,アラブ世界,北アフリカ,アラビア半島,レパントの一部に広がるカオスに観るのは,帝国主義の最終的な結末である.古代の隊商都市,パリミラをイスラム国家が占領したことは,この地域がいかに境界ではなく,通商路によって支配されていたか,ということを示した.

中東世界には,帝国的システムを3つの現実に観る.

1に,第1次世界大戦の後,オスマン帝国の崩壊により,今も秩序が確立されていないことだ.第2に,サダム・フセインの破滅,アラブの春,イスラム国家の勃興は,英仏の帝国主義が引いた境界線を終わらせた.第3に,オバマ大統領は不介入アプローチを選択した.地域の安定化と組織化に大国が果たす役割を放棄したのだ.それは,第2次世界大戦以後,アメリカが示した世界帝国の中身が失われたことを示す.

独裁者たちは,ヨーロッパが決めた境界線に従って支配した.人工的な境界線は,エスニックや宗派の境界と一致せず,独裁体制は世俗のアイデンティティーを暴力で広めた.いわゆるアラブの春は,自由の誕生ではなく,中央権力の崩壊でしかなく,こうした諸国家が民主主義を受け入れる準備はまるでなかった.

国家は2つのグループに分かれる.1つは,文明の旧い核である.そこでは古代からさまざまな形で国家が存在した.そして,エスニシティや宗派を超える世俗のアイデンティティーが強固に形成された.モロッコ,チュニジア,エジプトがそうだ.ローマ帝国のアフリカ北岸における活動の地図がそれを示している.

中東における国家の第2のグループは,弱いアイデンティティーしかなく,曖昧な地理的表現ではあっても,はるかに弱い国家である.その多くのアイデンティティーはヨーロッパの帝国主義が創ったものだ.リビア,シリア,イラクがそうだ.これらの国家を維持するためには,カダフィ,アサド,フセインのような,窒息させる権威主義体制が必要だった.こうした体制が失われた後には,真空だけが残った.部族や拡大家族を超える社会・政治組織は,体制によって破壊されたからだ.

その中で,イラン,トルコ,サウジアラビアのような,本来の政治権力が興隆している.イランは偉大な古代文明であり,無慈悲な,過激化した非国家集団でもある.ペルシャ帝国はイラン高原に依拠した集団であったが,政治的アイデンティティーに問題を抱えるアラブとは区別される.むしろインドや中国に近い.他方,聖職者が支配するテヘラン政府は,ジハード集団やイスラム国家,アルカイダに近い.

イランは,核燃料サイクルを習得し,レパントにおける過激な準軍事集団を訓練し,その主要な敵と見なすアメリカを相手に外交交渉を展開する.その意味で,オスマン帝国とアメリカ帝国が消滅した後,それを部分的に継承するのはイランである.

イランがシーア派の核であれば,スンニ派の核はサウジアラビアだ.サウジアラビアはイランと違って,拡大家族から人工的に創られた国家である.それでもサウド家は,本土における巨大な社会転換と,外部の安全保障問題を,長期にわたって巧妙に解決してきた.王子と外相を交代させた最近の政変は,この王朝がイランの地域支配を阻止する強い決意を示した.

サウジアラビアのイエメン空爆,イランと敵対するシリアの反政府軍に対する支援は,アメリカとイランとの合意に反応したものだ.合意後のイランを抑えるために,アメリカはサウジアラビアの強化だけでなく,エジプトとトルコを必要とするだろう.エジプトのシシ軍政下で,その安全保障チームはガザなどでイスラエルと協力している.アメリカは,サウジアラビアを支援するため,民主的かどうかに関わりなく,反イラン同盟としてのエジプトを必要としている.エルドアンの支配するトルコは,通常,親米的ではないと見なされるが,そもそも強いトルコはイランに対するバランスになる.こうした地理的・歴史的な好条件を占める強国が,帝国後の秩序を築くのだ.


l  21世紀の都市による秩序

FT 26 May, 2015

A new global order of cities

Ivo Daalder

21世紀のもっとも重要な特徴は都市の興隆である.アメリカの世紀が「中国の世紀」に代わるか,と騒いでいるが,そうではない.重要な動きは諸民族にではなく,都市のセンターで起きている.

人類史上初めて,農村部よりも都市により多くの人間が住むようになった.その中でも,グローバル・シティーは通商,芸術,教育などで,他を圧倒している.それらは世界経済を形づくるだけでなく,世界の思想,文化,政治,その未来を決定する広がりと野心,迫力を持っている.

