IPEの果樹園2015

今週のReview

4/20-/25

 

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長期停滞論 ・・・人種差別・移民論争 ・・・中国のバブル ・・・ギリシャ経済危機 ・・・アメリカと中東秩序 ・・・多極化世界 ・・・イランとの合意に向けて ・・・米中の国際システム ・・・TPP合意に向けて ・・・ヨーロッパとグーグル

[長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  長期停滞論

FT April 9, 2015

US warns of ‘increasingly unbalanced’ global economy

Sam Fleming

FT April 10, 2015

An agonising way to abolish boom and bust

Alan Beattie

長期停滞論を支持するサマーズとIMFに対して,バーナンキは反対した.サマーズの「長期停滞」とは,投資需要が少なく,実質均衡金利が低下することを意味している.その対応としては,金融緩和をさらに続けるか,より望ましいのは公共投資を増やすことである.その背景として,さまざまな技術悲観論者たちは,以前に比べて革新のアイデアが枯渇した,と主張している.

しかしバーナンキは,今の停滞が長期停滞であるとは考えない.アメリカ経済の回復が遅いのは,金融システムの崩壊や住宅市場の弱さによるものだ.このまま金融緩和によって正常に向かう.

経済学は長期成長に関してコンセンサスを形成できない.ロバート・ソローがノーベル賞を受賞したのも,一つには,経済成長の説明の9割は,数理的なモデルで説明のつかない,技術革新によるものだ,と示したことであった.

短期の問題を過大に評価してしまう危険がある.不況が終わって数年間,技術変化やスキルの問題で労働需要が永久に減少した,と,「ジョブレス・リカバリー」が議論された.しかし,雇用が増え始めると,誰もが,雇用は生産に遅れて回復する傾向がある,ということを思い出した.

しかしサマーズが指摘するように,インフラを更新する問題は重要だ.IMFも,ネオリベラリズムの広報機関から,ソ連時代のゴスプラン(中央計画委員会)に変身して,政府の投資を増やすように要求している.

結局,世界経済の状態を理解する上での不確実さの大きさを考えるなら,長期停滞論の真偽とは別に,政策の目標は被害を抑えることに向けるべきだ.長期金利が非常に低いから,公共投資が間違った警鐘に呼応したと結果的に分かるとしても,その警鐘が正しい場合の深刻な停滞を回避するほうが賢明だろう.

FT April 12, 2015

Macroeconomists need new tools to challenge consensus

Wolfgang Munchau

サマーズとバーナンキの論争は,19世紀末の数学,そして物理学,の論争を思い出させる.理論は,単一の均衡解を持つ,線型の,限定された空間,という前提によってゆがめられている.Hyman Minskyは早くからこうした経済学に反対したが,成功しなかった.今また,マクロ経済学のコンセンサスが問われている.

FT April 14, 2015

An economic future that may never brighten

Martin Wolf

IMF, World Economic Outlookは,生産水準が潜在力にあるが,しかし持続可能ではない,と書いた.これはどういう意味か? 生産水準は需要に見合っており,インフレもデフレも起こさない.しかし,需要水準は実質ゼロ以下の金利で多くの借り入れに意地さ荒れているから,金融的に持続可能ではない.過剰な債務やリスク回避の傾向は,潜在成長率を長期的に低下させる.さまざまな理由が考えられる.新興市場も同じだ.

大幅な経常収支黒字に頼ってきたドイツなどがあった.それに見合う赤字国がなくなれば,デフレ的な均衡化が起きる.

Project Syndicate APR 14, 2015

Europe’s Poisoned Chalice of Growth

BARRY EICHENGREEN

二番底の不況と停滞の後,ユーロ圏はようやく成長し始めた.欧州委員会は1.3%の成長を予測している.それはヨーロッパの水準では悪くない.しかし,その改革にとって非常に具合の悪いものだ.

成長の理由は,量的緩和を実行したECBやユーロ安ではない.日本を観ても,通貨の減価が成長を刺激するのは時間がかかる.むしろ,財政再建の抑制を緩和したこと,いくつかの国で構造改革が進んだこと,ギリシャの破たんリスクから切り離されたこと,が重要だ.

