IPEの果樹園2015

今週のReview

3/2-7

 

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安倍政権 ・・・ギリシャ債務危機 ・・・世界経済の低迷 ・・・人種差別と移民 ・・・資本・エネルギーの共同市場 ・・・プーチンとの戦争 ・・・世界市場統合のルール

[長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  安倍政権

Bloomberg FEB 20, 2015

Is Japan Asia's Next Autocracy?

By Noah Smith

世界中でリベラルな政治体制から離反する傾向,人権を軽視する傾向がみられる.残念だが,日本もそうだ.

安倍政権は,女性や移民など,一見,リベラルな改革を推進しているように見えるが,政府の目指す憲法改正は全く逆である.日本の自由民主党(LDP)は,短期間を除いて戦後の日本を支配してきたが,その政党の中身と名前がまるで一致しない.その実体は,心理的,組織的,そして,遺伝子的に,軍国主義時代の日本を受け継いでいる.アメリカが占領しても,そのリベラルな価値を体現しなかった.

自由民主党は,今,アメリカが書いた憲法に代わる草案を示している.それによれば,現行憲法は人権に関する西欧の理論に依拠しているから,書き換えるべきなのだ.例えば国家は,草案によれば,非常時において,また,公共の利益や秩序のためには,表現や言論の自由を制限できる.信仰に対する国家の管理も許される.

草案が求める国民の6つの義務は,明らかに反リベラルな,専制国家体制に向かうものだ.それは中国やロシアでも場違いな,中東の専制国家が非常時に大衆弾圧を正当化するような言葉である.

しかし,憲法改正問題は9条の破棄に内外の関心が集中してしまい,こうした憲法全体の反リベラルな改変,自民党の市民社会に反する方針が見失われている.トルコやハンガリーのようなこうした主張が許されるなら,日本のアジアにおいて中国の専制支配に代わるリベラルなモデルを示す役割を失い,アメリカとの関係も損なうだろう.

9条に限らず,憲法改正を十分に議論すべきだが,それは間に合わないだろう.せめて,こうした1940年代の発想を継承する人々が政権を担うときに,憲法を改正すべきではない.


l  ギリシャ債務危機

VOX 20 February 2015

Greece: No escape from the inevitable

Lars P Feld, Christoph M Schmidt, Isabel Schnabel, Benjamin Weigert, Volker Wieland

「緊縮策は失敗した」という主張が,特に英米では広まっている(e.g. Stiglitz 2015, Wolf 2013).しかし,それは間違いだ.ギリシャ危機の背景を理解していない.

ギリシャに限らず,債務に依存した国の調整過程は,すべて,大幅な不況と失業の増加を示し,苦しいものであった.ユーロ圏に参加したギリシャはレート調整が不可能であるが,固定レートであろうと変動レートであろうと,調整過程を決めるのは,経済規模に対する債務の大きさと,成長率と債務の利子率との差である.ギリシャの場合,債務は2010年の危機以前に民間部門の債務として規模が大きくなっていた.その後,救済融資はECBEU諸国から行われ,その返済条件は利子率も期間も,調整コストを抑えるように配慮されたものであった.しかも債務返済は2020年代初めまで延期された.

ギリシャの債務は過去の放漫財政が原因であって,緊縮のせいではない.過去5年間,ギリシャは厳しい緊縮策によって財政赤字を削減してきたが,まだ持続的な成長には程遠い状態だ.融資条件に示された改革を無視することは,過去の債務依存経済に戻ることでしかない.

ギリシャ政府は今もGrexit離脱を交渉の手段に利用している.しかし,2010年と今では,危機の条件が全く違う.すなわち,1.ユーロ圏は危機に対応した銀行同盟やESMを築いた.2.ヨーロッパの銀行システムは2010年よりも大きく改善された.3.アイルランド,スペイン,ポルトガル,は財政再建と改革によって,危機の感染を恐れる必要がない.4ECBQEを開始し,ギリシャと関係なく,ユーロ圏を安定化することが市場に理解されている.

