IPEの果樹園2015

今週のReview

3/9-14

 

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プーチンに対抗して ・・・ネムツォフ暗殺 ・・・金融政策の限界 ・・・ギリシャ債務の解決策 ・・・ネタニヤフのアメリカ議会演説 ・・・中国の環境破壊に対抗する

[長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  プーチンに対抗して

The Guardian, Friday 27 February 2015

The EU’s plan for an energy union would call Vladimir Putin’s bluff

Natalie Nougayrède

料理のためにガス器具を使うとき,われわれは地政学上の問題や,地球温暖化を考えない.しかし,考えねばならない.この問題は,1970年代,80年代に,ヨーロッパ大陸の西と東,ソ連の天然ガスとを結びつける膨大なインフラに投資するのを決めたときにさかのぼる.そのとき,アメリカのカーター大統領やレーガン大統領が,ヨーロッパの同盟諸国がモスクワに支配されることを懸念した.

ロシアのGazpromに対する依存を回避するために,欧州員会が提案するのが欧州エネルギー共同体である.その考え方は,1950年代の石炭・鉄鋼共同体と同じである.Robert Schumanが述べたように,それは「戦争を考えられないものにするだけでなく,不可能にする」最善の方法である.

エネルギーは,人,財,サービスの自由移動に続く,ヨーロッパ統合のカギである.それによってヨーロッパはロシアの行動に対処し,温暖化に取り組むことができる.しかし,これまで,エネルギー共同体はできなかった.

主要諸国は,特に,イギリス,フランス,ドイツは,独自のエネルギー政策を持ち,まったく異なったシステムを運営している.イギリスは,市場を規制緩和して,多くの民間企業が参加し,Gazpromに依存していない.フランスは,高度に中央集権的なシステムで,少数の巨大国営企業が存在し,電力の75%を原子力発電に頼る.ドイツは原発を嫌い,その廃絶を進め,天然ガスや再生可能エネルギーが足りなくなれば,むしろ石炭を燃やす.歴史的に,Gazpromとの良好な関係を維持している.ポーランドは,ロシアの天然ガスを嫌い,大量の石炭を燃やす.シェールガスを開発しており,温暖化への関心は低い.など.

新しい計画は,こうしたシステムを解体することではなく,その顕著な弱点を緩和するプラグマティックなものだ.これまでパイプラインは国内で結び付いていたが,計画はこれをもっと互いに結び付け,供給停止に対処できるようにする.また,トルクメニスタンのような,中央アジアからもパイプラインを敷設する.しかし,その交渉は他の惑星に着陸するより困難だ.

FT March 2, 2015

Vladimir Putin’s survival strategy is lies and violence

Gideon Rachman

ロシアのプーチン大統領はキエフ政府をファシストと非難する.しかし,プーチンの助長する攻撃的で自己憐憫の激しいナショナリズムこそ,今や政敵を殺害したように,1930年代のロシアやドイツの政治を再現している.

プーチンが暗殺を命じたかどうか,外部の者が知ることはできないが,ネムツォフの暗殺を許容できるものとして扱う国内の情勢を提供した.国営テレビはネムツォフを繰り返し「裏切り者」と呼んでいる.

ネムツォフの殺害は,もはやプーチンが平和的に権力を退く可能性が無いことを示した.プーチンとの対話や説得は無駄であった.西側は,かつてソ連に対して行ったように,プーチンのロシアを厳格に封じ込めるときが来た.


l  ネムツォフ暗殺

Bloomberg FEB 27, 2015

The Russia That Died With Boris Nemtsov

By Leonid Bershidsky

ネムツォフBoris Nemtsovは,エリツィンが後継者に指名したかもしれない人物だった.今や,ネムツォフのプーチン批判は最悪の形で真実であることを証明した.クレムリンから数百メートルのところで,反対派の政治家として殺害されたのだ.

ネムツォフは,当初,彼と政治学者のIan Bremmerは,2000年,the New York Timesに書いた記事で,プーチンを支持していた.しかし,プーチンは1990年代の自由を交代させたし,ネムツォフはエリツィンを引き継いだ男の汚職装置を批判した.今や,プーチンはネムツォフ殺害を「挑発」と非難する.さまざまな秘密組織がロシアの破壊活動を担っている,と宣伝している.

