IPEの果樹園2015
今週のReview
3/16-21
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国際秩序とドイツの変身 ・・・アメリカの政治 ・・・デフレと金融政策 ・・・ギリシャとユーロ ・・・日本経済の構造改革 ・・・アメリカの覇権 ・・・怨嗟の国際関係論 ・・・フロンティアの資本規制
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l 国際秩序とドイツの変身
The Guardian Friday
6 March 2015
Merkel wants a
braver Germany. But will the German people let her have it?
Natalie Nougayrède
政治家として,国内政策にしか従事しなかったドイツのメルケルが,ドイツの方針を転換しつつある.それはヨーロッパの統合を維持することにドイツが積極的に関わる決意を示すものだ.ギリシャの債務交渉に向けて融資期間を延長したのも,イギリスのEU離脱問題に対しても,ウクライナに対するロシアの軍事介入に関しても,メルケルの姿勢は明らかに変化した.
メルケルは,ギリシャの左派政権がロシアからの融資を利用する可能性,ドイツ国内の反イスラム教デモフランスにおける国民戦線の支持拡大,など,ヨーロッパの分裂を導く動きに対抗することを意識している.
NYT MARCH 11, 2015
Save Our
Trans-Atlantic Order
Frank-Walter Steinmeier: The Postwar System Is Under Challenge
By FRANK-WALTER STEINMEIER(the foreign minister of Germany)
ベルリンの壁崩壊から,ヨーロッパはアメリカとの大西洋を超える同盟関係によって前進してきた.東西ドイツの再統一もその一部である.今も,TTIPのように,双方の利益になる形で,グローバルな通商協定の基準を示そうとしている.
ヨーロッパはアメリカの最も親しい,最も重要なパートナーである.ドイツはその「トップ調整官」として行動するし,われわれが直面する課題に野心的で統一した対応を示すように動くだろう.異なる伝統と歴史的な経験を持ちながらも,大西洋を超える戦略的な価値と目標を共有し,この壊れやすい世界を前進したいと願っている.
l アメリカの政治
FT March 6, 2015
‘Our Kids: The
American Dream in Crisis’, by Robert Putnam
Francis Fukuyama
Robert Putnamが,『ボウリング・アローン』に続けて,アメリカにおける所得格差の拡大,アメリカン・ドリームを失った,中産階級の衰退について,それがどのように進んだのかを示している.
自分が高校を卒業した町,Port
Clinton, Ohio, を取り上げて,1959年の卒業時には,階級の差はあったが,同時に,社会的な平等性があった,という.裕福な家庭の子供も,労働者階級の子供と,町で友達になったのだ.こうした平等性は,社会にとって重要である.
しかし,その後,急速に進んだ脱工業化により,未婚の女性が産む子供の割合が増え,麻薬の利用者や犯罪が増えた.そしてエリー湖の沿岸には,富裕層のゲーティッド・コミュニティーが生まれる.それらは,1965年にDaniel Patrick Moynihanが,アフリカ系アメリカ人家庭の貧困に関して指摘した特徴と同じであり,彼らは「炭鉱のカナリア」であることが分かった.1970年代,80年代に,インナーシティの住民を襲った社会問題が,今やアメリカ全土に及んでいる.
Putnamは,階級を教育によって定義する.高等教育を受けることが,ますます所得や雇用に関する大きな格差に結び付くのだ.また,家族構造や育児の違いが子供の経済的な結果に大きく影響する.社会的な平等性が失われて,家族の重要さが階級格差の継承・拡大を生じている.