EU加盟諸国は主権国家として,さまざまな契約や合意を認めて制度を築いており,一方的に改変することはできない.また各国は,常に,こうした契約から離脱する自由を持っている.ギリシャがEU諸国と合意した条件を一方的に改変することを認めれば,それは制度に対する信頼を損ない,危機を管理する能力を将来に向けて脅かすだろう.

また,こうした政治的な条件の緩和が他国の政治にも感染し,財政再建や市場改革の苦痛を免れると主張する政党が選挙で勝利するだろう.それはユーロ圏そのものから資本を逃避させることになる.

FP FEBRUARY 20, 2015

It’s Time to Kick Germany Out of the Eurozone

BY PATRICK CHOVANEC

昨年,ドイツは2170億ユーロの記録的な貿易黒字を出した.それは中国に次いで,世界の輸出市場を支配するものだ.ある者にとっては,ドイツが貧血症のユーロ圏において輝く国であり,Schäuble財務相の言う「輸出成長のエンジン」なのだ.しかし実際は,ドイツの慢性的な貿易黒字こそ,ヨーロッパ問題の核心である.ドイツは世界経済をけん引するどころか,それを引きずり降ろしている.最善の対応は,ドイツがユーロ圏を離脱することだ.

こうした批判に対して,ドイツは自分たちの製品の競争力が高いからだ,と反論する.それは,1817年にDavid Ricardoが主張したように,間違いだ.貿易の優位は絶対的なものではなく,相対的なものだから.ドイツはすべての製品で優位を持つことはできない.貿易黒字が起きるのは,ドイツ人が貯蓄するほど国内で融資しないからだ.彼らは過剰な貯蓄を国外で融資する.それは他国が国内生産以上に支出することを可能にする.そしてドイツの過剰生産物を輸入し,貿易赤字を増やすのだ.

産業革命後のイギリスも,生産の急速な増大をおもにアメリカ合衆国に投資した.急速に成長するアメリカで高利回りを目当てに急速に投資を増やし,イギリスの工業製品を輸出した.アメリカ人が債務を増やし,イギリス人は資産を増やす,それが意味のあることだった.重要なことは,黒字国は赤字国に融資しなければならない,ということだ.

ユーロ圏の危機をしばしば債務危機と呼ぶが,ユーロ圏は対外的に貿易収支で均衡している.ドイツの黒字は,ヨーロッパ周辺諸国の赤字なのだ.それはドイツに繁栄の見せかけを与えるが,彼らの債権は黒字を継ぐケルなら返済されることなどない.通常は,為替レートの調整を介して,金融政策が需要を国際配分する.しかしユーロ圏では,為替レートがないため,赤字諸国が財政緊縮と債務削減で,需要の抑制を強いられた.

しかし,ユーロ圏全体は罠から抜け出せない.ドイツは十分な需要を生み出さず,金融緩和によるユーロ安は不均衡を外部に,特にアメリカに押し付けるだけだ.アメリカは,ちょうどギリシャと同じように,債務に依存して消費を増やす.それは持続不可能な戦略である.中国に対する赤字の減少は意味あるものだが,実際は,大衆市場より,機械や奢侈財を輸出しており,それは中国の信用膨張による投資ブームに依存している.それ自体が,アメリカ向けの輸出によって生じたものである.世界はアメリカの消費者を最後の頼りにしており,その債務膨張は持続可能ではないのだ.

最善の解決策は,ドイツがユーロ圏を離脱し,ドイツ・マルクを発行して,その急激な増価を受け入れることだ.1985年のプラザ合意がその例を示す.しかし,円高によっても,行動パターンが変わらなければ,日本の構造的な貿易黒字はほとんど減らなかった.ドイツ政治家は,対外資産を積み増すのではなく,それを国内融資によって支出することで,不均衡とヨーロッパの不況を解消するほうが良い,と理解しなければならない.

今のパターンを続ける限り,ドイツの「成長」は幻だ.

FT February 22, 2015

The skirmish is over — let the Greek debt battle begin

Wolfgang Munchau

金曜日,10億ユーロ以上の銀行預金が移転された.救済融資は4か月延長された.融資がなければ銀行システムは崩壊しただろう.