ネムツォフの死がリベラル派による反プーチン・デモを刺激する,とは思わない.彼らは余りにも弱い.しかし,もしエリツィンが1999年にネムツォフを次の大統領に指名していたら,ロシアはどうなっていただろうか,と考えずにはいられない.彼の死とともに,その可能性は閉ざされた.

FT March 1, 2015

How the Kremlin benefits from Boris Nemtsov’s death

Sergei Guriev

227日,金曜日に,ネムツォフは殺害された.31日,モスクワで,彼の肖像画を掲げたデモがあった.土曜日の国営テレビでは,捜査担当者や政治家,評論家が,モスクワ中心部での殺害事件の原因を議論した.しかし,彼らは1つの可能性について話さなかった.ネムツォフがプーチンに対する容赦ない批判家であった,という点だ.

ネムツォフは反対派の指導者の一人だった.プーチンの代弁者は,ネムツォフの支持率は非常に低く,プーチンの高い支持率から考えて,その点は重要でない,と語った.それは間違いだ.

1に,プーチンの高い支持率は,検閲やプロパガンダ,不正選挙によるものだ.論争すれば,ネムツォフがプーチンを圧倒するだろう.しかし,プーチンはメディアで反対派と論争しない.経済の不況が人々の不満を高めるのは当然であり,異なる選択肢を示すことが独裁者にとって致命的である.

2に,ネムツォフは政府に反対する同盟関係を築く上で,特に重要な役割を担った.西側に親近感を持つ新旧の世代をつなぎ,知事や議会の選挙で勝利したことがあり,反プーチンの高位の政治家たちと庶民の反対派とを結び付けた.

ネムツォフとその政党は,2016年の大統領選挙で勝利する可能性がある唯一の指導者であった.ネムツォフの殺害犯人たちは,クレムリンの潜在的な問題を解決してやったのだ.


l  金融政策の限界

FT February 27, 2015

We expect too much of the new masters of the universe

Andrew Sentance

かつてシティの銀行家たちは宇宙の支配者のように見なされた.しかし,現代では厳しい年月を過ごしてきた.金融スキャンダル,バランスシートの縮小,政府の支援に頼れなくなったこと.

民間部門の銀行家たちが守勢に回ると同時に,中央銀行家の役割が高まってきている.金利を引き下げ,莫大な資金をつぎ込んで,政府と協力して銀行を救済し,融資を維持した.

中央銀行家たちは,あたかも新しい宇宙の支配者のように見える.危機の前に,われわれは民間銀行を過度に信用したことを思えば,今度は,中央銀行に金融システムを維持を過剰に期待しているのではないか?

中央銀行家の金融市場に対する影響力は,その独立性と信用に依拠している.すなわち,その前の金融危機が1970年代半ばに起きて,それから20年間に,まずドイツ連銀が,その後,アメリカのポール・ボルカーが,高金利でインフレを抑え込んだ.そのモデルをマーガレット・サッチャーがイギリスに持ち込んだ.

独立した中央銀行がインフレ抑制に対して責任を持つモデルは,21世紀になっても,ユーロ圏でECBによって実現した.しかし,この間われわれが観たのは,持続不可能な信用の拡大で成長を高めたことだった.1997年,アジア危機で示され,その後何度も,経済活動を刺激するために中央銀行は金利を下げた.金融市場は,こうした「グリーンスパン・プット」を期待するようになった.

今や,成長を維持するために,中央銀行は何でもしなければならない.2011-12年,物価の安定を無視して,金融政策は成長のために変更された.銀行救済,QE,マクロ・プルーデンシャル,さまざまな競争する目標を追求する.

そこにはリスクがある.もしやり過ぎれば,中心的な目標が妥協を強いられる圧力にさらされるからだ.中央銀行は政府の手段として行動し,金融政策と金融システムの安定性が政治の領域に入ってしまう.すでにQEでは,政府が赤字支出を市場ではなく中央銀行の融資によって実現することを意味している.

