IPEの果樹園2015

今週のReview

5/18-/16

 

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イギリスの選挙結果  ・・・中国人民銀行の学ぶ教訓 ・・・シリザは敗北する ・・・2050年の世界

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  イギリスの選挙結果

FT May 8, 2015

Cameron can savour campaign success

Janan Ganesh

国民は,労働党党首の能力を疑うことはないが,その信念の固さを疑い,左派の描くイギリスに共感しなかった.

イギリスの政治は,その前に,あたかも別の国家のように行動し始めたナショナリストの支配するスコットランドによって翻弄されている.こうしてリベラリズムは奇妙な2度目の死を迎えたのだ.

キャメロンと保守党は,政治指導力と経済運営に関する中心テーマを訴え続けた.そして,最後に,スコットランド・ナショナリスト・パーティーSNPが労働党の少数派連立政権を介してイングランドを支配する,という有権者の懸念をつかむことに成功した.

選挙運動が何かを変えることはほとんどない.それは有権者が胸に秘めるものを表現するだけである.その意味で,労働党ははるか以前に敗北していたのだ.

勝利の朝,キャメロンはUKの諸民族に対する敬意を語った.それはスコットランドに大幅な地方分権を行い,イングランドにも自治権を認める,という意味だ.同時に彼は,EUの条件をめぐって交渉し,加盟の可否を国民投票にかける.

特権に憤慨し,国家の削減を主張した保守党の人々が権力を握って,5年後,さらに議席を増やした,ということに歴史家たちは注目するだろう.財政再建派,自由市場派が次の10年を支配するはずだ.保守党が多数を得て,単独政権を得たことは,キャメロンにとって右派の影響力が増すことを意味する.

緊縮と支持率とは,少なくとも自由主義の強いイギリスで,もはやそれほど和解できないものではなくなった.政治とは,可能性のアートであるが,何が可能であるかを決めるアートでもある.キャメロンはそれに成功した.

FT May 8, 2015

Labour can only win with a progressive message

Matthew Taylor

先週,たまたま,古くからの労働党員たちが話し合った.今回の選挙は,1992年の選挙に似ている,と.そのとき,予想に反して,ジョン・メージャーが勝利した.同様に,最後まで態度を決めなかった有権者は,総選挙の2つの重要な要因によって投票したのだ.経済の運営能力と,政治的指導力である.

エド・ミリバンドは非難する声にもかかわらず良好な選挙戦を示したが,選挙戦を通じて現れた新しい要因とは,保守党がイングランド有権者の不安を煽った,スコットランド国民党による政治の新しい勢力均衡が重大な結果をもたらす,ということだった.

労働党の次の指導者がだれか,というより,この敗北には指導者の個性にとどまらない,より深刻な問題が示されている.

路線の継続性と再確認を重視する者は,この敗北を,SNPの台頭,指導者の不人気,といった1回限りの要因に帰す.もっと有権者に好まれる指導者を選び,SNPの勢力が衰微するのを待ち,保守党がヨーロッパ問題などで失敗することを見守っている.

他方,ニュー・レイバーの党幹部・信奉者たちは高齢化し,直接の影響力を失っている.しかし,批判的な,近代化論者から見れば,労働党が勝利するのは,有権者のそれぞれが抱く望みがかなえられない,社会的な不正義に関する進歩的なメッセージと結び付くとき,社会民主主義が未来の挑戦に対する最善の答である理由を確信を持って示すとき,である.

2015年の選挙は,概ね,今とあまり大きく変化しないという前提で,昨日より明日を良くするのはだれか,という選挙であった.どの政党も変化の主要な要因,すなわち,技術,社会態度の変化,グローバリゼーションの諸相,に真剣に取り組まなかった.しかし,これらが私たちの性格を転換していくのだ.

選挙結果は,労働党の生存の危機を意味している.党が重大な多くの選択を行う勇気を持つなら,次の意欲的な指導者が育つだろう.