Syrizaの選挙公約は,債務の削減a formal “haircut”,である.債務を減らして,プライマリー・バジェットの黒字(緊縮策)を減らす.しかし,債権諸国にとってそれはタブーだ.彼らが望む解決策は,返済期間の延長,金利の削減によって,ギリシャの支払いが可能であるとみなすことだ.既にEU諸国へのギリシャの返済は延期されており,2023年にならないと始まらない.プライマリー・バジェットは債務の削減要求と連動する.

ギリシャが債務とデフレーションとの悪循環を抜け出す方法は,緊縮か,債務削減(それは債権諸国から拒否された場合,ユーロ圏離脱Grexit)か,という2者択一ではない.

ユーロ圏内の実質的な債務削減として,国家間で債務を株式に交換する方法a debt-for-equity swapがある.もちろん国家に株式はないが,GDP成長率に連動した債券a GDP-linked bondと交換する(ただし債務国政府がGDPの統計を操作する誘因になる).

他の選択肢は,貨幣と似た性格の交換手段a parallel currencyを認めることだ.それは交換手段であるが,計算単位としてはユーロのままである.

こうした様々な手段を用いて,交渉における債権諸国の姿勢に柔軟性を加えることで,Grexitではなく,実質的にアテネの財政に余裕を与える妥協に合意できるだろう.

NYT FEB. 25, 2015

What Greece Needs

By ARISTOS DOXIADIS

ギリシャを荒廃させた不況は,いつも,マクロ経済学の視点でだけ議論されている.財政政策,政府債務,通貨価値,金融的拡大,である.しかし,ギリシャ政治やミクロ経済的要因も同様に重要だ.

融資の突然の停止と緊縮に対して,他のユーロ圏諸国に比べて,ギリシャの経済的な落ち込みは大きかった.危機前のピークから,ギリシャのGDP26%も減少したが,ポルトガル,アイルランド,スペインは7%の落ち込みであった.その差は貿易によるものだった.外国からの資本が得られなくなった諸国は,輸出を伸ばすことが緊急に必要だった.他の国はそれに成功したが,ギリシャはできなかったのだ.

なぜか? 2010年以来,ギリシャの賃金は他の諸国よりも大きく低下した.企業がこの条件を生かせなかった理由は,3つある.規制,不安,零細企業.

企業に対するギリシャの規制はヨーロッパでも最悪だ.また,不安が経済活動を制約した.他国では構造改革についての合意が形成された,しかしギリシャでは,政権に入った政治家は支出削減や増税,改革を嫌って,トロイカを非難し,野党は政府を裏切り者と非難して,改革を不要と拒んだ.

こうした政治の分裂状態は暴力や威嚇を生んだ.旅行業の不振も,港湾のストライキも,Syrizaによる国有財産売却の逆転も,中央における労使交渉を復活して,生産性を無視した賃金引き上げを要求することも,投資家は嫌った.Grexitを恐れて預金は国外に逃避し,国有化のうわさで輸出産業に対する融資も止まった.

最後に,ギリシャの企業規模が零細であった.企業はその土地や建物も持たなかった.輸出部門や観光業でも,ほとんど中規模か零細の企業であった.長い間,企業の成長を阻む規制や法律があり,零細企業に有利な規制の実態があった.国内需要が落ちて,賃金が低下したとき,企業は輸出の経験と良好な生産設備があれば,急速に輸出を拡大したはずだ.しかし,そのような企業は非常に限られていた.

残念なことに,新政権はこうした構造的問題に解決策を示さない.左派政権が輸出志向の成長を目指すことはないだろう.Syrizaは競争力を高めた改革を非難している.富裕層に課税して,貧困層の社会サービスを充実させる,と約束する.「オリガークたち」がメディアや公共事業を支配している,というのだ.

しかし,ギリシャのオリガークは経済を少ししか支配していない.ロシアのような資源も,ウォール街のような資本も,中国のような苦汗工場(低賃金労働者による大規模工場)も,ラテンアメリカのような大土地も,持っていない.銀行に対する支配も,救済融資されて失った.オリガークが成長を制約しているのではない.

