(前半から続く)
l 中東における帝国主義の終焉
FP MAY 25, 2015
It’s Time to Bring
Imperialism Back to the Middle East
BY ROBERT D. KAPLAN
現代では,帝国主義は不評であるが,帝国は歴史を通じてガバナンスの通常の手段であったし,帝国の崩壊は混乱を意味した.中国やインドの古代から,20世紀を通じて第1次世界大戦までのヨーロッパがそうだ.
今,アラブ世界,北アフリカ,アラビア半島,レパントの一部に広がるカオスに観るのは,帝国主義の最終的な結末である.古代の隊商都市,パリミラをイスラム国家が占領したことは,この地域がいかに境界ではなく,通商路によって支配されていたか,ということを示した.
中東世界には,帝国的システムを3つの現実に観る.
第1に,第1次世界大戦の後,オスマン帝国の崩壊により,今も秩序が確立されていないことだ.第2に,サダム・フセインの破滅,アラブの春,イスラム国家の勃興は,英仏の帝国主義が引いた境界線を終わらせた.第3に,オバマ大統領は不介入アプローチを選択した.地域の安定化と組織化に大国が果たす役割を放棄したのだ.それは,第2次世界大戦以後,アメリカが示した世界帝国の中身が失われたことを示す.
独裁者たちは,ヨーロッパが決めた境界線に従って支配した.人工的な境界線は,エスニックや宗派の境界と一致せず,独裁体制は世俗のアイデンティティーを暴力で広めた.いわゆるアラブの春は,自由の誕生ではなく,中央権力の崩壊でしかなく,こうした諸国家が民主主義を受け入れる準備はまるでなかった.
国家は2つのグループに分かれる.1つは,文明の旧い核である.そこでは古代からさまざまな形で国家が存在した.そして,エスニシティや宗派を超える世俗のアイデンティティーが強固に形成された.モロッコ,チュニジア,エジプトがそうだ.ローマ帝国のアフリカ北岸における活動の地図がそれを示している.
中東における国家の第2のグループは,弱いアイデンティティーしかなく,曖昧な地理的表現ではあっても,はるかに弱い国家である.その多くのアイデンティティーはヨーロッパの帝国主義が創ったものだ.リビア,シリア,イラクがそうだ.これらの国家を維持するためには,カダフィ,アサド,フセインのような,窒息させる権威主義体制が必要だった.こうした体制が失われた後には,真空だけが残った.部族や拡大家族を超える社会・政治組織は,体制によって破壊されたからだ.
その中で,イラン,トルコ,サウジアラビアのような,本来の政治権力が興隆している.イランは偉大な古代文明であり,無慈悲な,過激化した非国家集団でもある.ペルシャ帝国はイラン高原に依拠した集団であったが,政治的アイデンティティーに問題を抱えるアラブとは区別される.むしろインドや中国に近い.他方,聖職者が支配するテヘラン政府は,ジハード集団やイスラム国家,アルカイダに近い.
イランは,核燃料サイクルを習得し,レパントにおける過激な準軍事集団を訓練し,その主要な敵と見なすアメリカを相手に外交交渉を展開する.その意味で,オスマン帝国とアメリカ帝国が消滅した後,それを部分的に継承するのはイランである.
イランがシーア派の核であれば,スンニ派の核はサウジアラビアだ.サウジアラビアはイランと違って,拡大家族から人工的に創られた国家である.それでもサウド家は,本土における巨大な社会転換と,外部の安全保障問題を,長期にわたって巧妙に解決してきた.王子と外相を交代させた最近の政変は,この王朝がイランの地域支配を阻止する強い決意を示した.
サウジアラビアのイエメン空爆,イランと敵対するシリアの反政府軍に対する支援は,アメリカとイランとの合意に反応したものだ.合意後のイランを抑えるために,アメリカはサウジアラビアの強化だけでなく,エジプトとトルコを必要とするだろう.エジプトのシシ軍政下で,その安全保障チームはガザなどでイスラエルと協力している.アメリカは,サウジアラビアを支援するため,民主的かどうかに関わりなく,反イラン同盟としてのエジプトを必要としている.エルドアンの支配するトルコは,通常,親米的ではないと見なされるが,そもそも強いトルコはイランに対するバランスになる.こうした地理的・歴史的な好条件を占める強国が,帝国後の秩序を築くのだ.