Putnamは,民主主義が正しく機能するための条件として,単なる公式の政治システムや,制度を作る経済的な動機だけでなく,その社会を支える住民たちの振る舞いや規範を重視してきた.それは,バラバラな個人を,市民的な組織化を通じて,協力させる,「社会資本」として,彼の研究を一貫している.社会的孤立と信頼の欠如は,教育を受けていないアメリカ人に対して,雇用の機会と政治参加を阻んでいる.
l デフレと金融政策
Project Syndicate
MAR 10, 2015
The Fed Under Fire
BARRY EICHENGREEN
連銀が攻撃されている.連銀の政策が,予めルールを示して行われ,議会の予算局によって監視されるだろう.大統領や財務長官と個人的に面談するJanet
Yellen議長の行動が非難されている.NYFRBの特別な役割や,各地方の連銀理事会で銀行が支配的であることについても,狼にヒツジの番をさせるようなものだ,と攻撃されている.
こうした非難は,連銀が金融危機に対して取った,一連の極端な行動に対して起きている.それらの行動が論争を呼び,さまざまな意見が出るのは,民主主義において当然である.そして,連銀のスタッフがこれに応えるのも当然だ.
1930年代において,最後の貸し手として行動するべきことが明確でなかったために,金融危機を抑えることができなかった.その反省として,今とは逆の方向で,その後の金融制度改革が行われた.1932年,33年のグラス=スティーガル法である.
現在の連銀批判は,特に,その金融政策がインフレ的であることを批判する声は,完全な間違いである.それにもかかわらず,非難する者が絶えないのは,連銀がもっと明確に発言し,反論しないことにも問題がある.
こうした論争が,より開放的で,多様性を受け入れた連銀改革の正しい方向である.
l ギリシャとユーロ
The Guardian,
Sunday 8 March 2015
Europe is being
torn apart – but the torture will be slow
Timothy Garton Ash
たとえギリシャのユーロ圏離脱が起きないとしても,ユーロ圏はひどい設計のカザフ・トラクターのように,低成長で,多くの雇用をもたらさず,通貨同盟が無い場合よりも,多くの人々を苦しませるだろう.しかも,その悲惨な生活は債務国と債権国との間で不均等に分配され,南部は苦しみ,北部は繁栄する.
この国民的な経験は選挙に反映され,ドイツとギリシャとの間にすでに見られるように,多くの緊張を生じる.第2次世界大戦後,70年間を費やした素晴らしい成果であるヨーロッパ統合が,多くの失敗を経て崩壊する.
私は最近,フランクフルトで,ヨーロッパの指導的な投資家たちが参加する会議に出席した.そこで複数回答の即席投票が行われた.5年後にユーロ圏がどうなっているか,いくつかのシナリオが提示されたのだ.半数近くが同意したのは,私もそうだが,「1990年代の日本」であった.およそ20%が,「ユーロ圏はなくなるかもしれない」.18%が,「サッチャー後のイギリス」であった.その意味は,より無駄の無い,みすぼらしい経済で,緊縮策と構造改革により成長をもたらすが,多くの産業は衰退し,不平等が拡大する.
このとき,「最善」のケースでは,イギリスのような1国内にではなく,不平等がドイツなど少数の北欧諸国とギリシャなどその他の諸国との間に分割される.メルケルは,ユーロ圏には緊縮策と構造改革しか道はない,「ドイツがやったことであり,だれにでもできるはずだ」と主張した.
彼女の主張には,少なくとも,3つ問題がある.1.たとえ正しい薬でも,弱った患者に,あまりにも大量に投与されれば,破滅をもたらす.2.ギリシャ,イタリア,フランスは,ドイツと違う.構造改革で,スペインのように輸出を伸ばす国もあるだろうが,他の社会や企業は,ドイツと同じように反応しない.3.誰が消費するのか? もしユーロ圏全体がドイツのような輸出経済になれば,ユーロ圏内部に需要が出てこない.他国がドイツのようになれば,ドイツも変わって,もっと消費しなければならない.
長期的には,ドイツも影響を受ける.しかし,短期には起きない.ドイツを歩けば,ユーロ圏の危機など存在しない.ギリシャのような債務国を救済し,その金は慎重さを欠いたドイツなどの銀行に戻って来る.ドイツの輸出企業はユーロ圏によって大きな利益を享受する.