中央銀行はインフレ目標も,デフレ回避も,実現できない.確かに物価の下落は,アメリカの1930年代やイギリスの1920年代の,慢性的なデフレと同じではない.だが中央銀行としては,物価と金融システムの安定性を担うライオンではなく,頼りない子猫である.


l  ギリシャ債務の解決策

NYT FEB. 27, 2015

What Greece Won

Paul Krugman

ギリシャ政府は,プライマリー・サープラスに反対した.これまで債務諸国がそれを受け入れたのは,債権諸国が融資を断つと脅したからだ.もしそうなれば,あるいは,もっと厳しい緊縮が実行されれば,それは銀行システムを崩壊させるだろう.

実際,ギリシャ政府は将来の財政の弾力性を認めさせ,しかも債権者は融資を引き上げていない.緊縮財政とデフレとの悪循環を断った.それは素晴らしい成果である.なぜマイナスの報道ばかりが目立つのか?

確かに,それ以外の交渉事項は多い.それにもかかわらず,交渉が失敗したかのような表現が広まっているのは,左派の非現実的期待と,債務者への妥協を嫌うビジネス紙とが結託しているからだ.

ヨーロッパ全体がデフレの罠に落ち込めば,ギリシャも助からない.フランスでも異常な低水準,0.002%,の金利で貸し出す.債務を終わらせるため,ギリシャはヨーロッパにも刺激策を求めている.

Project Syndicate FEB 28, 2015

The Perilous Politics of the Euro

ANDRÉS VELASCO

共通通貨の政治的な結果は明らかだ.完全な失敗であった.

南欧諸国は放漫財政(政府支出の過剰と課税の過小),過剰債務を続けていた.彼らは自国通貨を大量に印刷し,繰り返し通貨価値を下げた.ユーロ圏という拘束が無ければ,また,金融政策をフランクフルトが決めなければ,この問題は解決できない,と言われた.

それが理論であった.実際は,まったく逆であった.切り下げのリスクがなくなり,切りが低下し,借り入れコストも低下した.低所得国で低利融資が膨張し,住宅投資が増えた.いたるところで債務が膨張したのだ.

フランスでは,ユーロの政治的な結果が特に支持された.その究極の目標は政治同盟であって,平和,繁栄,相互の尊重が実現するはずだった.どうやってそれが達成できるのか,その道筋は誰にもわからなかった.しかし,何年も,会議ごとに,それはヨーロッパ人の秘術であった.ヨーロッパ人でなければ,わからない,と.

その結果は,今や,だれにでも良く分かる.ヨーロッパの制度は正当性を失い,ネオ・ファシスト運動が拡大している.移民の排斥,北欧圏による強権支配,南欧圏ではヒトラーへの言及.統合と寛容を目指したヨーロッパが,最悪の結果になっている.

こうなるしかなかった,と言うのではない.通貨同盟には大きなリスクがある.しかし,それが大量失業をもたらす必要はない.問題は,ユーロ圏の制度的デザインと,政治にある.

ギリシャの問題は国内のものだ.年金の過剰な支払い,税金の不払い,対外収支の赤字.しかし,不況は外国のもたらしたものだ.ヨーロッパの支出は,ギリシャに対しても,ヨーロッパ地震としても,少な過ぎた.

ジョン・メイナード・ケインズは第2次世界大戦後のブレトンウッズ会議で同じ問題を心配した.外から赤字国の支出を止めるには,融資を拒めば良い.しかし,黒字国の支出を増やすには,どうすればよいのか? それがユーロ圏の政治的難問であった.

ユーロ圏にも,しかも,自動的なショック緩和装置が無かった.アメリカなら,石油価格の下落がテキサスやオクラホマを不況にしても,即座に,政治的な反対もなく,資金が移動する.ユーロ圏ではそれができない.経済的不均衡と政治的緊張が続くのだ.

政治的に見て,ギリシャとの交渉は新しい次元を意味する.たとえ強硬派の財務大臣たちでも,銀行の取付を好まない.ECBはギリシャの銀行への融資を止めることができない.しかし,ECBの独立性は,金融政策(財政赤字を無視して金利を挙げる)にも,財政政策(政府に支出抑制や増税を求める)にも,失われる.

Project Syndicate MAR 3, 2015

Austerity Is Not Greece’s Problem

RICARDO HAUSMANN

Joseph Stiglitzは,アメリカと同じように,ギリシャは緊縮策のせいで不況になったと考える.しかし,状況は全く違うものだ.アメリカは不況の中で,非常に低い金利にもかかわらず政府が財政赤字を拒んでいる.他方,ギリシャの赤字は好況期に財政赤字や対外赤字を重ねて形成したものだ.