経済成長は多くの問題を緩和するだろう.しかし,秩序の混乱をもたらすような難しい改革論争は避け,債務の削減も延期し,通貨統合が機能するために必要な財政統合や政治統合は決断しないままになる.

発展途上諸国にとって,不況の時こそ改革の好機だ,と言われる.ヨーロッパも発展途上なのだ.


l  人種差別・移民論争

The Guardian, Friday 10 April 2015

White guilt won’t fix America’s race problem. Only justice and equality will

Gary Younge

アメリカで黒人が警官によって繰り返し射殺されるのは,アメリカ人の心に黒人を差別するものがあるからだ.平等を主張するだけで,殺された歴史が続いている.

FT April 14, 2015

Pro-Europeans need to woo ‘anxious middle’ on free movement

Hugo Dixon

イギリスがEUにとどまるべきだ,と主張するとき,人の移動を制限したいという人々をどのように説得できるだろうか?

一つの方法は,EU移民がイギリス経済にもたらす利益を説明することだ.平均的に見て,彼らは雇用率が高い.彼らを教育するコストはその政府が支払っており,医療や年金の負担をイギリス政府に頼るより前に彼らは帰国している.これまでの移民たちはイギリスの文化や食生活を豊かにしてくれた.

問題は,こうした文化論や年金論は,エリート主義の偏りがあることだ.文化の豊かさなど関心がない人もいる.住宅の不足や学校に増える移民子どもたち,医者で待つ時間が長くなった,と思う人もいる.たとえGDPで見て移民の利益を示したとしても,未熟練労働者が利益を得たわけではない.たとえ技術革新や発展途上国からの輸入品によって賃金が下がったとしても,彼らは移民を嫌うだろう.

マンチェスター大学のRobert Fordは,自由移動を支持する人々を「イギリス世界市民」と呼んだ.典型的には,若く,高度な教育を受け,都会に住んでいる.しばしば彼らの両親のうち少なくとも一人は外国生まれである.他方で,「イギリス教区人」と呼ぶ人たちは,高齢で,教育水準は低く,両親ともにイギリス生まれである.

ゲームを決めるのは,移民に関するシンクタンク,British Futureが指摘するように,「不安な中間層」を説得することだ.彼らは移民流入の有利さと不利さをともに観ており,人口の半分を占めるが,EU残留か,離脱か,意見が割れている.

ヨーロッパを支持する人々は,EU移民が,特に東欧から来る移民たちが,統合化しやすい,と主張する必要があるだろう.イギリス人は流入者がもっと英語をじょうずに話すべきだと考えている.キャメロン首相は移民への社会的給付を削減すると約束している.確かに誰もフリーライダーを好まないが,同時に,社会保障制度を好んで移動する移民“welfare tourism”は少ないことも注意するべきだ.

首相はまた,移民の圧力にさらされている地域社会に追加の財源を与えると約束している.また,野党である労働党は,移民に最低賃金を支払わず,国内の低熟練労働者にとって職場を削る企業を,厳しく取り締まる,と約束する.不安な中間層は,移民がもっと英語を学び,社会に貢献し,ルールを守ることを歓迎する.

EU離脱を問う国民投票を決める重要な争点になるだろう.


l  イギリス選挙

FT April 10, 2015

The transatlantic delusions of the Westminster Wing

Janan Ganesh

FT April 10, 2015

The faintly feudal life of a creative worker

Alexander Gilmour

FT April 13, 2015

Buying Trident would weaken British defence

Gideon Rachman

The Guardian, Wednesday 15 April 2015

Britain’s rotten electoral system means that once again it’s nose-peg time

Polly Toynbee

あまりにも少数の投票しか議席に反映されない現行の選挙制度には問題がある.有権者が投票を無駄にしないためには,支持政党を交換するサイトが必要になっている.


l  中国のバブル

FT April 10, 2015

China equities: Stock market fever

Gabriel Wildau in Shanghai and Josh Noble in Hong Kong

多くの新興証券会社は最も大きな利益を得ている.中国の投資家たちは7年間で最高水準にまで株価を引き上げたからだ.取引額はすべての記録を超えている.