構造的な問題とは,通貨圏がヨーロッパに拡大しても,民主主義は各国に制限されていることだ.もし政治がそれを許すなら,何もできない,というのは間違いだ.だれもギリシャが債務をすべて返済できるとは思っていない.ベルリンは債務を免除し,ギリシャの新政権に改革を続けさせる.
あるいは,ドイツは賃金と物価を上げる.それはユーロ圏内部の調整を助ける.
あるいは,豊かな国から貧しい国への財政移転に合意する.それはアメリカのような財政同盟において,アラバマがシリコン・バレーのように行動するとはだれも期待しないから,行われている.
しかし,財政同盟も政治同盟もない,通貨同盟を創ったために,ヨーロッパは馬の前に貨車を付けた.
私はヨーロッパ統合を,父権的な,トップ・ダウンの,ユーロ・レーニン主義的な形で進めることを支持していない.私はいつも民主主義の側に立つ.しかし,ユーロ圏の構造問題を解決するには,国民を超えた,ヨーロッパ規模の市民たちが示す民主的連帯が求められる.
l 日本経済の構造改革
FT March 9, 2015
The unseen
casualties of Japan’s lost decades suffer in silence
Sahoko Kaji
外国から日本への旅行者は,特に,大都市しか観ないと,何でもカッコよかった,という印象を持つ.地方の住民だけがショーウィンドーの裏側を知っている,しかし日本の「失われた10年」では,地方でもある程度は輝き続けた.
「日本」はしばしば幽霊のように恐れられる.デフレ,長期停滞,変化への抵抗.しかし,多くの日本人にとって,特に一定の集団には,「日本化(日本病)」はそれほど致命的なものではなかったのだ.
あなたが,雇用の60%を占める正規雇用,45%を占める50歳以上,65%を占める大都市居住者,であれば,そして,特に男性であれば,1990年代に始まった失われた10年は影響しなかった.あなたには,退職するまでずっと,良い,安定した所得があり,退職後も男性平均賃金の3分の2を年金で得られた.物価は下落していたから,ごく最近まで,賃金がほとんど上がらなくても良かった.終身雇用制であれば,年齢とともに賃金が上がった.
それゆえ,金融資産の80%が50歳以上の人々に保有されている.あなたが彼らの子供であれば,それは良いことだろう.
失われた10年に苦しむ人々の多くが静かに耐えている.雇用主との衝突,絶望した若者の,突発的な事件,原発反対運動,などはあるが,街頭デモは起きていない.犯罪率は低下している.しかし,この平穏は表面的なもので,その下に危険な混乱の傾向が隠されている.20代の若者の投票率は,60代のわずか半分だ.民主主義は,特権を持たない者の怒りを取り上げない.若者に接近する政治家は少なく,不満を持つ者は無視されている.
政府は,生前贈与を奨励したが,相続する資産など持たない者はどうするのか? パートタイム労働者が,特に地方では,低所得,低教育,低賃金職,という悪循環から抜け出せない.
人口ピラミッドがマッシュルームのように医療保険の費用を増し続ける.政府支出の約30%が社会保障費である.2025年までに,働く人1.8人で引退した人1人を扶養する.GDPに対する政府債務の比率は240%である.
アベノミクスの3本の矢は,即席の効果だけで,財政・環境・人口から観た持続可能な成長は実現できない.
FT March 11, 2015
Far from dying,
Abenomics may yet be coming up roses
David Pilling
アベノミクスの成果は容易に見られない.2014年を通じて,日本は0.03%生産が縮小した.デフレ脱出も難しい.日銀はQQEを拡大した.しかし,日本経済の見通しはプラスである.
ディスインフレ過程が続いているのは石油価格の下落が大きい要因だ.しかも,それは需要回復による「インフレ」を導くものだろう.アベノミクスが始まったとき,石油価格上昇と円安でインフレが起きても,エコノミストの称賛の割に,消費者の支出する力は失われていた.今年は,まったく逆のことが起きる.企業の利潤は増え,輸出も好調で,衰退期の造船業まで復活した.安倍政権からの圧力もあって,企業は春闘で賃金を引き上げる.物価は一定もしくは減少し,賃金は上昇するから,ミニ消費ブームが起きるだろう.
