IPEの果樹園2015

今週のReview

3/2-7

 

*****************************

安倍政権 ・・・ギリシャ債務危機 ・・・ギリシャとウクライナ ・・・世界経済の低迷 ・・・人民元 ・・・人種差別と移民 ・・・財政再建問題 ・・・脆弱国家 ・・・スウェーデンのイスラム過激派 ・・・プーチンとの戦争 ・・・インフレとデフレ ・・・世界市場統合のルール

[長いReview]

******************************

主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  安倍政権

Bloomberg FEB 19, 2015

Japan's Central Bank Told the Check's in the Mail

By William Pesek

Bloomberg FEB 20, 2015

Is Japan Asia's Next Autocracy?

By Noah Smith

世界中でリベラルな政治体制から離反する傾向,人権を軽視する傾向がみられる.残念だが,日本もそうだ.

安倍政権は,女性や移民など,一見,リベラルな改革を推進しているように見えるが,政府の目指す憲法改正は全く逆である.日本の自由民主党(LDP)は,短期間を除いて戦後の日本を支配してきたが,その政党の中身と名前がまるで一致しない.その実体は,心理的,組織的,そして,遺伝子的に,軍国主義時代の日本を受け継いでいる.アメリカが占領しても,そのリベラルな価値を体現しなかった.

自由民主党は,今,アメリカが書いた憲法に代わる草案を示している.それによれば,現行憲法は人権に関する西欧の理論に依拠しているから,書き換えるべきなのだ.例えば国家は,草案によれば,非常時において,また,公共の利益や秩序のためには,表現や言論の自由を制限できる.信仰に対する国家の管理も許される.

草案が求める国民の6つの義務は,明らかに反リベラルな,専制国家体制に向かうものだ.それは中国やロシアでも場違いな,中東の専制国家が非常時に大衆弾圧を正当化するような言葉である.

しかし,憲法改正問題は9条の破棄に内外の関心が集中してしまい,こうした憲法全体の反リベラルな改変,自民党の市民社会に反する方針が見失われている.トルコやハンガリーのようなこうした主張が許されるなら,日本のアジアにおいて中国の専制支配に代わるリベラルなモデルを示す役割を失い,アメリカとの関係も損なうだろう.

9条に限らず,憲法改正を十分に議論すべきだが,それは間に合わないだろう.せめて,こうした1940年代の発想を継承する人々が政権を担うときに,憲法を改正すべきではない.

Project Syndicate FEB 24, 2015

Why is Monetary Policy Underrated?

KOICHI HAMADA

先月,ECBQEを表明する数日前,ジュネーブでジャーナリストや政策担当者,投資家たちの会合に参加した.そこでの議論は,安倍首相が2012年に画期的な経済改革戦略を始める前の議論とよく似ていた.彼らは,特に,ドイツとイギリスからの参加者は,金融政策の効果には限界がある,という否定的な意見が強かったのだ.

日本でQEが成果を上げているのに,こうした意見が強いのは驚きだ.彼らは「アベノミクス」をよく知らないのだ.2001年に日本銀行がQEを試みたが,それは “too little. Too Late” で効果がなかった.2008年,リーマンブラザースが倒産したとき,アメリカ連銀はバーナンキが議長であり,彼はQEをよく理解していたから,大規模なQEで回復を促した.このときイングランド銀行は従ったが,日銀はQEを躊躇し,急激な円高と不況を招いた.

201212月に安倍が政権に就いて,すべてが変わった.円安が進み,輸出が伸び,株価が上昇した.もちろん,持続的な成長のためには,官僚や既得権集団に対抗して,構造改革を進める必要がある.しかし,QEは成功した.


l  ギリシャ債務危機

SPIEGEL ONLINE 02/20/2015

The Grexit Dilemma

What Would Happen if Greece Leaves the Euro Zone?

By SPIEGEL Staff

ECBを含めて,ヨーロッパ中の銀行がギリシャのユーロ圏離脱の可能性に準備している.

水曜日,ドイツの大手銀行,30行の経営者が,同時間にテキストメッセージとe-mailを受け取った.そのすぐ後に,電話で録音されたメッセ維持が,パスワードと番号を伝え,8時半ちょうどに電話会談が始まった.