中国の個人投資家たちは初めて国際市場に出撃し始めている.彼らが持ち帰るのは,株式投資熱だ.「私は初めて株を買った.友人も同僚も利益を得ている.私も大喜びだ.」

買い注文は昨年の7月から増えている.金曜日,2008年初め以来,初めて,上海市場の指数は4000を超えた.市場は過去6か月間で68%も上昇した.

しかし,ここにはバブルの気配がある.3月だけで,投資家たちは480万もの株式取引口座を新設した.4月最初の2日間で,さらに100万口座.マージン取引が爆発的に増加している.取引業者から多額の融資を得て株を買う.「不合理な熱狂」を示すものだ.上海と深圳の株式市場で2.2兆人民元が融資残高となっている.半年前の2.5倍だ.

「株のことも,リスク評価も知らない多くの人々が,株式市場に殺到している.」 深圳のヘッジファンドの投資部長は嘆く.「われわれは心配だが,何もできない.いつも投資の循環はこんな風だ.痛みを受けるのは小口の投資家たちだ.」

200710月,上海総合指数は6124まで上昇していた.次の6か月で1800近くまで下落し,小口投資家たちは7年間を損失に苦しんでいた.今回の上昇は以前と違う.2014年の中国経済は24年間で最も遅い成長しか遂げていない.しかし,投資家たちは,アメリカやEU,日本の株価と比べて,上海が大きく遅れている,と見る.

投資家は予想する.中国政府が科学技術に力を入れる,各省に道路などを整備し,インフラ投資を競う,国有企業の改革で民営化が進む,特に,金融,エネルギー,通信,などがそうだ.

バブルの兆候はあっても,投資ブームは続く,とみている.債権や不動産と比べて,まだ株式保有は少ない.中央銀行が経済を刺激するために金利を続けて下げた.

さらに,投資熱は強化を超えて香港に至る.本土からの投資で香港株が急騰した.香港への許可された投資額の上限に達している.香港株式市場の幹部は,ブームを維持するために上限を引き上げる話を始めている.

Bloomberg APR 13, 2015

Asian Stocks Get All Bubbly

William Pesek

まだ4月だが,2015年はアジア株式市場がバブルの都市になるようだ.確かな成長もないのに株価が上昇し続ける.それは政府の行動や人々の期待が変化するだけで崩壊するだろう.

北京政府は株式バブルを促した.その一つの理由は,不動産市場に失敗した投資家たちに株式市場で活気を与えることができる,と政府関係者が考えたことだ.共産党が株式投資を宣伝した.しかし,上海と深圳の市場だけではバブルの懸念が強いから,政府は資産バブルを香港にも輸出した.この資金流入は,香港ドルのUSドルとの固定レートを維持する介入を強いる.香港は,その制度も投資家の態度も,中国本土とは異なっていた.慎重な,教育のある投資家が市場を決めたのだ.しかし,今や,香港株式市場も中国の日繰り的な企業に圧倒されている.

香港のバブルは最初にはじけるだろう.投資家たちは中国本土の保有株式を一気に減らす.情報や法律の透明な香港で売るのを好む.

1980年代の日本のバブルも政府が促したものだ,という.アジアの2つの株式市場が,ますます次の金融緩和やバブルによって刺激されるなら,官僚たちは構造改革をやめて,株式投機による景気刺激を期待する.


l  ギリシャ経済危機

Project Syndicate APR 10, 2015

Money for Nothing

DANIEL GROS

ゼロ金利は,国債の残高が及ぼす影響を見えなくする.それはマーストリヒトの財政規律は無意味になる.債務超過国でも,容易に,それを無視することになるからだ.

ゼロ金利政策の目的は,特にユーロ圏で,こうした点から見直されるだろう.

FP APRIL 10, 2015

Greece Needs to Start Playing Hardball With Germany

BY PHILIPPE LEGRAIN

ギリシャはユーロ圏にとどまり,債務を免除されるよう,交渉に臨むべきだ.しかし,そのために,チプラスには十分に考え抜かれた戦略が無いように思う.

ユーロ圏の諸機関が進めた救済融資と債務削減の計画は失敗だった.それはギリシャ経済を大幅に縮小し,ギリシャ国民を苦しめただけで,ドイツやフランスの銀行を救済するための融資であった.すでにギリシャの債務は支払不能であったのだ.

