前半から続く)


l  シリザは敗北する

VOX 08 May 2015

The missing piece in the EMU puzzle: Economic policy coordination

Bruno Maçães

Bloomberg MAY 11, 2015

Apple Could Make Money by Bailing Out Greece

By Leonid Bershidsky

FT May 12, 2015

Syriza must let markets and meritocracy rule

Yannis Palaiologos

FP MAY 12, 2015

The Political Tragedy of the Greek Economic Crisis

BY KORI SCHAKE

シリザは,自分たちが人民を代表していると叫べば,他のヨーロッパ諸国から有利な返済条件をゆすり取ることができる,と間違って信じた.しかし,他国の政府も選挙でえらばれており,彼らも有権者に責任があるのだ.ギリシャの問題が解決しないとしても彼らは動じない.シリザは,また,債務諸国の連帯を育てることができる,と間違って信じた.イタリア,スペイン,ポルトガル,キプロス,もしかしたらフランスも,ドイツ人の求める緊縮策に反抗するだろう,と.それはみじめな失敗であった.確かに近頃はベルリンに対する反発もあるが,多くのヨーロッパ市民が,2008年の金融危機後,財政健全化を求めている.ギリシャは所得以上の水準で生活しているのだ.ドイツを中心として,こうした諸国はシリザの左派の学者に,自国の財政も均衡させないまま,他国に説教するのを聴くつもりはない.

Project Syndicate MAY 13, 2015

Why Greece is Different

DANIEL GROS

IMFECB,欧州委員会との交渉は進展していない.デフォルトの危機が迫っている.

ギリシャが新しい救済融資の条件を求める理由とは,ギリシャが過剰な緊縮策の犠牲者である,という説明だ.しかし,緊縮策はヨーロッパの他の金融危機に対しては機能している.ポルトガル,スペイン,アイルランド,そしてキプロスでさえ,回復の顕著なサインが見え,失業者は減少しつつある.

ギリシャが違うのは,輸出が伸びなかったことだ.

金融危機に陥った国でIMF融資を受けたところでは,緊縮策による需要の不足を輸出の増加が補った.政府は支出を削り,増税して,財政の均衡を回復した.

もちろん,アメリカやユーロ圏のような大規模経済圏ではそれができない.その場合,大幅な税制の均衡化は不況になって,自己破壊的である.しかし,この主張はギリシャのような小国に当てはまらない.

ギリシャは金融危機の前,GDP10%も経常収支赤字を出していた.それが突然の金融市場の混乱で調整を求められたのだ.もし政府が調整を拒めば,国内需要や雇用はもっと高かっただろうが,対外赤字も増大した.だから緊縮策で不況をもたらしたのは,それだけ国内需要を抑え,対外赤字と救済融資を減らしたのだ.

緊縮の罠を抜け出すかどうかは,輸出を伸ばす力にかかっている.ギリシャの最近の輸出増は幻想だ.一つは,石油精製部門,もう一つは,海運業である.これらは国内雇用や税収をもたらさない.他方,製造業は輸出部門の小さな割合でしかない.

ギリシャの貿易額は,小国にしては非常に小さく,GDP12%でしかない.ギリシャの貿易赤字額はさらに高く,GDP13%であった.ポルトガルは,対照的に,貿易赤字が輸出額の3分の1であった.そして,累計で,輸出を4分の1増やし,貿易黒字を達成した.

ギリシャの貿易赤字も減少したが,それは輸入が減ったからだ.輸出は停滞し,賃金が20%も減少したのに,増えなかった.緊縮策がギリシャの問題ではない.財政再建,賃金低下,輸出指向の改革,という組み合わせがギリシャ経済の回復をもたらすのだ.

このアプローチが失敗したのは,アルゼンチンであった.ギリシャとアルゼンチンは,2つの点で似ている.輸出部門が小さく,輸出の構造が商品に偏っており,それは構造改革や賃金低下によっても増大しないことだ.

これは,もちろん,ギリシャがアルゼンチンと同じ道をたどる宿命にあることを意味しない.ギリシャと債権者との交渉は,予算だけでなく,輸出刺激戦略を含めるべきだ.そして何より,ギリシャは緊縮策が敵ではないことを認めねばならない.