The Guardian, Saturday 9 May 2015

Where Labour went wrong – and what we must do to put it right

Chuka Umunna

エド・ミリバンドは現代の最大の問題に挑戦した.繁栄を上位1%から広げること,である.他方,保守党は有権者の関心を捉えず,少数者のための党であった.

しかし,保守党が多数を得たのだ.スコットランドが敗北の理由にはならない.われわれはイングランドでも負けた.

1に,われわれは中産階級に対する訴えを欠いていた.われわれは社会の底辺と頂点について語ったが,その中間にいる有権者の多数を十分に捉えられなかった.

2に,われわれは裕福な人々に停滞する印象を与えた.しかし,富や雇用をもたらす人々に対して,もっと積極的に訴えるべきだった.われわれは,事実上,彼らのための政策を訴えていながら,敵対する言葉を使っていた.

3に,われわれは保守党以外の政党支持者を取り込む戦略を採用したために,それらの政策を批判しなかった.もっと異なるアプローチで支持者を拡大すべきだった.

The Guardian, Saturday 9 May 2015

Labour must be the party of ambition as well as compassion

Tony Blair

敗北は,次の勝利の機会をふさぐものではない.気迫を欠いてはいけない.

勝利するためには,有権者の中核を得なければならない.頂点を極めるルートを見出すべきだ.経営者にも,労働者にも,さまざまな重要問題で,右派と左派ではなく,保守派と進歩派の違いがあることを訴えるべきだ.

われわれは政府の積極的な,戦略的役割を支持する.さらに,正しい方針を示しても,組織が非効率では成功しない.世界は新しいし思考の驚くべき活気ある市場なのだ.われわれはそれらを学び,展開する必要がある.

The Guardian, Saturday 9 May 2015

There is one solution to our disunited politics: a Federal Kingdom of Britain

Timothy Garton Ash

われわれが,今,必要とするのは英連邦a Federal Kingdom of Britainである.そうでなければ,この選挙結果は,イギリスの終焉,そしてEUにおけるイギリスの終焉となるからだ.

保守党は政権を取ったと考えて,いつもどおりに政治を始めるつもりだろう.しかし,そうはならない.この選挙で最大の勝利者は,イングランドとスコットランドの統一したブリテンを解体する勢力であるからだ.

経済,政府支出削減の不平等な影響,EU離脱の国民投票,がこれから争点になる.しかし,議会の改革は,この国の形を全面的に変更する.

イングランド人は,保守派の叫ぶ「SNPを阻止せよ!」という声に刺激された.誰に対して権力を分権化するのか,という難問に,答を出すときだ.それは,キャメロンがEUに対する関係の見直しについて主張していることでもある.

NYT MAY 9, 2015

The Suicide of Britain

Ross Douthat

ヨーロッパの歴史にとって,帝国は正規の政治的枠組みであった.巨大で,数カ国語を使用し,多くのエスニック,特に,多くの宗教を擁し,一つの王室の下に連合が寄せ集まっていた.

その後,近代化,民主主義,ナショナリズムが起き,真実と人造の混じり合った,「諸国民」のヨーロッパが自治と主権を求めるようになった.

1914年から1945年まで,この運動は世界史的な惨禍をもたらし,大量殺戮と支配をめぐる残酷な戦争を引き起こした.こうした紛争から新種の混合秩序が生まれたのだ.戦争とエスニック・クレンジングで描き直された境界線の内側において,諸国民は自治を得る.しかし,彼らは超近代の帝国のような,帝王のいない帝国的官僚制度,EUによって監督されねばならない.

グレイト・ブリテンは,いつものように例外であった.植民地を失いながら,イングランド・スコットランド連合王国としての英国はその国内の帝国を維持し,いくつかの国民English, Scottish, Welsh and Ulster Irishが一つの国旗と王室を支持した.そして,その時代錯誤的な地位にふさわしく,EUの超近代的帝国から超然としたまま,EUに参加したが共通通貨には参加していない.