ユーロ圏の改革に必要な,ギリシャの効果的戦略のために,いくつか助言したい.1.ギリシャは敗北主義を否定せよ.2.ギリシャはデフォルト後もユーロ圏にとどまるため,並行通貨を準備せよ.3.政府は統一した姿勢を示せ.4.ユーロ圏の納税者に負担を追加しない債務免除策を示せ.5.ギリシャの離脱がユーロ圏に深刻な損失となることを強調せよ.6.チプラスは,ギリシャだけでなく,同じようにドイツの嫌がらせにあっている債務諸国,特にフランスやイタリアの支持を得るように交渉せよ.

債務の支払を放棄しても,ユーロ圏にとどまることも,ユーロ圏を離脱してギリシャ経済が成長を回復することも,可能である.離脱は,ギリシャにとってではなく,ユーロ圏にとって致命的な失敗を意味する.

Project Syndicate APR 12, 2015

Why Europe Needs to Save Greece

ANDERS BORG

ギリシャの経済危機は,ギリシャの問題として理解すべきである.それは,近代化への,深く根を張る反抗だ.

オスマントルコの支配に長期間従ったギリシャでは,政治経済のネットワークに深く腐敗が浸透している.能力主義の官僚制度は誕生しなかった.ギリシャがユーロ圏やEUを離脱することは,最善の策ではない.しかし問題は,ギリシャ救済が何を意味するか,である.

ギリシャの経済は,長期的に持続可能な成長を実現できない.そのための改革を拒んでいる.多くの部門で参入障壁があり,労働市場の硬直性も加わって,資源の効果的な再配置が不可能になっている.

ギリシャのユーロ圏参加は,金利を収斂させ,不動産価格を上昇させた.それは不動産ブームと,家計の債務増大,持続不可能な景気の過熱をもたらした.金融危機の前年,経常収支赤字や資産価格のバブルは,ギリシャの成長率を4.3%にまで引き上げていた.そのとき,政府支出はスウェーデン並み,しかし,歳入はなお地球海の水準であったのだ.

私が欧州委員会の担当部局the EU’s Economic and Financial Affairs Councilに務めた8年間,ギリシャの8人の大臣と話し合った.彼らは財政赤字の予測を上方に修正し,2度と増大させない,と約束した.しかし,赤字は増えた.

ギリシャの政治文化が変わらないなら,ユーロ圏を離脱しても,その結果はひどいものだろう.

まずECBの支援を失った銀行システムが破たんし,ギリシャは国際金融市場から締め出される.1週間か2週間銀行を閉鎖し,政府は緊急の通貨発行と,市民に対する預金引き出し制限,資本流出規制を実施する.

経済危機は政治の混乱をもたらし,それは経済改革をさらに困難にする.市民の不満は高まり,地政学的なバランスも崩れて,プーチンはヨーロッパの分裂と弱体化を刺激するだろう.

ヨーロッパ統合のプロジェクトを守る,アテネの安定的パートナーが登場することをヨーロッパは求めている.

NYT APRIL 13, 2015

Greece May Have Ruined Its Best Chance

By PAUL TAYLOR | REUTERS

FT April 14, 2015

Don’t bank on Tsipras dumping Syriza’s leftwing diehards

Tony Barber in Athens

VOX 15 April 2015

A new CEPR Report: A New Start for the Eurozone: Dealing with Debt

NYT APRIL 15, 2015

Wolfgang Schäuble on German Priorities and Eurozone Myths

By WOLFGANG SCHÄUBLE

ヨーロッパは正しい回復の道を進んでいる.多くの間違った神話が広まっている.それは危機の原因について特に重要だ.危機は,経済や財政の不健全な国が同じように債券発行できることに対する不信から生じている.より大きな財政支出で解決することはできない.構造改革と財政健全化が正しい答である.すでに改革を進めた国は成果を得ている.

