IPEの果樹園2015

今週のReview

3/30-4/4

 

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国際秩序の不安定化 ・・・中国の世界戦略 ・・・ロボットのいる理想社会 ・・・ギリシャの債務問題 ・・・イギリスの政治論争 ・・・リー・クアンユーの死 ・・・経済学の力 ・・・通貨戦争 ・・・核兵器

[長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  国際秩序の不安定化

FT March 22, 2015

US gridlock’s rising global price tag

ED Luce

アメリカの連邦制は,中央が迷走しても,地方は冷静さを保ち,機能することができる.アメリカの景気回復は,連邦政府のエンジンが故障したまま,起きている.しかし,外交に関しては問題だ.アメリカ政治の委縮が,そのグローバルな関与のすべての面に悪影響を及ぼしている.そのコストは,世界レベルにおける不確実性の増大として,現実に大きなコストを生じている.

11月に共和党が議会で多数を占めたことは,これまで民主党を非難するだけで良かった共和党に,政策の実現と有権者に対する責任を求めるはずだ,と期待された.しかし現実には共和党のオバマ政権に対する反感が,アメリカ外交にまで広がった.共和党が招待したイスラエルのネタニヤフ首相が,イランとの合意を目指すオバマ外交を公然と非難した.また議会は,ISISへの戦争と同盟化を進めるオバマの外交を阻んだ.オバマ政権が成立を模索するTPP交渉についても,左派のAFL-CIOも,右派のティー・パーティも,その反対運動を展開している.

ジョージ・W・ブッシュ,オバマ,両大統領が進めたIMF改革を,アメリカ議会は批准せず,アメリカのこうした姿勢に対して,中国は独自の国際機関を立ち上げようとしている.アメリカの願いに反して,イギリスなど,同盟諸国もこれに参加する姿勢を示すことに,アメリカは自分たちの政治的混乱を悔やむしかないだろう.

アメリカ外交を議会が混乱させたのは,これが初めてではない.1919年にウィルソン大統領のが設立しようとした国際連盟への加盟を批准しなかったときの方が,より深刻であった.アメリカが世界政治の舞台から消えて,その真空がヒトラーの台頭を許した.それは,外国からアメリカ政治を奇妙な劇として鑑賞するだけでは済まない,ということだ.


l  中国の世界戦略

Project Syndicate MAR 20, 2015

America’s Bickering Asian Allies

KENT HARRINGTON

アメリカの外交官は他国を大げさに称賛するのがふつうである.だから,アメリカのWendy Sherman国務次官が,韓国政府を公の発言で叱ったとき,それは深刻な意味にとるべきだ.そして,日本の安倍首相も,韓国の反発を招くことが明らかな靖国参拝を繰り返すことに,アメリカ政府は不快を表明した.

オバマ政権が「アジア旋回」を表明して数年経つにもかかわらず,アジアで最も重要なアメリカの同盟国同士が,過去の怨恨や摩擦を理由に協力を拒む姿勢は,中国に外交的な利益を与え,この地域の安全保障上の合意を妨げている.

NYT MARCH 20, 2015

U.S. Allies, Lured by China’s Bank

By THE EDITORIAL BOARD

アメリカの説得を無視して,西側の同盟諸国が中国の指導するアジア開発金融機関に集まるのを観て,オバマ政権は衝撃を受けている.特に,先週,イギリスが参加を表明したAIIBは,アメリカが指導する世界銀行に対抗するものである.ドイツ,フランス,イタリアが参加を表明し,オーストラリア,韓国も続くだろう.

ヨーロッパ最大の経済であっても,中国へのゴールドラッシュには逆らえない,ということだ.

アメリカ政府が懸念したのは,世界銀行に代わる国際開発融資が現れれば,これまでの国際基準で求めてきた,透明性,信用,環境の持続可能性,労働者の権利,人権,などが無視されるのではないか,ということだった.

イギリスの離反は特にアメリカを傷つけた.イギリス政府は,国益を理由にアメリカの信頼を損なったのだ.ロシアからの資金がウクライナ紛争に関する制裁で枯渇し,石油価格の下落は産油諸国からの資金も減らして,オズボーン蔵相は中国がイギリスの原発に投資するのをおおいに称賛した.指摘は,規制の少ない,グローバルな金融センターであるから,アジアの外で人民元を決済する拠点になる,というわけだ.ロンドンの自由な取引を守り,アメリカの求める規制強化を嫌うキャメロン首相は,5月に選挙を迎えている.