こうした特別な枠組みは,UK全体にとって利益があった.英連邦を維持することはグローバルな影響力を高めており,EUに参加しながら,しかもユーロ圏の最悪の経済危機を避けてきたことは利益になった.

しかし,これらの枠組みは続けられない.キャメロンの大勝を報じるニュースは,真の勝者がスコットランドとイングランドのナショナリズムであり,the United Kingdomは追い詰められたことを意味しているからだ.

スコットランドのナショナリストが求めるのは,ユニオン・ジャックをEUのポストモダンな統治に取り換えることだ.スコットランド人の多数が嫌う戦争と緊縮策を押し付けられる政治同盟ではなく,エスニックな期限を持つ自治権と距離を置いた超国家的カサ(集団的自衛権)を望む.そして,北で政治同盟への支持が弱まるほど,ますますイングランド人はナショナリズムに向かい,EUからの完全離脱を望み,UK内のスコットランドに対する過剰な優遇を疑うようになる.これがUKIPや,左右において,保守党内でも,ポピュリスト的,反グローバリスト的な運動が生まれる動力である.

2つのナショナリズムとEU離脱論に反対する議論は,紙の上では,有効である.スコットランド人は英国内で利益を得ており,ナショナリストの理想である,キルトを着た資源豊富な社会民主主義的ノルウェーは,独立後の現実によって否定されるだろう.

しかし,ナショナリズムは政治共同体にイメージを与えて,信念の対象,それ自体が目的になる.現在の秩序,ミニチュア帝国がもたらしている利益を冷静に説得するだけでは,勝てないのだ.

そうではなく,英国a Great Britainを支持するには,連合王国の過去の素晴らしい統治を思い起こし,イングランド人だけでなく,スコットランド人にとっても,それが扱いにくい障害ではなく,それを維持し,死守しなければならないものであることを説明する必要がある.小イングランド主義者に対して,イギリスの多文化的で,ヨーロッパとしての現在の姿を捨て去るのではなく,保持することが正しいと説明する必要がある.そして,リベラルな帝国が現実であり,エスニックな故郷に劣らず,われわれの血肉,われわれの生活の真髄であることを,実証する必要がある.

もしそれが指導者たちにできなければ,a Great Britainは消滅するだろう.


l  中国人民銀行の学ぶ教訓

Bloomberg MAY 11, 2015

China's Baby Steps Toward Economic Disaster

William Pesek

中国人民銀行PBOC総裁のZhou Xiaochuanは孤独だ.彼ほど多くの課題に直面する中央銀行総裁はいない.デフレ,過剰債務,グローバル金融市場の混乱,改革を阻む既得権.それらについて教科書の答は存在しない.

もしZhouが教訓となる話を探すとしたら,それは1998年,日銀の速水総裁が,現在の中国とよく似たデフレの問題に直面したときの話であろう.日本は,債務の累積,高齢化,硬直的な産業政策によってデフレに直面していた.

速水の経験が示すように,少しずつ金利を下げても長期の問題は解決できない.Zhouは速水の3つの失敗を学ぶべきだ.

1.金融刺激策を,もっと攻撃的に,大胆に実行する.

2.銀行や地方政府の不良債権を切り離す.

3.金融緩和とセットで行う改革を強く要請する.

速水は,日本のデフレが単なる通貨供給の問題ではない,と考えた.もっと規制を成長に向けて整理し,独占的な慣行を廃止し,政府の政策に関する想像力の貧困を解消するべきだった.

中国にはそれができるはずだ.デフレのリスクを回避する大幅な金融緩和を行い,PBOCが不良債権の処理を促し,習近平のチームと協力して人民元の国際化や競争圧力を利用するのだ.