G7にドイツが望むのは,近代化と規制の改革であって,金融・財政の刺激策ではない.


l  アメリカと中東秩序

FP APRIL 10, 2015

America Has Abdicated Its Guiding Role in the Middle East to a Sectarian Arab Military Force

BY JAMES TRAUB

昨年,陸軍士官学校での演説で,オバマ大統領はアメリカがもはや外国でテロリストと戦うことはない,と明確にした.しかし,テロリストのネットワークが隠れ家としている諸国とより効果的なパートナーシップを築くだろう,と.先月,アラブ連盟がアラブ統合軍を設けると約束したとき,国務省の高官はこう語った.「われわれはこうしたものを,特にシリアで,歓迎する.そして,他でもそうだ.」

しかし,歓迎するには,もっと慎重さが求められる.

アラブの統一はしばしば幻想でしかない.アラブ諸国内の分断が,統合軍の組織や行動を制約する.それはNATOどころか,アフリカ連合の安全保障会議にも及ばない.

アメリカから見放される不安が,彼らの危機意識にはある.統合軍を最も強く主張したエジプトは,リビアにおける過激派の影響が国境を超えてエジプトに及ぶことを恐れている.シシ大統領は,国連の認める軍事介入を求め,リビア政府への武器禁輸解除を求めたが,ともに英米の反対にあった.そのとき,シシはアラブ統合軍が必要だと決断した.

エジプトだけであれば,統合軍の提案は実現しないだろう.しかし,湾岸諸国に圧倒的な金融・政治力を持つサウジアラビアも,イランと同盟関係にあるフーシ派が,アラビア半島の端に拠点となる,イエメンで拡大することを恐れた.サウジは,他のアラブ8か国とアメリカを引き入れて,イエメンに空爆を行った.

これはオバマが主張したような,アメリカが支援する形の,新しい戦争なのか? アメリカ政府は,大規模な殺害や破壊を避けて,介入を早期に終わらせ,フーシ派を含む政治的な解決に向かうべきだ,と考えている.

残念ながら,その兆しはない.サウジ国王Salman bin Abdulazizは,フーシ派の制圧を目指す.しかし,サウジの軍事介入はアメリカの最悪の失敗を再現している.市民の犠牲者が増え,人道的な惨状が広がるなかで,アルカイダは勢力を伸ばすだろう.南部の戦略都市アデンではフーシ派が支配を確立している.

サウジは,イエメンを逃れてサウジに逃げ込んだ大統領Abed Rabbo Mansour Hadiの支配を再建するつもりだ.しかし,それは軍にも見放された,サウジの傀儡政権でしかない.さらにフーシ派は,サウジが言うような,イランの単なる手先ではなく,地元の強力な政治党派であるから,権力の一部を担わなければ,安定した政権が成立しない.

同様に,リビアでも,エジプトは,トリポリTripori政府を打倒するTobruk政府の行動を支持する.一方は「イスラム原理主義」であり,他方は「穏健派」だという.しかし,こうした過度の単純化では地域の違い,部族,宗派を理解できず,効果的な支配は得られない.ここでも政治的な解決策しかないのだ.その最大の障害となっているのは,Tobruk政府がイスラム原理主義者との交渉を拒んでいることだ.そして,リビアでやった介入を,西側はイエメンでも再現せよ,と求めている.

アメリカは住民が支持しない政府を支援することの手ひどい失敗を学んだ.だからオバマは,スンニ派にも重要な役割を与える政治改革を,イラクへの軍事支援の条件にしたのだ.しかし,アラブの専制政治体制はこれを受け入れない.サウジは,バーレーンの多数派であるシーア派が平和的なデモをしても,スンニ派の王朝支配を守るために軍を派遣した.エジプトは,ムスリム同胞団を「テロリスト」として弾圧している.

西側は,アフリカの安全保障に関する問題を,アフリカ諸国と同じように観ている.すなわち,破綻国家,軍事クーデタ,民兵集団の襲撃,などが境界を超えて広がる.だから外部の軍事介入も必要だ,と.それゆえ,アフリカ連合との協力は可能である.しかし,サウジは各地の蜂起を,イランの支配拡大が隠れて進んでいる,と考える.それは,アメリカや西側が考える,穏健派と過激派の戦いではなく,スンニ派とシーア派との戦いである.イラクやレバノンはアラブ統合軍に参加したがらない.