アジアには道路や橋,その他のインフラに対する投資需要があり,中国は世界最大の外貨準備,4兆ドルを持っている.また,アメリカ自身が中国にグローバルな責任を求めながら,IMF,世界銀行,アジア開発銀行のトップがヨーロッパ,アメリカ,日本で独占されているように,改革を行わず,また,IMF増資案も議会が批准しない.

イギリスやドイツはAIIBの理事を要求している.しかし西側諸国は,バラバラにではなく,国際基準に関する統一した要求を示して,中国の行動に説明を求めるべきだろう.

FT March 24, 2015

A rebuff of China’s Asian Infrastructure Investment Bank is folly

Martin Wolf

イギリスが中国の呼び掛けに応じたのは,もちろんリスクもあるが,正しい判断であった.

AIIBは中国が半分を出資し,アジア諸国がインフラ投資のために結成するが,他の地域からも参加できる.中国が拒否権を持つような機関に参加する国をアメリカは牽制していた.しかし,中国がその資金を提供する場合でも,他国に開放された国際機関を介して行う方が,融資の政治化を抑えるだろう.ガバナンスを批判するとしても,外部では影響しない.そもそも,アメリカが指導する世界銀行が,ザイールのモブツなど,多くの愚かな融資を行ったことを忘れている.

世界経済におけるアメリカの影響力を失う,という懸念については,こう考えてほしい.

1.欧米日が国際金融機関を指導する特権を委ねられているわけではない.世界経済の変化がその地位を失わせ.しかも,彼らはすでに失敗を犯した.

2IMFの穏健な拡大案をG20が合意してから5年たったが,アメリカ議会は批准を拒んでいる.これは責任の放棄である.

3.長期の資本が多く投資され,資本移動の突然の停止に対する保険が多く準備されていることは良いことだ.中国の資金提供は正しい方針であり,称賛に値する.

4.アメリカはイギリスの姿勢を「絶え間ない順応」と非難した.しかし,中国経済の拡大は避けられないし,それは有益なのだ.順応の反対は衝突であり,知的な順応を必要としている.アメリカが中国を包摂する力を失ったとしても,他国の順応を非難するのは筋違いだ.


l  ロボットのいる理想社会

NYT MARCH 20, 2015

Why Not Utopia?

Mark Bittman

私たちは「ターミネーター」の世界に向かっているのか? 優秀な機会が世界征服する,と恐れる人がいる.しかし,ロボットに仕事を奪われる前に,機械化やアウトソーシングで,賃金が減少することに直面するはずだ.そして,不平等が私たちの直面する最大の問題となる.

1960年代や70年代に,自動車産業の労働者や教師が得ていた賃金と同じ水準の賃金を得られる仕事は少ない.ロボットは創造的に思考し,ロボット自身を教育し,チェスでもクイズ番組でも人間に勝つ.ハンバーガーを焼き,老人を介護し,植物を植え,レタスを収穫し,自動車を運転し,荷物を届け,iPhoneを製造し,倉庫を運営する.

『素晴らしい新世界』へようこそ.そこには持つ者と持たざる者がおり,所得分配の格差は極端に大きくなる.富裕層は十分に支出しないから,雇用を生み出す需要はどこから来るのか?

敗北主義を受け入れず,上からと下からの短期的解決策を採用するべきだ.政府は大企業への補助金を止めて,熱望されている公共事業を大規模に実現して,すべての市民にまともな生活を保障することを優先する.マイナスの所得税を採用し,そもそも所得の無い人々には,ベーシック・インカムを導入する.それは所得の再分配を通じて,経済を機能させる方法である.

トップダウン式の解決策は,短期的に優れているが,長期的に,より公平な経済システムに向かう,ボトムアップ式の解決策もある.エネルギーや政治権力を分散化し,より小さな地域でコミュニティーを築く.その参加者の利益になるような組織化を行う.たとえば,共同作業所が増えるだろう.農場と学校を結ぶ運動が広がる.

人種差別に反対する市民運動,ベルリンの壁崩壊,アラブの春,など,歴史的な転換を経験してきた.これから20年後に,すべての人々がまともな生活を保障される経済システムに向かう方が,ロボットに支配された世界に向かうよりも好ましい.社会を新しく想像するときなのだ.