非国家集団が,国家に代わる重要な役割を占めつつある.現代は,中世都市のハンザ同盟が活躍した時代に似ている.彼らは諸民族がなしえないことを,彼らの方法で協力して対処した.主権国家ではない諸都市が,ますます独立し,変化を刺激するような政策を実行した.

現在,世界の600大都市は世界GDP60%を占めている.20大都市は世界の大企業の3分の1の本拠地であり,その収益の半分を占める.人口規模,経済力,本社の数で,東京を筆頭に,ニューヨーク,ロンドン,パリが続く.

都市は地表のわずか2%であるが,エネルギー消費の78%を占め,温暖化ガスの60%を輩出している.国家間の気候変動に関する合意は,都市を無視して成立しない.75の主要都市間でデータを交換し,気候変動に対処するグループがC-40である.効率的な市街地の照明や,公共輸送システムなど,多くの方法で地球温暖化に対処している.

都市は独自の外交政策を形成しつつある.単に各国政府の重要な一部であるだけでなく,シカゴや上海のようなグローバル・シティーは,世界企業の誘致,学術研究センター,文化制度,など,市民の利益になることで協力する.

経済,政治,社会,文化において,ますます世界を動かすのはグローバル・シティーとなる.


l  ファーガソンの政治的なケインズ主義非難

Project Syndicate MAY 28, 2015

Niall Ferguson’s Wishful Thinking

ROBERT SKIDELSKY

ファーガソンNiall Fergusonは,ケインズを引用して,事実が変われば意見を変えろ,と主張した.しかし,昨年,イギリス経済が2.6%で成長したことは,ケインズ主義者が考えを改める理由となるだろうか? それがケインズに一般理論の書き直しを促すろうか?

ショックによって減速した経済が低迷し続ける,とケインズが考えなかった.経済は,政府がどのような政策を取っても,常に回復するものだ.彼が強調したのは,景気循環の「時間要素」である.利潤期待が低下すると,数年にわたって不況が続く.

2008-09年の金融崩壊も,その後の回復の遅さも,ケインズに変心を促さなかっただろう.また現在のケインズ主義者たちの主張を損なうものでもなかった.ファーガソンは私の論説からいろいろ引用したが,最も重要な部分は引用しなかった.すなわち,「最終的に,全ての景気は回復する.問題は,その速さ,その程度である.」 政府の課題は,景気回復の「自然な力」がどうであれ,公的投資を使って,民間投資の本来的な浮動性を相殺することである.

私はファーガソンの主張に3つの点で反対だ.

1に,緊縮がイギリスのGDPに与えた影響だ.彼はイギリスの成長率が2014年に2.6%であったことを,緊縮策の成功,と見なす.それはナンセンスだ.オズボーン蔵相の5年間で,財政政策は景気回復を助けたどころか,スランプを長引かせた.

2に,ファーガソンと違って,ケインズ主義者たちは,オズボーンの財政再建が失敗したことを説明できる.財政再建は成長によって実現するのであって,不況を促す緊縮策では成功しない.緊縮策がもたらす社会的・政治的結果を恐れて政策は拡大的に転換することが予想され,実際,それが起きた.

3に,ファーガソンが支持する信認の回復は,債券市場によって否定されている.長期の実質・名目金利は,オズボーンが蔵相になる前,非常に低かった.その後も低いままであり,ケインズ主義者たちは政府が借り入れて公共投資をするべきだと主張した.政府はそれを拒否した.

ファーガソンはゴードン・ブラウンが蔵相であった時期と比較したが,その主張とは逆に,ブラウンの最後の6カ月は,オズボーンの最初の2年間よりも実業界の信認は高かった.それは当然だ.信認は契機に連動するから,オズボーンの緊縮策によって需要が抑えられたことで信認も低下したのだ.労働者の所得で見ても,雇用の安定性や労働生産性で見ても,緊縮策が与えたダメージは明白である.

ケインズ主義者も事実から学ぶことが遅かった.需要側の政策は,供給側の改善,技能,インフラ,金融アクセス,を必要とした.また政府債務の増大には限界があることを知った.

しかし,ファーガソンは緊縮策を支持する前提を間違っている.彼の主張は政治的なものでしかない.