NYT MAY 13, 2015

Greece’s Split-Personality Problem

FP MAY 13, 2015

How Greece Fell into the Eurozone Trap

BY DEBORA L. SPAR

Project Syndicate MAY 14, 2015

Why Syriza Will Blink

ANATOLE KALETSKY

シリザの戦略は交渉で敗北するだろう.チプラスとバロファキスは,ギリシャがデフォルトすれば,ユーロ圏を解体の危機に向かわせることになり,それが融資条件を有利にする,と確信している.

しかし,ギリシャの離脱か,債務免除か,という彼らの前提は間違いだ.EUはギリシャをユーロ圏から追放せず,ユーロ圏内でギリシャ政府の資金が枯渇するのを待って,その政権崩壊を待つだろう.

1か月前には,ギリシャの財政は債務の利子払いや返済を除いて均衡し,1月には,GDP4%に及ぶ黒字を出していた.しかし,それが失われた後は,公務員の給与や年金を支払うにも資金がなくなってしまう.それはキプロスで起きたように,アメリカ型の地方政府破綻である.

政府が,トロイカの求める緊縮策以上に,緊縮を強いるなら,政治的な支持を失い,ユーロ圏にとどまったまま,シリザは政権を失うだろう.


l  アメリカの特別な関係

FP MAY 8, 2015

The Amazing Decline of America’s Special Relationships

BY DAVID ROTHKOPF


l  ロシアのアジア旋回

FP MAY 8, 2015

Russia’s Stumbling Pivot to Asia

BY KEITH JOHNSON

(China Daily) 2015-05-08

China, Russia lead non-West initiatives

By Dmitri Trenin

The Guardian, Thursday 14 May 2015

The west talks about a new cold war. For Russians it has already started

Susan Richards


l  人類と魚類の戦争

NYT MAY 8, 2015

When Humans Declared War on Fish

By PAUL GREENBERG and BORIS WORM


l  アメリカの都市問題

NYT MAY 9, 2015

The Real Problem With America’s Inner Cities

By ORLANDO PATTERSON


l  黄金のアーチ

FT May 10, 2015

The end of the Golden Arches doctrine

ED Luce


l  アベノミクスの限界

FT May 11, 2015

Sharp lines up measures to regain its edge

Kana Inagaki in Tokyo

FT May 11, 2015

Abenomics is only a risk if it is allowed to fail

Bloomberg MAY 14, 2015

Corporate Japan Answers to Nobody

By William Pesek


l  サイバー安全保障

Project Syndicate MAY 11, 2015

International Norms in Cyberspace

JOSEPH S. NYE


l  シンガポールとマレーシア

NYT MAY 11, 2015

Singapore’s Path to Ending an Old Rivalry

By TASH AW

独立以来の政治対立を,貿易や投資,移住により,ようやく両国は克服しつつある.


l  多元的貿易制度

FT May 12, 2015

The embattled future of global trade policy

Martin Wolf

TTPTTIPを推進するアメリカ政府の多元的な貿易制度推進論は,多角的自由化を推進してきたWTOに比べて優れているとは言えない.

TTPTTIPがもたらす貿易自由化の利益は小さい.WTOの交渉意欲をますます低下させるかもしれない.また,大国が交渉上の優位を利用するかもしれない.TPPは,特恵的貿易取り決めに近いし,TTIPは,規制のハーモナイゼーションに近い内容だ.

労働や環境の基準を貿易協定に組み込むのは,アメリカの規制を他国に強制することであり,全体の利益というより,他国にとって大きなコストを意味する.

FT May 13, 2015

Obama’s fast-track battle with the Democrats

Project Syndicate MAY 13, 2015

The Secret Corporate Takeover

JOSEPH E. STIGLITZ


l  中東の安全保障

FT May 12, 2015

Obama’s hard truths for the Gulf states on Iran

FP MAY 13, 2015

Rally Round the Flag in Riyadh

BY ELIZABETH DICKINSON

NYT MAY 14, 2015

This Angry Arab Moment

Roger Cohen

FP MAY 14, 2015

It’s Not Diplomacy, It’s an Arms Fair

BY WILLIAM D. HARTUNG


l  移民・難民危機

SPIEGEL ONLINE 05/12/2015

SPIEGEL Migration Debate

'One of the Most Serious Dramas of Our Times'