マルクスやベラミが描いたような社会主義のユートピアがあった.ケインズでさえ,週に15時間だけ働くことを考えた.偉大な思想家や夢想家を育て,彼らとともに行動する.資本主義から,より破壊的でない,より公正な経済システムに向けて.資本家たちがグローバル市場で豊かになるとしたら,それ以外の人々には少なくとも住宅と食糧を保障するべきだ.そして,ロボットたちは,われわれのために働く.


l  ギリシャの債務問題

The Guardian, Sunday 22 March 2015

The bailout crisis: Germany’s view of how Greece fell from grace

Alan Posener

ドイツ人にとってギリシャは脅迫観念だ.ギリシャ人はドイツにおびえ,緊縮策を隷属のしるしと考える.ドイツ人はギリシャのユーロ圏離脱に備えて,銀行を保護する防壁を築く.

ショイブレ財務相は,ギリシャの脅迫に動じないが,ドイツ国民はそれを支持している.ギリシャ政府がナチス占領下の被害に対する賠償を求めていることに対して,考慮する余地があると認めても,それをメルケル政府に対する交渉の条件に利用するのは間違いだ,と考える.何十年も,ヨーロッパの友人たちにナチスのことで責められてきたから,もう十分だと感じている.

皮肉にも,1990年代に,コール首相がドイツ・マルクを捨ててユーロを受け入れたのは,ドイツがヨーロッパの覇権国にならない,とフランス人を納得させるためだった.その代わりに,ユーロ圏加盟国は,共通通貨がフランやリラ,ドラクマのようにならないため,厳格なルールを守るはずだった.その約束を破った国に,何度も救済融資を行い,それでも改革を進めず,税金を集められないのに,まだ譲歩する余地があるのか.

国内でポピュリズムが噴出しているのも,メルケルが譲歩できない理由だ.右派は,反ユーロ,反移民,反米を唱え,左派は自由貿易協定に反対する.ドレスデンではイスラム化を非難するデモが,フランクフルトではECBや資本主義に抗議する暴動が起きた.ヨーロッパの各地で,一層の政治的な反動が起きている.

より深い心理で,ドイツ人がギリシャに感じる不安は,人口減少だ.今世紀末にドイツ人の人口は6000万人を切り,現在よりも2500万減少する.2050年までに人口規模では,トルコ,フランス,イギリスが優位を占める.

高齢化し,人口減少し,熟練や資格を欠き,低賃金の労働者を抱える国として,ドイツは遅かれ早かれ自身が経済危機に陥る.少なくともドイツのエリートたちにとって,ヨーロッパ統合がその答えなのだ.ドイツに力があるうちに,経済的に安定し,ルールが支配する,政治統合したヨーロッパを確立したいと考えている.

ギリシャ人は,真に改革を進める現実的な計画を示して,ドイツ人を助けるべきである.

Project Syndicate MAR 25, 2015

Deescalating Europe’s Politics of Resentment

YANIS VAROUFAKIS

私がギリシャ政府に財務相として入る前の録画を,最近,ドイツのテレビが編集して放映した.

2010年初めに,ギリシャ政府はもはや債務を返済していなかった.私はその債務支払いのためにヨーロッパの納税者が負担する大規模な融資に反対したのだ.

1に,新規融資はギリシャ国民を救済するより,銀行の帳簿にある民間の損失をギリシャの最も脆弱な市民たちに負担させるものだった.

2に,ギリシャが既存債務に対して支払えないのであれば,「救済」融資の緊縮条件がギリシャの名目所得を破壊し,政府債券がさらに持続不可能になるのは明らかだ.

3に,銀行救済を「連帯」のためとして人々や議会に示すことは,ギリシャ歩庶民を助けないばかりか,ドイツ国民に対する一層多くの債務を抱え,ユーロ圏の団結を損なうものだ.ドイツ人はギリシャを嫌い,ギリシャ人はドイツを嫌う.ますます多くの国が財政に制約を感じる.

政府債務が持続不可能であるなら,ギリシャはドイツや他のヨーロッパ諸国から融資を受ける権利が無い.その前に債務を組み替えて,民間部門の債権者に対する部分的なデフォルトを実施するべきだ.ヨーロッパ市民は,その政府が民間部門の損失を彼らに追わせることに反対するべきだ.

結果的に,歴史上最大の税金で保障された融資は,厳しい緊縮条件を強いてギリシャ人の所得の4分の1を失わせた.