Stiglitzなどの経済学者は,ギリシャの債務を免除するべきだ,と主張する.しかし,ギリシャは過剰な債務負担(利払い)のせいで不況になっているのではない.2014年まで,ギリシャは1ユーロも支払っていない.支払いは十分な公的融資によって行われているのだ.

世界は緊縮策に酔て支配されているのではない.財政のバランスを回復できないことが問題だ.それは意図しない形で膨張しているからだ.ギリシャ政府は財政政策のコントロールを失っている.しかも,スペインやアイルランドに比べて,ギリシャの債務は,住宅投資ではなく,もっぱら消費によって形成された.

どの赤字国にとっても,資本流入の突然の停止は厳しい調整を強いるものだ.それを緩和するには,生産を超える支出を抑えること,住民が買わなくなったものを輸出すること,である.しかし,ギリシャには他国の求めるような財が何もない.そのような経済の構造,生産能力がないのだ.

Syrizaの支持者たちは全くそれを理解していないが,ギリシャが必要とするのは,グローバルな競争力を持つ企業を誘致して,生産能力を高めることだ.


l  ネタニヤフのアメリカ議会演説

FP MARCH 2, 2015

Bibi Blows Up the Special Relationship

BY STEPHEN M. WALT

イスラエルのネタニヤフBenjamin Netanyahu首相は,今週,アメリカを訪問する.

下院議長John Boehnerはアメリカの外交を犠牲にして共和党の利益に従った.ホワイトハウスは完全に頭にきているし,国家安全保障担当大統領補佐官Susan Riceは,アメリカとイスラエルとの関係に破滅的な効果を及ぼすと非難し,John Kerry国務長官は,ネタニヤフの過去の助言がひどい間違いであったことを指摘した.親イスラエルの評論家たちも,表現は違うが,Riceと同意見だ.

ロビイストの中のリヴァイアサンと言われるthe American Israel Public Affairs Committee (AIPAC)も,この行事に不満である.ますます多くの民主党議員が議会演説をボイコットすると伝えられている.しかし,AIPACは自ら進めた過去の政策と戦術を反省するべきだ.これは,ある意味で,その結果である.アメリカのイスラエル支持が終わる,というのではなく,その機能しない,異様でさえある2国間関係に,重要な,究極においてはプラスの転換をもたらす,という意味だ.

ネタニヤフはこの問題の小さな部分でしかない.彼はプーチンとの仲が良く,彼と取引するすべての指導者たちを大げさな言葉で称賛し,独善的な道義を説く.かつてフランスのサルコジ大統領は嘘つきと呼び,アメリカのビル・クリントン大統領のネタニヤフの悪ふざけに激怒した.オバマやアメリカ政府高官たちに対して,ネタニヤフの発言は侮辱すれすれの非難であった.

しかし,重要な分断は,彼の個性ではなく,その政策である.ネタニヤフの演説は,これまでずっと顕著でありながら,政治家たちが通常は否定してきたこと,すなわち,アメリカとイスラエルの利害は,いくつかの問題で重なるが,同じものではない,ということを明らかにする.ウラン濃縮をまったく認めないことはイスラエルの利益になるし,そのためにアメリカが戦争することはイスラエルの利益であるが,アメリカがイランを軍事攻撃することはアメリカの利益にならない.むしろアメリカは,外交交渉で,イランが核保有せずに,アメリカともっと建設的な関係に入ることを利益と見なす.

2国家案に対する激烈な反発,イスラエルによる西岸における入植地の拡大,ガザの住民に対して繰り返す懲罰的な軍事攻撃,多数の市民に犠牲者を出すことは,それがアメリカの武器,アメリカの納税者による補助金で行われているだけに,中東におけるアメリカのイメージを激しく損なっている.それは,長い間,聖戦主義者の主張に利用されてきた.

核兵器を保有して抑止力を得ることはイスラエルの利益である.しかし,正式には表明されないイスラエルの核武装は,ワシントンの大量破壊兵器に関する拡散防止の政策を,偽善として無力なものにする.