これはGrexitの場合に銀行の非常時行動計画を決めた戦略の最初の一歩である.30行は共同で非常手段を採用する.情報は金融監督局や政府官僚にも伝えられ,ドイツ財務省が常に情報を共有する.大手の投資家にも電話して落ち着かせる.銀行内部の情報伝達により被雇用者にも知らされ,インタ-ネットでも新状況を載せる.

木曜日,ギリシャの融資は延長された.ドイツの財務大臣Wolfgang Schäubleは新政府が合意された条件を守らなかったと見ている.ギリシャの債権者はトロイカだけではない.また,その条件は金利や返済期間だけではない.少しでも合意できなければ,デフォルトになる.

ギリシャ政府を担うポピュリストの左派政党,Syrizaは,その多くが1970年代の世界を生きている.Tsipras首相とVaroufakis財務相は,新しい融資条件を示すことなく融資を要求したが,Schäubleは,228日に融資が終わる,と宣告した.新しい合意が成立するにはTsiprasが譲歩する必要がある.しかし,緊縮策や改革の実行には,選挙において拒否すると有権者に公約している.

他の選択肢は,ユーロ圏の離脱しかない.双方が,その影響をあわただしく計算している.ECBGrexitに準備している.誰もが,それを望まないと言うが,アテネとブラッセルの間で政治的対立が高まれば,そうとは言えない.

アテネのSyriza本部は独自の世界である.彼らはインターナショナリストである.しかし外の世界と隔絶した,旧世界からの難民だ.21世紀のギリシャで政権を取った.Tsiprasがもたらす失望に対して,彼らはどれほど耐えられるのか.ギリシャの軍事政権から逃れてイタリアに亡命していた63歳のPrimikirisは,ギリシャがヨーロッパに梃子を持つ,と主張する.イタリアやスペインとも連携して,ヨーロッパに拡大策をもたらす使命がある.

欧州委員会の新しい副議長はValdis Dombrovskisであるが,彼はラトビアの首相であった.2009年,バルチック諸国が金融危機に陥ったとき,Dombrovskisは直ちに公務員を30%削減し,給与を40%削減した.2年後,ラトビア経済は成長を回復した.自分たちが財政の健全化と調整に真剣であると,金融市場を確信させる必要がある,とDombrovskisは言う.

ギリシャとの交渉では強硬姿勢を示した.合意された条件の下でギリシャは支援を受けるべきだ,と.しかし,Dombrovskisはギリシャ人を理解していなかった.選挙前には財政的な余裕が生じて,成長に向かうはずであったが,選挙でギリシャ人はSyrizaを支持し,合意された融資条件を拒否したのだ.Syrizaの約束した減税を期待し,多くの人が税金を支払わなくなり,企業は左派政権を恐れて投資を中止した.その結果,ギリシャの財政赤字は増えてしまった.

ギリシャがユーロ圏を離脱すれば,直ちに,独自通貨を発行し,その価値が下落するだろう.銀行や企業が半数は倒産し,混乱が広がると懸念される.人々は銀行に殺到して預金を引き出すから,それを阻止するには銀行の引き出しを制限し,資本取引を禁止することになる.ATMも停止し,重要な輸入品もハード・カレンシーでしか買えなくなる.2001年,アルゼンチンで同様のことが起きたが,その後,暴動や略奪に至った.教育のあるものは国外に脱出した.

他方,独自通貨が発行されて,その価値が下がれば,輸出が増える.繊維工業や観光業で,ギリシャは成長する可能性がある.それが刺激になることは間違いないが,問題はいつ起きるかだ.The Kiel Institute for the World Economy (IfW)は,長期的に,切り下げがギリシャのさまざまな構造改革を実現することはない,と警告する.

Grexitのリスクを回避するために,ECBはあらゆる手を尽くすだろう.ヨーロッパ安定化メカニズムESMも非常時の融資を供給するために5000億ユーロを用意している.また,EU諸国間で国際収支不均衡を融資するメカニズムがある.しかし,予測不可能なリスクを回避するには,妥協策で合意することが最善だ.Grexitはヨーロッパの指導者たちの努力を失敗に終わらせるものであり,ロシアや中国の影響力が強まることにもなる.

しかし,ヨーロッパには合意が形成される見通しがまるでない.

VOX 20 February 2015

Greece: No escape from the inevitable

Lars P Feld, Christoph M Schmidt, Isabel Schnabel, Benjamin Weigert, Volker Wieland

「緊縮策は失敗した」という主張が,特に英米では広まっている(e.g. Stiglitz 2015, Wolf 2013).しかし,それは間違いだ.ギリシャ危機の背景を理解していない.