労働市場はここ数年で最もタイトである.生産が伸びており,人口減少の要因もある.アベノミクスが始まってから女性の労働参加が増えたが,その多くは低賃金労働であった.それが変化しつつある.企業はパートタイム労働者を,もっと待遇の良い正規雇用に転換し始めている.Jesper
Kollは,日本が豊かな諸国で唯一の中産階級を増大させる国になる,という.
もちろん,財政再建や高齢化に対する中・長期の問題は解決されていない.しかし,アベノミクスは,勝利を宣言するには早すぎるが,その死亡や埋葬を議論するのはまだ早い.
l アメリカの覇権
Project Syndicate
MAR 9, 2015
American Hegemony
or American Primacy?
JOSEPH S. NYE
アメリカが,イギリスと同じように,衰退する覇権国であるという意見が広まっている.しかし,この歴史的類推は間違いだ.
イギリスが,現在のアメリカほど,支配的であったことはない.確かにイギリスは第2.第3の国の海軍を合わせたのに等しい海軍を保有し,帝国を築いたが,相対的に見たパワーが現在のアメリカよりもはるかに小さかった.第1次世界大戦の開始時に,イギリスは主要諸国中,兵士の数で第4位,GDPで第4位,軍事支出で第3位であった.
またイギリスの帝国は現地の軍隊に依存していた.第1次世界大戦時に,イギリス軍八百六十万人の内,3分の1は海外植民地から集められた.それゆえ,ナショナリストの影響が強まるにつれて,ロンドン政府の政策は制約された.そして第2次世界大戦までに,帝国はイギリスの資産よりも負債になっていた.
アメリカについて「帝国」を語るのは大雑把な主張であり,アメリカは植民地を持たず,それゆえ,かつてのイギリスよりも政策を変更する自由度が大きい.
歴史的類推で混乱するのは,覇権の明確な定義が無いことだ.覇権は帝国主義ではない.アメリカは植民地を持たない.アメリカは国際システムのルールを定める力を持つ.しかし,それは相対的なものであり,他の大国との関係は不明確である.パワーの主要な資源を支配する,という定義も,19世紀のイギリスには適用できない.同様に,1945年以後のアメリカも,ソ連との関係で制約されていた.
こうした歴史的背景を基礎に,「首位である」ことを,3つのパワーの源泉,軍事・経済・ソフトについて,均等性を超えた関係にあるものとして,より正確に定義できる.そして,アメリカがその関係を失うのか,と問うなら,少なくとも今世紀の前半において,アメリカはパワーの首位性を維持するし,グローバルな勢力均衡で中心の役割を担う.
しかし,グローバルなパワーと秩序の性格には重要な変化が生じるだろうし,それが世界の安全保障や繁栄に何をもたらすかは,まだ分からない.
l 怨嗟の国際関係論
FT March 9, 2015
Greece, Russia and
the politics of humiliation
Gideon Rachman
この1年間で,私が最も多くの記事を書いたのは,ロシア,ユーロ圏,中東,東アジア,であった.これらに共通するのは,国家を動かす「屈辱」という国民感情だ.
首相に選出される前,Alexis Tsiprasは述べた.「月曜日に,国民的な屈辱は終わるだろう.われわれは外国から命令されることを終わらせるのだ.」 Tsiprasが首相として最初に行ったことの一つが,第2次世界大戦中,ナチス占領に抵抗して処刑された兵士たちの記念碑を訪問したことだった.
ロシアが西側に敵対するのも,傷ついた国民的なプライドの問題である.プーチンとその同世代の指導者たちは,ロシアが世界的な大国であった,ソ連の時代から,ウクライナに限らず,西側によって味わった屈辱を意識している.ロシア人は,彼らがもはや傲慢なアメリカの嫌がらせに対して我慢しない,と示したいのだ.