輸出が伸びなければ,債務や財政緊縮をいくら争っても,ギリシャは成長しないのだ.


l  世界経済の低迷

Project Syndicate FEB 20, 2015

Why Public Investment?

MICHAEL SPENCE

世界経済の回復が遅いのはなぜか? 債務に依存した成長が,将来の需要を先取りしたこと.それは,生産性を改善しない投資を増やした.過剰債務と資産価格の下落で総需要が大きく落ち込んだ.

より弾力的で,ダイナミックな,アメリカや中国のような経済の回復は早く,規制や構造的な硬直性の多い,日本やヨーロッパの回復が遅いこと.しかも,弾力性を高める改革は,いつでも難しい.公共投資が不足していること.それは,中国を例外として,新興市場でも言える.

民間投資を促すような,国境を越えた,公共投資を増やすことが,成長回復のカギを握るだろう.


l  人種差別と移民

FP FEBRUARY 23, 2015

Give Me Your Unskilled European Immigrants, Yearning to Breathe Free

BY DANIEL ALTMAN

EUは,世界金融危機によって高い代価を支払っている.失業率が非常に高く,若者たちは親の資産を食いつぶしている.政治は分裂状態で,過激な党派が進出している.政治システムをすべて否定するような者たちがヨーロッパ大陸に広まって,権威主義体制の再現がみられる.もはや脱出のときだ.問題は,どこに逃げ出すか,ということだけだ.

アメリカは,同化を拒む移民・難民に対する制限的な政策を考えるより,ヨーロッパからの移民をもっと歓迎するべきだろう.


l  資本・エネルギーの共同市場

Project Syndicate FEB 23, 2015

The Power of a European Energy Union

EAMON RYAN

欧州委員会のJean-Claude Juncker委員長が最優先に掲げた目標は,ヨーロッパのエネルギー同盟であった.それが成功すれば,3つの戦略的目的を同時に達成できる.1.気候変動に対して,新しいグリッドを築いて,内外のさまざまなエネルギーを利用できる.2.公共投資による景気刺激策となる.3.ウクライナ危機のようなエネルギー依存に対するヨーロッパの安全保障を高める.

Project Syndicate FEB 25, 2015

A Five-Step Plan for European Prosperity

MICHAEL J. BOSKIN

ギリシャ債務危機だけでなく,急速に高齢化が福祉国家を圧迫している.ヨーロッパが成長と財政の安定性を回復するためには,互いに結びついた5つの問題を解決しなければならない.

1に,財政再建である.ECB総裁Mario Draghiは,ヨーロッパの社会モデルがすでに時代遅れだ,と述べている.ヨーロッパ市民はあまりにも多くの給付を受け,政府はこの問題を避けている.

2に経済問題だ.ヨーロッパの生活水準は今もアメリカより30%も低い.高課税,規制,労働市場の機能不全が企業活動を妨げている.過大な社会福祉は労働・雇用・投資・成長の誘因を損なっている.慢性的な低成長は雇用機会を減らし,若者の失業・低雇用を強いている.

3に,銀行システムの危機.第4に,通貨危機である.過剰債務を負ったゾンビ企業,だんりょおく的な為替レートの調整ができないユーロ圏,自動的な安定化をもたらす労働者の移動性が低いこと,これらは地域の落ち込みを激しくする.

最後に,ガバナンスが欠けている.欧州委員会はルールや規制を定めるが,選挙を経ていない.各国の経済利益や主権は保持されており,ギリシャのように,委員会に反対する.ナショナリズムの感情やデマゴギーを広める党派への支持が高まっている.

こうした問題を解決することは,容易でないが,不可能でもない.硬直的な福祉国家体制を漸進的に圧縮する.支出の削減,税率の引き上げと,過大な債務を負った地域には,その一部を共有化するため,たとえばGDP60%か70%を超えれば,長期のゼロクーポン債券と交換する.1990年代,アメリカはラテンアメリカ諸国に対して「ブレディー・ボンド」を発行した.