湾岸諸国やエジプトは,イスラム政治勢力を認めない.しかし,チュニジアではイスラム派も参加した政府が改革を進めており,アメリカと西側はこの民主主義と政治的和解のモデルを支持している.アメリカが最重要視しているのは,イラクやシリア,リビアでのイスラム国家の拡大である.イエメンのアルカイダとフーシ派も含め,それらの拡大を阻止することにアメリカとサウジやエジプトは賛同する.イスラム過激派の問題はなくならず,アメリカは地域のパートナーを必要としている.アラブの外交官は,アメリカが911の再現を恐れることはない,という.

アメリカはパートナーに合わせて,彼らが望む限りでしか行動できない.アメリカは覇権を失った,ということだ.

NYT APRIL 12, 2015

The West Must Help Save Yemen

By ABDU RABBU MANSOUR HADI(サウジに亡命中のイエメン大統領)

フーシ派の武装勢力はイランの傀儡政権であり,イランはイエメンの住民がどうなるか気にしていない.彼らは地域の覇権を握ることだけが目的だ.

Project Syndicate APR 13, 2015

What Good Is an Arab Military Alliance?

OMAR ASHOUR

その同盟軍はこの地域を改善するのか,悪化させるのか? 特に,スンニ派とシーア派との対立を解消できるのか?

1960年代に,エジプトがイエメンに軍事介入した.ナセル大統領は7万人の軍隊を送って,イエメンの共和国派を支援した.禁止されていた化学兵器も使用したが,その目的は達成できなかった.国連総会は化学兵器の使用を非難し,介入はエジプトの国際的評価を損なった.また,戦争の負担はエジプトに多額の対外債務を強いた.

他国の内戦に軍事介入する場合,特に地上軍を含むとき,その成否はさまざまな要因によって決まる.しかし,特にアラブの指導者たちは,自国の安全保障政策,市民と軍との関係,平和維持・構築のあり方,政治文化と社会・心理要因の複雑さ,に注意しなければならない.

もしこうした欠陥を克服しないなら,最新の軍事介入も悪化に向かうだけだ.

NYT APRIL 14, 2015

Is There Any Hope Left for Yemen?

By BUSHRA al-MAQTARI

FP APRIL 14, 2015

Where Have All the Arab States Gone?

BY AARON DAVID MILLER


l  多極化世界

Project Syndicate APR 10, 2015

American Leadership in a Multipolar World

PAOLA SUBACCHI

新興諸国,特に,中国の貿易や金融における役割が増大した結果,世界は多極化している.アメリカはその現実に合わせて柔軟に対応することで指導力を発揮するべきである.AIIBをめぐって,中国の呼び掛けに応じたイギリスの姿勢を非難したのは間違いである.

開かれた,ルールに依拠した国際秩序をさらに中国などの新興諸国を含めて維持するなら,冷戦とアメリカの優位を前提したブレトンウッズ体制に固執するのは良くない.

FT April 13, 2015

World no longer listens to the deaf prophets of the west

Mark Mazower

ヨーロッパは,旧国民国家の美徳を説くナショナリストの諸政党が増える中で,現状を維持することに苦闘し続けている.われわれは以前に観た世界,大国間で影響力を競い合う世界に戻ったのか? ロシア,中国,イラン,その地域における影響が増大することは不安定化を生じている.

もちろん,これは西側の衰退である.欧米が世界の運営を分担した時代は終わったのだ.それは知的な再編を必要としている.なぜなら,冷戦終結が西側に,共産主義の敗北と,自分たちの社会・経済モデル,民主主義と市場の優位を確信させた.アメリカはその価値を広める守護者であり,IMFと世界銀行は,いわゆるワシントンコン・センサスを唱えて,その使命を果たす機関であった.

J.M.ケインズの時代には,市場が民主主義に奉仕するものと考えられた.ところが,世紀末の金融自由化,世界経済の金融化で,こうした考えは破棄された.ある人々が大きな利益を得ると同時に,世界経済は不安定になった.金融の大嵐が,新興市場から発生し,ついに欧米経済にまで及んだとき,経済的・政治的な正当性は西側から失われた.

化石のような考え方,ブレトンウッズのシステムに固執するのは間違いだ.複雑さにおびえることはない.それはむしろ,多くの新奇な学ぶ機会に満ちているはずだ.


後半へ続く)