非難合戦を繰り返してはならない.効果的な改革,成長を高める政策が必要だ.短期的に融資は継続され,長期的には,指導者たちがヨーロッパの繁栄を分かち合うように通貨同盟を修正するため協力することだ.強い政治的な目標,統一したアプローチ,双方の積極的な姿勢によって,それは達成できる.


l  イギリスの政治論争

The Guardian, Sunday 22 March 2015

Enough of the dry politics of numbers. We need to discuss values and vision

Will Hutton

私の父は1919年に生まれて,2002年に死んだ.この時期の前半は,GDPに対する政府債務の割合が現在よりも高かった.しかし,不思議なことに,私は父が,前の世代の残した多くの債務について不満を述べていたことなど記憶していない.まったく話したことが無かった.

右派でも,左派でも,私の友人たちの親の世代が議論するのは,現在のような政府債務の水準ではなかった.彼らはもっと重要なことを議論したのだ.防衛問題,良い社会の構築,イギリスが偉大な国であるために必要なこと,公共の善を達成する方法に関して議論した.


l  リー・クアンユーの死

FT March 22, 2015

Lee Kuan Yew, Singapore’s founding father, 1923-2015

By John Burton, Peter Montagnon, Kevin Brown and Jeremy Grant

1959年,Lee Kuan Yewは人民行動党の党首としてシンガポールの初めての選挙に勝利した.初代の首相として,1990年までこの国を指導したが,323日,91歳で亡くなった.彼は,腐敗した,非効率な政府が,長い間,蝕んでいた東南アジアで,良好な統治(グッド・ガバナンス),の概念を広めた.しかし,彼はそのために,市民の自由をいくらか犠牲にした.この点で,彼は西側の自由民主主義がアジアにふさわしくない,と考えていた.

一人当たり平均所得が,独立時に551USドルから,リーが首相を引退するときには5万ドルを超えた.シンガポールは,腐敗を嫌い,効率性と秩序を重視するが,それは完璧主義,先見性,不寛容,そして,安全保障,清潔さ,を求めた指導者リーの個性を強く反映した国家である.権威主義的な指導スタイル,高度に訓練された官僚制度は,政治的安定性をもたらし,リーはシンガポールに規律をもたらしたが,国民は彼を愛するよりも,むしろ彼を恐れた.しかし外国企業は,こうしたシンガポールに巨額の投資を行った.

シンガポールの裕福な華僑の家に生まれたリーは,法律家としてイギリスで学んだが,第2次世界大戦で,次第に,政治運動の指導者として経験を積むようになった.特に,日本軍による3年半のシンガポール占領はリーの最も重大な転機となった.無慈悲な軍隊によって,社会システムが突然崩壊することを経験し,人間行動や社会,その動機や衝動に関して,彼に洞察を与えた.

その後のマレーシアとの連邦制や政治弾圧,独立過程を通じて,目的のために手段を正当化し,35歳で首相となった.リーは,鋭利なリアリストとして,アジアを代表して厳しい意見を述べ,世界の著名な政治指導者たちにも強い印象を与えた.

FP MARCH 22, 2015

Long Live Lee Kuan Yew’s Lion City

BY PARAG KHANNA

リーは,植民地後の独立国家で,最も成功したモデルを作った.アラビア湾岸の君主国は,戦争や軍事クーデタ,石油価格の下落に弱い.アフリカ諸国は,植民地の痕跡を消すのに,まだ半世紀かかる.インドは漸く統一して行動し始めたばかりだ.シンガポールだけ,1965年の516ドルから,現在の55000ドルに,1人当たりGDPが成長した.

シンガポールは世界の競争力ランキングでトップを競う都市国家であり,サウジアラビアより,スイスに近い.そこは事実上のアジアの首都であり,驚くほど活気に満ちている.

1950年代,60年代,リーは,スリランカからジャマイカまで,世界中のイギリス旧植民地を旅して,成功モデルを探した.そして,幸いにも,彼は異なるモデルを採用した.それはオランドの都市計画と土地干拓であった.また,石油・天然ガスの巨大企業,ロシヤル・ダッチ・シェルの企業経営の構造とシナリオを描いた戦略思考であった.チューインガムの吐き捨てに対する厳罰は有名だが,それ以上に,リーは自分に敵対する政治家,ジャーナリスト,出版社を許さず,投獄するか,破産させた.