ギリシャに限らず,債務に依存した国の調整過程は,すべて,大幅な不況と失業の増加を示し,苦しいものであった.ユーロ圏に参加したギリシャはレート調整が不可能であるが,固定レートであろうと変動レートであろうと,調整過程を決めるのは,経済規模に対する債務の大きさと,成長率と債務の利子率との差である.ギリシャの場合,債務は2010年の危機以前に民間部門の債務として規模が大きくなっていた.その後,救済融資はECBEU諸国から行われ,その返済条件は利子率も期間も,調整コストを抑えるように配慮されたものであった.しかも債務返済は2020年代初めまで延期された.

ギリシャの債務は過去の放漫財政が原因であって,緊縮のせいではない.過去5年間,ギリシャは厳しい緊縮策によって財政赤字を削減してきたが,まだ持続的な成長には程遠い状態だ.融資条件に示された改革を無視することは,過去の債務依存経済に戻ることでしかない.

ギリシャ政府は今もGrexit離脱を交渉の手段に利用している.しかし,2010年と今では,危機の条件が全く違う.すなわち,1.ユーロ圏は危機に対応した銀行同盟やESMを築いた.2.ヨーロッパの銀行システムは2010年よりも大きく改善された.3.アイルランド,スペイン,ポルトガル,は財政再建と改革によって,危機の感染を恐れる必要がない.4ECBQEを開始し,ギリシャと関係なく,ユーロ圏を安定化することが市場に理解されている.

EU加盟諸国は主権国家として,さまざまな契約や合意を認めて制度を築いており,一方的に改変することはできない.また各国は,常に,こうした契約から離脱する自由を持っている.ギリシャがEU諸国と合意した条件を一方的に改変することを認めれば,それは制度に対する信頼を損ない,危機を管理する能力を将来に向けて脅かすだろう.

また,こうした政治的な条件の緩和が他国の政治にも感染し,財政再建や市場改革の苦痛を免れると主張する政党が選挙で勝利するだろう.それはユーロ圏そのものから資本を逃避させることになる.

NYT FEB. 20, 2015

In Greece, Focus on Justice

By GREGORY A. MANIATIS

NYT FEB. 20, 2015

Greek Debt Is Vastly Overstated, an Investor Tells the World

By LANDON THOMAS Jr.

FP FEBRUARY 20, 2015

It’s Time to Kick Germany Out of the Eurozone

BY PATRICK CHOVANEC

昨年,ドイツは2170億ユーロの記録的な貿易黒字を出した.それは中国に次いで,世界の輸出市場を支配するものだ.ある者にとっては,ドイツが貧血症のユーロ圏において輝く国であり,Schäuble財務相の言う「輸出成長のエンジン」なのだ.しかし実際は,ドイツの慢性的な貿易黒字こそ,ヨーロッパ問題の核心である.ドイツは世界経済をけん引するどころか,それを引きずり降ろしている.最善の対応は,ドイツがユーロ圏を離脱することだ.

こうした批判に対して,ドイツは自分たちの製品の競争力が高いからだ,と反論する.それは,1817年にDavid Ricardoが主張したように,間違いだ.貿易の優位は絶対的なものではなく,相対的なものだから.ドイツはすべての製品で優位を持つことはできない.貿易黒字が起きるのは,ドイツ人が貯蓄するほど国内で融資しないからだ.彼らは過剰な貯蓄を国外で融資する.それは他国が国内生産以上に支出することを可能にする.そしてドイツの過剰生産物を輸入し,貿易赤字を増やすのだ.

産業革命後のイギリスも,生産の急速な増大をおもにアメリカ合衆国に投資した.急速に成長するアメリカで高利回りを目当てに急速に投資を増やし,イギリスの工業製品を輸出した.アメリカ人が債務を増やし,イギリス人は資産を増やす,それが意味のあることだった.重要なことは,黒字国は赤字国に融資しなければならない,ということだ.

ユーロ圏の危機をしばしば債務危機と呼ぶが,ユーロ圏は対外的に貿易収支で均衡している.ドイツの黒字は,ヨーロッパ周辺諸国の赤字なのだ.それはドイツに繁栄の見せかけを与えるが,彼らの債権は黒字を継ぐケルなら返済されることなどない.通常は,為替レートの調整を介して,金融政策が需要を国際配分する.しかしユーロ圏では,為替レートがないため,赤字諸国が財政緊縮と債務削減で,需要の抑制を強いられた.