ゾンビ銀行は,一時的な買収,債務処理,資産売却を行う.アメリカはS&L危機に対して,債権買取の整理信託公社the Resolution Trust Corporationを設立した.

また,ユーロ圏内で,為替レートによる調整を可能にするため,Allan Meltzerがその主要な提唱者である,二重ユーロ制を採用する.いわば,ユーロ圏を離脱せずに切り下げを可能にする,「ユーロA」と「ユーロB」とを設ける.

これらの政策により,政府債務は抑えられ,金利は低下し,税率を下げ,生活水準の低下を最小限にして競争力を回復する.安易な道,生産的でない,一時的な緩和策は間違っていた.第2次世界大戦後に,ヨーロッパがその廃墟から立ち上がったように,成長への道を示すべきだろう.


l  プーチンとの戦争

FT February 26, 2015

Russia: Left out in the cold

Kathrin Hille and Courtney Weaver

モスクワでは「反クライシス・デモ」を呼びかける活動家たちがいた.石油価格が下落して,現在の体制は行き詰まり,破たんするだろう,とビラには書いている.プーチンとその政府は危機を抜け出せない.

しかし,ロシア中で10万人が参加した反政府デモから3年たって,指導者たちは投獄され,あるいは,外国に亡命している.経済は不況になったが,プーチンの政治的支持基盤は変わらず,西側の制裁が前提しているような形では,プーチンへの反対が増えていない.むしろ,危機はロシアの生存を脅かすと訴え,国民の多数を支持者に加えている.

リベラルな反政府運動の指導者,Boris Nemtsovは,1990年代にエリツィンの副首相も務めたが,賃金の停滞とインフレが反政府派の主要な批判点である,と述べた.国民は,輸入食品の(西側の)禁輸によってインフレが起きている,と考えている.それは間違いだ,と言うと,彼らは驚くのだ.われわれの敵は,オバマではなく,プーチンである.


l  世界市場統合のルール

NYT FEB. 24, 2015

Globalization That Works for Workers at Home

Eduardo Porter

19938月,NAFTAの交渉が困難に直面した.George H.W. Bushと次期大統領に決まったBill Clintonは,最低賃金と環境規制の条約を結ぶという付帯条項を約束したからだ.

メキシコ政府はこれを嫌った.クリントンを支援した労働組合への報酬として,偽装した保護主義を許すものだと考えたからだ.Kantorはメキシコの交渉担当者を議会に招待して,アメリカ国内でNAFTAへの反対がいかに強いかを見せて,この条件を受け入れさせた.

同様の戦略を,太平洋沿岸諸国,EUとの交渉で,今はFromanが採用している.労働組合をはじめ,アメリカ国内の有権者に対する貿易自由化の利益を説得しなければならないからだ.TPPは史上最大の規模で労働者の権利を高める合意になるだろう,と先週の大統領経済報告書は述べた.貿易自由化協定なしには,アメリカの労働者がグローバリゼーションの敗者の側になってしまう.

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The Economist February 14th 2015

Putin’s war on the West

The unbalanced global economy: American shopper

Greece and the euro: Hitting the ground running – backwards

The German economy: No new deal

Debt and austerity in Greece: Smoking out the firebrands

(コメント) これはEUNATOに対する挑戦であり,西側の同盟を破壊する行為である,と記事はプーチンに対抗する姿勢を求めます.それは,ウクライナへの武器供与だけでなく,むしろ,ウクライナ経済の復活,西側文明の優越さをロシア国民に示して,プーチンの破壊的な政策や虚偽の宣伝を打ち破ることです.

他方,ギリシャに示される債務危機も,西側への挑戦でしょう.ユーロ圏が解体し,ドイツが不況を止められず,アメリカが債務や消費過剰を維持することには,危機の条件が再現しています.

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IPEの想像力 2/23/15

ニュースを観ていて,記者たちの声に異常な緊張を感じました.