Interview Conducted By Maximilian Popp and Jörg Schindler

The Guardian, Wednesday 13 May 2015

Asylum seekers should be welcomed, but the UK cannot take all migrants

Anne Perkins

NYT MAY 14, 2015

Crisis at Sea

Nicholas Kristof

NYT MAY 14, 2015

Migrants From Myanmar, Shunned by Malaysia, Are Spotted Adrift in Andaman Sea

By THOMAS FULLER and JOE COCHRANE

FP MAY 14, 2015

Libya to Europe: Please Don’t Come to Our Rescue

BY COLUM LYNCH


l  開発金融

VOX 12 May 2015

Financing for development: The policy and research agenda

Christopher Adam, Ugo Panizza, Andrea F Presbitero, David Vines


l  右派への転換

NYT MAY 12, 2015

The Center-Right Moment

David Brooks


l  2050年の世界

FP MAY 12, 2015

What Will 2050 Look Like?

BY STEPHEN M. WALT

未来を予測するのは難しい.しかし,それは外交政策を決める重要な一部である.

それを理解するために,1978年の世界はどうなっていたか? と私は学生たちに思い出させた.ソ連とワルシャワ条約機構があった.南アフリカ共和国にはアパルトヘイトが,イランにはクジャクの玉座に王様がいた.ユーロはなく,インターネットもeメールもなく,携帯電話も,コンパクトディスクCDさえもなかった.日本経済は大いに暴れまわり,中国の一人当たり所得は年間わずか165ドルであった.その後の数十年間で起きた激しい変化を予測した者が,どれほどいただろうか?

しかし,未来を予測するのは難しいが,それは不可能ではない.未来のいくつかの特徴はかなり正確に予測できる.

「より確かな」予測分野は人口変化だ.中国やインドは10億人を超えているし,アメリカはおよそ4億人であろう.ドイツ,ロシア,日本の人口は減少している.

2050年でも,世界は領土的に分割支配されているだろう.その数は今よりも多い.1945年には50程度であった国家が,今では200に近い.分離を促す傾向は続いており,それに反対する力は弱い.EUの試みは今も国家の集まりでしかなく,それでさえ困難な時期を迎えている.また,これは,すべての国家が安定している,という意味ではない.

経済の重みは,数十年の期間であれば,予測可能である.GNPは人口ほど確かに予測できないが,2050年の経済的な景観は予測できる.アメリカ,中国,日本,インド,ブラジル,ロシア,そしてEUが主要な経済大国である.モンゴルやブルンジが,突然,シンガポールにはならないし,シンガポールがソマリアになることもないだろう.

他の特徴は予測がむつかしい.予想外の出来事に対して政策が変化するからだ.たとえば,冷戦期に形成された軍事同盟がこのまま長期に維持される,というのは疑わしい.NATOやアメリカがアジアで築いた軍事同盟が2050年に存在するか,ロシアが衰退し続ければ,NATOが中国の台頭にバランスを取る同盟として役に立つとは思えないからだ.

アジアの軍事同盟が変化することを予測するのは非常に難しい.中国のパワーが増大を続ければ,アジアの軍事同盟を再編するのか,私はそう思わないが,西半球ではどうか? イランが国際社会に復帰した後の中東はどうなるのか? 未来の暴力の水準が,このまま低下し続けるというのも難しいと思う.

しかし,最も予測がむつかしいのは科学・技術の分野だ.そして,かつてなかったような,自然の,また人口の,出来事が政治を激変させる可能性,「ブラック・スワン」がある.

要するに,人類が世界に取り組むには欠陥が多く,政治的・社会的な制度は非常に不完全である,ということだ.


l  北朝鮮

The Guardian, Wednesday 13 May 2015

The Guardian view on North Korea: even its elite may pay the price

Editorial


l  自由民主主義の条件

Project Syndicate MAY 13, 2015

The Puzzle of Liberal Democracy

DANI RODRIK and SHARUN MUKAND


l  21世紀の資本

Project Syndicate MAY 13, 2015

Talent versus Capital in the Twenty-First Century

KLAUS SCHWAB

NYT MAY 13, 2015

Moore’s Law Turns 50

Thomas L. Friedman


l  安楽死

NYT MAY 13, 2015

When Doctors Help a Patient Die

By THOMAS R. MCCORMICK


l  ドイツとアメリカ

FP MAY 13, 2015

Germany’s America Angst

BY BRUCE STOKES


l  経済学と制度

Project Syndicate MAY 14, 2015

An Economics to Fit the Facts

BARRY EICHENGREEN

データではなく長期の変化に,制度に注目することが,経済学を変えるだろう.