しかし,ユーロ圏全体は罠から抜け出せない.ドイツは十分な需要を生み出さず,金融緩和によるユーロ安は不均衡を外部に,特にアメリカに押し付けるだけだ.アメリカは,ちょうどギリシャと同じように,債務に依存して消費を増やす.それは持続不可能な戦略である.中国に対する赤字の減少は意味あるものだが,実際は,大衆市場より,機械や奢侈財を輸出しており,それは中国の信用膨張による投資ブームに依存している.それ自体が,アメリカ向けの輸出によって生じたものである.世界はアメリカの消費者を最後の頼りにしており,その債務膨張は持続可能ではないのだ.

最善の解決策は,ドイツがユーロ圏を離脱し,ドイツ・マルクを発行して,その急激な増価を受け入れることだ.1985年のプラザ合意がその例を示す.しかし,円高によっても,行動パターンが変わらなければ,日本の構造的な貿易黒字はほとんど減らなかった.ドイツ政治家は,対外資産を積み増すのではなく,それを国内融資によって支出することで,不均衡とヨーロッパの不況を解消するほうが良い,と理解しなければならない.

今のパターンを続ける限り,ドイツの「成長」は幻だ.

The Guardian, Sunday 22 February 2015

Can a Bitcoin-style virtual currency solve the Greek financial crisis?

Paul Mason

FT February 22, 2015

The skirmish is over — let the Greek debt battle begin

Wolfgang Munchau

金曜日,10億ユーロ以上の銀行預金が移転された.救済融資は4か月延長された.融資がなければ銀行システムは崩壊しただろう.

しかし,交渉は始まったばかりだ.合意された融資条件では,アテネは今年,プライマリー・バジェットで3%,2016年に4.5%,の黒字を出さねばならない.EUはギリシャに,その債務をGDP175%から,2022年に110%まで減少させるよう求めている.

Syrizaの選挙公約は,債務の削減a formal “haircut”,である.債務を減らして,プライマリー・バジェットの黒字(緊縮策)を減らす.しかし,債権諸国にとってそれはタブーだ.彼らが望む解決策は,返済期間の延長,金利の削減によって,ギリシャの支払いが可能であるとみなすことだ.既にEU諸国へのギリシャの返済は延期されており,2023年にならないと始まらない.プライマリー・バジェットは債務の削減要求と連動する.

ギリシャが債務とデフレーションとの悪循環を抜け出す方法は,緊縮か,債務削減(それは債権諸国から拒否された場合,ユーロ圏離脱Grexit)か,という2者択一ではない.

ユーロ圏内の実質的な債務削減として,国家間で債務を株式に交換する方法a debt-for-equity swapがある.もちろん国家に株式はないが,GDP成長率に連動した債券a GDP-linked bondと交換する(ただし債務国政府がGDPの統計を操作する誘因になる).

他の選択肢は,貨幣と似た性格の交換手段a parallel currencyを認めることだ.それは交換手段であるが,計算単位としてはユーロのままである.

こうした様々な手段を用いて,交渉における債権諸国の姿勢に柔軟性を加えることで,Grexitではなく,実質的にアテネの財政に余裕を与える妥協に合意できるだろう.

VOX 22 February 2015

Does austerity pay off?

Benjamin Born, Gernot Müller, Johannes Pfeifer

FT February 23, 2015

A Greek deal cannot fix the flaws in the euro

Gideon Rachman

FP FEBRUARY 23, 2015

Tick-Tock, Goes the Greek Banking Clock

BY PHIL LEVY

Bloomberg FEB 23, 2015

Now Comes the Hard Part for Greece

By Mohamed A. El-Erian

The Guardian, Tuesday 24 February 2015

Why Germany must swallow this Keynesian free lunch

Andrew Graham

Project Syndicate FEB 24, 2015

The Economic Opportunity of Greece’s Exit

ALBERTO BAGNAI, BRIGITTE GRANVILLE and PETER OPPENHEIMER

FP FEBRUARY 25, 2015

The Euro Was a Bad Idea From the Start

BY PAOLA SUBACCHI

ヨーロッパの通貨同盟は,最初から,間違った考えであった.1996年,Rudiger Dornbuschは,そう書いた.ユーロ圏は最適通貨圏ではない.完全な労働力移動も,完全な賃金の弾力性も,完全なリスク・シェアリング(財政統合)もない.