中谷防衛大臣が,「シビリアン・コントロール」を否定するような発言を内閣の解釈として確認したからです.集団的自衛権に続き,内閣の解釈が,そのまま,国家の意志であるかのような姿勢に,この政府の深刻な「反市民性」を見ます.

それは,単なる説明不足であったかもしれません.原則を無視することにより,自分たちの権力行使の自由を拡大する,その姿勢は,国家の形を変えるにもかかわらず,国会における議論を飛ばして,メディアを通じた国民への報告に終始するものであり,「非常時」における軍事的独裁者の台頭を準備しているように思いました.

こうした日本の変化は,すべて,尖閣諸島紛争を契機に始まったのです.

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ギリシャのユーロ圏離脱問題Grexitが,ウクライナ東部におけるロシア系分離主義運動と,それを利用したロシアの軍事的介入に結びつくのは,メルケルの双方の決断を難しくします.

メルケルの政治状況は,ラトビアの危機に重なります.ラトビアは世界金融危機によって融資が止まったとき,ユーロに対する為替レートを固定したまま,財政赤字を削って,国内物価の下落,特に賃金の低下を促し,「内的切下げ」で輸出を増やしました.それは,メルケルがユーロ圏の周辺・赤字諸国に求める調整過程です.

ラトビアがこうしたデフレ的な調整過程を選択したのは,どうしてもユーロ圏に参加するという国民的な強い合意があったからです.その背景には,ソ連崩壊による移行期の激しいインフレと不況を経験したこと,ドイツとソ連によって征服され,独立を奪われたこと,また,国内政治におけるロシア系住民の発言力が低く,複数政党の連立政権を柔軟に組み替えることで,汚職追放やオリガークに関する政権基盤がむしろ安定したこと,などが指摘されます.

ドイツも,どうしてもユーロ圏を守りたい,ソ連の脅威に代わるロシアの敵対的な姿勢に直面している,激しいインフレの経験,EU諸国内の通貨不安,国内政治における反ユダヤ主義,反イスラム主義を,他国に比べて,抑えることができている,などで,財政均衡に向けた成長と安定を支持する国内基盤が維持できているのでしょう.

アイスランドとラトビアを比較したとき,アルゼンチンの危機と同様に,ギリシャもユーロ圏を離脱し,債務を支払い拒否すればよい,という主張も高まります.経済学者は,為替レートによる調整過程を取り込むこと,黒字国の拡大策,特に財政赤字による景気刺激策・公共投資を支持します.政治家は,富裕層への課税と所得再分配,金融市場の感染や安全保障の危機にも連動する,地域・国際システムの不安を重視するでしょう.

チプラスの提案した改革の4か条,すなわち,1.トロイカではなくOECDに依拠して重債務諸国の債務免除ルールを適用する,2.プライマリー・バジェットの黒字目標を抑える, 3.永久債とGDP連動債を使って,債務免除を国際的な制度に取り込む,4.人道的な緊急の財政支出を許す,というものです.FTのビデオで,賛成と反対の意見を代表した論者が,パラレル・カレンシーや,左派政権による劇的な改革の実行,を取り上げたのも,これらの論点と重なるでしょう.

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アテネのシリザ本部でドイツに対する債権を主張する声を読むと,私は韓国・中国から戦後賠償問題の再検討を求める声,他方,自民党の東京裁判を否定する声,を思います.その溝を埋めることは難しいでしょう.

経済構造の調整過程と,外交・安全保障の安定化,国際的な協調・交渉システムの信頼を高めるのは,積極的に国内で投資する姿勢です.ドイツは,脱原発を目指して太陽光発電や風力発電に補助金を与えましたが,その負担を強いられた企業は,もっぱら海外投資に向かい,国内には投資を抑えている,とThe Economistは伝えます.

日本でも,日銀QQEは,もっぱら,円安と輸出企業の利潤回復,株価上昇,有事法制,憲法改正,などに向かい,経済構造と制度の改革,近隣諸国に対する外交や戦後政治をめぐる議論は,まだ,希薄です.その政治的資本が,党派的な,個人的な権力基盤に浪費され,資本・労働・エネルギーの共通システムは脆弱さを深めます.

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