要するに,2国間でまったく同じ利害を持つことはないのだ.アメリカとイスラエルでも,他の民主主義諸国でも,同じく真実である.

ネタニヤフの訪米と演説は,長い間抑えられていた不満を噴出させる.アメリカの政治家や外交専門家たちは,アメリカとイスラエルの利害が完全に一致しているというふりをしなければ,政治的な野心を実現できなかったのだ.多くのイスラエルに親密なロビー団体が影響力を持つから,少なくともイスラエルに関して批判的な言葉を避ける必要があった.結局,複雑な諸問題に関して,政治の中央では,オープンな,率直な議論ができなくなった.

今回のBoehner-Bibi(下院議長とイスラエル首相)による策略は,こうした嫌がらせを多くの人が好まず,イスラエルに関するアメリカの外交を正当に議論する方向に導く.その「特別な関係」は,ある程度,こうした嫌がらせに依拠していたのだ.

そしてAIPACがこの点で責任を問われるのは,1.イスラエルに対する無条件の支持を強いたこと,2.イスラエルが何をしてもアメリカ政府は支持することを強いられ,それがネタニヤフのように,イスラエルの言動を免責されると思わせたこと,3.達成できない目標や,望ましくない戦術を採用する結果になったこと,である.その近視眼的な主張は,たとえば,ますますイランのウラン濃縮能力を高めただけであった.以前の方が,アメリカはもっと有利にイランと交渉をまとめたはずだ.

イスラエルの国内政治において,こうした条件が,強硬派の,強硬策に支持を与えてきた.しかし,「特別な関係」から「普通の外交関係」に変化するにつれて,2国間で同じ利害を示す分野では緊密に協力し,そうでない分野とは区別するはずだ.特に,アメリカの理想や価値観に反するような政府に対しては.


l  中国の環境破壊に対抗する

FT March 4, 2015

Life beneath the smog should spur China to action

David Pilling

中国の環境破壊を描いたドキュメンタリー,Under the Dome,が示す多くの痛恨のシーンの1つに,炭鉱町Shanxiに暮らす6歳の少女が登場する.彼女は,星を観たことがあるか? と訊かれて,まだ1度もない,と答える.

製作者のChai Jingは,屋外に舞う有毒な微粒子から娘を守るために,しばしば「囚人のように」娘を屋内に閉じ込めた,と述べている.中国の目覚ましい経済発展には,高い代償が支払われているのだ.

大気汚染は問題の一部でしかない.土壌は汚染され,河川は排出物や病気で死んだ動物で詰まっている.動植物は姿を消した.中国人がその経済モデルの欠陥を知るには,ただ,息をするだけでよい.長い間,黙認されてきたが,今や環境破壊は中産階級の主要な関心となっている.

Chaiの映像に対する反応は衝撃的だ.わずか数日で,数千万回もダウンロードされた.環境大臣は,これを1962年のレイチェル・カーソン『沈黙の春』にたとえた.環境破壊の問題は,それが共産党に対する批判でない限り,受け入れられ,尊重されている.Li Keqiang李克強首相は,2015年を「汚染との戦い」を始める年にすると宣言した.

環境破壊を抑えて,回復を促しながら,なお十分な経済成長を実現できるのか? 理論的には,可能である.しかし,中国の合理的な環境保護基準は,必ずしも守られていない.政府関係者が成長を優先する限り,環境破壊は黙認されるからだ.

計画経済の優れた点は,想定上だが,国家が合理的に行動できることだ.北京が望めば,電気自動車を採用し,厳しい燃費を要求し,低炭素のエネルギー体系を実現できる.しかし,実際は,国家の部局も利害を追求しており,Ha-Joon Changが指摘するように,環境破壊の処理コストが計算に入らない限り,彼らの行動は変わらない.

1つの解決策は,環境破壊を正しく考慮することだ.国務院の顧問であるNiu Wenyuanは,エネルギー効率,健康,環境破壊,を考慮したグリーンなGDPを提唱している.上海が,大都市の中では最初に,GDP目標の修正を始めた.

そうした実験が続けば,まだ,Shanxiの少女が星を観ることができるだろう.