為替レートによる調整ができない諸国は,赤字の国がデフレと供給サイドの改革を強いられる.民営化や公務員の削減が避けられない.金本位制もそうだったが,1931年にイギリスが離脱したように,その調整を受け入れられない国は離脱する自由があった.

Bloomberg FEB 25, 2015

What Milton Friedman Would Do for Greece

By Leonid Bershidsky

Bloomberg FEB 25, 2015

Greece vs. Europe: Who Won?

By Clive Crook

FT February 25, 2015

Greece debt crisis: Athens clears one hurdle...and faces more

Peter Spiegel in Brussels

NYT FEB. 25, 2015

What Greece Needs

By ARISTOS DOXIADIS

ギリシャを荒廃させた不況は,いつも,マクロ経済学の視点でだけ議論されている.財政政策,政府債務,通貨価値,金融的拡大,である.しかし,ギリシャ政治やミクロ経済的要因も同様に重要だ.

融資の突然の停止と緊縮に対して,他のユーロ圏諸国に比べて,ギリシャの経済的な落ち込みは大きかった.危機前のピークから,ギリシャのGDP26%も減少したが,ポルトガル,アイルランド,スペインは7%の落ち込みであった.その差は貿易によるものだった.外国からの資本が得られなくなった諸国は,輸出を伸ばすことが緊急に必要だった.他の国はそれに成功したが,ギリシャはできなかったのだ.

なぜか? 2010年以来,ギリシャの賃金は他の諸国よりも大きく低下した.企業がこの条件を生かせなかった理由は,3つある.規制,不安,零細企業.

企業に対するギリシャの規制はヨーロッパでも最悪だ.また,不安が経済活動を制約した.他国では構造改革についての合意が形成された,しかしギリシャでは,政権に入った政治家は支出削減や増税,改革を嫌って,トロイカを非難し,野党は政府を裏切り者と非難して,改革を不要と拒んだ.

こうした政治の分裂状態は暴力や威嚇を生んだ.旅行業の不振も,港湾のストライキも,Syrizaによる国有財産売却の逆転も,中央における労使交渉を復活して,生産性を無視した賃金引き上げを要求することも,投資家は嫌った.Grexitを恐れて預金は国外に逃避し,国有化のうわさで輸出産業に対する融資も止まった.

最後に,ギリシャの企業規模が零細であった.企業はその土地や建物も持たなかった.輸出部門や観光業でも,ほとんど中規模か零細の企業であった.長い間,企業の成長を阻む規制や法律があり,零細企業に有利な規制の実態があった.国内需要が落ちて,賃金が低下したとき,企業は輸出の経験と良好な生産設備があれば,急速に輸出を拡大したはずだ.しかし,そのような企業は非常に限られていた.

残念なことに,新政権はこうした構造的問題に解決策を示さない.左派政権が輸出志向の成長を目指すことはないだろう.Syrizaは競争力を高めた改革を非難している.富裕層に課税して,貧困層の社会サービスを充実させる,と約束する.「オリガークたち」がメディアや公共事業を支配している,というのだ.

しかし,ギリシャのオリガークは経済を少ししか支配していない.ロシアのような資源も,ウォール街のような資本も,中国のような苦汗工場(低賃金労働者による大規模工場)も,ラテンアメリカのような大土地も,持っていない.銀行に対する支配も,救済融資されて失った.オリガークが成長を制約しているのではない.

輸出が伸びなければ,債務や財政緊縮をいくら争っても,ギリシャは成長しないのだ.

NYT FEB. 26, 2015

In Greece, Bailout May Hinge on Pursuing Tycoons

By LIZ ALDERMAN


l  ギリシャとウクライナ

WP February 20, 2015

The risks of putting Germany front and center in Europe’s crises

Anne Applebaum

この10日間で,2つの異常な危機がヨーロッパに向けて起きた.1つはギリシャ,もう1つはウクライナだ.両方の危機が,ドイツのメルケルAngela Merkel首相の決断と外交に委ねられる.

しかし,ドイツはこれまで外交政策や安全保障における重要な役割を避けてきた.ドイツからの財政的な支持がEUの機関を活動できるものにしていた.