中国が対外的な関係に示すのも,「恥辱の100年」という言葉に示される屈辱感だ.1840年代の西側による帝国主義から,1945年に日本を敗退させるまで,中国の教科書や博物館は,若者たちに弱い中国が外国勢力に味わった屈辱を伝え,習近平は「新しい大国間関係」をアメリカと対等なものとして唱える.
イスラム原理主義者の広める感覚も,西側がイスラム圏を侮辱し,弾圧した,というものだ.それはパレスチナやアメリカのイラク占領を貫く感覚だ.そして,2011年,アラブの春では,彼らの惨めさや屈辱が自分たちの政府に対する怒りとして表現された.イスラム圏全体に広まった.しかしその後,再び,外部の者や西側を非難することが支配的になっている.
人間の行動を説明するプライドや屈辱に関して,ルソーは指摘した.国際関係論の「リアリスト」は国家のパワー追求を強調する.それは,他方で,パワーを持たない諸国の屈辱と反発を重視する.
l フロンティアの資本規制
Project Syndicate
MAR 10, 2015
Global Capital
Heads for the Frontier
DANI RODRIK
IMFは資本自由化を課題として公認する姿勢を見せたが,その後の金融危機を経験して立場を変えた.今では資本規制も政府の政策ツールとして公認している.
それにもかかわらず,IMFは資本規制を最後の手段として,また,資本自由化に必要な前提条件を満たすことで,その欠陥を抑えることが正しい政策だ,と考えている.しかし,その見解は,1.あまりにも多くの前提条件を並べて,要するに発達した金融市場を導入することを意味しており,また,欧米の発達した金融市場でさえ,深刻な危機を免れなかったことを軽視している.
2.資本自由化論は,新興諸侯が資本不足で投資機会を十分に利用できていない,と前提している.しかし,新興諸国の問題は貯蓄の不足よりも,さまざまな制度や税制,外部性によって,投資に収益が期待できないから,投資の需要が無いことなのだ.だから資本流入が増えても,それは消費を増やすか,通貨価値の増価によって,ますます輸出部門の投資機会を抑え,投資需要を減らしてしまう.
だから,資本流入規制をすることは,新興諸国にとって「次善の策」として正当なのである.その副作用も含めて,新興諸国がこれまで試みた,さまざまな資本規制の経験を比較研究して,資本規制の正しい条件をプラグマティックに研究することが重要である.
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The Economist February 28th 2015
Planet of the phones
North Korea’s economy: Spring release
Reforming Japan: Just do it
The economic recovery: Not quite what it seems
Brazil’s liberals: Niche no longer
German foreign policy: A lurch onto the world stage
Greece and the euro: Doing the splits
Italy’s labour market: Marching to a different tune
Charlemagne: Soaring hopes, dark fears
Buttonwood: Polls apart
Sporting mega-events: Just say no
(コメント) 2007年,スティーブ・ジョブズがスマートフォンを導入してから,AppleのiPhoneは21世紀の性格を決める技術になった.その普及速度は史上空前の者であり,すでに人類の成人の半数が保有している.2020年までに80%が保有するだろう.・・・
同時に,21世紀は,北朝鮮の市場改革や,ブラジルのサッチャー革命,ロシアの隠れた戦争によっても性格を変えます.
印象的であるのは,ドイツ,ギリシャ,イタリア,ウクライナの改革をめぐるヨーロッパの模索(成功すれば躍進)であり,民主的な選挙と金融市場をめぐる政治権力の性格・制約が考察されている記事です.
日本の政府には,さっさとやれ,世界的なスポーツイベントには,止めてしまえ,と,明快です.
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IPEの想像力 3/16/15
木星の衛星には必ず生物がいる(・・・いないとしたら,その方が不思議だ),と専門家が断言しました.次の目標は,この生物を地球に連れ帰ることだろう,・・・!?