2017年に登場するアメリカの新大統領は,そう呼ぶことはないだろうが,西側の帝国的影響力を再建しようとするだろう.その試みは,サダム・フセイン没落とアラブの春の後に起きている,中東各地における中央権力の崩壊によって制限される.アラブ各国の強権体制は,地域の危機を収拾するために介入するアメリカにとって有利であった.カオスは,安全保障や人権の問題であるだけでなく,アメリカの権力が浸透するのを妨げている.
中東の将来は,短期的に,おそらく中期的にも,暗いだろう.現在のシーア派とスンニ派との抗争は,1980-88年のイラン・イラク戦争に似ている.その戦争の間,レーガン政権は慎重に非関与を選択し,ヨーロッパに集中して冷戦終結を助けた.
当時は国家が戦争したが,今は準国家集団だ.秩序は退行し,その再建が求められている.それなしには,誰の自由も失われる.
NYT MAY 27, 2015
Contain and Amplify
Thomas L. Friedman
共有する目的が無いところでは,政治秩序が確立できない.
中東の無秩序を解決するには,2つの方法しか思いつかない.1つは外部から軍事的に占領し,対立を一掃することだ.これは今までうまく行かなかった.もう1つは,その土地の対立がずべて消耗して終わるまで放置することだ.
FT May 28, 2015
After the Middle
East, Tony Blair braves new conflict zone
Robert Shrimsley
FP MAY 28, 2015
The Pitfalls of a
Whack-a-Mole Strategy Against ISIS
BY GORDON ADAMS, RICHARD SOKOLSKY
l 中国のバブル
Project Syndicate
MAY 26, 2015
Channeling China’s
Animal Spirits
ANDREW SHENG and XIAO GENG
Bloomberg MAY 26,
2015
China Blows Its
Debt Bubble Bigger
By William Pesek
FT May 27, 2015
A bank made in
China and better than the western model
David Pilling
l 21世紀の都市による秩序
FT 26 May, 2015
A new global order
of cities
Ivo Daalder
21世紀のもっとも重要な特徴は都市の興隆である.アメリカの世紀が「中国の世紀」に代わるか,と騒いでいるが,そうではない.重要な動きは諸民族にではなく,都市のセンターで起きている.
人類史上初めて,農村部よりも都市により多くの人間が住むようになった.その中でも,グローバル・シティーは通商,芸術,教育などで,他を圧倒している.それらは世界経済を形づくるだけでなく,世界の思想,文化,政治,その未来を決定する広がりと野心,迫力を持っている.
非国家集団が,国家に代わる重要な役割を占めつつある.現代は,中世都市のハンザ同盟が活躍した時代に似ている.彼らは諸民族がなしえないことを,彼らの方法で協力して対処した.主権国家ではない諸都市が,ますます独立し,変化を刺激するような政策を実行した.
現在,世界の600大都市は世界GDPの60%を占めている.20大都市は世界の大企業の3分の1の本拠地であり,その収益の半分を占める.人口規模,経済力,本社の数で,東京を筆頭に,ニューヨーク,ロンドン,パリが続く.
都市は地表のわずか2%であるが,エネルギー消費の78%を占め,温暖化ガスの60%を輩出している.国家間の気候変動に関する合意は,都市を無視して成立しない.75の主要都市間でデータを交換し,気候変動に対処するグループがC-40である.効率的な市街地の照明や,公共輸送システムなど,多くの方法で地球温暖化に対処している.
都市は独自の外交政策を形成しつつある.単に各国政府の重要な一部であるだけでなく,シカゴや上海のようなグローバル・シティーは,世界企業の誘致,学術研究センター,文化制度,など,市民の利益になることで協力する.
経済,政治,社会,文化において,ますます世界を動かすのはグローバル・シティーとなる.
FT 26 May, 2015
US should not
negotiate free trade behind closed doors
Mark Wu
l ロボット戦争
NYT MAY 26, 2015
The Morality of
Robotic War
By MICHAEL C. HOROWITZ and PAUL SCHARRE
l 中国語と英語
NYT MAY 26, 2015
Corrupting the
Chinese Language
Murong Xuecun
NYT MAY 26, 2015
Talent Loves
English
David Brooks
l アフガニスタンの資源開発
NYT MAY 26, 2015
Afghan Minerals,
Another Failure
By THE EDITORIAL BOARD
l 通貨介入への制裁
Project Syndicate
MAY 27, 2015
The Currency
Manipulation Charade
STEPHEN S. ROACH
l 差別主義
NYT MAY 27, 2015
Peter Singer: On
Racism, Animal Rights and Human Rights
By GEORGE YANCY and PETER SINGER
l FIFAスキャンダル
FP MAY 27, 2015
Will FIFA’s Sepp
Blatter Be Shown the Red Card?