ユーロ圏の成立と運営は,フランスとともに,各国の合意を得てきたのだ.しかし,世界金融危機でフランスの指導力が失われ,ドイツは債権諸国を代表して,ギリシャに融資条件(財政緊縮と返済条件)を要求する立場を変えない.

他方,ドイツが安全保障で信頼できる軍事力を持つとはだれも考えない.特に,ロシアは信じない.メルケルは,プーチンとの個人的関係を基礎に解決しようとした.しかし,電話会談を繰り返しても,停戦合意を成立させても,解決できなかった.

交渉に代わる解決策はない,というメルケルも,ウクライナは東部をあきらめて,その周りに「ベルリンの壁」を築くしかない,と示唆したことがある.それは正しいだろう.それによって境界線を確立し,国家再建のために時間を得るのだ.その長期計画が成功するには,西側がかつて西ドイツに対して行ったように,経済的,政治的にウクライナを強化し,軍事的にロシアを抑止しなければならない.

しかし今は,誰もその覚悟がない.ロシアは自国経済の混乱によって制約されるだろう.しかし,ギリシャの危機を解決できなければ,西側も経済的に制約されるのだ.2つの危機に向かうドイツの強い指導力は,その場合,単なる一時の慢心で終わる.

FT February 25, 2015

Germany learns to look beyond its borders

Constanze Stelzenmüller

危機はグローバリゼーションの副産物だ.ドイツのパワーはヨーロッパ統合を守ることにある.

Project Syndicate FEB 25, 2015

The DNA of German Foreign Policy

FRANK-WALTER STEINMEIER

Project Syndicate FEB 25, 2015

Angela Merkel’s Moment of Truth

JOSCHKA FISCHER


l  世界経済の低迷

Project Syndicate FEB 20, 2015

Why Public Investment?

MICHAEL SPENCE

世界経済の回復が遅いのはなぜか? 債務に依存した成長が,将来の需要を先取りしたこと.それは,生産性を改善しない投資を増やした.過剰債務と資産価格の下落で総需要が大きく落ち込んだ.

より弾力的で,ダイナミックな,アメリカや中国のような経済の回復は早く,規制や構造的な硬直性の多い,日本やヨーロッパの回復が遅いこと.しかも,弾力性を高める改革は,いつでも難しい.公共投資が不足していること.それは,中国を例外として,新興市場でも言える.

民間投資を促すような,国境を越えた,公共投資を増やすことが,成長回復のカギを握るだろう.

VOX 20 February 2015

A brief history of middle-class economics: Productivity, participation, and inequality in the United States

Jason Furman

アメリカの中産階級が過去40年間分配の不平等化で減少した理由を考察する.オバマ政権の「中産階級経済学」は.その基礎的条件に影響する.


l  人民元

Project Syndicate FEB 20, 2015

The Non-Problem of Chinese Currency Manipulation

JEFFREY FRANKEL

アメリカ議会で両党が合意することは珍しいが,中国が人民元を操作している,という非難では一致する.しかし,それは間違いだ.もし為替市場に介入しなければ,今なら,人民元はむしろ減価するだろう.通貨価値を操作している基準を作ることは難しい.

2010年,アメリカのQEでは,むしろアメリカがドル安を操作した,として,通貨戦争を非難された.また,米中2国間だけで貿易不均衡を非難するのは間違いだ.中国は他国(サウジアラビア,韓国,など)に対して赤字を出している.

VOX 23 February 2015

The SPFTZ, a concrete first step towards China’s new development model?

John Whalley

FP FEBRUARY 23, 2015

How the West Was Lost

BY SOPHIE RICHARDSON

Bloomberg FEB 23, 2015

China May Be Stalling Out and That's OK

By William Pesek

FT February 25, 2015

Surge in Chinese housebuying spurs global backlash

Jamil Anderlini in Beijing


l  イスラム国家

NYT FEB. 20, 2015

The Nationalist Solution

By DAVID BROOKS

Project Syndicate FEB 23, 2015

Managing the ISIS Crisis

RICHARD N. HAASS

対抗戦略は,現実的で,包括的でなければならに.イスラム国家は消滅できないが,弱めることはできる.

Project Syndicate FEB 25, 2015

ISIS in America

CHRISTOPHER R. HILL

NYT FEB. 25, 2015

ISIS Heads to Rome

Thomas L. Friedman


後半へ続く)