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政権交代が可能な選挙制度と,論争点を絞った少数政党が参加した連立政権の柔軟な組み換え,どちらが優れているのか?
年功序列と長期的な安定雇用を重視した旧来の雇用システムの維持と,成果主義を重視した,解雇と再就職,派遣や一時雇用が正規雇用との違いを生まない,柔軟な労働市場の改革と,どちらが重要か?
東京一極集中と,大阪都構想や道州制のような地方分権・連邦制と,どちらが望ましいか?
日米安保体制と,アジア経済統合と,どちらを重視するべきか?
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馬の前に馬車を置く,という言葉を,今週は2度見かけました.それは,ユーロ圏の緊縮と構造調整に関する問題,そして,フロンティア諸国への資本自由化問題,です.財政同盟や政治同盟を欠く通貨同盟も,新興(フロンティア)経済への資本流入も,その前提が間違っているから,上手く行かない,というわけです.
政策や制度の是非を議論するだけでなく,その効果が波及する経路や実現過程を問題にし,成功の条件を明確にすることが政治学と経済学の共通した目標です.大きな政治経済改革であれば,何から始めるべきか,その導入の時期や早さ,政策の順序が議論されます.
通貨統合や資本取引の自由化は,それによって市場が健全に,安定的に,機能するのであれば,資源配分や競争,所得分配に良い効果を生み出すと思います.問題は,現実の主体や政治集団がそのような「自由化」に対して,政治経済過程において,評価・反応することです.
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ギリシャ,トルコがNATOから離脱することをアメリカは懸念します.また,ネタニヤフのアメリカ議会演説は,イスラエルとの関係によってアメリカが外交を制約されることを転換し,ドイツもユダヤ人への配慮とは切り離して,独自に中東外交を議論する機会になりそうです.
EUの統合を維持する,というドイツの目標が,次第に,メルケルを活発な交渉姿勢に導く考え方になりました.ドイツは,第2次世界大戦のナチスに関する反省,絶対的な平和主義,巨大なスイスというイメージから,「覇権」ではない,さまざまな宥和を仲介する「ミドル・パワー」に変身しつつあります.
ドイツの外交と戦略の形成,国民合意に向けて,大統領と外相が試みた国民への説得,公開討論,インターネットを通じた意見交換とその公開,などから,日本政府は積極的に学ぶべきです.私は,民主党政権が行った「税と社会保障をめぐる一体改革」が,各地の公聴会を組織したことを思い出します.それは,何度も繰り返すべき,優れた試みでした.
イタリアの労働市場改革は,安倍政権が進めるものと良く似ています.そして,ウクライナが抱える債務と戦争のコスト,将来への不安は,ある意味で,日本の震災・津波の被災地を復興する計画,福島原発の汚染水や廃炉をめぐる,戦争よりもっと深刻な,不安を想像させます.
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民主主義的な政府は,完全な政策も,絶対的な権力も持たず,しばしば外交や安全保障で混乱した対応に陥り,国境を越えた資本移動や企業の行動,貿易や移民,犯罪組織,脆弱な情報ネットワーク,などに苦しみます.
法人税の引き下げ,外国人労働者の受け入れ,労働市場改革,消費税の引き上げ,農協改革,医療保険制度改革,年金・失業手当・生活保護,原発処理・エネルギー政策,安全保障,憲法改正,・・・
重要な課題を,特集利益集団を超えて国民に問いかけ,解決に向けた議論と行動を促す,粘り強いプラグマティックな姿勢が,優れた政治の条件です.日本でも,自民党と民主党が交代して改革を推進する役割を引き受け,互いの影響力や集団への信頼関係,厳しい批判を制度化するなら,結果的に残された政治の軌跡がそれを示すのではないか.
木星の衛星に生物がいるとしたら,それ(彼・彼女?)が地球で観るのは,改革によってよみがえったウクライナと,日本であってほしいです.
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