しかし,今のZhouが速水と異なることは何もない.


l  シリザは敗北する

FP MAY 12, 2015

The Political Tragedy of the Greek Economic Crisis

BY KORI SCHAKE

シリザは,自分たちが人民を代表していると叫べば,他のヨーロッパ諸国から有利な返済条件をゆすり取ることができる,と間違って信じた.しかし,他国の政府も選挙でえらばれており,彼らも有権者に責任があるのだ.ギリシャの問題が解決しないとしても彼らは動じない.シリザは,また,債務諸国の連帯を育てることができる,と間違って信じた.イタリア,スペイン,ポルトガル,キプロス,もしかしたらフランスも,ドイツ人の求める緊縮策に反抗するだろう,と.それはみじめな失敗であった.確かに近頃はベルリンに対する反発もあるが,多くのヨーロッパ市民が,2008年の金融危機後,財政健全化を求めている.ギリシャは所得以上の水準で生活しているのだ.ドイツを中心として,こうした諸国はシリザの左派の学者に,自国の財政も均衡させないまま,他国に説教するのを聴くつもりはない.

Project Syndicate MAY 13, 2015

Why Greece is Different

DANIEL GROS

IMFECB,欧州委員会との交渉は進展していない.デフォルトの危機が迫っている.

ギリシャが新しい救済融資の条件を求める理由とは,ギリシャが過剰な緊縮策の犠牲者である,という説明だ.しかし,緊縮策はヨーロッパの他の金融危機に対しては機能している.ポルトガル,スペイン,アイルランド,そしてキプロスでさえ,回復の顕著なサインが見え,失業者は減少しつつある.

ギリシャが違うのは,輸出が伸びなかったことだ.

金融危機に陥った国でIMF融資を受けたところでは,緊縮策による需要の不足を輸出の増加が補った.政府は支出を削り,増税して,財政の均衡を回復した.

もちろん,アメリカやユーロ圏のような大規模経済圏ではそれができない.その場合,大幅な税制の均衡化は不況になって,自己破壊的である.しかし,この主張はギリシャのような小国に当てはまらない.

ギリシャは金融危機の前,GDP10%も経常収支赤字を出していた.それが突然の金融市場の混乱で調整を求められたのだ.もし政府が調整を拒めば,国内需要や雇用はもっと高かっただろうが,対外赤字も増大した.だから緊縮策で不況をもたらしたのは,それだけ国内需要を抑え,対外赤字と救済融資を減らしたのだ.

緊縮の罠を抜け出すかどうかは,輸出を伸ばす力にかかっている.ギリシャの最近の輸出増は幻想だ.一つは,石油精製部門,もう一つは,海運業である.これらは国内雇用や税収をもたらさない.他方,製造業は輸出部門の小さな割合でしかない.

ギリシャの貿易額は,小国にしては非常に小さく,GDP12%でしかない.ギリシャの貿易赤字額はさらに高く,GDP13%であった.ポルトガルは,対照的に,貿易赤字が輸出額の3分の1であった.そして,累計で,輸出を4分の1増やし,貿易黒字を達成した.

ギリシャの貿易赤字も減少したが,それは輸入が減ったからだ.輸出は停滞し,賃金が20%も減少したのに,増えなかった.緊縮策がギリシャの問題ではない.財政再建,賃金低下,輸出指向の改革,という組み合わせがギリシャ経済の回復をもたらすのだ.

このアプローチが失敗したのは,アルゼンチンであった.ギリシャとアルゼンチンは,2つの点で似ている.輸出部門が小さく,輸出の構造が商品に偏っており,それは構造改革や賃金低下によっても増大しないことだ.

これは,もちろん,ギリシャがアルゼンチンと同じ道をたどる宿命にあることを意味しない.ギリシャと債権者との交渉は,予算だけでなく,輸出刺激戦略を含めるべきだ.そして何より,ギリシャは緊縮策が敵ではないことを認めねばならない.