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The Economist May 2nd 2015

Who should govern Britain?

Banyan: Shield and spear

The South China Sea: Making waves

(コメント) 保守党と労働党のどちらがふさわしいか? 中国との貿易,アメリカとの安全保障同盟,韓国はどちらを重視するのか? 南シナ海の埋め立てと空港建設は中国と周辺地域の安全保障にどのような意味を持つのか?

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IPEの想像力 5/18/15

ガバナンスのパワーは,特に危機に際して,指導者の性格と制度の特質とが結びついて発揮されます.リー・クアンユーがいなかったら,今のシンガポールはないでしょう.しかし,リーが死んでも,その強烈な都市国家の精神と統治機構は残りました.

プライム・タイムで,大阪都構想に関する橋下徹と柳本顕との説明を聴きました.2人とも本当によくしゃべる.政治家というプロたちの高い能力に感嘆しました.

私の理解する限り,大阪都構想の最大の魅力は,衰退する都市圏の活力を高めるガバナンスの革新という問題を,正面から取り上げたことです.しかし,投票日に向けて議論されたのは,もっぱら,「二重行政の解消」や節約であったのはなぜか? 既得権に配慮して,具体的な改革のイメージを議論しなくなったとすれば,それが敗北の理由ではなかったか?

司会者は,橋下と柳本に,大阪市と大阪府との重なった公共投資,相互に連絡を欠いたままの戦略性の欠如,を議論させました.そして,必要なのは,機構改革なのか,首長の見識なのか,と問いました.

橋下徹でなかったら.維新の会や大阪都構想は,ここまで政治的影響を高めなかったかもしれません.しかし,その発言やスタイルは幼稚で,政治と称して悪意をぶつけ合い,敵を増やすものであり,マイナスになったと思います.敗北しながらも,「政治家冥利に尽きる」と笑顔で語ることができるのは,日本の職業政治家にふさわしくない,風雲児,でした.

私はかつて,サッチャーを100人,ブレアを100人.と願いました(IPEの想像力 4/29/13).橋下に見られる意志の強固さは,政治を動かす人々の特徴です.しかし,ポピュリズムという批判も呼ぶでしょう.既得権集団・特権を破壊する,という意味で,政治が発揮する本来のパワーを感じるとともに,維新の会,とは何なのか? という疑問が常に残りました.

「維新」の中身,運動の主体,が分からないからです.

大阪市の衰退とガバナンスの革新は,地方分権論なのか? アベノミクスや財政再建との関係は? 高齢化と社会保障制度の見直しは? 従軍慰安婦問題,教育制度改革で,橋下の発現がどこまで改革を前進させたのか? 地域経済活性化の具体的な構想はあるのか? 「維新の会」が,すべての政党を敵視したことは,大阪都構想によって何が実現できるのか,議論することを難しくしたと思います.

BLOGOSで観た三浦瑠麗「5.17大阪都構想の住民投票について」を読みました.「マイルドな改革派」という言葉で,小泉人気や,民主党の政権交代,安倍人気,などを有権者の気分として表現します.「維新の会」も,大阪に土着の革新性を帯びた同じ流れであった,というわけです.

イギリスの選挙は予想外の展開となり,さまざまな解説の中に日本の政治との関連を見つけたくなります.イラク戦争に続いて,金融危機後の財政緊縮,スコットランド国民党SNPの台頭は,国の形を変えつつあります.右派でも左派でもなく,新しいアイデアを積極的に取り込む,進歩的な運動であることが重要だ,とある論者は労働党の敗北を理解します.

石原慎太郎との話し合いの後,橋下は取り込まれることを拒みました.他方,通産官僚,自民党,みんなの党を経てきた江田憲司とは連携し,「維新の党」を立ち上げました.安全保障の新しい法制化をめぐり,安倍政権は維新の党と連携を模索しています.

橋下徹への注目は,東日本大震災,尖閣諸島紛争の後,「ハードな改革」にふさわしい,能力の高い政治家の登場を刺激したと思います.

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