イスラエル型の徴兵制を採用し,シンガポールから都市の渋滞緩和に電子的な自動車への課徴金システムが世界に輸出された.シンガポールは世界一の超富裕層人口密度が高い都市だが,アメリカに比べて2倍,貧困層から超富裕層に上昇する可能性が高い.2013年に,J.スティグリッツは,アメリカもシンガポールのような公共住宅と年金制度を採用するべきだ,と主張した.それは自由経営型の乳母国家である.

20世紀は敵対する大国間のブロックが支配した.しかし,21世紀は数100の自律的な都市国家・地域経済が支配する時代になるだろう.シンガポールは,疑いなく,その一つになる.ケ小平が,経済改革をシンガポールに頼り,多くの開発区をシンガポールが建設したように,今また,モディもインドの改革をシンガポールに委ねようとしている.世界最大の国家が,繁栄するシンガポール型の都市国家を集めた姿を目指している.

西側政府の混乱に対してもシンガポールは答を示している.それは単なる民主主義・政治ではなく,データに依拠した,能力主義による政府である.リー亡き後も,シンガポールのモデルは次世代に継承される.

FT March 23, 2015

The city state of Singapore braces itself for challenges to come

Kishore Mahbubani

偉大な指導者が亡くなるとき,大きな変動が起きるものだ.シンガポールはリー・クアンユーの死を乗り越えられるか?

世界の指導者たちはリーを尊敬した.なぜならリーは地政学の天才であったからだ.かつて,アメリカ大使Vernon Waltersは言ったことがある.「リー・クアンユーが小国の指導者で良かった.もしそうでなかったらどうなったか,とニクソンとブレジネフは抱き合って喜んだはずだ.」

アジアで最高の金融センター,資産管理センター,大学を整備した.しかし,不安はある.移民流入に反対する運動,不平等の拡大,アメリカと中国との衝突.シンガポールの指導者たちは,歴史において,都市国家が短命であったことを知っている.

シンガポールの過去の業績を総括しているときではない.絶え間ない警戒心がリーの個性であった.それこそ,シンガポールが彼に負うものだ.

Project Syndicate MAR 26, 2015

The Real Singapore Model

MINXIN PEI

「シンガポール・モデル」は誤解されている.それは,特に,中国共産党が好んで取り上げるような,権威主義的支配者が社会を管理することを正当化する点に真髄があるのではない.

リーは,民主主義には有益な使い方がある,と理解していた.それは政治エリートの腐敗や非効率を有権者によってチェックさせる.シンガポールでは,選挙によって,人民行動党でも政権を失うことがありうるのだ.

中国政府がそれを受け入れるとは思えない.彼らは民主主義による政府のチェックを,自殺行為と見なすだろう.


l  経済学の力

Project Syndicate MAR 24, 2015

Messed-Up Macro

ROBERT SKIDELSKY

金融危機後の財政緊縮は間違いだった.政府支出を減らしても,経済が縮小してしまうから.財政赤字は減らなかったのだ.

しかし,危機後の経済学は混乱している.政策の結果が期待によって変わるからだ.


l  通貨戦争

Project Syndicate MAR 23, 2015

Will Fed Tightening Choke Emerging Markets?

JEFFREY FRANKEL

アメリカの景気回復が固まれば,いよいよ連銀は金融緩和を逆転する.それは,今までにもけんけんしたように,新興市場に資本流出や金融危機のリスクを高めるのか?

アジア通貨危機など,1990年代の金融危機を経て,発展途上国はアメリカの金融政策から影響を受ける場合,それを抑えるための5つの教訓を学んだ.1.為替レートの弾力化,2.十分な外貨準備,3.景気変動を抑える反循環的な財政政策,4.経常収支黒字,5.外貨建て借り入れの抑制,である.

こうした改革を進めた結果,金融的な衝撃は抑えられている.それを怠った諸国が,今後,苦しむことになる.


l  核兵器

NYT MARCH 26, 2015

To Stop Iran’s Bomb, Bomb Iran

By JOHN R. BOLTON

イスラエルの核兵器は抑止であって攻撃の手段ではない,と周辺のアラブ諸国は理解している.しかし,イランは違う.すでに,軍拡競争が始まっている.オバマ政権がイランの核保有を許す姿勢を示したからだ.

包括的な制裁によって阻止できないのであれば,今すぐ,イランの核施設を空爆するしかない.アメリカが協力しなければ,イスラエル単独でもするだろう.アメリカはイランの反政府勢力を強く支持し,テヘランの体制を転換することだ.