Project Syndicate MAY 14, 2015

Why Syriza Will Blink

ANATOLE KALETSKY

シリザの戦略は交渉で敗北するだろう.チプラスとバロファキスは,ギリシャがデフォルトすれば,ユーロ圏を解体の危機に向かわせることになり,それが融資条件を有利にする,と確信している.

しかし,ギリシャの離脱か,債務免除か,という彼らの前提は間違いだ.EUはギリシャをユーロ圏から追放せず,ユーロ圏内でギリシャ政府の資金が枯渇するのを待って,その政権崩壊を待つだろう.

1か月前には,ギリシャの財政は債務の利子払いや返済を除いて均衡し,1月には,GDP4%に及ぶ黒字を出していた.しかし,それが失われた後は,公務員の給与や年金を支払うにも資金がなくなってしまう.それはキプロスで起きたように,アメリカ型の地方政府破綻である.

政府が,トロイカの求める緊縮策以上に,緊縮を強いるなら,政治的な支持を失い,ユーロ圏にとどまったまま,シリザは政権を失うだろう.



l  2050年の世界

FP MAY 12, 2015

What Will 2050 Look Like?

BY STEPHEN M. WALT

未来を予測するのは難しい.しかし,それは外交政策を決める重要な一部である.

それを理解するために,1978年の世界はどうなっていたか? と私は学生たちに思い出させた.ソ連とワルシャワ条約機構があった.南アフリカ共和国にはアパルトヘイトが,イランにはクジャクの玉座に王様がいた.ユーロはなく,インターネットもeメールもなく,携帯電話も,コンパクトディスクCDさえもなかった.日本経済は大いに暴れまわり,中国の一人当たり所得は年間わずか165ドルであった.その後の数十年間で起きた激しい変化を予測した者が,どれほどいただろうか?

しかし,未来を予測するのは難しいが,それは不可能ではない.未来のいくつかの特徴はかなり正確に予測できる.

「より確かな」予測分野は人口変化だ.中国やインドは10億人を超えているし,アメリカはおよそ4億人であろう.ドイツ,ロシア,日本の人口は減少している.

2050年でも,世界は領土的に分割支配されているだろう.その数は今よりも多い.1945年には50程度であった国家が,今では200に近い.分離を促す傾向は続いており,それに反対する力は弱い.EUの試みは今も国家の集まりでしかなく,それでさえ困難な時期を迎えている.また,これは,すべての国家が安定している,という意味ではない.

経済の重みは,数十年の期間であれば,予測可能である.GNPは人口ほど確かに予測できないが,2050年の経済的な景観は予測できる.アメリカ,中国,日本,インド,ブラジル,ロシア,そしてEUが主要な経済大国である.モンゴルやブルンジが,突然,シンガポールにはならないし,シンガポールがソマリアになることもないだろう.

他の特徴は予測がむつかしい.予想外の出来事に対して政策が変化するからだ.たとえば,冷戦期に形成された軍事同盟がこのまま長期に維持される,というのは疑わしい.NATOやアメリカがアジアで築いた軍事同盟が2050年に存在するか,ロシアが衰退し続ければ,NATOが中国の台頭にバランスを取る同盟として役に立つとは思えないからだ.

アジアの軍事同盟が変化することを予測するのは非常に難しい.中国のパワーが増大を続ければ,アジアの軍事同盟を再編するのか,私はそう思わないが,西半球ではどうか? イランが国際社会に復帰した後の中東はどうなるのか? 未来の暴力の水準が,このまま低下し続けるというのも難しいと思う.

しかし,最も予測がむつかしいのは科学・技術の分野だ.そして,かつてなかったような,自然の,また人口の,出来事が政治を激変させる可能性,「ブラック・スワン」がある.

要するに,人類が世界に取り組むには欠陥が多く,政治的・社会的な制度は非常に不完全である,ということだ.

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The Economist May 2nd 2015

Who should govern Britain?