BY DANIEL ALTMAN
Project Syndicate
MAY 28, 2015
The Soccer Mafia
IAN BURUMA
Project Syndicate
MAY 28, 2015
The FIFA Syndrome
LUCY P. MARCUS
NYT MAY 28, 2015
Sepp Blatter’s FIFA
Reign of Shame
Roger Cohen
NYT MAY 28, 2015
FIFA’s Long Game
By STEFAN SZYMANSKI
NYT MAY 28, 2015
FIFA Should Give
Israel the Red Card
By IYAD ABU GHARQOUD
FP MAY 27, 2015
With FIFA Indictment,
U.S. Takes Aim at Russian and Qatari World Cups
BY DAVID FRANCIS
l ファーガソンの政治的なケインズ主義非難
Project Syndicate
MAY 28, 2015
Niall Ferguson’s
Wishful Thinking
ROBERT SKIDELSKY
ファーガソンNiall
Fergusonは,ケインズを引用して,事実が変われば意見を変えろ,と主張した.しかし,昨年,イギリス経済が2.6%で成長したことは,ケインズ主義者が考えを改める理由となるだろうか? それがケインズに一般理論の書き直しを促すろうか?
ショックによって減速した経済が低迷し続ける,とケインズが考えなかった.経済は,政府がどのような政策を取っても,常に回復するものだ.彼が強調したのは,景気循環の「時間要素」である.利潤期待が低下すると,数年にわたって不況が続く.
2008-09年の金融崩壊も,その後の回復の遅さも,ケインズに変心を促さなかっただろう.また現在のケインズ主義者たちの主張を損なうものでもなかった.ファーガソンは私の論説からいろいろ引用したが,最も重要な部分は引用しなかった.すなわち,「最終的に,全ての景気は回復する.問題は,その速さ,その程度である.」 政府の課題は,景気回復の「自然な力」がどうであれ,公的投資を使って,民間投資の本来的な浮動性を相殺することである.
私はファーガソンの主張に3つの点で反対だ.
第1に,緊縮がイギリスのGDPに与えた影響だ.彼はイギリスの成長率が2014年に2.6%であったことを,緊縮策の成功,と見なす.それはナンセンスだ.オズボーン蔵相の5年間で,財政政策は景気回復を助けたどころか,スランプを長引かせた.
第2に,ファーガソンと違って,ケインズ主義者たちは,オズボーンの財政再建が失敗したことを説明できる.財政再建は成長によって実現するのであって,不況を促す緊縮策では成功しない.緊縮策がもたらす社会的・政治的結果を恐れて政策は拡大的に転換することが予想され,実際,それが起きた.
第3に,ファーガソンが支持する信認の回復は,債券市場によって否定されている.長期の実質・名目金利は,オズボーンが蔵相になる前,非常に低かった.その後も低いままであり,ケインズ主義者たちは政府が借り入れて公共投資をするべきだと主張した.政府はそれを拒否した.
ファーガソンはゴードン・ブラウンが蔵相であった時期と比較したが,その主張とは逆に,ブラウンの最後の6カ月は,オズボーンの最初の2年間よりも実業界の信認は高かった.それは当然だ.信認は契機に連動するから,オズボーンの緊縮策によって需要が抑えられたことで信認も低下したのだ.労働者の所得で見ても,雇用の安定性や労働生産性で見ても,緊縮策が与えたダメージは明白である.
ケインズ主義者も事実から学ぶことが遅かった.需要側の政策は,供給側の改善,技能,インフラ,金融アクセス,を必要とした.また政府債務の増大には限界があることを知った.
しかし,ファーガソンは緊縮策を支持する前提を間違っている.彼の主張は政治的なものでしかない.
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The Economist May 16th 2015
Refugees: The hard journey
Farm subsidies: Bitter harvest
The war in Yemen: From Aden to Camp David
South Africa’s opposition: Black star rising
(コメント) 何が国際秩序を変えるのでしょうか? 何が国際秩序の限界と危機を示しているのか?