その非現実的な外交を止めなければ,オバマの遺産は中東地域全体の核武装である.

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The Economist March 14th 2015

Made in China?

The future of Factory Asia: A tightening grip

Latinos in the United States: How to fire up America

America’s Hispanics: From minor to major

German demography: Aging but supple

(コメント) 中国の工業化は,その賃金上昇や人民元の増価によって,競争力を失うことなく,欧米に比べてまだ低い賃金水準,機械化など,いっそうの生産性上昇,内陸への工場移転,そして何より,優れたインフラと産業集積によって,東南アジア各地にサプライ・チェーンを展開することで,アジアファクトリーの生産を拡大し続ける.

アメリカは,中国の台頭だけでなく,国内におけるヒスパニックの台頭にも直面する.どちらも,アメリカ次第で,それがプラスの要因になるかもしれない.他方,ドイツの人口減少地域の姿に,日本を考えます.

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IPEの想像力 3/30/15

「危険な時代を生きる」の第1回,乾く大地,を観ました.テキサスの小さな町で起きた食肉加工工場の閉鎖と,シリア内戦から逃れてトルコ側に住む自由シリア軍の元兵士,インドネシアの国立公園で広大な領域が焼き払われ,パームヤシのプランテーションに変えられている問題,これらが並行して紹介されます.3つの事件をつなぐのは,温暖化による深刻な干ばつです.

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ヨーロッパは,ユーロ危機とポピュリスト政治の台頭に苦しみます.

共通通貨を採用するのであれば,一定の債務・GDP比率までは返済条件を交渉し,それを超えた場合,その事情を考慮して,共通の債務免除・安定化基金に移すべきだと思います.なぜなら,過重債務を免除することで改革と成長を促し,共通通貨圏の金融市場が安定し,全体として成長が維持できるからです.安定化基金は長期的に成長から吸収される債券によって調達できると思います.

ギリシャであれ,日本であれ,原発事故であれ,高齢化にともなう社会福祉・労働市場改革であれ,短期の集団的利害対立を,長期の成長に向けた改革として合意するには,繰り返し,政治的な議論と制度化が必要です.

アメリカは,中国の台頭と国内ヒスパニック人口の増大に苦しみます.

ヒスパニックは敬虔なカトリックが多く,保守的な価値観を持ち,妊娠中絶や同性愛にも反対で,共和党の支持者になると期待する声がありました.しかし他方で,ヒスパニックは貧しい,高度な教育を受けていない,低賃金労働者が多く,不安定な職業に集中しています.また,非合法移民の強制送還で家族がバラバラになることには強く反対します.非合法な入国によってではなく,国内のヒスパニックの人口増加率が高いことで,アメリカの人口の過半を占めると予測されています.そのとき,白人はマイノリティーになります.

日本における高齢化.少子化の衝撃が,ヨーロッパやアメリカの直面する社会・政治問題よりも容易に解決できる,とは思えません.

町には,小さな医院から大病院まで医療機関が目立ち,その周りに多くの薬局が,そして,さまざまな介護センター・施設があります.老人の医療や介護が重要であるとしても,それによって労働力のますます多くが「非生産的な労働」になって行くなら,日本の生産性や成長率が低くなるのは避けられないように思います.ヨーロッパのように若い労働者の多い国と市場統合すること(地域的な分業)や,アメリカのように若い,人口増加率の高い労働者家族を受け入れること,が考えられます.

失業,内戦,自然破壊.ヨーロッパも,アメリカも,日本も,温暖化による干ばつに苦しむと同時に,グローバリゼーションと中国の台頭にも,国際秩序の調整を通じて,自ら望む経済や社会を描きだす力を保持しなければなりません.しかし,地域経済の分業構造,人口移動で,日本はヨーロッパやアメリカに比べて,中国の変化によって一層強く影響されています.

高齢化する社会の中に,日本は答を見出す必要があるのです.

急速に高齢化し,少子化する過程で,低成長でも快適な社会のフロンティアが,日本で最初に見つかるのか? 日本が開発した介護保険・社会保障システム,ロボットから自動洗浄式トイレまで,新時代の優れた商品が,また,大規模な観光客の移動とアジア新興中産階級のショッピング熱が,世界の人口転換とデフレを乗り越える契機になるように,日本社会はその限界を次々に克服することです.

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