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The Economist February 21st 2015

British fracturing

British electoral system: The breaking point

Kurdistan’s right tosecede: Set the Kurds free

Gentrification: Bring on the hipsters

China’s exchange rate policy: Currency peace

(コメント) 日本では,最近まで,2大政党制が政治を実行力のある改革に向かわせるカギだと信じられていました.しかし,その手本であったイギリスの議会制度が変化の圧力にさらされています.

コソボやチェチェン,ウクライナ,など,国家の分割は国際政治の難問です.クルド国家の成立も,その地域の秩序を不安定化すると思われていましたが,安定化するというコンセンサスを得るかもしれません.

都市の再生に専門職や高所得者が移住してくることを,非難するより,歓迎することは正しい.あるいは,中国は人民元レートを切り下げるより,安定的に維持するほうが望ましい.こうした判断に,政治経済学の重要なエッセンスが問われています.

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IPEの想像力 3/9/15

イギリス議会の改革論は,2大政党制による政権交代の重要性を過信していた日本にとっても,考える材料になります.

The Economist, February 21st 2015British fracturingで指摘するように,選挙区で一番多くの得票を得たものだけが議席を得るシステム(FPTP)では,2大政党制が少ない得票率でも維持できます.しかし,それは圧倒的な多数議席による安定政権基盤と政策実現のために,そのコストとして,多くの争点が無視され,多くの得票を得ても2大政党以外が議席を得ることは難しくなりました.

2大政党制が,イギリスの階級社会を前提に,計画経済か市場経済か,を唯一の争点として選挙を闘う時代には,FPTPが意味を持ったわけです.しかし,有権者は不満を感じています.

スコットランド独立の住民投票が示したように,スコットランド国民党SNPは,地方分権の一環としてスコットランド議会を復活させてから,その制度に比例代表の要素を加え,急速に勢力を拡大しました.今やSNPの集会には多数の党員・有権者が押し寄せます.

他方,保守党はUKIPに,自由民主党は緑の党に,スコットランドの労働党はSNPに支持者を奪われて,2大政党の基盤は縮小しました.その背景をThe Economistは次のように考察します.

1.長期的趨勢を逆転させたサッチャーやブレアのような指導者個人の魅力と相互の浸透戦略が,ますます2大政党の違いを失わせた.それが後続の指導者には負担となった.

2.有権者が政治に求める要求が増えて,多様化した.単独の政党がそれを満たすことは難しい.

3.高度な教育を受けた,若い有権者ほど,2大政党の支持者に取り込めなくなった.ナショナリズム・地域主義や,国家主権を強調する若者が増え,選挙の争点が絞りにくい.

こうして,今や,イギリス議会は2大政党が大きく再編されるか,あるいは,日本とは逆に,2大政党制を促すFPTPを捨てて,もっと比例代表制と連立政治に習熟する道を目指すべきだ,と考え始めているのです.

先日,メルケル首相と安倍首相との公式会談をニュースは伝えていました.メルケルは,日本が東アジアの平和を重視し,軍備強化より戦争責任の問題に積極的に取り組むこと,福島の深刻な事故を経験して,原発への依存を減らすこと,ロシアとウクライナとの軍事紛争には欧日が協力して対抗し,その意味で,北方領土返還を重視してプーチンとの関係維持に別の評価をする安倍首相にくぎを刺すこと,を望んだのではないでしょうか.

日本の政治が2大政党制を支持するような方向に変わったことで,安倍首相が権威主義的な政権強化を進めれば,イギリスと同様の問題を生むでしょう.もっと多くの重要な争点を取り上げて,比例代表的な連立政権の柔軟な政策転換への期待が,有権者の中に醸成されると思います.東日本大震災の被災地復興を唱える(あるいは,大阪都や,北海道,沖縄の分権化を唱える)ローカル政党,アメリカへの安保体制依存や中国・韓国の反日運動を批判する日本独立党,原発の完全廃止と自然エネルギーへの転換を進める緑の党(風の谷),など,政治の再編成が始まります.

イスラエル,ギリシャ,シンガポール,など,日本の次世代の政治家たちは多くのモデルから学んで,子供たちに政治への信頼を回復してほしいです.あるいは,大気汚染に苦しむ中国の少女とともに,星を観たことがない,と原発事故や津波の被災地に住む子供たちも答えるのでしょうか.

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