地中海を超える難民が急増し,それをヨーロッパ各国が拒むこと.中国が食糧輸入への依存を増大し,食糧生産を維持するため補助金が増え,国際市場に影響すること.イエメンの内戦に,サウジアラビアがアラブ合同軍を呼び掛け,介入すること.南アフリカにマンデラの党を倒す新しい政党が誕生しつつあること.
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IPEの想像力 6/1/15
日本政府は,まるで,中国の帝国主義に呑み込まれるのを恐れる,衰弱した文化国家のイメージを振り回し,委縮しているように見えます.中国ではなく,人口減少,高齢化,債務累積,デフレ,低成長,雇用不安,などが,確かに,将来を悲観する私たちの重荷です.
10億の国民が生活水準の改善に必要な食糧,資源,エネルギーを確保するために,中国政府は安全保障上の自給自足政策を放棄しました.あるいは,拡大された生存権の防衛戦略を構築し始めたのです.‘One
Belt, One Road’の提唱,「21世紀の海のシルクロード」,空母の建造,南シナ海の埋め立て.ユーラシアの統合論,人民元の国際化,・・・
それは,歴史上,イギリスがインドや中国を侵略し,植民地化したことと共通する政治・経済現象です.また,今もアメリカが,世界各地で貿易や輸送の自由を維持し,不安定な諸国の安全保障に関与するのと何も変わりません.そこには,かつて日本が,どうしても必要だと信じてアジア各地を侵略した歴史にも共通したダイナミズムが働いています.
他方で,中国経済が,労働力の余剰を利用した高成長の時代を終えたこと,また,世界市場への輸出拡大と国営企業による高投資による成長を,国内消費に向けた成長に転換する時代を迎えて,市場による資源配分や安定化を重視し,金融や技術革新,起業の促進に重点を置くようになれば,それは安全保障や国際関係にも影響するはずです.
つまり,私が問いたいのは,こういうことです.・・・中国は,国際秩序の調整・構築に関して,また,成長モデルの転換において,先進諸国の歴史から学ぶ「後発性の利益」を発揮するのだろうか? と.
日本が,1980年代に国際政策協調と自由化・国際化の課題に直面し,円高やバブルを経て,急速に成長モデルを見失ったときの経験から,中国は何を学ぶのでしょうか?
アメリカが,中東地域の石油資源に関わって繰り返し軍事介入し,独裁政権との関係を各地の安定化に利用したこと.あるいは,アフガニスタン侵攻やイラク戦争で失敗したことから,中国は何を学ぶのでしょうか?
ヨーロッパが行ったアフリカやラテンアメリカへの植民地化,帝国主義的支配,人種差別主義,分断化と隔離政策,植民地体制の離脱過程,現在に及ぶ無秩序の再現と,中国の資源採取や海外投資,現地政府・社会との関係とは,何が違うのでしょうか?
あるいは,ヨーロッパ半島における東西分割と米ソの冷戦.核軍拡競争,そして冷戦終結から移行経済改革,ユーロの誕生,EU拡大の歴史.それらへの現在の政治的反発に関して,中国は何を学ぶのでしょうか?
日本が欧米の秩序に挑戦したとき,アジアにおける植民地の拡大,従軍慰安婦や南京大虐殺,自爆攻撃をともなう戦争計画,原子爆弾による攻撃を受けた歴史から,中国は何を学ぶのでしょうか?
アメリカが第2次世界大戦後に築いた,IMFと世界銀行,国際通貨ドルの供給と長期債券投資,インフラ整備にともなう環境破壊や汚職・腐敗,社会対立の激化,などから,中国は何を学ぶのでしょうか?
これらの点について中国が積極的に学び,新しく何を,他国や世界にとって,より望ましい形で追求するのか,その構想が説得的であればあるほど,中国の貿易や投資は歓迎され,国際秩序の転換はソフトな調整を積み重ねる,多角的な交渉や合意形成によって進むでしょう.
日本政府は,まるで古代の都市国家や19世紀の国民国家が戦争を恐れるように,「ツキディデスの罠」に苦しみます.しかし,東アジアでも,南シナ海でも,積極的な構想を示すことで,各国が参加する共通の安全保障は可能だ,と私は思います.
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