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The Economist May 16th 2015

Refugees: The hard journey

Farm subsidies: Bitter harvest

The war in Yemen: From Aden to Camp David

South Africa’s opposition: Black star rising

(コメント) 何が国際秩序を変えるのでしょうか? 何が国際秩序の限界と危機を示しているのか?

地中海を超える難民が急増し,それをヨーロッパ各国が拒むこと.中国が食糧輸入への依存を増大し,食糧生産を維持するため補助金が増え,国際市場に影響すること.イエメンの内戦に,サウジアラビアがアラブ合同軍を呼び掛け,介入すること.南アフリカにマンデラの党を倒す新しい政党が誕生しつつあること.

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IPEの想像力 6/1/15

日本政府は,まるで,中国の帝国主義に呑み込まれるのを恐れる,衰弱した文化国家のイメージを振り回し,委縮しているように見えます.中国ではなく,人口減少,高齢化,債務累積,デフレ,低成長,雇用不安,などが,確かに,将来を悲観する私たちの重荷です.

10億の国民が生活水準の改善に必要な食糧,資源,エネルギーを確保するために,中国政府は安全保障上の自給自足政策を放棄しました.あるいは,拡大された生存権の防衛戦略を構築し始めたのです.‘One Belt, One Road’の提唱,「21世紀の海のシルクロード」,空母の建造,南シナ海の埋め立て.ユーラシアの統合論,人民元の国際化,・・・

それは,歴史上,イギリスがインドや中国を侵略し,植民地化したことと共通する政治・経済現象です.また,今もアメリカが,世界各地で貿易や輸送の自由を維持し,不安定な諸国の安全保障に関与するのと何も変わりません.そこには,かつて日本が,どうしても必要だと信じてアジア各地を侵略した歴史にも共通したダイナミズムが働いています.

他方で,中国経済が,労働力の余剰を利用した高成長の時代を終えたこと,また,世界市場への輸出拡大と国営企業による高投資による成長を,国内消費に向けた成長に転換する時代を迎えて,市場による資源配分や安定化を重視し,金融や技術革新,起業の促進に重点を置くようになれば,それは安全保障や国際関係にも影響するはずです.

つまり,私が問いたいのは,こういうことです.・・・中国は,国際秩序の調整・構築に関して,また,成長モデルの転換において,先進諸国の歴史から学ぶ「後発性の利益」を発揮するのだろうか? と.

日本が,1980年代に国際政策協調と自由化・国際化の課題に直面し,円高やバブルを経て,急速に成長モデルを見失ったときの経験から,中国は何を学ぶのでしょうか?

アメリカが,中東地域の石油資源に関わって繰り返し軍事介入し,独裁政権との関係を各地の安定化に利用したこと.あるいは,アフガニスタン侵攻やイラク戦争で失敗したことから,中国は何を学ぶのでしょうか?

ヨーロッパが行ったアフリカやラテンアメリカへの植民地化,帝国主義的支配,人種差別主義,分断化と隔離政策,植民地体制の離脱過程,現在に及ぶ無秩序の再現と,中国の資源採取や海外投資,現地政府・社会との関係とは,何が違うのでしょうか?

あるいは,ヨーロッパ半島における東西分割と米ソの冷戦.核軍拡競争,そして冷戦終結から移行経済改革,ユーロの誕生,EU拡大の歴史.それらへの現在の政治的反発に関して,中国は何を学ぶのでしょうか?

日本が欧米の秩序に挑戦したとき,アジアにおける植民地の拡大,従軍慰安婦や南京大虐殺,自爆攻撃をともなう戦争計画,原子爆弾による攻撃を受けた歴史から,中国は何を学ぶのでしょうか?

アメリカが第2次世界大戦後に築いた,IMFと世界銀行,国際通貨ドルの供給と長期債券投資,インフラ整備にともなう環境破壊や汚職・腐敗,社会対立の激化,などから,中国は何を学ぶのでしょうか?

これらの点について中国が積極的に学び,新しく何を,他国や世界にとって,より望ましい形で追求するのか,その構想が説得的であればあるほど,中国の貿易や投資は歓迎され,国際秩序の転換はソフトな調整を積み重ねる,多角的な交渉や合意形成によって進むでしょう.

日本政府は,まるで古代の都市国家や19世紀の国民国家が戦争を恐れるように,「ツキディデスの罠」に苦しみます.しかし,東アジアでも,南シナ海でも,積極的な構想を示すことで,各国が参加する共通の安全保障は可能だ,と私は思います.

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