Banyan: Shield and spear

The South China Sea: Making waves

(コメント) 保守党と労働党のどちらがふさわしいか? 中国との貿易,アメリカとの安全保障同盟,韓国はどちらを重視するのか? 南シナ海の埋め立てと空港建設は中国と周辺地域の安全保障にどのような意味を持つのか?

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IPEの想像力 5/18/15

ガバナンスのパワーは,特に危機に際して,指導者の性格と制度の特質とが結びついて発揮されます.リー・クアンユーがいなかったら,今のシンガポールはないでしょう.しかし,リーが死んでも,その強烈な都市国家の精神と統治機構は残りました.

プライム・タイムで,大阪都構想に関する橋下徹と柳本顕との説明を聴きました.2人とも本当によくしゃべる.政治家というプロたちの高い能力に感嘆しました.

私の理解する限り,大阪都構想の最大の魅力は,衰退する都市圏の活力を高めるガバナンスの革新という問題を,正面から取り上げたことです.しかし,投票日に向けて議論されたのは,もっぱら,「二重行政の解消」や節約であったのはなぜか? 既得権に配慮して,具体的な改革のイメージを議論しなくなったとすれば,それが敗北の理由ではなかったか?

司会者は,橋下と柳本に,大阪市と大阪府との重なった公共投資,相互に連絡を欠いたままの戦略性の欠如,を議論させました.そして,必要なのは,機構改革なのか,首長の見識なのか,と問いました.

橋下徹でなかったら.維新の会や大阪都構想は,ここまで政治的影響を高めなかったかもしれません.しかし,その発言やスタイルは幼稚で,政治と称して悪意をぶつけ合い,敵を増やすものであり,マイナスになったと思います.敗北しながらも,「政治家冥利に尽きる」と笑顔で語ることができるのは,日本の職業政治家にふさわしくない,風雲児,でした.

私はかつて,サッチャーを100人,ブレアを100人.と願いました(IPEの想像力 4/29/13).橋下に見られる意志の強固さは,政治を動かす人々の特徴です.しかし,ポピュリズムという批判も呼ぶでしょう.既得権集団・特権を破壊する,という意味で,政治が発揮する本来のパワーを感じるとともに,維新の会,とは何なのか? という疑問が常に残りました.

「維新」の中身,運動の主体,が分からないからです.

大阪市の衰退とガバナンスの革新は,地方分権論なのか? アベノミクスや財政再建との関係は? 高齢化と社会保障制度の見直しは? 従軍慰安婦問題,教育制度改革で,橋下の発現がどこまで改革を前進させたのか? 地域経済活性化の具体的な構想はあるのか? 「維新の会」が,すべての政党を敵視したことは,大阪都構想によって何が実現できるのか,議論することを難しくしたと思います.

BLOGOSで観た三浦瑠麗「5.17大阪都構想の住民投票について」を読みました.「マイルドな改革派」という言葉で,小泉人気や,民主党の政権交代,安倍人気,などを有権者の気分として表現します.「維新の会」も,大阪に土着の革新性を帯びた同じ流れであった,というわけです.

イギリスの選挙は予想外の展開となり,さまざまな解説の中に日本の政治との関連を見つけたくなります.イラク戦争に続いて,金融危機後の財政緊縮,スコットランド国民党SNPの台頭は,国の形を変えつつあります.右派でも左派でもなく,新しいアイデアを積極的に取り込む,進歩的な運動であることが重要だ,とある論者は労働党の敗北を理解します.

石原慎太郎との話し合いの後,橋下は取り込まれることを拒みました.他方,通産官僚,自民党,みんなの党を経てきた江田憲司とは連携し,「維新の党」を立ち上げました.安全保障の新しい法制化をめぐり,安倍政権は維新の党と連携を模索しています.

橋下徹への注目は,東日本大震災,尖閣諸島紛争の後,「ハードな改革」にふさわしい,能力の高い政治家の登場を刺激したと思います.

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